ToHeart2 SS専用スレ 25at LEAF
ToHeart2 SS専用スレ 25 - 暇つぶし2ch50:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(17/27)
08/07/06 17:08:28 85Hx7U+f0
 
「で、何しに来たんや、貴明?」
瑠璃に尋ねられて、貴明は、昨日の、イルファとの会話の事を二人に話した。
「うわぁ~、イルファ、だんだんえげつない策士になってくわ。貴明のせいやーっ!」 罵る瑠璃。
「せやけど、もともと、愛と本能のままに赴く、いけないメイドロボやったもん、いっちゃんは~。」 と、珊瑚。
ポリポリと頭をかき、苦笑しながら貴明が言った。
「・・・・でさ、俺が言うよりも、珊瑚ちゃん達から誘って貰った方が、真実味あるかなって。ホントの事言っちゃうと、“お前のらっきー☆ぱらだいすは、いつ崩壊するんだーっ!!”とか、キレて臍曲げちゃいそうだし。」

「おもろいな~、それ。うん、ウチ、乗った~♪」と、珊瑚が両手を上にかざして言った。

「ところで、貴明、ミルファはどないした?」 瑠璃が訊いて来る。
「あ~、今、職員室。先日の数学に続いて、英語の小テストも壊滅でね・・・・。」

51:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(18/27)
08/07/06 17:10:26 85Hx7U+f0
 
―― 放課後の教室には、まだ雄二の姿があった。
半ば放心状態で、机に向かい、黄昏ている。
手にした英語の小テストの答案には、大きく、“9点”と、書きなぐってあった。
ミルファよりはマシだったとはいえ、堂々たる赤点である。
― くそぉ~っ。こんなの姉貴に見られたら、もう当分、外出禁止喰らっちまう・・・・。
帰るに帰れなかった。

「よぉ雄二。ま、元気だせよ。いつものことじゃんかよ。」
クラスの悪友達が、雄二に慰めの声をかける。
「それより、さ、こいつ、どう思う?」
男子生徒の一人が、雄二に、とある雑誌のページを開いて見せた。
軍事関係の情報誌である。
そこに書かれていた記事は、米国が極秘裏にイスラエルに貸与し、中東の紛争地域に駆り出しiた最新鋭の軍用アンドロイドが、たった1体で、テロ支援国家の戦車50両を破壊する大戦果を上げた、というものだった。

52:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(19/27)
08/07/06 17:12:54 85Hx7U+f0
 
“メイトリックス”というコードネームで呼ばれるその軍用アンドロイドは、携行可能なありとあらゆる兵器を使いこなし、敏捷な運動性能を誇り、エシュロンのデータにすらアクセス出来るという。

屈強そうな白人男性の写真が載せられていた。勿論、想像図である。

「問題はさ、どうやって、ロボ三原則をクリアしてるかだよな。」
「無論、適用されてないんだよ。ジュネーブ条約違反もいいところ、真っ黒けだな。」
「でも、公式には、ちゃんと守ってるって強弁してるそうだけど、米軍は」
「日本に寄航する原潜に、核兵器積んでませんってのと同じような理屈だよな、ははは」
「それよりさ~、雄二、どう思うよ?メイドロボ博士としてはよ」
ん?と、訊いて来た男生徒を見上げる雄二。
「我らが来栖川が誇るメイドロボちゃんズと、どっちが優秀なんかね。」
勿論、量産機ではなく、イルファ達三姉妹の事を指しているのは明らかだった。
国家予算を投入して作られた戦闘ロボットと、民生用の販売機体を流用して作られたメイドロボ試作機を比較するのは、単純に身体機能などを問うのならそもそも無理のある話ではあったが。

何より、イルファ達の開発コンセプトは、心身共に、“どれだけ人間に近付けるか?”にあるのだから。

53:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(20/27)
08/07/06 17:15:48 85Hx7U+f0
― ガッ!
雄二は、その雑誌を奪い取ると、“フンッ!!”と唸り、ビリリッと引き裂いてしまった。
「うわっ!ゆーじ、何すんだよっ!!」
文句を言ってきたその雑誌の持ち主だった男生徒を、ギロリと睨み、雄二が啖呵を切った。
「うるせぇっ!愛と平和と萌えの化身たるメイドロボちゃんズと、こんな人殺しロボを比較するなんぞ、虫唾が走るわっ!!」

どうやら雄二の逆鱗に触れてしまったらしく、フー、フーと唸る彼を前にして、男生徒達はすくんでしまった。

「でもな~、その子も、好きで軍用ロボに生まれたんとちゃうんよ。みんな、人間の勝手やもん。」
関西弁の女の子の声が聞こえたので、彼らが入り口の方を向くと、おだんご頭の下級生の双子姉妹が入って来たところだった。

メイドロボちゃんズを作った“神”の降臨に、途端に居心地の悪さを感じた男生徒達は、雄二を残して、そそくさと立ち去ってしまった。

「お、珊瑚ちゃん瑠璃ちゃん、珍しいな、どうしたんだよ?」
姫百合姉妹がわざわざこの教室に現れたのは、雄二には意外だった。

54:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(21/27)
08/07/06 17:17:57 85Hx7U+f0
「ゆーじ兄ちゃん、今度の土曜、予定入ってへん?」 珊瑚が言った。
「う~ん、暇っていやぁ暇だけど・・・・」
雄二は手元の小テストをチラリと見た。
もし、外出を伴うお誘いだったら、これをタマ姉に見られたら、まずアウト。
それにしても、姫百合姉妹の方から誘ってくるとは、つくづく珍しい。
何だろう、と、訝しむ雄二。
「実はな~、貴明ん家で、土曜日、メイドロボの起動デモ実施するねん。」
― 何っ!メイドロボの、起動デモとなっ!?
がしっと、珊瑚の手を掴む雄二。
「行く行くっ!絶対行くっ!天地逆になっても参上するぜっ!!」
― バシッ!
「あがっ!?」瑠璃が、鞄を雄二の頭に振り下ろした。
「さんちゃんに気安すぅ触んな、ボケッ!」

55:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(22/27)
08/07/06 17:19:30 85Hx7U+f0
つつつ・・・と、頭を押さえながら、珊瑚に尋ねる雄二。
「しっかし、なんで、貴明ん家なんだよ?」
「最近のロットの“リオン”から、簡単な起動プログラム用意してんねん。それのテスト。ついでやから、みっちゃんとしっちゃんにも情操教育や~☆」

雄二は鞄を手にすると、すっくと立ち上がった。
「万難を排して、絶対お邪魔するぜ。珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、ありがとう。それじゃ土曜日なーっ!」
ピューッと、教室外に消えていった雄二。
その様子を見送って、ふうっ、と、ため息をついた珊瑚。
「ほんまに、単純なあんちゃんやな~、ゆーじ兄ちゃんは。」
そして、瑠璃と向き合って、二コリとした。
「これで、お膳立ては完了やな。」

56:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(23/27)
08/07/06 17:21:04 85Hx7U+f0
 
そして、土曜日。

― ピンポーン。
インターホンが鳴る。
「あ、シルファちゃん、俺が出る出る!」
朝食の準備をしていたシルファを押し留めて、貴明が玄関に向かった。
鍵を開けて、「はい、どちら様・・・・」と、ドアを開けた途端、
「ダーリンッ!」
「ぐほっ!」
ミルファが、貴明の胸元に飛び込んで来た。
「むふ~ん、ダーリン、おっはよー☆」 そう言って、貴明の胸に頬をスリスリと擦りつける。
胸元のミルファから視線を玄関の外に移すと、イルファと、珊瑚、瑠璃の姿があった。
「る~☆」
「おはようございます、貴明さん。」
「げっ、イルイル」
苦手なイルファの姿を目にして、嫌そうな顔を見せたシルファ。
更に、その奥に、珊瑚の姿を見つけると、
「ぴっ・・・・!」 と、思わず体を引いてしまった。
「しっちゃん、怖がらんでええよ~。元気してたか~?」
シルファの警戒を解こうと、珊瑚がにっこりと微笑んだ。

57:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(24/27)
08/07/06 17:22:28 85Hx7U+f0
 
「相変わらず綺麗にしとんな~。しっちゃん、まめやな~。」
ソファにくつろぎながら、珊瑚は部屋の中を見回した。
「地味妹、それだけが取り得だもんねー。」 頭の後ろに手を組んで、ミルファが言った。
彼女の視線の先には、コンロの前に立って鍋に具を注いでいるシルファの姿がある。
「ミルファちゃん、あなたも貴明さんの専属メイドロボなんだから、たまにはシルファちゃんのお手伝いしなさい。」
イルファが、そんなミルファをたしなめる。
「は~い。」 そう返事しながら、ミルファは唇を尖らせた。

ミルファは、この日は珍しく、メイドロボの制服を着ていた。
イルファ、シルファとは若干襟のデザインが違い、白いセーラー襟風になっている。
おまけに、イヤーバイザーまで装着して、すっかりメイドロボ然とした姿だった。
「ミルファちゃん、珍しいね。どういう風の吹き回し?」 そのミルファの姿をしげしげと眺めながら、貴明が言う。
くるんと1回転して、ミルファが言った。「むふ~ん、どう?たまには目先が変わっていいでしょ?」
どういう心境なのか、深くは推し測ることは出来なかったが、おそらくは、新しいメイドロボの仲間がやって来るという事で、ミルファもそれなりに高揚しているのだろう、と貴明は想像した。

58:名無しさんだよもん
08/07/06 17:25:48 DljUh7/C0
しえん

59:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(25/27)
08/07/06 17:25:57 HiLTzmAF0
 
― 外から、トラックらしき車が近付いてくる音がする。そしてそれは、河野家の前でキィーッ!とタイヤを鳴らして、停車したようだった。

「来たのかな?」
貴明はソファーから立ち上がる。すると、果たして、“ピンポーン”と、インターホンが鳴った。
「は~い、今行きま~す。」
カチャリとドアを開けると、そこには、眼鏡をかけた、年の頃30歳前後の、精悍な印象の男性が立っていた。
ネクタイを締め、来栖川エレクトロニクスのロゴの入ったジャンパーを着用している。
ぺこりと頭を下げて、名乗った。
「来栖川エレクトロニクスから参りました。HM開発室の東吾と申します。このたびは、弊社のHMモニタテストプログラムにご応募頂き、まことにありがとうございます。」

60:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(26/27)
08/07/06 17:28:28 HiLTzmAF0
そして、続ける。
「― 河野貴明さん。長瀬からよく話は伺っております。いつもミルファやシルファのご面倒を見て頂いてるそうで。お礼申し上げます。」

 
リビングに通されてきた東吾氏を見て、珊瑚が驚きの表情を見せた。
「東吾のおっちゃん、何で?わざわざどうしたん?」
「やぁ、珊瑚さん、おはようございます。いらっしゃったんですね。」 珊瑚を見て、にこりとする東吾氏。
二人が知り合いらしいので、貴明は珊瑚に目顔で尋ねた。
「東吾のおっちゃん。HM開発室の、主任はんや~。最近、重工の方から異動してきた~。」
― えっ?主任さんて、確か、長瀬さんだったんじゃ・・・・
貴明のその疑問に、珊瑚が答える。
「メイドロボがバカ売れしたお陰で、長瀬のおっちゃんの今の役職は研究所の次長で、開発室長や。けど、主任開発員やからと、いつもみんなに主任と呼ばせてるんや~。」

なるほど、飾らない性格の、長瀬さんらしいな、と思った貴明。

「でも、HM開発室の偉い人が、何で、こんなとこに来るん?」 珊瑚が問うた。
「新しい起動プログラムに精通した人間が営業部門にいないんで、急遽、駆り出されたんですよ。」と、東吾氏。
― そら変やわ。ずっと簡単に改良した筈なのに・・・・ ―
腑に落ちない珊瑚。
「さて、そろそろ、運び込みますか。」 そう言って、東吾氏はトラックの方へ向かう。

61:いわゆる普通のメイドロボ 第二話(27/27)
08/07/06 17:33:44 N3O/ADDJ0
  
― 東吾氏と、ドライバーが、白い細長いケースを抱えて、玄関から戻って来た。
さすがに、シルファが送り届けられてきた時のように、ダンボールではなかったようだ。
ケースに、“KURUSUGAWA HM TYPE-16e RION-CUSTOM”の、文字が見える。
「ここで、いいですか?」 リビング中央の空きスペースまでやって来た東吾達。
「あ、あたしら手伝うよ。地味妹も、ほら。」
ミルファが歩み寄って来たが、「いや、結構。」と、それを断る東吾氏。

ゆっくりと、ケースが床に置かれた。
ケースには、ちょうど顔のあるあたりに窓がついていて、中のHMを覗けるようになっている。
一同がケースの周りに集まってきて、窓の中の、メイドロボの顔を覗きこんだ。

― これは・・・・!?
奇妙な、既視感にとらわれた貴明。
隣で覗き込んでいる珊瑚達も、やはり、同じ思いなのか、訝しんでいる様子が窺える。
中で眠る、HMは赤毛だった。
しかし、どこかで、会っている人のような・・・・

― !思い出した。
あの、やたらと負けず嫌いの、同級生の女の子。
眼鏡を外した時の顔と、瓜二つだった。
― 十波、もとい、長瀬由真、と!?

―― (つづく) ――

62:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(以降)予告
08/07/06 17:34:43 N3O/ADDJ0

“『まーりゃん』って、知ってるかい?
昔、学園で粋に暴れまわってたって言うぜ・・・
今や生徒会は荒れ放題、
ボヤボヤしていると、後ろからばっさりだ!
どっちも どっちも どっちも どっちも!”

雄二 : “ ― さあ、言え、向坂雄二!今こそ、言ってしまうんだ っ!!”

