11/01/31 20:50:50
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!
701:fusianasan
11/01/31 23:45:34
キターーーーー
702:fusianasan
11/02/01 22:10:50
>>699
「大丈夫?」
「うん…大丈夫。もう何も怖くないよ」
ボクはゆっくりと、佐紀の中に侵入していく。
「痛い?」
「…ん…だい…じょ…うぶ…がまん…で…きる…から…」
そうは言うが、彼女の顔は苦痛に歪んでいるように見える。中は強烈な締め付けで、ボクのそれをがっちりとホールドして離さない。
こりゃ抜け出せないや…抜くのに相当のエネルギーを要しそうなくらい、きつい。
ボクはしばらく動かず、彼女の強烈な締め付けに任せることにした。何もしていないのに彼女の中が、白いエキスの放出を誘う。
いやいや、まだ出したくないってば…
「…もう…うごいて…も…だいじょうぶ、だよ…いいよ…きて…」
佐紀がそう言ってくれた。ボクはゆっくりと腰を動かし始める。
そして、ボクと佐紀はお互い初めての快感の波に浸るのである。
…お互いの頭の中が真っ白になっていくまでに、そう長い時間はかからなかった…
「さ、さき…もう…でる!」
「…いい、よ…だ、し、て!」
そして、ボクは彼女の中に、すべてを出し尽くした。
703:fusianasan
11/02/01 22:11:24
「…どうだった?」
「うーん…ちょっと…痛かった、かな」
ボクの問いに、佐紀はそう答えた。本音だろう。タオルには、彼女の『初めての証』が付着していた。
「でも…私…今とっても…幸せだよ。
途中で、下から、××の顔を見たら…すごい…気持ちよさそうで…
それ見てたら、私、すっごく嬉しくなったんだ」
そう言って、佐紀はぼくの腕の中にやってきた。
「大好きだよ…」
佐紀は僕の頬に再び口づけをした。たまらなく愛おしかった。
「そっか、それならいいんだ」
佐紀を抱きながらもボクは、自分の感覚が急に現実に引き戻されたのを感じていた。ボクはもうすぐ、佐紀と離れ離れになろうとしている。
これだけうまく行っていて、お互いとても幸せな毎日を送っているというのに、その日々の終わりは…
その事実が、とてもとても、辛かった。
704:fusianasan
11/02/01 22:12:35
夏休みに入った。優等生の佐紀は期末試験で高得点を出したようだが、ボクはそれに遠く及ばない成績しか
あげることができなかった。ギリギリで夏休み中の補習を回避できたのは、佐紀の励ましと個人授業のおかげか、
それとも佐紀と過ごす時間をこれ以上短くしたくないとの思い故か…それは分からない。
夏休みに入ると、ボクたちはお互い時間を見つけては一緒に過ごした。
映画館、ショッピングモール、水族館、公園、図書館、そしてボクの家…
場所は変われど、二人の結びつきが変わることはなかった。彼女はボクを求め、ボクは彼女を求めていたのである。
ボクの家で…肌と肌を重ね合う日々が続いた。
そして…ボクたちはついに、超えてはならないかもしれない一線を踏み越えることになる。
705:fusianasan
11/02/01 22:13:28
その日、ボクと佐紀はお互い別の用事があって学校に来ていた。もちろん、お互い今日学校にいることは知っていたから、
二人で『学校デート』をすることにしたのである。
夏休み中の学校は人影もまばらで、いるのはせいぜい数人の教師と、一部の部活動をしている生徒ぐらいである。二人きりに
なれる場所を探すことなど簡単なことだった。
ボクたちは誰もいない音楽室にこっそり忍び込んだ。なぜ音楽室かといえば、何をやっても音が外に漏れる心配がない、と勝手に
思っていたのである(実際はそうでもなかったらしいのだが…)。
「ねえ、もし見つかったらどうしよう?」
「どうだろう…怒られちゃうだろうね」
平静を装ってはいたが、ボクは内心ドキドキであった。でも、もし見つかったら…というドキドキ感がボクの心を妙に興奮させていたのも
確かである。
「ね、キス、しよっか…」
「…誰かに見られたら、どうする?」
我ながら実に臆病者だと思うが、仕方ない。逆に、佐紀は妙に肝が据わっているというか、度胸があった。
「いいよ。別に」
「え?」
「見つかってもいい…××のことが好きだから、バレたって別にいいよ」
706:fusianasan
11/02/01 22:14:18
ボクはたまらなく嬉しかった。こんなことを言ってもらえる人間はそうそういない。ああ、ボクは何て幸せ者なんだろう…
と、一人で喜んでいた。
そして、ボクと佐紀はいつものようにキスを交わした。
調子に乗ったボクは、さらなる『おねだり』をしてみた。
「ねえ…口で…って、言ったら、怒る?」
「…ここで?」
佐紀はちょっと驚いたようだったが、怒りはしなかった。
「…分かった。でも、廊下から見えないように、していい?」
「いいよ」
そう言って、彼女は近くにあった机と椅子の陰に移動した。廊下からは何をしているか分からない位置である。
そして、ゆっくりとボクの制服のズボンに手をかける。
「見えたらマズいから、ファスナーだけ…でいい?」
「…うん」
佐紀はゆっくりとボクのファスナーを下ろし、中の布の切れ目から指を入れ、器用にボクのそれを出して…
ちゅぱっ…ちゅぱっ…と丁寧に、口に含んでいくのだった。
しばらくして、ボクは彼女の口の中に、また白いエキスをどっと放出した。佐紀はすこししかめっ面をしながらも、
一滴もこぼさずにすべてを飲み干した。
「ごめんよ…苦かった、よね」
「大丈夫だよ。もう慣れちゃった…××のせーし、いつも飲んでる気がするし」
そして、ボクらは何事もなかったかのように…お互い制服姿のまま…また濃密な時間を過ごすのであった。
707:fusianasan
11/02/01 22:15:10
その日の帰り道。
「さっきさあ…ボクのこと好きだから、バレてもいいって…言ってくれたじゃない?」
「うん」
「…ボク、すげー嬉しかったんだ」
ボクが突然そんなことを言い出したのが、佐紀には可笑しかったらしい。
「どうしたの?急にそんなこと言いだして」
「何かさあ…どうしてもお礼が言いたくて」
