08/02/29 07:46:38 0Ka5/nCG0
「お、おじゃましまぁす……」
おそるおそる……といった様子で玄関のドアから顔を覗かせるのは、われらが『いいんちょ』こと小牧愛佳。
そして何故かその背後に立つのは。
「なんだ、お前も来てるのかよ」
大人しい姉とは性格は正反対。
生意気で口が悪くて、性根が腐って……
「なによ?」
「別にお前を呼んだ覚えは無いんだけどな」
「お邪魔だったわけ?
日曜の朝から一人住まいの自宅に姉を呼び出して。いったい何を企んでいるかと思ってついてきてみれば……」
相変わらずの冷たい目で俺を睨んで郁乃は一言。
「いやらしい」
……今日一日でこのセリフを何度聞いたことか。
なんでこいつにまでこんなことを言われなきゃならんのだ?
いっとくが、お前をそんな眼で見たことは一度だってないからな。
「ないない。別に下心があって、愛佳を呼び出したわけじゃないって」
「そ、そうなんだ……全然無いんだ……」
と、何故かがっかりしたような愛佳の声。
151:箱入り娘が届いたら 22/51
08/02/29 07:47:12 0Ka5/nCG0
「ふーん、別に姉には興味は無いの? だったら別にいいけどね」
「……そうなの? 貴明くん」
な、なんでそんなことを聞くんだよ……
「だからさ。俺はちゃんと目的があって愛佳に来てもらったんだってば。
そうだ。せっかくだから郁乃も協力してくれよ」
「でも……わたしなんかに何が出来るのか……」
「なんであたしがそんなことをしなくちゃいけないわけ?」
自信なさげに困惑している様子の愛佳と、不機嫌に睨みつけてくる郁乃に俺は頭を下げる。
「俺の大切な友達が困ってるんだ。
だから、頼む」
愛佳と郁乃は顔を見合わせて……頷いてくれた。
「うん……貴明くんにとって、大事なことなんだよね。
わかりました。あたしに出来ることなら」
「……ま、別にいいけど」
「よし。じゃあ、さっそく本人に会ってくれ。
ちょっと気難しいところもあるけど……根はいい子だからさ」
152:箱入り娘が届いたら 23/51
08/02/29 07:48:35 0Ka5/nCG0
「わっ?? た、貴明さん、その方たちは誰なのれす?」
「初めましてシルファさん。
あたし、貴明くんのクラスメイトで小牧愛佳っていいます」
「あたしは妹の郁乃。よろしく」
「ま、また知らない人が増えたのれす…… いったいなんなのれすか??」
リビングに訪れた愛佳と郁乃を見て、またおどおどし始める様子のシルファだった。
この子、よっぽど人に会うのが苦手らしい。
「愛佳が料理をシルファに教えてくれるんだよ。
俺よりもずっと心強いだろ?」
「じゃあ……このお姉さんに教わって、ご主人様のエサを作ればいいのれすか?」
「え、エサって……あの……その言い方はちょっと……」
「ねえ……これのどこが”根はいい子”なのよ、貴明?」
俺を睨み付ける郁乃の瞳は極限に冷たい。
「い、いやあ……この子は言葉遣いを知らないだけだって……多分」
言い訳する言葉が苦しいのが、自分でも分かるほどだ。
でも、本当はいい娘だと……思うんだけどなあ?
まあこうして愛佳を先生役に、キッチンでシルファの料理の特訓は始まったのだけれど。
その成果はといえば……
153:箱入り娘が届いたら 24/51
08/02/29 07:49:12 0Ka5/nCG0
「ぜんっぜんダメね」
テーブルに並んだ料理の失敗作……というよりも食材の残骸を眺めて郁乃は一言。
「いや……そこまで言わんでも」
しかし、正直なところ内心では俺の意見は郁乃とまったく同じだった。
それもシルファの上達が遅いとか、そういうレベルの問題ではないのだ。
「だいたい、メイドロボにかかる費用的負担を考えれば、高級ホテルの食事を毎日食べることも余裕なのれす。
それなのにメイドロボに料理を作らせるなんて、経済的にはとてつもなく無駄なことなのれす。
こんなことをする意味が、シルファにはまったく分からないのれす」
「は、はあ……」
さっきからのシルファはこんなことばかり言って、やる気というものがまったく感じられない。
愛佳は困り顔でシルファの言葉にいちいち相槌をうつばかり。
おかげで料理の練習は全然進まない。
「もう、いいのれす。
シルファには先生は必要ないことが、よく分かったのれす
これ以上、無関係なお姉さんと郁乃に迷惑を掛けるのは筋違いというものれす」
そう言ってついに練習まで放り出してしまった。
キッチンを飛び出してしまうシルファ。
「お、おい。どこへ行くんだよ?」
「ちょっとパソコンをお借りしますれす」
イルファに続いて俺達が向かったのは二階の俺の部屋。
パソコンのスイッチを入れ、ネットプラウザからメイドロボ関連の総合サイトを呼び出した。
154:箱入り娘が届いたら 25/51
08/02/29 07:49:57 0Ka5/nCG0
「来栖川データベースにアクセスして、料理用アプリケーションをダウンロードするのれす。
費用は少しだけかかりますけれど、このまま材料を無駄使いして料理を作るよりも、ずっと安くあがるはずなのれす」
「いや、それはそうかもしれないが……」
「すぐにプロ並の料理も作れるようになりますから。
それが一番いい方法なのれす」
「うーん……」
なるほど、効率優先で考えればそういうことになるのだろう。
でも、それでいいんだろうか。
そんなことが目的であれば、珊瑚ちゃんは俺の家に彼女をここに送りつけたりはしなかったはずだ。
こんな形でこの問題を終わらせてしまっていいのか?
「ダメよ!」
俺の感情を強く代弁するかのように、隣で黙って見ていた郁乃が叫んだ。
「あんた、そんなやり方でいいと思ってるの?
赤の他人がここまで付き合ってあげたっていうのに、あっさり逃避してどうすんのよ!」
「逃避……れすか?」
「そうよ! そういう諦め方は、せめてやるべきことをやってからの話でしょ。
まだあんたはなんにもやってないじゃない」
「どうして……郁乃は怒っているのれすか?
シルファには、わからないのれす」
シルファは心底不思議そうな顔で呟く。
155:箱入り娘が届いたら 26/51
08/02/29 07:50:32 0Ka5/nCG0
「ど、どうしてって……」
「郁乃はシルファに関わるのが面倒なのでしょう?
シルファは、愛佳も郁乃も楽になれる提案をしただけなのれす。
それのどこがいけなかったのでしょうか?」
「そ、そりゃそうだけど……で、でも、あんたねえ……」
郁乃が気圧されたように黙り込む。
それはシルファの嫌味に引いたのではない。
シルファの言葉にはそんな感情はまったく無かったのだ。
愛佳も俺も、そんなイルファになんと言えばいいのか全く分からない。
「……みんな、ちょっと休憩しよう。話はそれからだ」
「そうね……」
シルファを除けば、自分も含めて熱くなっていた。
その熱をまず冷ます必要がある。
「シルファも。
まだ料理レシピのダウンロードはしないでくれ。
これからのことは、みんなで話し合ってから決めよう。いいね?」
「は、はいなのれす。
みなさんがそれでいいというのなら、シルファはそれで構わないのれす」
「シルファもどっかで好きに休んでてくれ。またあとでな」
「はい……」
156:箱入り娘がの作者
08/02/29 07:52:07 0Ka5/nCG0
この辺りで中断させて下さい。
申し訳ないですが、続きは今夜以降にさせていただきます。
157:名無しさんだよもん
08/02/29 08:17:26 aADF4W5e0
おつおつ!
158:名無しさんだよもん
08/02/29 14:59:05 voK6luS/0
掲示板の方で読ませてもらったよー。ネタバレになるから感想は投下終わってからにするけど。
とりあえず乙。
ところで、あの掲示板は他の書き手も使わせてもらって良いのかい?
さるさんが猛威を振るってる現状だと凄く便利なんだが。
159:名無しさんだよもん
08/02/29 18:09:07 MmnglVJp0
117だけど
去るさんゆるくなってるっぽいよ
前は夜に投下してもきっちり10レスでひっかかったんだが
今回投下したときはなぜか引っかからなかった
書き込むペースも前と同じだったんだけど…
160:名無しさんだよもん
08/02/29 20:51:25 PXSk6w0a0
>>155
イルファさん発見!!
161:箱入り娘がの作者
08/02/29 21:41:10 0Ka5/nCG0
昨日の晩からSSを投下してる者です。
今帰ってきたので続きを投下します。
書き込みが止まったら規制でストップしたものとみて、
スレを通常進行させて下さい。
>>158
便利に使っていただけるなら嬉しいことです。
ぜひどなたでもご自由に使って下さい。
>>159
自分が投稿したときは10スレ程度で止まってしまいます。
その代わり投稿再開は少し早くなってる気もします。
>>160
大変失礼しました。
162:箱入り娘が届いたら 27/51
08/02/29 21:43:12 0Ka5/nCG0
釈然としない気持ちを抱えたまま、俺達は部屋を引き上げていく。
シルファを二階の俺の部屋へと残し、愛佳と郁乃と俺とは1階のリビングで話し合うことにした。
愛佳がいれてくれた紅茶のカップを手にしてとりあえず一息。
「あの、料理を教えるの上手くいかなくてごめんなさい……」
いくぶん疲労のこもった声で愛佳が謝っている。
でも、もちろん愛佳に責任なんてない。
「いや、愛佳が謝ることなんてないから」
短い時間でかなり疲労した様子の愛佳を励ましつつも……
実際俺も疲れたな。ほとんど何もやってないのに、シルファたちを見守っているだけでも妙に疲れたよ……
「言っとくけど、上手くいかないのは姉のせいじゃないからね」
「分かってるよ。愛佳はよくやってくれてる」
「貴明には悪いけど……あの子に何を教えても無駄なんじゃないの?
本人にやる気が無いんじゃどうにもならないわよ」
「でも……」
郁乃の指摘に反論できる言葉が俺にはない。
ないんだけど、でも……
それでもまだ諦めたくないと思える自分の感情は、何処からくるものなんだろうか。
「納得いかないって、顔してるわね。結局、あんたはどうしたいのよ?」
「うん、上手く言えないんだけどさ……」
シルファのことを諦めきれない理由。
言葉に出来ない俺の気持ちを、それでも説明し始めようとしたその時。
163:箱入り娘が届いたら 28/51
08/02/29 21:43:39 0Ka5/nCG0
「……しく……」
と、俺の耳に微かに誰かの声が聞こえたような気がした。
「あれ、今なにか聞こえなかった?」
「ん、誰かの泣き声みたいな……」
「ああ。俺にも聞こえた」
どうやら愛佳も俺と同じ声を聞いたようだ。
耳を澄ますと、すすり泣くような微かな泣き声は玄関の方から聞こえてくるようだ。
ここに居る愛佳と郁乃を除いて、この家に居る人物はあとひとり。
つまりこの泣き声の持ち主は、
「行ってみよう……静かにな?」
「うん……」
三人で連なってしのび足。
1階廊下の先。
玄関の手前で先導する愛佳が足を止める。
(そこに居る?)
(うん)
廊下の角からこっそりと覗き込むと、そこに思った通りの少女の姿。
玄関先でうずくまって、彼女はあのダンボールを抱きしめていた。
ダンボールの箱に隅っこには黒のサインペンで
”しるふぁのいえ”
と書かれている。
164:箱入り娘が届いたら 29/51
08/02/29 21:44:02 0Ka5/nCG0
「あれがあの子の家?? なんであの子はダンボールを抱いてるわけ? 貴明、あんたには理由が分かるの?」
「いや、はっきりとは分からんけど……
でも、昨日の夜もシルファは俺が用意した客間には泊まらないで、あのダンボールの中に引き篭もってたな」
「そうだったの? でもどうしてなんだろう?」
そんなとこで寝たら風邪ひいちゃいそうだね……と、的はずれな心配をする愛佳。
話がずれるから姉は口挟まないで、と瞳で睨みつける郁乃。
「俺の想像でしかないけど。
シルファはこのダンボールに包まれてこの家に送られてきたんだよ。だから……」
そしてきっとシルファをあのダンボールに包み込んだのは、イルファさんやミルファの仕事なのだろう。
或いは珊瑚ちゃんか、瑠璃ちゃんなのかもしれない。
だから、あのダンボールは今のシルファにとってたった一つの”家”なのだろう。
「珊瑚さま……シルファお姉さま……どうして、シルファのことを捨ててしまったのれすか……?