HM-16 RINA : 「イルファさん!これで勝ったと思わないで下さい!」

郁乃 : 「あたしにはお姉ちゃんがいるもの。メイドロボなんて、いらない。」

ミルファ : 「怖い夢、見たよ・・・・ダーリンが、高いところから、落ちちゃう夢。」

長瀬源五郎 : 「彼女は、制限型DIAの、評価実験機なんだ。」

イルファ : 「三原則に縛られたロボットが、元の記憶を持ったまま、新しいご主人様に仕えるなんて、有り得ないんです。」

63:62
08/07/06 17:37:06 N3O/ADDJ0

以上で、二話の投下終了です。
もうこの際、開き直って、手厳しいご意見、期待いたします。(^^;

予告入れたのは、完結出来ない事態に備えてでして・・・・(ォ

では。

64:名無しさんだよもん
08/07/06 17:39:00 DljUh7/C0
>>63
そんなこと言わずに完結させてくれ。次回も楽しみにしてます。乙でした

65:名無しさんだよもん
08/07/06 17:41:11 fjX1rw+LO
う~ん、おもしろい

とりあえず自分は期待大で続きをお待ちしております。

66:名無しさんだよもん
08/07/06 19:20:19 Dke/2Oil0
今回も面白かったです。

自分も完結、待ってます。
次回の投稿、楽しみにしてます。

67:名無しさんだよもん
08/07/06 20:01:10 8iaIz9Qm0
(´ρ`)今回も面白い

68:名無しさんだよもん
08/07/06 20:22:43 pFzavWD70
乙~。投下は常に歓迎だから、去るとか居ぬとか断りはいらんよ

これって「近未来のイブ」の続きなんだね
ちょっと見慣れない人が多くてイメージが掴みづらいけど、
ようやっとリオン起動(だよね?)で話はこれからだろし、引き続きがんがれ

69:名無しさんだよもん
08/07/07 00:25:50 cbwd3G100
面白いって言う人は、どのへんが面白かったか、もうちょっと具体的に言ってくれると
更なるモチベーションに繋がると思うぜ!。

70:名無しさんだよもん
08/07/07 07:51:27 ISZBYQN10
正直、エロが足りないと思う
たゆんたゆんなミルファのおっぱいとかミルファのおっぱいとかミルファのおっぱいとか(ォ
若さ故の過ちで授業抜け出してブルマ姿でプレイしちゃう描写とかストーリー無視で挿入しても
よいかも・・・
と、いちいちコメントが多過ぎると指摘された作者のコメントでした(マテ

71:名無しさんだよもん
08/07/07 09:13:56 0Rs6bL100
もうミルファにチンコ生やして、ストーリー無視で貴明に挿入しようぜ
それでええやろ

72:名無しさんだよもん
08/07/07 09:16:54 xOQU9AEFO
>>70
乙。
オリジナル展開が多くて先読みが難しいが、今後に期待してる。
それにしても、搬入されたリオンの正体はリアル由真!とかいうオチではあるまいなww?

ともあれ。ミルファたんのたゆんたゆんは漏れも大好きである!
だから鷹棒奪還の為に最大の武器オパーイを駆使して戦うミルファ二士の活躍を見せてくれw


73:名無しさんだよもん
08/07/07 13:59:26 o4JKqMm00
リオンさんのイメージ
URLリンク(www.dotup.org)
P= rion

74:名無しさんだよもん
08/07/07 21:36:22 bByYipnT0
>>73
ほぼ由真じゃねーかw

75:名無しさんだよもん
08/07/07 22:18:26 HCsQmWEo0
ウホッ…いい由真…

76:名無しさんだよもん
08/07/10 23:51:56 ykkvnFYO0
書庫さん更新乙

いつもご苦労さんです

77:名無しさんだよもん
08/07/13 00:18:10 4cccjO5t0
こんばんは。
HM-16の続きです。
忙しくて、なかなか思うに任せません orz

では、落とします。

78:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(1/23)
08/07/13 00:19:22 4cccjO5t0
 ―― 今、向坂雄二は、のっぴきならない状況に、追い込まれていた。 

 「畜生~っ!貴明!珊瑚ちゃん!騙しやがったなぁ~~っっ!!」
 「別に騙してねぇだろ雄二。それに決めるのはお前だぞ。好きにしろよ。」
 「どないすんねん、ゆうじ兄ちゃん?もう30秒しかないよ~♪」

 "このまま手動登録が行われない場合、自動的に、初期設定の登録名、『河野貴明』様で、マスター登録いたします。
それでよろしいですか?"

 上半身だけが起き上がった体勢のまま、“リオン”が、無機的な表情で、感情のこもらない調子で語りかける。
 データリンクシステムでリオンと繋がっている珊瑚のPCの画面中央には、マスターの登録名入力画面がある。
 そして、刻々と、画面右側のカウントダウンの数字が減っていく。
 "残り20秒です。繰り返します。初期設定でよろしいですか?・・・・十、九、八・・・・"

 雄二は、心の中の葛藤と、必死に格闘していた。
 今、目前に、あれほど渇望していたメイドロボのオーナーになれるチャンスが転がっている。
 しかし、家庭の事情、現実の厳しさが頭をよぎり、彼の口をこわばらせてしまう。

 “ ― さあ、言え、向坂雄二!今こそ、言ってしまうんだ っ!!”
 ついに、強い欲求が、彼の心の奥底の声を、その口から叫ばせた。

 「― 向坂 雄二!こうさか・ゆうじが、君のマスターだっっ!!」

79:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(2/23)
08/07/13 00:20:36 4cccjO5t0
 
 珊瑚が、目にも留まらぬ速さで、キーボードを叩く。
 ― "向坂 雄二"―
入力欄にその名が入り、すかさずリターンキーが押された。
 残り1秒だった。
 「る~! ゆーじ兄ちゃん、言ってもうた~☆」
 バンザイポーズの珊瑚。

 その直後、“リオン”の赤い目が、点滅を始める。
 "― 登録名、確認。私のマスターを、『向坂 雄二』として、登録いたします。
 声紋、認識・確認。紐付け、登録いたしました。人相映像情報、認識・確認。紐付け、登録いたしました。"
 そのリオンの言葉を聞いて、雄二は、床に尻餅をついてへたり込んでしまった。
 “ ― あー、とうとう、言っちゃったよ、俺・・・・・。”

 リオンの目の点滅が終わり、珊瑚のPCの画面が切り替わった。
 ― 『名称カスタマイズ画面』 ― 
 リオンが再び、語り出す。
 "マスターのお好みで、私に名前をつける事が出来ます。特にご指定が無い場合、標準名の『リオン』で、登録されます。
3分間の間に、ご命名下さい。"

80:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(3/23)
08/07/13 00:22:33 4cccjO5t0
 
 またしても、焦りの表情を浮かべる雄二。
 あまり、滅多な名前を付けたくない。
 かと言って、HM-16“リオン”は、世の中に沢山存在する。
 この娘は、彼だけのメイドロボであって欲しい・・・・・
 雄二は、由真そっくりのそのリオンの顔をう~んと凝視してから、言った。
 「・・・・・そ、そうだ。君の名前は、ゆ・・・・い、いや、理奈。リナにしよう!そ、それで、いいかい――!?」

 思わずガクッとくる貴明。
 恐らく、雄二が入れ込んでいるアイドル、“緒方理奈”から、取ってきたものであろう。
 「ゆーじ兄ちゃん、『RINA』で、ええんな?」
 うん、と、雄二の頷きを見てから、珊瑚はPCの入力画面に、"RINA"と打ち込んで、リターンキーを押した。
 再び、リオンの目が点滅を始めた。
 そして、言う。 "私の名前を、『RINA(リナ)』で、登録いたしました。お名付け頂きまして、ありがとうございます。"

 その目が点滅を終えてからも、リオン ― リナは、続ける。
 "手動登録プログラムにより、わたくし、RINAは、向坂雄二様をマスターとして登録されました。わたくしに関する権利
は、河野貴明様から、向坂雄二様へ譲渡されたと見なされます。ご契約登録頂き、まことにありがとうございます。"

81:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(4/23)
08/07/13 00:24:07 4cccjO5t0
 
 そう喋り終えた後、“RINA”は、ケースの両脇に手を置き、それで体を支えながら、ゆっくりと立ち上がった。
 登録前と後のはっきりとした変化としては、それまでのマネキンのような無機質な顔から、人間的な、生気にあふれた
表情を見せている点である。

 「ダーリン、さんちゃん!立った!リオンが立ったよ!」
 キャッキャッ、と、その様子を見てはしゃぐミルファ。
 「“とうしんらいらきまくら”じゃあるまいし、めいろろぼなら、立って当然なのれす。全くミルミルはおぽんちれす。」
 白けた様子でミルファを横目で見やるシルファ。

 ケースから出て、リナは、呆然としている雄二を向いて立つ。
 それから腰を下げ、今度は土下座で、雄二に向かってお辞儀をした。
 そして、頭を上げて、名乗る。
 「はじめまして。本日から向坂雄二様の専属メイドロボとなりました、HM-16、“リナ”と申します。
 これから半年間、お世話になりますので、どうか宜しくお願いいたします、ご主人様。」

 「お・・・・おれ、向坂雄二。よっ、よろしく、リナちゃん・・・・・。」
 雄二も、思わず、ぺこりと頭を下げた。

82:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(5/23)
08/07/13 00:25:24 4cccjO5t0
 
 「― しかし、やられましたよ、珊瑚さん。このために、いらっしゃってたんですね。」
 腕を組んで、溜息をつきながら苦笑しつつ東吾氏が言った。
 「まさか、起動中に割り込まれて、手動登録メニューを立ち上げられてしまうなんてね。」
 
 普通の起動なら、HMが出荷前に与えられたマスターの情報に、本人の声紋と人相を紐付けるだけの作業で終了する。
 データリンクシステムを自在に操れる珊瑚が途中で介入し、、イレギュラー発生時に事前登録情報を変更するための
手動登録メニューを強制的に立ち上げたのだ。
 
 そして、貴明は、のこのこと現れた雄二をリオンの前に引き入れると、彼に促した。
 「― 雄二、お前がメイドロボのご主人様になるんだよ!俺は知らん。とにかく好きにしろ。」

 先にオーナー申込みをした貴明本人がオーナー権を放棄し、雄二が正式に登録を行った以上、この契約は有効である。
 『既成事実さえ作ってしまえば』という、イルファの入れ知恵は、つまりはこういうことであった。
 ― それはまた、雄二の気持ちの問題に対してでもある。
 目の前にこれほどのチャンスを突きつけられて、拒否できるほど雄二の克己心は強くなかった。
 それについては、貴明もイルファも確信があった。
どれほど周囲の状況が厳しかろうが、理性を無視した魂の叫びに、あえて雄二は従ってしまった。 
 既にルビコン河を渡ってしまったのだ。賽は投げられた。いまさら後戻りは効かないのである。

83:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(6/23)
08/07/13 00:26:48 4cccjO5t0
  
 「あ、あの、あたしのお姉ちゃんになるのかな、それとも、妹・・・・? あたしは、HMX-17b、ミルファ。こっちは、同じ型番
のお姉ちゃん、イルファ。こっちの黄色いのが、おまけの愚妹シルファ。」
 「おまけの愚妹は余計れす!」
 「宜しくリナさん。イルファです。どうか何でも聞いて下さい。こちらは、私のご主人様の瑠璃様と珊瑚様、そして・・・・」
 貴明に手を差し向けるイルファ。 「私の“心のご主人様”、河野貴明さんです。」
 「げっ!?」 思わず引く貴明。
 「あーっ!イルファが浮気しおったーっ!貴明のせいやーっ!!」
 「ちょっちょっと!お姉ちゃん!?ダメーッ!!」
 「イルイルッ!?自重するれすっ!!」
 「いっちゃん、やっぱり、いけないメイドロボさんやな~♪」

 「はい。宜しくお願いします、皆さん。」
 そう言ってリナはみんなにペコリと頭を下げた。

84:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(7/23)
08/07/13 00:27:59 4cccjO5t0
 
 「わ~っ!ユウくん、ついにメイドロボさんのご主人様だね~♪ご苦労様であります!パチパチパチ」
 「雄二・・・・・あんた。それに、タカ坊・・・・。怪しいんで、雄二について来てみれば・・・・・どうすんのよ、これから?」
 いつの間にか、このみと環が、リビングの傍らに立っている。

 「あは、あは、あっはははぁ~~~・・・・・俺、ついに、なっちゃったよ、メイドロボのご主人様に・・・・」
 じわりと湧き上がって来る感慨に、今、雄二の頬を、ツ~と熱いものが伝わった。

 こうして、メイドロボ・リナとそのご主人様、向坂雄二のカップリングが誕生したのだった。
 ―― 半年間の、期間限定ではあるが。

 「タカ坊、珊瑚ちゃん、イルファ・・・・ちょっと、顔貸しなさい。」
 3人を招き寄せる環。
 「― あなたたちはッ!何て事してくれるのよっ!!」
 「ひっ!」 環の怒りの前に、思わずすくんでしまう貴明達。

 「・・・・ええっ、と、皆様方、私は、これで、おいとまさせて頂いて、宜しいでしょうか?」
 ― ハッとなって、まだその場にいた、東吾氏の方を振り向く一同。
 「どうぞ、メイドロボのいる生活をご満喫下さい。それでは、お邪魔いたしました。」

85:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(8/23)
08/07/13 00:29:48 4cccjO5t0
 
 尋常でない雄二の喜びようを見て、環はどうしようもなく弟が不憫になってきた。
 見ると、雄二は、リナの手を取って、それを頬にスリスリしている。完全に理性の飛んだニヤケ顔だった。
 ― 聞けば、貸与期限は、半年間。別れを迎える時の嘆きは想像に余りある。
 そして何より、向坂家に置いておけない。どうする?
 「タカ坊達、まず、あの娘をどこに住まわせるか、考えなさい。」
 
 雄二を引き込んでこの展開に持って来るまでは周到だったが、その後の事を考えてないのはあまりに迂闊と言えた。
 何だかんだ言って向坂家で引取るんじゃないか程度に考えていた貴明達だが、やはりそうは甘くないようだった。

 今回の事の経緯を考えれば、河野家か姫百合家で引取るのが筋とは言えたが・・・・
 
 「ねぇねぇ、いい案があるよ?」
 と、ミルファ。
 「リナちゃんはさんちゃん達に面倒見て貰っちゃって、あたしがダーリンと一緒に住むの☆」
 「らメぇ~~ッ!!」と、思わず、みさくら語で叫んでしまうシルファ。
 「二人が喧嘩しないって約束出来るんなら、それがいいかも。どうですか、貴明さん?」 と、イルファが訊ねる。
 「う~ん・・・・以前みたいなひどい喧嘩は最近しないし、だ、大丈夫なんじゃないかな?」と、貴明。
 「突っかかってくるのは主にひっきーの方だし。あたしはずっと大人だよ?」
 「嘘なのれす!」

86:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(9/23)
08/07/13 00:31:43 4cccjO5t0
  
 肝心の珊瑚達はどうなのか?環が訊ねた。
 「う~ん、そやなぁ~~・・・・」

 珊瑚は、雄二に寄り添われているリナの様子を、じっと観察していた。
 「リナちゃん!君は、俺のメイドさんだけど、姫様だ!俺が君のナイトになって、君を守る!」
 そんな恥ずかしい台詞を臆面も無く言っている雄二であったが、それを聞きながら、リナはまんざらでもなさそうである。
 それどころか、頬を赤らめ、もじもじと、合わせた両手の指を遊ばせている。

 "・・・・普通のリオンが、あんな表情や反応、するやろうか・・・・?" 腑に落ちない珊瑚である。
 これは、手元に置いて、観察してみたい、という気持ちが彼女に湧いて来た。

 ― 長瀬のおっちゃんも東吾のおっちゃんも、何か企んどるわ、これは。―
 「わかった。リナは、ウチらで引取るわ。貴明、ミルファとシルファ、うまく面倒みといてや~。」

87:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(10/23)
08/07/13 00:36:43 dxqpIMad0
 
 ―― 翌日、日曜。
 昨日、河野家に集った面子が、シルファを除いて姫百合家に場所を移し、再び集っていた。 
 「HM-16の主な機能を説明したるわ。まず、データリンクシステムやな。」と、珊瑚。

