ToHeart2 SS専用スレ 23at LEAF
ToHeart2 SS専用スレ 23 - 暇つぶし2ch1:名無しSS作家さん
08/02/22 01:01:30 y1yweLaz0
桜が舞う、暖かな季節。
新しい出会いや恋、そして友情に笑い、悲しみ。
すべてが始まり、終わるかもしれない季節。
季節といっしょに何かがやって来る、そんな気がする――。


ToHeart2のSS専用スレです。
新人作家もどしどし募集中。

※SS投入は割り込み防止の為、出来るだけメモ帳等に書いてから一括投入。
※名前欄には作家名か作品名、もしくは通し番号、また投入が一旦終わるときは分かるように。
※書き込む前にはリロードを。
※割り込まれても泣かない。
※容量が480kを越えたあたりで次スレ立てを。
※一定のレス数を書き込むと投稿規制がかかるので、レス数の多いSSの投下に気づいた人は支援してあげて下さい。
※コテハン・作家及び作家の運営するサイトの叩きは禁止。見かけてもスルー。

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ToHeart2 SS専用スレ 22
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2:名無しSS作家さん
08/02/22 01:02:24 y1yweLaz0
AQUAPLUS『To Heart2』公式サイト
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Leaf『ToHeart2 XRATED』公式サイト URLリンク(leaf.aquaplus.co.jp)
Leaf『ToHeart2 AnotherDays』公式サイト URLリンク(leaf.aquaplus.co.jp)
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3:『姉ちゃんといこう!?』1/15
08/02/22 01:33:33 y1yweLaz0
 AM7:30 河野家 貴明個室

 ……3月ともなると、ようやく厳しかった冬の寒さは緩み、次第に気持ちのよい、春と呼ぶにふさわ
しい日が多くなってくる。
 それでも、朝はまだまだ布団から出たくない季節である事に間違いはない。まして、ようやく学年末
試験も終わり、つかの間の自由を許された『もうじき受験生』にとって、この惰眠は値千金のものと言
ってもよい。……問題は、その時間は本人にとってのみ価値があり、周囲にはとんでもない怠惰にしか
見えないという事なのだが。

「貴明っ! たーかーあーきぃーっ!! 朝だよ~~、起きてぇ~~!!」

 ゆさゆさ、ゆさゆさ。
 ここにも、貴重な眠りの価値を理解してもらえない一人の不幸な少年がいた。
 まぁ、彼の生活を知る者に『彼は不幸だそうだが』などと言えば、10人の内6人(男全員?)は殺
意を抱きそうではあるのだが……

「起きて~~!! 折角試験終わったのに、いつまでも寝てちゃつまんないよ~~!!」
 ごすっ!「げふっ!!」
 少女の文句とともに、何か硬いものが突き刺さる音と、腹腔内の空気を全部叩き出されたかのような
呻き声が部屋に響き渡る。
 苛立ちをつのらせた赤毛の美少女ミルファが、揺すっても一向に起きない貴明に実力行使……それも
いきなりエルボードロップを喰らわせたのだ。
「起きないと肘落とすぞ~~!!」
「……あのなぁっ!? 落としてから言うなよ! それも鳩尾にっ! 永眠してしまうわっ!! 第一
 試験明けくらいゆっくり寝かせて「やった~! おはよ~! 貴明ぃ~っ♪(ぼふっ!!)」……お、
 おい、重いって……」
 容赦のない攻撃に思わず布団を跳ね除けて飛び起きた貴明だったが、彼の抗議は『待ってました』と
ばかりに飛び付いてきたミルファによってたちまち遮られてしまう。

4:『姉ちゃんといこう!?』2/15
08/02/22 01:35:50 y1yweLaz0
「この2週間、寂しかったよう……」
 戸惑う貴明をよそに、ミルファはそう言いながら彼の胸にネコのように頬をすり寄せた。……そうい
えば彼が試験準備に入って試験終了に至るこの2週間、何も言わずともミルファは貴明の勉強の邪魔に
なる様な事は一切しなかった。普段は鬱陶しいほどに求めてくる会話やスキンシップも、貴明が求めな
い限り欲しがるそぶりも見せようとはしなかった。
(今更気が付くなんてな……)
 そういえば昨夜も黙って早く寝かせてくれたっけな……ミルファの心遣いにようやく気が付いた貴明は、腕の中で至福の表情を浮かべるミルファを感謝の気持ちを込めて優しく撫で続けるのだった。


              みちのく湯けむり紀行『姉ちゃんといこう!?』


 AM8:30 河野家 居間

 しばらくぶりにゆっくりした気持ちで朝食を済ませた貴明は、ミルファの淹れてくれたコーヒーを片
手にテレビを眺めながらくつろいでいた。
 週末の朝にやっている番組にそう面白いものがあるわけではないが、今のリラックスした気分に相応
しく、テレビにはもう完全に春モードになった地方の風景が映し出されていた。いわゆる旅行物という
やつである。桃や桜、たくさんの菜の花。春の味覚。そして温泉……。
「旅行かぁ。しばらくぶりに温泉もいいよなぁ」
「温泉って、やっぱ気持ちいいの??」
 ぼーっと画面を見ながら誰ともなしに呟いていると、後片付けを終えたミルファがいつのまにか貴明
の隣に座って質問してきた。
 メイドロボに温泉の良さが理解出来るのだろうか……と悩みつつ、貴明はどう答えたものか首を捻っ
てしまう。どう考えても温泉の効能が効くとは思えない、というか成分そのものはむしろ有害なくらいだろうが、彼女らほどの高性能機であれば、もしかしたら『リラックスして心が癒される』などと言う
事もあるかもしれない。

5:『姉ちゃんといこう!?』3/15
08/02/22 01:38:36 y1yweLaz0
 そのあたりで貴明が答えを返そうとした時の事である。
「あれ、家の前に車が駐まったみたい。誰か来たのかな??」
 ミルファの耳がピクリと動いた。
 テレビも点いているというのに相変わらず良い耳をしている。……もっとも、貴明にとってはむしろ
『地獄耳』という名の恐怖である場合が多いのだが。

『ピンポーン』

 ミルファの言葉を裏付けるように、ほどなくインターフォンが鳴った。
 ほらね?という顔をしながらミルファが受話器を取る。
「はい、どちらさまでしょうか…………あら、環さん。おはようございます」
「ん? タマ姉??」
 どうやら訪問客は貴明にとって姉のような存在の幼馴染、ミルファにとっては最凶の部類に入るライ
バル(ちなみに最強ライバルはこのみ+春夏、最悪の敵はイルファ&シルファ)であるところの爆乳赤
毛猫属性お姉さま、向坂環嬢のようであった。


 AM8:50 河野家 玄関前

「ほらほら、クルスガワの新しい車よ~~!」
 環に引っ張られるようにして外に出ると、そこには彼女の言葉通り、ピカピカのハッチバック車が駐
まっていた。確かにクルスガワ自動車のCMでよく見かける、新型ハイブリット車のコンパクトSUV
である。外見は大きくないのに居住性の良さそうな広い車内、華やかな彼女に良く似合う赤いボディ。
 ……そしてボンネットには不似合いな若葉マーク(笑)
「うわ、初心者マークだっさ……」
「……聞こえてるわよ、ミルファ……」
 貴明にくっ付いてきたミルファの暴言にこめかみの血管を痙攣させる環……。経験上このまま放って
おけば一番割を食うのは自分だと確信した貴明は『車褒め殺し作戦』に出る事にした。

6:『姉ちゃんといこう!?』4/15
08/02/22 01:41:22 y1yweLaz0
「いや、でも、ほら、すごいじゃない?? これってCMでもよく見るよ。スタイルといい、カラーと
 いい、内装といい、タマ姉にぴったりの車だね!!」
「……この車って微妙に私らの妹なんだよね。これの高性能バッテリーはメイドロボ用小型大容量バッ
 テリーのスピンオフ技術で作られてますから~~」
「なんかそれを聞くとムカつくわね」
 しかし貴明の努力も、先ほどからちらちらと火花を散らす二人の前に一瞬で吹き消されてしまった。
 普段は結構仲が良いのだが、ミルファは試験明けの二人だけの時間を邪魔されて、環は久しぶりに貴
明に会ったのに邪魔されて、それぞれ不機嫌がつのっているのだった。
(こっ、このままじゃマズイよな……)
 焦りまくる貴明だったが、所詮この手の事にトコトン不器用な彼が考えた所で、『馬鹿の考え休むに
なんとやら』の域を出はしない。
 だが、なんの気まぐれか。
 まだ少々頬はひくついていたが、環はそれ以上ミルファの挑発には乗らず、貴明に向かって写真入り
カード、俗に言う自動車運転免許証を突き出して自慢してきた。
「ほらほら、タカ坊、見て見て? タカ坊は学年末試験だったし、私は暇だったし、折角だから車の免
 許取って来ちゃったのよ」
 言われてみれば、3学期の自由登校になってから環と一緒に学園に通う機会は激減していた。
 しかし今までは九条院大学受験の為だとばかり思っていたのだが、実際雄二もそう言っていたし……
それに免許だってそう短期間に取れるものではないはずである。
「あれ? 九条院の試験って、いつだっけ??」
 素直に貴明がその疑問を口にすると、
「あ、AO入試で受けちゃったから。3学期入って早々に結果出てたの。九条院の他にも試しに受けて
 みたんだけど、近場の私立だけだし、息抜きに行くには教習所は丁度よかったわ」
 とまぁ、全国の受験生を敵に回すような種明かしをケロッとした顔で言ってのけた。
 全く、困ったパーフェクトお嬢様である。
「だからちょっとドライブに付き合わない? いいわよね?ミルファ。少しの時間タカ坊借りても」
 もうじき卒業なんだし、と寂しそうに微笑みながら環はそう言った。


7:『姉ちゃんといこう!?』5/15
08/02/22 01:44:22 y1yweLaz0
 AM10:00 首都高速道路 汐入IC付近

「う~~ん、やっぱりハイブリット車って静かでいいわねぇ~~♪」
「……なぁ、タマ姉。ここって、どこさ。っていうかどこに向かってるのさ」
 ちょっとドライブ、と言ってたような気がするんだけど……と思いつつ、貴明はあまり見る事のない
高速道路の行き先表示に、自ら現在位置や目的地を推測する努力を放棄していた。
 1時間ほど前。
 貴明を助手席に乗せた環は、迷わず最寄りのICから高速道路に進入、東京方面に向かって走り始め
た。いきなり高速?とその時にも不思議に思った貴明であったが、環のいかにも『してやったり』的な
横顔を見ているうち、どうやらハメられたらしいという事を今に至っては確信している。
 その貴明のもっともな質問に対して、環は前方を見据えたままぽやーっと答えた。
「どこって……北の方??」
「北って……」
 何故クエスチョンマーク!?と、はっきり答えない環にちょっと貴明が呆れ声を出すと、
「いいトコ??」
 一瞬貴明の方に視線を向けると、環は可愛らしくペロっと舌を出して見せた。
 返答にはやはりクエスチョンマークを付けて。


 AM10:00 河野家 キッチン

「……なんか、遅いわね。メールでもしてみようかな……」
 時計を見るとまだ貴明が環と出かけてから1時間ほどしか経っていない。
 だが、なんとなくミルファの勘はキナ臭いものを感じ取っていた。
『わんわんっ!わんわんっ!』
 思い立ったらいてもたってもいられずに貴明にメールを送ってみると……ダイニングテーブルの上か
らいきなり犬の鳴き声が聞こえてきた。
「って、貴明携帯持ってってないじゃないよっ!!」


8:『姉ちゃんといこう!?』6/15
08/02/22 01:47:28 y1yweLaz0
 PM11:00 東北自動車道下り線 岩槻IC付近

「ねえ、タマ姉。東北自動車道って書いてるような気がするんだけど??」
「そうよ。そうでなかったら困るわ」
 自宅を出発してから2時間。
 全く躊躇なく、貴明に何かを聞く事もなく、快調に進撃を続ける環の車はいつの間にか東北自動車道
を北上していた。……いったい何処へ連れて行かれるものやら……いい加減貴明も不安になってくる。
色々な意味で彼は環を全面的に信用しているが、信じている項目の中には『環は凄い策士で、自分は
絶対敵わない』などというものもあるのだ。
「なあに? おトイレに行きたい? サービスエリアに入ろうか?」
 ごにょごにょと落ち着かない様子の貴明に、環は『蓮田SA10km』の標識をちらりと見ながら訊ね
てみた。さすがにここまで来れば貴明が逃げ出すとは思えない。第一、あくまで『ちょっと車を見るだ
け』のつもりだった貴明は、財布も携帯も何も持っていないのだ。まともな靴を履いているのがいっそ
不思議なくらいである。
「サービスエリアにも寄りたいけど……どこに向かってるのか知りたいな~~、なんて??」
 すると「そうだったわね」という風に環はにっこり笑って答えてくれた。
「金山温泉。タカ坊と一緒に雪景色が見たくなって」
 ……それはそれは、最近ちょっと目にしないくらいの『いい笑顔』であった。


 PM1:30 東北自動車道下り線 安達太良SA

「あら。ミルファからいっぱいメールが来てるわね」
 何を白々しい……と思わずにいられないほど、自分の携帯電話の液晶画面を眺めながら環はあっけら
かんとそう言ってのけた。

 今二人がいるのは福島県の安達太良サービスエリア。
 食事休憩のためにここに寄った彼女らは、レストランでそれぞれ遅めの昼食を摂っていた。

9:『姉ちゃんといこう!?』7/15
08/02/22 01:51:02 y1yweLaz0
 名物の『智恵子もち(いわゆる雑煮。結構美味い)』をパクつきながら、環は行儀悪く携帯を操作し
ている。ちなみに貴明がそんな事をしていれば叱られるのは確定である。きっとミルファを出し抜いた
のが面白くてたまらないのだろう。
「なになに?『今何処ですか。全然ちょっとじゃないんですけど』うーん、捻りがないわねえ。『貴明
 に電話するように言って下さい』言うわけないじゃないの。ねえ??」
 ねえと申されましても……と、貴明はもう頭を抱えたい気分だった。
 これはもう逃げれば死、帰っても死。まさにDEAD END。完璧チェックメイト状態である。
 折角のこれも名物メニュー『牛タンわっぱ(そば付き)』であるが、ほとんど味がわからない。

 そんな貴明を尻目に、環はニコニコと満面の笑みでメールを打っている。
 きっとミルファの神経を思いっきり逆撫でする様なのなんだろうなぁ……と、その様子を貴明はまる
で遠い世界の出来事のようにぼんやりと見つめていた。