きっと、きっとシルファが無能だから……見捨てられてしまったのれすか……?」
そして、シルファの本当に帰りたい家は……
「くすん……お家に帰りたいのです。珊瑚さまのお側に戻りたいのです……」
「あたし、シルファがなんでやる気無いのか分かった気がする」
ダンボールにしがみついて泣いているシルファの背中を見つめながら、郁乃がぽつりと呟いた。
「シルファは、その珊瑚って人から捨てられたと思ってるんだね。
持ち主に捨てられて、『他所でしっかりやれ』って言われても、そりゃあ納得できないだろうし」
「そうだねえ……」
165:箱入り娘が届いたら 30/51
08/02/29 21:44:24 0Ka5/nCG0
愛佳が合点した様子で頷く。
俺にもその分析は正しいのだろうと思えた。
シルファはご主人様が望むことなら頑張ると言ったけど、本心では見捨てられた気持ちで塞ぎ込んでいるのだろう。
「で、どうなの貴明。珊瑚っていう人は本当にあの子を捨てたの?」
振り返る郁乃が、いくぶん厳しさ含んだ瞳で問いかける。
俺はきっぱりと答えた。
「ちがうよ。珊瑚ちゃんはシルファを捨てたりなんか絶対にしない」
「そう。よかった」
そう聞いて郁乃の表情が和らいだ。
なんだ。一応シルファのことも心配してくれてるんだな。
と次の瞬間、俺の感情を察したかのように郁乃はそっぽを向いた。
まったく、なんでこいつはこうも素直じゃないのだろう。
「自分が捨てられたわけじゃないって……この特訓にもちゃんと意味があるんだって、まずシルファさんに分かって貰わないといけないよね」
「そうだな」
愛佳の意見に俺は頷いた。
きっと、それが一番大切なことだ。
「でもそう簡単に納得出来ることじゃないかもね。あの子、顔に似合わず結構頑固そうだし」
「どんな話をしたら、そのことを分かってくれるのかな?」
「どうなの、貴明。あんたはあの子の気持ちを動かす言葉を持ってる?」
「……」
166:箱入り娘が届いたら 31/51
08/02/29 21:44:46 0Ka5/nCG0
それはもちろん……
「そんな言葉、持っているはずがない」
「そうよね」
俺はそんなに器用じゃない。
いや、人間はそんなに器用じゃあない。
「でもほっとけないんだ」
女の子が苦手なくせに、ほおっておけない。
だって、女の子が泣いたり、笑ったり。悲しんだり喜んだり、そんな顔を見るだけで心が落ち着かなくなってしまう。
もう俺はそういう人間なのだろう。
それとも、放っておけないからから、かえって女の子が苦手になってしまうのかもな。
案外そんなものかもしれない。
女の子と深く関わらなければ、後で困ることもない。
涙をみたり、悩みを知ったりしたらもう捨てておけなくなるから、その前に逃げ出してしまうのだ。
「でももう遅いよな……」
もう十分過ぎるほど俺はあの女の子と関わってしまった。
なにしろいきなりダンボール詰めで送られてきてしまったのだから。
なにも知らずに箱を開いたら、いきなり彼女は泣き出した。
だから逃げる暇なんてなかった。
「俺、イルファと話してくるよ」
「うん、頑張ってね、貴明くん」
「しっかりやんなさいよ」
167:箱入り娘が届いたら 32/51
08/02/29 21:45:08 0Ka5/nCG0
俺はこっそり隠れていたことを気付かれないように、
なるべく自然な感じを装ってシルファの背中に近づいた。
「シルファ、今いいか?」
「あっ……貴明さん……な、なんれすか?」
しがみついていたダンボールを慌てて背中に隠して。
シルファは俺の方に向き直った。
「あの、もう休憩は終わりですか。みなさんのお話はまとまったのれすか?」
「まあそうだね」
いったい話をどう切り出していいものか。
俺は迷った末、当たり障りの無いことから聞いてみることにした。
「なあ、シルファは……料理が上手になったらまず誰に食べてもらいたい?」
「料理……ですか??」
シルファは何故か不思議そうな顔。
「やっぱり珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんかな?」
「わたしは……」
それは俺にとって回答は半ば想像出来ていたはずの質問だった。
それなのに、シルファは少しばかり迷った表情を見せ……
168:箱入り娘が届いたら 33/51
08/02/29 21:45:30 0Ka5/nCG0
「貴明さんに、一番に食べてもらおうかな……とも思うのれす」
「えええ???」
「もし貴明さまが満足するくらい料理が上手になれたら……わたしをお側に置いてくださいませんか??」
「いや……それはその……」
それは想いも寄らなかった答え。
「貴明さんが誘拐したくなるくらいシルファのことが欲しいなら……
シルファのご主人様が貴明さまでも別にいいのれす」
「いや、誘拐してないって言ってるじゃないか」
……というか、そういうボケをかましてる場合じゃないし。
「ちょっと待ってよ。君は料理の特訓を頑張って、珊瑚ちゃんのところに戻るんじゃないのか?」
「でも……珊瑚さまは、シルファのことを見捨ててしまったのかもしれません」
シルファは寂しそうにそう呟いた。
やっぱりこの子はそう思っていたのか。
「きっと、シルファよりも大切なものが出来たのれす。シルファのことなんて、もう必要なくなってしまったのです」
「もしそれが本当だとしても、シルファはそれでいいのか?」
「それは……仕方の無いことなのれす。
珊瑚さまがシルファより楽しく過ごせるおともだちが出来て……
それでシルファがいらなくなったというのなら。
シルファに出来ることは、出来る限り珊瑚さまのじゃまにならないように努力することだけれす……
だからもう、新しい居場所を見つけるしかないのれす」
169:箱入り娘が届いたら 34/51
08/02/29 21:46:18 0Ka5/nCG0
シルファはいつのまにか微笑んでる。
それはなぜか見覚えのある笑顔だった。
「今日からは、シルファは貴明さんをご主人さまだと思って頑張ります。
だからシルファをよろしくお願いしますね」
「その笑顔は、シルファの笑顔じゃないね」
「え……」
「その笑顔、今朝も見せてくれた笑顔だったね。
俺に宜しくって言ってくれたときにも笑っていたけど。
その時の笑顔と、今の笑顔は同じだ……すごく綺麗だけどさ、本当のシルファの素顔じゃないんだよね?」
シルファは俺の言葉にとても驚いた顔。
彼女の大きな瞳がいっぱいに広がっている。
「分かるのれすか?」
「まあね」
「わたしもメイドロボの端くれれすから……接客用の基本動作プログラムくらいは標準装備しているのれす
そっきのは、去年の『メイドロボ笑顔コンテスト』で優勝した実績のある笑顔モーションだったんですけど……
貴明さんは満足されなかったのれすか?」
「コンテストねえ……」
あの笑顔がどこか不自然に見えてしまったのはそういうわけか。
「笑顔の違いが分かるなんて、貴明さまはそうとうなメイドロボマニアれすねえ」
「違うって」
雄二じゃあるまいし。俺にはそんな違いは分からない。
170:箱入り娘が届いたら 35/51
08/02/29 21:46:43 0Ka5/nCG0
「綺麗だと思ったよ。でもシルファの笑顔じゃないってことだけは分かるよ」
「そうれすか……」
「やっぱり、本心から笑えているはずもないよね?」
「……」
自分の口から、『違う』とは言えないのだろう。
俺には分からないけど、これがメイドロボの忠義なのだろうか?
いや、なんとなく違うように思う。
シルファがメイドロボだから、じゃなくて珊瑚ちゃんへの想い方だろうな。
「ねえ、シルファ。珊瑚ちゃんは、君のことを捨てたりなんかしないよ。それはシルファだって分かっているはずだよ」
「……珊瑚さまはお優しいから、シルファを捨てたりはしないかもしれません。
でも、シルファが珊瑚さまの重荷になってしまうのなら、それは同じことなのれす」
「重荷だなんて」
「いえ……」
シルファの手には、今朝俺が見せた珊瑚ちゃんとみんなの写真があった。
どうやらシルファはこの写真をずっと持っていたらしい。
「珊瑚さま、新しいお友達がいっぱい出来て。とっても楽しそうなのれす。
でも……その笑顔が、シルファには遠いのれす」
そして、その横顔に浮かび上がる感情がいまならはっきり分かる。
シルファは、寂しいんだ。
「わたしだけが、珊瑚さまのお友達になれると、そう思っていたのれす。
そして珊瑚さまのお友達も、わたしだけだと思っていたのれす。
珊瑚さまは、今でもシルファのことをとっても大切にしてくれます。
でも、この笑顔はシルファと二人きりのときとは違う……眩しい笑顔なのれす。
シルファはこんな珊瑚さまを今日まで知らなかったのれす……」
171:名無しさんだよもん
08/02/29 21:47:14 Syu/Orgy0
しえん
172:名無しさんだよもん
08/02/29 21:59:44 Jgh4IECJ0
さるさん出る前に5-6レス目くらいで支援した方がいいんかねぇ
173:箱入り娘が届いたら 36/51
08/02/29 22:06:06 0Ka5/nCG0
写真の中には、珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんが。イルファさんとミルファが。
雄二とタマ姉が仲良く写っていた。
でも、その中にシルファはいない。
「あの……やっぱり、珊瑚さまはシルファから離れてしまっているように……そう思えるのれす。
違いますか? 貴明さん」
「うん……」
ある意味で、シルファの言っていることは的を得ているように思う。
珊瑚ちゃんは新しい人間関係に足を踏み出そうとしている。
でも、シルファはその歩みに全くついていくことが出来ないでいるのだ。
だから、二人の距離は相対的に以前より広がってしまっていると言える。
もしかして珊瑚ちゃんはこのことを……
そう思ったとき、俺の頭の中に不意にひらめくものがあった。
「シルファ。君に見てもらいたいものがあるんだ。一緒に二階に行こう」
「は、はい? わっ、何をするのれす???」
戸惑うシルファの手を強引にとって、俺は彼女を二階の自室に引っ張っていく。
「さあ。これを見てくれ」
「これは……アルバムですね。まだ比較的新しいものれす」
「このアルバムは、珊瑚ちゃんたちと出会った頃からのものだよ。
他の写真も写ってるけどな」
174:箱入り娘が届いたら 37/51
08/02/29 22:06:36 0Ka5/nCG0
「そうなのれすか……でも、どうしてこのアルバムをシルファに?」
「珊瑚ちゃんに新しい友達がいっぱい増えたって言ったよね?
その通りだよ。そしてこのアルバムにはその歴史が納められている。
どんな風に珊瑚ちゃんがみんなと出会っていったか。
シルファには知って欲しい」
「……どうしてなのれす?」
「それは見れば分かると思うよ」
「んー、そういう意味深な言い方はやめてほしいのれすけど……」
シルファは少し迷ったように手を伸ばす。
まるで腫れ物に触るみたいに、アルバムの上をその小さな手がさまよう。
興味はあるけど、でも怖い……そんな感じ。
「……いいのです。それでは見てみるのれす」
でも、少しばかりの迷いの後でシルファははっきりとそう言った。
175:箱入り娘が届いたら 38/51
08/02/29 22:07:15 0Ka5/nCG0
「よし、じゃあ始めるか。
えと、俺が珊瑚ちゃん瑠璃ちゃんと会ったのは……この辺だな」
俺はアルバムをめくって目的の写真を探り出す。
「まずこれだ。まだ珊瑚ちゃんと俺が出会ってから間もない頃の写真だよ」
「へえ……ずっと昔の珊瑚さまたちなのれすか……」
シルファが興味深げに覗き込む。
珊瑚ちゃんたちの過去の姿、やっぱりシルファにとって気になることなんだろう。
アルバムを熱心に見つめるシルファのまなざしは子供のように純粋な輝きが感じられて、
ふと俺は微笑ましい気持ちになった。
「んー、なんだか瑠璃さまが怒ってるみたいれすね」
「そうだな。この頃、俺は瑠璃ちゃんには蹴っ飛ばされてばかりだった」
「瑠璃さまが? 貴明さまを蹴っ飛ばすのれすか??」
「そうれすか……そんな瑠璃さまを、シルファは見たことなかったのれす……」
いや、そんなとこに興味を持たなくていいから。
「……それは見なくていい。じゃあ次な」
アルバムのページをめくり、また次の写真へ。
「あっ。この写真にはイルファお姉さまがいるのれす」
「うん。俺たちがイルファさんと出会った頃の写真だな」
「シルファの気のせいでしょうか……なんだかみなさん難しいお顔をしているのれす……」
「気のせいじゃないよ。初めて会ったとき、俺達は仲良しじゃなかったんだ」
176:箱入り娘が届いたら 39/51
08/02/29 22:07:39 0Ka5/nCG0
この後すぐ、イルファさんが研究所に帰るって言い出したんだよな。
もしあのまま何もせずにいたら、どうなっていたことか。
きっと今のような関係を続けていくことは出来なかっただろう。
「お姉さま……瑠璃さまと喧嘩でもなされたのでしょうか?
瑠璃さまはイルファ姉さまをよく怒りますけど……でも、イルファ姉さまのこんな暗いお顔を見たのは初めてなのれす……」
「いろいろなことがあったんだ。いつかきっと、シルファにも話すよ」
「はい……」
さらにページをめくる。
この写真は、確かイルファさんのロケテストだっけか。
「この写真には、貴明さまは写ってらっしゃらないのれすね。
イルファ姉さまと、さっきの男の人と、女の方と……」
「この写真は雄二から貰ったものだよ。
以前、イルファさんが雄二の家にロケテストの為に滞在したことがあったんだ。
イルファさんとタマ姉はこの時初めて知り合ったんだよ」
もちろんタマ姉家でのことだから、俺には聞いた話でしかないけど。
なんでも『美人メイドロボと一つ屋根の下』というシチュエーションに暴走した雄二がイルファさん盗撮を狙ってなんども失敗したとか。
そのおかげでタマ姉とイルファさんは打ち解けたらしいから、怪我の功名というべきなのかな……?
いや、やっぱり雄二は許せないな。
よりにもよってイルファさんのお風呂姿をカメラに収めようとするなんて。
絶対に許しがたい。
「その時にタマ姉がイルファさんのこと気に入ったらしくて。
ほら、タマ姉は強引だからさ。
いつも俺や雄二を引っ張っていって、皆で野球をやったり旅行に出かけたりするんだけど、
その中にイルファさんも加わるようになって……そこから珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんも少しづつ巻き込まれていったんだ」
177:名無しさんだよもん
08/02/29 22:08:06 6yzPO7EQ0
支援
178:箱入り娘が届いたら 40/51
08/02/29 22:08:11 0Ka5/nCG0
「そうなのれすか……イルファ姉さまは、やっぱりすごいのれす」
「そうだね」
俺は頷いてまたページをめくる。
「そして、これが一番新しい写真だな」
「あっ、この写真にはミルファ姉さまがいるのれす。
しかも、また見たことも無い方がいっぱい写っているのれす……」
「このちっこいのがこのみ。
その隣にいるのがちゃるとよっちだよ」
「ふえええ……写真に収まりきらないくらいに人がいっぱいなのれす……
どうしてこんなにいっぱいの人が出てくるのれしょうか……??」
少々混乱した様子のシルファだった。
写真の変化の早さにシルファはついていけないらしい。
「ミルファは突然俺の家におしかけてきたんだよ。あの時はほんとに驚いたよ」
「そういえば、ミルファ姉さまがお家をしばらく空けたことがあったのれす……
あの時、貴明さまのお家に行ってらしたのれすか?」
「きっとそうだろうな。
で、ミルファが俺の家に住んでることがこのみにバレちゃって。
なんだか知らないけどこのみも俺の家に住むとか言い出すんだよ。
しかもちゃるやよっちまで『このみの援軍だ』とかわけのわからんことを言い出して俺の家に泊まりに来るし。
あの時は大変だったよ」
「貴明さまって……」
「なに?」
「いえ。罪深いおとこの方って、やっぱり自覚がないものなんれすね……」
なにやら理解したような顔で頷くシルファ。
179:箱入り娘が届いたら 41/51
08/02/29 22:08:39 0Ka5/nCG0
「でも……そのわりにはこの写真のお姉さまとこのみさんたちは、仲がよさげに見えるのれす」
シルファの言う通り、写真の中の少女達……
ミルファとこのみ。ちゃるとよっちはまるで女子高生同士がプリクラとか撮るみたいなバリバリの決めポーズで仲良く写真に収まっている。
そのばかばかしさはともかくとして、写真の彼女たちの仲の良さと騒々しさだけは見知らぬ人にも伝わるだろう。
そんな分かりやすい写真だった。
「なんでも戦いの中で女の友情が芽生えたらしい。俺にはさっぱりわからんが」
「そうれすかあ」
「なに? シルファは分かるの?」
「まあ一応。おんなのこには分かるんれすよ」
「ふーん……まあいいや。写真はこれで全部だよ」
俺はアルバムを閉じる。
閉じられたアルバムの表紙を見つめてなにやら物思いにふけるシルファに感想を求めた。
「シルファ、どうだった?
