ToHeart2 SS専用スレ 25at LEAF
ToHeart2 SS専用スレ 25 - 暇つぶし2ch2:無題s
08/06/28 06:47:49 orY+Qjyy0
AQUAPLUS『To Heart2』公式サイト
URLリンク(www.aquaplus.co.jp)

Leaf『ToHeart2 XRATED』公式サイト URLリンク(leaf.aquaplus.co.jp)
Leaf『ToHeart2 AnotherDays』公式サイト URLリンク(leaf.aquaplus.co.jp)
ToHeart2 スレッド 過去ログ置き場(仮)
URLリンク(f55.aaa.livedoor.jp)
本スレや各キャラスレはこちらから。

ToHeart2 SideStory Links
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各キャラの呼称相関図は
URLリンク(botan.sakura.ne.jp)
内のToHeart2呼び方相関図を参照。

ToHeart2 SS の書庫 (スレの全作品保管)
URLリンク(th2ss.hp.infoseek.co.jp) (移転)→URLリンク(www.geocities.jp)

3:名無しさんだよもん
08/06/28 09:06:09 0DmHfpyI0
【 綾瀬はるか 】 巨乳がこぼれ乳首が見えた衝撃写真流出♪
URLリンク(photo.myfile-host.info)
URLリンク(photo.myfile-host.info)
URLリンク(photo.myfile-host.info)

4:名無しさんだよもん
08/06/28 12:09:51 q+E1Zays0
>>1

5:名無しさんだよもん
08/06/28 20:25:19 GX6NT/KL0
        Λ_Λ . . . .: : : ::: : :: ::::::::: :::::::::::::::::::::::::::::
       /:彡ミ゛ヽ;)ー、 . . .: : : :::::: :::::::::::::::::::::::::::::::::
      / :::/:: ヽ、ヽ、 ::i . .:: :.: ::: . :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
      / :::/;;:   ヽ ヽ ::l . :. :. .:: : :: :: :::::::: : ::::::::::::::::::
 ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ̄

6:名無しさんだよもん
08/07/01 21:28:29 /lserfIp0
あなたが落としたのは皇国の守護者ですか?
それともファイブスター物語ですか?

そう聞くピンク色の髪のフシギな女の子と、
桜の木の下で出会ったんだ…

7:名無しさんだよもん
08/07/02 00:14:40 RHYyRfqC0
>6
分かったから一緒に煉獄に帰ろう、な?

8:名無しさんだよもん
08/07/02 18:03:21 mZycPx4x0
>>1


9:名無しさんだよもん
08/07/02 23:56:32 xo3Cxh6a0
>>1

前すれも埋まったことだし投稿を期待

10:名無しさんだよもん
08/07/04 19:52:48 bKLZI8go0
即死回避sage&遅まき>1乙

11:名無しさんだよもん
08/07/05 13:00:00 m+FQUVa30
スレが寂しいので起爆剤投下

例によってあまり関係ないですがAD非準拠ですのでよしなに

12:メイド日和 エピソード3 ツンデレ危機一発 1/13
08/07/05 13:03:02 m+FQUVa30
 照りつける太陽がじりじりと俺の素肌を焼く。
 俺はデッキチェアに寝転がったまま横にあったコーラのグラスを手に取り、突き刺さった
ストローを口に含んだ。

 ウマー♪
 汗をかきながら飲むコーラサイコー

「……だらしないわね。少しは泳ごうって気にならないのかしらこのヘタレ男は。」
 ヘタレ呼ばわりされて、俺は似合わないサングラスをずらして声の主を見た。

 そこには、挑発的な赤いビキニに身を包んだ呆れ顔の女の子……十波由真がいた。

                   ◇

「今日は宿題パスして遊びに行くから。」
 いつものようにうちにやってきた由真は開口一番、そんな事を言い切った。
「いつものルールはどうした。」
「今日は特別。ほら、これ。」
 そう言って取り出したのは駅前にある来栖川グループの某有名ホテルのプールへのご招待
ペアチケット(ランチ付き)だった。
「これ結構いい値段するんじゃないの?」
「おじいちゃんに貰ったからタダだけどね。この間の約束は忘れて無いでしょうね。
 ……きょ、今日はあたしに付き合ってもらうからねっ。ちゃんとエスコートしなさいよ。」
 俺を睨みながらそう言って由真は赤くなった。……正直、ちょっとかわいいと思った。


13:メイド日和 エピソード3 ツンデレ危機一発 2/13
08/07/05 13:09:27 m+FQUVa30
 しかし……こんな高価なチケットほいほいとくれるなんて……由真のところのじーさんは
何者なんだ。
 考えてみれば、俺は由真のことを良く知らない。まあ、恋人でも無いのに立ち入った事を
聞く立場でも無いけど。
 でも……そのうちそれとなく聞いてみよう。主に俺の好奇心のために。

「という事は……水着が必要か。前に海に行った時の奴はどうしたっけ。流石に学校指定
 水着は履きたくないしなぁ……」
 俺が水着のありかに思考をめぐらせていると、
「ふふーん。」
 ……なぜか由真は勝ち誇った顔で仁王立ちしていた。
「……なんだよ。」
「甘いわね、たかあき。あたしを見なさい!」
 そう言うと……由真はなぜかシャツの前ボタンに手をかけた。
 ちなみに今日の由真の服装は白い半袖のカッターシャツに茶色のショートパンツという軽装だ。
 由真は下までボタンを外すと漢らしくシャツを脱ぎ捨てた
「ふふーん、どう?」
 由真は裸の上半身にビキニのトップを装着済みだった。
 ちなみに、偉そうに由真がふんぞり返ると結構豊かな胸がぷるるんと揺れておおっ、と
思ったのは内緒だ。
 しかし、それはそれとして服の下に着用済みって……
「どう? あんたとは気合が違うのよ。」
「気合って……お前は小学生か。」
「しょ、小学生って……どういう意味よっ。」
「どうせ待ちきれなくて家で水着着てそのまんま来ちまったんだろ。……それになぁ、こんなとこで俺に見せびらかしてて恥かしく無いのか?」
 俺が指摘すると、由真は自分の行動を思い返したのか、耳まで赤くなってがばっと胸を隠した。
「……ヘンタイ。」
「お前が見せたんだろうがっ!」


14:メイド日和 エピソード3 ツンデレ危機一発 3/13
08/07/05 13:12:18 m+FQUVa30
                   ◇

 そんなこんなで、今俺と由真はホテルの屋上にあるプールに居るのだった。

 ここにはハイソなリゾートにあるような丸いプールと小さいながらも競泳プールがあり、
プールサイドには白いパラソルとそろいのデッキチェアもいくつか並んでいた。
 周りには緑がふんだんに植え込まれ、白いお洒落なカフェバーも併設されている。
 とてもここが自分の住んでいる町のビルの天辺とは思えない光景だった。
 この時期はイモ洗い状態が当たり前の市民プールとは雲泥の差だ。

「全く、せっかくプールに来たのに少しは泳ぎなさいよ。競泳プールであたしの華麗な泳ぎを
見せ付けてあんたに敗北感を味あわせてやろうと思ってたのに。ぶつぶつ。」
 横のデッキチェアで拗ねている由真に、俺はサングラスの横からこっそり視線を向けた。

 家でも見せつけられたけど、由真は真っ赤なビキニに身を包んでいた。しかも、スタイルに
自信があるのか、ただ単に直感で選んだのか知らないが、布地の面積がいささか心配な三角ビキニだ。
 そして由真は結構肉付きがいい。
 横から見ると横乳が零れ落ちそうになっていたし、今は花柄のパレオで見えないが下も
横が紐のタイプなので、程よく肉のついた脚のラインが水着に邪魔される事なく拝む事が出来た。
 はっきり言って健康な高校生男子には目の毒だ。
 そのくせウエストには余計な肉がほとんど無い。あんだけ俺と一緒にがつがつ色々と
食いまくってるのに太ってないのは、怒ったり暴れたりする事でエネルギーを発散してるからなのか、
ただ単に燃費が悪いからなのか。
 ともかく、顔はかわいいんだしスタイルも悪くないんだから、もう少し大人しくなってくれれば
俺の苦労も減って万々歳なんだけどな。

15:メイド日和 エピソード3 ツンデレ危機一発 4/13
08/07/05 13:15:07 m+FQUVa30
 視線をずらしてもう一度由真の顔を見てみる。由真はまだそっぽを向いたまま膨れてる。
 付き合いもそれなりの長さになってきたせいか、最近由真の行動パターンが少しわかってきた。
 今のようなときは、構って欲しい時だ。
 というわけで、そろそろへそを曲げたお嬢さんのご機嫌をとることにする。
「さて、じゃあお言葉に従って一泳ぎしてこようかな。」
「……あたしは行かないからねっ。」
 そっぽを向いたまま由真が予想通りのへそまがりな答えを返した。
 そこで俺は「釣り糸」をたらす事にする。
「ふーん、そうか。……由真は俺に泳ぎで負けるのが怖いのか。」
 向こうを向いて寝転がったままの由真の肩がぴくっ、と動いた。
「ま、誰でも負けるのは悔しいからな。」
 びくびくっ、と由真の肩がまた動いた。そろそろいいかな?
「じゃ、俺泳いでくるから由真はゆっくり休んでろよ。」
「ま、待ちなさい!」
 HIT!
 由真は俺のたらした「釣り糸」に食いついて、デッキチェアからがばっと起き上がった。
「そ、そこまで言うなら。勝負してあげるわ。たかあき、覚悟しなさい!」
 案の定、いつものポーズで俺に人差し指を突きつけると由真は俺に挑戦状を叩きつけて来た。
 その表情は挑戦的で……でも自分では気がついて無いだろうけど、由真の目は楽しそうに笑っていた。


16:メイド日和 エピソード3 ツンデレ危機一発 5/13
08/07/05 13:18:04 m+FQUVa30
                   ◇

 途中、一流ホテルの美味しいランチで腹を満たしつつ、俺と由真はしこたま泳ぎ倒して
くたくたになったところで家路に着いた。
「で、雨か……あんなに天気が良かったのにな。」
「あんたが雨男?」
 そう言って由真が迷惑そうな顔で俺を睨んだ。

 今俺たちは雨宿り中だ。
 ホテルから歩いている途中でパラパラと大粒の雨が降り出してきて、雨宿りできる場所を
探して駆け込んだのは学校の傍の山のふもとの木の下だった。

「俺が特別雨男ってことは無いと思うぞ。お前こそ雨女なんじゃ。」
「あたしは晴れ女に決まってるでしょ。」
 由真は間発入れずに言い返してきた。何だろうねこの無駄な自信は。
 しかし……あれだけ晴天だった空がべったりと重い雨雲に覆われていて、バケツをひっくり
返したような雨は一向に止む気配が無い。
 しばらく二人で黙って空を見上げていたが、やがて沈黙に耐えられなくなったのか由真が口を開いた。
「ねえ、たかあき。どうせなら上に行かない?」
「上?」
「ここじゃぽつぽつ水が落ちてくるし。上のお社で雨宿りしたほうが濡れないんじゃない?」
 そう言って由真はすぐ横の石段を指差した。
 たしかに、ここは直接雨には当たらないとはいえ完全に濡れずに済むというわけではないし。
 とはいえ、泳ぎ倒して疲れた身体で石段を登るのはおっくうだ。
「……根性無し。やっぱりヘタレね。」
 俺の表情で察したのか、由真が馬鹿にしたように言った。


17:メイド日和 エピソード3 ツンデレ危機一発 6/13
08/07/05 13:21:03 m+FQUVa30
「うるさいな。泳いで疲れてるんだからしょうが無いだろ。」
「ふーん……ま、あたしは平気だけど。」
 そう言って由真はひょいひょいと石段を登り始めた。まったく、毎度あの元気はどこから
湧いてくるんだろうね。
「……登るか。」
 放っておこうかとも思ったが、後で逆切れされるのが容易に想像できてしまったので、
俺は諦めて石段に足をかけた。まったく、俺も付き合いがいいよな……

 石段は両側から延びた木々の枝のおかげで天然のトンネルのようになっていて、さほど
濡れずに上まで登る事が出来た。
 だが最上段を目前にして俺たちの足が止まった。
「これは盲点だったな。」
「……」
 石段を上がりきったところでトンネルは途切れ、鳥居をくぐってお社までの間には何にも無い。
 そこに土砂降りの雨が降っているのだ。
「……戻るか。」
 俺が諦めて石段を下りかけた時、由真の奴は何を考えたのかいきなり雨の中に飛び出した。
「おい!」
「走ればすぐに着くってば!」
 そう言って由真は全力疾走でお社へと走っていった
「……くそっ!」
 由真を放って帰るという選択肢を取る事が出来ず、俺もまた雨の中に飛び出した。
 ……なんだかんだ言って由真に振り回されてるなぁ、俺。


18:名無しさんだよもん
08/07/05 13:23:27 RabmUlRN0
支援

19:メイド日和 エピソード3 ツンデレ危機一発 7/13
08/07/05 13:24:03 m+FQUVa30
「はぁ、はぁ……何がすぐに着く、だよ。」
「しょ、しょうがないでしょ……いきなり雨が強くなるなんて思わなかったし。やっぱり
 あんたが雨男に決まりね。」
 俺と由真はお社の中に飛び込んで扉を閉めたところで悪態をつき合った。
 俺が雨の中に飛び出したところで天候が悪化、バケツをひっくり返したような雨だったのが
ナイアガラのような雨にランクアップし、おまけに横殴りになったので、お社にたどり着くまでの間に
俺も由真もびしょぬれになってしまった。

 小さなお社の中は奥に小さなご神体があってそのほかには少し掃除道具などがあるだけだ。
 とりあえずスポーツバックに入っていたタオルで頭を拭くと、人が4~5人も入れば
いっぱいの広さの部屋の両端に俺と由真は腰を下ろした。
 正面に居る由真をまじまじと見ているのもなんなので外に目を向ける。
 格子戸から見える空は鉛色から黒と言ってもいい感じになりつつあり、耳が痛くなるような雨音も衰えを見せずに続いている。
「……さむ。」
 ポツリと聞こえた言葉に視線を戻すと、由真は肩を抱いて震えていた。
「なんかあったまる方法とかない?」
「そういわれてもな……」
 お社の中で焚き火をするわけにもいかないし、なにより火をつける道具を持ってない。
 でもこのままだと風邪引くだろうし……
 そこまで考えたところで、俺はひとつの方法を思いついた。
 でも、なぁ……でも他に手は無いし……ま、ダメ元で言ってみるか。
「ひとつ方法を思いついたんだけど。」
「……言って見なさいよ。」
「いいか、言うけど怒るなよ。」
 俺はひとつ呼吸を整えて続けた。