ボクの本音だった。ボクのことをそこまで好きでいてくれる彼女に、感謝せずにはいられなかった。
多分、人生で最初に付き合った女の子がこんなによくできた子だなんて、そうそうあるもんじゃないだろう。
それも、ひょんなことから…運命って不思議なものだ、としみじみ思っていた…ら。
「そっか…じゃあ」
そう言うと、佐紀が思いもよらぬ提案をした。
(つづく)
708:fusianasan
11/02/01 23:23:38
はあはあ
709:fusianasan
11/02/02 19:27:32
いいですね
710:fusianasan
11/02/02 22:38:05
>>707
「叫んでよ」
「えっ?」
「ここで、私のことが大好きだ、って叫んで」
叫んでと言っても、周囲は普通に街があって、人の流れがあって、時間が流れていて…とてもじゃないが、こんなところで
できることじゃない…
「ここじゃ無理!だから…」
ボクは佐紀の手を引っ張って、走り出した。別にそうしようと思ったわけではないが、発作的な衝動だったんだろうか。
「あ、ちょ、ちょっと、どこ行くの?」
佐紀の小さな手を引っ張って、ボクは走る。佐紀も何とかそれについていく。
不思議なもので、走っている間中、ボクは周りの景色がスローモーションのように見えていた。そして、心臓の鼓動が
やけに大きく聞こえた。
「もう…一体どこまで走る気!?」
「わかんない!」
本当に分からなかった。分からなかったから、できればどこまでも走っていたかった…佐紀と一緒に。
711:fusianasan
11/02/02 22:39:40
結局、走って走って行き着く先はボクの家の近所だった。そこに小川が流れている。小川と言っても、うまく跳べば
跳び越えられるくらいの小川だ。
「ここでなら…叫べる」
「じゃあ、叫んで」
走っている間とは一転、ボクの心の中にまた恥ずかしさが込み上げてきたのだが…そのことを知ってか知らずか、佐紀は
ボクにミッションを貫徹するようにという。仕方ない。やるしかないんだ。
ボクは佐紀を残し、一人小川の向こうへ跳んだ。そして、おもむろに口を開いた。
712:fusianasan
11/02/02 22:41:43
「さあきいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!
あいしてるよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」
…我ながら、びっくりするくらいの声が出た。自分でも驚くくらいの大声。
川向うの佐紀を見ると、彼女は満面の笑みで、ボクにこう叫んだ。
「すき!すきすきすきすき!!すきすきすきすきだああああああああああああいすき!!!!!!!」
そして、おもむろにボクの方に向かって跳んだ…
713:fusianasan
11/02/02 22:42:48
はいいが、着地でバランスを崩したか、彼女の片足が小川に落ちてしまった。
「ひゃあ!」
結局、彼女の片足は靴、靴下もろともずぶ濡れになってしまった。
「大丈夫?」
「大丈夫!」
しかし、佐紀は笑っている。ボクに向けて、これ以上ないくらい笑っている。
「もっと笑って」
「え?」
「笑ってて。もっともっと笑ってて」
ボクの横に上陸を果たした佐紀が、そう言った。
「××の笑ってる顔…もちろんそうじゃない時の顔も…好きなんだけど…笑ってる顔が、一番好きなの。
だから…もっと見せて。××の笑ってる顔…いっぱい、いっぱい見せて!」
…まったく、どこまで嬉しくさせてくれるんだ、この子は。
ボクはまたいてもたってもいられなくなって、佐紀を抱きしめていた。この時もやっぱり、他のことは
一切考えられなくなっていたのは、言うまでもない。
714:fusianasan
11/02/02 22:44:07
そして、それから数日後、佐紀の転校が正式に決まった。
「ごめんね…本当は、もっともっと…××くんのそばにいたかったんだけど…」
電話口でそう話す佐紀の声は涙声になっていた。その声を聞いたら、ボクまで泣けてきた。
「仕方ないよ…佐紀は悪くないさ」
ボクたちは、彼女が旅立つまでの間、時間を見つけてはできるだけたくさん会う約束をした。一瞬の間も惜しかった。
会うたびにボクらは抱き合い、キスをし、そして肌を重ねた。
佐紀は肌を重ねるごとに、ボクの上で何度も何度も声をあげていたっけ…
715:fusianasan
11/02/02 22:47:52
しばらく経った、夏の終わりのある日。
「じゃあ、行くね」
「…手紙書くから。電話もするし」
「うん…待ってる。ずっと待ってるからね」
いよいよ、佐紀が旅立つ日がやってきた。ボクが考えていたことがどこまでやれたかは定かではない。
でも、少なくとも、自分にできる精一杯の形で佐紀を幸せにすることは、多分できたんじゃないかなと、思った。
「また絶対遊びに来るから。そしたら、真っ先に××のところに行くね」
「うん。待ってるよ」
その約束が果たしていつ実現するかは、ボクにも佐紀にも分からなかった。
彼女を見送った時、ボクは自分が突然、夢から覚めたような感覚を感じていた…
716:fusianasan
11/02/02 22:49:13
事実だけを書こう。
ボクと佐紀はこの後しばらくして別れた。
別にケンカ別れしたわけでも、嫌いになって別れたわけでもない。
でも、顔の見えない、逢えない、連絡さえなかなか取れないような日々にはお互い耐えられなかったのである。
ボクらがもう少し大人なら、そんな日々も耐えられたのかもしれない。でも、その関係を続けるには、ボクらは
まだ若すぎた。
でも、二人の関係が完全に終わったわけではなかった。
後にひょんなことで、もう少し大人になったボクと佐紀は再会することになるのだが…
それはまた、別の話。
(第一編 終)
『一瞬の夏』 渡辺美里-1989
URLリンク(www.youtube.com)
717:fusianasan
11/02/02 22:51:37
(´・ω・)っ(第二編 予告)
ある時出会った、『優しい同級生』
ある時出会った、『傷を負った少女』
ある時出会った、『中卒フリーター』
彼女たちに、ボクは何ができる?
