09/07/07 03:31:25 85OEgU8+
1940年体制―さらば戦時経済 (単行本)
野口 悠紀雄 (著)
By マルメ - レビュー
野口先生の本は、いつも私が漠然と考えていることを明確に説明してくれる。
私は常々、高度成長期に日本経済の長所と言われていた諸点、例えば終身雇用制
(社員の忠誠心、社員教育投資の容易な回収、ノウハウの流出防止等)、長期的
経営(株主の短期的利益に捕らわれず、長期的な計画で投資が可能)、系列取引
(長期的関係による高品質・低価格取引)などが、なぜ現在で通用しなくなったか、
不思議に思っていた。今は、むしろ逆に労働市場の流動化や株主によるガバナンスの
強化等、かつてと逆のことが主張されている。
また、日本経済の二重性(農業、サービス・流通等の非効率性と自動車、家電等の高効率性
分野の並存)がなぜいつまでも解消されないかも不思議だった。
本書は、日本経済の特質と言われたものが、実は総力戦遂行のために1940年
代に作られた戦時経済体制の産物であり、それ以前はむしろ英米型の株主
優先の会社、非終身雇用、直接金融中心などであったこと、また、戦後に
目的が「戦争」から「高度成長」に代わっても1940年代に作られた戦時制度
がうまく機能し続けたと説明している。高度成長の傍らで政府が低生産部門
を保護することにより、格差拡大を防ぎつつ、成長の利益を社会全体で享受
できたと論じている。現在は、環境の変化が生じたが、従来の制度が、企業
のリスク回避行動を生み、新たな成長部門への転換を遅らせるとともに、
低生産部門の淘汰を妨げ、全体として日本経済を沈滞化させる構造的原因
となっていると指摘している。今、問題となっている、各種の業法規制、
政策金融機関や特殊法人も1940年体制の産物で、それ以前の日本には
なかったという分析は興味深い。 高度成長の成功と失われた10年と
言われる経済の低迷の原因を分析し、将来取るべき道を考える上で、
とても役に立つ本だと思う。
URLリンク(www.amazon.co.jp)