このアルバムを見て、何を感じた?」
「ええと……」
シルファは自分の考えを言葉にしようと戸惑っているみたいだった。
俺は答えを急がない。
「えっと……その……
シルファにとって驚きだったのは、多分……
イルファ姉さまやミルファ姉さまのお姿のことです。
珊瑚さまだけじゃなくて、イルファお姉さまやミルファお姉さままで。
こんなにも新しい方とお知り合いになって、仲良くしていらっしゃるなんて……全然知りませんでした」
180:箱入り娘が届いたら 42/51
08/02/29 22:09:05 0Ka5/nCG0
「うん、その通りだね。
俺が話したいのも、そのことだよ」
「はい?」
「珊瑚ちゃんには君の知るように沢山の新しい友達が出来たけど。
そのきっかけになってくれたのは、イルファさんやミルファなんだ。
二人が外の世界で色々な人と出会って、珊瑚ちゃんと知り合うきっかけを作ってくれたんじゃないかな」
「確かに……そうかもしれないのれす」
シルファは考え込むように呟き、そして不意に何かに気が付いたように顔を上げた。
「では、珊瑚さまはシルファにも姉さまたちのようになって欲しいと望んでいるのれしょうか?
それでシルファを貴明さんのお家に?」
「うーん、そこまで珊瑚ちゃんが計算してるかどうなのかは微妙なとこではあるけど……」
珊瑚ちゃんの行動が天然なのか計算なのかはよく分からないところがある。
それについては考えるだけ無駄かもしれない。
「でも、シルファに新しい友達が出来たら、珊瑚ちゃんはきっと喜んでくれると思うよ。
せっかくこうして外に出てきたんだし。
シルファもいろんな人と出会って、友達を作るといいよ」
俺の言葉に、しかしシルファの表情は微妙に固くなる。
「珊瑚さまの望むことなら叶えたいとは思うのれすけど……
でも、そんなことシルファにはできそうにないのれす」
「どうして?」
「友達って、どうしたら出来るのれしょうか? シルファには全然分からないのれす……」
「別に……普通に一緒に遊んだりとか……なんか適当に考えればいいよ」
「適当にって? そんなこと急に言われても、シルファにはなんにも思いつかないのれす」
「まあ……そうかなあ……」
181:箱入り娘が届いたら 43/51
08/02/29 22:09:30 0Ka5/nCG0
ずっと家に閉じこもりきりだった少女にしてみれば、それは難しいことなのだろうか。
俺にはぴんとこないなあ。
でもそうか、俺にもこのみやタマ姉や雄二が居なかったら。
全然知らない人ばかりの場所で、いきなりなにかを始めるっていうのは案外難しいのかもしれないな。
そう考えれば、確かにイルファさんやミルファはずいぶん頑張ったのだろう。
「お姉さまたちは、とてもすごいのれす。
シルファに同じことが出来るとは思えないのれす。
シルファには……お姉さまたちのことさえ、遠く見えてきたのれす……」
「確かに、イルファさんもミルファもすごくいい娘だからな」
でも、シルファだっていい娘だと思うけどな。
それにシルファは二人の妹じゃないか。
「遠くなんかないよ。大丈夫。シルファにだって同じことがきっと出来るよ」
「そんな……どうしてなのれす?」
「だって、シルファはイルファさんたちと同じ、珊瑚ちゃんが作ってくれたメイドロボじゃないか」
「メイドロボだから……?」
「知ってるかい? 珊瑚ちゃんは、自分や瑠璃ちゃんと一緒に遊んでくれる友達が欲しくてメイドロボを作ったんだ。
「それは、聞いたことがありますけど……」
イルファさんはともかく、ミルファの方はちょっとばかり常識に欠けるところがあったんだけどなあ。
でも俺の心配なんて杞憂だった。
ミルファはすぐに人と打ち解けられる明るくて素直な性格の持ち主だった。
珊瑚ちゃんも、イルファさんもミルファもすごくいい娘だから。
「珊瑚ちゃんは、大切な想いを込めて一生懸命シルファたちを作ってくれたんだ。
だからその願いはきっと届くよ。シルファは珊瑚ちゃんの夢なんだ」
「わたしが珊瑚さまの夢……」
182:箱入り娘が届いたら 44/51
08/02/29 22:09:53 0Ka5/nCG0
俺の言葉をオウム返しに呟くと、シルファは真っ赤になって俯いてしまう。
いや……照れないでくれ。こっちも恥ずかしくなるから。
「た、貴明さまって、恥ずかしいことを平気でおっしゃるのれす……」
「へ、平気じゃないけどな」
「でも、そうなれたらいいと思うのれす……
いえ。そうなりたいと思うのれす」
そう言って『うん』と頷いてくれたシルファの顔にはさっきよりずっと前向きな顔をしていた。
「貴明さんは……不思議なことをおっしゃるのれす……
なんだか貴明さんに励ましてもらうと、ちょっとだけ信じたい気持ちになれるのれす」
「そ、そうかな?」
シルファが尊敬するような真っ直ぐな瞳で俺を見つめている。
純粋で輝いた瞳に見つめられると、なんだか照れる……
「瑠璃さまが、『男っていうのは優しい言葉で女の子をだまして、てごめするんやでーー』って、言ってました」
その言葉の意味がやっと分かったような気がします」
「…………」
そんな理解のされ方は望んでなかったけどな……
純粋さにゆえの棘というかなんというか。
シルファは意外と油断できない性格だな。
183:名無しさんだよもん
08/02/29 22:10:18 6yzPO7EQ0
支援
184:箱入り娘が届いたら 45/51
08/02/29 22:10:23 0Ka5/nCG0
「でも……わたしはまずなにをしたらいいのれしょうか……?」
「そうだね、初めてだとなかなか勝手が分からないものだよね」
シルファの顔にはまだまだ戸惑いと不安の色が浮かんでいた。
でも、随分前向きになってくれたよな。
あとは、この子にはほんのちょっとしたきっかけがあればいいだけだ。
「じゃあ……まずは俺と友達になろうか」
「え?」
俺はシルファの目の前に右手を差し出した。
「うん。俺とシルファは、今日から友達だ」
「そんな……どうしてなのれす??」
「昨日、今日とシルファと一緒に過ごして、
シルファが珊瑚ちゃんを大切に思う優しい気持ち、ちゃんと伝わったよ。
だから、俺は君と友達になりたい。珊瑚ちゃんは俺にとっても大切な人だから。
二人で珊瑚ちゃんの夢を叶えていこう」
「んー。貴明さんだと、何か下心がありそうで怖いのれすけど……」
言う言う。
大人しいだけの子かと思ったけれど、これだけ言えるなら誰が相手でも大丈夫そうだけどな。
と、シルファの小さな手が俺の前に差し出される。
「シルファと握手、するんじゃないのれすか?」
「ああ、そうだね」
俺はそっとシルファの手をとった。
もみじみたいに可愛らしい小さな手だった。
185:名無しさんだよもん
08/02/29 22:13:37 7TnEcF2/0
支援
>>172
6レス目に出るのは去るさんじゃ無くて連投規制ね
俺の経験では2分以上間を空けるようにすれば引っかかりにくいはず
186:名無しさんだよもん
08/02/29 22:44:49 PXSk6w0a0
>>164
>「珊瑚さま……シルファお姉さま……どうして、シルファのことを捨ててしまったのれすか……?
お姉さまはイルファ?
187:箱入り娘が届いたら 46/51
08/02/29 23:17:16 0Ka5/nCG0
「シルファが生まれたとき……珊瑚さまも貴明さんと同じように手を差し伸べてくださったのれす……
あのときのことは、シルファはいつまでも忘れません」
そしてシルファは俺の手を見つめて言った。
「貴明さんの手はやたらと大きいのれす。
こうして握ると、でっかくてちょっとだけおっかないのれす。
でも、珊瑚さまの手と同じように暖かいのれす」
「タマ姉も、雄二も。このみもちゃるもよっちも。
それに愛佳も郁乃の手も、みんな同じだよ」
「そうなのれしょうか?」
「うん。愛佳はね、困ってる人がいるとほっとけない優しい女の子なんだ。
だからみんなの委員長に選ばれて、信頼されている。
郁乃は……気難しいところがあるけど、悪い奴じゃないよ
これから二人と一緒に料理を作ってみよう。
そうすればシルファもきっと二人と友達になれるよ」
「……貴明さんは、お二人のことがお好きなんれすね」
「す、好きっていうか……まあね、うん」
す、ストレートな聞き方だなあ。
もちろん、好きではあるけど、そんな聞かれ方するのは恥ずかしい。
「貴明さんは男らしくて、女ったらしなのれす。
女の子はみんな好きなのれす。よく分かったのれす」
……もう別にそれでもいいか。
「シルファのことも好きだからね」
「はいなのれす。だったらちょっとだけ、口説かれてあげるのれす」
188:箱入り娘が届いたら 47/51
08/02/29 23:17:54 0Ka5/nCG0
そんなシルファをともなって1階に戻ると、
階段下のリビングでくつろいでいた二人が驚いたように声をかけてきた。
「わ、貴明くん……
シルファさんと手を繋いでるの? ど、どうして?」
あ、そういえばあれから手を繋いだままだったっけ
「いや、深い意味はなく、ただ友達に……」
「シルファは貴明さんに口説かれたのれす。一緒に夢をかなえてくれるんだそうれす」
「「えっ」」
シルファの余計な言葉に、姉妹二人の驚きの声が重なる。
「い、いや……俺は確かにそう言ったけどさ。でも」
「あんたって、相変わらず手が早いわね……」
「た、貴明くんって……」
「違うって! シルファもヘンな部分だけ抜粋するなよ」
まったくシルファと郁乃には困ったものだ。
この娘たち、可愛い顔してなかなか言葉は危険なんだよな。
でもこの空気は騒がしくてにぎやかで。
さっきよりはずっと明るい雰囲気になれたみたいで……だからまあいいとするかな。
189:箱入り娘が届いたら 48/51
08/02/29 23:20:07 0Ka5/nCG0
そう思っていると、俺の隣に立つシルファが急に真面目な顔になって口を開いた。
「あの……愛佳さん、郁乃さん。
わがままを言って、ごめんなさいなのれす。
でも、もう一度頑張りたいと思うのです。
シルファにいろいろなことを教えてくださいなのです」
いまだ俺の手を握ったままのシルファの小さな手から、汗ばんだ緊張が感じられた。
内気なシルファにとって、こんな簡単な言葉でもきっと大きな勇気を必要としたのだろう。
「もちろんですよぉ。私に分かることだったら、なんでも教えるからね」
「……ま、いいけど。今度こそ真面目にやりなさいよね」
「はい! ありがとう、なのれす!」
そしてキッチンの中での静かな戦いが再び始まる。
まだまだ不器用に動くシルファの手に、愛佳の優しいアドバイスと郁乃の容赦ない指摘が飛び交う。
苦闘の結果、いくつかの手料理がテーブルに並んだ。
俺も味見にだけは参加させてもらった。
「ん……さっきのに比べれば遥かにマシだけど……はっきり言って、まだまだね」
シルファの作った鳥のから揚げ……らしき料理を郁乃はそう厳しく評価した。
「そ、そうなのれすか……」
「おまえな、そこまで言わなくても」
「仕方ないでしょ。ちゃんと評価しなきゃ、上達だってありえないし」
まあ、そうかもしれないが……
言いにくいことをはっきり言う奴だな。
シルファも少しばかり落ち込んでいるようだ。
190:箱入り娘が届いたら 49/51
08/02/29 23:20:30 0Ka5/nCG0
「でも初めて作ったのならこれで上出来だよ。
ひとつづつ練習していけば、きっとすぐに上達するさ」
「うん、あたしもそう思います。シルファちゃん、短い時間ですごく上手になったと思う」
俺の励ましに、愛佳もフォローをいれてくれる。
「は、はい……」
気を取り直して一休みしたらもう一度始めようか、と提案しようとしたその時だった。
「でも、このお味噌汁の味はあたし好きかな……」
「え?」
シルファがいくつか挑戦した料理が並ぶそのうち、
味噌汁の茶碗を手にした郁乃がなんとはなしにそう呟いた。
あの味噌汁、ちょっと薄味で俺には正直合わなかったけどな。
郁乃にしては珍しく気を使ったのだろうかと不思議に思った。
(郁乃は味噌汁、やたらと薄味が好みだから)
(なるほど)
俺の疑問に答えるようにそっと愛佳が耳打ちする。
どうやらこの意見は単純に好みの問題によるもののようだ。
でも、シルファにとってはそんな些細なことではなかったようだ。
「ほ、本当れすか?
お世辞じやなくて、郁乃は本当に美味しいと思っていただけたのれしょうか?」
「え? まあ、別に嘘は言わないけど……?」
「正直に、言ってくれたのれすか?」
「だ、だからそう言ってるじゃない」
191:箱入り娘が届いたら 50/51
08/02/29 23:21:06 0Ka5/nCG0
妙に真剣なシルファの問いかけに、少々気圧されながら答える郁乃。
と、シルファの瞳から大粒の涙がこぼれ出した。
「わっ、な、なによ……なにも泣かなくてもいいじゃない。あたしはそんなおおげさなことを言ったわけじゃなくて……ただ……」
「生まれて初めて、自分が頑張って作ったもので、だれかを喜ばせることができたのれす。
それが、こんなに嬉しい気持ちになれることだなんて……
シルファは全然知らなかったのれす……」
「ちょっと……泣かないでよ。恥ずかしいな……」
その光景を見て俺は思う。
やっぱり、シルファは分かってくれたんだな。
イルファさんやミルファの妹なら、その気持ちをきっと分かってくれると願っていた。
「ありがとうなのです……すごく、すごく嬉しいのれす!