ボクは彼女たちと、何がしたい?
そして、四人をつなぐ一つの共通点、それは…
(´・ω・)っ(近日連載予定…)
718:fusianasan
11/02/02 22:54:17
ということで、主人公と佐紀ちゃんの一夏の恋は終わりました(´・ω・`)
やたらめったら長い割にエロ要素が少なくて、非常に申し訳ない…と今更反省しております(´・ω・)
まあ、多分次の話はもっとエロ要素が少なくなりそうな(というより、そこに辿り着くまでが長い)話なんですが…
お読みいただいて
ありがとうございました(*´・ω・)
719:名無し募集中。。。
11/02/02 23:08:43
乙でした
切ないな・・・
720:fusianasan
11/02/02 23:37:29
乙です
純愛の中でのエロ要素最高でした。
切ない感じもいいです。
721:fusianasan
11/02/06 23:44:26
むかーしむかし、というほど昔のことでもないけれど、とあるところに『帰ってきた!!Berryz工房のエロ小説を書こうよ!!』
というスレッドがありました
そこにはいろいろな作者の方がいて、それぞれがそれぞれ、多種多様な小説を投稿されていました
『濡れ場さえ書いておけば、他はどんな設定にしようが作者の自由』というルールだったようです
その中で自分も、いくつかの話を書きました
きっちり決められたルールに沿って話を書くのが苦手な自分には、上のルールは実に心地良いものでした
他の作者さんの話を読んだり、作者同士で表現や登場人物、その他もろもろのやり取りをしたり…
恐らく、自分にとって『居心地のいい場所』だった時期は、長かったような気がします
722:fusianasan
11/02/06 23:45:56
時が流れ、その場所の空気が、少しずつ変わってきたのを感じました
昔からいた人がいなくなり、新しくやってきた人たちが中心になっていきました
そして、いつしか自分が『古参』と呼ばれる部類の人間になっていたことを知ります
「少し…長く居過ぎたかもしれない」と思いました
でも、作っている話もあったことだし、せめてこれが終わるまでは、と自分に言い聞かせました
ある時。
いくつ目のスレッドか忘れましたが…
『ある作者がいれば、もう他の作者はいらない』という趣旨の書き込みを見かけました
自作自演かどうかは知りませんが、それに同調する意見も見かけました
なるほど。
既に自分が『招かれざる客』であったことにようやくここで気付きました
作品の内容がつまらないというのならそれは考え、修正し、対応できる
しかし、『いらない』というのなら、もうここにいる必要はない…
そう思って、書くのをやめました。製作途中であった話は続きを書くことがないまま、封印されました
723:fusianasan
11/02/06 23:47:00
それから、時々立っては短期間でdat落ちを繰り返すスレッドの中で
『あの作品の続きはまだだろうか』という書き込みを時々見かけました
同じ人が書かれたのかもしれないし、別の人が書かれたのかもしれない…
でも、待望してもらっているのに、何もできない自分。
心の中で『いや、本当に申し訳ない』と頭を下げました。
時が流れました。書いていた頃から…自分の立場も変わり、少々体を病み、ちょっとした問題を抱えながら
毎日を送っていました。
『帰ってきた!!Berryz工房のエロ小説を書こうよ!!』というスレッドはもはや新スレが立つこともなくなり
かつて立った避難所のようなスレッドが細々と続くだけになっていました
今なら、『誰某はいらない』というようなレスを見かけずに済むかもしれない。書くことに集中できる環境に
なっているかもしれない。
そう思って、もう一度何か書いてみようと思い立ちました。
どうせなら、かつて書いていたあの話が、最後にどういう結末になる『はず』であったかを明かす話にしよう。
そう考えて、久々に登場人物の設定を練り始めました。
が…
書けない。書けないのです。
かつてあれだけ苦も無く書けていたものが、たった二行、三行書くだけで何も書けなくなる。
驚きました。自分の頭が、そして心がこれほどまでに死んでいたなんて。
結局、その話は構想だけで放棄されました…
724:fusianasan
11/02/06 23:50:35
それからまた時が流れました。
もはや隆盛を誇っていた頃の住人の皆さんも三々五々、どこかへ行ってしまい
避難所の一つは消滅し、『PINKのなんでも』という板のスレだけが細々と生き残っている状況でした
しかし、今でも心のどこかで『あの時、話をしっかりとまとめられなかったこと』を悔やんでいる自分がいて、
そのことに対する申し訳なさが残っていました。
病を得た時とは状況が変わった。
今なら、もしかしたら何か書けるかもしれない。
いや、ちゃんと書けるか自信はないが、自分のリハビリのために、何か書いてみよう…
そう思って、物語を書き始めました
その最初の話が、『主人公と佐紀ちゃんのひと夏の恋』の話です
『どうせ作るのなら、今までちゃんと話を畳んでこれなかったことへの反省も兼ねて、あの時出していた人を
何かしらの形でみんな、登場させよう』と心に決めていました
その数を数えると、ちょうど10人になりました
久々にまとめサイトに行って、自分の書いたものや他の作者さんの書いた話を読み返しました
意外な発見があるもので、あの頃大して気にも留めなかった話や、表現に『おっ』と思わされることが多々ありました…
自分も、他人も。
725:fusianasan
11/02/06 23:52:54
ということで、どこまでやれるかは自分でもまだ分かりません。
分かりませんが、『あの時、自分の作品を待っていてくださった人のため』に
やれるところまでやろう、と決めました…
次の物語から、主人公の周りはどんどん暗いものが漂ってきます
その『暗いもの』はもしかしたら、かつて自分が見ていた景色なのかもしれないし、
そうでないのかもしれない。
ただ、その暗い景色の中で、彼や彼女たちはどう生きるのか…
この物語の根底は、そんなテーマなのです。
726:fusianasan
11/02/06 23:55:07
|ω・) 書いていいのかどうか分からなかったけれど、どうしてもこれは書いておこうと思ったので
自分とこのスレの関わりや、何でこの話を書こうと思ったかの説明を長々と書いてしまいました…
ちなみに、改めて読んだ中で、理系の学生さんやめようさんやヲタモドキさんの作品はすごく
共感できて惹かれる部分があったなぁ…
あの時、一言でもそれを言っておけばよかった、と今更後悔しています
まあ、お三方とももうこのスレは見てないだろうから、名前を出しちゃいましたがw
|ω・) 明日から第二編がスタートします お楽しみに…
727:名無し募集中。。。
11/02/07 01:51:10
あなたは多くの佐紀ヲタ住人にトラウマを与えたあの方なのでしょうか?w
違うかもしれませんが、まあ誰であれ続編期待してます
あとこれだけは言っておかないといけませんね
お帰りなさい!