 PM2:00 河野家 居間

『にゃお~ん、にゃお~ん』
「やっとメール来たわね……」
 珍しくイヤーレシーバーを付け、ダイニングテーブルに置いた貴明の携帯を前にうろうろとしていた
ミルファだったが、結局鳴り響いたのは自分のレシーバーの着信音の方であった。まぁ、手打ちをサボ
ってこちらからメールを送ったのだから当然かもしれないが。
 レシーバーに来るんなら着信音切っておけばよかった……と、彼女は耳元でがなり立てたレシーバー
にいらいらしながらも早速仮想ウィンドウを開いてみた。
「え~~っと……『出かける時言った通り、ちょっと卒業旅行に借りてくわ。ほんの1日よ。明日の夜
 には戻るから、よろしく~~(はぁと)』って、は、はめられた~~~っ!! どこがちょっとよ! 
 ほんの1日なんて聞いてない~~~~っ!!!」
 ミルファの大絶叫が巷に響き渡った。
 ……あまりの声量に、隣家から驚いた春夏とこのみが駆けつけて来たくらいである。

10:『姉ちゃんといこう!?』8/15
08/02/22 02:00:02 y1yweLaz0
 PM3:30 山形自動車道 山形北IC付近

「や、山形北……って、どこ?ここ」
「山形」
「山形はわかるけど……金山温泉って山形だったんだ……」
「やあねぇ、タカ坊ったら。日本の地理をみっちり仕込んであげなきゃいけないかと思ったわよ」
 車窓の外に広がるのは……初春を迎えた関東圏とは全く趣の異なる、まだ冬の気配の抜けない寂寥た
る風景であった。道路脇の雪こそ多くはないが、遠望出来る山々の多くは真っ白と言って良い。

 そしてインターチェンジを降りた環の車は、『山形方面』ではなく国道13号線を『新庄方面』に向
けてさらに北上をはじめる。
「……タマ姉、まだ、北に行くんだ??」
「あら、私は『雪景色が見たい』って言ったでしょう? これくらいは雪景色って言わないわよ」
 いや、十分です……というつぶやきは胸に納め、貴明は嘆息した。
 どのくらいの雪があれば雪景色って言うんだろう……今はその事だけが気懸りだった。


 PM4:30 山形県尾花沢市 金山温泉 共用駐車場

「さ、着いたわよ」

 車を降りると、そこは雪国だった。

「さっき電話しておいたから、旅館から迎えが来るはずなんだけど……あ、来たわね」
 路上にこそ積もっていないものの、道路の脇には2mはあろうかという雪の壁。
 灰色の空。肺腑を突き刺す冷気。完全に雪に覆われた山肌。
 これが同じ日本とは思えないような風景が広がっていた。

11:『姉ちゃんといこう!?』9/15
08/02/22 02:03:30 y1yweLaz0
「マジですか……」
 長袖Tシャツ一枚にジーンズ、という命知らずなくらい軽装の身を縮こまらせて貴明はつぶやいた。
 するとぱさり、と背後から厚手のコートが着せ掛けられた。さらに首にマフラーが巻きつけられる。
「こんな事もあろうかと、コートとマフラーを用意しておいたわ。よかった、ぴったりね」
 思わずドキリとさせられるような優しい環の笑顔に一瞬見惚れる貴明であったが……
「こっそりコートやマフラーを用意するよりさ、最初から寒い所に行く服を着ろ、って言ったほうが良
 くなかった?? ねえ、タマ姉??」
 なんのことはない、偽物の温もりに騙されている事に気が付いてしまった。

 その考えが正しい証拠に、環は知らん顔で迎えのマイクロバスに手を振っていた。


 PM5:00 金山温泉 不二屋

「わあ、綺麗な部屋ね、タカ坊♪ 見て、外! すごい雪景色よ~~!」
「そ、そだね……とっても、綺麗だね……」
 確かに、文句の付け様のない完璧な雪景色である。
 家を出てわずか8時間でこんな場所までやってこれるなんて、さすが狭い島国とは言え南北に長細い
日本は一味違う。更に、地方にまで伸びた高速道路網もこの旅の大きな手助けになっていると考えて良
いだろう。都会にいるとなかなか実感出来ない、道路特定財源の恩恵という奴である(笑)

 それはさておき。

「タマ姉、ダブルベットなんですけど……」
「ほらほらタカ坊、ここはお部屋にも温泉があるのよ。あとでちゃんと大きなお風呂の予約も取ってあ
 るけど、まずはここで汗を流しましょうか」
 寝室の大きなベットに二つ仲良く並んでいる枕、という貴明的にはありえないシチュエーションにび
びっていると、環はそそくさと自分と貴明のお風呂セットを浴室の前に並べている。

12:『姉ちゃんといこう!?』10/15
08/02/22 02:07:11 y1yweLaz0
 いわゆる半露天の専用風呂という奴である。ちなみに、この旅館でこの設備のある部屋はたった一つ
しかない。当然、宿泊料金は一番高い。
「タマ姉、なんでもう服脱いでるんでしょう……」
「さ、早くいらっしゃい、タカ坊♪」
 ……聞いちゃいねえ。貴明はおもわず天を仰ぎたくなった。
 そういえば環は、宿帳に『婚約者』とか書いていたような気がする。
 そういえば、宿の人に『ご夫婦?ご兄弟?』とか聞かれて『婚約者です。私の卒業旅行に付き合って
くれてるんです~~』なんて答えていた様な気がする。
 つまり。
(誰も阻止してくれる人はいない、ってコト??)
 どうしたらよいか決心がつかず突っ立っている貴明に、艶然と微笑む環(装備品:バスタオルのみ)
がゆっくりと近付いていった……。


 PM5:00 河野家 リビング

「あ゛~~~~んっ!! ぐやじいよぅ~~っ!! ねえさぁ~~~んっ!!」

 その頃河野家のリビングでは。
 落ち込むミルファに困惑した春夏とこのみの通報を受けて駆け付けた姫百合家の面々は、泣きじゃく
るミルファをなんとか慰めようとしていた。……多分。
 今のミルファはイルファの胸に縋ってわんわん泣いている。もしも涙が出るならイルファのメイド服
はきっと大変な事になっていたに違いない。その様子に、イルファはいつになく優しく妹を抱きしめ、
背中を撫でている。
「ずるいよ~~!! もうじき卒業だからって寂しそ~~うに言うから大人しく譲ったのに……そのま
 ま貴明を拉致しちゃうなんて、ずるいずるいぃ~~!!」
 延々と愚痴を言うミルファの様子を、瑠璃と春夏は苦笑いしながら見つめていた。
 ちなみに、このみとシルファはミルファに同調してぷんすか怒っている。

13:『姉ちゃんといこう!?』11/15
08/02/22 02:10:50 y1yweLaz0
 どうやら二人的にも環の行動はずるいらしい。
「タマお姉ちゃんったら、一人で抜け駆けなんてズルすぎるでありますっ!」
「そうれすよ。これはらん固抗議されるべきれす!!」
 珊瑚はといえば、なにやらノートパソコンで調査をしているようだ。
「……わかったで~~。タマ姉ちゃんの携帯の電波を受信してるトコの近くにある温泉は一つや。山形
 の金山温泉やぁ~~♪」
 ……どうやらなにか見てはいけない情報を探っていたらしい。
 もっとも、
「金山温泉か~~。今から行くいうてもこんな時間からじゃどもならんなぁ。じゃあ、今日のところは
 タマ姉ちゃんに譲るとして、ウチらも今度、貴明と一緒に温泉行こな♪」
 探ったからといって何か実のある事をする訳でもないらしいが。
 そんな企画が立ち上がった姫百合家に触発されたのか、
「あらあら、それはいいわねえ。タカくんと温泉なんて随分行ってないわ。私はお父さんと一部屋取る
 から、このみはタカくんの部屋に泊めてもらう??」
「そ、そうするでありますよ、お母さ~~ん!!」
 どうやら柚原家でも温泉計画が発動されるらしい。
 春夏の提案に、鼻息も荒くこのみは賛同している。……このみ父が聞いたらなんと言うのだろう??
「ウチはさんちゃんと行けるんならなんでもええけど……」
「……れは瑠璃さまはご主人様と別の部屋でもいいんれすね?? なら遠慮なくシルファが……」
「だ、誰もそんなコト……」
 とまぁ、こちらもすっかりその気らしい。
「うわぁ~~~んっ!! だめだめだめったらだめぇ~~~っ!!」
 ほうぼうで立ち上がる『貴明と温泉に行こう計画』を聞きつけ、さっきまで落ち込んでいたミルファ
は飛び上がってがーっ!!と騒ぎまくる。
「あらあらミルファちゃん、すっかり元気になっちゃって♪」
「みっちゃん、いつも貴明独り占め、カッコ悪いで~~」
 珊瑚とイルファは、そんなミルファを(生)温かい目で見つめていた。


14:『姉ちゃんといこう!?』12/15
08/02/22 02:14:33 y1yweLaz0
 PM7:00 金山温泉 不二屋

「あら、さすがに山形牛は美味しいわね~。お刺身でいただいても全然くせがないし柔らかいわ」
「ホントだね。……もぐもぐ。山形って、山ばっかりで魚とか美味しいのないと思ってたけど、この鱈
 の鍋なんか、とっても美味しいね。……むぐむぐ」
「くすっ。タカ坊、食べながらお話しなんてお行儀が悪いわよ」

 夕方までの貴明のおどおどっぷりは何処へやら、夕食の時には二人の雰囲気はすっかりいつもの状態
に戻っていた。おそらくは、先だっての入浴でリラックス出来たからであろう。
 風呂場に連行された時には『過剰なスキンシップ』の強制執行を恐れていた貴明だったが、予想に反
して環は決して姉と弟の垣根を越えたりはせず、目のやり場にこそ困ったものの、実に和やかなひと時
を過ごせたのだ。

 そして今に至る、というワケである。
 浴衣姿の二人は仲良く並んで山海のご馳走に舌鼓を打っていた。冬は比較的食材に恵まれない季節と
は言え、オールシーズンの山形牛と、旬の最後の寒鱈を中心に仕立てられた品々の味は、さすが高級旅
館の名に恥じないものだった。
 ちなみに、さすがに真面目な環は泡の出るジュースや米ジュースは頼んでいないようである。


 PM8:30 金山温泉 不二屋

「ねえ、タマ姉。また温泉なの??」
 環に連れられて廊下を歩きながら、タオルを頭に載せた貴明が尋ねた。
 すると、環は『くあっ!』と貴明の間近に顔を寄せると、人差し指を突き付けながらこう言い返して
きた。……なんだか目が座っているのは気のせいだろうか??
「温泉に来たらまずお風呂! ご飯を食べたらお風呂! 寝る前にお風呂! 起きたらお風呂! これ
 が掟よっ! この旅館には温泉が5つあるの。入り倒さないで帰れるわけがないでしょう??」

15:名無しさんだよもん
08/02/22 02:16:57 qvb1ALZ70
仕組みわからんのだけど支援?

16:『姉ちゃんといこう!?』13/15
08/02/22 02:18:22 y1yweLaz0
「お、掟なんだ……」
 環の言った通りのタイミングで入ると1つ余るよなー、どうするんだろうなー、などと思いつつ、貴
明は苦笑するしかなかった。それにしてもそう馬鹿みたいに大きいとは思えない旅館の何処に5つもの
浴場があるのだろう?男女の区分けはどうなって……などと思っているうちに、どうやら目的地に着い
たらしい。だが何処を見渡しても温泉旅館でお馴染みの『男湯』『女湯』の表示はない。
「入り口一つしかないみたいだけど……俺は何処に行けばいいの??」
「ここに決まってるじゃない。この旅館の温泉は常に予約制で貸し切りなんだから」
 何を言っているの?という顔で環が教えてくれた。
 そして彼は、また目のやり場に困る至福のひと時(?)を過ごす事になったのだった。

 それはさておき、当たりの柔らかい硫黄泉は本当に芯まで温まって気持ちよかった。
 環が控えめな態度を崩さなかった事もあり、貴明は再びじっくり湯の良さを堪能する事が出来た。


 PM10:00 河野家 リビング

「10時ですね~~。環さま、そろそろ貴明さんに迫ってるかもしれませんね~~」
「ふ、ふええぇぇぇ~~ん、姉さんのイジワルぅ~~~」
 その日の夜。河野家では、イルファが妹イジメをしていた。
「え、ええんか? さんちゃん」
「瑠璃ちゃん、心配なん??」
「ウチは……貴明が誰と何したかて……関係あれへんもん……」
 ついでに、瑠璃も余波を受けていた。


 PM10:00  金山温泉 不二屋

 その頃。温泉から帰ってきた貴明はダブルベットの脇で固まっていた。

17:名無しさんだよもん
08/02/22 02:20:28 /CYdpY+Y0
そういやさるさんにもかかってないっぽいね
といいつつ支援

18:『姉ちゃんといこう!?』14/15
08/02/22 02:22:52 y1yweLaz0
「どうしたの? タカ坊。それともまだ眠くならない??」
 彼にとって、先ほどまでいつもの慣れ親しんだ『やんちゃなお姉さん』だった事が嘘のように、ベッ
トの上で笑う環にどうしたらいいのかわからなくなっていたからである。
 別に何か格好が変わったわけではない。
 浴衣は来たままで、少し乱れた白いシーツの上にぺたんと座った姿はむしろ可愛らしいくらいである。
 だが長い髪を解き、座ったままで上目遣いに貴明を見つめる彼女は、可愛らしいを通り越して暴力的
に可憐だったのだ。『構って?』と目で訴えるだけの猫の可愛らしさ、アレである。
「……ねえ、貴明……きて?」
 どきん。
 いつもとは違うその呼び方に、貴明の胸が大きく高鳴った。
 うるうると見上げる環の瞳から、濡れた唇から、目を離す事が出来ない。

「タマ……姉……」

「そろそろ、たまき、って呼んで欲しいな……」

「たま……き……」

「うん、貴明……」

                ◇  ◇  ◇  ◇

 PM15:30  東北自動車道 川口JCT付近

「ねえ、貴明」
「なに? たま……姉」
 どうやら貴明の方はまだ普通に『環』とは呼べないらしい。
 もっとも環も、あえて訂正しようとはしなかった。ただくすり、と悪戯っぽく笑っただけである。