シルファは郁乃が大好きなのれすっ!」
そしてシルファの顔に浮かぶのは俺が見る初めての本当の笑顔。
シルファは隣に座る郁乃におもいっきり抱きついた。
その勢いに押されてたじろぐ郁乃。
「ちょ、ちょっと、抱きつかないでよ。恥ずかしいなあ……もう……」
「いい友達が出来てよかったね、郁乃」
「そ、そんなんじゃないって……あ、ちょっと! 写真なんか取らないでよ! 貴明の馬鹿ーー!!」
俺は初めて見るシルファの本当の笑顔を、郁乃の困り顔と共にカメラに収めた。
それは涙混じりのぼろぼろの笑顔だったけど。
その笑顔は無性に眩しくて、何故だか俺の胸を熱くさせるのだった。
きっと、今、俺達とシルファの間にはなにかが芽生えた。
それは珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんがイルファさんとミルファに貰ったものと同じだろう。
きっとそうであって欲しいと思う。
192:箱入り娘が届いたら 51/51
08/02/29 23:21:49 0Ka5/nCG0
姫百合家のリビングでゲームをしていた珊瑚の携帯端末がメールの到着音を知らせている。
着メロは何故か『地獄の黙示録』。
「ん、シルファからのメールや」
「ほんま?」
携帯端末を操作する珊瑚から笑みがこぼれる。
メッセージは元気なシルファの様子を率直に伝える内容だった。
『珊瑚さま、お元気れすか?
シルファは貴明さんのお家でとても元気に料理の特訓に励んでいます。
お料理もお掃除も、まだまだシルファには難しいけれど。
一生懸命頑張って誰かに喜んでもらえることは、とってもとっても嬉しいことなのれす。
まだまだシルファは頑張って、貴明にも、愛佳さんにも、そして郁乃にも。
もっともっと喜んでもらえる料理を作れるようになるのれす』
メールに添えられた写真には、貴明と、愛佳と郁乃。そしてシルファの姿があった。
郁乃の腕を強引に取って並び写真に写るシルファは笑っていた。
その笑顔は珊瑚が初めて目にするシルファの眩しい笑顔だった。
:追伸
玉子焼きを、ちょっとだけ上手に焼けるようになったのれす。
帰ったら、珊瑚さまやみんなにもきっと食べて欲しいのれす。
きっとれすよ。
193:名無しさんだよもん
08/02/29 23:22:23 Syu/Orgy0
長編乙
194:箱入り娘がの作者
08/02/29 23:30:37 0Ka5/nCG0
以上になります。
名前の間違いに関しては恥ずかしい限りですね。
シルファとイルファは間違えやすい上に見直しても分かり辛い……
支援くださった方、大変ありがとうございます。
195:名無しさんだよもん
08/03/01 01:10:02 BWxd0m4F0
>>194
シルファと郁乃という、組み合わせも予想外でおもしろかったす。
久しぶりに楽しく、長編を読ませてもらったです。乙かれ~
196:名無しさんだよもん
08/03/01 05:48:28 2kmvu4M40
>>194
乙
文章は読みやすいし流れもちゃんとしてるし良い作品だと思う。
でもやっぱAD発売日当日ってのがネックかなあ
プレイしてから見るって人は多いだろうし(自分もそう)
そうするとやっぱり原作との齟齬が気になっちゃうかな
仮想シナリオも何も、目の前に原作のシナリオが存在しちゃうから嫌でも比較しちゃうしね
そういう側面を除けばいいSSだと思うよ。
気になったことといえばシルファが貴明のメイドロボになるって決めた部分が唐突かな
貴明のメイドロボになるって話はあまり関係ないと思うし
無理矢理シルファルートにしちゃってる感じなのがちょっとだけ首を傾げた
197:名無しさんだよもん
08/03/01 06:26:12 CwBO2FPI0
貴明のメイドロボになる~ってのはヤケを起こしたって事じゃない?
例えるなら、貴明が草壁さんルートに入っちゃったのを知ったタマ姉が政略結婚の話に乗っちゃうとか。
198:名無しさんだよもん
08/03/01 07:01:13 2kmvu4M40
ヤケでもあるんだろうけど
貴明がシルファがメイドロボになるって話を断るっていう根拠がないまま言ってるってことは
そうなってもいいや、という考えがあるような気がするんだよね
それが誰でもいいじゃなくて貴明ならいいに見えるんだわ
仮想シルファルート、って言われちゃってるので余計にそういう見方になってるんだろうけども
199:と妹と彼氏の事情 前書き
08/03/02 11:33:22 wiZcjMzN0
まだADのSSは時期尚早かも知れませんが、
郁乃story読んで姉妹丼を書かなければならない衝動に駆られたので逝きます。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★ ★
★ 注意! ★
★ ★
★ このSSはAD郁乃story後日談ですので、 ★
★ TH2ADの完全なネタバレがあります。 ★
★ まだ郁乃storyをクリアしていない方はご注意願います。 ★
★ ★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
全27レスですが19/27以降はエロだけです。途中でさるさん喰うかも。では
200:姉と妹と彼氏の事情 1/27
08/03/02 11:35:31 wiZcjMzN0
「郁乃ぉーっ!」
校門前、約40メートル後方の校舎から、やけに頑張って張り上げた声が届く。
私は車椅子を止めない、けど、少し速度を緩める。
「ああん待ってよお郁乃ぉ!」
その私を追い掛けて、バタバタと賑やかに近づいてくる足音。やがて隣に。
「はへ、ふひゅ、ほへぇ、ひはぁ」
息も絶え絶えな癖に間の抜けた息遣いを響かせながら、我が姉こと、小牧愛佳が並ぶ。
「なによ、走ると脚が太くなるわよ」
「え、太ったかなっ?」
「さあ?(にやにや)」
「えっ、えっ、ええーっ?」
私は短いスカートから伸びた脚を気にする姉をひとしきりいじった。
まあ、姉の場合は多少運動した方がいいタイプだろうけど。
「それで、何の用?」
「うぅ、用がなければ一緒に帰っちゃいけないのぉ~?」
「拗ねるな鬱陶しい」
ホントは、ちょっと嬉しい。姉はいっつもこんな感じだから、私はいっつもちょっと嬉しいことになる。
「うん、あっ、それでね、あのねっ」
どうせめげないし、姉。
「これっ、友達に貰ったのっ」
そして姉が差し出したのは、二枚のチケット。
「時代村の……一日無料優待券?」
「うんっ、扮装もタダで、お馬さんにも乗り放題なんだって」
「あっそ」
「郁乃、時代村好きでしょ?」
「べつに」
「こんどの日曜、一緒に行こう、ねっ? ねっ? ねっ?」
人の話を全く聞かず、姉は何故か拳を握りしめて私を誘って、黙って頷いたら全力で笑顔になった。
201:姉と妹と彼氏の事情 2/27
08/03/02 11:37:51 wiZcjMzN0
んでもって日曜。
「うわー、空が青いねぇ」
確かに。
もうすぐ夏になる空は、これでもかってくらい青く、こんちくしょうってくらい爽やか。
「上見て歩くとコケるわよ、お姉ちゃん」
が、私は不機嫌そうに姉に注意する。
「だいじょうぶだいじょうぶっ、とわたたたたっ?」
言ってる側からコケる姉、を、
「おっと」
横から伸びてきて支える、しっかりとした腕。
「あ、ありがとう、貴明くん」
「どういたしまして」
意味のない会話で嬉しそうにニヤけているのは、河野貴明。姉の彼。
ついでに、私の不機嫌の原因。
「……やっぱ帰ろうかな」
「またぁ、機嫌なおしてよぉ」
何度目かの愚痴に、姉は根気強く同じ対応を繰り返す。
おとつい、姉と私が時代村の約束をした直後。
「愛佳。郁乃ちゃん」
「うきゃっ!」
「ぅくっ!」
貴明は急に後ろから声を掛けてきて、姉と私は揃って飛び上がった、いや、私は車椅子だけど。
「何の用?」
動揺を抑えて-動揺の理由は色々あるのだ-努めて平静に聞き返す私。
「うん、これ、貰ったからさ、郁乃ちゃんにあげようと思って」
いつものヘロヘロ笑いで貴明が差し出したのは、さっき見たばかりのチケットだった。
202:姉と妹と彼氏の事情 3/27
08/03/02 11:40:45 wiZcjMzN0
「あはは……三人で此処に来るのは、初めてだねえ」
優柔、という言葉がぴったりな表情で、私とお姉ちゃんのやりとりを笑う、二人のデートを三人にした元凶。
その無神経さに、私の機嫌は益々悪くなる。
無神経。そう、こいつは、河野貴明はとことん手に負えない朴念仁だ。
「なんにせよ、晴れて良かったよ」
ちょいと見てくれが良くて、誰かれ構わず優しくて、
「愛佳と来たときは雨だったんだよな」
「うん、今日はお馬さんに乗れるといいなぁ」
見てて呆れるくらい、姉の心を掴んでいて、
「郁乃ちゃんは馬には乗ったから、今日こそ扮装だね」
「うるさいっ!」
そして、私も。
どうにもならない想いを、こいつに抱いていた。
「うーん、どこから回ろっか?」
「郁乃ちゃんの機嫌が悪いから、まずは食べ物屋かな?」
なのに、そんな事は我感せず、
「何が食べたい? 団子? 桜餅? それとも、カエルの丸焼きとか?」
こいつは当たり前のように、車椅子の後ろから私の顔を覗き込む距離が近い。
「……あんたは雀の姿焼きね」
私は無愛想に言い放って、車椅子を一気に前進させる。
「あれっ、郁乃っ、どこ行くの?」
頬の赤さを隠すため。
「トイレよ」
「あっ、手伝……」
「いらない」
「じゃあ俺が」
「バカっ!」
姉の恋人に惚れている。こんな感情を、表に出してはいけないのに。
203:姉と妹と彼氏の事情 4/27
08/03/02 11:45:02 wiZcjMzN0
腹ごしらえの後、やってきたのは扮装館。
「ねえねえ、見て見て郁乃、どうかな? 似合うかな?」
頭に変な薄布を被って、ひらひらと回る私の姉。
「……元ネタがわかんないんだけど」
なんかのお姫様か、それとも街娘だろうか。
「郁乃と違って時代劇には詳しくないのぉ~」
「まあ、似合ってなくはないわ」
簡易なコスプレ衣装とはいえ、着物の他に髪型も変えて貰って、
意外と豪華な感じが出ている姉は、妹のひいき目に見なくとも可愛いと思う。
「少なくともそこのバカよりは」
「それは酷いなぁ」
苦笑いする貴明は、わざと着古し感を出した唐桟を着流して素浪人気取り。
「結構イケてると思ったんだけど」
「うんうん、似合ってる似合ってる」
「サンキュ。でも、愛佳の可愛さには敵わないかな」
「ぁうっ……」
ちょっときっかけをつかむとすぐバカップルぶりを披露したがる二人の会話。
「はぁっ」
私は大仰に溜息をついて見せた。
「というか、郁乃ちゃんこそなんなの、それ」
「だよ、ねぇ」
二人揃って漫画なら額に汗(大)が浮かぶんだろうな、って表情で私を見る。
「人の勝手でしょ」
子連れ狼に拘った貴明の要望を蹴っ飛ばして私が選んだ衣装は、
プラスチック製の偽物胴鎧に陣羽織、籠手をつけて、陣笠被って槍もって。
これが戦国時代の正統な足軽衣装だ。悪いか。
204:姉と妹と彼氏の事情 5/27
08/03/02 11:47:43 wiZcjMzN0
「悪くはないけど……もっと色々、女の子っぽいのもあったろうに」
「うっさい」
私の格好なんて、見ても仕方ないでしょ。あんたは姉の彼氏なんだから。
そんな内心は言葉にせずに、私は貴明の戯れ言を斬り捨てた。
「記念写真、撮るならさっさと撮るわよ」
「あっ、そうだね、すいませーん」
姉が呼んだら、係員はすぐに来た。外に出て、適当な背景の場所で記念撮影。
「よっ」
槍を杖代わりにして、私は車椅子から立ち上がる。
「あっ、大丈夫っ?」
すかさす両側から寄ってくるのを払いのける。うむ、丈夫な槍。なかなか本格的でよろしい。それに、これなら一人で立てる。
「どうせなら、お姉ちゃんを真ん中にしなさいよ」
手を貸そうとした立ち位置のまま、私の隣に収まろうとした貴明を肘でつっつく。
「そうだね、っとっ?」
移動しようとした貴明が、石につまづいて、着流しの和服は前が緩くて。
「わっ、貴明くん、パンツパンツ」
「汚いもの見せんな!」
若干の混乱があった後、貴明、姉、私の順番で写真に収まった。
扮装館に戻って、それぞれが衣装を返却するころには、係員がデジカメのデータから写真を焼いてくれていた。
「なんだか、変な取り合わせだねえ」
浪人、お姫様、足軽。
「うーん、これはあれだな、愛佳姫を……」
「掠おうとするならず者と、護衛の兵士ね」
すかさず言葉が出たのは、なんとなく現実に即したものがあったからだろうか。
「酷いなあ」
言いながらまんざらでもなさそうな貴明は、その顔で愛佳に質問を飛ばす。
「愛佳はどう思う? 俺に掠われたい? 郁乃ちゃんに護られたい?」
「へっ? あっ、うー、うーっ、悩むぅ~」
だから、真面目に答えるなバカ姉。
205:姉と妹と彼氏の事情 6/27
08/03/02 11:51:01 wiZcjMzN0
「い、意外とおっきい?」
「これでもサラブレッドよりは、だいぶ低いんだけどね」
いつぞや私が聞いた台詞を、貴明が再現したのは乗馬体験。
「次の方どうぞー」
「は、はいっ!」
元気よく返事をして、姉は馬の背中に。
「ていっ? あれ? てりゃっ、たあっ!」
ぴょん、ぴょん、ぴょこ、ぴょこたんっ。
端から見てると冗談みたいなカエル跳びだが、本人は真剣に鞍に脚をかけようとしているみたい。
「はいはい、後ろがつかえるからね」
待ってましたとばかり、貴明がでしゃばってくる。私は次の展開を正確に予想した。
「ひゃあっ、くすぐったいっ!」
両脇から抱え上げられて身悶える姉。貴明はニコニコしながら姉を鞍の上に上げる。
はいはい、予想どおり……
「んじゃ、郁乃ちゃんも」
へ?