20:メイド日和 エピソード3 ツンデレ危機一発 8/13
08/07/05 13:27:04 m+FQUVa30
「たとえばだ、雪山で遭難したときなんかに、燃やすものも無い山小屋で良くやる手なんだけど。」
「そ、それって……」
 由真の顔が耳の先まで真っ赤になった。
「その……くっついて温めるって言うか……」
「す、スケベ! 変態! あ、あたしに何する気!?」
 ここが人気の無い場所でよかったと思うような言葉に俺はむっとしながらも忍耐強く話を続けた。
「だれも裸で抱き合うなんて言って無いだろ。俺だってそんな恥ずかしいのはごめんだ。
 ただ服着たままでもくっついてればあったかいと思って……。」
「…!」
 こちらに人差し指を向けたポーズのまま由真の口撃が止まった。
 そして由真はしばらく逡巡する様子を見せてから俺に向けていた指を下ろした。
「わ、わかったわよっ。そ、そっち、行くから……あっち見てて。」
 そう言って由真がご神体の置いてある神棚のほうを指差したのでおとなしくそちらを向く事にした。
 俺がご神体の石ころを仔細に観察している間に、由真がゆっくりと歩いてくるのがわかった。
 そして……俺の脚の間に腰を下ろした……って、おい。
 由真は投げ出し気味だった俺の脚の間に腰を下ろして俺の胸に背を預けてきたのだった。
「ちょっとまて。なんでここなんだ。」
「いっ、いいでしょっ! このほうが密着してあったかいし……だ、だからって、変な事するんじゃないわよっ!」
 赤い顔でそう言うと再び前を向いて俺にもたれかかってきた。
 ……確かにあったかいけどな……だけど、俺だって男なんだぞ。無防備すぎないか?
 湧き上がってくる文句を堪えて、ひとつため息をつくと由真のウエストの辺りに腕を回して
軽く抱き寄せた。
 由真は一瞬身体をこわばらせたけど、少しすると慣れたのか再び力を抜いてもたれかかってきた。


21:メイド日和 エピソード3 ツンデレ危機一発 9/13
08/07/05 13:30:04 m+FQUVa30
 すごく背中が小さい。
 いつも元気いっぱいで、その言動で俺を振り回しているけど、こうやって見ていると
やっぱりか弱い女の子なんだなと思う。
 腕だって細くて筋肉なんてろくに無いし、今俺に触れている部分はどこもかしこも
柔らかくて頼りない。
 目の前には由真の頭がある。ショートカットの髪は今は濡れていて、かすかに汗とプールの
塩素の臭いがした。ほっそりとした首には数本後れ毛が張り付いていて、なんだかひどく艶かしい。
「……あたしの耳元で鼻スピスピさせるな。」
「あっ、ごっ、ごめん。」
 いつの間にか、俺は顔を由真の頭に近づけていて指摘された瞬間に気がついてあわてて
顔を離した。
 とはいえ、女の子と密着した状態というのはやっぱり色々妄想なんかも膨らんじゃったりするわけで、
健全な男子にはなんともつらい。
 由真の身体の柔らかさと体温に悶々としながら、俺は外の雨音を聞いて気を紛らわせる事にした。

 外はまだ強い雨が降り続いている。今の体勢だと格子戸の格子を通して見える狭い範囲の
空しか見えないが、見えるのはべったりと重い雨雲だけで、まだしばらく止みそうに無い。
 しばらく雨音に耳を傾けていたら、雨音に混じってすうすうという穏やかな呼吸音が聞こえてきた。
「……由真?」
 返事が無い。
 俺はそっと横から顔を覗き込んだ。……由真は穏やかな顔で眠っていた。
 なんだ……由真だって疲れてたんじゃないか。
「ん……」
 寝苦しいのか、俺に背中を預けていた由真は横に向き直ると、俺のシャツの胸の辺りに
つかまって再びむにゃむにゃと眠り始めた。
 こ、これはちょっと……
 先ほどは細い背中と柔らかいお尻の辺りが俺の身体に当たって色々面倒な事になって
いたのだが、今度は俺にもたれかかっている格好だ。
 文字通り目と鼻の先に由真の顔がある。
 間近にある由真の顔を上から観察する。長いまつげ、うっすらと開いたうす桃色の唇は
リップでも塗っているのかつやつやしていて、すうすう言う甘い吐息で俺の首の辺りをくすぐっていた。


22:メイド日和 エピソード3 ツンデレ危機一発 10/13
08/07/05 13:33:02 m+FQUVa30
 やばい……可愛過ぎる。

 散々ヘタレといわれ続けてきた俺だけど、別に女の子に対する興味が無いわけじゃない。
 ここで由真をぎゅっと抱きしめてキスしてしまいたい欲求に理性がぐらついた。

 眠ったままの由真の肩に手をまわして身体を支える。そして、ちょっとだけ顔を上向かせた。
 ちょっとだけ顔を寄せる。まだ由真は目覚めない。
 もう少しだけ顔を近づける。由真の寝息が俺の頬をくすぐった。
「ん……たかあき?」
 ついに由真が目を覚ました。だけど、もう弁解できるような距離じゃない。
 だから度胸を決めた。俺はさらに顔を近づける。
「え……たかあき?」
 由真は戸惑ったような……それでいて、何かを期待するような眼差しで俺を見ていた。
 暴れたり、逃げ出そうともしない。借りてきた猫みたいに大人しくしている。

 これは……いいって事だよな?

 抵抗しないのを了解の意志と受け取って、俺はさらに顔を寄せた。
 由真がぎゅっと目を閉じる。身体を少しこわばらせ、俺のシャツの胸元をつかむ手にも力がこもった。


23:名無しさんだよもん
08/07/05 13:34:05 UBvWjbD90
替えの下着を忘れた支援

24:メイド日和 エピソード3 ツンデレ危機一発 11/13
08/07/05 13:36:08 m+FQUVa30
 もうちょっと……あと少し……もうちょい……

 その時だった

 どがぁぁぁぁぁぁん!

「うわっ!なっななな、なんだっ!」
「きゃっ!何!爆発!?」
 お社全体がびりびりと振動するようなすごい爆音に俺と由真は飛び上がった。
 そして、俺は咄嗟に由真を押し倒して上に覆いかぶさった。
 変な意味じゃないぞ。お社が倒れるんじゃないかと思うぐらいすごい轟音だったから
由真を守らなきゃ、と思ったんだ。

 由真の上に覆いかぶさったまま、俺は頭を抱えてしばらくじっとしていた。
 バケツをひっくり返したようなうるさい雨音はまだ続いている。
 そして、雨の湿った土の香りに混じってわずかにきな臭い臭いが漂ってきた。
「……なんだったの?」
「良くわかんない……」
 俺は身体を起こして格子から外を覗いてみたけど特に何もなかった。
「外は別にどうもなって無いけどな……」
「……たかあき。」
「ん?どうかし……た」
 その時になって俺は今の体勢に気がついた。
 由真を守ろうとしたとはいえ、今俺は由真を押し倒した体制でいるわけで……


25:メイド日和 エピソード3 ツンデレ危機一発 12/13
08/07/05 13:39:16 m+FQUVa30
 由真が真っ赤な顔で俺を見上げていた。
 そして視線を落とすと…シャツの胸元がちょっとはだけて胸の谷間が見えていて……正直、たまりません。
 そしてよくよく見れば濡れた白いシャツの布地が透けていて、その下の肌色とピンク色が…
って、ぴんくいろって?
「お、おまえ……なんでのーぶ」
「ノーブラ言うな!」

 げしっ!

 由真のアッパーカットが俺のあごに炸裂した。

                   ◇

「だ、だってしょうがないでしょ。家で水着着てきたから下着忘れたの!」
「お前は小学生かよ……」

 あの後……
 激しい雨がぴたりと止んで嘘のように晴れ上がったので俺と由真は河野家へと戻ってきた。
 ちなみにあの爆音は境内の立ち木に落ちた雷だったらしい。真っ二つになった立ち木を見て、
由真と二人肝を冷やして逃げるように帰ってきた。

 そして今、由真の服はいつぞやのように我が家の乾燥機の中で絶賛回転中だ。
 そしてこれもまたいつぞやのように、由真は我が家に常備されている専用メイド服を着ていた。
 そして……さっきまでの雰囲気はどこへやら、俺と由真は罵り合いの真っ最中だった。


26:メイド日和 エピソード3 ツンデレ危機一発 13/13
08/07/05 13:42:16 m+FQUVa30
「小学生とか言うな!」
「だって小学生だろ。うきうきしすぎて下着忘れるとか。」
「く~~!」
 俺に言い負かされた由真が悔しがって地団駄を踏む。
 しっかし……さっきはせっかくいい雰囲気だったのにな……
 もしあのまま……その……き、キス出来ていたら……俺と由真の関係も少しは変わって
いたんだろうか。
 とはいえ、あの時の雰囲気はちょっとやばかった。勢いに任せてさらに先の行為に及んで
いたかもしれない事を考えるとあれはあれで良かったのかな、とも思う。
 特にあの透けたシャツ越しに見えた由真のおっぱいは驚くと同時にかなり刺激的だった……
 そこまで考えて、俺は気がついた。
「由真……まさかとは思うんだけど。」
「なに? まだなんか言う気?」
「いや、下着忘れたって事は……そのスカートの下はまたのーぱn」

 次の瞬間、由真の足の裏が俺の視界を埋め尽くした。


27:名無しさんだよもん
08/07/05 13:45:28 m+FQUVa30
メイドコスネタで書くのも難しくなってきたし、
そろそろ話がパターン化してきたのでサブタイ「ツンデレの帰還」にして話を〆ようと思ってたのですが、
〆る話が思いつかなかったです orz

今回は単にコスチュームネタ(水着)になっています
サブタイは水野晴郎先生を偲んで……(すげー罰当たり)
内容は高校生男子なら誰もが抱く妄想炸裂で固めてみますた

>>23
読まれた~w


28:名無しさんだよもん
08/07/05 13:55:45 XjATfGymO
GJ!
ひたすらGJ!

自分、由真属性じゃないんですが、このシリーズはイイ!!

これからもがんばってつか~さい

29:名無しさんだよもん
08/07/06 05:40:42 UuNISlxH0
つんでれ最高!!

30:名無しさんだよもん
08/07/06 07:58:02 FC37CRRy0
GJ! どの辺がメイド? とか突っ込もうと思ったら最後にきっちりktkr
動きと感情と情景(というか由真の身体の外形w)の、描写のバランスがいいねえ

31:名無しさんだよもん
08/07/06 09:59:59 IO2C3IS90
>>27
GJ!
>サブタイ「ツンデレの帰還」
SW旧三部作かw

32:名無しさんだよもん
08/07/06 16:25:15 DDg9hQg30
トップバッターでなくて良かったw

どうも。一度、離脱宣言した人です。
場が荒れるの避けたかったので控えるつもりだったんですが、よくよく考えて、せめて、書きかけのブツだけでも
終わらせてから、去るという事にしました。
前言撤回、まことに恥ずかしげもなく申し訳ないです。orz

というわけで、無駄に長いだけのSSですが・・・・
閲覧者が少ないうちに投下します(^^;

33:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(1/27)
08/07/06 16:32:06 4QuxcodJ0
 
書き手が出入り禁止喰らってしまい、しばらく間が開いてしまったから、一応、前回のあらすじを説明しよう!

数々の不幸や苦難を乗り越え、学園公認のバカップルとなった、河野貴明と彼の専属メイドロボ、ミルファ。
そして、その貴明の家でメイド修行に奮闘するミルファの妹、シルファ。
そんな彼、彼女らの下に、新たなる刺客の影が迫る。
その刺客の名は ―― 来栖川エレクトロニクス製量産型メイドロボ、HM-16“リオン”!


34:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(2/27)
08/07/06 16:33:12 4QuxcodJ0
 
結局、くじ引きを終えた後、デートもお開きにして、河野家に帰ってきた貴明とミルファ。

「で、どーすんの、ダーリン?」
「ろーするんれすか、ご主人様?」

ソファに腰かけ、う~ん、と唸りながら、貴明は、抽選会場で貰ったパンフレットに目を通していた。
背後にはミルファがいて、後頭部に豊満な胸を押付けるように貴明を抱きかかえている。
そして左側にはシルファが侍り、貴明の表情を窺っていた。

人間そのものの少女の写真が並べられたパンフレットの紙面は、なにやらAVビデオのパンフのようで、どうにもぞっとしないな、などと思う貴明。

写真のそれは、目の前のシルファによく似たデザインの制服を着ていた。
なるほど、聞いていた通り、このタイプが、三姉妹達の体の元になっているのか、と彼は納得する。
それで、彼は、写真の少女に、イルファ達の面影を探そうとした。
・・・・しかし、写真の“リオン”は、HMX-17三姉妹よりはもっと大人びた印象がある。
パンフの説明にも書かれているが、購入者の趣向に合わせるように、様々な顔立ちのリオンが用意されているらしかった。

このリオンは、身長も三姉妹達より高い。恐らく、イルファ達は、珊瑚達に合わせるように、やや小柄にカスタマイズされたものだろう。

35:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(3/27)
08/07/06 16:35:10 4QuxcodJ0
 
しばらく思案した後、貴明が言った。 
「・・・・・やっぱり、やめておこうかな。辞退にマルつけて、来栖川にハガキ送っておくよ。」
それを聞いて、ミルファがニンマリする。
「当然だよね~、ダーリン。妻・兼優秀なメイドは一人で充分だもんね~♪」
憮然としたシルファが言う。
「何を言ってるれすか?ご主人様の専属めいろろぼはシルファれす。ミルミルはご主人様の性欲処理専門ろぼれすよ~ら!」

「あんたのご主人様登録は“仮”じゃない。ダーリンの正式な専属はあ・た・し。あんたはお情けで置いて貰ってるんだから感謝しなさいよね。」 返すミルファ。

「その契約は、“はるみ”が勝手に結んらものれすよ?」 腹黒な表情を浮かべてシルファが言った。
「ふーんだ。そんなんで動揺誘おうったって、もう効かないんだから。」
フフン、と、腕を組んで、それを余裕の表情で受け流すミルファ。
「都はるみだかエドはるみだかが過去のあたしだろうが赤の他人だろうが、もーまんたい!今現在のダーリンの正式な専属メイドロボが、“HMX-17b・ミルファ”だという事実だけが肝心なの!」

「“おぽんち”なりに、いろいろ考えてるようれすね」
「イルファお姉ちゃんならともかく、ひっきーであまのじゃくでひねくれ者のあんたに言われたって、な~んともないんだから。」

36:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(4/27)
08/07/06 16:38:18 4QuxcodJ0
 
シルファが、ぱっと立ち上がった。
そして、貴明の頭上で、顔を付き合わせる二人。
「きぃ~っ!」
「うぅ~っ!」
バチバチと頭の上に降りかかる火花を感じながら、貴明がパンフに目を落としつつ言った。
「二人ともさぁ、喧嘩やめないんだったら、どっちの契約も解除しちゃって、このリオンさんに来て貰おうかなぁ~。」

それを聞いて、ギョッとなるミルファとシルファ。
「ちょ、ちょっと!ダーリン!?」
「ぴっ!?な、何を言うんれすかご主人様!?」
 
ミルファは、貴明の首に再び腕を絡め、グイっと締めつけてスリーパーホールドを掛けにいく。
シルファは、ソファの上で貴明を横にし、足を絡めて四の字固めの体勢に入った。

「ぐわぁ~っ!ぐほぉ!!や、やめてっ!二人とも!ゴメン、お願いだからやめてぇ~~~っっっ!!」

37:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(5/27)
08/07/06 16:41:07 4QuxcodJ0
 
―― そして、翌日、学校にて。

「タカ坊、雄二、今日はいい陽気だから屋上で昼食とらない?」
環とこのみが、貴明達の教室に、昼食の誘いにきた。

晩秋ながらこの日は風もなく、ポカポカと日差しが暖かい。
貴明、ミルファ、環、このみ、雄二の5人が、持ち寄ってきた弁当をシートの上に広げた。

「はい、ダーリン、あ~ん♪」
あ~ん、と開けた貴明の口の中に、ミルファが箸でつまんだ出し巻きタマゴを放り込む。
「どお、ダーリン?お姉ちゃんと瑠璃ちゃんについてもらって、いっぱい練習したんだよ」
「うん、おいしいよ。」 もぐもぐもぐ。
これでもか、とばかりに、バカップルぶりを見せつける貴明達に、もはや環もこのみも苦笑するしかない。
あまりに割り切った爽やかさに脱帽である。
ウインナーを口に放り込みながら、雄二が羨望の眼差しを貴明達に向けつつ溜息をつく。
「はぁ~。いいなぁお前ら・・・・。」
そのつぶやきを聞いて、環が横目で雄二を睨みつつ言った。
「何よ、雄二。私の作った弁当にどこか不満でも?」
― いっ、いえお姉様!とっても美味しいです!ブラボーです!グラッチェです!・・・・と、雄二が焦って両手をかざす。

38:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(6/27)
08/07/06 16:43:23 4QuxcodJ0
 
何となく、貴明には、雄二の溜息の理由の察しがついた。
今自分がこうしていちゃいちゃしている相手が、このみやタマ姉ではなく、“メイドロボ”のミルファなのが、余計に羨ましいのだろう。

― そうだ!
貴明は、例の抽選の二等賞品の件を思い出した。
「なぁ、雄二。もし、一年でも半年でも、お前が新型メイドロボのモニターにでも選ばれたら、受けるか?」

― 何だと貴明?何をわかりきった事を!―
くわっと貴明の眼前に乗り出してきた雄二。
「うちじゃ買えない、いや買う気が親父達には全くないんだよ!お前みたいな機会に俺も恵まれてぇ~~っ!メイドロボちゃんに着せる可愛い服も、いっぱい用意してあるというのに・・・・とほほ・・・・」

そう言って、雄二はがっくりと頭を落としてうなだれた。

39:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(7/27)
08/07/06 16:45:57 4QuxcodJ0
雄二のその様子を見て、環が額に手を当てて、ハァー・・・・と、溜息をつく。
「何バカなこと言ってるの、あんたは・・・・駄目に決まってんでしょう。わかってるわよね?」
そして、貴明に視線を向ける。
「ねぇタカ坊、夏頃、うちにイルファが運用テストに来た時の事、覚えてる?」
― ああ、雄二に無理矢理せがまれた時の。そういえば、そんな事が。思い起こす貴明。
「あの時は来栖川から捻じ込まれてきたから、不承不承、黙認してたけど、お父様、あからさまに嫌な顔してたんだから。」

息子の趣味を知って、その将来を、かなり憂えているのだとか。
人間の娘以上に、メイドロボを傍に侍らせたいというその願望を。 
山田家との縁談も、それで断ってしまったのだと疑われていて、もはやメイドロボが目の敵にされているらしかった。
「だから、いかにもメイドロボな格好でうちに来るのは避けた方がいいみたい。ミルファちゃん、一応イルファや珊瑚ちゃん達にも言っておいて」

うんわかった、セーラー服とか私服なら大丈夫だよね、と言いながら、ミルファは貴明の耳元に顔を寄せ、囁いた。
― 何?ダーリン、あのリオンお姉ちゃん、ゆーじくんに押し付けるつもりだったの?―
― 押し付けるなんて。雄二なら喜んで受けるかと思ったんだけど・・・・あんな様子じゃ無理かなぁ。―

40:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(8/27)
08/07/06 16:47:54 4QuxcodJ0
「タカくんもユウくんも、メイドロボさん大好きなんだね~。」
このみがつぶやいた。
俺はメイドロボというより、HMX-17三姉妹が好きなんだけど・・・・などと思う貴明。
「ていうか、みんな、メイドロボが好きなのかな~。あのね、男の子達の間で、ミルファちゃんのファンクラブまであるんだよー。」
― わぁ~い!そうなんだー、嬉しいぃ~♪― と言いつつ、
「でも、あたしはダーリンだけのものだから~♪」 と、貴明に抱きついて、胸元に顔をうずめるミルファ。
先端技術的なものに興味を示しやすい高校生男子が、メイドロボに興味津々なのは不思議な事ではないにせよ・・・・
ミルファの場合は、メイドロボという先入観を取り去って、人間の少女として眺めてみても、無邪気で快活な性格が人気を集めるのは至極当然だろう、と思う貴明。

「いいなぁ~。このみもメイドロボに改造してもらって、タカくんにご主人様登録してもらおうかな~。」
真顔でそんな事を言ったこのみに、一同が“エェッ!?”と、思わずのけぞった。

41:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(9/27)
08/07/06 16:50:17 4QuxcodJ0
 
「ウホッ!いいヘタレ・・・・」
― いいわいいわ~、今日のタカ君。一段と憂い顔で。ヘタレパワーをムンムン感じちゃう♪ ―
そう女言葉で話す白衣姿のこの人は、れっきとした男性である。
口髭まで生やし、フレディ・マーキュリー似でかなり筋骨たくましいのだが、仕草が妙に女性的で色っぽい。
―― 様々な、怪しい機器が並んだ一室。
貴明は、センサーのついた帯を頭に巻かれて座しながら、モニタに映し出される、自分の脳波の動きらしい妖しげな波形をぼうっと眺めていた。

ここは、来栖医大の付属研究施設の、『リラクゼーション研究所』。
一部で、別名、“ヘタレ力研究所”と、呼ばれている施設であった。
そのいかがわしさすらも感じる研究内容のために、来栖川エレクトロニクスがスポンサーになって、かなりの出資をしているらしいが・・・・

先般、自分の記憶を消去してしまおうとしたミルファを貴明が追った時に、バスに踏まれて無残に破壊されてしまった、由真から借りたMTBと、バス会社が蒙った被害の補償は、ミルファの後見である来栖川のロボット研究所の長瀬氏がしてくれた。

しかし、それは何としてもお返ししたい、と貴明が言い張ったので、それなら、と、イルファが、この研究所での被験者のバイトを紹介してくれたのだった。

42:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(10/27)
08/07/06 16:53:30 4QuxcodJ0
貴明をねっとりとした視線で見つめる、ゲイっぽい研究員のフレディ(仮)さん曰く、貴明はこれまでで最高の研究対象らしい。

コンコン、とドアを叩く音がした。
カチャリ、とドアが開いて、入ってきたのは・・・・
「失礼します。」
―― イルファだった。
「あらぁ~。イルファちゃん、今日もご苦労様ね。書類一式、もうちゃんと用意してあるわよ。長瀬のおじさまにも宜しくね♪」
フレディ(仮)さんは腰をくねらせながら机に向かい、置いてあった書類を取ってイルファに手渡した。
そもそも、最高のヘタレパワーの観察対象、と呼ばれるだけでもかなり抵抗があるのに、その採取データを、ロボット研究所でどう使うというのだろう?

釈然としない思いの貴明である。
しかし、1週間に1度、ただ、座っているだけの楽なバイトに、不満など言ってはいられないのはわかっているつもりだった。
フレディ(仮)さんは、PCのモニタに映し出されたデータログを一通り見てから、言った。
「うん、今日はこれで終り。とってもいい結果が得られそうよ。また来週もよろしくね、タカ君♪」

43:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(11/27)
08/07/06 16:56:24 85Hx7U+f0
 
夕焼け空の下、来栖医大からバス停へと続く、すっかり葉の落ちてしまった並木道を貴明と並んで歩きながら、イルファが口を開いた。

「すいません貴明さん、変なお仕事、紹介しちゃって・・・・」
― でも・・・・と、続けるイルファ。
「貴明さんにはとっても素敵な力があるんです。ミルファちゃんやシルファちゃんを救って下さったんですもの。これから世に出て来る私達の妹達や、世の中のために、きっと、その力が必要になると思います。」

「そんな・・・・気楽な仕事紹介して貰って、感謝してるよイルファさん。」
不機嫌が顔に現れていたようで、イルファに余計な気を遣わせてしまったかと、後悔した貴明だった。

44:名無しさんだよもん
08/07/06 16:57:50 JSkKFyI/O
戻って来てくれて嬉しいぞ支援

45:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(12/27)
08/07/06 16:58:14 85Hx7U+f0
 
「ところで・・・・」
ふいに、話題を切り出したイルファ。
「HM-16の無料体験キャンペーン、当選されたんですって?」
勿論、ミルファから聞いたのだろう。貴明は頷くと、その権を雄二に譲ろうとしたが、それは難しそうだという事までをイルファに語った。
「そうですか・・・・雄二さんに。確かに、とても、喜ばれるとは思いますけど・・・・」
イルファは、向坂家にメイド修行に行った時の、雄二の喜色満面な様子を思い出す。

そして同時に、このキャンペーンには、何か裏がありそうだとも思案していた。
HM-16は今、市場から非常な好評で迎えられていて、まさかくじ引きの景品で無料体験キャンペーンを張る程の、販促が必要には思われなかった。

それは、販売サイドから出た話ではない。多分に、開発サイドの要望からと想像される。
―― 何の為に?
最初から購入を意図している、ある程度利用パターンの読める客層ではなく、様々な層からのモニタを募りたいのだ、恐らくは。

そういう意味では、雄二はあまり最適とは言えないモニターかも知れないが・・・・
長瀬のおじさまが噛んでるのかしら、やっぱり・・・・・

46:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(13/27)
08/07/06 16:59:59 85Hx7U+f0
「どうしたの、イルファさん?」
「きゃっ?」
急に貴明の声がイルファの思考の間に割って入って来た。
「い、いえ、その、今の貴明さんの、ミルファちゃんにシルファちゃんに私と一緒の生活に、リオンお姉様まで加わってのラブラブな日々を想像したら、つい、いけない妄想が・・・・・」

そう言って両手に顔をうずめ、頬を赤らめるイルファ。
はは、はは、と、苦笑する貴明であったが、イルファがこういうHな妄想の話を持ち出す時は、多くの場合、何かをはぐらかす為だと、少々鈍感な貴明もさすがに気付いていた。

「そ、それで、やっぱり、諦めちゃうんですか、貴明さんも雄二さんも?」
そうするしかないかな・・・・と呟いた後、貴明は言う。
「でもなぁ・・・・雄二にはいろいろ世話になったし、何とか、喜ばせてやりたいと思うんだ、俺。」

47:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(14/27)
08/07/06 17:02:05 85Hx7U+f0
 
イルファは顎に手をやって、思案していたが、何か思いついたか、貴明に向いて言った。
「貴明さん、“蓋然性の理論”って、ご存知ですか?」
首を振る貴明。
おぽんちミルファとほぼ同じパーツで出来ている“姉”とは、とても思われない程、イルファさんは、難しい知識をどんどん吸収しているな・・・・と、思わずにはいられない貴明だった。

ミルファの興味は、“快”の方向に向いている。イルファは恐らく、人間で言うところの“マニアック”な方向に興味が向かっているのだろう。

「昔、オランダの数学者が著した理論です。その数学者は政治家も務めていて、イギリスとの戦争を終わらせるために、その理論を応用してみたんです・・・・結果は、大成功でした。」

そして、貴明にニッコリ微笑んだイルファ。
「かいつまんで言ってしまうと、“既成事実さえ作っちゃえば、もうこっちのもの。後戻りなんか出来っこない”という理論だったんです、それは。」

48:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(15/27)
08/07/06 17:04:21 85Hx7U+f0
 
―― そして再び、翌日、学校にて。

放課後、貴明が視聴覚室に入ると、珊瑚と瑠璃の二人だけが、広い部屋の中でノートPCに向かって座っていた。
机上の、珊瑚のノートPCの隣には、クマのぬいぐるみ ― 実は、小型ロボット ― が、侍っている。“クマ吉”だ。
「なんや、貴明か。」 瑠璃が先に話しかけて来た。
「あ、たかあきい~。」 と、珊瑚。
いつもの珊瑚なら、“る~☆”と、バンザイで迎え入れるのだが・・・・何やら、元気がない。
「どうしたの、珊瑚ちゃん?元気なさそうだけど・・・・・」
貴明に尋ねられると、珊瑚はPCのキーボードから手を離して、うつむいて話し出した。
「うん、実はな・・・・・」

数日前、貴明の事を好きだという、別のクラスの少女が珊瑚達を訪ねてきて、いろいろ、ミルファの悪口を言ったのだとか。

「みっちゃんを、“人間に恋するおばけ機械”とかな~。もう、ウチも瑠璃ちゃんも、それでぶちきれてしもうたんや。」

ミルファは人気者だと思っていたけど・・・・そういう見方をする人もいるのか。心しないといけないな、と思った貴明。
― 何を言われようが、ミルファは自分が守らないと。

49:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(16/27)
08/07/06 17:06:11 85Hx7U+f0
で、どんな子だったの、と貴明が訊くと、その少女の特徴を瑠璃が話した。
貴明も、その少女には見覚えがあった。確か、学食の自動販売機で、転がった100円玉を拾ってやってから後、よく、貴明の視界に入って来る・・・・・そうなのか、付き纏われていたのか。