19:『姉ちゃんといこう!?』15/15
08/02/22 02:26:55 y1yweLaz0
「温泉、2つ入りそびれたわね」
「あ、あー、そうだったね……」
 環のその言葉に貴明は苦笑した。彼が当初から気が付いていた事だが、がんばっても1泊で5つの温
泉風呂を回るのはちょっと辛いのである。まして金山温泉の湯は『温まり湯』なので、非常に冬向きで
はあるのだが、連続で入れば確実にのぼせてしまうのだ。
「ねえ、貴明」
「……な、なに?? タマ姉」
 また一緒に行こうね、という言葉が続く事を予想した貴明だったが、環が次に口にしたのは全く違う
言葉だった。
「珊瑚ちゃんに聞いたんだけど……来栖大学を目指すんだって??」
「え゛?? まぁ、そうはっきり決めたわけじゃないんだけど……なんとなくそうなりそうな……」
 しどろもどろに言う貴明に対して環はにやりと笑うとこう告げた。

「私、来栖大学も受かったから。来年はまた同じ学校ね♪」

「う゛ぇ゛?? ……そ、それは、楽しみだなぁ~~……」
 なんとなくそうなりそう、どころではない。
 確信した。これは絶対に合格しなければ、来年以降の人生はない。
 九条院大学を受けさせられるよりはマシかもしれないが、珊瑚やイルファや環が代わる代わるやって
きて大変な事になるであろう来年度を思うと、貴明は世を儚みたくなるのであった。
「来年、貴明の卒業旅行で入りに行こうね、温泉」
 なるほど、そう来るのね……と、貴明は大きな溜め息をつきながら納得した。
 そして、玄関の前で仁王立ちになっているであろうもうひとりの赤毛の少女の怒りを思うと、想像だ
けで100回は気絶出来そうな不安を覚えるのであった。

 ……無論、彼の不安はフルコースで的中する事になる。合掌。


                    ~~終~~

20:『姉ちゃんといこう!?』の中の人
08/02/22 02:37:21 y1yweLaz0
こんばんは。支援、ありがとうございました。
スレ立てをして引き続き投下したのでさるさんが不安だったのですが……ひっかからなかったですねぇ。
とりあえず全部晒せて一安心です。

本作は前スレ>>694の「旅行物」に触発されて書いたものです。
一応、鍋も出してみましたw ホント、一応ですけどね。
まぁ、これも勢い任せなので色々アレな面はありますが、気にしないでやって下さい。

なお、本作に登場する地名などは架空のものですw
聞き覚えのある名前がある?きっと気のせいですよ。
特に金山温泉とか不二屋などはありませんから。
銀山温泉や藤屋さんを参考にしてる、なんて事はありませんから、そこんとこよろしく。

それにしても……ToHeart2の舞台ってどこらなんですかね??
一応今回は神奈川(仮名)あたりをイメージしたのですが……。

21:名無しさんだよもん
08/02/22 02:42:55 iyQ2JQAK0
おもしろかったでーす
リアルタイムで読ませていただきました^^

作者さんに質問なんですけど
このお話って全部書くまでにどれくらい時間かかりましたか??
よろしければおしえてください><

22:名無しさんだよもん
08/02/22 02:53:33 /CYdpY+Y0

カレーの人だよね

相変わらずミルファが活き活きしていて良いが
今回はタマ姉も良いなw

そして描写も一段と良くなっている
テンポ良くさくさく読める文体と構成で好感が持てました

ところで、タマ姉とタカ坊は夜何があったのでせうか…気になるわ…

23:名無しさんだよもん
08/02/22 06:18:01 Zk12Z6lE0
乙~。さるさん解除ならいいんだけど

文章うまいね。春夏もライバルなのはやっぱりカレー対決の影響かw
東北自動車道は(もうちょい北だけど)仕事でしょっちゅう走ってるのでなんか親近感が湧いた

タマ姉と温泉な話もいいんだけど、これってこれで完結? だとするとメイドロボチームの役割が弱いよーな
ここまで彼女らを書いたなら、いっそ皆で温泉に押しかけてくる展開(もしくはオチ)のが自然な気がしなくもなかった

24:名無しさんだよもん
08/02/22 07:21:38 /LOHa0Wr0
ミルファにとって、取るに足らないライバルって誰でしょうかね?
最強=このみ+春夏
最凶=タマ姉
最悪=イルファ&シルファ
最弱=???

愛佳?

25:郁乃専属メイド
08/02/22 08:14:39 6dL+hN/HO
初投下してみます。
何故か書き禁くらってるので携帯からですがorz
------------------------

修学旅行当日の朝。
姉を迎えに来た貴明の顔を朝から見て
不愉快な気分にこそならなかったものの、
しどろもどろに説明する二人に若干の苛立ちを覚える。

愛佳「それじゃあ郁乃、そろそろ行ってくるね」
郁乃「行くのはいいけどこのロボなんとかしてから行ってよね」

話は数分前に遡る。
今日から姉の学年は修学旅行。それ自体に何の問題もない。
両親も仕事の都合で泊りがけの出張になったのは計算外だった。
通学できるまでには回復した私だけど、まだまだ生活に不自由を感じる場面は多々ある。
でも、このみや姫百合姉妹といった友達もいるし、なんとかなるだろう。
たまには家族の目を離れ、一人暮らし気分を満喫しよう。そんな事を考えていた。
でもその密かな目論見は過保護な姉とその彼氏によって、
ものの見事に打ち砕かれた。

貴明「まぁそう言わないで。ほら、シルファさんにも失礼だろう?」
郁乃「保護者面しないで。誰が頼んだのよ」

26:郁乃専属メイド
08/02/22 08:16:43 6dL+hN/HO
お節介な姉とその彼氏は知り合いのメイドロボがいるらしく、
私の世話をシルファさんとやらにお願いしたらしい。
生活に不自由を感じるとはいえ、自立歩行が出来るようになった今の私に
そう過剰になるほどまでに必要とは思えない。

愛佳「でも、ただ学校行くだけじゃないのよ?料理だってしないといけないし…」
郁乃「あのね、世の中には便利なコンビニってものもあるのよ」
愛佳「そ、そうだけど…ずっとコンビニ弁当なんて食べてたら体に悪いよぉ」
郁乃「バッカじゃないの?一週間やそこらですぐ不健康になってたら世の中成り立ってないわよ」

出発直前にいきなりそんな話されても、こっちだって心の準備とかあるのに。
大体何よ、貴明の物陰に隠れて挨拶すらしようとしない。
メイドロボってこんな無礼なものなのかしら。最新型のクセに。

貴明「愛佳、そろそろ時間」
愛佳「あ、そ、そうだね。話の途中だけど…それじゃあ郁乃、そろそろ行ってくるね」
郁乃「行くのはいいけどこのロボなんとかしてから行ってよね」
貴明「郁乃ちゃん、いい加減に…」
シルファ「た、貴明様。いいんです、私お母さんの所に戻ります」
貴明「…どうしてもダメそうなら連絡頂戴。珊瑚ちゃんに連絡取るから」
郁乃「この後に及んでまだ…」
愛佳「お願い郁乃。お姉ちゃん達心配なのよぉ」

27:郁乃専属メイド
08/02/22 08:20:04 6dL+hN/HO
心配してくれる気持ちは嬉しいけど、
このままでは本当に遅刻するまでここで問答を続けるだろう、この姉は。

郁乃「もう、わかったわよ。でも気に入らなかったらすぐ追い返すからね」
私の言葉に安心したのか、二人は慌てて家を出て行った。

とは言ったもののこのロボは一体何ができるのだろう。
モジモジ貴明の後ろに隠れてたかと思えば、すぐ諦めのセリフを吐き、
貴明が去った後も部屋の隅っこの方でじーっと突っ立ってるし。
何がしたいのか甚だ疑問だわ。
まぁ姉の顔を立てて一応名前ぐらいは聞いてみよう。

郁乃「アンタ、名前は?」
シルファ「HMX-17C、シルファと言います…」

私の言葉に反応して名前はわかった。
でもその後も一向に動こうとしない。何なのだろう。
これは今日にでも珊瑚に電話する事になるかもね。
一抹の不安を抱えつつも私は学校へ向かうべく、家を後にした。

------------------------
とりあえずここまでですが、普通は完成してから投下するものでしょうか?

28:名無しさんだよもん
08/02/22 11:54:59 q5JvIIsUO
>>27
乙です。
いくのんとシルファ、美味しい組み合わせだしなかなか楽しみではあるけれど……
シルファの口調と時系列に若干無理があるのはやはり気になりますね。
まあ、でもそこらは自由ですから、このままがんばっていただけたらと思います。

あと、別に完成してからでなきゃいかんというコトはないと思います。
長い場合はキリのいい場所で「つづく」にするのは問題ないんじゃないですか?

29:名無しさんだよもん
08/02/22 12:00:52 q5JvIIsUO
>>21
構想10分
下調べ(高速道路の所要時間とか)1時間
執筆は……1日4時間くらい使って4日間くらいかな? 
20時間はかかってないと思いますよ~。

30:名無しさんだよもん
08/02/22 20:55:11 L3LmYf7W0
>27
乙。この組み合わせはアイディアだな。っつーか先の予測ができんw
完成しないで投下するのは全然おkだが、完成せずに放置される作品は無数にあるからそうならんように頑張れ

31:郁乃専属メイドの中の人
08/02/22 23:14:15 6dL+hN/HO
ご指摘ありがとうございます!
まず時系列に関してはすっかり忘れてましたorz
でもこのまま行こうと思います。
シルファの口調は少し他の方のSSを見て修正しようと思ってます。
一応プロットは出来てるので、最後まで頑張りたいと思ってますが
遅筆なのはご容赦願いたいです…orz
今日は50時間ぐらい起きて仕事してるので
投下出来るかわかりませんが、明日はまったり投下して行きたいです。

32:名無しさんだよもん
08/02/22 23:24:19 cwDd0ZI70
>>27

この予測できない展開と組み合わせが、自分の感性を刺激していい感じ^^

33:名無しさんだよもん
08/02/23 00:04:15 VqC0bQ2v0
>>31
乙です。携帯からで忘れてるだけかもしれないが、一応sageとこうか。
あと作品の前書き、後書きは作中のレスに組み込まないほうが良い。
それと、「」前の名前はわりと嫌う人が多いみたいなので使わない方が無難かな。
ともあれ、初投下なのにちゃんとした文書けてるし発想も悪くないと思います。
続き期待してますね。がんがれ

34:郁乃専属メイドの中の人
08/02/23 00:48:06 T9cI69JEO
>>33
書き込み自体久しぶりなものでsageの存在を忘れてました。
気をつけます。
色々とアドバイス、ご指摘ありがとうございます。
確かに「」の前に名前が入ってる小説なんてありませんし、
文章の途中に前後書きが入ると読みづらいorz

勉強になりました。
今後に生かしていきたいと思います。

では力尽きそうなので、2レスだけ投下して今日は寝ます!

35:郁乃専属メイド
08/02/23 00:50:36 T9cI69JEO
玄関先で靴を履き、家を出る前にある事に気づいた。
家の鍵…どうしようかな。
私の後ろ、少し離れた位置に姿勢を正して立っているシルファに声をかける。

「アンタ、今日初めて会うけど家の鍵任せて大丈夫なの?」

私の問いかけに少し寂しげな表情を浮かべつつも、コクリと頷くシルファ。
まったく…。話せる口が付いてるんだから返事ぐらいしたらいいのに。
会った初日の見ず知らずとはいえ、人間じゃないシルファに鍵を預ける事にした。
最新型のメイドロボが悪事を働くとは思えない、それが理由だった。

「じゃあ鍵は預けて行くけど、変な事するんじゃないわよ」

またも頷いて返事を返すシルファにため息をつき、玄関のドアをくぐる。

「あ…」

外へ向かう私の背中に、微かな声がかかったような気もしたが
気づかないフリをしてドアを閉める。

36:郁乃専属メイド
08/02/23 00:53:24 T9cI69JEO
学校へ向かうこの通学路も、以前は姉に車椅子を押してもらい
私はただぼんやりと空を眺めていただけだった。
でもそれは少し前の話。今は自分の足で歩き、学校を目指して歩いている。
車椅子に乗っている時しか気づかなかったような事ももちろんあるが、
自分の力で歩く事によって気づく事もたくさんある。
まず、当たり前の事だけど周囲に気を遣うようになった。
交通事故に遭わないため、などもあるけど
私と同じく学校へ向かう子供や、朝の散歩をしているおばあちゃん。
どんな気持ちで同じ道を歩くのか。
そんな些細な事が気になったりもしたけど、実際私の知るところじゃない。
それと同じように、今朝会ったばかりのメイドロボが何を考えてるのか。
今日はそれだけを考えながら歩いていたら、気づけば学校の校門をくぐっていた。
いつもは新しい発見がたくさんある通学路も
メイドロボの事を考えるあまり、知らない間に通り過ぎてしまった。

「勿体ない事したなぁ…もう考えるのはやめよっと」

誰にともなく零し、頭の中にあるシルファの寂しげな顔を振り払う。
そんな事より、今は目の前にある最大の難関。
階段という大きな壁が待っているのだ。余計な事に力を使ってられない。

37:名無しさんだよもん
08/02/23 01:19:17 XP6OZMA70
>>34
>確かに「」の前に名前が入ってる小説なんてありませんし、

実はそうでもなかったりする

38:名無しさんだよもん
08/02/23 04:18:35 IqcXC8xg0
>>37
脚本風にするとか、演出の一つとしてはありだと思うけどやっぱ違和感あるような。
好みと言えばそれまでだがね。

39:名無しさんだよもん
08/02/23 12:21:32 GL79JljS0
>34
乙乙。なんだか展開が楽しみだ
1回の投下の現レス数/最大レス数と、連載なら通番はタイトルの後ろに入れた方が見やすいよ
例えば>25なら「郁乃専属メイド(1) 1/3」、>36なら「郁乃専属メイド(2) 2/2」みたいな感じで

台詞の頭に名前を入れる入れないや、段落の頭を1文字下げるかどうかは、
まあ文体やレイアウトと相談で好きなように、他のSSを参考にしてみたらいいんじゃないかな

とか、ずらずら書いたけど携帯からじゃ厳しいだろから無理しないでね。アク禁解除を祈る

40:郁乃専属メイドの中の人
08/02/23 13:51:14 T9cI69JEO
おはようございます
今書いてますが、もうすぐ携帯のソフトウェア更新が始まるらしく
投下は遅い時間になりそうです。


>>37
そうなんですか!?知らなかったorz

>>39
確かにその方がわかりやすいですね!
さっそく実践してみます。インデントに関しては、PCだと横書きなせいか
入れると違和感があるのでこのままいきます。
アドバイスありがとうございます。

41:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 1/15
08/02/23 14:07:33 nyBe6Wgl0