ふにっ。
「う、うあっ、ちょっと、私は前にも乗ったからっ、て、こらっ、どこ触ってんのよっ!」
「そんなに変なところは触ってないよ」
「触ること自体が変なのよっ!」
抗議はしたものの、貴明はどうも私の扱い方を心得ている-それがまたむかつく-ようで、10秒後には私は姉の後ろで馬に跨っていた。
「お、う、結構揺れる?」
騒ぎにイラついたのか、股の下で馬がもぞりと動いて、私は姉の肩につかまる。
「きゃっ……えへへ」
抱きつかれて、私を振り返って照れっと笑う姉。なんか悔しい。けど、ま、いっか。
「じゃあ、写真撮るよ」
カメラを構えた貴明に、しかし、おっちゃんがとんでもない事を言い出した。
「俺が撮ってあげるから、兄ちゃんも乗ったらどうだい?」
206:姉と妹と彼氏の事情 7/27
08/03/02 11:53:36 wiZcjMzN0
さすが馬。三人乗っても壊れない。
「うおっ、とっ、もうちょっと前に行ってくれないか郁乃ちゃん」
「お姉ちゃんがつっかえてるから無理」
「こっちもギリギリなのぉ~」
でも、高校生三人はやっぱり定員オーバーだったようで鞍上狭し。
「ほれ、止まってくれないと写真撮れねえぞー」
大騒ぎの私達を、やたら微笑ましく見守ってからかう係員のおっちゃん。モブの癖になんでそんなお茶目なのよ。
「仕方ないな、よっ」
何が仕方ないのか知らないけど、貴明はそういって、ぐいっと前に競りだしてきた。
見かけよりも逞しい男の身体が、背中にくっつく。
「ひやっ、こら、抱きつくなあ」
「抱きついてはいないって」
確かに、貴明がくっついてるのは背中だけなんだけど、私の前面には姉がいる上に。
「えへへ、郁乃サンドイッチぃ」
にこやかに恐ろしい宣言をのたまって、姉もこっちに寄ってきたりして。
「ふぎゃ、二人とも、ふざけるな、こら」
「大人しくしていれば、すぐ終わるって」
「そうそう、痛くしないからねー」
「どこの悪役の台詞よそれっ!」
悪役だか医者だか知らないけど、騒いでも話は収まらず。
結局私は、姉と貴明に前後を挟まれてフレームに収まる。
「……ぅぅ」
ぺたっと、できるだけ姉の背中に貼り付くと、柔らかくてあったかい。
「……むぎゅ」
背中に感じる、貴明の胸。筋肉の動きが、直に伝わって。
かなり恥ずかしい写真を撮られたことよりも、二人の身体の感触が、私の心をかき乱した。
207:名無しさんだよもん
08/03/02 11:54:46 nVvq4Fqs0
しえん
208:姉と妹と彼氏の事情 8/27
08/03/02 11:55:59 wiZcjMzN0
そんなこんなで時間は、あっという間に過ぎていって。
「さすがに疲れたな。郁乃ちゃん、大丈夫」
「別に、平気」
午後から夕方に変わりそうな太陽を窓の外に眺めて、ヤックで解散前のだらだら会。
「お姉ちゃん、食べないとアイス溶けるよ」
「ふひゃぁ、楽しかったぁ~」
声を掛けてもご満悦な姉は、テーブルの上で自分が溶けている。
「本当は姉妹でデートだったのに、お邪魔してゴメンね」
相手が楽しんだことを知っていて声を掛ける、こいつはいつでもズルい奴。
「それはそうね」
だから、思いっきり冷たい声で言ってやろうと思ったのに、声は冷たくならなくて。
「そ、そんな事ないよお」
おまけに姉がすかさずフォローするもんだから、貴明はかえってニヤケ顔。
「郁乃も、楽しかったよねえ」
にこにこと、姉は私に追い打ちをかける。
「……まあ、つまらなくはなかったわ」
こういうのは、言葉がなんでも意味は同じなんだろう。三人で過ごす時間は、間違いなく、楽しかった、間違いなく。
だけど。
「そういってくれると、嬉しいな」
貴明の口調は、本当に嬉しそう。たぶん、本当に嬉しいんだろう。だけど。
「こういうの、いいよね、凄く」
姉は、いま世界一幸せですよーっ、って言いたそうな表情。それは私の幸せでもある。だけど。
「また、機会があったら、三人で一緒に出かけようか? 水族館とか、遊園地とかさ」
ごく自然な貴明の誘い。だけど。
「いいですねえ。ねっ、郁乃?」
待ってましたとばかりの、姉の問い。だけど。
「やだ」
だけど私は、頑なな言葉を二人に突きつけた。
209:姉と妹と彼氏の事情 9/27
08/03/02 12:00:14 wiZcjMzN0
「「えっ?」」
二人が固まる。私の攻撃が功を奏したのは久しぶりのような気がするけど、喜ぶ余裕はない。
「貴明」
「う、うん?」
顔を見て話そうと思ったのに、こいつの視線は真っ直ぐすぎて、私は目を伏せる。
「あたしは二度と、あんたとデートしないから」
「えっ?」
「それだけじゃない。学校でも、私の世話を焼かないで、私に近寄らないで。声掛けないで」
「なんで……」
呆然とした貴明の質問を無視して、私は姉の方を向く。
「お姉ちゃん」
「はっ、はいっ?」
テーブルに溶けていた背筋を、無意味にピシッと伸ばす姉。
「貴明とイチャつくのは、一向に構わないけど」
一呼吸置く。
「貴明をウチに泊めるのは、あたしがいない時だけにして」
「そ、そんな」
「学校から一緒に帰るなら、あたしとは別に帰って。貴明が書庫にいるときは、あたしを書庫に呼ばないで」
「ど、どうしてそんなこと」
「どうしてもっ!!」
怒鳴り声になった。お店には他の客もいたけど、気にする余裕なんてなかった。
「理由なんて、どうでもいいわ」
私はテーブルを見つめる。二人の顔を、まともに見ることなんてできやしない。
「とにかく、あたしは、」
また一呼吸置いた、自分の心を、押し切るために。そして、吐き出す。
「あたしは今後一切、貴明とは関わらないから」
210:姉と妹と彼氏の事情10/27
08/03/02 12:03:08 wiZcjMzN0
―私は、河野貴明が好きだ。
(ねえ、自分が何人目なのか、教えてあげようか)
(言ってみろよ)
初めて見たとき、姉に悪い虫が憑いたと思った。
(お前、本当はお姉ちゃんっコだろ?)
(うぁあぁうるさいなあっ!)
いつも見透かされて、うまくあしらわれるのが悔しかった。
(なんでここにいるのよ。バス通学じゃないわよね)
(うん、ちょっと雨宿り)
退院した後も、なにかとちょっかいを出してくるのが、鬱陶しかった。
(うっかりうっかり)
(そそ、うっかり)
それから、姉がこいつの言いなりになっているように見えて、心配した。
(ごめん、遅れた……?)
(謝る必要なし。約束の時間はまだだから)
だから、どんな奴か試そうなんて、バカな事を考えた。
(わ、わ、たた貴明! てて手!)
(て!? 手!?)
一緒の時間を過ごして、楽しかった。
(お、落っこちそうで)
(もう大丈夫だよ)
そして、私は、いつしか、というほどもなく間もなく。
―姉と同じ人を、好きになった。
211:姉と妹と彼氏の事情11/27
08/03/02 12:06:10 wiZcjMzN0
「郁乃ちゃん……」
「あたしに話し掛けるなっ!」
俯いたまま、私は反射的に叫ぶ。
声を聴いたら、揺らぎそう。顔を見たら、崩れそう。
だって、一緒にいたら楽しい。今日だって、三人でいて、有り得ないくらい楽しかった。
<また、機会があったら>
こんな事を繰り返したら、私は絶対おかしくなる。それは確信。
だって私には、前科があるんだから。
(ん、誰……)
(まなか……?)
寝ぼけた貴明と、姉とあいつがするような行為をした夜の事は、忘れようもない。
あの後私は、激しい後悔と、心と体の両方を襲う鈍痛と、そして微かにお腹に残る熱さに震えた。
あんな事は、二度としたくない。
でも、無邪気に貴明に触れていたら、また、我慢できなくなる。
「そんな事、言ったって」
こいつは、いつも無条件で、私にも優しいから。
「郁乃……」
お姉ちゃん、心配しないでいいよ。
お姉ちゃんと貴明の間に、割り込もうなんて思わないから。
いくらでも、貴明と仲良くしていいよ。
ただ、私の前でだけ、ちょっとだけ我慢してくれれば。
だって、
「郁乃は、貴明くんの事が好きなんだね」
そう、私は貴明の事が……
なんですって?
212:姉と妹と彼氏の事情12/27
08/03/02 12:10:56 wiZcjMzN0
「お、お姉ちゃん」
思わず顔を上げた。
「ふふっ、いくら鈍感なあたしでも、それくらい分かりますよぉだ」
姉は、微笑んでた。
「たかあきくんから、デートの結果は聞いてたし」
貴明の方を見ると、やけに神妙な顔をしてる。こいつの表情は信用できないけどね。
「寝ぼけて郁乃に酷いことした事もあったね、たかあきくん」
う、ど、どっちの事を言ってるんだろ。先の夜這い未遂の方よね、きっと、
「ごめんね郁乃ちゃん、途中でおかしいとは思ったんだけど」
けど、貴明のフォローで、後の方だと知らされる。
……秘密なさすぎだこの夫婦。
「う……ご、ゴメン」
謝って済むような話じゃないけど、バレてた以上謝るしかない。
「あれはたかあきくんが悪いんだから、郁乃が気にする必要はないのっ」
めっ、と続きそうな笑顔で姉は私を許した。
「それよりねっ、問題は、今後の事だと思うんだ」
だから、私はもう、貴明とは……
「たかあきくんは、郁乃の事、どう思ってるの?」
どきん。
だのに、姉は私じゃなくて貴明にむかって質問した。
「好きだよ」
どきん。
そして、貴明の即答。
このバカ、この期に及んでなんて事言うのよ。しかも、そんな真顔で。
「愛佳みたいに、はっきり女性として好きかって言われると、まだちょっと困るんだけど、大切な女の子だって、そう思ってる」
どきん、どきん。
ああもう、今さっき決意したばかりなのに、このバカの言い草はめちゃくちゃ勝手なのに、頼むから、収まれ私の鼓動。
213:姉と妹と彼氏の事情13/27
08/03/02 12:13:19 wiZcjMzN0
「だったら、問題ないよね」
それでさっきから、何を言ってるの、この姉は。何を言い出す気なの、このバカ姉は。
「郁乃がたかあきくんを好きで」
呆然とする私の前で、
「たかあきくんが郁乃を好きなんだったら」
姉はちらっともう一人のバカの方を見て、
「郁乃も、あたしと一緒に、たかあきくんの恋人になろう?」
そんな、バカな事を言い出した。
「なっ、何を言い出すのよバカっ!」
「うっ、バ、バカはないと思うなぁ……」
「バカよバカ、バカ姉、大バカ、どバカ、河馬より獏よりバカバカバカッ!」
ぜーっ、ぜーっ。
「きゅぅ~」
あたしの剣幕に、変な小動物の鳴き真似つきで涙目になる姉。
「で、でもぉ、あたしも悩んだんだよ? たかあきくんから、事情を聞いてから」
う。
どう考えても悪いのは私-35%くらいは貴明の責任にしたいけど-だから、姉をバカ呼ばわりする筋合いはなかった。
「あたしはたかあきくんと一緒にいたいし、でも、郁乃がそれで不幸になるなんてイヤだし」
「別に不幸になんてならないわよ」
「好きな人を避けて過ごすのは、女の子にとっては一番不幸なことなのっ!」
ぐ。
確かに、貴明と会わずに過ごす自分が、楽しい生活になるとは思えない。
けど、聞いてるよ私は、このバカには、幼馴染みの大の仲良しだった女の子がいたって。
だから、日本が一夫一婦制な以上、そういうのは仕方のない必然的な現象であって……
「俺も、郁乃ちゃんと会えなくなるのは、イヤだな」
「っ!」
姉から飛んできたトンデモないパンチを避けようと必死の私に、斜めから槍が降ってきた。
214:姉と妹と彼氏の事情14/27
08/03/02 12:17:12 wiZcjMzN0
「あ、あんたにそんな事を言う資格はっ」
「ないよね、わかってる。俺が郁乃ちゃんを傷つけている事は」
こいつはいつも、全然わかってない顔で、わかったような事を言う。
「あんたはお姉ちゃんの……」
「恋人だよ、間違いなく、絶対に、これからもずっと」
「だったら、余計な事は」
「でも、郁乃ちゃんと一緒にいると楽しいし、郁乃ちゃんが喜んでいると俺も嬉しい」
「っ、調子のいい事を」
ダメだ、口調が緩む、と、視界に入る姉の握り拳ポーズ。
そう、姉はいつも、男に都合が良すぎる、こんなの、認めちゃ駄目だ。妹の私は、姉を護られなければ。
「そこまで同情するつもり? それともお姉ちゃんが、そう望むから?」
その思いを冷却塔にして、私は必死に言葉の温度を下げる。
「どっちにしたってお断りよ」
それに、私だって。こんな私にだって、プライドくらいあるんだ。
「どっちでもないって」
けど、貴明は口を尖らかす。不本意そうに。
「俺が、郁乃ちゃんと、一緒にいたいんだ」
ぐらっと視界が揺れる。
「そんなこと、言うなぁぁ……」
反論する語尾が小さくなる。決意に、亀裂が入りそうになる。
「分かった、もう、何も言わない」
そして、そう言って貴明は、私の方に手を伸ばす。
え?
「イヤだったら、殴っていいよ」」
顔を引き寄せられる、向こうも、身を乗り出してくる。
キスする気? う、嘘でしょ? そんな、恋人の前で恋人の妹に? 衆人環視の状況で?