728:fusianasan
11/02/07 04:28:07
自分は誰が必要、誰が不要とか全く気にしないで作品を楽しませてもらってたけどな
誰かが不要とか言ったり同調したりして作者さんを傷付けてたのなら、読者の一人としてお詫びします
まあどうせそんな事言ってた人は、多分今ここにはいないと思うけどね
729:fusianasan
11/02/07 21:20:19
第二編 彼と彼女と彼女と彼女と そしてfootball
第一章
―負けることだけ恐れて 勇気を忘れてはいないか? 心の翼広げて 勝利をつかむのさ
730:fusianasan
11/02/07 21:20:56
時が流れた。ボクは高校生活二年目の秋を迎えようとしていた。
その頃、ボクは理由あって生徒会の仕事の手伝いをやっていた。別にやりたくてやっていたわけではない。クラスの生徒会担当を
誰もやりたがらず、結局ボクにお鉢が回ってきたのである。
「あーあ、やりたかねえや、こんなの…」
生徒会担当と言ったって、やることは実質下働きだ。生徒会通信をクラスの人数分印刷して、持って行って、配って…
生徒会の会議の書記をやらされて…生徒会が何かやることになったら、その準備や後片付けの手伝いをやらされて…
こんなことのために週に何度かいちいち放課後に残されるなんて、すこぶるめんどくさい。道理で誰もやりたがらないわけだ。
ボクは貧乏クジを引かされることになった自分の運命を呪った。でも…
731:fusianasan
11/02/07 21:22:01
「○○くん、印刷、全部終わった?」
こんなやりがいのない、めんどくさい仕事でも、一つくらいはいいことがあるものだ。ボクは隣のクラスの矢島舞美さんという女の子と
仲良くなった。
実は、彼女は佐紀の友人だったそうである。そう、ボクと佐紀が付き合うことを決めた夜に、佐紀が電話で話していた『友人』こそ、
彼女だったのだ。
でも佐紀と付き合っていたころは、せいぜい学校で挨拶したくらいで深く話した記憶がない。それだけ、ボクが佐紀に夢中だったってこと
なんだろうか…
皮肉なことに、佐紀と別れた後の方が話す機会が増えた。ボクは内心、佐紀と別れたことで、その友人である彼女とは気まずい関係に
なってしまうだろうなと思っていたが、意外とそうではなかった。
授業で一緒になれば、彼女はボクに話しかけてくれたし、逆にボクが話しかけても、彼女は特に嫌な顔もしなかった。矢島さんもボクと
佐紀の関係はよく知っていたが、だからと言って別れたことでボクを責めることもなかったし、逆に、佐紀にあれこれ言うこともなかった。
「ま、それはそれで、別にいいんじゃない?私がどうこう言うことじゃないし」
と、実にあっさりした答えが返ってきたものだった。
732:fusianasan
11/02/07 21:22:45
一年生の秋のこと。矢島さんが、生徒会の一員になった。生徒会の一員と言っても、ボクのような別にやりたくもない
『下働き』ではなくて、ちゃんとした投票で選ばれる生徒会事務局のえらい人である。聞けば、彼女は担任教師に自分から
立候補したい、と言ったのだそうだ。
その理由を訊くと、彼女は笑ってこう言った。
「何かさ、おもしろそうだったから」
「…はぁ」
それが本当の理由なのかどうかは、ボクには知る由もなかった。
ボクが生徒会の『下働き』になったのは、二年生になった春のことだった。
「あれ?○○くん、生徒会担当になったの?」
彼女はボクを見つけると、気さくに声をかけてきた。
「そうだよ。誰もやりたがらなかったからさ、ジャンケンで負けて、結局ボクがやることになったわけ」
「へー、運がないんだねぇ…」
そう言って彼女は笑う。ボクも…まあ、ここは笑っておこうか。
「はは、まあ、そういうことさ。よろしく」
そして、ボクと矢島さんは生徒会のいろんな行事を通して、だんだんといい関係が築けるようになっていった。いろんなことの
手伝いをしていて、わかったことがある。
彼女が何事に対してもとても一生懸命な人だということ、彼女が誰に対してもとても優しく礼儀正しい人だということ、そして
彼女がとても汗かきだということである。
733:fusianasan
11/02/07 21:24:00
六月の終わりに、ボクらの高校では毎年恒例の文化祭がある。主導は当然生徒会だが、ボクも立場上、
手伝わされることになった。
来たくもないのに朝の早くに学校に呼ばれ、残りたくもないのに遅くまで学校に残され…いろいろと雑用をやる。
あんまり楽しいもんじゃない。普通に一生徒としてあれこれ回っている方が、よっぽど楽しい。
でも、後片付けがすべて終わって解散となり、疲れたボクが一人で帰ろうとしていた時…
「○○くーん!」