そんなささいなきっかけで、女の子が寄って来る俺って、一体、何よ?と、頭を抱えてしまう貴明。
しかし、それにしても、あの子、そんな思い切った事が言える印象はなかったけどなぁ・・・・・

そう考えた後で、こういうキナ臭い話の陰に、いつも暗躍している、ある人物に思い当たった。
― 確か、居たな。“略奪愛が大好き”とか、日頃、公言してた人が。そう、生徒会室の辺りに。
“ナイスボート”で“あの女のハウス”な、修羅場スキーな人が。人なのかすらも最近は怪しくなってきたけど。
多分、それで間違いないだろう。
そろそろ、決着をつけないといけないのかも知れない、あの邪神とは。― タマ姉に助けて貰う事になりそうだが。

50:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(17/27)
08/07/06 17:08:28 85Hx7U+f0
 
「で、何しに来たんや、貴明?」
瑠璃に尋ねられて、貴明は、昨日の、イルファとの会話の事を二人に話した。
「うわぁ~、イルファ、だんだんえげつない策士になってくわ。貴明のせいやーっ!」 罵る瑠璃。
「せやけど、もともと、愛と本能のままに赴く、いけないメイドロボやったもん、いっちゃんは~。」 と、珊瑚。
ポリポリと頭をかき、苦笑しながら貴明が言った。
「・・・・でさ、俺が言うよりも、珊瑚ちゃん達から誘って貰った方が、真実味あるかなって。ホントの事言っちゃうと、“お前のらっきー☆ぱらだいすは、いつ崩壊するんだーっ!!”とか、キレて臍曲げちゃいそうだし。」

「おもろいな~、それ。うん、ウチ、乗った~♪」と、珊瑚が両手を上にかざして言った。

「ところで、貴明、ミルファはどないした?」 瑠璃が訊いて来る。
「あ~、今、職員室。先日の数学に続いて、英語の小テストも壊滅でね・・・・。」

51:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(18/27)
08/07/06 17:10:26 85Hx7U+f0
 
―― 放課後の教室には、まだ雄二の姿があった。
半ば放心状態で、机に向かい、黄昏ている。
手にした英語の小テストの答案には、大きく、“9点”と、書きなぐってあった。
ミルファよりはマシだったとはいえ、堂々たる赤点である。
― くそぉ~っ。こんなの姉貴に見られたら、もう当分、外出禁止喰らっちまう・・・・。
帰るに帰れなかった。

「よぉ雄二。ま、元気だせよ。いつものことじゃんかよ。」
クラスの悪友達が、雄二に慰めの声をかける。
「それより、さ、こいつ、どう思う?」
男子生徒の一人が、雄二に、とある雑誌のページを開いて見せた。
軍事関係の情報誌である。
そこに書かれていた記事は、米国が極秘裏にイスラエルに貸与し、中東の紛争地域に駆り出しiた最新鋭の軍用アンドロイドが、たった1体で、テロ支援国家の戦車50両を破壊する大戦果を上げた、というものだった。

52:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(19/27)
08/07/06 17:12:54 85Hx7U+f0
 
“メイトリックス”というコードネームで呼ばれるその軍用アンドロイドは、携行可能なありとあらゆる兵器を使いこなし、敏捷な運動性能を誇り、エシュロンのデータにすらアクセス出来るという。

屈強そうな白人男性の写真が載せられていた。勿論、想像図である。

「問題はさ、どうやって、ロボ三原則をクリアしてるかだよな。」
「無論、適用されてないんだよ。ジュネーブ条約違反もいいところ、真っ黒けだな。」
「でも、公式には、ちゃんと守ってるって強弁してるそうだけど、米軍は」
「日本に寄航する原潜に、核兵器積んでませんってのと同じような理屈だよな、ははは」
「それよりさ~、雄二、どう思うよ?メイドロボ博士としてはよ」
ん?と、訊いて来た男生徒を見上げる雄二。
「我らが来栖川が誇るメイドロボちゃんズと、どっちが優秀なんかね。」
勿論、量産機ではなく、イルファ達三姉妹の事を指しているのは明らかだった。
国家予算を投入して作られた戦闘ロボットと、民生用の販売機体を流用して作られたメイドロボ試作機を比較するのは、単純に身体機能などを問うのならそもそも無理のある話ではあったが。

何より、イルファ達の開発コンセプトは、心身共に、“どれだけ人間に近付けるか?”にあるのだから。

53:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(20/27)
08/07/06 17:15:48 85Hx7U+f0
― ガッ!
雄二は、その雑誌を奪い取ると、“フンッ!!”と唸り、ビリリッと引き裂いてしまった。
「うわっ!ゆーじ、何すんだよっ!!」
文句を言ってきたその雑誌の持ち主だった男生徒を、ギロリと睨み、雄二が啖呵を切った。
「うるせぇっ!愛と平和と萌えの化身たるメイドロボちゃんズと、こんな人殺しロボを比較するなんぞ、虫唾が走るわっ!!」

どうやら雄二の逆鱗に触れてしまったらしく、フー、フーと唸る彼を前にして、男生徒達はすくんでしまった。

「でもな~、その子も、好きで軍用ロボに生まれたんとちゃうんよ。みんな、人間の勝手やもん。」
関西弁の女の子の声が聞こえたので、彼らが入り口の方を向くと、おだんご頭の下級生の双子姉妹が入って来たところだった。

メイドロボちゃんズを作った“神”の降臨に、途端に居心地の悪さを感じた男生徒達は、雄二を残して、そそくさと立ち去ってしまった。

「お、珊瑚ちゃん瑠璃ちゃん、珍しいな、どうしたんだよ?」
姫百合姉妹がわざわざこの教室に現れたのは、雄二には意外だった。

54:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(21/27)
08/07/06 17:17:57 85Hx7U+f0
「ゆーじ兄ちゃん、今度の土曜、予定入ってへん?」 珊瑚が言った。
「う~ん、暇っていやぁ暇だけど・・・・」
雄二は手元の小テストをチラリと見た。
もし、外出を伴うお誘いだったら、これをタマ姉に見られたら、まずアウト。
それにしても、姫百合姉妹の方から誘ってくるとは、つくづく珍しい。
何だろう、と、訝しむ雄二。
「実はな~、貴明ん家で、土曜日、メイドロボの起動デモ実施するねん。」
― 何っ!メイドロボの、起動デモとなっ!?
がしっと、珊瑚の手を掴む雄二。
「行く行くっ!絶対行くっ!天地逆になっても参上するぜっ!!」
― バシッ!
「あがっ!?」瑠璃が、鞄を雄二の頭に振り下ろした。
「さんちゃんに気安すぅ触んな、ボケッ!」

55:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(22/27)
08/07/06 17:19:30 85Hx7U+f0
つつつ・・・と、頭を押さえながら、珊瑚に尋ねる雄二。
「しっかし、なんで、貴明ん家なんだよ?」
「最近のロットの“リオン”から、簡単な起動プログラム用意してんねん。それのテスト。ついでやから、みっちゃんとしっちゃんにも情操教育や~☆」

雄二は鞄を手にすると、すっくと立ち上がった。
「万難を排して、絶対お邪魔するぜ。珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、ありがとう。それじゃ土曜日なーっ!」
ピューッと、教室外に消えていった雄二。
その様子を見送って、ふうっ、と、ため息をついた珊瑚。
「ほんまに、単純なあんちゃんやな~、ゆーじ兄ちゃんは。」
そして、瑠璃と向き合って、二コリとした。
「これで、お膳立ては完了やな。」

56:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(23/27)
08/07/06 17:21:04 85Hx7U+f0
 
そして、土曜日。

― ピンポーン。
インターホンが鳴る。
「あ、シルファちゃん、俺が出る出る!」
朝食の準備をしていたシルファを押し留めて、貴明が玄関に向かった。
鍵を開けて、「はい、どちら様・・・・」と、ドアを開けた途端、
「ダーリンッ!」
「ぐほっ!」
ミルファが、貴明の胸元に飛び込んで来た。
「むふ~ん、ダーリン、おっはよー☆」 そう言って、貴明の胸に頬をスリスリと擦りつける。
胸元のミルファから視線を玄関の外に移すと、イルファと、珊瑚、瑠璃の姿があった。
「る~☆」
「おはようございます、貴明さん。」
「げっ、イルイル」
苦手なイルファの姿を目にして、嫌そうな顔を見せたシルファ。
更に、その奥に、珊瑚の姿を見つけると、
「ぴっ・・・・!」 と、思わず体を引いてしまった。
「しっちゃん、怖がらんでええよ~。元気してたか~?」
シルファの警戒を解こうと、珊瑚がにっこりと微笑んだ。

57:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(24/27)
08/07/06 17:22:28 85Hx7U+f0
 
「相変わらず綺麗にしとんな~。しっちゃん、まめやな~。」
ソファにくつろぎながら、珊瑚は部屋の中を見回した。
「地味妹、それだけが取り得だもんねー。」 頭の後ろに手を組んで、ミルファが言った。
彼女の視線の先には、コンロの前に立って鍋に具を注いでいるシルファの姿がある。
「ミルファちゃん、あなたも貴明さんの専属メイドロボなんだから、たまにはシルファちゃんのお手伝いしなさい。」
イルファが、そんなミルファをたしなめる。
「は~い。」 そう返事しながら、ミルファは唇を尖らせた。

ミルファは、この日は珍しく、メイドロボの制服を着ていた。
イルファ、シルファとは若干襟のデザインが違い、白いセーラー襟風になっている。
おまけに、イヤーバイザーまで装着して、すっかりメイドロボ然とした姿だった。
「ミルファちゃん、珍しいね。どういう風の吹き回し?」 そのミルファの姿をしげしげと眺めながら、貴明が言う。
くるんと1回転して、ミルファが言った。「むふ~ん、どう?たまには目先が変わっていいでしょ?」
どういう心境なのか、深くは推し測ることは出来なかったが、おそらくは、新しいメイドロボの仲間がやって来るという事で、ミルファもそれなりに高揚しているのだろう、と貴明は想像した。

58:名無しさんだよもん
08/07/06 17:25:48 DljUh7/C0
しえん

59:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(25/27)
08/07/06 17:25:57 HiLTzmAF0
 
― 外から、トラックらしき車が近付いてくる音がする。そしてそれは、河野家の前でキィーッ!とタイヤを鳴らして、停車したようだった。

「来たのかな?」
貴明はソファーから立ち上がる。すると、果たして、“ピンポーン”と、インターホンが鳴った。
「は~い、今行きま~す。」
カチャリとドアを開けると、そこには、眼鏡をかけた、年の頃30歳前後の、精悍な印象の男性が立っていた。
ネクタイを締め、来栖川エレクトロニクスのロゴの入ったジャンパーを着用している。
ぺこりと頭を下げて、名乗った。
「来栖川エレクトロニクスから参りました。HM開発室の東吾と申します。このたびは、弊社のHMモニタテストプログラムにご応募頂き、まことにありがとうございます。」

60:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(26/27)
08/07/06 17:28:28 HiLTzmAF0
そして、続ける。
「― 河野貴明さん。長瀬からよく話は伺っております。いつもミルファやシルファのご面倒を見て頂いてるそうで。お礼申し上げます。」

 
リビングに通されてきた東吾氏を見て、珊瑚が驚きの表情を見せた。
「東吾のおっちゃん、何で?わざわざどうしたん?」
「やぁ、珊瑚さん、おはようございます。いらっしゃったんですね。」 珊瑚を見て、にこりとする東吾氏。
二人が知り合いらしいので、貴明は珊瑚に目顔で尋ねた。
「東吾のおっちゃん。HM開発室の、主任はんや~。最近、重工の方から異動してきた~。」
― えっ?主任さんて、確か、長瀬さんだったんじゃ・・・・
貴明のその疑問に、珊瑚が答える。
「メイドロボがバカ売れしたお陰で、長瀬のおっちゃんの今の役職は研究所の次長で、開発室長や。けど、主任開発員やからと、いつもみんなに主任と呼ばせてるんや~。」

なるほど、飾らない性格の、長瀬さんらしいな、と思った貴明。

「でも、HM開発室の偉い人が、何で、こんなとこに来るん?」 珊瑚が問うた。
「新しい起動プログラムに精通した人間が営業部門にいないんで、急遽、駆り出されたんですよ。」と、東吾氏。
― そら変やわ。ずっと簡単に改良した筈なのに・・・・ ―
腑に落ちない珊瑚。
「さて、そろそろ、運び込みますか。」 そう言って、東吾氏はトラックの方へ向かう。

61:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(27/27)
08/07/06 17:33:44 N3O/ADDJ0
  
― 東吾氏と、ドライバーが、白い細長いケースを抱えて、玄関から戻って来た。
さすがに、シルファが送り届けられてきた時のように、ダンボールではなかったようだ。
ケースに、“KURUSUGAWA HM TYPE-16e RION-CUSTOM”の、文字が見える。
「ここで、いいですか?」 リビング中央の空きスペースまでやって来た東吾達。
「あ、あたしら手伝うよ。地味妹も、ほら。」
ミルファが歩み寄って来たが、「いや、結構。」と、それを断る東吾氏。

ゆっくりと、ケースが床に置かれた。
ケースには、ちょうど顔のあるあたりに窓がついていて、中のHMを覗けるようになっている。
一同がケースの周りに集まってきて、窓の中の、メイドロボの顔を覗きこんだ。

― これは・・・・!?
奇妙な、既視感にとらわれた貴明。
隣で覗き込んでいる珊瑚達も、やはり、同じ思いなのか、訝しんでいる様子が窺える。
中で眠る、HMは赤毛だった。
しかし、どこかで、会っている人のような・・・・

― !思い出した。
あの、やたらと負けず嫌いの、同級生の女の子。
眼鏡を外した時の顔と、瓜二つだった。
― 十波、もとい、長瀬由真、と!?

―― (つづく) ――

62:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(以降)予告
08/07/06 17:34:43 N3O/ADDJ0

“『まーりゃん』って、知ってるかい?
昔、学園で粋に暴れまわってたって言うぜ・・・
今や生徒会は荒れ放題、
ボヤボヤしていると、後ろからばっさりだ!
どっちも どっちも どっちも どっちも!”

雄二 : “ ― さあ、言え、向坂雄二!今こそ、言ってしまうんだ っ!!”