 HMX-13セリオから実装され始めたデータリンクシステムは、熟成を重ねられ、リオンでとうとう完成段階に達していた。
 この機能が、HM-16の販売好調の一因にもなっている。

 「HM-16のオーナークラブがあってな、そのネットワークに加入すれば、それぞれのご家庭の料理のレシピや耳寄りな
情報とか、ネットワーク内のリオン達で情報共有出来るんや。  
 他にもいろんなこと、出来るんやで~。複数のHM-16で、分散コンピューティングみたいな使い方も出来るんや。」
と、珊瑚。
 例えば・・・・と、実例を示そうとする珊瑚。「いっちゃん、りっちゃん、これから、みんなに昼食振舞ってや~。」
 メイドロボ二人にリクエストを出す。環と雄二が来ているから、向坂家の食事、作ってや、と。

 イルファは、向坂家にメイド修行に来ていた時に、環からそのレシピを伝授されている。しかし、リナは・・・・・
 「いっちゃん、りっちゃんがデータ受け取れるように、ネットワーク繋いでみてな~。」
 「はい、珊瑚様。」
 イルファのイヤーバイザーから伸びているフィンが、パチンと動き、傾斜を上げた。
 あっ、と、思わず小さく声を上げた貴明と雄二。
 「HMX-17でも、HM-16のネットワークは勿論利用可能や。」珊瑚が言った。
 ほとんど間を置かず、リナのイヤーバイザーのフィンも、同じようにパチリと上を向いた。
 "どや、りっちゃん?"と、珊瑚。「はい、レシピの習得、完了いたしました。」

88:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(11/23)
08/07/13 00:38:59 dxqpIMad0
  
 リナが手掛けた料理が、イルファよりやや先に出来上がる。
 昼食に箸を通した一同。
 「お、スゲェ!これ、姉貴が作る食事と、ほとんど変らねぇよっ!」
 驚嘆の声を上げる雄二。
 「へぇ、これ、私がイルファに教えたのと同じものじゃない。便利なものねぇ。」
 環も弟に賛同する。
 「とりあえず、付け焼刃ですが、お役に立てれば幸いです。」と、リナ。

 やや遅れて、イルファの料理も完成した。
 「私の方も出来ました。よろしければ、どうぞ。」
 こちらにも一同が箸を通したが、んっ?と、皆が違和感に気付く。
 「そっくり同じでは芸がないと思ったので、瑠璃様の料理のテイストを加味してみたんですが、どうでしょう?」
 う~ん、ウチは、この方が好みやな、と、瑠璃。
 環も、これは、自分が教えたそのものではなくて、イルファのオリジナリティが加わってていいわね、と評する。
 貴明は、正直、いつもの環の料理とは違う味があって、イルファの料理の方が美味い、とはっきり感じていた。
 
 「まぁ、いっちゃんは“だいこんいんげんあきてんじゃー”やからなぁ。色々試行錯誤して、創意工夫出来るのが強みや。」
と、珊瑚が言った。
 「リナの機能は確かに便利やが、そのままやとコピーやもんな。ミルファの料理の上達は亀の歩みやけど、確かに創意
工夫の跡は感じるわ。美味い不味いは別にしてなー。」 と、瑠璃。
 「うぅ~、瑠璃ちゃん、ひどいよ~。」ミルファがふくれる。

89:名無しさんだよもん
08/07/13 00:39:08 PKU0cdi60
支援

90:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(12/23)
08/07/13 00:40:54 dxqpIMad0
 
 最初は気を良くしていたように見えたリナであったが、イルファの料理への賛辞を聞くと、だんだん、表情が翳ってくる。
 そして、ふくれ顔で、突如、イルファをビッと指差して、言った。
 「イルファさん!これで勝ったと思わないで下さい!」

 えっ?・・・・と、リナのその挙動に、一瞬、呆気に取られた一同。
 「お、リナちゃん、負けず嫌いじゃん。」と、雄二が感心したようなコメントをする。
 "どこかで聞いたようなセリフだな"・・・・などとと思っている、貴明。

 一方、珊瑚と、イルファは、ますます、疑念を濃くしていた。 
 このHM-16は、やはり、普通と違う・・・・ 。
 もしかして、この娘は―― 。

91:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(13/23)
08/07/13 00:43:04 dxqpIMad0
 
 自宅で会えないのなら、せめて、学校の昼食時にでも・・・・と、雄二は弁当を学校に持って来てくれるよう、リナに頼んだ。
 環は面倒な事になるのを警戒して反対したが、雄二は頑として聞かなかった。

 「はい、ダーリン、あ~ん♪」
 「さぁ、ご主人様、どうぞ、召し上がれ♪」
 HMX-17bミルファとHM-16リナ、2体のメイドロボが、それぞれのご主人様に箸でつまんだ出し巻き玉子を差し出すと、
河野貴明と向坂雄二、2人のメイドロボのご主人様は、それにほぼ同時にパクついた。

 「うん、今日もおいしいよ」
 「う、うっめぇ~っ!うめぇよリナちゃん!」
 雄二は感動のあまり、涙を流している。
 弁当の味そのものよりも、ついに実現したこのシチュエーションに、感極まった観がある。 
 「あ~っ!もうずるいずるいずるい!タカくんもユウくんも!やっぱりこのみもメイドロボになるぅ~っ!」
 「でも・・・雄二、いいの?この子、学校に連れて来ちゃって・・・"オリジナル"に見られたら、うるさいんじゃないかしら」
 環がやや呆れ顔で、雄二を横目で見ながら言った。
 "オリジナル"とは、勿論、由真のことだ。
 「うっさいな姉貴!オリジナルってなんだよ!?リナちゃんは世界でただ一人の、俺だけのメイドロボちゃん!それ以上
のオリジナルがあるんかよ!」

 地球温暖化の影響なのか、今日も陽気に満ちた晩秋の昼食時。
 校舎の屋上では、いつもの5人に、新顔のリナを加えた6人が、和気合々と弁当箱を広げていた。 

 ― しかし、そんな和やかムードは、突如として、破られる。

92:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(14/23)
08/07/13 00:44:53 dxqpIMad0
 
 ― バンッ!と、階段室のドアが乱暴に開いた。
 「向坂雄二っ!!河野貴明っ!!」
 そう叫びながら、ドアの内側から現れ、ズカズカと歩んできた女生徒は・・・・
 ―― 長瀬由真!

 あっ!・・・・・、と、一斉に、彼女を注視する、6人。
 「あんたたちっ!どーいう嫌がらせっ!?あたしがメイドロボの格好で、雄二とひっついてるって、訳のわかんない噂
聞いたもんだから、来てみれば・・・・・」

 そう言って、視線をリナに向け、ビッと右手で指差す。額に青筋を立てて睨みながら、ワナワナと震え出した。
 「何よ、こいつはっ!新手の羞恥プレイのつもりっ!?どんだけ手の込んだ嫌がらせよっ!源五郎さんに、こんな奴
作らせてっ!!」

 リナも唖然とした表情で、由真を見つめている。
 自分そっくりの少女の出現に、驚いている・・・・ように貴明には見えた。
 ・・・・しかし、"普通のメイドロボ"も、こういう反応を示すものだろうか?
 「おじいちゃんに言って、源五郎さんは問い詰めてやるとして・・・・まずは、お前らよっ!!覚悟っっ!!!」 
 タタタッと、雄二に走り寄る由真。
 「死ねッ!!」
 ぶわっと、右足廻し蹴りが、雄二に向かって一閃する。
 ひっと、手をかざして目を伏せ顔をそむけた雄二。
  バシッ!!

 ― しかし・・・・ 
 それを、受けとめた手があった。
 ―― リナである。

93:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(15/23)
08/07/13 00:46:52 dxqpIMad0
 
 「ご主人様に危害を加える事は、許しません!全力で阻止します!」
 右手で由真の足を掴みながら、リナが言った。
 派手に足が跳ね上げられているので、由真のスカートの中の、ブルマが丸見えである。

 「おい由真、お前、スカート全開で、恥ずかしくないか?」
 やや赤面しつつ雄二が言うと、由真の顔もカーッと赤らんだ。
 「うっ、うるさいっっ!!どうせブルマだもんっ!!こん畜生ーっ!このっ、手ぇ離せメイドロボッ!!」
 髪の色こそ違え、ここまでそっくりの少女二人が対峙する様は、ある意味壮観である。
 「― もお、やだったらぁっ!離してよォっ!!」
 真っ赤な顔で半ベソかきながら由真が訴えると、リナはハッとなって、その手を外す。
 ロボット三原則では、人間に危害を加える事は許されないのだった。明らかに、由真は赤っ恥をかいて、傷ついた・・・
・・・ように見える。

 割とフェミニスト(死語)だったりする雄二は、このままでは由真もリナも無事じゃいられないと思い、その場をパッと離れ、
逃走を始めた。
 「あっおい、雄二っ!」
 叫ぶ貴明。
 「逃がすかっ!」 頭から湯気を立たせた由真は、なおも雄二を追いかける。

94:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(16/23)
08/07/13 00:48:44 dxqpIMad0
 
 「やめろっ!俺は、女に暴力振るう趣味はねぇっ!」と、屋上を逃げ惑う雄二。
 「うっさいっ!あんたは、おとなしく天誅を受けろっ!!」と、由真。

 追い詰められた雄二は、金網によじ登っていった。
 「やい由真、ここまで来てみろよ。」からかうように言う雄二。
 「くぅ~っ!卑怯者!見てろっ!」と、スカートなのも省みず追いかけて登っていこうとする由真。
 マジかよ、と、驚いた雄二だったが、その時、金網を掴んでいた手が滑り、体が後ろに倒れこんでいく。
 勿論、倒れこんでいく先は、宙で、その先は― 地上である。
 「えっ!?あっあっあっ~っ!!!」 叫ぶ雄二。
 「あっ!?きゃぁあああ!!雄二~~っ!!」 思わず、青い顔になり大声で悲鳴を上げる環。
 「ちょ、ちょっとお~~っ!?きゃぁ~~っ!!」 由真も、全身の血の気が引きつつ悲鳴を上げる。
 「ゆーじ君っ!?あぶないっ!!」 慌てて、落下を阻止しようと雄二に駆け寄っていくミルファ。

 ガシッ!
 ・・・・と、雄二の体がほぼ水平に倒れこんだところで、背中を受けとめる手があった。
 素早くジャンプして、金網の後ろ側に張り付いていたリナであった。
 リナは、雄二の背中をグンッと金網に押し戻すと、その襟を掴んで引っ張り上げる。
 そのまま持ち上げて、金網から雄二と一緒に屋上に降り立った。

95:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(17/23)
08/07/13 00:50:52 dxqpIMad0
 
 「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・あ、ありがとう、リナちゃん・・・・」
 雄二は、放心状態に近く、屋上に虚ろな目でへたり込んでいる。
 「ご主人様ぁ~~!ご無事で、良かったですぅ~~っ!!」
 表情いっぱいに安堵を見せながら、ヒシッと雄二を抱きしめるリナ。

 それを見つめながら、貴明は思った。
 "・・・・どう見ても、リナちゃんには感情があるようにしか見えない。販売品のメイドロボでも、みんな、こうなのか?"

 ― ふと脇を見ると、ミルファが、頭を抱えて、視線の定まらない様子で立ち尽くしている。
 「ど、どうしたの、ミルファちゃん!?・・・・どこか、調子が悪いの?頭でも痛いの?」
 事故の後遺症かと、気が気でなくなり、ミルファの肩に手を掛ける貴明。
 「だ、大丈夫、ダーリン・・・・ちょっと、変な気分になっただけ・・・・」

 "・・・・何だろう、この感じ・・・?こういうの、既視感って、いうのかな・・・・?"

96:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(18/23)
08/07/13 00:53:05 dxqpIMad0
 
 ―― あくる日の放課後、来栖川エレクトロニクスの、ロボット研究所にやって来た、貴明と姫百合珊瑚。
 受付で名乗った後、応接間に通される二人。
 「ウチはIDカード持ってるけど、貴明はまだ作ってもらってへんよね?ちょっと待ってな、おっちゃん呼んだから。」
 10分程待たされると、応接間に、白い研究衣姿の、眼鏡をかけた、やや細面の中年紳士が入ってくる。
 貴明が会うのは、由真のMTBの件以来だ。
 HM開発室長、長瀬源五郎氏が言った。「やぁ来たね、河野少年、珊瑚君。」

97:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(19/23)
08/07/13 00:54:14 dxqpIMad0
 
 「粗茶れす。」
 応接間のテーブルに、HM-16型のメイドロボが、お盆から3人分のお茶を下ろして並べた。
 「それれは、失礼します。」 そして、おじぎをして応接間から出て行く。
 「―気付いたかね?あの娘も、シルファと同じで、"だ"行の発音がうまく出来ないんだよ。無理に直さず、そのままに
してあるんだ。珊瑚君、どうなんだろうね?構造的に、発声しにくいのかね?人間に似せ過ぎたんだろうか。改善の余地
があるのかな。」

 「うーん、しっちゃんの場合は、単に意地っ張りなだけやと思うけど・・・・・それより、おっちゃん、今日来たんは―」
 うん、うん、と、長瀬氏がにこにこしながらひとりで頷いた。
 「わかってるよ、河野君の家に届いた、モニタテスト用のリオンの件だろ?」

 珊瑚が感じた違和感。貴明が感じた雰囲気。
 そして、イルファの確信。"あの娘のAIは、私達と同じものだと思います。"
 その疑問を長瀬氏に話した珊瑚。
 「やはり、分かっちゃったかい?いや、気付くだろうな、もちろん。」
 ふふっ、と、長瀬氏は、微苦笑してから、言った。
 「彼女は、制限型DIAの、評価実験機なんだ。」 
 やっぱり、と、顔を見合わせる貴明と珊瑚。

98:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(20/23)
08/07/13 00:57:20 6AAF8ykA0
 
 「あいつの制限型DIAの方は、僕と東吾君で弄らせて貰ったよ。黙ってて悪いね珊瑚君。君の方はもっと自由にやって
欲しいから、あえて手伝いを頼まなかったんだ。」

 「自由?」 珊瑚が訊ねる。
 「人の心を再現する仕組みとしては、もうDIAは完成してると思う。後は、どうやって、安定して動作を続けさせるか、だけ、
なんだよ。人間だって不安定にはなる。けど、ロボットではそれは許されない。 
 今は、ミルファとシルファのケーススタディがある。制限をかけない、自由な領域で、君の方は探求を続けて欲しいね。」

 そう話して、珊瑚から貴明の方へ視線を移す長瀬氏。
 「例の“ヘタレ力研究所”で採取したデータは、その役に立てると思う。珊瑚君の研究に、貸してやってもいいかな?」
 わかりました、と、貴明。"ヘタレ"と言う表現はムカつくが、そういう目的なのなら、まぁいいだろう、と。