誰かの声がした。振り返ると、矢島さんがボクを追っかけてきた。
「あれ?どうしたの?みんなで打ち上げに行くんじゃ…」
「いいの、あれは後で別のとこで待ち合わせになったから」
そう言うと、彼女はカバンの中から缶ジュースを取り出した。
「こんなのしかないけど…これ、いる?」
「いいよボクは。矢島さんが飲みなよ、あれだけ働いてたんだし」
ボクがどれだけ働いたといっても、実際に主導した生徒会の人間の方が数倍働いている。一番働いているのは
三年生の役員の人たちだけど、矢島さんたち二年生の役員だって、かなり忙しく動き回っていた。それはボクも
よく知っていることだ。
734:fusianasan
11/02/07 21:24:47
「いいよ、私は。○○くんこそ、もらって。生徒会以外の人には…あんまりちゃんとお礼も言えなかったし…」
聞けば、彼女は自分の周りで働いていた人たち一人一人に、終わった後お礼を言って回っていたらしい。ところが生徒会の
『下働き』の人たちはあくまで生徒会以外の人間なので、片付けが終わったらそこで帰されてしまう。彼女はその人たちに
お礼を言えなかったことを悔やんでいたようだ。で、その中の一人にボクがいた、ということらしい。
「そっか…じゃあ、ありがたくいただいておくよ」
ボクはそう言って、ジュースをもらった。冷えていない常温の品だったが、そんなことは気にしなかった。
「ごめんね、でもホント助かりました…ありがとう」
そして、彼女はボクの肩を優しく叩いた。こんな時でも優しさを忘れない彼女の心に、ボクは内心感動していた。
735:fusianasan
11/02/07 21:25:53
「ああ、そうだ。ボクさあ…携帯電話、買ったんだよね」
その数日前に今更ながら、ボクは人生初の携帯電話を買ってもらった。
もっとこれが早くからあれば、佐紀と別れずに済んだのかもしれないなぁ…
と思ってしまったのは、ここだけの話だ。
「そうなんだ。じゃあ、私のアドレス、教えてあげる」
「…いいの?」
「いいよ!何で?いいに決まってるじゃん」
矢島さんは『どうしてそんなこと訊くの?』という表情をしていた。そして、快く自分の連絡先を教えてくれた。
「あんまり電話かけたら、怒られるかもね」
ボクがそう言うと、彼女は笑って、
「そんなことないよ。夜なら大丈夫。部屋に一人でいることが多いから…いつでも連絡してよ」
と言ってくれた。どこまで本当か分からなかったが、ボクにそんなことを言ってくれる彼女の優しさに、
また感動してしまった。
駅に着くまで二人でいろんな話をしたが、話せば話すほど、ボクは彼女に惹かれていく、ような気がした。
(つづく)
736:fusianasan
11/02/07 21:27:57
|ω・) ということで 第二編がスタートしました
高校二年生になった主人公と、三人の女の子を中心に話が展開します
ご期待ください…
737:名無し募集中。。。
11/02/07 23:49:47
乙です!舞美が出てきたか
××がまだちょっと珍しいとか将来の伏線だったりするのかな
他に出てくる子は誰なんだろ
そして主人公の相手は誰になるのか…楽しみです!
738:fusianasan
11/02/08 22:05:51
>>735
話を生徒会室に戻そう。
「いや、まだ終わってない…」
クラス全員分を印刷しなきゃいけないのである。しかも、用意された性能の悪い印刷機はいちいち紙をその都度
突っ込まなければ動いてはくれない。一度に35枚入れたらその分だけ勝手にやってくれるほど、頭はよくないのだ。
「そっか。手伝おうか?」
「…いいの?」
「いいよ。早く終わらないと私の仕事も終わらないし」
手伝い始めた彼女が、突如ボクにふと相談を持ちかけた。
739:fusianasan
11/02/08 22:06:41
「ねえ、○○くんってさ、サッカー、興味ある?」
「…は?」
別に嫌いなわけではない。でも、だからといって自分から見に行こうと思ったこともない。それって興味があるのかないのか、
自分でもよく分からない…と内心思っていたら、
「実はさあ、知り合いがオレンジキッカーズのチケットくれたんだけど、一緒に行く予定だった友達が熱出しちゃってさぁ…」
「はぁ…」
「で、××くん、興味あるかな、って…よかったら一緒に行かない?」
オレンジキッカーズとは、この街にあるサッカーチームの名前だ。国内のトップリーグから数えて三部リーグのチームである。
聞いた話では来年の二部リーグ昇格に向けて、なかなかいい順位にいるらしい。
考えてみれば、別に断る理由が思い浮かばなかった。まあ、適当にサッカーを見て、あとは矢島さんとあれこれ喋っていればいいか、
と思った。
「分かった。じゃあ、行こう」
「ホント?ありがと!
