08/01/28 23:54:41
>>915
しかし私は仮にも名門と名高い一族の嫡男として、より繁栄を望める家から妻を娶り
才気溢れる男児と、教養深く美しい姫を育てなくてはならない。
そうだ、それが貴族に生まれた身の絶対的な使命であり悲願であるはずではないか。
菩提寺の馴染みの僧都にだけ、罪の告白のように禁忌の秘密を包み隠さず話し終えると少しだけ
抱え込んでいた感情も落ち着きを取り戻す。
一時の(というにはあまりにも長すぎたが)気の迷いだったのだと言い聞かせて、
当時話題の中心だった内親王に、執拗と思われても不思議ではない程頻繁に、求婚の文を送った。
元の紙に書いてあった文字が何であったか分からなくする為に、墨で全体を塗りつぶすような作業だった。
盲目になれ、盲目になれ。
だが、塗りつぶしても塗りつぶしても浮かび上がってくる文字を、隠すことは出来ないのだと気付いたのは
件の内親王が入内すると決まっても、全く心動かない自分を第三者のように眺めていたときだった。
…そういえば私が、詩歌管弦と、その中でもとりわけ篠笛を必死で学んだのは、廉さまの喜ぶ顔が見たいという
その一心だったような気がした。