「少し風邪気味かもしれないけど、疲れたんじゃないかしらね」
 簡単な診察をして、保健医はそう言った。

「熱さえ下がれば問題ないと思うから、少し様子を見てあげて」
「はい」
 カスミの噂を知っていても、彼女にはそう言うしかなかったろうが、薫子はしっかりと頷く。

 浴室から洗面器に水を汲み、フェイスタオルを濡らしてカスミの額に当てた。
 ゥ…。
 診察の間もぼんやりとしていた黒髪の少女は、その冷たさに意識を戻したよう。
 ちらと薫子に視線を向け、
 ムッ……。
 弱々しい手つきでタオルを、薫子の手を払う。
「何もしませんよ」
 嫌われたものだと、しかし今の薫子には苦笑する余裕があった。
 相手の抵抗を受け流しながら、タオルを洗い直して再び額に当てる。
 何度か押し合いがあった後、観念したのか体力が尽きたのか、カスミは大人しくなった。

 スゥ、スゥ……。
 やがて、カスミは寝息を立て始める。
 薫子はちょっとホッとしながら、変わらずにタオル替えを続ける。
 ンゥ……。
 患者の寝顔は、あまり安らかそうではない。
(慣れない学園生活で、いきなりこれでは疲れますよね……。)
 半分は自業自得としても、薫子はカスミに同情した。
(何故、そんなに周囲を拒絶するの。)
 苦しそうに汗で額に張り付いた髪を払うと、ついそのまま髪を撫でる。
「お……様……」
「え?」
「……ねえ……様……どう……して……」
 呟かれた独り言に薫子は耳を傾けたが、そのままカスミは眠りに落ちていった。

42:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 2/15
08/02/23 14:09:28 nyBe6Wgl0

 お姉様、どうして死んじゃったの。

 朦朧とした意識の中で、カスミは姉の夢を見ていた。
「凄いわね、カスミは、もうこんな計算ができるの?」
 優しくて凛々しくて、いつも自信に満ちあふれた姉は、カスミの自慢だった。
 姉も歳の離れた妹に愛情を注いでいて、その限りで二人は対等だった。

 対等でなかったのは、両親からの扱われ方。
「お前は本当に優しい良い娘だねえ。私の誇りだよ」
 父は、姉を溺愛した。
「それに引き替え、この子ときたら、喋る事もロクにできやしない」
 対照的に、カスミには冷酷だった。
「でも、お父様、カスミはとても頭の良い子です。ほら、もうこんな問題が」
「お前がやってあげたんだろう、本当に、優しいねえ」
 姉が妹を庇うほど、父親は姉の評価を高め、
「全くお前はまたそんなむくれた顔をして、恥ずかしいと思わないのか!」
 妹に対しては、なお理不尽に辛く当たった。
 カスミは、不平は漏らさなかった。理由を知っていたから。

 自分は、父親の子供ではない。

 本当の父は判らない。父親の事業がうまくいかなかった時期に、母親が浮気した相手の一人としか。
 だから、今は父に媚びている母にとっても、カスミの存在は負い目になっていて。
「お前なんか、居なければ居ない方が良かったのに」
 父も姉もいない時に、何度そんな愚痴を聞かされたことだろうか。

 姉さえ居れば、それでいい。両親から聞かされ続けたその類の言葉には、でも、カスミ自身も同意見。
 お父様もお母様も、友達も自分にはいらない。お姉様さえ、側に居てくれれば、それでいい。
 なのに。

 お姉様、どうして死んじゃったの……。

43:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 3/15
08/02/23 14:11:24 nyBe6Wgl0

 やや季節外れのセラミックヒーターなど持ち出して部屋を暖めたせいもあって、
 洗面器の水がだいぶぬるくなってきたから、薫子は一度部屋を出た。

(うどんでも作ってあげようかな)
 そんな事を考えながら炊事場で水を入れ替え、部屋に戻ろうとして、
「あら、薫子さん。丁度よかった」
 扉の前で、声を掛けられた。

「こんばんは、どうされました?」
 薫子が振り向くと、昼間図書館で会った先輩達。
 あの時から更に2名ほど取り巻きが加わって、都合5人。
「看病大変そうね」
「別に……何かご用でしたでしょうか?」
「貴方じゃなくて、カスミさんにお話があるの。部屋に入れてくださらない?」
 薫子は、眉をひそめる。
「彼女は今、具合が悪いので……」
 言葉の途中で、既に相手がそれに気が付いていることに気づく。
「先生から聞いてるわよ。あの子なら、多少調子が悪い方が大人しいでしょ」
「話もし易いってもんだわ」
 病人を多数で取り囲んで、どんな話をするつもりなのか。

「ご用件なら、伺っておきますけれど?」
「いいから黙って開けなさいよ」

 のらっとした薫子の言葉に、別な生徒がイラついた口調で迫った。
「それともなに、やっぱりあの子の肩を持つわけ?」
「ふーん、そういう感じなんだあ」
 複数の口から、嫌みったらしい言葉が飛んでくる。
 そんな事はない、反射的にそう誤魔化しかけて、薫子は口をつぐむ。

 いつの間にか、彼女は背中にドアを背負っていた。

44:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 4/15
08/02/23 14:13:00 nyBe6Wgl0

 姉が交通事故で世を去ってから、カスミの扱いは更に酷くなった。

「お前が代わりに死ねば良かったのに」
 そんな言葉、できるなら、一番そうしたかったのはカスミ自身だったのに。
 ただ、姉が死んで間もなく、妹の頭脳が並はずれて優秀であることに、父親が気づいた。
「ふん、お前でも少しは役に立つか」
 それで、カスミは九条院に送り込まれた。父の、コネクションづくりの為に。

(コンナトコロ、キタクナカッタ……。)
 誰ともうまく行かないのは、中学校でも同じだった。
 違うのは、全寮制の九条院では、自分の部屋でも一人になれないことくらい。
 だから追い出した。嫌われたのか、嫌わせたのか、そんなのはどうでもいい事。

 代わりにやって来た子は、少し変だった。
 嫌がらせしても平気な顔で、かえって自分に寄ってくる。
 後から来たもう一人は、その子を追ってきたみたい。仲がいい。
 休日、向こうから声を掛けてきた。
 図書館に案内してくれた、本を借りてくれた。優しく、してくれた。

「居なければ、居ない方が」
 いいんです。
 別に関係ない。気にしない。耳が飽きるほど聞いた言葉。

(ウルサイ……。)
 扉の向こうが騒がしくなって、カスミは朦朧とした意識をぼんやりと取り戻した。
 昼間も聞いた声。今のルームメイトと、前のルームメイトの声はなんとなく聞き分けられる。
「ご用件なら、伺って……」
「いいから……開けなさい……」

 入ってくるのだろうか。カスミはのろのろと起きあがった。ポケットを確かめる。
 はらっと額からタオルが落ちた。ずっと看病してくれていたのは……

45:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 5/15
08/02/23 14:15:06 nyBe6Wgl0

「なによその目つき。反抗する気?」
 上級生がムッとした声を出す。薫子は黙っていた。

「なんとか言いなさい。いつもの減らず口はどうしたのよ」
「待ちなさい」
 激昂しかかった娘を止めたのは、派閥の領袖である元部屋の主。
「ねえ、薫子さん」
 ゼロ歩の距離に近づいて、耳元に顔を寄せてくる。
「部屋に入れないということは、私たちが病人相手に騒ぐようなならず者とお考えなのかしら?」
 考えているから、答えようがない質問。
「私は、貴方のご趣味に口を出す気はありませんけれど」
 ご趣味という部分に、ネチっとしたアクセントがある。
 玲於奈と薫子の仲を揶揄する噂は、中等部の頃からあった。
「二兎を追う者は一兎をも得ず、って知ってらっしゃるわよねえ?」
 従わないなら玲於奈も只では済まないぞ、と。

 薫子は迷った。
 最後通牒を突きつけられて、今なら引き返せる。
 目の前の連中とはだいぶ関係が悪化したが、元から良好でもないし、最低限の復旧は可能だろう。
 カスミの事は、カスミに任せればいい。九条を去るのも自由だし、案外、しぶとく生き残るかも知れない。

 ただ、そこに薫子はいないだけ。

(……ごめん、玲於奈。)
 自分が損得勘定の上手い方だとは、玲於奈を親友と定めた時点で思っていないが、
それにしても高等部に入るまでの努力を水の泡にするような行動は。

「あの子は体調が悪いので、今はお取り次ぎできません」
 自分の頑なな声を、薫子は久しぶりに聞いたように思う。

 目の前で、三年生の顔が歪んだ。

46:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 6/15
08/02/23 14:16:43 nyBe6Wgl0

「ふうん、そう」
 薄皮一枚、剥がれたような声色。
 お腹の前で抱えていた洗面器に、先輩の手がかかる。

「舐めてんじゃねえよっ!」
 びしゃり。
 洗面器が跳ね上げられて、顔面に冷水が浴びせられる。
 そして、ぼやけた視界が戻るより先に、腹部に衝撃が来た。
「ぐっ!」
 膝蹴りされて、身体をくの字に折り曲げる薫子。その途中で、横から髪を掴まれる。
 ぐいと顔を引き上げられた眼に映る、彼女を取り囲む悪意に満ちた表情達。
「へっ、いい気になんじゃないわ!」
 足を払われた。倒れ込む。掴まれたままの髪が、何十本か抜ける鮮痛。
「なに勘違いしてんのかしらこのコウモリ娘」
 頭を抱えてうずくまる薫子の、腰に蹴りが入る。
 そのジャージの腰に、複数の手が掛かった。
「アンタは素直に私たちに尻尾振ってりゃいいのよ!」
 ズボンを引っ張り上げられて、白い下着と、腰から太股までの肌色が露出する。
 ちりん、とそこから小さな金属品が落ちた。
「あっ」
 薫子はそれ-部屋の鍵-に手を伸ばしたが、その手は踏みつけられた。
「痛ぅっ!」
「最初から素直に渡しときゃあいいのに」
 カスミの元同室が鍵を拾って、薫子をひとつ蹴って、扉に差し込もうとする。

 ガチャリ。
 が、その前にドアノブが回る音がした。
「え? きゃっ!」
 急にドアが内側に開いて、目標を失った一年生がたたらを踏む。

 その娘を突き飛ばして、黒い影が部屋から飛び出した。

47:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 7/15
08/02/23 14:18:16 nyBe6Wgl0

「か、カスミっ、さん?」
 黒く見えたのは、カスミの髪の色だったらしい。
 寡黙な少女は頭から、薫子を取り囲む女子の列に突っ込んだ。

「うわっ、なに?」
 勢いに驚いて、離れる包囲の輪。
 ちゃりん。薫子の鍵が、一年生の手から再び床に落ちる。
「カスミさんっ!」
 一瞬早く我に還った薫子が、鍵を拾い、黒髪の少女を抱えるように引き戻し、自分たちの部屋に逃げ込んでドアを閉めようと。
「なにすんだてめぇっ!」
 だが、包囲網の一人が身体をドアに挟んだ。
 ばぁんと、あっという間に扉は押し開けられて、なだれ込んでくる生徒達。

 多勢に無勢で抵抗のしようもなく、薫子とカスミは床に転がった。

「やっぱりつるんでだんだねアンタら」
「つるんでたなんて言い方が悪いですわ、愛でしょ愛」
「あはは、気色悪ぅ~」
 嘲笑されても、カスミの表情はさほど変わらない。が、
「なにこの写真、前の恋人ぉ?」
 カスミの机の上の写真立てを取り上げた二年生に、少女の目が燃えた。
 床から跳ね起きて目標に向かう、その手がパジャマのポケットに、
「それは駄目っ!」
 彼女の手に握られているものを、薫子は知っている。飛びついて押さえ込む。
「なに抱き合ってんだよっ!」
 笑い声とともに、足が飛んでくる。頭を蹴られて視界が震える。踏みつけられて肺が潰れる。
 半分朦朧とした意識のなか、薫子は床に投げつけられた写真立てを庇う。
 その眼前に、見慣れた自校の上履きが迫る。
「しばらく表に出られない顔にしてあげる!」
 
 目を閉じた。だが、予想した衝撃はやってこなかった。

48:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 8/15
08/02/23 14:19:44 nyBe6Wgl0

「うぎゃぐっ!」
 代わりに、頭上からカエルが潰れるような悲鳴。
 急に、静まりかえった空気。
「……?」
 ぼうっと顔を水平まで上げると、目に映る二組の足。
 うち、一組が宙に浮いている。

 そして、倒れ込んだままの薫子とカスミの頭上から、
「何を、やってらっしゃるのかしら?」
 場にそぐわない、涼やかな声が舞い降りてきた。

「うっ、ぐっ、あ、アンタはっ!?」
 女子生徒の狼狽した声。薫子は、痛みをこらえて身を起こす。
 目の前に、彼女を蹴ろうとした先輩がいる。頭が随分高い位置にあって、地に足がついていない。
 簡単に言うと、首根っこをつかんで吊り上げられている。

 そして、吊り上げているのは、同じ九条院の、制服姿の少女。
「喧嘩なさるのはご自由ですけど、五人で二人を寄ってたかってというのは、いささか趣味が悪くありませんこと?」
 学年章は二年生。にこやかな笑みを浮かべた彼女は、驚くべきことに片手で相手を持ち上げていた。
「て、てめえには関係なっ」
 ぶんっ。

 人間が宙を飛ぶ姿というものを、薫子は初めて目の当たりにした。
 投げ飛ばされた女生徒の身体は、投げ手に飛びかかろうとした少女を巻き込んで、開け放しの入口を通って廊下まで吹っ飛んだ。
 残る三人の顔が蒼白になる。二人は逃げ腰に後ずさる。
「じ、上級生に手を出して、覚えてなさぐっ!」
 残り一人、派閥のボスは震える声で捨てぜりふを吐こうとしたが、一瞬で首を掴んで引き寄せられる。
「覚えて欲しければ、覚えてあげてもよろしいですけれど?」
「っ、ぐっ、あ……ぅ……」
 
 容赦なく吊り上げられた、見慣れた先輩の顔が見慣れない紫色に染まっていくのを、薫子は呆然と見つめた。

49:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」 9/15
08/02/23 14:21:56 nyBe6Wgl0

 制服の少女は、またも片手で吊り上げた相手の喉笛を、容赦なく締め上げる。
 ばたばたと藻掻く標的の動きが、徐々に弱まってゆき、それにつれて怒りの視線が恐怖に置き換わる。
(まさか……。)
 そっ。
 端で見ている薫子ですら背筋が寒くなった時、長袖の制服に、静かな手が添えられた。
「カスミ……?」
 黒髪の少女に触れられて、すっと攻撃者の視線が緩む。
「もう、いいの?」
 コクコク……。
 優しい声に、頷くカスミ。  