そうだ、こいつの手口だ。姉との関係を見てて分かる。形勢が悪くなると身体で誤魔化すんだ。絶対許さない、殴ってやる、私は姉とは違う、許さない、絶対、こんなの。
けど、私は結局、近づいてくる瞳に吸い込まれたまま、
自分の唇が貴明に触れるまで、微塵も抵抗できなかった。
215:姉と妹と彼氏の事情15/26
08/03/02 12:21:22 wiZcjMzN0
それから、およそ一ヶ月。
「はあっ、無駄足踏んだわ」
病院から家に帰るバスを降りて、私は溜息をつく。
「ごめんねえ、先生が急用で、こっからこっちの検査は明後日以降になっちゃったの」
顔なじみの看護婦-胸おっきいんだよねこの人-が片手をあげるポーズつきで謝って、検査入院の日程は延期になってしまった。
「うー、じゃあ帰る」
「あっ、今日できるぶんは、やっちゃうから待ってて」
「ええーっ、二度手間じゃない」
結局“やれる分”を終えて、ナースセンターでちょこっと彼女とお茶して、家に戻った時は夜もいい時間。
「ただいまぁ……およ?」
玄関に入ると、また旅行中の両親の靴がないのは当然として、男物の靴が一足。
「貴明、来てるんだ」
例の一件以来、いちおう私は、姉と共に貴明の恋人という事になったらしい。
らしいのだけど、それでこれまでの関係が激変したというわけでもなくって、まず、姉は相変わらず貴明とはいちゃいちゃしっぱなし。
私の方には、貴明は何かとちょっかいは掛けてくるけど、いわゆる恋人っぽい事は、私の方から要求しない限りは無し。
それが、主導権を握られる姉に眉をひそめる私への配慮なのか、単に私はおまけとしか思っていないのかは知らない。
私の方は、もはや悩んでも仕方ないので、「貴明利用許可証」でも貰った気分で気まぐれに奴を呼び出している。
それで、あの時出した条件は、当然撤回になったわけだけど、残しておいた条件がひとつ、いやふたつ。
「わたしが家にいるときは、貴明を家に泊めないこと」
「ええ~っ」
「困ったなぁ……」
姉と貴明は不本意そうだったが、私は頑として譲らなかった。それくらい我慢しろこの猿夫婦。
今夜の場合は、私が短期入院する予定だったから不可抗力だろうけど……
「む、いない?」
リビングには誰もいない。付けっぱなしのDVDは、まだ途中なのに。
「……もしかして」
嫌な予感がして、私は2階に急いだ。といっても、階段はゆっくりしか上れないけどさ。
216:姉と妹と彼氏の事情16/26
08/03/02 12:23:34 wiZcjMzN0
「あ、あんっ、たかあきくんっ、そんなっ、まだキスもしてないのに」
「じゃあ、今しよう」
「もうっ、いっつもそう……はむっ、んっ」
案の定、部屋の外に漏れてくる恥ずかしい声。
ガチャリ。
「何やってんのよ」
「うおっ!?」
「ふえっ? い、郁乃~っ!? ったたたたた」
いきなり扉を開けてやったら二人は驚いて、姉なんか見事にベッドから転げ落ちた。
「きょ、今日は病院じゃなかったの?」
「検査が延期になったの。残念ながらね」
「そ、そうなんだ? 食べる? その、夜ごはん」
直しようがないくらい乱れた服を、直すフリだけしながら、姉が取り繕ってるフリ。
「外で食べてきたからいい。それより、」
あたしは、一呼吸溜めて、
「私がいないからって、他人のベッドでエッチな事すんなって、いつも言ってるでしょうっ!」
「「ハイ……」」
これが条件ふたつめ。いや、非常に常識的な事だと思うんだけど?
「今度だけじゃないわね、その様子だと」
「いや、あははは」
全然反省してない、貴明お得意の不誠実な笑顔。
「なんというか、このベッドが一番落ち着くんだよね、習慣というか」
……もういいや。アホらしい。
私は二人が並んで座る、私のベッドに近寄って、ぼふっと横向けに倒れ込む。
「寝る。えっちしたければ、勝手にしていいわ。見ててあげるから、此処でやんなさい」
二人とも恋人って豪語するんなら、妹の前で姉とエッチしたって、恥ずかしくないわよねえ。
217:姉と妹と彼氏の事情17/26
08/03/02 12:25:26 wiZcjMzN0
「い、いや、それはちょっと……」
汗(大)モードで困る貴明、ふふん、いい気味だわ。
「別に無理にやれなんて言ってないわよ。大人しく帰ってもいいし」
そもそも、バスはまだある時間だってのにおっぱじめてんだからこいつらは。
「うーん、どうしよう愛佳……」
こんな時だけ姉に振ったって、答えはでないと思うけど?
「ぁぅ……あ、そうだ、うふふふっ」
へ? なんか嫌な笑顔?
ばさっ。
と、私の背後に、姉が倒れてきた。
「え? お姉ちゃん? どうし……ふあっ?」
驚いて振り向きかけた私は、胴体に回ってきた手に妙な声を挙げる。
「郁乃も一緒だったら、“他人のベッド”じゃないよねえ♪」
「ちょっと、マジで言ってんの?」
「まじまじ♪」
論より証拠とばかり、服のなかに入り込んでくる姉の両手。
身をよじって逃げようとしても、背中にまとわりつく温かさに力が入らない。
「こ、こら、貴明、見てないで助けろぉ!」
「ほら、たかあきくんも、こっちこっち」
姉妹に正反対の事を要求されて、貴明は困ったような笑みで考える。
その間にも、トレーナーがたくし上げられて、ブラウスのボタンがひとつひとつ外れていって、
「うわわわ、ちょっと、ちょっとタンマ」
「タンマなーし」
やたらとハイテンションな姉に本気で抵抗できない私の体勢はどんどん絶望的になっていって、
「うーん、そうだね、郁乃ちゃんと、きちんとした事ないもんな」
貴明の笑顔が、私の命運にトドメを刺したのだった。
218:名無しさんだよもん
08/03/02 12:26:52 FsO1Qmsp0
支援
219:姉と妹と彼氏の事情18/26
08/03/02 12:27:35 wiZcjMzN0
「あっ、ちょっとっ、ちょっ、ふいゅっ!」
「へー、郁乃も、胸おっきくなってきたんだねえ」
「い、イヤミかそれはぁっ、はぁんっ」
ブラジャーが外れた乳房を揉まれて、私は変な声を挙げてしまう。
姉の手は、いつぞや寝ぼけてされた貴明の愛撫よりもよほど繊細で、どんどん感覚が鋭敏になっていく。
「違うってば、ホント、ね、たかあきくんも」
「あうっ、わわわっ、だ、ダメぇ」
正面から近づいてきた貴明に、慌てふためく私、今、こいつに触られたら、だって、
「こら、触ったら殺……ふむぅ?」
けど、貴明は、私の顔を両手で挟んで、まず唇を奪った。
あの時にヤックでして、その後何度か遊びでしたような軽いキスじゃなくて、角度をつけて接触が深い。
「んくっ」
「噛まないでね」
かろうじて閉じていたつもりの口が、歯の上を舐められて開いてしまうと、貴明の舌が口に滑り込んでくる。
「んんっ! あふっ、くっ、んっ」
知らなかった、口のなかって、こんなに敏感だったんだ。
前歯の裏っかわをこしょぐられて、抵抗しようとした舌を絡め取られて、私はいいように嬲られる。
唇はみっともなく開いてしまい、キスというより貴明の口を食べているみたい。
「郁乃、可愛いな」
「!」
耳元に囁かれて、口腔内を這い回る感触に我を忘れていた私は顔を熱くする。
「あ、あぐっ、ふうっ、はぁっ、はぁっ」
ようやく貴明は私の唇を解放した。酸欠状態で息を吐く。
「順番に、ね」
何が順番よ、と聞き返す間もなく、貴明は私のトレーナーをたくし上げる。
既にブラウスとブラジャーは胸を隠す位置にはなくて、
ぷるん、なんて立派な音がするような大きさじゃないけど、私のおっぱいが外気に晒された。
220:名無しさんだよもん
08/03/02 12:36:40 LAl1yIe8O
さるさん来たので中断
221:名無しさんだよもん
08/03/02 12:52:23 AxQrWvCU0
みならじ第2回 ■パーソナリティ:後藤邑子、伊藤静
URLリンク(www.nicovideo.jp)
「心が綺麗な天使」「フッ(失笑)」
「ウザイ」「キャハハ」「ほんとさぁ…大丈夫?」「おいおい、自称天使」
「自分が天使だと思ってること自体が間違ってるんじゃないの」
「軽く(精神病院に)通院してみた方がいいよ」「それかもう日本出てったほうがいいんじゃないの」
youtube版
URLリンク(jp.youtube.com)
222:姉と妹と彼氏の事情19/26
08/03/02 13:02:35 wiZcjMzN0
「あ、っ、やあっ!」
今気付いたけど、電気消してない。白い灯りに、たぶん赤くなっている私の肌が。
「うん、可愛いよ、郁乃ちゃん」
「どこ見ていってんのよっ!」
「ここ」
顔よりもだいぶ下にあった視線に文句をつけたら、貴明は開き直ってめくれたトレーナーに頭を突っ込んで。
「ひゃうんっ!」
乳首に吸い付かれた。瞬間、背筋に電流が奔る。
「やっ、そんな、吸うなぁ……」
お風呂にも入ってないのに、私。
「美味しいよ」
「っ~っ!」
首を振っても胴体はしっかりと押さえつけられて、貴明の唇は私の胸から離れない。
ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅっ。
「あ、ああぅぅ……」
ちろちろと舌先で胸の先端を刺激されながら、空いた手で空いた方のおっぱいを揉みこまれゆく私。
ぴりり、ぴりりと脳に伝わる刺激に、抵抗手段の筈の手が、貴明の頭を抱きかかえてしまう。
じりじりと、身体を押し上げられていくような感覚、なんていうんだろ、高まっていく、とか?
「気持ち良さそうだねえ、郁乃」
「そ、そんな事、んっ、ないっ」
また、耳元で囁かれて、イヤイヤをする私。
でも、あれ? おっぱいを貴明が占領していると、姉の手は何処に……
ひゃうっ、ズボン脱がされてるっ!?
「ふーん、ホントかなあ」
そう悪戯っぽく言いながら、姉は露出した私の太股を撫でる。
暴れようにも、上半身はしっかり貴明に責められていて、もう身体に力が入らない。
そして姉の手は脚を昇ってお尻を一撫でして、
「確かめてあげるっ♪」
お尻と閉じた両脚の小さな三角地帯から、私の一番敏感な場所に滑り込んできた。
223:姉と妹と彼氏の事情20/26
08/03/02 13:06:22 wiZcjMzN0
「うあァんっ!」
そこに指が這った瞬間、私が挙げた声は盛大に裏返っていて、我ながら恥ずかし過ぎる。
でも、それくらい凄い刺激だった。前に自分で触れたのなんて、文字通り児戯に等しい。
「ふふっ、湿ってる」
せ、性格違うんじゃないの姉。なんて抗議も通じるわけはなく、姉の指が下着の上からスリット部分を擦りあげる。
そこは姉が言うとおり、きっちり濡れ始めていて、
「あ、あうう、やぁ、もう、こんなぁ……ぁうんっ!……あ?」
弱々しい声と、弱々しくならない喘ぎ声。
それが一瞬止まったのは、吸い付かれていた乳首から感触が消えたから。
「いいなあ愛佳。俺も触るよ、郁乃ちゃん」
「うあっ? ひゃくんっッ!!」
わざわざ宣言しくさってから、貴明の指も私の下腹部を滑り降りた。
上から貴明の、下から姉の、ふたつの指がそこに集結して蠢き出す。
「そ、そんな速く、あんっ、や、おっぱいもっ!?」
口を離したのは下を触る宣言の為だけだったのか、今度はもう片方の乳首に吸い付く貴明。
加えてあろうことか、空いた側の乳房に姉の左手が伸びてくる。
「下着、汚れちゃうよ、脱ごうね」
もうすっかり染みになっているだろうパンツも、姉と貴明の手が協調してずり下ろされる。
「で、電気、せめて、消して」
哀願空しく、閉じようとした脚も開かされて、姉は背後だし貴明は胸だから見えないのが救いだけど。
「あっ、ひ、開くな、やっ、入れちゃだめ、ふひゃうんっ、そこや、潰しちゃ、んんんっ」
見えないけど、割れ目を広げられて、そこらへんを掻き回されて、突起物を指でおさえられて、
もう体中に痺れが走って、わけがわからない、電灯の光が眩しくて、視界が、白く、気持ちいい、白く、
「っあぁぁあううっッ!」
意識が消し飛んだ。
224:姉と妹と彼氏の事情21/26
08/03/02 13:09:21 wiZcjMzN0
「はあっ、はあっ、ふあっ、あふぅっ」
呼吸が浅い、空気が、なかなか肺に入ってこない。
これが、いわゆる、イッちゃった、ってやつか。などと思う余裕もなく。
「あ、脚っ、やぁ」
両脚が開かれる、仰向けになった私を、見下ろす男の目。
「み、見るなぁ」
「見ないと挿れられないし」
挿れるって、今から? そうか、って、今までのは、いわゆる前戯ってやつぅ?