HM-16 RINA : 「イルファさん!これで勝ったと思わないで下さい!」

郁乃 : 「あたしにはお姉ちゃんがいるもの。メイドロボなんて、いらない。」

ミルファ : 「怖い夢、見たよ・・・・ダーリンが、高いところから、落ちちゃう夢。」

長瀬源五郎 : 「彼女は、制限型DIAの、評価実験機なんだ。」

イルファ : 「三原則に縛られたロボットが、元の記憶を持ったまま、新しいご主人様に仕えるなんて、有り得ないんです。」

63:62
08/07/06 17:37:06 N3O/ADDJ0

以上で、二話の投下終了です。
もうこの際、開き直って、手厳しいご意見、期待いたします。(^^;

予告入れたのは、完結出来ない事態に備えてでして・・・・(ォ

では。

64:名無しさんだよもん
08/07/06 17:39:00 DljUh7/C0
>>63
そんなこと言わずに完結させてくれ。次回も楽しみにしてます。乙でした

65:名無しさんだよもん
08/07/06 17:41:11 fjX1rw+LO
う~ん、おもしろい

とりあえず自分は期待大で続きをお待ちしております。

66:名無しさんだよもん
08/07/06 19:20:19 Dke/2Oil0
今回も面白かったです。

自分も完結、待ってます。
次回の投稿、楽しみにしてます。

67:名無しさんだよもん
08/07/06 20:01:10 8iaIz9Qm0
(´ρ`)今回も面白い

68:名無しさんだよもん
08/07/06 20:22:43 pFzavWD70
乙~。投下は常に歓迎だから、去るとか居ぬとか断りはいらんよ

これって「近未来のイブ」の続きなんだね
ちょっと見慣れない人が多くてイメージが掴みづらいけど、
ようやっとリオン起動(だよね?)で話はこれからだろし、引き続きがんがれ

69:名無しさんだよもん
08/07/07 00:25:50 cbwd3G100
面白いって言う人は、どのへんが面白かったか、もうちょっと具体的に言ってくれると
更なるモチベーションに繋がると思うぜ!。

70:名無しさんだよもん
08/07/07 07:51:27 ISZBYQN10
正直、エロが足りないと思う
たゆんたゆんなミルファのおっぱいとかミルファのおっぱいとかミルファのおっぱいとか(ォ
若さ故の過ちで授業抜け出してブルマ姿でプレイしちゃう描写とかストーリー無視で挿入しても
よいかも・・・
と、いちいちコメントが多過ぎると指摘された作者のコメントでした(マテ

71:名無しさんだよもん
08/07/07 09:13:56 0Rs6bL100
もうミルファにチンコ生やして、ストーリー無視で貴明に挿入しようぜ
それでええやろ

72:名無しさんだよもん
08/07/07 09:16:54 xOQU9AEFO
>>70
乙。
オリジナル展開が多くて先読みが難しいが、今後に期待してる。
それにしても、搬入されたリオンの正体はリアル由真!とかいうオチではあるまいなww?

ともあれ。ミルファたんのたゆんたゆんは漏れも大好きである!
だから鷹棒奪還の為に最大の武器オパーイを駆使して戦うミルファ二士の活躍を見せてくれw


73:名無しさんだよもん
08/07/07 13:59:26 o4JKqMm00
リオンさんのイメージ
URLリンク(www.dotup.org)
P= rion

74:名無しさんだよもん
08/07/07 21:36:22 bByYipnT0
>>73
ほぼ由真じゃねーかw

75:名無しさんだよもん
08/07/07 22:18:26 HCsQmWEo0
ウホッ…いい由真…

76:名無しさんだよもん
08/07/10 23:51:56 ykkvnFYO0
書庫さん更新乙

いつもご苦労さんです

77:名無しさんだよもん
08/07/13 00:18:10 4cccjO5t0
こんばんは。
HM-16の続きです。
忙しくて、なかなか思うに任せません orz

では、落とします。

78:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(1/23)
08/07/13 00:19:22 4cccjO5t0
 ―― 今、向坂雄二は、のっぴきならない状況に、追い込まれていた。 

 「畜生~っ!貴明!珊瑚ちゃん!騙しやがったなぁ~~っっ!!」
 「別に騙してねぇだろ雄二。それに決めるのはお前だぞ。好きにしろよ。」
 「どないすんねん、ゆうじ兄ちゃん?もう30秒しかないよ~♪」

 "このまま手動登録が行われない場合、自動的に、初期設定の登録名、『河野貴明』様で、マスター登録いたします。
それでよろしいですか?"

 上半身だけが起き上がった体勢のまま、“リオン”が、無機的な表情で、感情のこもらない調子で語りかける。
 データリンクシステムでリオンと繋がっている珊瑚のPCの画面中央には、マスターの登録名入力画面がある。
 そして、刻々と、画面右側のカウントダウンの数字が減っていく。
 "残り20秒です。繰り返します。初期設定でよろしいですか?・・・・十、九、八・・・・"

 雄二は、心の中の葛藤と、必死に格闘していた。
 今、目前に、あれほど渇望していたメイドロボのオーナーになれるチャンスが転がっている。
 しかし、家庭の事情、現実の厳しさが頭をよぎり、彼の口をこわばらせてしまう。

 “ ― さあ、言え、向坂雄二!今こそ、言ってしまうんだ っ!!”
 ついに、強い欲求が、彼の心の奥底の声を、その口から叫ばせた。

 「― 向坂 雄二!こうさか・ゆうじが、君のマスターだっっ!!」

79:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(2/23)
08/07/13 00:20:36 4cccjO5t0
 
 珊瑚が、目にも留まらぬ速さで、キーボードを叩く。
 ― "向坂 雄二"―
入力欄にその名が入り、すかさずリターンキーが押された。
 残り1秒だった。
 「る~! ゆーじ兄ちゃん、言ってもうた~☆」
 バンザイポーズの珊瑚。

 その直後、“リオン”の赤い目が、点滅を始める。
 "― 登録名、確認。私のマスターを、『向坂 雄二』として、登録いたします。
 声紋、認識・確認。紐付け、登録いたしました。人相映像情報、認識・確認。紐付け、登録いたしました。"
 そのリオンの言葉を聞いて、雄二は、床に尻餅をついてへたり込んでしまった。
 “ ― あー、とうとう、言っちゃったよ、俺・・・・・。”

 リオンの目の点滅が終わり、珊瑚のPCの画面が切り替わった。
 ― 『名称カスタマイズ画面』 ― 
 リオンが再び、語り出す。
 "マスターのお好みで、私に名前をつける事が出来ます。特にご指定が無い場合、標準名の『リオン』で、登録されます。
3分間の間に、ご命名下さい。"

80:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(3/23)
08/07/13 00:22:33 4cccjO5t0
 
 またしても、焦りの表情を浮かべる雄二。
 あまり、滅多な名前を付けたくない。
 かと言って、HM-16“リオン”は、世の中に沢山存在する。
 この娘は、彼だけのメイドロボであって欲しい・・・・・
 雄二は、由真そっくりのそのリオンの顔をう~んと凝視してから、言った。
 「・・・・・そ、そうだ。君の名前は、ゆ・・・・い、いや、理奈。リナにしよう!そ、それで、いいかい――!?」

 思わずガクッとくる貴明。
 恐らく、雄二が入れ込んでいるアイドル、“緒方理奈”から、取ってきたものであろう。
 「ゆーじ兄ちゃん、『RINA』で、ええんな?」
 うん、と、雄二の頷きを見てから、珊瑚はPCの入力画面に、"RINA"と打ち込んで、リターンキーを押した。
 再び、リオンの目が点滅を始めた。
 そして、言う。 "私の名前を、『RINA(リナ)』で、登録いたしました。お名付け頂きまして、ありがとうございます。"

 その目が点滅を終えてからも、リオン ― リナは、続ける。
 "手動登録プログラムにより、わたくし、RINAは、向坂雄二様をマスターとして登録されました。わたくしに関する権利
は、河野貴明様から、向坂雄二様へ譲渡されたと見なされます。ご契約登録頂き、まことにありがとうございます。"

81:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(4/23)
08/07/13 00:24:07 4cccjO5t0
 
 そう喋り終えた後、“RINA”は、ケースの両脇に手を置き、それで体を支えながら、ゆっくりと立ち上がった。
 登録前と後のはっきりとした変化としては、それまでのマネキンのような無機質な顔から、人間的な、生気にあふれた
表情を見せている点である。

 「ダーリン、さんちゃん!立った!リオンが立ったよ!」
 キャッキャッ、と、その様子を見てはしゃぐミルファ。
 「“とうしんらいらきまくら”じゃあるまいし、めいろろぼなら、立って当然なのれす。全くミルミルはおぽんちれす。」
 白けた様子でミルファを横目で見やるシルファ。

 ケースから出て、リナは、呆然としている雄二を向いて立つ。
 それから腰を下げ、今度は土下座で、雄二に向かってお辞儀をした。
 そして、頭を上げて、名乗る。
 「はじめまして。本日から向坂雄二様の専属メイドロボとなりました、HM-16、“リナ”と申します。
 これから半年間、お世話になりますので、どうか宜しくお願いいたします、ご主人様。」

 「お・・・・おれ、向坂雄二。よっ、よろしく、リナちゃん・・・・・。」
 雄二も、思わず、ぺこりと頭を下げた。

82:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(5/23)
08/07/13 00:25:24 4cccjO5t0
 
 「― しかし、やられましたよ、珊瑚さん。このために、いらっしゃってたんですね。」
 腕を組んで、溜息をつきながら苦笑しつつ東吾氏が言った。
 「まさか、起動中に割り込まれて、手動登録メニューを立ち上げられてしまうなんてね。」
 
 普通の起動なら、HMが出荷前に与えられたマスターの情報に、本人の声紋と人相を紐付けるだけの作業で終了する。
 データリンクシステムを自在に操れる珊瑚が途中で介入し、、イレギュラー発生時に事前登録情報を変更するための
手動登録メニューを強制的に立ち上げたのだ。
 
 そして、貴明は、のこのこと現れた雄二をリオンの前に引き入れると、彼に促した。
 「― 雄二、お前がメイドロボのご主人様になるんだよ!俺は知らん。とにかく好きにしろ。」

 先にオーナー申込みをした貴明本人がオーナー権を放棄し、雄二が正式に登録を行った以上、この契約は有効である。
 『既成事実さえ作ってしまえば』という、イルファの入れ知恵は、つまりはこういうことであった。
 ― それはまた、雄二の気持ちの問題に対してでもある。
 目の前にこれほどのチャンスを突きつけられて、拒否できるほど雄二の克己心は強くなかった。
 それについては、貴明もイルファも確信があった。
どれほど周囲の状況が厳しかろうが、理性を無視した魂の叫びに、あえて雄二は従ってしまった。 
 既にルビコン河を渡ってしまったのだ。賽は投げられた。いまさら後戻りは効かないのである。

83:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(6/23)
08/07/13 00:26:48 4cccjO5t0
  
 「あ、あの、あたしのお姉ちゃんになるのかな、それとも、妹・・・・? あたしは、HMX-17b、ミルファ。こっちは、同じ型番
のお姉ちゃん、イルファ。こっちの黄色いのが、おまけの愚妹シルファ。」
 「おまけの愚妹は余計れす!」
 「宜しくリナさん。イルファです。どうか何でも聞いて下さい。こちらは、私のご主人様の瑠璃様と珊瑚様、そして・・・・」
 貴明に手を差し向けるイルファ。 「私の“心のご主人様”、河野貴明さんです。」
 「げっ!?」 思わず引く貴明。
 「あーっ!イルファが浮気しおったーっ!貴明のせいやーっ!!」
 「ちょっちょっと!お姉ちゃん!?ダメーッ!!」
 「イルイルッ!?自重するれすっ!!」
 「いっちゃん、やっぱり、いけないメイドロボさんやな~♪」

 「はい。宜しくお願いします、皆さん。」
 そう言ってリナはみんなにペコリと頭を下げた。

84:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(7/23)
08/07/13 00:27:59 4cccjO5t0
 
 「わ~っ!ユウくん、ついにメイドロボさんのご主人様だね~♪ご苦労様であります!パチパチパチ」
 「雄二・・・・・あんた。それに、タカ坊・・・・。怪しいんで、雄二について来てみれば・・・・・どうすんのよ、これから?」
 いつの間にか、このみと環が、リビングの傍らに立っている。

 「あは、あは、あっはははぁ~~~・・・・・俺、ついに、なっちゃったよ、メイドロボのご主人様に・・・・」
 じわりと湧き上がって来る感慨に、今、雄二の頬を、ツ~と熱いものが伝わった。

 こうして、メイドロボ・リナとそのご主人様、向坂雄二のカップリングが誕生したのだった。
 ―― 半年間の、期間限定ではあるが。

 「タカ坊、珊瑚ちゃん、イルファ・・・・ちょっと、顔貸しなさい。」
 3人を招き寄せる環。
 「― あなたたちはッ!何て事してくれるのよっ!!」
 「ひっ!」 環の怒りの前に、思わずすくんでしまう貴明達。

 「・・・・ええっ、と、皆様方、私は、これで、おいとまさせて頂いて、宜しいでしょうか?」
 ― ハッとなって、まだその場にいた、東吾氏の方を振り向く一同。
 「どうぞ、メイドロボのいる生活をご満喫下さい。それでは、お邪魔いたしました。」

85:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(8/23)
08/07/13 00:29:48 4cccjO5t0
 
 尋常でない雄二の喜びようを見て、環はどうしようもなく弟が不憫になってきた。
 見ると、雄二は、リナの手を取って、それを頬にスリスリしている。完全に理性の飛んだニヤケ顔だった。
 ― 聞けば、貸与期限は、半年間。別れを迎える時の嘆きは想像に余りある。
 そして何より、向坂家に置いておけない。どうする?
 「タカ坊達、まず、あの娘をどこに住まわせるか、考えなさい。」
 
 雄二を引き込んでこの展開に持って来るまでは周到だったが、その後の事を考えてないのはあまりに迂闊と言えた。
 何だかんだ言って向坂家で引取るんじゃないか程度に考えていた貴明達だが、やはりそうは甘くないようだった。

 今回の事の経緯を考えれば、河野家か姫百合家で引取るのが筋とは言えたが・・・・
 
 「ねぇねぇ、いい案があるよ?」
 と、ミルファ。
 「リナちゃんはさんちゃん達に面倒見て貰っちゃって、あたしがダーリンと一緒に住むの☆」
 「らメぇ~~ッ!!」と、思わず、みさくら語で叫んでしまうシルファ。
 「二人が喧嘩しないって約束出来るんなら、それがいいかも。どうですか、貴明さん?」 と、イルファが訊ねる。
 「う~ん・・・・以前みたいなひどい喧嘩は最近しないし、だ、大丈夫なんじゃないかな?」と、貴明。
 「突っかかってくるのは主にひっきーの方だし。あたしはずっと大人だよ?」
 「嘘なのれす!」

86:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(9/23)
08/07/13 00:31:43 4cccjO5t0
  