 それで、三年生は解放された。
「ぐはあっ、げほっ、ごほっ、こ、向坂、環ーっ、!」
 無様に床に転がりながら、制服姿に向けられる怨嗟。
「はい、何でしょうか、先輩?」
 それに冷たい目線で答えて、一歩相手に踏み出す、向坂と呼ばれた少女。
「ひっ!」
 怒熱は一瞬で冷めて、ジャージ姿の三年生は慌てて逃げ出して。

 部屋には、三人だけが残った。

「大丈夫? 怪我は?」
 部屋の壁にもたれかかった薫子に近寄って、少女が尋ねる。
「たいしたことはありません」
 体中が痛かったが、それよりも薫子は、目の前の人物を凝視した。
 あれほどの力を見せつけながら同時に女性らしい柔らかさを感じる身体は、少し高いくらいの背よりもずっと大きく見える。
 優しさと強さを兼ね備えた、真っ直ぐな瞳。豊かで美しい、少し色の薄い長髪。
 玲於奈が憧れ追い掛けている、才色兼備の名家の跡取り。
 これまで何度か、見たり会ったりした事はあるが、眼前にして初めて薫子は理解する。

 なんて、眩しい、この人が、向坂環。

50:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」10/15
08/02/23 14:23:42 nyBe6Wgl0

「……ありがとう、ござい、ます」
 こんなに素直でない声で、何を感謝しているものか。薫子は自分を恥じた。

「礼には及ばないわ、久しぶりに暴れてスカっとしたし」
 ペロっと舌を出す環は、それに気付いてか気付かずか。
「そっちの子も、カスミさん? 大丈夫かしら?」
 いっぽうカスミは、さっきは薫子より先に環を止めたカスミは、ただ呆然と立っている。 
「どこか、痛めた? はい、これ」
 環は、足元からカスミの写真立てを拾い上げて、持ち主の手に握らせた。
「……ぇさま……」
 ぐい。
「あ、あら?」
 写真を渡した手を、そのまま黒髪の少女は握りしめる。
「お姉様と、お呼びしてよろしいですかっ!」
 カスミがこんな大きな声を出すのを、薫子は初めて聞いた。

「お、おねえ、さまぁ?」
 流石の環も、これには面食らったようで若干のけぞる。
「……ダメ、ですよね……」
「あ、い、いや、えーっと、そのー、いいわよ、別に」
「ありがとうございますっ!」
 カスミの顔が、ぱあっと明るく輝く。
 環は、苦笑しながら、優しい視線で黒髪の少女を見た。
「あは、ははは……、じゃあ、そういう事で。何にしろ困った事があったら、いつでも呼んで」
「はいっ!」
 その視線に、カスミは満開の笑顔で答えた。

 あ、笑った顔。やっぱり、可愛いかった。

 薫子が見たかった、少女の笑顔。
 ようやくそれを見られたというのに、心は何故か痛くなった。

51:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」11/15
08/02/23 14:24:42 nyBe6Wgl0

 散らかった廊下の片付けも手伝って、環は自分の部屋に去った。
 ジッ……。
 その後ろ姿が見えなくなるまで見送って、カスミも室内に戻る。
 キョトン……。
 部屋の中に、先に戻った筈の薫子の姿を見つけられず、一瞬戸惑う。

 ルームメイトは、自分のベッドに横たわっていた。

 傍らに立つカスミ。薫子は、布団を被って壁を向いている。
「……だいじょうぶ?」
 黒髪の少女が、自分から薫子に声を掛けたのは、おそらく初めてだろう。
「平気です」
 薫子はカスミに背を向けたまま、消えそうな声で答える。
 ……。
 小さく首を傾げるカスミ。やがて、少し間を置いて、再び口を開く。
「……ありがとう」
 その言葉に、薫子の肩がビクッと震えた。

「……お礼は、向坂先輩に言えば十分ですわ」
 絞り出すような口調。
「私は、何もしていません」
 布団越しに見える背中の形が、ぎゅっと縮こまる。
「何も、できなかったのですから……」
 語尾が小さくなって、手で顔を覆っているのが僅かに見えた。
 カスミは、そっとベッドの横にしゃがみこんで、横たわる少女の髪に手を伸ばす。
「薫子、ありがとう」
「っ!」
 カスミが手を触れたのと、改めて対象を明らかにした謝意が示されたのと、薫子が息を飲んだのと、ほぼ同時。
 
「っ、っく、ぅう、ぅあああああーっ!」
 薫子は、堰を切ったように泣きだした。カスミは、薫子が泣きやむまで、頭を撫で続けた。

52:名無しさんだよもん
08/02/23 14:25:22 pFnlBmdvO
携帯で大変なのかもしれないが、細かくぶつ切りで連続投稿はあんま好ましくない気がする

53:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」12/15
08/02/23 14:25:52 nyBe6Wgl0

 この日を境に、薫子を取り巻く環境は大きく変化した。

 元同室の三年生達は、明確に敵意を示すようになり、それに伴って、表面上友人関係にあった多くの同級生や先輩も、いざこざを恐れて彼女から離れて行った。
 誰とでも仲良く付き合う優等生という、これまでの彼女のイメージは失われ、教師達からも、嫌われたとまでは言わずとも、当たらず触らずの要注意人物扱いといったところ。

 代わりに得たものと、変わらずに在るものは、黒髪の無口な友人と、赤髪の賑やかな友人。
 カスミはこの一件で薫子に厚い信頼を寄せるようになって、何をするにも彼女の後を付いて回るようになった。

 玲於奈はというと、
「元からあの方たちは気にくわなかったのです。いい気味ですわ」
 事情を説明した薫子に屈託のない笑顔を見せ、かえって環との距離が近づいた事を喜んだ。
 カスミに対しても、
「薫子の友達なら、私とも友達ですわね」
 カスミの方も、無邪気で天然な玲於奈には敵対心を持つ気にならないのか、薫子が拍子抜けするくらいあっさりと打ち解けた。

 薫子自身は、この境遇を後悔はしていない。
 確かに、先輩達からの細かい嫌がらせは日常茶飯事で、
「じゃあ、薫子さん、後はよろしくね」
 例えば今も、野外活動の後始末。件の派閥の上級生はニヤニヤと、巻き込まれた他の生徒達はコソコソと去って、
(後はも何も、殆ど最初からですけどね……。)
 散らかしっぱなしの用具類を眺めて溜息をつくが、大した事だとは思わない。
 環の存在が効いているのか、直接的な暴力や疎外はなかったし、

「薫子っ、ああもうまたっ、酷い連中ですわねっ!」
 カチャカチャ……。
 彼女は一人ではない。三人でいれば、大抵の事には対処ができた。
「あら、貴方たち、また押しつけられたの?」
「「お姉様っ」」
 加えて、環自身も先輩に睨みをきかすだけでなく、なにかと三人に目を掛けてくれている。

 ただ、薫子の心に影を落とすのは。

54:名無しさんだよもん
08/02/23 14:30:42 k7O1vEy1O
ここでさるさん。一時間くらい中断します。

55:名無しさんだよもん
08/02/23 14:41:34 T9cI69JEO
ソフトウェア更新終りました。
雑談は避けた方が良いとは思うのですが、知りたい事があるので書き込みます。

>>52
ここって30行の規制はないのでしょうか?何行まで大丈夫か教えて頂けると幸いです。
気をつけて編集してから投下してるのですが、逆効果でしたかorz

>>桜の群像さん
初めてリアルタイムで見ました!楽しみにしてます。

56:名無しさんだよもん
08/02/23 14:52:53 k7O1vEy1O
>55
お気になさらずに。そのための中断宣言ですから。
この板は1レス最大32行です。詳しくはSETTING.TXTで検索してみてください


57:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」13/15
08/02/23 15:00:04 nyBe6Wgl0
「台車、調達してきたわよ。さっさと終わらせて、お昼にしましょう」
 薫子や玲於奈が二人がかりで運ぶような大荷物を、軽々と持ち上げる環。
「カスミと玲於奈はそっちをお願いね」
 腕力だけでなく、仕事の段取りにしろ手際の鮮やかさにしろ、むろん学業も運動も。
(優秀というのは、こういうことを指す言葉でしょうか。)
 自分が有能だなどと自惚れていたつもりはない彼女だが、それにしても、何かにつけて環の能力を見せつけられる薫子である。

 そして、
「はいっ、お姉様!」
 ニコニコ……。
 玲於奈とカスミが環に向ける、憧憬の視線。

 自分も素直に憧れれば良いものを、薫子の心にはいつも、やるせない思いが去来する。
(私は、友人ぶって二人に頼られたいだけなんだろうか?)
 自然に慕い、自然に慕われる二人と一人に比べて、己のいかに卑小なことか。
 それでも、玲於奈が一番に愚痴をこぼす相手は引き続き自分であって欲しかったし、
(カスミ……。)
 黒髪の少女が、九条で最初に笑顔を見せたのが自分にであったら嬉しかった……

「どうしたの? 疲れた?」
 思考の泥沼に陥りつつあった薫子を、涼やかな声が救い上げた。 
「あっ、いえ、すみません」
 そしてまた、救い上げられた事に心が沈む。

「本当にいつも、ご迷惑ばかりお掛けして」
「迷惑だなんて。こんなの、なんでもないわよ」
「それは、向坂先輩は、なんでも達者でいらっしゃるから……」
 気を遣ってくれたのは分かる。分かるだけに、つい薫子の口調が尖って、また後悔する。
「なんでも、か」
 だが、環はすうっと風に言葉を流してから、小さく薄く笑って言った。

「私が九条に来た理由を、教えてあげよっか?」

58:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」14/15
08/02/23 15:00:55 nyBe6Wgl0
「私にはね、好きな男の子がいたの、ううん、いるの」
 二手に分かれて片付けを進めながら、環は薫子にだけ聞こえる声で話し始めた。
「ひとつ年下の幼馴染みで、ま、仲良かったんだけどさ」
 飄々とした言葉遣いに、初めて覗く心の空隙。
「強引に告白してフラれちゃった」
 てへっと照れたような、それにしては痛そうな笑み。
「それで、顔を合わせづらくなって、ずっと断っていた転校話に乗っちゃったのよねえ」

 薫子は、すぐには言葉を返せなかった。
「……後悔、されてます?」
 やや間を置いて発した質問に、今度は苦く笑う環。
「そうねえ、それ以来会ってないし」
「えっ? 一度も? 会っていないのですか?」
「ええ」
 軽い返事に、寂しさと後悔を少しだけ滲ませて、
「私たちには、もう一人幼馴染みがいてね、私にもその子にも、妹みたいな女の子」
 これも薫子が聞くのは初めて、環が言い淀み、そして自嘲気味に笑う。
「私はあの子に、嫉妬してるんだな」
 思わぬ言葉に目を丸くする薫子。それを見て環は、今度は優しく笑う。
「イヤよね、自分のそういう気持ちを認識するのって」
 どきりとした。
(やっぱり、私の気持ちを知ってて言ってるんだ。)

「でも、仕方ないの。それが、今の自分だから」
「だから、会わないって決めた。自分が、自分に納得できるようになるまで」
「言うなれば今は修業期間、次に会うまでに、見違えるような女性になって見せるぞ、ってね」
 環はそう言って、最後には楽しそうに笑った。

「ま、周囲が何言ってるか知らないけど、こんなもんよ、私だって」
「いえ……強いです。先輩は」
 後輩の心を知って、それで自分の傷を抉って見せてくれた。
 その優しさと力強さに、薫子は更に自分を恥じる。

59:桜の群像 番外編「月の夜星の朝(後編)」15/15
08/02/23 15:02:48 nyBe6Wgl0

「そんなことないわ」
 最後の道具を台車に積み上げ、環は薫子に向き直った。
「私は今できる事と、これからしたい事を考えているだけ」
 ぱんぱんっと手をはたく。
「今はできる事だけすればいいし、したい事は、これからできるようになればいいのよ」

 さあ、行きましょう。
 手を差し伸べられたように見えたのは幻想か、環は台車を押して玲於奈達に号令を掛けた。

 薫子は暫し立ち尽くす。
 環の言葉ほど、簡単に心情は整理されない。
(私は非力すぎて、できることなんて。)
 いくらなりたくとも、環のような眩しい太陽に、自分がなれるとは思えない。

「薫子っ! どうしたのですかっ!」
 だけど、玲於奈の声が、薫子を探す。
 チラチラ……。
 そしてカスミが、環の後ろで薫子を振り向いている。

「……玲於奈、カスミ」
 二人が、自分を呼んでいる。自分を、待ってくれている。
「いま、行きますっ!」
 だからもう、悩むまい。薫子は、大好きな友人と、尊敬すべき先輩の下へ駆けた。

(今できる事と、これからしたい事。)
 心の中で、環の言葉を反芻し、そして対照的な二人の少女を見やって誓う。

 地上を照らす、陽になれずとも、隣に寄り添う、月ではあろう。
 そして、いつか小さくとも。

 自分で輝く、星になるように。

60:名無しさんだよもん
08/02/23 15:04:36 T9cI69JEO
>>56
ありがとうございます。
32行でしたか。
その他知っておいた方が良い事もありそうなので
SETTING.TXTは読んでおきます。

後はかなり書き溜め具合に意識の違いがありましたorz
もっと書き溜めてから投下しようと思います。

61:名無しさんだよもん
08/02/23 15:05:35 nyBe6Wgl0
以上です。
さるさん規制は微妙ですね。30分で12レスくらい?あと連投規制消えてる?