ぐいっと太股が持ち上げられて、おしめポースで、朦朧とした視界のなかで、
貴明の、いつのまにか出てきてた下半身のそれが、私のそこに近づいていく様子だけやたら明瞭に見えて。
「ちょ、ちょっとタンマ、今だけ、ダメ」
私は慌てて止めたのに。
「ゴメン、俺が我慢できないや」
ぐいっ。
容赦なく、こいつは力の抜けた私の身体に、硬い肉棒を打ち込んできた。
「んくうっ!」
初めてじゃないから辛くないなんて、そんなの甘い。
確かに皮膚を裂かれるような痛みこそなかったけど、下から杭でも打ち込まれたような。
ずりゅっ、ずいっ、ずっ、ぐっ。
「うふぅっ、くはっ、くふっ、うぁあぁっ」
前後に抜き挿しされる度に、足先から脳天まで貫かれる突入感。
「ぐぅっ、うあっ、あうっ、ふぁうッ!」
貴明の腰の動きに、私の身体の全てのリズムが同調する、いや、支配される。棒きれ一本に制御される私の感覚。
「い、郁乃、頑張れっ」
私の様子があまりにも苦しそうなのか、姉が心配そうな声を挙げる。
「あっ、つ、辛い?」
夢中で動いていたらしい貴明の動きが、それで弱まる。
……今頃配慮とかふざけんな。負けてたまるか。
225:名無しさんだよもん
08/03/02 13:13:02 zbsvbcJz0
支援
226:姉と妹と彼氏の事情22/26
08/03/02 13:13:37 wiZcjMzN0
「平気だから、勝手に動きなさ……かはぅっ!」
台詞が終わらないうちに、動きを再開する貴明、やっぱり口だけだ、こいつの気遣いは。
「ふぐっ、ひやっ、うぁんっ、あっ、ああっ」
ぐちゅ、ぐちゅっと結合部から漏れる湿った音。私のそこは、苦しいくせに潤滑油だけはちゃんと供給しているらしい。
「ああっ、んっっ、ひやっ、えっ、あん」
おかげで痛みは本当になく、ただ敏感な部分を抉られ擦られる感覚が、どんどん大きくなっていく。
「あっ、あうっ、あっ」
貴明の動きが速くなる、もうすぐ、たぶん、私、
「あっ、くぅっ、きしゃっ、くあっ、うん、あっ、あっ、あああううっっっ!」
強く首を左右に振り乱して、私は二度目の、そいういう状態に到達してしまった。
けど、
「大丈夫、ごめんね」
「へ、平気、それより、まだでしょ、そっちは、いいわよ、動いてて」
そう、貴明はまだ出してない。動きたいはず。
「無理だって、少し休まないと」
「平気だってば、だから抜くなぁ、動け」
「いや、そう言われましても」
「あ、あのう……」
妙な意地の張り合いに終止符を打ったのは、姉のかぼそい声だった。
「その、私も、見てたら、すごく……して欲しい……」
なんっつー声で、なんっつー台詞を吐くのか我が姉は。私でも速攻で押し倒したくなる。今は体力ないけど。
「あ、あああ、ご、ごめん、つい、郁乃ちゃんに夢中になってて」
ずずっ、硬度と膨張率を保ったまま、私の身体から引き抜かれる制御棒。
「ん……」
身体の中にぽっかり空いた空洞感に、私は安堵と同時に寂しさを覚える、が。
「ふひゃあんっ、ん、んんっ、ひひゃっ、ダメぇっ、うきゅぅっ!」
すぐ隣で、姉の声が張り上がる。
私との行為で既に出来上がっていた貴明と、ずっとおあずけを喰っていた姉なのに、息はぴったりで。
「ひうっ、ぐっ……あっ、ひっ、ひぃぁ、は、あふぁ、いっ、く、ぅ、ううぅーんっ!」
途中省略したけど、ともかく、結構あっという間に、姉の声は完全に裏返った。
227:姉と妹と彼氏の事情23/26
08/03/02 13:15:41 wiZcjMzN0
「ふぁっ、はぁっ、はぁっ……出てる……」
「う、くっ、ん……」
本人はぶっ飛んでるだろうに、端で見てると、イったかどうかって意外と分からないものね。
なんて妙に冷静に分析してしまう私。しかしどうやら、二人は揃って目的を達したらしい。
……やっぱり、ちょっと悔しいかも。経験の差よね、相性じゃない、たぶん、そう思いたい。
「郁乃……おいで……」
これで終わりかと気を抜きかけたのがいけなかった。私はいきなり姉の手に引き寄せられ、
「こんどは二人一緒に、してもらお?」
「えっ、って、ちょっと」
姉が抱きついてくる。うわあ、なにこれ、柔らかい、私の身体と全然違う。なんだっけ、ほら、昔のSF映画の、
「……マシュマロマン」
「もう、酷いなぁ……うきゃっ?」
唇を尖らせた姉の台詞が途中で途切れたのは、姉妹の会話なんて気にしないエロ魔人が手を出したから。
くちゅり、くちゅりと指でアノ辺りをいじくる音がして、目の前で姉の表情が恍惚に変わる。
ごく。
私は息を飲む、なんて顔して、私もさっきは、こんなんなのか……
ぐにっ。
「あうっ!?」
姉にのしかかられて下方は全く見えないだけに、貴明の指は不意打ちで私を責めた。
ぐにゅっ、ちゅっ、くちゅ。
湿った感触、姉の愛液……と、貴明の精液も混ざってるのかな、が、私の秘所に塗りたくられる。
「ぐっ、んんっ、あっ」
じきに自分の身体からも、分泌物が漏れだしている音が加わる。
交互に貴明に弄り回される、姉と私の、大事な筈の部分。
「も、もうダメ、お願い、たかあきくん……」
切ない声でねだる姉。絶対言いたくないと思いつつ、私の身体も辛くなっている。
「郁乃ちゃんは、いい?」
「か、勝手にしなさいよ」
そう強がるのが精一杯で、内心はまた、さっきの感覚が自分を襲うのを待ち焦がれていた。
228:姉と妹と彼氏の事情24/26
08/03/02 13:17:32 wiZcjMzN0
「くはぅっ! んんっ、ふぁっ!」
貴明の下半身は、一度出すモノを出しても元気みたいで、私は容赦なく突き上げられる。
「……ひっ、き、きゃぅっ、ひぁふっ、んぅっ!」
そして、何度か私を向こうの世界に近づけておいて、今度は姉に目標を移す。
私に覆い被さっている姉の身体から、衝撃の余波が伝わってくる。
「あぐっ、んっ、あわぅ!」
そしてまた選手交代、私と姉は、交互に貴明に貫かれて悲鳴を挙げながら快感を高めていく。
……あれ、これだと、最後どっちでするんだろ。
「ま、愛佳、郁乃ちゃん、こうやって」
私には貴明の求めの意味が判らなかったけど、姉は理解したみたい。
「郁乃……」
ペタっと抱きついて、腰を押しつけてくる。
「っ、は、恥ずかしいって。お姉ちゃん」
何を今更、とは思いつつ、自分と姉の熱い部分が接触するのは羞恥心を刺激した。
「郁乃ちゃんも、ぴったりくっつけてね」
「へ?」
答える間もなく、ぐいっと押しつけられる硬いモノ。
それが私の割れ目を広げて前進してきて。
「ああうっ!? 入って……ない? あんっ!」
中に挿れるのではなくて、あそこを下から擦り上げるように往復する貴明のあれ。
「ふひゅっ、ひゃんっ、こ、擦れるぅ~」
姉も同じ状況、つまり、上下から貴明のを挟んでるって事……んっ。
「くっ、あんっ、や、結構、これ、うあっ」
「いっぱい、擦れて、たかあきくんっ、あん、郁乃っ、あああん」
「うっ、お、俺も、これは、凄い、やばいかも」
挿入とはまた違う刺激と、体中に感じる姉の体温と、それより熱い貴明の肉体と、
「愛佳、郁乃ちゃん、うくっ」
「い、いく、のっ、たかあき、んっ、くぅんっ!」
「あっうっ、お姉ちゃん、貴明ぃ、お姉ちゃんっ、ああんんっっ!」
私がイクのと同時に、お腹に熱い液体がかかる感触と、姉の身体が痙攣のように震える感覚があったけど、すぐに意識は白く薄れた。
229:姉と妹と彼氏の事情25/26
08/03/02 13:21:08 wiZcjMzN0
「う、ぁ、はぁっ、はぁ、……う? え?」
心地良い虚脱から醒めると、また熱くなったそこに、強烈な膨満感があった。
いっ、挿れられてるっ? またっ?
「うっくっ」
ぱんっ、ぱんっと、さっきよりも激しく、貴明の下半身が私の下半身を打つ。
「あっ、やっ、そんな、くうっ」
なんて奴だ、気絶してる私を相手にまたするなんて、せめて姉の方を……
「あれ、お姉ちゃ、んっ、うっ?」
横を見たら、姉が精魂尽き果てた顔で倒れていて、その身体には、さっきより広い範囲に粘性の液体がかかって。
私が気絶してる間に姉と一戦交えてたのか。って、このエロ魔人底なしかい!
「くぁはっ! あうっ、あん、もっと、ダメ、ちょっと、優しく、くふゅっ!」
「ごめん、俺、止まらないから、もう」
「もうって、できない、ならっ、ぐうっ! 謝るなっ、あぐっ、はあ、はんっ、ひゃうああああぅっ!」
どくっ、どく、どく。
また消し飛びそうな意識が、辛うじて繋ぎ留まったのは、身体の中に送り込まれる流動体の感触のせい。
出されてる、中に、せーえき。
ぼうっとして、私は貴明を見上げる。荒い息をついて、やっと満足したような顔の性欲魔人。
……なんだろう、この、もの凄い、被虐感。
いいように弄ばれたような、利用されたような、それでいて自分は快感の渦に突き上げられて、支配されて。
(……お姉ちゃんは、この感覚を求めてるんだろうか。)
だとしたら、私もこれに溺れちゃダメだと思う。それこそ、男にだけ都合のいい姉妹丼のできあがりだ。
ばさあっと、力尽きたように貴明が倒れ込んできた。
「たかあきくん……」
反対側から、姉が貴明に寄っていく、というか、私を間に挟んで、ぴったりと。
「愛佳、郁乃ちゃん……」
「……後始末、しないと」
「うぅ……眠い……」
私の提案は却下されて、すぅ、すぅ、とあっというまに二人は寝息を立て始める。
230:姉と妹と彼氏の事情26/26
08/03/02 13:23:09 wiZcjMzN0
かち、こち、かち、こち。
灯りも消してない部屋に、目覚まし時計の音が静かに響く。
「……どうしたもんかね」
ベッドの片付けから三人の将来まで、親への説明やら、貴明との力関係やら。
短期的にも長期的にも、世間的にも個人的にも、色々と問題はありそうだったけど、
「……あったかい」
背後に姉の柔らかさ、正面に貴明の逞しさ。
いつぞやの馬上と逆、二人に挟まれて、その温かさに、私は包まれて。
「……寝るか」
悩むことが無駄とは思わないし、これからも考えると思うけど。
だって姉も貴明も考えないし。でも。
「……くぅ」
私は今この瞬間、とりあえず凄く幸せな眠りにつくのだった。
231:名無しさんだよもん
08/03/02 13:24:09 wiZcjMzN0
以上です。支援どもでした。全レス数間違い。
あと、3箇所くらいある愛佳の「貴明くん」は「たかあきくん」の間違い。直し忘れたorz
郁乃storyでキャライメージが変わったのは、郁乃でも愛佳でもなく貴明でしたね俺は
232:名無しさんだよもん
08/03/02 14:22:10 fLOGErmbO
>>231
GJ!
まだADやってないから郁乃視点の文っていまいち想像つかなかったけど
郁乃のバットエンドの補完として楽しめました
なんかありがとう
233:名無しさんだよもん
08/03/02 14:24:48 NQUVftcKO
むしろグットエ(ry
234:名無しさんだよもん
08/03/03 00:29:08 gxTTrnhEO
郁乃√は姉妹丼
俺もそう思っていた時期がありました
235:名無しさんだよもん
08/03/03 00:37:54 Xaw6PaNB0
ADやったらひさしぶりに執筆意欲が沸いてきたぜ。
236:名無しさんだよもん
08/03/03 01:53:45 b6ZAdr/30
>>235
奇遇だな。
まだ何人か残してるからアレだけど、一通り終わったらはるみとクマ吉の心を取り戻させてやらねばならん!とは思ってる。
237:名無しさんだよもん
08/03/03 16:16:19 N9G2/t0m0
執筆意欲ゼロになった私も。
郁乃で書いてましたが、完全に続編書く気がなくなりました。
もう少しどうにかならんかったものか……
238:名無しさんだよもん
08/03/03 17:31:20 DKf0T8zx0
このスレ河野家おわってから見てなかったんだけど久しぶりに来ちゃった・・・
239:名無しさんだよもん
08/03/03 18:39:11 lIKvEpWN0
菜々子については二次創作で補完すべき、だぴょん
240:名無しさんだよもん
08/03/03 19:47:17 5Y66pyGtO
>237
漏れは逆に貴明とラブラブないくのんを書く所存であります
昔いくのんがタカ棒の寝込みを襲う浮気SSを書いたこともあったけど、もう可哀相でそんなの書けません
ハーレムか単体かはわからないけど、郁乃を書くときは絶対幸せにします
241:名無しさんだよもん
08/03/03 20:18:55 N9G2/t0m0
>>240
なるほど、そういう考え方もありますね。
私も連載中断して久しいですが、頑張って書いてみようかな。ADはなかったことにして。
242:名無しさんだよもん
08/03/03 20:25:23 qzQJejTvO
>>240
単体でおながいします
独占欲の強い愛佳の妹なのだから、郁乃も独占欲が強そう
なので、郁乃に貴明を独占させてあげてくだしい
243:名無しさんだよもん
08/03/03 20:26:21 QxOVMoiI0
いくのんが姉と貴明の二股をですね
244:名無しさんだよもん
08/03/03 21:00:44 Xaw6PaNB0
なんかこう、本編で絡まないキャラ同士を絡ませたいなぁ。
245:名無しさんだよもん
08/03/03 21:08:27 IwFfmzok0
バウム×愛佳w
まあ愛佳ED後じゃないとして、これなら遠慮無く貴明×いくのんが実現できるww
246:名無しさんだよもん
08/03/03 21:20:00 PTy1HRBw0
メイドロボと姫百合姉妹のSS書きたくても
シルファと珊瑚ちゃんとの仲が掴みづらく書きにくいな
247:名無しさんだよもん
08/03/03 22:27:10 VaA03dJk0
ADは無かったことにして、
半年位前までの各自の自分設定で書いたほうが面白いんじゃないかな?
未だにシルファの「なのれす口調」に馴染めないよ・・・。
248:名無しさんだよもん
08/03/03 23:34:53 lIKvEpWN0
これをいい機会にして、書き手が戻ってくるといいんだけどな…
いなくなった人のことを言っても仕方ないかもしれんが
249:名無しさんだよもん
08/03/03 23:49:00 i4zFWzzY0
こっそり書いてるかもよw
おれはインスコまでやったけど今までのイメージが壊れるのが怖くて
未だにプレイする度胸が涌いてこんよ
まあ、一旦始めてしまえばサルのようにやってしまうんだが
250:名無しさんだよもん
08/03/04 00:21:22 /QQ0MV530
待ってる人がいなくても、一応作品を完結させるのが作者の務め!