 肝心の珊瑚達はどうなのか?環が訊ねた。
 「う~ん、そやなぁ~~・・・・」

 珊瑚は、雄二に寄り添われているリナの様子を、じっと観察していた。
 「リナちゃん!君は、俺のメイドさんだけど、姫様だ!俺が君のナイトになって、君を守る!」
 そんな恥ずかしい台詞を臆面も無く言っている雄二であったが、それを聞きながら、リナはまんざらでもなさそうである。
 それどころか、頬を赤らめ、もじもじと、合わせた両手の指を遊ばせている。

 "・・・・普通のリオンが、あんな表情や反応、するやろうか・・・・?" 腑に落ちない珊瑚である。
 これは、手元に置いて、観察してみたい、という気持ちが彼女に湧いて来た。

 ― 長瀬のおっちゃんも東吾のおっちゃんも、何か企んどるわ、これは。―
 「わかった。リナは、ウチらで引取るわ。貴明、ミルファとシルファ、うまく面倒みといてや~。」

87:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(10/23)
08/07/13 00:36:43 dxqpIMad0
 
 ―― 翌日、日曜。
 昨日、河野家に集った面子が、シルファを除いて姫百合家に場所を移し、再び集っていた。 
 「HM-16の主な機能を説明したるわ。まず、データリンクシステムやな。」と、珊瑚。

 HMX-13セリオから実装され始めたデータリンクシステムは、熟成を重ねられ、リオンでとうとう完成段階に達していた。
 この機能が、HM-16の販売好調の一因にもなっている。

 「HM-16のオーナークラブがあってな、そのネットワークに加入すれば、それぞれのご家庭の料理のレシピや耳寄りな
情報とか、ネットワーク内のリオン達で情報共有出来るんや。  
 他にもいろんなこと、出来るんやで~。複数のHM-16で、分散コンピューティングみたいな使い方も出来るんや。」
と、珊瑚。
 例えば・・・・と、実例を示そうとする珊瑚。「いっちゃん、りっちゃん、これから、みんなに昼食振舞ってや~。」
 メイドロボ二人にリクエストを出す。環と雄二が来ているから、向坂家の食事、作ってや、と。

 イルファは、向坂家にメイド修行に来ていた時に、環からそのレシピを伝授されている。しかし、リナは・・・・・
 「いっちゃん、りっちゃんがデータ受け取れるように、ネットワーク繋いでみてな~。」
 「はい、珊瑚様。」
 イルファのイヤーバイザーから伸びているフィンが、パチンと動き、傾斜を上げた。
 あっ、と、思わず小さく声を上げた貴明と雄二。
 「HMX-17でも、HM-16のネットワークは勿論利用可能や。」珊瑚が言った。
 ほとんど間を置かず、リナのイヤーバイザーのフィンも、同じようにパチリと上を向いた。
 "どや、りっちゃん?"と、珊瑚。「はい、レシピの習得、完了いたしました。」

88:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(11/23)
08/07/13 00:38:59 dxqpIMad0
  
 リナが手掛けた料理が、イルファよりやや先に出来上がる。
 昼食に箸を通した一同。
 「お、スゲェ!これ、姉貴が作る食事と、ほとんど変らねぇよっ!」
 驚嘆の声を上げる雄二。
 「へぇ、これ、私がイルファに教えたのと同じものじゃない。便利なものねぇ。」
 環も弟に賛同する。
 「とりあえず、付け焼刃ですが、お役に立てれば幸いです。」と、リナ。

 やや遅れて、イルファの料理も完成した。
 「私の方も出来ました。よろしければ、どうぞ。」
 こちらにも一同が箸を通したが、んっ?と、皆が違和感に気付く。
 「そっくり同じでは芸がないと思ったので、瑠璃様の料理のテイストを加味してみたんですが、どうでしょう?」
 う~ん、ウチは、この方が好みやな、と、瑠璃。
 環も、これは、自分が教えたそのものではなくて、イルファのオリジナリティが加わってていいわね、と評する。
 貴明は、正直、いつもの環の料理とは違う味があって、イルファの料理の方が美味い、とはっきり感じていた。
 
 「まぁ、いっちゃんは“だいこんいんげんあきてんじゃー”やからなぁ。色々試行錯誤して、創意工夫出来るのが強みや。」
と、珊瑚が言った。
 「リナの機能は確かに便利やが、そのままやとコピーやもんな。ミルファの料理の上達は亀の歩みやけど、確かに創意
工夫の跡は感じるわ。美味い不味いは別にしてなー。」 と、瑠璃。
 「うぅ~、瑠璃ちゃん、ひどいよ~。」ミルファがふくれる。

89:名無しさんだよもん
08/07/13 00:39:08 PKU0cdi60
支援

90:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(12/23)
08/07/13 00:40:54 dxqpIMad0
 
 最初は気を良くしていたように見えたリナであったが、イルファの料理への賛辞を聞くと、だんだん、表情が翳ってくる。
 そして、ふくれ顔で、突如、イルファをビッと指差して、言った。
 「イルファさん!これで勝ったと思わないで下さい!」

 えっ?・・・・と、リナのその挙動に、一瞬、呆気に取られた一同。
 「お、リナちゃん、負けず嫌いじゃん。」と、雄二が感心したようなコメントをする。
 "どこかで聞いたようなセリフだな"・・・・などとと思っている、貴明。

 一方、珊瑚と、イルファは、ますます、疑念を濃くしていた。 
 このHM-16は、やはり、普通と違う・・・・ 。
 もしかして、この娘は―― 。

91:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(13/23)
08/07/13 00:43:04 dxqpIMad0
 
 自宅で会えないのなら、せめて、学校の昼食時にでも・・・・と、雄二は弁当を学校に持って来てくれるよう、リナに頼んだ。
 環は面倒な事になるのを警戒して反対したが、雄二は頑として聞かなかった。

 「はい、ダーリン、あ~ん♪」
 「さぁ、ご主人様、どうぞ、召し上がれ♪」
 HMX-17bミルファとHM-16リナ、2体のメイドロボが、それぞれのご主人様に箸でつまんだ出し巻き玉子を差し出すと、
河野貴明と向坂雄二、2人のメイドロボのご主人様は、それにほぼ同時にパクついた。

 「うん、今日もおいしいよ」
 「う、うっめぇ~っ!うめぇよリナちゃん!」
 雄二は感動のあまり、涙を流している。
 弁当の味そのものよりも、ついに実現したこのシチュエーションに、感極まった観がある。 
 「あ~っ!もうずるいずるいずるい!タカくんもユウくんも!やっぱりこのみもメイドロボになるぅ~っ!」
 「でも・・・雄二、いいの?この子、学校に連れて来ちゃって・・・"オリジナル"に見られたら、うるさいんじゃないかしら」
 環がやや呆れ顔で、雄二を横目で見ながら言った。
 "オリジナル"とは、勿論、由真のことだ。
 「うっさいな姉貴!オリジナルってなんだよ!?リナちゃんは世界でただ一人の、俺だけのメイドロボちゃん!それ以上
のオリジナルがあるんかよ!」

 地球温暖化の影響なのか、今日も陽気に満ちた晩秋の昼食時。
 校舎の屋上では、いつもの5人に、新顔のリナを加えた6人が、和気合々と弁当箱を広げていた。 

 ― しかし、そんな和やかムードは、突如として、破られる。

92:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(14/23)
08/07/13 00:44:53 dxqpIMad0
 
 ― バンッ!と、階段室のドアが乱暴に開いた。
 「向坂雄二っ!!河野貴明っ!!」
 そう叫びながら、ドアの内側から現れ、ズカズカと歩んできた女生徒は・・・・
 ―― 長瀬由真!

 あっ!・・・・・、と、一斉に、彼女を注視する、6人。
 「あんたたちっ!どーいう嫌がらせっ!?あたしがメイドロボの格好で、雄二とひっついてるって、訳のわかんない噂
聞いたもんだから、来てみれば・・・・・」

 そう言って、視線をリナに向け、ビッと右手で指差す。額に青筋を立てて睨みながら、ワナワナと震え出した。
 「何よ、こいつはっ!新手の羞恥プレイのつもりっ!?どんだけ手の込んだ嫌がらせよっ!源五郎さんに、こんな奴
作らせてっ!!」

 リナも唖然とした表情で、由真を見つめている。
 自分そっくりの少女の出現に、驚いている・・・・ように貴明には見えた。
 ・・・・しかし、"普通のメイドロボ"も、こういう反応を示すものだろうか?
 「おじいちゃんに言って、源五郎さんは問い詰めてやるとして・・・・まずは、お前らよっ!!覚悟っっ!!!」 
 タタタッと、雄二に走り寄る由真。
 「死ねッ!!」
 ぶわっと、右足廻し蹴りが、雄二に向かって一閃する。
 ひっと、手をかざして目を伏せ顔をそむけた雄二。
  バシッ!!

 ― しかし・・・・ 
 それを、受けとめた手があった。
 ―― リナである。

93:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(15/23)
08/07/13 00:46:52 dxqpIMad0
 
 「ご主人様に危害を加える事は、許しません!全力で阻止します!」
 右手で由真の足を掴みながら、リナが言った。
 派手に足が跳ね上げられているので、由真のスカートの中の、ブルマが丸見えである。

 「おい由真、お前、スカート全開で、恥ずかしくないか?」
 やや赤面しつつ雄二が言うと、由真の顔もカーッと赤らんだ。
 「うっ、うるさいっっ!!どうせブルマだもんっ!!こん畜生ーっ!このっ、手ぇ離せメイドロボッ!!」
 髪の色こそ違え、ここまでそっくりの少女二人が対峙する様は、ある意味壮観である。
 「― もお、やだったらぁっ!離してよォっ!!」
 真っ赤な顔で半ベソかきながら由真が訴えると、リナはハッとなって、その手を外す。
 ロボット三原則では、人間に危害を加える事は許されないのだった。明らかに、由真は赤っ恥をかいて、傷ついた・・・
・・・ように見える。

 割とフェミニスト(死語)だったりする雄二は、このままでは由真もリナも無事じゃいられないと思い、その場をパッと離れ、
逃走を始めた。
 「あっおい、雄二っ!」
 叫ぶ貴明。
 「逃がすかっ!」 頭から湯気を立たせた由真は、なおも雄二を追いかける。

94:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(16/23)
08/07/13 00:48:44 dxqpIMad0
 
 「やめろっ!俺は、女に暴力振るう趣味はねぇっ!」と、屋上を逃げ惑う雄二。
 「うっさいっ!あんたは、おとなしく天誅を受けろっ!!」と、由真。

 追い詰められた雄二は、金網によじ登っていった。
 「やい由真、ここまで来てみろよ。」からかうように言う雄二。
 「くぅ~っ!卑怯者!見てろっ!」と、スカートなのも省みず追いかけて登っていこうとする由真。
 マジかよ、と、驚いた雄二だったが、その時、金網を掴んでいた手が滑り、体が後ろに倒れこんでいく。
 勿論、倒れこんでいく先は、宙で、その先は― 地上である。
 「えっ!?あっあっあっ~っ!!!」 叫ぶ雄二。
 「あっ!?きゃぁあああ!!雄二~~っ!!」 思わず、青い顔になり大声で悲鳴を上げる環。
 「ちょ、ちょっとお~~っ!?きゃぁ~~っ!!」 由真も、全身の血の気が引きつつ悲鳴を上げる。
 「ゆーじ君っ!?あぶないっ!!」 慌てて、落下を阻止しようと雄二に駆け寄っていくミルファ。

 ガシッ!
 ・・・・と、雄二の体がほぼ水平に倒れこんだところで、背中を受けとめる手があった。
 素早くジャンプして、金網の後ろ側に張り付いていたリナであった。
 リナは、雄二の背中をグンッと金網に押し戻すと、その襟を掴んで引っ張り上げる。
 そのまま持ち上げて、金網から雄二と一緒に屋上に降り立った。

95:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(17/23)
08/07/13 00:50:52 dxqpIMad0
 
 「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・あ、ありがとう、リナちゃん・・・・」
 雄二は、放心状態に近く、屋上に虚ろな目でへたり込んでいる。
 「ご主人様ぁ~~!ご無事で、良かったですぅ~~っ!!」
 表情いっぱいに安堵を見せながら、ヒシッと雄二を抱きしめるリナ。

 それを見つめながら、貴明は思った。
 "・・・・どう見ても、リナちゃんには感情があるようにしか見えない。販売品のメイドロボでも、みんな、こうなのか?"

 ― ふと脇を見ると、ミルファが、頭を抱えて、視線の定まらない様子で立ち尽くしている。
 「ど、どうしたの、ミルファちゃん!?・・・・どこか、調子が悪いの?頭でも痛いの?」
 事故の後遺症かと、気が気でなくなり、ミルファの肩に手を掛ける貴明。
 「だ、大丈夫、ダーリン・・・・ちょっと、変な気分になっただけ・・・・」

 "・・・・何だろう、この感じ・・・?こういうの、既視感って、いうのかな・・・・?"

96:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(18/23)
08/07/13 00:53:05 dxqpIMad0
 
 ―― あくる日の放課後、来栖川エレクトロニクスの、ロボット研究所にやって来た、貴明と姫百合珊瑚。
 受付で名乗った後、応接間に通される二人。
 「ウチはIDカード持ってるけど、貴明はまだ作ってもらってへんよね?ちょっと待ってな、おっちゃん呼んだから。」
 10分程待たされると、応接間に、白い研究衣姿の、眼鏡をかけた、やや細面の中年紳士が入ってくる。
 貴明が会うのは、由真のMTBの件以来だ。
 HM開発室長、長瀬源五郎氏が言った。「やぁ来たね、河野少年、珊瑚君。」

97:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(19/23)
08/07/13 00:54:14 dxqpIMad0
 
 「粗茶れす。」
 応接間のテーブルに、HM-16型のメイドロボが、お盆から3人分のお茶を下ろして並べた。
 「それれは、失礼します。」 そして、おじぎをして応接間から出て行く。
 「―気付いたかね?あの娘も、シルファと同じで、"だ"行の発音がうまく出来ないんだよ。無理に直さず、そのままに
してあるんだ。珊瑚君、どうなんだろうね?構造的に、発声しにくいのかね?人間に似せ過ぎたんだろうか。改善の余地
があるのかな。」

 「うーん、しっちゃんの場合は、単に意地っ張りなだけやと思うけど・・・・・それより、おっちゃん、今日来たんは―」
 うん、うん、と、長瀬氏がにこにこしながらひとりで頷いた。
 「わかってるよ、河野君の家に届いた、モニタテスト用のリオンの件だろ?」

 珊瑚が感じた違和感。貴明が感じた雰囲気。
 そして、イルファの確信。"あの娘のAIは、私達と同じものだと思います。"
 その疑問を長瀬氏に話した珊瑚。
 「やはり、分かっちゃったかい?いや、気付くだろうな、もちろん。」
 ふふっ、と、長瀬氏は、微苦笑してから、言った。
 「彼女は、制限型DIAの、評価実験機なんだ。」 
 やっぱり、と、顔を見合わせる貴明と珊瑚。

98:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(20/23)
08/07/13 00:57:20 6AAF8ykA0
 
 「あいつの制限型DIAの方は、僕と東吾君で弄らせて貰ったよ。黙ってて悪いね珊瑚君。君の方はもっと自由にやって
欲しいから、あえて手伝いを頼まなかったんだ。」

 「自由?」 珊瑚が訊ねる。
 「人の心を再現する仕組みとしては、もうDIAは完成してると思う。後は、どうやって、安定して動作を続けさせるか、だけ、
なんだよ。人間だって不安定にはなる。けど、ロボットではそれは許されない。 
 今は、ミルファとシルファのケーススタディがある。制限をかけない、自由な領域で、君の方は探求を続けて欲しいね。」

 そう話して、珊瑚から貴明の方へ視線を移す長瀬氏。
 「例の“ヘタレ力研究所”で採取したデータは、その役に立てると思う。珊瑚君の研究に、貸してやってもいいかな?」
 わかりました、と、貴明。"ヘタレ"と言う表現はムカつくが、そういう目的なのなら、まぁいいだろう、と。

 「制限型の方は、ずっと簡単だ。安定させるための仕組みが既に備わってるからね。まず、三原則だ。"人を傷つけない、
傷つけさせない"、"命令には必ず従う"、そして、"自分を傷つけない"。
 それに、心を寄せる相手、親ないし伴侶に当たる"ご主人様"、それがDIAを安定させるキーだと思うが、一般販売機へ
の導入が前提なら、マスターが最初からいるんだ。」

99:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(21/23)
08/07/13 00:59:14 6AAF8ykA0
 
 「おっちゃん、DIA搭載機を、売るん?」
 「HM-18、早ければHM-17からでも組み込みたいと思ってる。HM-18を操り人形みたいな仕様にしようとした、本社
への意趣返しかな。営業部長は、これは間違いなく売れる、と、太鼓判だったよ。ははは。」

 そう笑った後、長瀬氏の表情が、一転、曇る。
 「本社を見返してやりたくて、少々無理をしてしまった。不安定なのを承知で、ミルファを自由にさせすぎた。そのせいで、
あの子に、取り返しのつかない傷を与えてしまった・・・・・僕のせいだ。でも、そういう行動に駆り立てた本社に、この程度
の仕返しは、させて貰ってもいいと思わないかい?」

 ああ・・・・この人も、珊瑚同様、彼女達を研究対象ではない、自分の娘のように語っているな、と、心を打たれた貴明。
 前回会った時は、ここまで腹を打ち明けず、もっと、事務的な話しかしなかったのだ。
 
 「すいません、もう一つ、聞きたいんですが。」と、貴明。
 何かな、と、膝の上で手を組んで、質問を待つ長瀬氏。
 「あのリオン・・・・雄二が、"リナ"と、名付けたんですけど、その、僕の知り合いの娘に、そっくりなんです。」
 ああ、ああ、そのことね、と、また長瀬氏が微笑をうかべた。
 「HMのデザインには、たいがい、モデルがいるんだけど、何しろ、個人情報だの肖像権だの色々面倒でね・・・・。
 彼女は、販売前のデザイン検討用の機体を借りたんだけど、実は、手っ取り早いところで、親戚の娘の容姿を参考に
させてもらってたんだ。そうそう、河野君、君が壊しちゃったMTBの持ち主だったかな、確か。ははは。」

100:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(22/23)
08/07/13 01:01:00 6AAF8ykA0
  ― 何て安直な、と、呆れてしまう貴明。
 顔だけじゃなくて、性格も、かなり似てるんですけど・・・・負けず嫌いなところとか、いろんなところが。
 「うん、パーソナリティーも、若干、参考にしたさ。」  ― 聞いて、思わずこけそうになる貴明。

 「おっちゃん、一つだけ、言わしてもらっていい?」 珊瑚が、真剣な顔で長瀬氏を見つめて言った。
 「何かな?」
 「DIA搭載機を売るって事は、"心"を持った存在を、売り買いするって事や。たとえ、制限ついててもな。
 だから、簡単に、その子達の記憶とか、心を削るようなことは、ウチ、して欲しくない。
 おっちゃん、ミルファの記憶が消えた時、悲しかったやろ?販売機では、そんなの、日常的に行われてるんやって?
これから、"心"を持ってても、そないな事される子達が、いっぱい出てくるの?」

 う~ん、と、長瀬氏は、腕を組んで目を伏せ、考え込んでしまった。
 「問題は、そこなんだよな、確かに・・・・・」
 そして、言った。
 「それにどう対応するか、最初のケースになるな、あの子は・・・・彼女のご主人様登録は、期間限定なんだ。」

101:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(23/23)
08/07/13 01:03:23 6AAF8ykA0
  
 「・・・・おっちゃん、嘘ついてるわ、多分。」
 バスを降りて、すでに街灯の灯り始めた道を姫百合家へ向かって歩を進めていた途中、ふいに立ち止って、珊瑚が
つぶやいた。

 「えっ?どういうこと、珊瑚ちゃん?」
 「三原則とDIAを組み合わせんの、そんな簡単や事やない。それどころか、ぎょーさん、矛盾が出てくる筈なんや。
辛い事、悲しい事、意に沿わん事でも、飲まなきゃならんケース、当然出てくる。そのガス抜き、うまく出来へんと、
その子の心、間違いなく、壊れてしまうんよ。」

 そう言って、表情を暗くする。
 「きっと、ウチに見せたくないもんがあるから、おっちゃんだけで手掛けたんやと思う、りっちゃんのDIAは。」 

 「ダーリン!さんちゃん!」
 マンションのエントランスには、私服姿のミルファが待ち受けていた。
 貴明と珊瑚、続けざまに抱きつきながら言う。
 「遅かったね、遅かったね!さ、ダーリン、帰ろう。さんちゃん、瑠璃ちゃんとお姉ちゃんが、夕食作って待ってるよ。」
 「ミルファちゃん、雄二とリナさんは?」 訊ねる貴明。
 「うん、いるよ勿論。なんかいちゃいちゃしてる☆」
 貴明の腕を取り、ミルファは、河野家の方向へ、貴明を引っ張っていた。

102:名無しさんだよもん
08/07/13 01:03:38 h4wxXulM0
あげ

103:101
08/07/13 01:06:17 6AAF8ykA0
 (つづく)

 と、いうわけで、終了です。
 当初は、パイズリネタで、思いっきり脳天気で明るい内容にしたいと目論んでました。
 しかし、“イブ”が、どうにも不満足な形で駆け足で終えざるを得なかったので、ついつい、その補完のお話に
変質してしまったものです。

 ちと色気が足りないと思ったんで、由真のブルマ分を入れてみました。
 由真のブルマは最高っす。

 どうやら長編化しそうなので、まぁ気長に行くつもりです。
 では。

104:名無しさんだよもん
08/07/13 08:00:59 rmwqxUBb0
GJ


105:名無しさんだよもん
08/07/13 08:53:49 nc3nPWfz0
乙~
顔見知りと同じ顔だと俺なら照れるか萎えるが、そこは流石に雄二だなw 

19でだ行の発音ができないと言われつつ11,12では……
とか突っ込もうと思ったらリオンじゃなくてお茶出しメイドロボの話だったw
オリジナル設定が多いSSだけど、回を重ねるごとに読みやすくなってきてるね。この調子で続きも期待してます

106:名無しさんだよもん
08/07/13 12:45:15 Qy0icM7n0
誤解の無い様に言っておくけどシルファはダ行の発音全てが出来ない訳じゃないよね
変換されるのはda→ra/de→re/do→roの3つとちみっコだけ

シルファ語ブックマークレット
URLリンク(www.anime.net)

ただし漢字の中のda/de/doも変換しないといけないからややこしい(例)問題→問らい
アンソロとかでコレを避ける為にわざわざルビ振ってるのに間違ってるのとか多いな


107:名無しさんだよもん
08/07/14 09:34:09 1bPMPHxKO
面白かった&乙

とりあえずリオン(リナと言うべきか?)の正体が由真でなくて安心したw
ミルファの記憶、量産型DIAの秘密と気になるコトが増えてきて、続きが気になって仕方ないよー。
今後も期待してるっす。

108:101
08/07/15 15:50:25 Pf6Yxtj50
 
 ミ「シルファと仲直りしたくおもうのだ。どうかな?」
 イ「ミルファ様、ご立派になられて。戦争終結は亡き貴明様の十数年に及ぶ願いでした。私に涙腺があれば泣いて
おります。」
 ミ「私の名前はミルファ。来栖川エレクトロニクスのミルファよ。」
 イ「流石でございます。」
 ミ「さっそくシルファとの話し合いの場を用意して頂戴。」
 イ「流石でございます。すでにシルファ語まで学ばれましたか」
 ミ「なに?」
 イ「シルファ語です。我々とは言語体系がいささか異なりますので。」
 ミ「初耳ね。」
 イ「シルファは我々ほど論理的ではございませんので。」
 ミ「野蛮ね。」
 イ「亡き貴明様の残された書物に、シルファの会話サンプルがまとめられています。第一章“挨拶”」
 ミ「挨拶は大事よね。」
 イ「べーらっ!」
  ― ガンッ!―
 イ「いかがなされましたか?」
 ミ「微妙にムカッ腹が立ったわ」

 どうも。すっかり『ファイアボール』のツンデレお嬢ロボがツボにはまってしまった101です。
 という訳で普通のロボ第四話投下です。
 長いので前・中・後に分割。

109:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(前)(1/6)
08/07/15 15:52:27 Pf6Yxtj50
 
 「ただいま~」
 貴明とミルファが河野家に帰って来ると、玄関にシルファが作る夕食の香りがぷんと漂って来た。
 肉じゃがらしい。
 「あっ!ご主人様!・・・・ミルミル!ご主人様を、こんな時間まれ、ろこに引っ張り回したれす!?」
 リビングに入るなり、シルファがミルファに突っかかる。 
 「来栖川の研究所。さんちゃんと一緒に、長瀬おじさんのとこ」 ミルファが言った。
 「あたしはさんちゃんとこで留守番。ダーリンは大事な用があって行ったんだから。なんでいっつもそう邪推すんのよ!?」
 「エロエロなミルミルの行ろうなんて、信用れきないのれす」 そう言うと、びっとミルファを指差すシルファ。
 「ご主人様のセックスフレンろになったからと言って、その心まれ勝ち得たと思ったら、大間違いれす!ご主人様の、至高
のめいろろぼになるゲームは、これかられす!選ばれるのは、たら一人!」

 「それってどんなアリスゲーム?ジャンクのくせに」
 「ぴぎゃーっ!シルファはジャンクじゃないのれすっ!!」
 また昔の再放送アニメとかに影響されてる二人。

 「ま、いいや。ダーリン、どうする?ご飯?お風呂?それとも、あ・た・し?☆」
 などと言いつつ、ミルファは既に貴明の手を取って二階の貴明の部屋へ引っ張り込もうとしている。
 「折角シルファちゃんが夕飯作ってくれたんだし、まず夕食にするよ」
 あ、そ。と、ちょっとふくれっ面を見せるミルファ。

110:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(前)(2/6)
08/07/15 15:54:25 Pf6Yxtj50
 
 ご飯、お風呂、と終え、自室に戻ってきた貴明。
 ブースカ言うシルファをやっとこさなだめつつ、ミルファを伴って。
 いつまでこの状態が続くのかと思うと、うんざりしてしまう貴明だった。
 ミルファは勿論大事、でも、シルファも・・・・

 「ね、ダーリン。あたしね、こないだ・・・・」
 全裸になって、貴明の床に一緒に入っているミルファが囁いてきた。
 「怖い夢、見たよ・・・・ダーリンが、高いところから、落ちちゃう夢。」
 ハッとする貴明。そして、数日前の、屋上での騒動を思い起こした。もしかして、あの時・・・・  
 珊瑚から聞いていた話を思い出す。
 『みっちゃんの半年間の記憶は全滅したわけやない。せやけど、断片的やから、関連付けて思い出せなくなってるんよ』
 何かのキーが得られれば、突発的に思い出す可能性はあるわけだった。
 低い位置にいると、クマ吉当時の視点を思い起こすように。

 「― はるみだよね、これって。そうだよね、ダーリン。」
 うーん、と、答えに詰まってしまう貴明。
 「いいよ、もう。よくわかったから。」 視線を、貴明から天井に移したミルファ。

111:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(前)(3/6)
08/07/15 15:57:28 Pf6Yxtj50
 
 「あたしの中にいた、もう一人のあたし。学校のみんなも、あたしのこと、“はるみん”とか呼んで来るし。もううんざりして、
死んじゃえ!って、思った事もあったけど・・・・」
 また、貴明へと向き直って、言う。
 「あたしの知らないダーリンとの思い出を、いっぱい持ったまま、どっかに消えちゃったのが悔しいと思っただけ。多分。」
 そう言って、貴明にぎゅっとしがみついた。
 「あんな高いところから落ちたら、いくらロボでも、多分、壊れちゃったと思う。それで、記憶が飛んじゃった。違う?」
 厳密には違うが、確かに遠因ではあったので、「うん、まぁ・・・・そうだよ。」と、答えた貴明。
 ― そろそろ、いいだろう、と。
 「でも、ダーリンが危ない目にあったら、あたしだって、飛ぶよ、絶対。何度でも。」
 ・・・・続けるミルファ。
 「― もう、認めちゃっても、いいかなって、思ったんだ。はるみのこと。あたしと同じ、だって。そうしたら、なんかスッキリ
しちゃった」
 そう言って、にこりとする。 
 「もう、はるみに負けないくらい、素敵な思い出、いっぱい貰えたと思うし。それに、これからも・・・・」
 「ミルファちゃん・・・・」
 貴明も、ミルファを抱きしめる。
 「これから、いろいろ教えて欲しいな、はるみのこと・・・・ううん、ついこの前までの、あたしのこと」

112:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(前)(4/6)
08/07/15 15:58:57 Pf6Yxtj50
 