 「制限型の方は、ずっと簡単だ。安定させるための仕組みが既に備わってるからね。まず、三原則だ。"人を傷つけない、
傷つけさせない"、"命令には必ず従う"、そして、"自分を傷つけない"。
 それに、心を寄せる相手、親ないし伴侶に当たる"ご主人様"、それがDIAを安定させるキーだと思うが、一般販売機へ
の導入が前提なら、マスターが最初からいるんだ。」

99:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(21/23)
08/07/13 00:59:14 6AAF8ykA0
 
 「おっちゃん、DIA搭載機を、売るん?」
 「HM-18、早ければHM-17からでも組み込みたいと思ってる。HM-18を操り人形みたいな仕様にしようとした、本社
への意趣返しかな。営業部長は、これは間違いなく売れる、と、太鼓判だったよ。ははは。」

 そう笑った後、長瀬氏の表情が、一転、曇る。
 「本社を見返してやりたくて、少々無理をしてしまった。不安定なのを承知で、ミルファを自由にさせすぎた。そのせいで、
あの子に、取り返しのつかない傷を与えてしまった・・・・・僕のせいだ。でも、そういう行動に駆り立てた本社に、この程度
の仕返しは、させて貰ってもいいと思わないかい?」

 ああ・・・・この人も、珊瑚同様、彼女達を研究対象ではない、自分の娘のように語っているな、と、心を打たれた貴明。
 前回会った時は、ここまで腹を打ち明けず、もっと、事務的な話しかしなかったのだ。
 
 「すいません、もう一つ、聞きたいんですが。」と、貴明。
 何かな、と、膝の上で手を組んで、質問を待つ長瀬氏。
 「あのリオン・・・・雄二が、"リナ"と、名付けたんですけど、その、僕の知り合いの娘に、そっくりなんです。」
 ああ、ああ、そのことね、と、また長瀬氏が微笑をうかべた。
 「HMのデザインには、たいがい、モデルがいるんだけど、何しろ、個人情報だの肖像権だの色々面倒でね・・・・。
 彼女は、販売前のデザイン検討用の機体を借りたんだけど、実は、手っ取り早いところで、親戚の娘の容姿を参考に
させてもらってたんだ。そうそう、河野君、君が壊しちゃったMTBの持ち主だったかな、確か。ははは。」

100:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(22/23)
08/07/13 01:01:00 6AAF8ykA0
  ― 何て安直な、と、呆れてしまう貴明。
 顔だけじゃなくて、性格も、かなり似てるんですけど・・・・負けず嫌いなところとか、いろんなところが。
 「うん、パーソナリティーも、若干、参考にしたさ。」  ― 聞いて、思わずこけそうになる貴明。

 「おっちゃん、一つだけ、言わしてもらっていい?」 珊瑚が、真剣な顔で長瀬氏を見つめて言った。
 「何かな?」
 「DIA搭載機を売るって事は、"心"を持った存在を、売り買いするって事や。たとえ、制限ついててもな。
 だから、簡単に、その子達の記憶とか、心を削るようなことは、ウチ、して欲しくない。
 おっちゃん、ミルファの記憶が消えた時、悲しかったやろ?販売機では、そんなの、日常的に行われてるんやって?
これから、"心"を持ってても、そないな事される子達が、いっぱい出てくるの?」

 う~ん、と、長瀬氏は、腕を組んで目を伏せ、考え込んでしまった。
 「問題は、そこなんだよな、確かに・・・・・」
 そして、言った。
 「それにどう対応するか、最初のケースになるな、あの子は・・・・彼女のご主人様登録は、期間限定なんだ。」

101:いわゆる普通のメイドロボ 第三話(23/23)
08/07/13 01:03:23 6AAF8ykA0
  
 「・・・・おっちゃん、嘘ついてるわ、多分。」
 バスを降りて、すでに街灯の灯り始めた道を姫百合家へ向かって歩を進めていた途中、ふいに立ち止って、珊瑚が
つぶやいた。

 「えっ?どういうこと、珊瑚ちゃん?」
 「三原則とDIAを組み合わせんの、そんな簡単や事やない。それどころか、ぎょーさん、矛盾が出てくる筈なんや。
辛い事、悲しい事、意に沿わん事でも、飲まなきゃならんケース、当然出てくる。そのガス抜き、うまく出来へんと、
その子の心、間違いなく、壊れてしまうんよ。」

 そう言って、表情を暗くする。
 「きっと、ウチに見せたくないもんがあるから、おっちゃんだけで手掛けたんやと思う、りっちゃんのDIAは。」 

 「ダーリン!さんちゃん!」
 マンションのエントランスには、私服姿のミルファが待ち受けていた。
 貴明と珊瑚、続けざまに抱きつきながら言う。
 「遅かったね、遅かったね!さ、ダーリン、帰ろう。さんちゃん、瑠璃ちゃんとお姉ちゃんが、夕食作って待ってるよ。」
 「ミルファちゃん、雄二とリナさんは?」 訊ねる貴明。
 「うん、いるよ勿論。なんかいちゃいちゃしてる☆」
 貴明の腕を取り、ミルファは、河野家の方向へ、貴明を引っ張っていた。

102:名無しさんだよもん
08/07/13 01:03:38 h4wxXulM0
あげ

103:101
08/07/13 01:06:17 6AAF8ykA0
 (つづく)

 と、いうわけで、終了です。
 当初は、パイズリネタで、思いっきり脳天気で明るい内容にしたいと目論んでました。
 しかし、“イブ”が、どうにも不満足な形で駆け足で終えざるを得なかったので、ついつい、その補完のお話に
変質してしまったものです。

 ちと色気が足りないと思ったんで、由真のブルマ分を入れてみました。
 由真のブルマは最高っす。

 どうやら長編化しそうなので、まぁ気長に行くつもりです。
 では。

104:名無しさんだよもん
08/07/13 08:00:59 rmwqxUBb0
GJ


105:名無しさんだよもん
08/07/13 08:53:49 nc3nPWfz0
乙~
顔見知りと同じ顔だと俺なら照れるか萎えるが、そこは流石に雄二だなw 

19でだ行の発音ができないと言われつつ11,12では……
とか突っ込もうと思ったらリオンじゃなくてお茶出しメイドロボの話だったw
オリジナル設定が多いSSだけど、回を重ねるごとに読みやすくなってきてるね。この調子で続きも期待してます

106:名無しさんだよもん
08/07/13 12:45:15 Qy0icM7n0
誤解の無い様に言っておくけどシルファはダ行の発音全てが出来ない訳じゃないよね
変換されるのはda→ra/de→re/do→roの3つとちみっコだけ

シルファ語ブックマークレット
URLリンク(www.anime.net)

ただし漢字の中のda/de/doも変換しないといけないからややこしい(例)問題→問らい
アンソロとかでコレを避ける為にわざわざルビ振ってるのに間違ってるのとか多いな


107:名無しさんだよもん
08/07/14 09:34:09 1bPMPHxKO
面白かった&乙

とりあえずリオン(リナと言うべきか?)の正体が由真でなくて安心したw
ミルファの記憶、量産型DIAの秘密と気になるコトが増えてきて、続きが気になって仕方ないよー。
今後も期待してるっす。

108:101
08/07/15 15:50:25 Pf6Yxtj50
 
 ミ「シルファと仲直りしたくおもうのだ。どうかな?」
 イ「ミルファ様、ご立派になられて。戦争終結は亡き貴明様の十数年に及ぶ願いでした。私に涙腺があれば泣いて
おります。」
 ミ「私の名前はミルファ。来栖川エレクトロニクスのミルファよ。」
 イ「流石でございます。」
 ミ「さっそくシルファとの話し合いの場を用意して頂戴。」
 イ「流石でございます。すでにシルファ語まで学ばれましたか」
 ミ「なに?」
 イ「シルファ語です。我々とは言語体系がいささか異なりますので。」
 ミ「初耳ね。」
 イ「シルファは我々ほど論理的ではございませんので。」
 ミ「野蛮ね。」
 イ「亡き貴明様の残された書物に、シルファの会話サンプルがまとめられています。第一章“挨拶”」
 ミ「挨拶は大事よね。」
 イ「べーらっ!」
  ― ガンッ!―
 イ「いかがなされましたか?」
 ミ「微妙にムカッ腹が立ったわ」

 どうも。すっかり『ファイアボール』のツンデレお嬢ロボがツボにはまってしまった101です。
 という訳で普通のロボ第四話投下です。
 長いので前・中・後に分割。

109:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(前)(1/6)
08/07/15 15:52:27 Pf6Yxtj50
 
 「ただいま~」
 貴明とミルファが河野家に帰って来ると、玄関にシルファが作る夕食の香りがぷんと漂って来た。
 肉じゃがらしい。
 「あっ!ご主人様!・・・・ミルミル!ご主人様を、こんな時間まれ、ろこに引っ張り回したれす!?」
 リビングに入るなり、シルファがミルファに突っかかる。 
 「来栖川の研究所。さんちゃんと一緒に、長瀬おじさんのとこ」 ミルファが言った。
 「あたしはさんちゃんとこで留守番。ダーリンは大事な用があって行ったんだから。なんでいっつもそう邪推すんのよ!?」
 「エロエロなミルミルの行ろうなんて、信用れきないのれす」 そう言うと、びっとミルファを指差すシルファ。
 「ご主人様のセックスフレンろになったからと言って、その心まれ勝ち得たと思ったら、大間違いれす!ご主人様の、至高
のめいろろぼになるゲームは、これかられす!選ばれるのは、たら一人!」

 「それってどんなアリスゲーム?ジャンクのくせに」
 「ぴぎゃーっ!シルファはジャンクじゃないのれすっ!!」
 また昔の再放送アニメとかに影響されてる二人。

 「ま、いいや。ダーリン、どうする?ご飯?お風呂?それとも、あ・た・し?☆」
 などと言いつつ、ミルファは既に貴明の手を取って二階の貴明の部屋へ引っ張り込もうとしている。
 「折角シルファちゃんが夕飯作ってくれたんだし、まず夕食にするよ」
 あ、そ。と、ちょっとふくれっ面を見せるミルファ。

110:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(前)(2/6)
08/07/15 15:54:25 Pf6Yxtj50
 
 ご飯、お風呂、と終え、自室に戻ってきた貴明。
 ブースカ言うシルファをやっとこさなだめつつ、ミルファを伴って。
 いつまでこの状態が続くのかと思うと、うんざりしてしまう貴明だった。
 ミルファは勿論大事、でも、シルファも・・・・

 「ね、ダーリン。あたしね、こないだ・・・・」
 全裸になって、貴明の床に一緒に入っているミルファが囁いてきた。
 「怖い夢、見たよ・・・・ダーリンが、高いところから、落ちちゃう夢。」
 ハッとする貴明。そして、数日前の、屋上での騒動を思い起こした。もしかして、あの時・・・・  
 珊瑚から聞いていた話を思い出す。
 『みっちゃんの半年間の記憶は全滅したわけやない。せやけど、断片的やから、関連付けて思い出せなくなってるんよ』
 何かのキーが得られれば、突発的に思い出す可能性はあるわけだった。
 低い位置にいると、クマ吉当時の視点を思い起こすように。

 「― はるみだよね、これって。そうだよね、ダーリン。」
 うーん、と、答えに詰まってしまう貴明。
 「いいよ、もう。よくわかったから。」 視線を、貴明から天井に移したミルファ。

111:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(前)(3/6)
08/07/15 15:57:28 Pf6Yxtj50
 
 「あたしの中にいた、もう一人のあたし。学校のみんなも、あたしのこと、“はるみん”とか呼んで来るし。もううんざりして、
死んじゃえ!って、思った事もあったけど・・・・」
 また、貴明へと向き直って、言う。
 「あたしの知らないダーリンとの思い出を、いっぱい持ったまま、どっかに消えちゃったのが悔しいと思っただけ。多分。」
 そう言って、貴明にぎゅっとしがみついた。
 「あんな高いところから落ちたら、いくらロボでも、多分、壊れちゃったと思う。それで、記憶が飛んじゃった。違う?」
 厳密には違うが、確かに遠因ではあったので、「うん、まぁ・・・・そうだよ。」と、答えた貴明。
 ― そろそろ、いいだろう、と。
 「でも、ダーリンが危ない目にあったら、あたしだって、飛ぶよ、絶対。何度でも。」
 ・・・・続けるミルファ。
 「― もう、認めちゃっても、いいかなって、思ったんだ。はるみのこと。あたしと同じ、だって。そうしたら、なんかスッキリ
しちゃった」
 そう言って、にこりとする。 
 「もう、はるみに負けないくらい、素敵な思い出、いっぱい貰えたと思うし。それに、これからも・・・・」
 「ミルファちゃん・・・・」
 貴明も、ミルファを抱きしめる。
 「これから、いろいろ教えて欲しいな、はるみのこと・・・・ううん、ついこの前までの、あたしのこと」

112:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(前)(4/6)
08/07/15 15:58:57 Pf6Yxtj50
 
 
 「あ~もう、うんざり!みんなあたしのこと病人扱いで、やたら気を遣って。ま、確かに病人だけどさ。」
 小牧郁乃は、「車イス押してあげるよ」という女生徒達の好意をせいぜい丁重に断った後、人気の無い廊下に着いて
から、ひとりごちた。
 “一度甘えちゃうと、癖になって、誰もいない時に困るもんね。たとえお姉ちゃんでも ―”

 「助けが得られる時くらいは、好意に甘えちゃってもいいと思うけどな。」
 彼女の心の内を見透かすような声がしたので、ひゃっ!?と、びっくりして、背後を振り向いた郁乃。
 声の主は― 河野貴明、だった。
 「あたしに構わないで。」 そう言い捨てて、車イスを進める郁乃。
 ― こいつにだけは、頼りたくない。― 何故か、意地を張ってしまう彼女である。
 「何、あの子?恥ずかしがってるのかな、ね、ダーリン」 貴明の隣にいたミルファが言った。

 この学校はなかなかにバリアフリーが行き届いていて、身障者― 殊に、車イス使用者 ― の受入用に、段差の
ある場所に、スロープが用意されている。
 玄関のスロープに向かって進んでいく郁乃。
 「もう、河野くんがせっかく手伝ってくれるって言ってるんだから、意地張らないでいいのに。あたしが押そうか?」
 また背後から声がした。声の主は・・・・郁乃の姉、愛佳。
 「あーもうっ!うるさいっ!あたしに構わないでってばっ!」
 ムキになって、車イスの移動速度を早め、目を閉じて叫んでしまう郁乃。

113:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(前)(5/6)
08/07/15 16:03:20 eXNwDo7V0
 
 「あっ!ちょっとっ!郁乃、前っ!!」
 愛佳が慌てて叫んだ。
 郁乃の進行方向は、スロープの位置から外れていて、段差部分へズンズン進んでいく。
 「危ないっ!」 と、貴明が叫んだ時には、車イスはガコンッ!!と、派手に落ち込んでいて、横転していく。 
 「きゃあああっっ!!」
 悲鳴を上げた郁乃。

