09/06/23 00:11:02 vChHhtKr0
あれから10年、
そこそこ大きい会社に入って日々這いずり回っていた。
小金が入れば自分への投資にまわした。
資格もとった。技術もとった。進んで出張も転勤もした。今の足元なんてどうでも良かった。
あれから20年、
頑張りすぎて逆に残金が危なくなることもあった。
それでも多少は認められてきたのか、やったなりの金は手に入るようになった。
支えてくれる妻も見つかった。
それは他の生き方への分岐路を閉ざす枷でもあったけれど、さらに頑張るための磐石な土台でもあった。
あれから30年、
若いころの成果が実ってやった以上の金が手に入るようになった。
既得権益とか言われるが、これがなければここまで頑張れた自信はなかった。
郊外に家も買った。大きすぎるくらいの土地に、豪快に面取りされた上物を。溜まった金も一気に減った。
それでもいつか、妻と一緒ならばこの枷も越えられると信じて頑張った。
あれから40年、
若いころから見れば不当なほどの金が手に入るようになった・・・のであれば美談だったが、結局そこまで出世はできなかった。
それでも子供も大きくなり、二人の稼ぎにも余裕ができた。
感慨がないままに、いつしか家族の貯金は家を建てたときよりも増えていた。
相変わらず転勤出向続きで滅多に帰ることのない家の庭に、俺たちは丸天井の建物を作り始めた。
あれから幾年か、
想像していたよりはずっと小さな丸天井に、想像していたよりはずっと小さな単球。
朝の暗闇の中で、10席だけの客席のひとつに寝転がる。
どんな夢をみていたんだろう。
何を追いかけていたんだろう。
もう、何のためにここまで頑張ってきたかなんて忘れかけていた。
うつらうつら。
不意に単球の電源が入れられた。
いまや銀髪となった妻が前にいた。
流石に恥ずかしかったのか、精一杯に大きなリボンをして
忘れかけていた、半世紀前の言葉。