10/05/30 16:35:49 +XTzzP5y
「あれで君は誘拐される役だったね。出番は少なかったけどいい演技だったよ」
そのドラマの場面自体は、ゆるい縛りと口の周りに布を巻いただけの猿轡だったのだが。
「そう、いい演技だった。縛られた恐れ、猿轡の圧迫感…その物はちゃちだったけどね」
(そんな所から僕を見ていたんだ…)
「あれで是非君を、撮りたくなったんだ。本格的な緊縛と猿轡なら、もっと良い顔ができる」
輝はようやく事態を理解し、自分の軽率さを後悔した。
「アアッ…ムゥ…」
しかしもうどうする事も出来ず、今は猿轡を噛み締めて縛めを甘受するしかなかった。
輝が縛られて、1時間弱が過ぎた。
「ンンッ…ウアッ」
もがき続ける輝だが、一向に縄も猿轡も緩むことはなどない。
それどころか、自分の息と汗で猿轡が湿り纏わりついてくる。異様な不快感だ。
「良いなぁ輝…僕の番はまだですか?」
「今大村君の表情が凄くいいんだ。もう少し待ってくれ」
広沢はカメラから目を切らず返事する。カメラの前では輝が悶えている。
「でもぉ…」
「大村君の猿轡を、そのまましてやるから」
「本当ですか!輝が染み付いた猿轡…楽しみだなぁ」
恍惚の表情を浮かべる清治。勿論輝には理解できない。
(清治君も監督も、おかしいよ…普通じゃない!)
心の中で二人を罵る輝。しかし自分でも、ある感情が芽生えている事に気付いていない。
「アウウッ!」
自由のきかぬ身体、言葉を話せぬ息苦しさ。それらが苦痛と不快感だけではなくなっている。
もっと激しい緊縛を、厳しい猿轡を心の奥底で望み始めている。決して輝自身は気付いてないが。
「グウッ…」
(まだ自覚はしてないだろう。だがいずれ清治みたいに、その感覚から逃れられなくなる)
輝の密かな感情を見抜き、広沢は自分の見込みが正しかったとほくそ笑んだ。
(続く?) これで終了です。失礼しました