 ― しかし、床に横倒しになるのを覚悟したその直後に、誰かに支えられているのに気がついた。
 ― 支えていたのは、素早く駆け寄ったミルファだった。
 「大丈夫?ちゃんと前見てないと、あぶないよ?」
 「・・・・・あ、ありがと・・・・」 冷や汗をかきながら、震える声で礼を言う郁乃。
 「は、早い・・・・」 今更ながらに、メイドロボの瞬発力に驚く貴明。先日落下しそうになった雄二を受けとめたリナも
そうだったが。

 車イスごと郁乃を軽々と持ち上げ、床に降ろすミルファ。
 "オー、パチパチパチ"、と、丁度その場に居合わせた数人の生徒達から、賞賛の拍手が沸き起こる。
 「えへへへ・・・・」と、頭をかくミルファ。

114:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(前)(6/6)
08/07/15 16:05:00 eXNwDo7V0
  
 「おう、ミルファ、お手柄やったやん。」
 いつの間にか、瑠璃と珊瑚が、貴明の傍らに来ていた。 
 「ウチ、思うんやけどな。メイドロボは、マニアックな人達ばっかりに売れとるそうやないの。けど、ホンマにあの子たち
が必要なのは、こういう人達やないかな。お手伝いさんとしても、友達としてもなー。」 瑠璃が言った。

 その瑠璃の話が聞こえたのか、郁乃が、うつむきながら、呟いた。
 「・・・・あたしには、いらないもん・・・・」
 「えっ?郁乃、何か言った?」 郁乃の顔を覗き込みながら、訊ねる愛佳。
 やや赤面しながら、続ける郁乃。
 「― あたしにはお姉ちゃんがいるもの。メイドロボなんて、いらない・・・・。」

(つづく)

115:114
08/07/15 16:07:17 eXNwDo7V0
今回はこれで終了

いくつか失敗があります。
112で、“昼下がりの、学校にて”と、導入入れるの忘れてます。
113の、“先日”は、“先般”の、間違いです。
失礼をば。
では。

116:名無しさんだよもん
08/07/15 16:10:54 tU5echGJ0


117:名無しさんだよもん
08/07/16 07:07:40 2T5gD5pc0
乙乙。ここで郁乃が絡んでくるのかぁ。話が広がってきたが頑張れ

郁乃に関して、あくまで俺の個人的な意見だが、
愛佳シナリオっぽくない展開で初登場の郁乃が貴明に
「こいつにだけは頼りたくない」はやや唐突な感じがしたかも知れない
あと「お姉ちゃんがいるもの」もそう簡単には出ない台詞な気がした。必殺技だからw

118:名無しさんだよもん
08/07/16 08:17:03 zVO2vIU3O
乙。
確かにいきなりな急展開でちと面食らった。
今回は文章ちと固さがあるし、作者はもしかして方向性にいささかの迷いがある?
なんつーか、場面毎の間が今一つって感じを受けたかな。

ともあれ今後に期待。

119:114
08/07/16 10:12:59 hfS1ikPn0
方向性は既に決まってて、いくのん投下も予定通りですよん
唐突感とか文体の固さは力の無さ故で・・・orz
どの辺固いかご指摘頂ければ有難く。自分で見えてないところが多々あるので
瑠璃の台詞に、方向性が示されてたりします。
ちといろいろ忙しくなるんで、少々間を開けますがご容赦を。

ドロッセルお嬢かわいいよドロッセルお嬢

120:名無しさんだよもん
08/07/16 21:30:05 obMOlzz+0
なんか傷心してるんだけども、
元気が出るSS誰か紹介してくれませんか。

121:119
08/07/17 19:59:58 kYwnvhyt0
失礼します。
しばらく間を空けることになりそうなんで、ここらでもう一丁、落としておきます。

122:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(1/12)
08/07/17 20:02:13 kYwnvhyt0
 
 ― "最近、いいんちょ、かなり疲れてる感じなんだよな・・・・"―
 そんな事を思いながら、貴明は、放課後、図書室へと足を向ける。
 奥の書棚の方へ行くと・・・・やっぱり、居た。

 「あ、河野くん、どうしたの?」
 貴明の気配に気付いた、小牧愛佳。
出しかけていた本をまた書棚に収めながら、貴明に声を掛けた。
 「うん・・・・いや、なんか最近、小牧さん、元気なさそうだったから、つい・・・・」
 頭をかきながら言う貴明。
 「えぇ~?そんなことないよ~、あははは~・・・・」と、力なく笑う愛佳。明らかに、カラ元気っぽい。
 「色々、大変なんじゃないかなと思って。郁乃ちゃんの事もあるし・・・・俺、なんか、手伝える事ない?」
 「ほんと、大丈夫だってぇ!・・・・・そんな、深刻そうな顔してるのかな、あたし・・・・。」
 そう言ってから、はぁーっと溜息をつく愛佳。
 いろいろと抱え込みやすい気質もあるのだろうが、やはり、家庭の問題が大きいのだろうと貴明は想像した。 

123:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(2/12)
08/07/17 20:03:41 kYwnvhyt0
 
 「えっと・・・・郁乃ちゃんの足、まだ、時間かかりそうなのかな・・・・・?」
 聞いていていいものか迷っていたが、思い切って訊ねてみた貴明。
 「うん、本当は、夏前に、思い切った手術、する筈だったんだけど・・・・主治医の先生が、もう少し、様子見ようって。」
 そう話す愛佳の様子は、やはり寂しげに見える。

 「もう少しって、どのくらい?」 これも訊いて見た貴明。
 「あと3ヶ月ないし、最長で半年くらいだって・・・・。」 一段と、寂しげな色を見せつつ愛佳が答える。
 "半年かぁ・・・・短いようで、結構、長いよな・・・・もう年を跨いじゃうしな・・・・。"などと思う貴明。
 「あのね、郁乃、最近、妙にあたしに優しいんだよね。ちょっと前まで、毒舌ばっかりだったのにぃ。あはははは。」
 そう苦笑いする愛佳を見ながら、それは、多分、姉の疲れた様子を見て、気を遣っているのだろうと想像した貴明
だった。

124:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(3/12)
08/07/17 20:05:29 kYwnvhyt0
 
  
 「― へっくしっ!」
 廊下を車イスで進みながら、突然、くしゃみをする郁乃。
 “うう・・・・どうせ、姉とか、あいつ辺りが、あたしの噂でもしてんだろ・・・・”と、ひとりごちる。
 あいつ―― 河野貴明。
 姉は、あいつの話ばかりしていた。そんな姉をからかうのが、あたしの気晴らしの一つでもあった。
 事故に遭っちゃったクラスメートのメイドロボのところに日参するあいつの話をして、あたしも応援してるんだ、と言い
ながらも、とても寂しげな姉の様子が、いまだに忘れられない。
 姉の元気が急に消え失せていったのも、それからだ。
 そんな、姉の気持ちにも気付かずに、いまだに、姉や、あたしに馴れ馴れしく声を掛けてくるあいつ。
 ―― ふざけるなっ!
 あいつの手なんか、意地でも借りるものか。 
 ・・・・メイドロボがいれば、便利?― 冗談じゃないわっ!?

125:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(4/12)
08/07/17 20:08:02 kYwnvhyt0
 
 ― 再び、図書室にて。

 「そんな、大丈夫だから」と、固辞していた愛佳を押し切って、書庫の整理の手伝いを始めた貴明だったが、別な人影
が、図書室の入口から近付いてくるのに気付いた。
 ― 環だった。
 「タカ坊、暇なんだったら、生徒会に顔出さない?しばらくご無沙汰だったでしょう。」
 ミルファの事故の件以来、欠席が続いていたから、生徒会には顔を出し辛くなっていた貴明である。
 環が言った。
 「例の件―― そろそろ、決着つけないといけないんじゃない、タカ坊?あの妖怪と。」

126:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(5/12)
08/07/17 20:10:06 ULsJ/hWt0
 
 ―――

 “『まーりゃん』って、知ってるかい?
 昔、学園で粋に暴れまわってたって言うぜ・・・
 今や生徒会は荒れ放題、
 ボヤボヤしていると、後ろからばっさりだ!
 どっちも どっちも どっちも どっちも!”

―――
 「― と、いうわけで、たかりゃんの椅子は、ばっさり切り捨てたぞい。とっとと帰るがいいわ。」
 生徒会室の最奥の席でふんぞり返りながら、ピンク髪の年齢不詳な"元"生徒会長が吐き捨てた。
 「そんなぁ、先輩!― あ、河野さん、お願いですから怒らないで下さい。」と、おろおろしながら言うのは、アメリカ留学
から無理矢理連れ戻されてから、結局生徒会室に居ついてしまった、前生徒会長の久寿川ささら。
 「何ですって!どういう横暴よそれっ!そもそも、先輩にどんな権限があるんですかっ!?」
 まーりゃんに詰め寄る"現"生徒会長の環。

「うっせぇーよ!空っぽの筈の生徒会の金庫を、誰が満たしてやってると思ってんだよ!この俺の、裏資金のお陰じゃん
かよっ!!」
 ぐぅぅ・・・・・と、まーりゃんを睨みつけながら、奥歯を噛み締める環。
 ― 金庫を空っぽにしたのは、元をただせば学園祭でのまーりゃんの浪費が原因であったのだが。

127:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(6/12)
08/07/17 20:12:38 ULsJ/hWt0
 
 「もう俺様の玩具にならんたかりゃんなんぞ、もはや価値はないんだよっ!だから、その椅子は、俺様のマイ・ビジネス
パートナーの、ひつじさんに、くれたやった☆」
 かつて貴明の定位置になっていた席には、まーりゃんがパートナーと呼ぶ、どう見ても子ヤギの“ひつじさん”が、鎮座
していた。
 “メェェェェ~~~。” ひつじさんが、鳴く。
 「だいたいだな、この学園の最大イベントたる学園祭にも参加せず、今頃のこのこ現れおって。」
 シーシーと、ふてぶてしく爪楊枝で歯をこするまーりゃん。
 貴明が学園祭の主催に参加出来なかったのは、記憶を失ったミルファのところに日参していたからで、そもそも、彼女を
早く学校に連れ戻して来て、と、皆から後押しされていたような状態だったから、それは公認の下である。

 「ちょっとぉ~、あんた、何様よぉ~~っ!」
 貴明に寄り添っていたミルファが、ズイッとまーりゃんに歩み寄る。
 「あなたは下がってなさい。」制止する環。
 「ううんっ!ダーリンをいじめる奴は、許さないんだからっ!!」 環の制止を無視するミルファ。

 フフン、と、不敵な笑みを浮かべるまーりゃん。
 「おや、お前は、俺様の大切な玩具たかりゃんを盗んだ、泥棒ロボの、愛人28号・はるみんではないか。」
 “泥棒ロボですってぇ~っ!!” 今にもまーりゃんに掴みかからんとするミルファ。
 「くっくっく、お前の弱点は、この俺様の情報網で、調査済みだ ―― これだっ!!」

128:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(7/12)
08/07/17 20:15:13 ULsJ/hWt0
 
 バッと、どこから引っ張り出して来たのか、まーりゃんがマントを翻すと、そこから現れたのは・・・・・
 ― 数匹の、ひつじさん(子ヤギ)であった。
 ひつじさん達が、ミルファの周囲に擦り寄っていく。
 「わぁ~~っ!・・・・あったかいねっ!あったかいねっ!」
 ― ひつじさん達を抱きかかえて、頬を摺り寄せるミルファ。
 ・・・・その様子を見て、ダメだこりゃ、と、思わず頭を抱えてしまう環達。

 「別にいいですよ俺は。好きでやってたんじゃないし。」 貴明が言った。
 「タカくん!」 このみが叫ぶ。
 「でも先輩、一つだけ、教えて下さい・・・・・1年生の女生徒達をけしかけて、ミルファの悪口言わせたり、珊瑚ちゃん達
に詰め寄らしたりしたのは、先輩ですか・・・・?」 まーりゃんに訊ねる貴明。
 「ふむ・・・・」と、顎に手をやり、考え込んでいるまーりゃん。
 そして、言った。「そーいえば、そんな仕掛けをしたよ~な。ちょっと、修羅場分が足りんと思ってな。"暇"だから。」
― キラ~ン!と、環の目が光る。
 「そうですか・・・・単にいたずら好きなだけだと思って、今まで大目に見てましたが・・・・・そんな卑劣な事をするなんて。」
 スッと、まーりゃんに相対する、環。
 「ほう・・・・・タマちゃん、無謀にも、この俺様に、下克上しようって、いうのかい?・・・・面白い。かかってきなさいっ!」
 腕を組んで、ほくそ笑むまーりゃん。

 ― 一旦、目を閉じ、そして、また見開いた環。
 「あなたたちっ!やっておしまいなさいっ!!」

129:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(8/12)
08/07/17 20:17:05 ULsJ/hWt0
 
 ― 何故か、生徒会室の中、まーりゃんの背後に鎮座していた、電信柱。
 そこから、"ズボッ!"と、腕が伸びて来た。
 そして、まーりゃんの両手を背後から掴むと、とてつもない力で、捻じ上げる。
 「なっ、何ぃぃ~~っ!」 驚愕するまーりゃん。
 「メイドロボのパワーは、人間の3倍・・・・観念して下さい!」 ― イルファだった。 
 「腕の自由を奪ってしまえば、必殺技も出せないでしょうっ!逃げ足もふさいでしまうのよっ!シルファッ!!」
 環がそう叫ぶと、今度は、部屋の隅っこに置かれていたダンボールが持ち上がり、中から金髪のおさげが現れた。
 目にもとまらぬ早さでまーりゃんの足を掴むと、グィっと仰向けにしてしまう。
 「くわーっ!謀ったなタマちゃんっ!この俺様に不覚をとらせるとはっ!!」
 パンツ丸出しでもがきながらわめくまーりゃん。
 「ミルファちゃんの悪口を流布しただけじゃなく、珊瑚様まで泣かせるなんて、絶対、許せませんっ!」
 「めいろろぼを辱めたのは、許せないのれすっ!たとえミルミルの悪口れもっ!」

 ひつじさん達とじゃれているミルファに向かって、環が叫ぶ。「ミルファッ!あなたもっ!」
 ハッとなって、我に返るミルファ。
 「ミルファちゃん!剥いちゃいなさいっ!得意技でしょうっ!」と、イルファ。
 「― 得意技かどうか知らないけど、ダーリンをいじめたしっ!お仕置きっ!!」
 素早くまーりゃんに取り付き、そのセーラー服を次々と剥いで行く。
 「ぎゃあああ~っっ!ぐわぁあああっっ!やめろぉおおお~~!!やめるんだぁ~~ショッカァァ~~~ッッッ!!!
さ~りゃんっ!!黙って見てないで助けてくれぇぇええ~~~っっ!!!」
 まぁまぁまぁ・・・・・と、赤面して両手で目を覆いながらも、しっかり覗いているささら。
 貴明は・・・・やはり、真っ赤になって、この修羅場に背を向けていた。

130:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(9/12)
08/07/17 20:18:24 ULsJ/hWt0
 
 ―― そして、惨劇の後。

 「しくしくしく・・・・麻亜子、もうお嫁に行けなぁい・・・・・」
 まーりゃんは、幼稚園児の着るスモック姿にされ、両手で顔を覆っていた。
 限りなくウソ泣きの疑い濃厚だったが。
 「先輩、スリム体型ですし、よくお似合いでいらしてよ、ぷぷぷ・・・・」
 必死で笑いを押し込めながら、環が言った。
 「お母様を引っ張り出さなかっただけでも、感謝なさい。・・・・一体全体、何だって、女生徒達をそそのかしてミルファ達に
嫌がらせなんかを?真面目に答えて。」
 ― 修羅場好きとか略奪愛好きだからとかぬかしたら、ヌッ殺す ― と、云わんばかりの形相で凄む、環。
 
 「畜生ぉ~~~っ!俺様のたかりゃんを取られたのが悔しかったんだいっ!!いいじゃんかよぉっその程度の意趣返し
はよぉ~~っ!!」
 被害妄想も甚だしいが、こういう人なのだ、この先輩は ―― と、呆れる環と貴明。
    
 びっと、一同を指差して、捨て台詞を吐くまーりゃん。
 「タマちゃんっ!これで勝ったと思うなよぉ~~~っっ!!」
 ― 園児服で言われても、なんの迫力も無い。
 そうして、ひつじさん達を引き連れ、廊下を走り去っていくまーりゃん先輩であった。

131:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(10/12)
08/07/17 20:22:23 L+0aQPp20
 
 「はぁ~、これで済むとは思わないけどね。早晩、仕返しに来るでしょうから、備えておかないと。」 環が言う。
 「わぁ~っ!すごいすごいすご~いっ!!まーりゃん先輩をやっつけちゃうなんて。大殊勲でありますよ隊長!!」
 バンザイをするこのみ。
 「まぁ、仕掛けたのはタマ姉だけど、実際にやってくれたのは、爆弾三勇士なんだよね。」
 そう言って、チラリとイルファ達を見る貴明。
 「あの・・・・貴明さん、"爆弾三勇士"って、何ですか?」 苦笑いするイルファ。
 「むふ~ん、シルファが、あたしのために人肌脱いでくれるなんて、思わなかったよ。」 ニンマリしながら言うミルファ。
 「べ、別に、ミルミルのためじゃ、ないのれす!お、お母様の、悪口、言ったかられすよ・・・・」 そう言って、ぷいと横を
向くシルファ。

 「でも、まーりゃん先輩、傷ついてないかなぁ・・・・?」 この期に及んでまだまーりゃんを心配している、心底お人好しの
このみ。
 「あの・・・・大丈夫だと、思います。先輩のバイタリティは、ゴキブリ以上ですから。」
 ― 長年まーりゃんと一緒にいるささらが言うのだから、まず間違いないと思われた。

 「環様、私達はこれで失礼したいと思いますが。」 イルファが言った。
 あっそうそう、彼女達をそろそろ帰さねばと、気付いた環。
 「そうね。雄二を珊瑚ちゃん達のとこに野放しにしとくのは心配だし。一応リナもいるけど。ありがとう、イルファ。」
 「では、失礼します。ミルファちゃん、ちょっとお話もあるから、一緒に来て。」
 「うんわかった。じゃあダーリン、後でね~☆」
 「今晩のエサはカレーライスれす、ご主人様」

132:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(11/12)
08/07/17 20:24:19 L+0aQPp20
 
 三姉妹が去ってから、貴明が言った。
 「これで、メイドロボへの学園内の悪い噂も、一掃されるかな。」
 「そうでしょうか・・・・?もうちょっと、根っこが深いように、思うんですけど。」 ささらが呟く。
 「えっ?どういう事ですか、先輩?」 ささらに振り向き、訊ねる貴明。
 「あ・・・・こないだの、アンケートね、久寿川さん?」 と、環。
 「はい。実は、つい最近、来栖川エレクトロニクスの東吾さんという方から、学園へのメイドロボ受け入れについての、
アンケート調査の依頼が、生徒会に入ったんです。校長先生も、頼むよ、とおっしゃってたんで、断れなくて。」

 ― 東吾さんって、確か、リナのセッティングにやって来た人だっけ。長瀬さんの懐刀だとか。
 結構マメに動き回ってるんだな ― と、感心した貴明。
 でも俺、そんなアンケート見た事ないけど、と貴明が言うと、タカ坊はいっつもそういうの無関心でしょう、と、環。
 「この学校にメイドロボを受け入れるのは、ミルファさんが2人目ですよね。まぁ彼女はそうは告げられずに入学したわけ
ですけど ― 最初に来たマルチさんの事は、まーりゃん先輩も話してましたよ。"あのドン臭い清掃ロボ"とか ――
・・・・あ、いえ、先輩が言ったセリフそのままですこれ。」 と、ささら。

 そして彼女が続ける。 「アンケート結果は、概ね8割方は、受け入れ歓迎でした。1割が、どうでもいいという意見。そして
残りの1割が・・・・否定的な意見です。」

 1割・・・・とは言え、やはり、アレルギーを示す人もいるのか・・・・と、改めて知った貴明。
 先にイルファを見知っていた貴明は、彼女があまりにも人間臭いので、そういう拒否反応を感じるシーンがほとんど皆無
だったせいでもあったのだが。
 フランケンシュタイン・コンプレックスでもないだろうが、そういう潜在的な嫌悪感を、抱く人はいるのだ、と。

133:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(中)(12/12)
08/07/17 20:27:07 L+0aQPp20
 
 ―――

 生徒会室を引き払い、廊下を玄関へ向かって歩を進めていたら、小牧姉妹とばったり出くわした貴明達。

 「小牧さん。」
 「あ、河野くん、さっきはありがとう。」 ぺこりと頭を下げる愛佳。
 郁乃は黙って、貴明をじーっと睨むように見つめていたが、やがて、はーっ、と、息を吸い込むと、口を開く。

 「河野貴明。はっきり、言っとくわ。あたしは、あんたもメイドロボも、大っ嫌い。これ以上、あたしに関わってこないで。
― 以上。」

 そう吐き捨てるように言うと、愛佳を置いてきぼりにして、さっさと車イスを進めて去っていく郁乃。
 「―― 郁乃っ!?」 飛び上がらんばかりに驚いて、キョロキョロと貴明と郁乃、交互に見回す愛佳。
 「ご、ごめんなさい河野くん!―― 郁乃!なんて事言うの!?あ~っ、ちょっと待ってよぉ~~っっ!?」
 慌てて愛佳は郁乃を追いかけていく。

 ― 貴明、環、このみ、ささらの4人は、唖然として、その場に、ただ立ち尽くす事しか出来なかった ― 。

 (つづく)

134:133
08/07/17 20:28:30 L+0aQPp20
以上で今回分終了です。

135:名無しさんだよもん
08/07/17 21:02:42 cbBxlg/+0

暗い話になりそうだね

136:名無しさんだよもん
08/07/17 23:20:56 xvtrmF680
乙~

オイラは暗い話おk、っていうかむしろ大歓迎なのでガンガンやっちゃってください

137:名無しさんだよもん
08/07/18 00:08:14 8flL+7Fn0
乙。良く書けてる感じの文章、この調子でがんがれ

環の余裕の無さに若干違和感があったかなぁ
あと、まーりゃんが他人をけしかけて悪口を言わせるとは思えな……

……というか、まーりゃんにけしかけられて悪口に乗る人間がいるとは思えない漏れ(爆

138:134
08/07/18 07:09:08 DH3DEDYq0
学校の半分以上を動員した聖まーりゃん帝国の例もありますしw
まーりゃんにはゲッベルス並の煽動家の才があります。
あの怪物の前ではタマ姉ですら余裕がなくなるのは仕方の無い事でw

オリキャラの東吾さんはちと出番が増えるかも
"パトレイバー"に登場したシャフトの黒崎さんみたいなの想像して下さい。
有能ですが結構野心家です。

コミケ準備とかいろいろあるので、次回投下は8月半ば以降とかになりそう。
どうか、他の方々の投下お願いします。

139:名無しさんだよもん
08/07/18 08:43:34 P/YRjOSg0
長いの書けないんで(最長7レス)聞いてみる。
一レスSSって需要ありますか。

140:名無しさんだよもん
08/07/18 10:03:13 PlLoecWjO
それなりに体裁が整っていれば1レスが100レスでもいいんじゃね?
需要のあるなしで言えば「面白いモノならなんでもいる」わけだからして。

141:名無しさんだよもん
08/07/18 19:39:36 JPurWj650
>>138
乙です

てっかコミケ参加するんですか?
だったらサークル名とか差し障りなかったら教えて頂けると…

142:138
08/07/18 19:56:19 WkhFlNR20
>>141
行けるようにお仕事に精出すのですw あくまで一般で。
以前落としたこみパネタのSSは前半ほぼ経験談が元だったりしますがw

>>135
>>136
そんな暗い話にはしない予定です

143:名無しさんだよもん
08/07/19 00:02:24 hNjl3LAe0
>139
思いつきで書いた2行SSを書庫さんに収録していただいた身としては、
URLリンク(www.geocities.jp))歓迎と言わざるを得ないw

144:名無しさんだよもん
08/07/19 06:18:50 kvSoyF+w0
>>140わかった。>>143ほどの名作が書けるかどうかはわからないけどがんばってみる。

145:めーぷる☆しろっぷ 第5話「スイーツ(涙)」 0/12
08/07/20 23:38:52 zzKNTkkW0

前スレ620の続きです

 ★AD準拠★ (のつもり) です。


146:めーぷる☆しろっぷ 第5話「スイーツ(涙)」 1/12
08/07/20 23:39:59 zzKNTkkW0

「うわぁ、ワニみたいなお魚さん」
「ピラルクーね。世界最大の有鱗淡水魚」
「あれ、さっきのも世界最大の淡水魚って書いてなかったっけ?」
「メコンオオナマズは、ナマズだから鱗がないわ」
「……なんか釈然としないね。それ」
「そんなこといったらキリがないわよ。チョウザメは淡水魚じゃないのか、とか」
「あ、あのさっ! あのお魚さん、なんだか口元が郁乃に似てないかな?」
「似てないっ!」
「あはは。郁乃ちゃんだと、さっきの、シルバーアロワナだっけ? あれの方が」
「それも似てないっ!」

 がやがやがや。
 賑やかに私たち、具体的には私と姉と貴明が、歩いているのは水族館。
 前回の遊園地の翌月、といってそんなに日にちは過ぎてないけど、貴明の指定どおりに三人は此処を訪れていた。

「郁乃ちゃんほら、綺麗だよ」
「クラゲのホログラム? うむ。ふむ。うーむ」
「あっ、郁乃郁乃っ! こっちこっちっ、エイっ! エイのびらびら、びらびら凄いっ!」
「その言い方はなんか下品だからやめて、お姉ちゃん」
「うわ、こんな所にオオサンショウウオだって郁乃ちゃん」
「うあああ! それはタンマタンマ! こら! 勝手に車椅子を押すなぁ!」
「え、えーっと、なんだか口元が郁乃に似て……」
「その話題からも離れろおっ!」

 姉はいつも通りいろいろ私を構ってくるし、貴明もまあ、その曖昧な性格に似合ってなんとなく場を和ませるのが上手い奴だと思う。
 そんなわけで、入館からこっちそこそこ会話は弾んでいて、それはいいんだけど。

「まだ奥があるんだね。郁乃ちゃん、疲れてない?」
「ふたまたに分かれてるよ、どっちを先に回る? 郁乃?」

 二人とも、いちいち私を経由して会話するのはなんとかしてほしい。

147:めーぷる☆しろっぷ 第5話「スイーツ(涙)」 2/12
08/07/20 23:42:30 zzKNTkkW0

「お姉ちゃん、どっちに行く?」
「えっ? み、右かなぁ」
「貴明は?」
「え? そりゃあ、俺も右で」
「あっそ。じゃあ私は左から回るわ」
 カラカラカラ。
 てくてくてく。てくてくてく。
「ついてくんなって言ってるでしょっ!」
「「言ってない言ってない」」
 ……。

 しかし、気持ちは判らないでもない。
 異性が苦手な姉は直接貴明と会話するのは厳しいだろうし、貴明もなまじ顔見知りな同級生より妹の私の方が話のネタにはし易かろう。
 その上、私は身障者。どうしても二人が私を挟んで両側から気を遣う構図になりがちにはなる。
 とはいえ、一階を回り終わって、二階も中盤に入ってる時分。今日は午後集合で昼食もない。そろそろなんとかしないと。

 しゃあない、ちょっと強引に行くか。
 カラカラカラ。
「あ、あれ? どこ行くの?」
「ちょいとお花を摘みにね」
 トイレは一階のエレベーター脇にあった筈。二階の同じ位置に水回りが見あたらないということは、このフロアには無い可能性が高い。
 目を離すのは心配だけど、少し二人きりにしてやろう。
 私は開いたドアからエレベーターに乗り込み、1F行きのボタンを。

 ぽち。
 押したのは貴明の指。姉は反応が遅れてドアの外。

「なんでついてくるのよっ!」
「え、いや、大変かなと思って。手伝いとか」
「いるかっ!」
 私が呆れた間に、エレベーターは二人を乗せて動き出して、しかし、その時。

148:めーぷる☆しろっぷ 第5話「スイーツ(涙)」 3/12
08/07/20 23:44:17 zzKNTkkW0

 どうんっ!