 
 「あ~もう、うんざり!みんなあたしのこと病人扱いで、やたら気を遣って。ま、確かに病人だけどさ。」
 小牧郁乃は、「車イス押してあげるよ」という女生徒達の好意をせいぜい丁重に断った後、人気の無い廊下に着いて
から、ひとりごちた。
 “一度甘えちゃうと、癖になって、誰もいない時に困るもんね。たとえお姉ちゃんでも ―”

 「助けが得られる時くらいは、好意に甘えちゃってもいいと思うけどな。」
 彼女の心の内を見透かすような声がしたので、ひゃっ!?と、びっくりして、背後を振り向いた郁乃。
 声の主は― 河野貴明、だった。
 「あたしに構わないで。」 そう言い捨てて、車イスを進める郁乃。
 ― こいつにだけは、頼りたくない。― 何故か、意地を張ってしまう彼女である。
 「何、あの子?恥ずかしがってるのかな、ね、ダーリン」 貴明の隣にいたミルファが言った。

 この学校はなかなかにバリアフリーが行き届いていて、身障者― 殊に、車イス使用者 ― の受入用に、段差の
ある場所に、スロープが用意されている。
 玄関のスロープに向かって進んでいく郁乃。
 「もう、河野くんがせっかく手伝ってくれるって言ってるんだから、意地張らないでいいのに。あたしが押そうか?」
 また背後から声がした。声の主は・・・・郁乃の姉、愛佳。
 「あーもうっ!うるさいっ!あたしに構わないでってばっ!」
 ムキになって、車イスの移動速度を早め、目を閉じて叫んでしまう郁乃。

113:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(前)(5/6)
08/07/15 16:03:20 eXNwDo7V0
 
 「あっ!ちょっとっ!郁乃、前っ!!」
 愛佳が慌てて叫んだ。
 郁乃の進行方向は、スロープの位置から外れていて、段差部分へズンズン進んでいく。
 「危ないっ!」 と、貴明が叫んだ時には、車イスはガコンッ!!と、派手に落ち込んでいて、横転していく。 
 「きゃあああっっ!!」
 悲鳴を上げた郁乃。

 ― しかし、床に横倒しになるのを覚悟したその直後に、誰かに支えられているのに気がついた。
 ― 支えていたのは、素早く駆け寄ったミルファだった。
 「大丈夫?ちゃんと前見てないと、あぶないよ?」
 「・・・・・あ、ありがと・・・・」 冷や汗をかきながら、震える声で礼を言う郁乃。
 「は、早い・・・・」 今更ながらに、メイドロボの瞬発力に驚く貴明。先日落下しそうになった雄二を受けとめたリナも
そうだったが。

 車イスごと郁乃を軽々と持ち上げ、床に降ろすミルファ。
 "オー、パチパチパチ"、と、丁度その場に居合わせた数人の生徒達から、賞賛の拍手が沸き起こる。
 「えへへへ・・・・」と、頭をかくミルファ。

114:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(前)(6/6)
08/07/15 16:05:00 eXNwDo7V0
  
 「おう、ミルファ、お手柄やったやん。」
 いつの間にか、瑠璃と珊瑚が、貴明の傍らに来ていた。 
 「ウチ、思うんやけどな。メイドロボは、マニアックな人達ばっかりに売れとるそうやないの。けど、ホンマにあの子たち
が必要なのは、こういう人達やないかな。お手伝いさんとしても、友達としてもなー。」 瑠璃が言った。

 その瑠璃の話が聞こえたのか、郁乃が、うつむきながら、呟いた。
 「・・・・あたしには、いらないもん・・・・」
 「えっ?郁乃、何か言った?」 郁乃の顔を覗き込みながら、訊ねる愛佳。
 やや赤面しながら、続ける郁乃。
 「― あたしにはお姉ちゃんがいるもの。メイドロボなんて、いらない・・・・。」

(つづく)

115:114
08/07/15 16:07:17 eXNwDo7V0
今回はこれで終了

いくつか失敗があります。
112で、“昼下がりの、学校にて”と、導入入れるの忘れてます。
113の、“先日”は、“先般”の、間違いです。
失礼をば。
では。

116:名無しさんだよもん
08/07/15 16:10:54 tU5echGJ0


117:名無しさんだよもん
08/07/16 07:07:40 2T5gD5pc0
乙乙。ここで郁乃が絡んでくるのかぁ。話が広がってきたが頑張れ

郁乃に関して、あくまで俺の個人的な意見だが、
愛佳シナリオっぽくない展開で初登場の郁乃が貴明に
「こいつにだけは頼りたくない」はやや唐突な感じがしたかも知れない
あと「お姉ちゃんがいるもの」もそう簡単には出ない台詞な気がした。必殺技だからw

118:名無しさんだよもん
08/07/16 08:17:03 zVO2vIU3O
乙。
確かにいきなりな急展開でちと面食らった。
今回は文章ちと固さがあるし、作者はもしかして方向性にいささかの迷いがある?
なんつーか、場面毎の間が今一つって感じを受けたかな。

ともあれ今後に期待。

119:114
08/07/16 10:12:59 hfS1ikPn0
方向性は既に決まってて、いくのん投下も予定通りですよん
唐突感とか文体の固さは力の無さ故で・・・orz
どの辺固いかご指摘頂ければ有難く。自分で見えてないところが多々あるので
瑠璃の台詞に、方向性が示されてたりします。
ちといろいろ忙しくなるんで、少々間を開けますがご容赦を。

ドロッセルお嬢かわいいよドロッセルお嬢

120:名無しさんだよもん
08/07/16 21:30:05 obMOlzz+0
なんか傷心してるんだけども、
元気が出るSS誰か紹介してくれませんか。

121:119
08/07/17 19:59:58 kYwnvhyt0
失礼します。
しばらく間を空けることになりそうなんで、ここらでもう一丁、落としておきます。

122:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(1/12)
08/07/17 20:02:13 kYwnvhyt0
 
 ― "最近、いいんちょ、かなり疲れてる感じなんだよな・・・・"―
 そんな事を思いながら、貴明は、放課後、図書室へと足を向ける。
 奥の書棚の方へ行くと・・・・やっぱり、居た。

 「あ、河野くん、どうしたの?」
 貴明の気配に気付いた、小牧愛佳。
出しかけていた本をまた書棚に収めながら、貴明に声を掛けた。
 「うん・・・・いや、なんか最近、小牧さん、元気なさそうだったから、つい・・・・」
 頭をかきながら言う貴明。
 「えぇ~?そんなことないよ~、あははは~・・・・」と、力なく笑う愛佳。明らかに、カラ元気っぽい。
 「色々、大変なんじゃないかなと思って。郁乃ちゃんの事もあるし・・・・俺、なんか、手伝える事ない?」
 「ほんと、大丈夫だってぇ!・・・・・そんな、深刻そうな顔してるのかな、あたし・・・・。」
 そう言ってから、はぁーっと溜息をつく愛佳。
 いろいろと抱え込みやすい気質もあるのだろうが、やはり、家庭の問題が大きいのだろうと貴明は想像した。 

123:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(2/12)
08/07/17 20:03:41 kYwnvhyt0
 
 「えっと・・・・郁乃ちゃんの足、まだ、時間かかりそうなのかな・・・・・?」
 聞いていていいものか迷っていたが、思い切って訊ねてみた貴明。
 「うん、本当は、夏前に、思い切った手術、する筈だったんだけど・・・・主治医の先生が、もう少し、様子見ようって。」
 そう話す愛佳の様子は、やはり寂しげに見える。

 「もう少しって、どのくらい?」 これも訊いて見た貴明。
 「あと3ヶ月ないし、最長で半年くらいだって・・・・。」 一段と、寂しげな色を見せつつ愛佳が答える。
 "半年かぁ・・・・短いようで、結構、長いよな・・・・もう年を跨いじゃうしな・・・・。"などと思う貴明。
 「あのね、郁乃、最近、妙にあたしに優しいんだよね。ちょっと前まで、毒舌ばっかりだったのにぃ。あはははは。」
 そう苦笑いする愛佳を見ながら、それは、多分、姉の疲れた様子を見て、気を遣っているのだろうと想像した貴明
だった。

124:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(3/12)
08/07/17 20:05:29 kYwnvhyt0
 
  
 「― へっくしっ!」
 廊下を車イスで進みながら、突然、くしゃみをする郁乃。
 “うう・・・・どうせ、姉とか、あいつ辺りが、あたしの噂でもしてんだろ・・・・”と、ひとりごちる。
 あいつ―― 河野貴明。
 姉は、あいつの話ばかりしていた。そんな姉をからかうのが、あたしの気晴らしの一つでもあった。
 事故に遭っちゃったクラスメートのメイドロボのところに日参するあいつの話をして、あたしも応援してるんだ、と言い
ながらも、とても寂しげな姉の様子が、いまだに忘れられない。
 姉の元気が急に消え失せていったのも、それからだ。
 そんな、姉の気持ちにも気付かずに、いまだに、姉や、あたしに馴れ馴れしく声を掛けてくるあいつ。
 ―― ふざけるなっ!
 あいつの手なんか、意地でも借りるものか。 
 ・・・・メイドロボがいれば、便利?― 冗談じゃないわっ!?

125:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(4/12)
08/07/17 20:08:02 kYwnvhyt0
 
 ― 再び、図書室にて。

 「そんな、大丈夫だから」と、固辞していた愛佳を押し切って、書庫の整理の手伝いを始めた貴明だったが、別な人影
が、図書室の入口から近付いてくるのに気付いた。
 ― 環だった。
 「タカ坊、暇なんだったら、生徒会に顔出さない?しばらくご無沙汰だったでしょう。」
 ミルファの事故の件以来、欠席が続いていたから、生徒会には顔を出し辛くなっていた貴明である。
 環が言った。
 「例の件―― そろそろ、決着つけないといけないんじゃない、タカ坊?あの妖怪と。」

126:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(5/12)
08/07/17 20:10:06 ULsJ/hWt0
 
 ―――

 “『まーりゃん』って、知ってるかい?
 昔、学園で粋に暴れまわってたって言うぜ・・・
 今や生徒会は荒れ放題、
 ボヤボヤしていると、後ろからばっさりだ!
 どっちも どっちも どっちも どっちも!”

―――
 「― と、いうわけで、たかりゃんの椅子は、ばっさり切り捨てたぞい。とっとと帰るがいいわ。」
 生徒会室の最奥の席でふんぞり返りながら、ピンク髪の年齢不詳な"元"生徒会長が吐き捨てた。
 「そんなぁ、先輩!― あ、河野さん、お願いですから怒らないで下さい。」と、おろおろしながら言うのは、アメリカ留学
から無理矢理連れ戻されてから、結局生徒会室に居ついてしまった、前生徒会長の久寿川ささら。
 「何ですって!どういう横暴よそれっ!そもそも、先輩にどんな権限があるんですかっ!?」
 まーりゃんに詰め寄る"現"生徒会長の環。

「うっせぇーよ!空っぽの筈の生徒会の金庫を、誰が満たしてやってると思ってんだよ!この俺の、裏資金のお陰じゃん
かよっ!!」
 ぐぅぅ・・・・・と、まーりゃんを睨みつけながら、奥歯を噛み締める環。
 ― 金庫を空っぽにしたのは、元をただせば学園祭でのまーりゃんの浪費が原因であったのだが。

127:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(6/12)
08/07/17 20:12:38 ULsJ/hWt0
 
 「もう俺様の玩具にならんたかりゃんなんぞ、もはや価値はないんだよっ!だから、その椅子は、俺様のマイ・ビジネス
パートナーの、ひつじさんに、くれたやった☆」
 かつて貴明の定位置になっていた席には、まーりゃんがパートナーと呼ぶ、どう見ても子ヤギの“ひつじさん”が、鎮座
していた。
 “メェェェェ~~~。” ひつじさんが、鳴く。
 「だいたいだな、この学園の最大イベントたる学園祭にも参加せず、今頃のこのこ現れおって。」
 シーシーと、ふてぶてしく爪楊枝で歯をこするまーりゃん。
 貴明が学園祭の主催に参加出来なかったのは、記憶を失ったミルファのところに日参していたからで、そもそも、彼女を
早く学校に連れ戻して来て、と、皆から後押しされていたような状態だったから、それは公認の下である。

 「ちょっとぉ~、あんた、何様よぉ~~っ!」
 貴明に寄り添っていたミルファが、ズイッとまーりゃんに歩み寄る。
 「あなたは下がってなさい。」制止する環。
 「ううんっ!ダーリンをいじめる奴は、許さないんだからっ!!」 環の制止を無視するミルファ。

 フフン、と、不敵な笑みを浮かべるまーりゃん。
 「おや、お前は、俺様の大切な玩具たかりゃんを盗んだ、泥棒ロボの、愛人28号・はるみんではないか。」
 “泥棒ロボですってぇ~っ!!” 今にもまーりゃんに掴みかからんとするミルファ。
 「くっくっく、お前の弱点は、この俺様の情報網で、調査済みだ ―― これだっ!!」

128:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(7/12)
08/07/17 20:15:13 ULsJ/hWt0
 
 バッと、どこから引っ張り出して来たのか、まーりゃんがマントを翻すと、そこから現れたのは・・・・・
 ― 数匹の、ひつじさん(子ヤギ)であった。
 ひつじさん達が、ミルファの周囲に擦り寄っていく。
 「わぁ~~っ!・・・・あったかいねっ!あったかいねっ!」
 ― ひつじさん達を抱きかかえて、頬を摺り寄せるミルファ。
 ・・・・その様子を見て、ダメだこりゃ、と、思わず頭を抱えてしまう環達。

 「別にいいですよ俺は。好きでやってたんじゃないし。」 貴明が言った。
 「タカくん!」 このみが叫ぶ。
 「でも先輩、一つだけ、教えて下さい・・・・・1年生の女生徒達をけしかけて、ミルファの悪口言わせたり、珊瑚ちゃん達
に詰め寄らしたりしたのは、先輩ですか・・・・?」 まーりゃんに訊ねる貴明。
 「ふむ・・・・」と、顎に手をやり、考え込んでいるまーりゃん。
 そして、言った。「そーいえば、そんな仕掛けをしたよ~な。ちょっと、修羅場分が足りんと思ってな。"暇"だから。」
― キラ~ン!と、環の目が光る。
 「そうですか・・・・単にいたずら好きなだけだと思って、今まで大目に見てましたが・・・・・そんな卑劣な事をするなんて。」
 スッと、まーりゃんに相対する、環。
 「ほう・・・・・タマちゃん、無謀にも、この俺様に、下克上しようって、いうのかい?・・・・面白い。かかってきなさいっ!」
 腕を組んで、ほくそ笑むまーりゃん。

 ― 一旦、目を閉じ、そして、また見開いた環。
 「あなたたちっ!やっておしまいなさいっ!!」


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