どんな話だよと自分でも思わなくもないですが、書きたかったので書きました
本編含め、読んで頂いた方には心から感謝申し上げます。ありがとうございました

三人娘もADに登場するようなので、勝手に膨んだ俺の脳内はここでリセットですね
願わくば、原作での不遇を返上して魅力たっぷりな三人娘が描かれますように……

62:名無しさんだよもん
08/02/23 18:59:56 d4S1ivzg0
>>61
乙。AD発売は喜ぶべきことなんだろうが、それで二次創作の幅が
狭くなるのは残念だな

63:61
08/02/23 22:12:14 A3B/qv1h0
サブキャラを公式が書ききってしまう事で余白は減る意味もありますが、
材料は増えるんだから幅が狭くなるってことはないんじゃないでしょうかね

自分が抱えてたイメージが消えて困るというほど傲慢ではないつもりですし、
ゲーム自体の出来は出てみないとわかりませんが、基本的には楽しみです<AD

64:名無しさんだよもん
08/02/23 23:55:24 Je3S+3HT0
>>61
環が出るとは予想してましたが、見事なまでに美味しいところをかっさらっていきましたね。
特に最後辺りの薫子との会話は、本編でその恋が成就しないのが分かっているから
なおさら健気っぷりに泣けてくるし。

とまあ、何はともあれ今まで乙かれです。ADでも創作意欲を掻き立てるような
キャラがいたらいいですね。その際には是非SS投下お願いします。

65:名無しさんだよもん
08/02/24 09:02:09 psRtQUJ40
ADでも攻略不可能な魅力的なキャラが出てくるから問題ないだろw
そして再びADAD(仮名)が発売されて無限ループに

66:名無しさんだよもん
08/02/24 09:14:27 epjwJw2I0
旅行ネタ書こうと構想練ってるんだが、タマ姉か双子が絶対ついてきて困る件について。
この三キャラ扱いやすすぎて逆に話から切り離せねぇo...rz

67:名無しさんだよもん
08/02/24 10:54:13 J2OcOWvb0
>66
書き易いキャラって思わず出しちゃうもんだし、それでいいんじゃないかい?
漏れには、その三人は扱いづらい筆頭格だから羨ましいぜ
双子は関西弁が書けないから台詞が出ないし、タマ姉はキャラが掴めなくてすぐ超人化してしまう

68:名無しさんだよもん
08/02/24 11:14:34 sf2tnRSy0
自分も「書きやすいキャラには勝手に出てきてもらう」でいいとオモ。

って言うか、少なくとも俺はおおよそのアイディア考えたらあとは筆任せ??
キャラに突っ走ってもらうからあと知らん、って感じ。
むしろ走りすぎて推敲の時に「思いっきり18禁になっちまったwこりゃ拙いだろww」ってばっさり切ったりするくらいだからなぁ。
妙に考えた作品のほうが評判悪いし、勢い作品のが自分でも好きだし、やっぱ勢いしかないようなww

69:名無しさんだよもん
08/02/24 11:38:59 njH3KTY/0
楽しく書ければそれでいいじゃない

70:名無しさんだよもん
08/02/24 11:52:06 NIU/xwZr0
>>61
タマ姉カッコいー
お姉さまって呼びたくもなる訳ですねえ

71:郁乃専用メイド3 1/4
08/02/24 14:34:45 xhmOBuLX0
まぁ最大の難関といっても、登る事がじゃない。
どれだけ平然と登れるか。他人の力は借りない。
これが最近の私の中でのルール。
気をつけないとどっかのお節介な姉が助けにくるから気をつかう。
今日は近くにいないんだから気にする事ないとも思うけど
もう習慣みたいになっていた。

教室に入ると最近よく一緒にいるこのみが近づいてくる。

「郁乃ちゃん、おはよー」
「おはよ。今日は早いのね。雨降らないかしら」
「うう、郁乃ちゃんひどいでありますよー」

心なしか元気がない。どうしたんだろう。
気になったものの、その理由はすぐに本人から語られる事はわかっていた。

「今日ね、タカくん達のお見送りしたんだ」

あぁ、そういう事ね。
お見送りしたはいいけど寂しくなってきた、という事か。
いかにもこのみらしい。
でも恋人の妹に貴明への愛情をアピールするのはどうかと思うんだけど…。

寂しがるこのみが友達を家に呼んだから私にも来いと誘う。
たまには出掛けてみるのもいいかな、今はシルファと顔合わせたくないし。

「やたー!じゃあ今日は一緒に帰るでありますよー!」

72:郁乃専用メイド3 1/4
08/02/24 14:35:16 xhmOBuLX0
「ただいまー!おかーさん、今日は友達連れてきた!」
「ちゃるちゃんとよっちちゃんでしょ?聞いてるわよ」
「今日は郁乃ちゃんもだよー」

あまり人の家に来りする事がないので、少しタイミングを見計らう。

「お邪魔します」
「いらっしゃい。貴女が郁乃ちゃんね、このみから話は聞いてるわ。ゆっくりしてってね」
「ありがとうございます」
「もー!おかーさん、変な事言わないでよ?」
「はいはい、それよりもこのみ!靴は揃えなさいって何度言わせるの!」

このみの母親は容赦なく手にしたおたまで友人の頭を叩く。
あ、いい音。

「うー、そんな思いっきり叩かなくてもいいのに」
「いいから早く手を洗ってらっしゃい。郁乃ちゃんも」
「はーい。行こ郁乃ちゃん」

くるくるとよく表情が変わる子だ。
さっきは涙目だったかと思うともう笑顔。
ずっと入院してたのもあって、こういう温かい空気が少し羨ましい。
もちろんウチが温かくない訳ではないけど、
こういう元気よさだったり、遠慮のなさみたいなものはウチにはない。
私がもう少し元気になって、今の生活に慣れてきたらこんな感じになれるのかな…

「じゃあ、私の部屋に行こうよ」

わざわざ手をひいてくれるこのみに苦笑しつつもそれについて行く。

73:郁乃専用メイド3 3/4
08/02/24 14:36:00 xhmOBuLX0
このみの中学時代からの友達、吉岡さんと山田さんも合流した今の話題。

「へぇー!郁乃ちゃん今メイドロボにお世話してもらってるんだぁ」
「朝挨拶したぐらいで何も世話されてないわよ」
「それでも羨ましいっしょ!メイドロボにお世話される高校生なんてそういないし」
「同意」
「でも、タカくんもお世話されてるよ?」
「え?」

そんなの初耳だ。びっくりするのも当然だと思うんだけど。
私のあげた声に皆は意外そうな顔で覗き込んでくる。

「郁乃ちゃん知らなかったんだ。この春からタカくんちにいるんだよー」
「先輩の彼女の妹だから知ってると思ってたっしょ」
「姉の彼氏の事なんてそんな根掘り葉掘り聞いたりしないわよ。何でも知ってる訳ないでしょ」

半分嘘をついた。メイドロボの事は知らなかったけど、
大体の事はこちらか聞かなくても姉から話してくるので結構知ってたりする。

74:郁乃専用メイド3 4/4
08/02/24 14:36:21 xhmOBuLX0
気づけば陽はすっかり落ちて、夕食の時間となる。
もうこんな時間かぁ、そろそろ帰らないと。
今の話題にひと段落ついたら帰る準備をしよう、そう考えていた時

コンコン

ふいにドアがノックされ、顔を出したのはこのみのお母さんだった。

「貴女達、問題なければ今日はウチで晩ご飯食べて行きなさい」
「全然モウマンタイっす!春夏さんのご飯おいしいんすよねぇ。」
「私も問題ない」
「やたー!今日は皆で食べる晩御飯はおいしいのでありますよー!」
「キツネ、これはもうゴチになるしかないっしょ」
「うむ。親に連絡は入れておかないと」
「そうだった!春夏さん、電話お借りしていいですか?」
「いいわよ。いってらっしゃい」

ドタドタと二人は階下に降りて行った。
当たり前といえば当たり前なんだけど、この食事会の対象に私も入っていたみたいだ。

「郁乃ちゃんはどうする?」
「え、わ私?」
「あ、でもシルファさんがいるんだよね」
「それは、多分大丈夫…だと思う」
「変な遠慮はいらないわよ。あ、でも連絡はちゃんとしなさいね」
「あ、ぅ…はい」

帰らないといけない、という事はないけど柚原家の勢いに飲まれてしまったのが少し悔しい。

75:名無しさんだよもん
08/02/24 14:41:12 xhmOBuLX0
書き禁解除やったー!
と思ったら色々ミスってましたorz

>>61
乙でした。
これからですが、色々勉強させて頂きますです。

76:名無しさんだよもん
08/02/24 17:30:57 yoTxzGmD0
なんかこのみって癒されるよね。萌えるのではなく。
一家に一人はほしいよね。

77:名無しさんだよもん
08/02/24 18:07:33 d6Ub8HHH0
マスコット的可愛さって奴か

78:名無しさんだよもん
08/02/24 19:03:19 yoTxzGmD0
>>77
IDが異様にHだねw

このみ→和む、癒される可愛さ
愛佳→守りたくなる可愛さ
タマ姉→遊ばれたい可愛さ

雄二→からかいたい、いじくりたい、突っ込みたい可愛さw

79:名無しさんだよもん
08/02/24 23:24:32 wAvtUBPB0
>75
乙~、PCからだと書きやすいせいか、改行が多くて読みやすくなってるね
階段はイベントなしか。密かに踊り場で「手をお菓子するのれす」とかシルファが待ってるのを期待していたのだがw


80:名無しさんだよもん
08/02/25 00:01:01 jmESA6E70
>>79
ありがとうございます。
改行は色々悩みますね。入れたいけど改行で行数稼いでしまって
1レスで書きたいところまで書けないとかもあるので…
残念ながら学校ではシルファ自重と思ってますw
とか言いながら早速でますがorz

では本日最後の投下します。

81:郁乃専用メイド4 1/6
08/02/25 00:01:35 jmESA6E70
柚原家での食事はそれは楽しかった。
同じ年代の友達とバカを言い合いながらのご飯がこんなにおいしいなんて
私は人生の半分を無駄にしてたんじゃないかとさえ錯覚するほどに。

食事が終わり、再びこのみの部屋へ戻り
柄にもなく恋話などをに花を咲かせる。
これまで恋愛経験のない私からすれば、皆が羨ましくもあった。
皆の話に耳を傾けているうち、外が真っ暗になっている事に気づいた。
時計を見ると夜9時。そろそろ帰らないと、何かあっても一人では対応しきれない。

「じゃあ皆、私はそろそろ帰るわ」
「あ、じゃあ私らも帰るっしょ!キツネ?」
「わかってる」

すでに帰り支度を整えた山田さんに合わせて荷物を抱え立ち上がる私。

「春夏さん、お邪魔しましたー!」
「お世話になりました」
「お邪魔しました」
「何のお構いもしませんでごめんなさいね。また遊びに来てね」
「おかーさん、私郁乃ちゃん送って行くね」

このみのその言葉に何故だかわからないけど焦る私。

「いいっ、一人で帰れる。」
「だって郁乃ちゃん…」
「大丈夫だってば、それに私の家まで来たら今度はこのみが心配になる」
「もー!郁乃ちゃんひどいよ」
「心配するなこのみ。私達が途中までだが送っていく」

いまいち納得してない様子のこのみだったが、
最終的には途中まで吉岡さんと山田さんに送ってもらう。それで納得してもらった。

82:郁乃専用メイド4 2/6
08/02/25 00:02:02 jmESA6E70
二人との分かれ道まで何事もなく辿りついた。
ここから結構近いので大丈夫だろう。

「じゃあまたね郁乃ちゃん」
「また会う日まで」
「ありがとう。こちらこそこれからよろしく」

二人と別れ、数メートル先の自宅へゆっくり向かう。
危険だという理由で夜に出歩いた事はなかったけど
夜は夜で予想通り楽しいものだった。
早く完治してのんびり出かけたいものね。

自宅前に着くとリビングに明かりが点いているのを見てシルファの存在を思い出す。
あの子、今日は何してたんだろう。
気にはなったが、今朝の通学を思い出し考えを振り払う。損はしたくないし。

当然のように玄関の鍵は開いており、難なく入る事が出来た。
柚原家を思い出し、靴をきちんと揃えて部屋にあがる。
シルファはどうしてるのかとリビングを見回すと、
片隅で正座をしていた。しかし、少し様子がおかしい。
あれは寝てるのかしら。主人じゃないけど主の帰りに気づかずに寝てるなんて。
文句のひとつでも言ってやろうと近づいたところで気がついた。
テーブルに置かれたオムライスと手紙。そしてシルファに続くパソコンの画面。
丁寧な文字で書かれた、私に宛てた手紙。
『お夕飯は何が良いかわからなかったのでオムライスにしました。
もしお嫌いでなければ召し上がって下さい。
充電が切れそうなのでスリープモードに入りますが、郁乃様のお迎えが出来ず残念です。』
そしてディスプレイ映る文字。
『スリープモード開始時刻21時。終了予定時刻6時。充電20%』

ぎりぎりまで待っててくれてたのね…。悪い事したかな。

83:郁乃専用メイド4 3/6
08/02/25 00:03:54 jmESA6E70
夕飯はこのみの家で食べたので、とても食べられそうになかった。
申し訳ない事をしたと一瞬思ったが、柚原家での食事が決まった時、
電話は繋がらなかった。そう、悪いのは私じゃない。
そう言い聞かせ、寝る為の準備に入る。
お風呂から上がった私は申し訳なさも手伝い、お腹が減っている訳でもないけど
オムライスを食べる事にした。

「なによ。意外とおいしいじゃない」

ロボットの作る料理がどんなものか興味はあった反面、
ちゃんとしたものなんて作れるはずがない。とタカをくくっていた分
この料理は少し衝撃だった。
本来なら、ペロリと食べきってしまってもおかしくないぐらいおいしかったけど
さすがに2食は食べられない。2口ほど食べたらすぐにお腹がいっぱいになってしまった。

おいしいので明日の朝ご飯にする事を心に決め、
戸締りをしてから寝床に着く。

「よく考えれば人がいたって寝てたら意味ないじゃない。無用心ね」

明日の朝はオムライスのお礼と戸締りに関する注意をしよう。
いつ電源が切れたり、ブレーカー?なんてあるのかしら。が落ちたりするかもわからないし。
でも、未だに今朝の挨拶しかしてない分、どうやって話しかけたものか。
何事もなかったように?それともメイドだってのならあくまで主的に?
シルファとの接し方について考えていたが、気がつけば深い眠りについていた。

まぁ、眠ってる事には気づいてないんだけどね。
朝にシルファに起こされてようやくその事実に気がついた。

「郁乃様そろそろお時間ですよ。起きて下さい」

84:郁乃専用メイド4 4/6
08/02/25 00:04:53 jmESA6E70
シルファに起こされた私は目をこすりながら、リビングへと向かう。
さて、どうやって話かけようかな。起こしてくれてありがとう。
うん。これが無難かな。
そんな事を考えながら、ふとテーブルに視線を泳がす。

あれ?
テーブルの上にはきっちりとした和食が並んでいた。
ご飯に味噌汁、焼き鮭にお漬物。
文句ないぐらいの和食。ちゃんと早起きして朝ごはん作ってくれたんだなぁ。
でも、昨日のオムライスを予定していた私に取ってこれは裏切りだと思ってしまった。
私の我侭だって事ぐらいわかってる。でも…。