じゃあ、今度の土曜日のお昼に駅の前で待ち合わせね」
話はとんとん拍子に決まった。そこからもう一盛り上がりしようとしたところに…
『ピー…ピー…ヨウシガキレテイマス』
機械音声が水を差した。やれやれ、何と空気の読めない、話のわからない機械なのだろう…機械なのだから、当たり前か…
740:fusianasan
11/02/08 22:08:11
土曜日の正午。矢島さんの家の最寄り駅にボクは立っていた。
「そういや、ここで誰かと待ち合わせするのも、久々だなぁ…」
矢島さんの家の最寄り駅。それはかつて佐紀と何度も待ち合わせをした駅である。初デートの時は、すごく緊張したなぁ…
そんなことを思い出しながら、ボクはガムを噛んでいた。
「お待たせっ!」
矢島さんがやってきた。オレンジのタオルマフラー、オレンジの上着、オレンジのロングパンツ…
上から下まで全部オレンジである。
「…ど、どうしたのその格好?」
まさかこんな格好でやってくるとは思わなかったボクは、思わずそう訊いてしまった。しかし、矢島さんは逆に
怪訝な表情でボクを見る。
「え?だって、応援しに行くんだから。○○くんこそ、オレンジの服とかないの?」
「…ない」
あんまり明るい服を持っていなかったボクは、いつも通り白と紺のコントラストである。まあ、確かに応援する格好
ではない…かな。
「それじゃダメだよ!よし、じゃあ改造計画!オレンジのグッズで、身を固めてもらうからね!」
「…はぁ」
矢島さんはボクの戸惑いをすっ飛ばして、勝手にどんどん話を進めていく。どうやら彼女は『常に一生懸命』な分だけ
『一度走り始めると止まらない』性格のようだ。
741:fusianasan
11/02/08 22:09:05
駅から電車で十五分。ボクと矢島さんは目的地のスタジアムにやってきた。オレンジ色の幟があちらこちらに立っていて、
売店…フードコートというそうだ…が並んでいる。
「こっちこっち!」
「…はい」
早足で歩く彼女に、ボクはついて行くのが精いっぱいだ。まったく、もう少しのんびり試合を見るつもりだったのに…
こんなはずじゃなかったんだけどなぁ…とボクは内心思っていた。
「ね、これとこれ、どっちがいい?」
彼女がオレンジ色の長そでシャツとタオルマフラーを持っている。どちらかをボクに買えというつもりのようだ。
「まっ、両方でもいいけどね!」
「…こっちで」
オレンジのシャツを着るのはどうも気乗りしなかったので、大人しくタオルマフラーを買う。二千円也。
「これでちょっとは応援する気になった?さ、行こ行こ」
ボクは買ったばかりのタオルマフラーを巻いて、スタジアムに足を踏み入れた。思えば、サッカーを生で見るなんて、
幼少時の頃以来の経験かもしれない。
742:fusianasan
11/02/08 22:13:33
「わー、結構入ってるね」
てっきりがらんどうのスタジアムを想像していたボクは、予想以上のお客さんに面食らった。
「こっちこっちー!」
矢島さんのバイタリティは本当にすごい。男のボクよりもはるかに元気いっぱいで、感心してしまう。
一体彼女はどうしてあんなにいつも元気なのだろうか…謎だ。
導かれるままについていくと、ボクたちの座るべき席の隣にもう一人女の子が座っていた。
「まいみさーん!」
「ちぃ!」
ちぃ…?誰だ?
「久しぶりだね」
「うん…ちなみは毎回来てたのに…」
どうやら二人は友人のようだが、二人の会話に入れない。ボクは何だか自分だけが取り残された気分になった。
「ああ、そうだ。紹介するね」
矢島さんの言葉で、ボクはようやく会話に加えてもらえることができた。
「後輩の徳永千奈美ちゃん。オレンジのサポーターなんだよ」
「はじめまして!」
徳永さんがボクに声をかけてきた。小麦色に焼けた健康的な肌が印象的だった。
「ああ、どうも、はじめまして…」
「ちぃちゃん、彼が○○くん。ほら、この間、私が『今度連れていく』って言ってたでしょ。あの子」
どうやら、事前に矢島さんは徳永さんにボクのことを紹介していたらしい。ボクは何も聞かされてなかったんだけどなぁ…
と思わず言いかけてやめた。危ない危ない。
743:fusianasan
11/02/08 22:14:58
|ω・)っ(つづく)
|ω・)っ(訂正)
>>739の舞美ちゃんのセリフ
正「で、○○くん、興味あるかな、って…よかったら一緒に行かない?」
誤「で、××くん、興味あるかな、って…よかったら一緒に行かない?」
|ω;) 校正でミスがありました お詫びして訂正いたします…
744:fusianasan
11/02/08 22:18:52
>>727
|ω・) 誰かは…秘密です まあ、分かる人は分かるだろうし、分からない人は分からないだろうけど
それでもいいかな、と…思っております
>>728
|ω-) 大多数の読者の方が…そうだったということはよく分かっております ただ、一部…特に後期…
そうでない読者の方がいて、その声が非常に大きかったのは事実で…残念なことですけどね
|ω・) お詫びだなんてとんでもない…きちんと読んでくださる方なら、大歓迎です
745:fusianasan
11/02/09 21:39:19
>>742
試合が始まった。
「ほら、ここはこうするのよ」
「あ、コーナーだから、タオル回さなきゃだよ」
「は、はぁ…」
矢島さんと徳永さんがボクに応援のイロハを手取り足取り教えてくれる。とりあえずは『ハイ、ハイ』と聞いているが、
分かったような、分からないような…
「いけー!そこで逆サイドー!」
「あー!何で打たないのもー!」
「あぶなーい!早くクリアクリア!」
ボクの隣で、矢島さんが叫んでいる。ホントに、感心するくらい活発な女の子だと思う。とてもじゃないがボクには
マネができない。