と思って書いてます。最後の更新いつだったかな……かけるときはすらすらかけてかけないときは
1年も2年もかけなくなるから困る。
251:名無しさんだよもん
08/03/04 00:22:59 kPMfEPtk0
そういうのは口に出さずにやり遂げると余計にかっこいいんだぜ
がんばれよ
252:名無しさんだよもん
08/03/04 00:59:30 J476vvqK0
AD、エロスでもおばかでも3Pでも許される公式設定が出たからいいじゃないか
……まールートのオチだからアレではあるが
253:名無しさんだよもん
08/03/04 04:23:38 Ptv2Co8a0
あれはエロスやおばかじゃなくて下品と言うんだorz
254:名無しさんだよもん
08/03/04 06:27:41 y+d1p42a0
でも、漏れはADでイメージが大きく変わったキャラってシルファとイルファくらいだけどな
イルファは想定範囲内で一番悪いあたりに落ちて、逆にシルファは良い方向に予想を超えていた
255:名無しさんだよもん
08/03/04 06:31:13 52LFUHd/0
…郁乃×バウムSSが読みたいとか言ったらフルボッコにされる予感!
相手間違えて謝罪もそこそこに即夜這いしなおしに行く枕貴明より
ポッと出でもバウムのほうが男らしくて好きなんだが駄目ですかそうですか。
256:名無しさんだよもん
08/03/04 06:45:58 uzbJNfRv0
バウムのキャラが具体的に分かってないのがなあ
貴明よりはマシには同意だが
257:名無しさんだよもん
08/03/04 07:59:49 Qutp01Y+O
AD発売跨いじゃったよorz
シルファが予想と違いすぎて困った…
書き直すべき?
258:名無しさんだよもん
08/03/04 08:55:46 JsKVfQxY0
シルファこんな腹黒だとは思わなかったね
259:名無しさんだよもん
08/03/04 09:49:30 naHno9RW0
某SSがひっそりと完結した件
260:名無しさんだよもん
08/03/04 10:42:10 6pAOmg+t0
>>257
そのまま投下して良いと思うよ。
ネタバレ自重期間だし、ADを黒歴史にしたい人も多いみたいだから。
261:名無しさんだよもん
08/03/04 21:17:02 6bsezHkr0
ネタバレ自重はするつもりだが、いったいどれくらい待てばいいんだろ。
262:名無しさんだよもん
08/03/04 21:22:43 /QQ0MV530
発売2週間~1ヶ月ぐらいじゃないですかね?
そこまで酷いネタバレでなければ、SS書いても問題ないと思いますが。
263:名無しさんだよもん
08/03/05 00:57:38 vm+ywyzB0
投下前にADバレ有りって告知すればいいだけじゃん。
未成年者いない名目の板なんだし、
わざわざバレ事前申告あれば後は各自で判断するでしょ。
264:名無しさんだよもん
08/03/05 09:25:34 +/Cv8NbW0
AD設定で書く人はこっちに書いてURL貼るって手も有るな。
URLリンク(www2.atchs.jp)
265:名無しさんだよもん
08/03/05 12:37:37 Dt0w6c1p0
そもそもネタバレが怖いならこの板に来ませんよ。
ただ、ネタバレするな!と故意に煽る奴が出てくるおそれはありますが。
266:名無しさんだよもん
08/03/05 12:59:38 fpcUqoOo0
>>265
自分の考えを押し付けるのは良くないぞ。
ADは様子見だけど東鳩2SSは読みたいって人も居るんだから。
267:名無しさんだよもん
08/03/05 14:37:01 vm+ywyzB0
>>266
同じように個人の都合の押し付けも良くないだろ。
商品発売後にネタバレなんて騒ぐ様なゆとりは無視でいい。
回避したい人間でまともな思考の持ち主なら、
ゲーム終らすまでスレのログ保存しとくなり対策してるだろうしな。
268:名無しさんだよもん
08/03/05 16:16:06 DRawEH0l0
>259
あれはまあ、その前の話でほとんど決着ついてたけどな
二年とは随分間が空いたが、完成させたことが素晴らしい
269:名無しさんだよもん
08/03/05 18:43:12 PnqZp0Qg0
殆どメイドロボ関連しか読んでなかったから他の進行状況が把握できず><
どうしても偏ってしまう漏れを許してくれorz
270:名無しさんだよもん
08/03/05 18:43:41 PnqZp0Qg0
殆どメイドロボ関連しか読んでなかったから他の進行状況が把握できず><
どうしても偏ってしまう漏れを許してくれorz
271:名無しさんだよもん
08/03/05 18:49:02 PnqZp0Qg0
慣れないPS3で書いたせいか連投的なことに・・・
これもタブってたらスマソ
272:名無しさんだよもん
08/03/05 19:02:53 mWK/oPAS0
>>266
よくないと言われるほど押し付けがましい意見でしたかね。
そこまで読み手の都合に配慮して差し上げなければならない理由が
いかなるものか不明ですが。
273:名無しさんだよもん
08/03/05 19:41:53 tP/hf+xe0
>>270
メイドロボがメトロイドに見えた俺は明日が楽しみ
>>272
ま、ADはまだでSS読みたい人はいるかもね
既出の通り、一言あれば回避できるんでない?
無配慮で投下するよりは皆幸せになれる
投下前にバレ有り警告くらいなら難しい手間でもないかも
274:名無しさんだよもん
08/03/05 20:00:28 CvjMODMx0
じゃあこれでいいのな?
:ADのネタバレがある場合、ネタバレ期間中はSS投稿前に一言書き込み
:ネタバレ期間は二週間(3月14日まで)
まあ半端にネタバレ気にするよりは、
警告ありで思いっきり書けばいいかと。
それ以降はもう自由にお書き下さいということで。
275:名無しさんだよもん
08/03/06 02:32:13 44qozxCc0
よっしゃ~、このたま以外クリアしたど~~!!
これでなんとかAD準拠のSSも書けるってもんだ。
新しい設定もいっぱいあったような気がするしね。
どうやらあの町は四方を山に囲まれてるらしいとか?貴明のママンの話とか?
春夏さんが旦那と歳離れてて、なおかつ幼馴染ってのも初耳だよな。
いくのんの病気の設定もわかったしなぁ。ま、バウムは使いにくいが……
にしてもメイドロボのパーツの名前が昔のと違ったような??
耳カバーの設定、とりあえず今までは「リメンバーマイハート」にあわせて名前は「イヤーレシーバー」でGPS機能や遠隔操作機能があるって考えてたんだけど、ADでは「イヤーバイザー」だったもんなぁ。
サテライト関係はデフォ機能じゃないらしいし。
ま、イルファさんがハッキングに使ったんだから色々機能はあるんだろうけど。
まぁ、なんにしろそろそろ電波も入ってるし、楽しみ楽しみww
276:moa
08/03/06 23:09:43 ghcDfYhr0
ADいいすね~。
とりあえずALLクリアしましたが、シルファとちゃるが気に入りました。
ネタばれ期間が解禁したらぜひとも書いていただきたいです。
277:名無しさんだよもん
08/03/07 08:27:57 B1FLUmtbO
春夏さんのエロースなSSを読みたいんだけど、
オススメのは有りますか?
278:名無しさんだよもん
08/03/07 18:18:40 7A3KYOej0
>>277
URLリンク(toheart2.ss-links.net)
279:名無しさんだよもん
08/03/07 20:34:49 OT5LCiPN0
ミルシルで12周しちまった
280:名無しさんだよもん
08/03/07 22:50:09 HG8n6Axj0
春日さんのLinksに最近登録された新規サイトの絵が表示されていないので、そのアドレスを見ると『file:///C:/Documents』で始まり、その中に人名にしか見えない漢字四文字。
どういう意味かは大半の人にはわかるだろうが、
せっかく匿名で公開しているのに、本名丸出し。
哀れに思いその人に知らせてあげると、人名を別の漢字に変えただけ。
当然絵は表示されない。
本人はその間違いにいつ気づくだろうか?
281:名無しさんだよもん
08/03/08 02:58:13 7vgKnn0T0
シルファ「ご主人様、ただいまもどりましたのれす」
ギシギシアンアン
シルファ「・・・? ご主人様ー?シルファ帰ってきたのれすよー」
ガチャッ
貴・はる「あ」
シルファ「・・・もう少し遅くても良かったみたいれすね」
バタン
こっ このレスはなかったものと思ってください!
そう!空気中の二酸化炭素だとでも思ってくだれば!
282:名無しさんだよもん
08/03/08 03:13:02 WAp4e52BO
いくのんが貴明(まとも)とラビューラビューする話が読みたいです・・・安西先生・・・
バウムってなんだよ・・・
283:名無しさんだよもん
08/03/08 20:15:30 q5rB3gi00
郁乃SSなら書庫にでもいくつかあるでしょ。
未完の長編も一本あったような気がする。
284:名無しさんだよもん
08/03/08 21:06:54 ERyOPk3p0
>>259のSSがさっぱり判らない・・・
285:名無しさんだよもん
08/03/08 21:41:05 ZQr3jHm60
虹の欠片でぐぐれ
遠回しに某とか言ってないでヒントくらい書いていけよw
286:名無しさんだよもん
08/03/08 21:52:41 +mrbFoyb0
それってアレか
雄二に股開いたこのみに未練たらたらの貴明の話か
ADショックの後に読むもんじゃねええええ
287:『おかえり☆ミルファちゃん♪』
08/03/08 21:52:53 5hfrL/Ci0
ちょっくら一本投下させていただこうかと思います。
一応警告文も。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★ ★
★ 本SSは、TH2AD準拠で書かれています。 ★
★ ★
★ 作品中多数のネタバレを含みますので、お読みになる際はご注意下さい ★
★ ★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ちょっと冒険かもしれませんが……それでは次からはじまります。
288:『おかえり☆ミルファちゃん♪』1/16
08/03/08 21:54:43 5hfrL/Ci0
「大好き、貴明……。あたしのたったひとりのダーリン」
それは自己の存在に対する確固たる自信。
アイデンティティ? レゾンデートル? ただ、貴明を思うが故に自分は在る。
ようやくそれを手にしたミルファの瞳は、ただ純真だったはるみのものとは違う強さを秘めた輝きを
宿して貴明を見つめていた。
「好きなのはミルファちゃんだけだよ」
それこそが彼の強さ。
何処までも譲ってしまう、臆病と言えるほど相手を慮ろうとする態度……自分がない、であるが故に
全てを肯定し、受け入れる事が出来る心。
確信さえ持つ事が出来れば、迷わず気持ちを貫ける真っ直ぐな愛。
「姿が変わっても、名前が変わっても、好きになるのはミルファちゃんだけだ」
そう。それこそが二人の真実。
「俺のこと覚えてなくても、昔も……これからもずっと」
ちょっとおどけた様に微笑み、ミルファは貴明に質問した。
「舌足らずで性格最悪で、ぺちゃぱいでも?」
「うん」
「男の子になっても?」
「うん」
最後にミルファは少しおびえた風に眉を寄せ、じっと貴明を見つめながらこう、たずねた。
「クマの……ぬいぐるみでも?」
そんなミルファにくすり、と微笑みかけると、そっと貴明はミルファの頬に掌をそえた。
289:『おかえり☆ミルファちゃん♪』2/16
08/03/08 21:57:18 5hfrL/Ci0
「きっと、好きになってたよ。君が君のままでいてくれるならきっと好きになる」
……そんな、ミルファの不安をも癒せる様に。
「ミルファちゃんが俺を覚えていなくても、何度でも好きになれる」
優しく、柔らかい彼女の頬を撫でる。
暖かい、嬉しい、くすぐったい、そんな気持ちを、全部こめて。
「貴明……あたし……」
手に手を取り合った二人の距離がだんだん縮まっていく。
……頬を染めたミルファがそっと瞳を閉じて……。
「あー、おほん」
はっとして顔を上げると、
「あ、あははははははは」
そこには呆れたように二人を見つめる目、目、目……。
……あまりの恥ずかしさと困惑に、貴明は『逃げる』という選択肢以外は何も思いつかなかった。
ミルファエンド+SS『おかえり☆ミルファちゃん♪』
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「……貴明、大丈夫?」
長い坂を越え、再び駅が見えるあたりまで来た時には、貴明はわき腹に手を当ててぜぇぜぇと荒い息
を繰り返しながらヨロヨロと歩くのが精一杯の状態に陥っていた。精神的にいっぱいいっぱいの状態の
まま上り坂を駆け上った事で、一気に体力を消耗してしまったのである。
心配そうに彼を覗き込むミルファに対し、貴明は弱弱しくはあったが笑顔を見せて答えた。
「だ……大丈夫、だよ……。少し、休めば、すぐ歩けるように……なる」
290:『おかえり☆ミルファちゃん♪』3/16
08/03/08 21:59:48 5hfrL/Ci0
しかしミルファは、そんな彼の強がりを許してはおかなかった。
「大丈夫じゃなさそうだよ……体温も高いし、脈拍も、歩いてるのにまだまだはやいもん」
貴明に寄り添って歩くミルファは、そっと彼の頚部に手を当てながらそう告げた。
「さんちゃんちで休んでいこうよ。貴明の家に戻るよりずっと近いし」
周囲に目をやったミルファは、姫百合家のマンションの方角を指差して……というよりもう貴明の腕
を取って引っ張り始めていたりする。
「ちょ、ちょっと、ひっぱらないで……」
あわあわとする貴明であったが、
(そういえば珊瑚ちゃんたちに心配かけっぱなしだろうから……)
そのまま大人しく連れて行かれることにした。
姫百合家の面々(シルファ除く)とはミルファを追いかけるために駅前で別れたっきりなのである。
アレからまだ1時間と経っていないとはいえ、状況が状況だったのだからさぞかし心配しているであ
ろう。おそらくは研究所にも連絡をつけただろうし、丸く収まったことを知らせるのは早いにこした事
はない、と貴明は判断したのだ。
「そうそう、一度休まなきゃダメだよ~~」
なんなら肩を貸す?と、ミルファは上機嫌で貴明によりそってきた。
それで気が済むのなら、とミルファの肩に手をかけると、彼女の身体もほんのりと熱を持っているよ
うだ。うなじの辺りもほんのり桜色に染まっている。
「あれ、ミルファちゃんも少し熱くなってる? 身体、大丈夫なの?」
あのトラブルの後なので貴明は心配になって訊ねてみた。
「このくらいはどうってことないよ。ただ、ちょっと嬉しかっただけ」
その返事に貴明が首を捻ると、ミルファは上気した頬を向けてくすりと笑った。
「……嬉しかったんだもん」
もう一度、ミルファは繰り返した。瞳を輝かせて。
◇ ◇ ◇ ◇
マンションにふたりが辿り着くと、祈るように胸の前で掌を組み、所在なさげにエントランスに立っ
ているイルファの姿が目に入ってきた。