「ちょっとシルファ!昨日のオムライスはどうしたのよ」
「あ、お口に合わなかったのかと思って捨てました」
「え、捨てた…。もったいないとは思わなかったの!?メイドロボはお金持ちの家で働く事しか想定されてない訳?だから簡単に捨てたりするって事?」
「あの、違います…そろそろこの季節は食べ物が痛むのが早く」
「言い訳は聞きたくない。少しは庶民の立場も考えなさいよね。それに寝るなら戸締りぐらいきちんとして欲しいものね。貴女がいた所で寝てたら意味ないじゃない」

違う。こんな事が言いたい訳じゃない。
しかし、一度ついた火は止まらない。

「それに誰が和食にしろって言ったのよ!?私はパンが食べたかったのに」
「申し訳ございません…私が至らないばかりに」
「本当にそうね。今日は朝ご飯いらない。学校行って来る!ちゃんと戸締りしなさいよね」

シルファの言い分もろくに聞かず
そう言い残し、ドアを荒々しく閉めて私は学校へ向かった。

85:郁乃専用メイド4 5/6
08/02/25 00:05:22 jmESA6E70
気分も優れないまま午前の授業が終わる。
今日は何を食べようかしら。お弁当もないし学食かな。
黒板を背伸びして一生懸命に消しているこのみの後ろ姿をぼーっと眺めていたけど
クラスメートの呼び声で現実に引き戻される。

「小牧さーん!シルファさんって人が来てるよー!」

シルファ?何をしに学校へ来たのだろう。
どうでもいい事だったら張り倒してやるんだから。
朝の憤りを未だに抱えた私は、少し不機嫌そうに教室の入り口を伺う。
少し不安げな顔でシルファはそこにいた。

「なに?」
「あの、お弁当をお持ちしました。今朝持って出られませんでしたので」

朝、あれだけの罵詈雑言を浴びせたのにわざわざお弁当を届けてくれたのだ。
正直、受け取る気分ではないかったがクラスメートがみているここで、
そのまま追い返す訳にも行かなかった。

「そう。ありがと」

弁当箱を受け取り、そのまま踵を返す。
スタスタと去り行く私の背中にシルファは声をかけてきた。

「あの、郁乃様!今日のお夕飯は如何致しましょう?」

学校の教室そんな事を大声で叫ぶシルファ。
ホンっトに何考えてんのかしら!?私をさらし者にしたいのかしら。

86:名無しさんだよもん
08/02/25 00:05:29 5fGePlBp0
深淵

87:郁乃専用メイド4 6/6
08/02/25 00:05:42 jmESA6E70
「何でもいいわよ!」

そう怒鳴ってそのまま席に着く。もちろんシルファの方なんかは見ない。
まだ何か言いたそうな気配はしたが、諦めたのかクラスメートにお辞儀をして帰って行った。
事の顛末を知らないこのみが日直の仕事を終えて、トテトテとこちらに歩いてきた。

「郁乃ちゃん!一緒にお昼食べよ!」
「私、今日は学食だから」

未だに尾を引いていた私は少しつっけんどんに返す。
きょとんとしたこのみの表情を見て気がついた。
しまった…このみには何の非もないのに…。
でもそんな私の気持ちを知ってか知らずか。

「でもそれ、お弁当箱だよね?」

さらにしまった!隠すのを忘れてた。私とした事が。

「私はこれ食べたくないのよ。だから今日は学食」
「でもシルファさんが作ってくれたんでしょ?」
「だからよ。さっきわざわざ持って来てくれたわ。頼んでもいないのに」
「そんな言い方ダメだよ。あ、じゃあ私がそれ食べたい!」
「はぁ?いきなり何を。それに2つもお弁当食べれるなんてどんな胃袋してんのよ」
「さすがに私でも2つは食べれないよ~」

ニコニコと笑っているこのみ。何が言いたいのかしら。

「だから、私のとお弁当交換しようよ。そうしたら無駄にならなくて済むでしょ?」

そういう事か。その提案は悪くない、と思ったので飲む事にした。
ただ単純にこのみがシルファの弁当に興味があっただけなのは、私が知る事はなかった。

88:名無しさんだよもん
08/02/25 11:15:56 yEAIT24w0
乙。
2chの書き込み時間表示ズレてる?

89:名無しさんだよもん
08/02/26 12:37:36 T6jtF68+0
ADでて落ち着くまでここは鳴かず飛ばずなんだろうなぁ。

90:名無しさんだよもん
08/02/26 12:41:20 gw5xBeXv0
静かだ…ネタバレ防止にここ封印しだす奴らが出てきてるんだろうな

91:名無しさんだよもん
08/02/26 13:44:14 fWziyWwPO
書きたいけど仕事が忙しくて書けませんorz

92:名無しさんだよもん
08/02/26 13:54:09 O47qMjMSO
>>91 自宅警備も大変だな
ガンガレよ

93:名無しさんだよもん
08/02/26 19:02:54 8pF8Kc8l0
完成させずに放置してるものは何本かあるんだけどな
うち1本はADでたら多分お蔵入り…

94:名無しさんだよもん
08/02/26 20:07:59 MEMhcRpD0
ああ俺もだ
ちゃるとよっちのふたなりレズとか
まーりゃんが世界征服する話とか
タマ姉の母乳プレイとか

アイディアがあっても文章が書けないってのは結構辛い

95:名無しさんだよもん
08/02/26 21:07:54 WkCoxSfS0
んじゃあ、漏れ的AD前ラストに超短編いくのん物いきまつ

96:悪夢 1/2
08/02/26 21:09:34 WkCoxSfS0
あたしは草原に立っていた。

見渡す限りの青野の果てに、頂を白く染めた山脈が小さくもはっきりと見える。
はっきりと? あれ、おかしいな。あたしの眼が遠景を綺麗に映すわけがないのに。

歩き出す。それも変。立つのがやっとで、立ったら痛いあたしの脚が。
痛くない。走る。痛くない。跳ねる。身体が軽い。呼吸が軽い。鼓動が軽い。あたし、死んだかな。

(死んでなければ、夢ね)
嫌だなぁ可愛くない。いいじゃない、夢なら夢で。あたしは駆けだした。

景色が疾風のように流れる。あはは、夢ね。これじゃ車からの景色だわ。
でも、そのまま空を見上げて走る。陽の光が眩しくない。雲が綺麗。こんな風景、昔テレビで見たかなあ。

キキーッ。
道路もないのに車がやってきた。パパとママ。
(郁乃、病院に行くわよ)
なんだ。やっぱり。治ってないんだ。ちょっとがっかり。でも、これは凄く良い寛解じゃないかしら。

病院に着く。車を降りて、廊下を行儀悪く小走り。もう、こんなに元気なのに、診察なんて。
(検査、嫌だなあ、時間かかるし)
拗ねて見せたら、両親は顔を見合わせた。はいはい、似合わないのは分かってるわよ。
(本当に、お前は優しい子だな)
何それ。
(自分の事みたいに感じているのね。……の病気を)

えっ?

病室の扉が開く。いつものあたしの病室。あたしの、いつもの、あたしの、ベッド、あたしの、そこで、弱々しく、身を起こす、あたしの……
「あっ、郁乃、来てくれたんだ」

―お姉ちゃん。

97:悪夢 2/2
08/02/26 21:11:06 WkCoxSfS0
 
「っ!」
がばっと身を、起こす体力はなくて、せいぜい身体がビクってなったくらい?
「……夢、か」
醒めた瞬間は明瞭だった気がする意識は、寝起きで朦朧としてからもう一度覚めてくる。

「どうした。喰おうとしたうまか棒に足が生えて逃げられる夢でも見たか?」
枕元で、声がした。
「……なんでそう限定して思うのよ」
天井を向いたまま、河野貴明の軽口に呆れるあたし。
「酷い顔してるからさ」
う、レディーの寝顔を観察してるなんて不躾な奴。
「今日は、アンタ一人?」
「ふっ、たまには妹を慰めてやるのもお兄ちゃんの務めかと思ってさ」

「―、ぅ、」
あたしは無言でナースコールに手を伸ばしかけて、痛む腕に顔をしかめた。
「冗談だよ。愛佳もすぐ来るって。っつーか、大丈夫かおい?」
「良かった。腕が痛い」
「だから冗談を真に受け……なにが良かったって?」

腕が痛くて、良かった。
相変わらず病気のままで、良かった。
相変わらず病気なのがあたしのままで、お姉ちゃんじゃなくて、良かった。

そんな格好悪い事は、あたしは言わない。黙って腕を顔に被せる。
だのに、貴明はその上から髪を撫でてきて。

「本当に、どんな夢を見てたんだよ」
うるさい、年ひとつしか違わない姉の彼氏の癖に、いつも子供扱いばっかして。
「……病気が、治る夢」
それでも何故か、仏頂面で答えてしまったあたしはポツポツと、貴明に心を吐き出してゆくのだった。

98:名無しさんだよもん
08/02/26 21:13:42 WkCoxSfS0
以上こんだけで失礼。かなり前に書いたSS中で使ったネタを起こしてみました
漏れの中のいくのんは、こんな感じなんだよなぁ……これがADでどうなるかな

99:名無しさんだよもん
08/02/26 22:22:47 O47qMjMSO
>>98 看護婦とイチャイチャしてんだろなw


100:名無しさんだよもん
08/02/27 00:46:25 6LO/iK0i0
>>98氏にあやかって
俺もなげっぱだったのを仕上げてみたので投下してみる

15レス程度あるんで、途中で止まったら去るさんだと思ってちょ

101:はじめてのおつかい 1/15
08/02/27 00:47:22 6LO/iK0i0
 寒さも厳しくなり、今年も残り少なくなった12月3日の事だった。
「たかあき~お茶が入ったよ。」
 そう言いながらキッチンから顔を覗かせたのは河野家の居候その1のミルファだった。
 手に持ったお盆には暖められたカップとティーポットとお茶請けが乗っている。
 ミルファが鼻歌交じりで貴明の待つテーブルの前へと歩いている途中、ソファの横を
通ったときにミルファとは別の、形の良い足が一本ミルファの足元へひょいと突き出された。
「わっ!」
 突き出された足に驚いたミルファがたたらを踏む。その隙を突いてミルファの手から
お盆をするりと奪い取ったのは、河野家の居候その2のシルファだった。
「…ろうぞ…なのれす。」
 お盆を奪われてむっとしたミルファのことなどそ知らぬフリで、シルファはティーカップを
貴明の前に置いてティーポットから熱いお茶を注いだ。
 そして…その一部始終を見ていた貴明は頭を抱えた。


    はじめてのおつかい


「どうして二人ともそんなに仲が悪いんだよ…」
「あたしは悪くないよ。貴明のお世話しようとするとシルファが邪魔するんだもん。」
「…ご主人様のお世話はシルファのお仕事なのれす。
 お姉ちゃんは邪魔しないれくらさい、なのれす。」
 睨むミルファと、視線をそらしたまま膨れるシルファ、そして頭を抱える貴明だった。

 そもそも二人がなぜ河野家に居ついてしまったのかというと、話は少し前に戻る。
 夏も終わり、そろそろ秋という頃に貴明は珊瑚の頼みでHMX-17姉妹の末っ子の
シルファを預かって、メイド修行の面倒を見ることになった。
 そして、それに時期をあわせるようにして現れたのが謎の転校生「河野はるみ」こと
ミルファだった。
 ミルファもまた、紆余曲折を経て自分の正体を明かし、貴明の元に身を寄せることに
なったのだが…


102:はじめてのおつかい 2/15
08/02/27 00:49:03 6LO/iK0i0
 元々貴明の元でメイドとして暮らしていたシルファと、そこに割り込んで貴明専属の
メイドを標榜するミルファとの間で利害の衝突が発生することとなり、日を追うごとに
「貴明のお世話権」を巡る争いは激化する一方だった。
 別に仲が悪いわけではない。むしろ姉妹仲はいいのだが、こと貴明のこととなると
互いに譲らないので結果的に大喧嘩になってしまうのだった。

「はぁ…うわさ以上のえげつなさやな。」
「みっちゃんもしっちゃんも、喧嘩したらあかんよ~」
 うわさを聞いて様子を見にやってきた姫百合姉妹は、噂の斜め上を行く有様を見てそれ
ぞれに苦言を呈して見せたが、相変わらずメイドロボ姉妹に反省の色は見られなかった。
「別に喧嘩してないよ。ただシルファがたかあきのお世話をさせてくれないから」
「…河野家の家事一切はシルファのお仕事なのれす。お姉ちゃんは学校に行ってる間らけ
 ご主人様のお世話すればいいのれす。」
「えー、あたしだってたかあきにお料理作って食べさせたりしてあげたいもん。」
「もう、いい加減にしてくれ…」
 うんざりした口調で貴明は言い争いを始めた姉妹を止めた。
「さんちゃん…どっちか家につれて帰ったほうがええんちゃう?」
「でもなぁ…二人とも、貴明のことすきすきすき~やし。」
「そうです。あたしはここがいいんです。」
「ここはシルファの仕事場なのれす。
 …お姉ちゃんはご主人様と学校に通ってるらけなんれすから、珊瑚様のマンションに
 住めばいいのれす。」
「い・や。あたしが家のこともやればいいんだから、シルファこそ珊瑚様の所に行けば
 いいのに。珊瑚様にいつも甘えられるほうがいいでしょ。」
「あーもう!いい加減にしろ!」
 耐え切れなくなった貴明が声を上げた。
 普段極力我慢して怒鳴らない貴明が大声を上げたことにミルファとシルファ、それに
珊瑚と瑠璃もびっくりして言葉を失い、目を丸くしていた。
 貴明は電話台にあったメモ帳を手に取ると一筆筆を走らせて1枚破り取った。
「今日は罰として二人でお使いに行ってくること。俺が頼んである品物を取ってきて。
 内容はこのメモに書いてある。品物はシルファが受け取ること。ミルファはシルファの
 付き添い。」