一方、初対面の徳永さんは…
「ああああああああああ!あぶなーい!」
「いやぁっ!!!!!!あぶないよー」
…どうも、二人とも大差ないようである。なるほど、同じような性格なら、そりゃ仲良くなるのも早いはずだわね、
とボクは心の中で呟いた。
746:fusianasan
11/02/09 21:40:06
試合の中で、オレンジキッカーズの10番の選手が目についた。金髪で白人の選手。
「あー、うまいところ出すな」
「あー、うまく抜いたな」
「あー、トラップ上手だな」
ボクは決してサッカーに詳しい方じゃないが、それでも数十分続けて見てると素人なりに上手な人の見分けが
つくものである…
まあ、プロなんだからボクたちに比べたら、全員めちゃくちゃうまいんだろうけど。
「ねえ、あの選手は何て名前?あの10番の人」
「ああ、アンドレ?」
矢島さんが彼の名前を教えてくれた。どんな選手なんだろう、と手元に渡されたマッチデー・プログラムを見ると…
『国籍:ブラジル』と書いてある。
「へー、ブラジルの人だったんだ」
金髪で白人のブラジル人なんて珍しいなぁ…と思っていたら。
747:fusianasan
11/02/09 21:40:50
「あああああああっ!」
「いやあああああっ!」
耳元で二人の悲鳴が一斉に聞こえた。ボクが顔を上げると…相手の選手が喜んでいる。
「ただいまの得点は…アルシオーネ和歌山 背番号20 森下友一選手の得点です…」
どうやらボクは一瞬目を離したすきに相手の得点シーンを見逃してしまったようだ…でもテレビ中継のように
リプレイ機能があるわけではない。
電光掲示板の機能しかないスコアボードでは、リプレイ映像を流してもらえるはずもなく…
結局、試合はそのまま0-1でオレンジキッカーズの負けになってしまった。アンドレは後半途中で他の選手と
交代してしまい、オレンジキッカーズは攻撃の柱を失って、その後はろくにシュートも打てずに完封負けである。
748:fusianasan
11/02/09 21:41:34
帰り道。みんな考えることは同じなのか、駅へ絶え間なく人の波が押し寄せている。
「ねえ、毎回こんなに人が多い感じなの?」
ボクはこんな人混みのなかにずっといるのはしんどいなぁと思いながら、矢島さんに訊ねた。
「うん、ずっとそうだよ」
「え…マジ?」
月に二度三度とホームゲームがある。その度にこの人の数。正直…人混みがあんまり得意ではない
ボクからすれば、ご勘弁願いたいものだ。
「あんまりアクセス良くないからね…仕方ないよ」
矢島さんはどこか寂しげに言った。熱心なサポーター故に、いろいろ言いたいこともあるのだろうが、相手が
素人のボクということもあってか、自重したように見えた。
「ねー、お腹すいた。どっか寄ってこうよー」
矢島さんの気持ちを知ってか知らずか、徳永さんはマイペースにそんなことを言っている。
ここは…どっちに同調した方がいいのかなぁ…
考えるより先に、言葉が出ていた。
「なんかボクもお腹すいちゃったな。どっか寄ろうよ」
「そう?じゃあ、エキヨコにしよう」
そして、ボクたち三人は喫茶店へ歩き始めた…やっぱり人ごみの中をかき分けながら。
749:fusianasan
11/02/09 21:42:19
『エキヨコ』だと言ったのにそれは『駅の横』ではなかった。駅から離れた場所。人ごみとは反対の方向へ歩いていく
ボクたち。
「ねー、ボクたち、どこ行くのさ?」
「だから、エキヨコだって」
「エキヨコって言ったって、駅と反対方向じゃないか」
ボクがそう言うと、突然隣の徳永さんがプッ、と噴き出した。
「何で笑うのさ」
「それ、意味が違うんですよー」
徳永さんは陽気に笑っている。矢島さんが説明してくれた。
「店の名前が『エキヨコ』って言うの。別に駅の横にあるわけじゃないんだよ」
「はぁ…」
自分の顔を鏡で見たわけではないけれど、多分この時のボクの顔はキツネにつままれたような顔になっていたことだろう。
徳永さんはそんなボクを見て笑っている。眩しい笑顔だが、その笑顔がなぜ生まれたかを考えると、ちょっと複雑な気持ちだ。
矢島さんは説明だけして、後はとにかく歩いている。しかも歩くペースが速い。ちょっと意識しないと、ついていけないくらいの
ペースだ。
「試合が終わった後、しかも負け試合の後だというのに、なんて元気なんだ…」
ボクは内心、ちょっと呆れていた。
(つづく)
750:fusianasan
11/02/10 21:26:42
>>749
「到着ー」
『エキヨコ』と呼ばれるそこは、ビルの一階にある小さな喫茶店だった。おそらく十人も入れば満員になるだろう。
「いらっしゃいませー」
背の高い女の子がボクたちを迎えてくれた。どこかエキゾチックな顔立ちの女の子。
「えりぃ!」
「まいみぃ!」
なんだ、矢島さんの知り合いだったのか。つまりは彼女が『知り合いのいる喫茶店』に行きたいがために、
ボク(と徳永さん)は付き合わされたわけだ。駅の横でもないこんなところまで…まあ、しょうがないけどさ。
「紹介するね。親友の梅田えりか」
「はじめましてなんだよ!」
背の高い子だった。てっきりハーフか何かだと思ってたら、純然たる日本人らしい。人は見かけによらないものだ…
って、そういう話でもないか。
「よく一緒に試合見てる徳永のちーちゃんと、今日初めて見に来た○○くん」
「へー、また『ご新規さん』増やしたんだ」
「へへ…まあね」
話の様子から、どうもこの梅田さんという背の高い女の子もオレンジキッカーズを応援しているらしい。
でも今日は試合に行かずここで働いている…どういうことか、ちょっと訊きたかったが、聞けそうな雰囲気ではなかった。
というのも…
751:fusianasan
11/02/10 21:27:48
「えへへ…久々にえりのお店来ちゃった。一人?」
