08/01/28 22:17:19
>>628
静かな屋上にひっそりと、男にしては高い声が響く。
「おれも阿部君のこと、好きだったよ。だから、もう、メイワクかけれない」
迷惑なんかじゃない。
俺は。
お前に。
お前にただ、汚いところだけを見せて、自分の思いをぶつけるだけで、なにもしてやれなかった。
「あのヒトを、大切にしてね。おれに勇気をありがとう」
ありがとうなんていうな。俺にそんなこと言われる資格はない。待ってくれ。
まだまだ話すことも、教えたいことも、たくさんあるんだ。待ってくれ、まって─。
……なんて、いえばいいんだ?
最後の最後で、ちゃんとした名前すら呼ぶことの出来ない自分に気が付いて、俺は愕然とした。
俺はいつもそうだ。下らない意地を張って、言葉足らずで、いつも手遅れになる。
ふわり、と目の前の身体が宙に浮く。
たまらず俺は叫んだ。
「みはしっ!」
もう届かない。
もう、手遅れだ。
伸ばした指先を掠めるようにして、あいつの姿は俺の目の前から消えた。