103:はじめてのおつかい 3/15
08/02/27 00:51:03 6LO/iK0i0
 畳み掛けるように言ってメモをシルファに差し出したが、シルファはメモを受け取ろうとはしなかった。
「でも…シルファは外には…」
 シルファは河野家での生活でメイドロボとしてはかなりのスキルを発揮するように
なっていたのだが、未だに人見知りが激しく、外出することはままならなかった。
 そんな妹のことを慮って、外出の必要な用事はミルファが済ませるように自然と役割
分担がなされていたのだが…
「外に行く用事ならあたしが、」
「今回はシルファに行ってもらう。ミルファはあくまで付き添いだからな。」
 少しの間、ミルファと貴明はにらみ合っていたが、貴明が本気だと悟ったミルファは
諦めて視線をそらした。
「…わかったよ。シルファ、メモを受け取って。」
 ミルファに言われてシルファはしぶしぶメモを受け取った。
 シルファを適当に隠れさせておいて自分がひとっ走り行って用事を済ませればいいか、
とミルファは考えていた。
 だがそんなことはお見通しだったようで、貴明はしっかりと釘を刺すことを忘れなかった。
「…言っておくけど、後で店に電話して二人で来たか聞いておくから、ズルしてもわかるぞ。
 ずるした場合は家に入れないからな。」
「む~!たかあきのいじわる~!」
 そう言ってミルファはばたばたと暴れだしたが、貴明は青い顔をしているシルファ共々
首根っこをつかんで引きずり出し、玄関からそのまま表に放り出した。
 続けて二人の靴も放り出し、ドアを閉めて施錠してしまった。
『ああっ!ひどい!たかあき開けてよ。』
 どんどんとドアを叩く音と共にミルファが大声で文句を言ってきたが、貴明は耳を貸さなかった。
「おつかいを済ませて戻ってきたら家に入れてやる。それまではダメ。」
『たかあきのオニ!悪魔!人でなし!』
「人でなしで結構。」
 貴明はミルファの抗議を無視してリビングに戻った。

「…シルファ、おつかいに行こう。そうしないと本当に家に入れてもらえないみたい。」
 しばらくドア越しに叫んでは見たものの、無駄だと悟ったミルファは青い顔で座り込んだ
ままのシルファに手を差し出した。


104:はじめてのおつかい 4/15
08/02/27 00:53:03 6LO/iK0i0
 シルファはしばらく泣き顔でうつむいていた…涙が出るなら実際泣いていただろう…が、
一つ頷くと立ち上がって、転がっていた靴を履いた。
「さっさと行って帰ってきてたかあきに謝ろう。」
「うん…お姉ちゃん。」
 ミルファは少しでもシルファの不安感を紛らわそうと手を繋いで、そして門を出て歩き出した。

「…貴明も結構オニやなぁ。」
 貴明とリビングの窓から二人が歩いていくのを見ていた瑠璃が先ほどのやり取りを思い出して、ぼそりとつぶやいた。
「瑠璃ちゃんまでひどいなぁ…二人で話し合って欲しかっただけだよ。
 …それと、時間かせぎにもなったでしょ。」
 そう言って貴明は瑠璃に肩をすくめて見せた。そして珊瑚のほうに振り向いた。
「珊瑚ちゃん。今のうちにイルファさんに連絡を。」
「おっけーや。」
 そう言うと珊瑚は河野家の電話で姫百合家に待機しているはずのイルファへ連絡を取り始めた。
 貴明はそれを見届けると、まだミルファたちを見送っていた瑠璃のほうに振り返って話しかけた。
「瑠璃ちゃん。」
「なんや?」
「そんなに気になるなら、俺たちはあの二人に付いていってみようか。」
 貴明は家から遠ざかっていくミルファたちを指差して言った。

                   ◇

 最初のほうこそ手を繋ぐ程度だったが、しばらく歩くうちにシルファはミルファの腕に
しがみつくようにして歩く様になっていた。
 視線は泳ぎっぱなしで、歩く姿もどこか腰が引けている。
 ミルファはそんなシルファを気遣いながらゆっくりと歩いていた。
「まだ他人は怖い?」
「…うん。」
 シルファの中では、表の世界はまだ好奇心よりも恐怖心が勝っているのだ。
 ミルファはぎゅっと左腕にしがみつくシルファの手に右手でそっと触れた。
「確かに外には悪い人や怖い人もいるけど、でもいい人もいっぱいいるよ。」
 そう言って、ミルファは笑顔を見せた。

105:はじめてのおつかい 5/15
08/02/27 00:55:04 6LO/iK0i0
「あたしはたかあきと学校に通ってるけど毎日とっても楽しいんだ。
 学校でいっぱい人間の友達が出来て、友達が増える度にあたしの世界も広がって行くの。」
 楽しげ答えるミルファの顔を、シルファはまぶしそうな表情で見ていたが、
「…お姉ちゃんが羨ましいれす。シルファには、研究所とご主人様のお家らけ。」
 そう言って、シルファは視線を落とした。
 その言葉を聞いて、ミルファはふと気が付いた。
「…もしかして、あたしが家の事するの嫌がってたのって…」
「…お姉ちゃんがご主人様のお世話すると、シルファの居場所がなくなっちゃうのれす。」

 元々人見知りの強いシルファにとって、河野家は自分が「メイドロボ」としての意義を
証明できる数少ない場所だった。
 「メイドロボ」ではなく「娘」として扱われる研究所では得られないそれを奪われるのは、
自分の存在意義を左右する大問題といっても良い。
 だがミルファはそれとは違う見方を持っていた。

「ねえ、シルファ…たかあきは私たちの事、ロボットじゃなくって普通の女の子と同じ
 ように見てくれてるってわかってるよね。珊瑚様だって、私たちの事をメイドロボ
 としてじゃなくて、友達や家族になって欲しいから心を与えてくれたんだし。」
 メイドロボとして自分の存在意義を見出そうとしていたシルファに、ミルファは自分の
思いを話し始めた。
「私はね、そんなたかあきの気持ちが嬉しいんだ。
 …メイドロボとしてじゃなくて、女の子としてたかあきの事が好きだから。
 だから、あたしはメイドロボとしてじゃなくて、たかあきが一緒にいたいと思ってくれる
 女の子になりたいの。」
 そう語るミルファの横顔は笑顔だったが、同時に少し寂しげだった。
「…お姉ちゃんは、ご主人様の恋人になりたいのれすか?」
「うーん…なれるならなりたいけど、でも私たちはやっぱり人間じゃないから
 …私たちがいくら人間と同じ心を持ってても、本物の人間にしか出来ない事ってあるし。」
 シルファの疑問にミルファは苦いものを含んだ笑みを浮かべながら答えた。
「…シルファには、お姉ちゃんの気持ちは解らないのれす…れも・・・」
 シルファはあまり豊かとは言えないボキャブラリーを総動員して必死に慰め始めた。


106:はじめてのおつかい 6/15
08/02/27 00:56:06 6LO/iK0i0
「れも、さっきお姉ちゃんが言ったのれす。ご主人様はシルファたちの事普通の女の子と
 同じように見てくれるっれ…それなら…少しは期待してもいいと思うのれす。」
「シルファ…」
 少し照れながらも一生懸命な言葉に、ミルファは感極まってシルファをその胸に抱きしめた。
「もうっ、シルファってばかわいい~~」
「お、お姉ちゃん、苦しいれすぅ!」

「あの二人…道の真ん中で恥ずかしいことを…」
 こっそりとミルファたちの後をつけていた貴明は、道の真ん中で抱き合ってはしゃぐ
二人を見て、頭を抱えた。
 一方、一緒に二人をつけてきていた瑠璃のほうは複雑な面持ちだった。
「…どうしたの、瑠璃ちゃん。」
「…ウチには、シルファの気持ちがなんとなくわかるねん。うちもイルファが来た時は、
 同じ事思うとったから。」
「あ…」
 瑠璃が家出して河野家にやってきたときのことを思い出して、貴明は思わず声を漏らした。
 それは解決した過去のこととはいえ、今でもデリケートな事柄には違いなかった。
「えっと…」
「ウチとイルファは今は上手くやっとる。貴明のおかげでな。…貴明がおらんかったら、
 イルファは研究所に戻って、ウチはさんちゃんにも合わせる顔がのうなって、今頃
 どうなっとったかわからへん。」
 そう言ってから、ちょっと頬を赤らめて瑠璃は言った。
「…うちらにとって、貴明は恩人…ううん、大事な人やねん。そやから、」
「そやから?」
「ミルファとシルファのことも任せられるねん。あの二人にはウチにも責任あるからな。」
 そう言う瑠璃の眼差しは母親のそれだった。
 イルファたち3人を生み出した母は珊瑚だが、3人を日向へと連れ出した瑠璃もまた
イルファたちにとって母親なのだから。
「そやから、あの二人泣かしたりしたらしばく。」
 だがしかし、最後にいつもどおりの一言も忘れなかった。
「解ってるさ。俺も二人のことは大事に思ってるからね…でもできればちょっと失敗しても
 蹴ったりしないでくれると良いな…あ、商店街に着いたよ。」

107:はじめてのおつかい 7/15
08/02/27 00:58:04 6LO/iK0i0
 貴明が指差した先では、ミルファとシルファが夕方の賑わいはじめた商店街のアーケードの
中へと消えていくところだった。

                   ◇

 シルファは買い物客が横を通り過ぎるたびにびくびくしていたが、ミルファは慣れたもので、
顔見知りの買い物客とすれ違うと笑って答えていた。
「あら、ミルファちゃん。今日もお買い物?」
「あ、こんにちは。今日は妹の付き添いなんだ。これが妹のシルファ。」
「…こ、こんにちわ、なのれす。」
 おずおずと挨拶すると、そのおばさんはくしゃくしゃの笑顔で答えた。
「はじめまして、シルファちゃん。今日はあなたがお買い物?がんばってね。」
「は、はい。」
 おばさんはシルファの頭を撫でて去っていった。
「…お姉ちゃん、あの人は誰れすか?」
「名前とかはしらない。でもお買い物に来ると良く会うんだ。いい人でしょ?」
「やさしそうな人なのれす…でも、良く知らない人と知り合いになれるなんて、シルファ
 には想像も付かないのれす。」
 感心したようなシルファの言葉を、ミルファは首を振って否定した。
「ううん。あった瞬間に仲良くなれるわけじゃないよ。何度もお買い物に来るうちにどんな
 人かわかって自然に仲良くなっただけ。まるっきり知らない人と仲良くしてるわけじゃないもん。
 難しいことをしてるわけじゃないよ。シルファだって、ちょっと勇気出せばきっと友達に
 なってくれる人はいるよ。」
「勇気…」
 そう呟きながらシルファは考え込んだ。
 果たして、それが自分にもできるのだろうか、と。
「あ、1件目は金物屋さんじゃなかったっけ?金物屋さんはここだよ。」
 そう言って、ぶつぶつと呟きながら歩いていたシルファの手を引いていたミルファが
立ち止まった。
 顔を上げるとそこは貴明に貰ったメモの1件目の金物屋の前だった。


108:はじめてのおつかい 8/15
08/02/27 01:00:04 6LO/iK0i0
「おう、ミルファちゃんいらっしゃい。」
 二人が店に入ると、人のよさそうな店番のおじいさんが声をかけてきた。
「こんにちわ~…ほら、シルファ。」
「は、はい、なのれす。」
 おずおずとミルファの後ろから前に出ると、シルファはおじいさんに声をかけようとして、
でもなかなか最初の一言が切り出せなかった。
「…あんたがシルファちゃんだね。」
「ろうしてシルファの名前を知っているのれすか…」
「さっき河野さんとこから電話があったからね。この間頼んでいったものを取りにお使い
 に来たんじゃろ?」
 そう言うとおじいさんはレジの下の棚から手のひらサイズの平べったい箱を一つ取り出した。
「ほい、ご注文の品物。お代は先にいただいとるから要らないよ。」
「は、はい…あ、あの…」
「なんじゃね?」
 シルファは喉元で消えそうになる言葉を、勇気を振り絞って口に出した。
「あ、ありがとう、ございます、なのれす。」
 詰まりながらもそう言って、深々と頭を下げた。
「そんなにかしこまらなくても良いんじゃよ。こっちもこれが商売だからね。」
「そ、そうなんれすか…?」
 人と触れる事を恐れ、避け続けていたシルファにはどうもさじ加減が解りかねた。
「シルファはあんまり人付き合いしたこと無いから、ちょっと大げさなの。
 ごめんねおじいちゃん。」
「いやいや。」
 ミルファのフォローにおじいさんもからからと笑って答えた。
「でも、たかあき一体何頼んだのかな?」
「ああ、そうじゃった。」
 ミルファの一言で店主は思い出したのか、ぽんと一つ手を打って言った。
「中身を教えちゃイカンと言われたんじゃった。もちろん、見てもいかんそうじゃ。」
「え~~…ちぇっ。たかあきのけちんぼ。」
 この場にいない貴明に一つ文句を言って、ミルファはきびすを返した。
「じゃ、シルファ、次に行こう。おじいちゃん、また来るね。」
「ああ、毎度。」

109:はじめてのおつかい 9/15
08/02/27 01:02:03 6LO/iK0i0
 シルファもミルファに促されて出口へと足を向けた。
 そのシルファの背に、店主が声をかけた。
「シルファちゃん。またきておくれ。」
 シルファが振り向くと、店主の老人は笑って手を振った。それを見たシルファも、
少しだけ笑って、ぺこりと一つ頭を下げて店を後にした。

 次のお使い先は、同じ商店街にある洋服屋だった。
 洋服屋といってもブティックのようなものではなく、普段着やTシャツ、下着、靴下、
それに学校の制服といった物を扱う地元の洋品店といった趣の店だ。
 二人はそんな店の入り口をくぐって、色とりどり布の間を入っていった。
「こんにちわ~」
「こ、こんにちわ…なのれす。」
 シルファは先ほどよりも幾分積極的に…といってもやっぱり体の1/3ぐらいはミルファの
陰に隠れたままだったし、少々腰が引けていたが…店に入った。
「あらあら、ミルファちゃん。きょうも彼氏のパンツでも買いに来た?」
「ぱ、ぱんつ…」
 店主の中年の女性が言った言葉にシルファはちょっとショックを受けて赤くなっていたが、
ミルファはなれたものだ。
 実際、貴明の靴下や下着を買いに来ることもあるので別に色っぽい意味で言われたわけではない。
「もー、おばさんったら。今日はそっちのお買い物に来たわけじゃないの。」
「ほほほ。解ってるわよ、さっき電話があったから。妹さんの付き添いでしょ。」
 そう言ってミルファの後ろに立っていたシルファを見た。シルファははっと我に帰ると
わたわたとミルファの前に進み出て、おずおずと口を開いた。
「え、えっと…河野貴明様のご指示れ、荷物を受け取りに来たのれす。」
「へえ…あなたがシルファちゃんね。」
 おばさんはシルファを値踏みするように頭の天辺から足の先まで見回すと、
 いきなり近づいて首から提げていたメジャーでシルファの体を採寸し始めた。
「え、えっと、あのあのあの…な、何れすか?」
肩から袖口までの長さをはかり、身長をはかり、バストとウエストを素早く測ると、何事か
納得したように頷いた。
 一方、突然体中測られたシルファは今にもなきそうな顔だった。
「し、シルファ…」


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