「「うわっ!」」
 地鳴り音と共に、私が生まれてから体験した事がないような、強烈な衝撃が下から襲ってきた。
「じ、地震んぐぃっ!?」
 慌ててブレーキを掛けた私の車椅子が跳ね上がる。
「っつっっとおったっ!!」
 立っていた貴明が、私の視界から下に消える。ひっくり返ったんだ。

 がこん、がこんと、大きく揺れたエレベーターが外壁にぶち当たる。
 その音と振動が、此処が宙吊りされた箱の中である頼りなさを、否応なしに実感させる。
 次の瞬間、天井の灯りが消えた。

「うおっ!?」
「ま、真っ暗? 非常灯は?」
 消えた瞬間は、正直パニックに陥りかけたけど、幸いにも揺れの方は徐々に収まって、状況を気にする余裕ができる。
「点かないね。停電したのかな」
 真っ暗闇で、貴明の声が床方面から頭の上まで移動。立ち上がったみたい。見えないけど。
「だいたい、普通はどっちかの階まで行って止まるものだと思うけど、困ったもんね」
 おおよそ声のした方向に向かって返答する私。
 エレベーターは、そのまま降下途中で止まっているようだった。
 かなり強い地震だったので、ドアの開閉検知器が誤動作でもしたのだろう。
 非常灯も点かないというのは、壊れたか整備不良か。比較的最近の建築にしては、お粗末な事だ。

「まだ揺れてるかな?」
「少しね。だいたい落ち着いたんじゃないかしら」
「凄い地震だったね」
「あたしはちょっと覚えが無いわね、こういうのは」
 会話を交わすうちに、揺れは完全に収まった。

 そして、暗闇。 

149:めーぷる☆しろっぷ 第5話「スイーツ(涙)」 4/12
08/07/20 23:46:07 zzKNTkkW0

「インターホン、動くかしら?」
「どこだろ。この辺かな」
 声だけが斜め前方に移動する。手探りで壁を触る音。カチ、カチとボタンを押す音。
「反応しないな。これかどうかも分かんないけど。うーん、エレベーターって、天井に出られるっけ?」
「やめた方がいいわ。外が無事なら、そのうち救出してくれるでしょ」
「火事とか起きてなければいいけど」
「やめてよ。縁起でもない……」
 間もなく、話のネタも尽きてきて沈黙。
 目が慣れてくる頃になっても何も見えない。ほぼ完全な漆黒の視界。

「……貴明?」
 こう真っ暗だと、そこに奴がいるのかどうかも不安になって、私はつい声を掛けた。
「うん?」
「……なんでもない」
「うん」
 また、真っ暗。本当に外は無事なんだろうか。空気が淀んできたような気さえ……
 さわっ。
「きゃあっ!? な、何すんのよこの痴漢っ!」
 突然肩を触られて飛び上がった私。
「ご、ごめん。真っ暗だからつい、郁乃ちゃんが居るのかどうか不安になってさ」
「な、何よそれ。子供みたいに」
「あはは、ごめん。押し手、掴ませてね」
 私の憎まれ口は自分の感情を棚に上げたもので、むしろ奴の笑い声の方が屈託がない。
 そのまま、数分。

 ……つ、つ、つ。
「え?」
 やがて黙ったまま、私は右手を車椅子の背中から押し手に沿わせて、そこにある貴明の手に重ねた。
 貴明は一時驚いた声をあげたが、そのまま静かに握り返してきた。

 闇の中で繋いだ手の温かさは、私に幾ばくかの安心を与えてくれた。

150:めーぷる☆しろっぷ 第5話「スイーツ(涙)」 5/12
08/07/20 23:47:42 zzKNTkkW0

 がっちゃんっ。
 ジーッ、パパッ。
「うおっ!? 動いた?」
「……眩しい」
 私と貴明が閉じこめられていた時間は、実際には30分足らずだったようだ。
 突如、何事もなかったかのように照明が点くと、エレベーターは2Fに戻って止まった。

 チン。なんだか懐かしい音がして扉が開く。館内ざわざわ。
「結局インターホンに応答もなしって巫山戯てるわね」
「まあ、無事に出られたから良しとしようよ……あ、ごめん」
 貴明が私の手を離して車椅子を押したので、私は照明が点いてからも手を繋いでいた事に気がついた。 
「……」
「どうしたの?」
「なんでもない。トイレ行ってくる」
 照れ隠しが半分と、生理的欲求が半分。ともかく私は車椅子を振り向けて今降りたばかりのエレベーターに再び、

<停止中>
 え゛。
「う、うそっ!?」
「地震のせいかな。点検も必要だろうし」
 そ、そんなものは私が用を済ませてからにしろ~っ!

「と、とにかく、行って、くるわ」
 私は階段の上まで進んでブレーキを掛けると、手摺りに掴まって立ち上がる。
「だ、大丈夫?」
「平気よ」
 と言ってはみたものの、私の足でこの階段は結構キツい。おまけにその、なんだ、下の方が大分切羽詰まってて力が……
「郁乃ちゃん、失礼」
 貴明が妙な台詞を口にした。

 直後、ふわり、と身体が浮いた。

151:めーぷる☆しろっぷ 第5話「スイーツ(涙)」 6/12
08/07/20 23:49:02 zzKNTkkW0

「へっ?」
 膝が肩まで持ち上がる。連動して上体が仰向けに倒れる。視界が天井で埋められて。右側に貴明の顔。右半身に貴明の胸板の体温。膝の裏と背中に貴明の腕の支え。

 これっていわゆる、お姫様抱っこ?

「う……うああぁあぁあ!」
「あ、暴れないで階段だからっ。重……くはないけど危ないからっ」
 じたばたしかかった私は、ちらと目に入った階段下までの距離を見て動きを止める。
「な、何考えてんのよ」
「だって、辛そうだったから」
 気恥ずかしさで叩いた憎まれ口に、簡単で真摯な答えが返ってくる。
「……」
 私は何も言えなくなった。黙って腕を胸の前で縮めて、赤ん坊のように奴に抱かれる。
「よっ、と」
 大人しくなった私を抱えて、堅実に一歩一歩降りる貴明。
 重くないってのは社交辞令だろう。人を運ぶには非常に力の要る体勢。
 一段降りるごとに、奴の腕と胸の筋肉の動きを、これまでの見た目よりも逞しく感じる。
 私はちらっと下から貴明を盗み見たが、真剣な横顔に引き込まれそうになって視線を逸らした。

 とん。
 最後の一段。緊張で長く遠く感じた階段は、それでも当然に有限だった。
「も、もういいわよ。あとは自分で歩く」
「手摺りも何もないのに無理だよ。トイレまで運ぶって」
「女子トイレよスケベ」
「仕方ないだろ。声かけて入るから」
 冷静に考えて、たぶん貴明の方が正しい。
 だいぶん切羽詰まってきてもいる私は、そのまま奴に運ばれる。
 景色は勝手に流れて、1階のエレベーター脇から手洗所へと向かう通路へと……

「郁乃っ!?」
 そこに姉がいた。

152:めーぷる☆しろっぷ 第5話「スイーツ(涙)」 7/12
08/07/20 23:51:32 zzKNTkkW0

「電車は随分遅れてるみたいだよぉ。バスの方が先にくると思うって、駅員さんが」
「……」
「見た目そうでもないけど、やっぱり混乱してるんだな」
「みんな無事で、何よりだったねっ」
「……」
「そういえば他のお客さんも、怪我したって話は聞かなかったな」
「お魚さんたちも、びっくりしたろうけど、水槽とか大丈夫そうだったし」
「……」

 15分後。
 私たちは、地震により臨時休館となった水族館を出て、駅前で移動手段を待っていた。

「でも、バックヤードでは大変なんだろうな。係員さん達は今から後片付けかあ」
「暫く休館するかもって言ってたよ」
「……」
 貴明と姉の口数は、不自然に多い。反面、私は沈思黙考。 

 あれから-あれ、というのは私が貴明に抱っこされてるのを姉に目撃されてから-、
姉はまず私が怪我をしたのかと大いに心配して、事情を知るとひとしきり安心した後、
私が用を足すのを待って、貴明が2階に戻って担いできた車椅子を、個室まで持ってきてくれた。

 問題はその後で、
「でも、びっくりしたなぁ河野くん。力持ちなんだね」
「いや、お恥ずかしい限りで」
「ううん。やっぱりああいう時は頼りになるよね、男の人って」
 何度目かの蒸し返し。
 貴明を褒めそやす姉の口調は、字面ほど正の感情だけではない。
 私を補助できなかった己への慚愧、自分ができない事をした貴明への羨望、そして、嫉妬。

(……やっぱり、ちゃんとしないとダメだ。)
 貴明と知り合ってから何度か読み取った淀んだ感情を今日も姉に見て、私はひとつの決断を下した。

153:めーぷる☆しろっぷ 第5話「スイーツ(涙)」 7/12
08/07/20 23:53:32 zzKNTkkW0

「……貴明」
「「え?」」
 ずっと黙りこくっていた私がおもむろに貴明に声を掛けて、二人は驚いた様子だった。
「ちょっと、付き合ってくれない?」
「「え、えっ?」」
「バス、まだ来ないでしょ。来てもすぐには乗れなさそうだし」
 駅前の広場は、用事を切り上げ帰宅する人達で混んでいた。もっとも、そんなのは理由の一端に過ぎない。
「用事があるの? おつかいならあたしが」
「お姉ちゃんには、別なお願いがあるわ」
「あ、うん、何かな? 何かな?」
「ついてこないで。絶対」
「へ?」
 笑顔のまま固まった姉を置いて、私はハンドリムを回した。

 貴明は、戸惑った様子ながらも後ろをついてきた。
「どうしたの? 急に」
「話があるの。お姉ちゃんに聞かれたくない」

 私は、姉と貴明を引き合わせている理由を、はっきりと伝えるつもりでいた。
 本来この手の事は、周囲がお節介するものでもないだろうし、私の意図は様子見だったのだけど、これまで見たことのなかった姉の態度と、首尾一貫して曖昧な貴明を見ては黙ってはいられなかった。

「近くに、落ち着いて話ができそうな場所あるかしら」
「うーん、あっ、そうだ」
 私の問いに首を捻った貴明は、何かを思い出したように手を打つ。
「俺も郁乃ちゃんに用事があるんだった。ちょっといい?」
 くるりと背後に回ると、唐突に車椅子を押し始める。
「な、何よ急に」
「いいから。やってないかも知れないけど……」
 主導権を持って行かれて戸惑う私に構わず、貴明はひとつ脇道に入って坂を上る。

 間もなく、なんとなく既視感を覚えた光景の先に、どこか見覚えのある小さなお店が見えた。

154:名無しさんだよもん
08/07/20 23:56:28 pWkxXT7KO
支援

155:めーぷる☆しろっぷ 第5話「スイーツ(涙)」 9/12
08/07/20 23:56:33 zzKNTkkW0

 “おいしいメープルメロンパン -コルノ-”

「……うそ」
「ホント。此処にお店を開いたって、知らなかった?」
 不覚。
 どこかで店舗を設けたらしいとはチャットでも言われたりしたのだが、いつぞやの一件で悔しい思いをした私は、むしろ自分から情報を遮断してしまっていたのだった。

「地震、だいじょうぶだったかな。ちょっとそこで待っててね」
「あ、こら」
 私がぽかんとしている隙に、迷わず店内に向かう貴明。
 店の斜め前は小さな公園になっていて、奴がそこでといったのは其処のベンチの事だろう。
 一緒に入るのも気後れして、私はベンチの脇に車椅子を止める。
 初夏の空は、いつのまにか青から赤に変わろうかという気配。ぼーっと見上げると、落ちていきそうになる。
(……何やってんだろ、私。)
 目的を達してさっさと切り上げればいいのに、どうも貴明と一緒に居ると余計なことばかり起こる。
 マイペースがウリのつもりなのに、あの曖昧な笑顔に巻き込まれるのだ。もう少し気を付けないと、
「郁乃ちゃん! お待たせっ!」
「うわぁ!」
 なんて思ってる暇で気構えればいいのに、思考に嵌っていた私はまたも不意をつかれた。
「ちょうど地震後の試し焼きした分があがった所でさ、待たずに買えたよ」
 両手で抱えた紙袋を、当然のように私に差し出す貴明。まあ、そうなるわよね。
「あ、お金」
「いらないって。この間のお詫び。俺が、郁乃ちゃんに食べて欲しいんだし」
 う。
 だから、そういう素朴な顔で誤解されそうな台詞を吐くんじゃないわよ。
 いらぬ意識に赤面した私は、照れ隠しに受け取った紙袋を覗き込む。
 ふわり、と甘い香りが鼻腔をくすぐる。いつぞやとは比べものにならない芳醇さ。
「話の前に、冷めないうちに食べてよ。せっかくだから」
 これも余計な事かも知れない。
 そう思いつつも焼きたてメロンパンの誘惑には勝てず、私はまだ柔らかい半球を取り出して頬張った。

156:名無しさんだよもん
08/07/20 23:57:49 k4tqjvS/0
支援

157:めーぷる☆しろっぷ 第5話「スイーツ(涙)」10/12
08/07/21 00:01:05 PYRPpvf/0

 しゃくっ。
 舌の上に溶けるまろやかさな甘さと、焼きたての生地だけが持つ柔軟かつ弾力的な食感。
 一口飲み込んだ後に、喉から広がるメープルシロップとメロンの香り。
 手の中から立ちのぼる優しい匂いが次を誘って、ついまた一口。

「……美味しい」
 状況や過程がどうあれ、これを美味しいと言わなかったら嘘だろう。
「よかった」
 けど、貴明は笑う。その表情が、あまりにも嬉しそうで。
「ずっと気にしてたんだ。この辺に店を出したって知った時から、そのうち来てもらおうと思っててさ」
 さっきは忘れかけてたけどね、と付け加える。その無邪気な口調と笑顔に。

「……ありがと」
 つい、私は素直になりすぎて、簡単すぎる台詞を口にした。失敗。

「……」
 貴明が、黙って私を見た。 
「……」
 何よ、そう言い掛けて、私はいったん口をつぐむ。これも、失敗。
「「……」」
 二人揃って沈黙。
 妙な空気が、場に流れている。
 どうしよう。いや、落ち着きなさい郁乃。こういうときは、溜息ひとつ。
「……それで、用件だけど」
「郁乃ちゃんっ!」
 体勢を立て直して本題を切りだそうとした瞬間、貴明の方からも思い切って出したような声が被る。
「な、なに?」
 勢いの差で、つい譲ってしまう私。それが、最後の失敗。
 そして、貴明は、再び逡巡して、妙に深く息を吸ってから、こう言った。

「俺、その、郁乃ちゃんのこと、好き、だ、と、思う」

158:めーぷる☆しろっぷ 第5話「スイーツ(涙)」11/12
08/07/21 00:05:03 PYRPpvf/0

 なんだ、これは。

「最初に会った時は、怒られたし、男の子だと思ったりしたけど」
 こいつは、何を言ってるんだ。
「何度も会ってるうちに、その、何故か気になって」
 私は、何を聞いてるんだ。
「俺、女の子の知り合いって多いんだけど、他の誰とも違う感じで、よく分からなかったんだけど」
 私は、何をしてきたんだ。
「一緒に喋ったり、遊びに行ったりして、終わると、また話たいなって思うようになって」
 曖昧だったのは、誰だ。
「会って一ヶ月足らずで、何が分かるって言われそうだけど」
 迂闊だったのは、誰だ。
「でも、今の気持ちは、嘘じゃないと思うから」

「うん、俺、やっぱり、郁乃ちゃんが好きだ」
 何も分かっていなかったのは、なんのことはない、姉でも貴明でもなく、私だったんだ。

 風が通り抜けたのに、音が聞こえない。
 空が茜に染まるのに、光の色を感じない。
 街が夕暮れに向かうなか、私の周囲だけ、時間が止まってしまったよう。

 それでも、私は答えなければいけない。
「わ、私は……」
 私の答えは決まってる。最初から、私の目的は決まっていたのだから。
「私は……」
 アンタなんか嫌い、そう言ってしまえばいい。貴明は、それも覚悟してる筈。私の罪悪感は、私の自業自得。
「……」
 ああもう、なんだ、こんな時に、私は嘘がつけなかった。私の答えは決まってる。だけど、私は嘘がつけなかった。

「私には、好きな人がいるからっ!」
 それで私は、そう叫んで、逃げるように車椅子を走らせた。

159:名無しさんだよもん
08/07/21 00:05:24 niVAjwBx0
関係ないけど、メロンパンにメロンを使うと
あのツンデレさんが怒るかな?

160:めーぷる☆しろっぷ 第5話「スイーツ(涙)」12/12
08/07/21 00:08:37 PYRPpvf/0

 最初に会った時、理不尽に怒った。
 何度か話をして、悪い奴じゃないと思った。一緒の時間を過ごすと、いつも調子が狂った。
 それでも何故だか、また会って話がしたいと、そう思うようになった。

 私は、あまり男の子の知り合いは多くない。
 その感情がなんなのか、自分でもよく分からなかった。
「……バカ過ぎるわ」
 坂道をノーブレーキで下りながら、自分に呆れる。
 流れていく風景が滲む。舗装の凹凸から伝わる振動がぼんやり身体に吸収されて、反動で頬から何かが流れた。

 もっと早く、気付くべきだった。
 貴明の言動にその可能性を見ていれば、私の取るべき対処は幾らでもあった。
 自分の言動を冷静に観察していれば、途中で引き返す道は幾らでもあった。
 曖昧さと鈍感さの代償を、私は自分自身と、罪のない貴明に負わせる事になってしまった。

「まあ、結論は一緒かぁ」
 私はそう呟いて、無理矢理自分を納得させる。
 そう、私はそもそも、自分と貴明の恋愛関係を否定する為に奴を呼び出したのだ。
 貴明の感情が私に向いていたというのは予定外だったが、その点での結末は変わらない。

“私には、好きな人がいるから。”
 貴明に言った言葉は嘘じゃない。私には、好きな人がいる。
 幼い時から、私を護って、私に遠慮して、私の為に犠牲になってくれた人。
 傷つけもしたし、意地悪もしたけど、それでも優しくあり続けた、私のお姉ちゃん。

 お姉ちゃんには、明るく居て欲しい。お姉ちゃんには、お人好しで居て欲しい。
 勝手な言い草だけど、私はお姉ちゃんには、暗い感情を持って欲しくない。
 私は、お姉ちゃんが好き。

 だから、さよなら。
 さよなら、河野貴明。私が初めて、好きになった男の子。

161:名無しさんだよもん
08/07/21 00:10:17 PYRPpvf/0
以上です。支援ありがとうございました。
次回最終話「Triangle Heart」

162:名無しさんだよもん
08/07/21 00:16:28 mtpcWa/o0
>>161
GJ
三角関係はいいですね
最終話の副題にもうドキドキですよ

163:名無しさんだよもん
08/07/21 00:26:41 ZaBs8tMg0
>>161
乙です。最終回もwktkして待ってます

164:名無しさんだよもん
08/07/23 14:48:16 rcHkaMid0
というか最終話の副題が某魔砲少女の原作エロゲに・・・

165:TONEET
08/07/23 19:56:05 LVeJi9jE0
あちい・・・なぁ、プールでも行かないか。
あーいいかもな。でもプールって言うといい予感がしないんだ。
そうか・・・そうだよな・・・そうだよな・・・そう・・・くそおおおおおぉ何でだよおかしいだろ何がいい予感がしないだ。わけわかんねぇよこの恋愛ブルジョアが!

166:138
08/07/25 20:13:44 gEpS4tZr0
 
 しばらくお休みすると言っときながら、またまた投下します。
 よく考えたら、来月後半の方が、忙しかったりするので。
 なかなか先に進まないので、ちょいと巻き入れたせいか、展開が急すぎたりしますが。
 それでは、宜しくお願いします。

167:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(後)(1/13)
08/07/25 20:19:00 819oZGHU0
 
 白が基調のやや無味乾燥然としたHM開発室。その一角の卓上に置かれたアンケート用紙の束を、開発室での単純事務
に従事しているメイドロボが、素早くめくって回答内容を目に収めながら、パチパチとPCのキーボードを叩き、入力している。
 彼女はHM-12“フィール”型で、イヤーバイザーの形が、現行主力機リオンに比べやや大きく、角のように上方に大きく突出
しているのが目立ったところだ。
 その傍らの席には、HM開発室主任、東吾邦昭が足を組んで座っており、書類を手にした彼の、丸眼鏡の奥に覗く切れ長
の鋭い視線が、作業中のフィールの挙動を冷ややかに眺めている。
 “単純事務に使うんなら、メイドロボはやや旧いタイプの方が使いやすい。余計な事は一切しないからな。PCのOSも、新しく
なる程、デコレーティブになって扱い難いのと同じだ。”
 そんな事を考えながら、やはりそのフィールがついできた、既に冷えているコーヒーを自分の卓から取って、すする。 

 音もなく開いた扉をくぐり室内に足を踏み入れた、開発室の主、長瀬源五郎は、東吾と、その傍らの専属の事務処理用の
メイドロボが座する席の卓上の、アンケート用紙の束を目に収めると、口を開いた。
 「東吾主任、アンケートかね、あの学校で実施した?」
 そうですよ、と、東吾。
 HM-12の足元には、アンケートを収めて送られて来たダンボール箱が転がっていて、貼られた宅配伝票の依頼主欄には、
“向坂 環”の文字が見える。

168:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(後)(2/13)
08/07/25 20:19:50 819oZGHU0
 
 「今度市場投入するHMはDIA搭載モデルだからね。今まで以上に、オーナーのプライベートに関わる可能性大だ。逆に、
違和感を感じる向きも多いだろう。極限なまでに人間臭いメイドロボがどのように受け入れられるかは、ミルファの通う学校
での周囲の反応を見るのが一番手っ取り早いじゃないか。はからずもミルファの正体が知れてしまった事で、当初の予定
よりも早く実施出来たわけだがね。で、どんな按配だい、東吾君?」
 HM-12が入力作業中のPCのモニタ画面を覗き込みながら、長瀬が訊ねる。

 東吾は既に入力を終えて積み重ねられていたアンケート用紙を数枚掴み、パンパンと叩いて言った。
 「おおむね上々ですよ、室長、いや上席主任殿。まぁそもそも、ミルファがロボットだと気付かずに過してる生徒も多いわけ
ですから、どの程度までDIA搭載機への印象が反映されてるかは正直わかりませんが。ロボットへの固定観念的な見方も、
回答には多々反映されてると考えられますね。」

 「ふーむ。実のところ、このアンケートもあまり参考にはならんという事か?」
 アンケートの一枚を手にし、考え込む長瀬。

169:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(後)(3/13)
08/07/25 20:21:16 819oZGHU0
 
 「― 事前の市場意識調査も大事ですが、まずは、世に出してインパクトを与えてしまう事が肝心なのでは?」と、東吾。
 「ひとたび市場に投入されてしまえば、友人として恋人として愛すべき隣人として、もう彼女達を遠ざける事なんか、まず
出来っこないでしょうよ。とにかく売って、オーナーにならせてみて、既成事実を積み上げる事です。」

 まあ、そうだろうな、と頷く長瀬。そうなれば、ホールディングス本社の頑迷な役員共への意趣返しともなろうものだ――
 あとは肝心の、市場投入型DIAの試験結果次第だが ――

 「東吾君、リナの状態はどうだ?姫百合君から何か連絡は?」
 「リナ?― ああ、『イブ』の事ですな。HM-16タイプEの。」
 ― それが、市場投入型DIAの、開発コードネームだった。
 「まだ特には。若干のバグが懸念されるんですが。むしろ早く症状が出てくれる方が助かる。なんにせよ、制限方DIAの方
が、例の米軍のアンドロイド用に作った改変型三原則よりは、遥かに楽勝でしたよ。」

 その最後の一言を聞くと、長瀬の眉がピクリと吊り上り、急に険しい表情になる。
 「東吾君、頼むからその話題はやめてくれ。あれは黒歴史だ。全く、篁グループなんぞに対抗して余計な事を手伝わされた
もんだよ。」

 おっと、これは失礼を、と、東吾。
そして、意味深に言う ―
 「そうですね。あれは忘れましょう。不愉快な事、都合の悪い事は、忘れてしまうのが一番ですな。忘れて・・・・・ 」

170:名無しさんだよもん
08/07/25 20:21:51 t495vVA90
支援

171:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(後)(4/13)
08/07/25 20:23:16 819oZGHU0
 
―――

 あくる朝、貴明は目覚めると、部屋の中に漂う寒気に思わず身震いした。
 もう冬に差し掛かろうという時期に、迂闊にも貴明はベッドの中で素っ裸。
 隣ではミルファがやはり全裸姿で寝ていたが、ほどなく目を覚ますと、ベッドから抜け出せずブルブル震えている貴明に
気付いた。
 「あれ・・・・ダーリン、寒いの?あっためてあげよっか~☆」
 と言って、そのむき出しの乳房を貴明の背にムニュっと押し付ける。
 "あの、ミルファさん、朝から、ちょっと刺激強すぎるんですが。確かにあったまりますけど・・・・"とは、貴明の心中の声。

 ドンドン、と、入口の扉を叩く音がする。
 「ご主人様!らめらめらめっ子ご主人様!おぽんちミルミル!朝なのれす!遅刻するれすよ!」
 働き者のシルファが、キリギリスの二人を起こしにやって来た。
 んもう、うっさいなぁ、と愚痴るミルファ。「ダーリン、ほっとこう。勉強してて遅かったんだから。もうちょっと寝てよ☆」
 しびれを切らして扉を開けようとするシルファ。
 ― しかし、施錠されている。ミルファがかけたものらしかったが。
 ムッとして、ノブを握る手に"フンッ"と力を込める ―― バキンッ!と、鈍い音を発して、ドアノブが外れてしまった。
 "あっ! ― し、 しまったのれす。れも、こんな姑息な事をするミルミルが悪いのれすよ ― "
 部屋の中に入り、貴明とミルファの寝るベッドを覗い見ると、また寝入ってしまったのか、布団で隠れて顔は見えないものの、
スースーと寝息が聞こえる。
 「まったく、しょうがないれすね・・・・」
 と、部屋の端まで歩いていくシルファ。
 そして、スーッと息を吸ってから、腰を低く落とし、掛け声を上げて、一気に跳躍した。
 「ちぇすとぉ―っ!!」
 シルファの必殺ニードロップが、貴明達のベッドに向かって宙を切り裂き飛びかかっていく。

172:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(後)(5/13)
08/07/25 20:25:47 819oZGHU0
 
 それとほぼ同時、ミルファはやおら、貴明の体を抱えてベッドから瞬時に跳ね起き、一方の手で掴んだ布団を、飛び掛って
くるシルファに向かってぶわっと投げ飛ばした。
 
 「ぴぎゃっ!?」
 突如視界を遮った布団に包まれた状態で、、シルファの体は、貴明のベッドにズボッ!!と音を立てて突き刺さった。
 勢い余って一回転し、ドシンと壁にもぶつかる。バラバラと棚からモノが床にこぼれ落ちた。
 その威力を目の当たりにして、"ひぃぃぃぃ・・・っ"と、寒気とは関係なく、貴明は震え上がる。
 「ちっ、逃げられたれすか・・・・」と、むっくりと立ち上がるシルファ。
 「このひっきーっ!!あんた、手加減ってもんを知らないのっ!ダーリン殺す気!?」と、腰に手を当ててシルファを睨みつける
ミルファ。
 「もーまんたいれす。ターゲットはミルミルらけれすから。」 シルファも負けじと睨み返す。
 「らめっ子ご主人様に怠け者ミルミル。最悪の組み合わせれす。手遅れになる前に、印ろう渡すつもりらったのに」
 そして、ゆらりと、ミルファ達に歩み寄ってくる。
 「― もう許せないっ!ひっきーっ!今日こそ決着つけてやるんだからっ!!」
 ミルファは、いつの間に覚えたか、カポエイラの構えをとった ―― すっぽんぽんの姿で。
 「あ、あの・・・・ミルファちゃん、とりあえず、服着ようよ・・・・恥ずかしいし」 と言って、何とか止めようとする貴明であった
が・・・・
 「問題ないよ。ダーリン以外に、この世に目撃者は残さないつもりだから。」などと、ミルファは物騒な事を言っている。
 ぶるぶると身震いを強いられながら、貴明は、仲裁しようとうまい文句はないものかと頭の中をまさぐった。

173:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(後)(6/13)
08/07/25 20:27:43 819oZGHU0
 
 とりあえず、時間稼ぎで ――
 「い、イルファさん、呼んじゃおうかなっ!」
 貴明は携帯電話を手に取った。
 しかし、ミルファとシルファは動じる気配が無い。
 「大丈夫、こっち来る前に決着付けるから。」
 「卑怯者れ色ぼけのイルイルなんて、全然怖くないのれす。」

 「― そうですか・・・・なら、仕方ありませんね・・・・」
 ギョッとする3人。声に振り返ると、何と、イルファが、貴明のベッドの下から、ズルズルと這い出してきた。
 シルファのニードロップがヒットしたらしく、尻を押さえていたが。
 「ひぃぃっ!お、お姉ちゃんっ!?」
 「ぴぃっ!イ、イルイルッ!?」
 「ミルファちゃん、シルファちゃん、そこに正座しなさい・・・・」

174:名無しさんだよもん
08/07/25 20:27:58 t495vVA90
支援

175:いわゆる普通のメイドロボ 第四話(後)(7/13)
08/07/25 20:29:16 819oZGHU0
 

 ―――

起床時の騒動のせいで、結局、何も腹に収めずに登校していた貴明。
 グルルル・・・と、空腹が鳴る。ぐったりして机に突っ伏す。
 ミルファは、イルファのお仕置き(?)、のせいで、まだ頭がくらくらしている模様。うつろな目で天井を仰いでいた。 

 「河野くん・・・・大丈夫?」
 愛佳が貴明の顔を覗き込む。ああ、平気、平気だからと、貴明。
 クラスの他の生徒は、河野旦那と河野夫人、夜のスポーツに興じすぎて精根尽き果てたか、と、ヒソヒソ噂する。
 「ごめんね、河野くん。郁乃が、酷いこと言って・・・・」
 ハッとして貴明は頭を上げた。見ると、愛佳は、深々と頭を下げている。
 いや、その、そんな、やめてよ、いいんちょ、と、慌てて身をそらした。

 一方、雄二は、ひどくご機嫌な様子で、鼻歌なども出ている。
 ここのところ、雄二は必ず姫百合家に立ち寄ってリナの作った弁当を受け取ってから登校するので、貴明と顔を合わす
のは、学校に来てからになっていた。
 愛佳との気まずい雰囲気から逃れる意味もあって、貴明は雄二に声を掛ける。
 「おい、雄二。随分陽気じゃないか。」
 ― おおよっ!よくぞ聞いてくれたっ!と、雄二。
 「今度の日曜な、いよいよ、リナちゃんとデートだぜっ!!遂に、遂に俺にも遅い春がっ!」 そう言って、Vサイン。
 実際の季節は既に冬であったが。
 「そうか、よかったじゃないか、雄二。」 友人の喜ぶ様子を見て、貴明もそれなりに満足した。


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