「うん…さっきね、マスターがコーヒー豆買いに行っちゃったんだよ。代わりに店番しといてって」
「嬉しいなぁ…じゃあ、遊んで帰ろうっと」
この二人が思いっきりいちゃついているからである。ボクと徳永さんは完全に『おいてけぼり』状態であった。
「…ねえ、ちょっと、あっちで、話さない…かい?」
思い切ってボクは徳永さんにそう呟いた。彼女はボクの目を見て、黙ってうなずいた。その顔には明らかに
『困った』という様子が出ている…
752:fusianasan
11/02/10 21:28:48
カウンターでいちゃついている二人は放っておいて、ボクと徳永さんは窓際の席に座った。
「なんか、二人だと、緊張…しますね…」
ボクと一対一で話をするのは初めてだからだろうか、彼女は敬語で喋っている…でも、その喋り方が何とも
ぎこちないというか、舌足らずというか…とにかく『一生懸命無理やり喋っている』のがありありと分かるので、
「いいよ、無理しなくて。タメ口きいてくれていいよ」
ボクは助け舟を出した。
「いいんです、大丈夫です…ごめんなさい、気を使わせて」
「いいのいいの。気にしない」
徳永さんは本当に申し訳なさそうな顔をした。その顔が、何とも可愛い。
「どうか…しました?」
その『申し訳なさそうな顔』でボクの方を見る。ヤバいヤバい、こんな表情を何分も続けられてしまったら、大抵の男は
彼女にメロメロになるだろう。
「いやいや…何でもないよ。だけど、徳永さんって、可愛いね」
「え?ちなみ…じゃなかった、私が?ホントですかぁ?」
まるでテストでいい点を取って頭をなでられた子供のように…彼女は嬉しそうな顔になった。
753:fusianasan
11/02/10 21:29:40
二人でいろんな話をした。そこでボクは徳永さんが最近このチームの試合を見に来るようになったこと、初めて見た試合で
逆転勝ちを見て、それ以来すっかりハマってしまったこと、観戦に来るうちに矢島さんと出会ったこと、そしてアンドレのファンで
あることなどを聞かされた。
「へー、ボクもアンドレはすごいなぁ、って今日思ったんだよ」
「でしょでしょ!すごいんですよー」
ボクにあれこれいろんなことを話す徳永さんは本当に楽しそうだ…いや、楽しそうなんだけど…何かがおかしい。
「ん?」
ボクは彼女に対して、妙な違和感を感じていた。ただ、その違和感の正体が何であるかはまだ分からなかった。
(つづく)
754:fusianasan
11/02/10 21:30:29
|ω・) 誰もいなくなっちゃった…やっぱりエロが少ないと一気にヒトイネになっちゃうね…w
|ω-) でも、まだ当分エロは出てきません…スイマセン
755:fusianasan
11/02/11 03:12:03
すみません。
感想を書くのが下手なもので。
毎回楽しく読ませていただいております。
転調を感じさせる回ですね。次回が楽しみです。
756:fusianasan
11/02/11 22:30:44
>>753
「戻って来たら…こら、店番してないじゃないか!」
どうやら、店主が帰って来たらしい。
「あ、ごめんなさい…つい夢中になっちゃって」
店主がボクらの方を見た。お客さんがいることに気がついたらしい。
「おや…お客さんか」
店主…マスターは初対面であるボクらを認めると、申し訳なさそうに頭を下げた。
「すいません、ノッポが店番しませんで…コーヒー、一杯サービスしときますんで」
「はぁ…どうも…」
恐縮するマスターを見たら、何だかボクも恐縮してしまった。いや、ボクだって別に来たくて来たわけじゃなくて、
矢島さんに連れてこられただけなんだけど…
とは、さすがに言えなかった。
757:fusianasan
11/02/11 22:31:56
コーヒーを飲みながら店主も交えて、いろんな話をした。そこで、このマスターの過去を知ることになる。
「僕もねえ、昔は選手だったんだよ…オレンジキッカーズのね」
「えっ、そうだったんですか?」
訊けば、彼はオレンジキッカーズがまだ下部リーグ…しがない小さな町クラブだった頃、選手としてプレーしていたのだそうだ。
ポジションは、中盤を走り回ってボールを奪うミッドフィールダー、ボランチだったという。
「僕はね、足はあんまり速くないし背も高くなかったけど、体力だけはあったんだなぁ…」
選手全員がプロ契約のトップディヴィジョンとは違い、下部リーグではサッカーでの収入だけで食べられるはずもなく、練習が
終わればさまざまなアルバイトをこなし、シーズンが終われば紹介された工場で一日中臨時工として働き、生活費や用具代に
充てていたという。彼はそんな生活を、十年以上続けていた。
758:fusianasan
11/02/11 22:33:36
彼が30歳を迎えた年に、チームは四部リーグで優勝し、全国の四部リーグ優勝チームが集まって行われる『決勝大会』を
勝ち抜き、見事に三部リーグ昇格を果たした。
「嬉しかったねえ。18でこのチームに入って、仕事の合間にサッカーやって、大変だったけど、ここまで来たのが嬉しくてねえ…
人目もはばからず泣いたのを覚えているよ」
しかし、三部リーグに上がった途端に彼の出番は激減した。「労を惜しまず走り回る」だけの選手では、レベルの上がった
対戦相手に太刀打ちできなくなってしまったのである。
「最初の試合は出たんだけどさあ、そこで5点取られて負けちゃってね。それっきり出番がなくなって…」
三部リーグに上がったことで、まとまったスポンサーもついて、選手の補強も進んだ。彼はそれによってスタメンから
弾き出される格好になり、試合に出られない日々が続いたという。
「辛かったけど、仕方ないなとも思った。自分の力が足りなくなったというのは、練習をしていても感じたしね」
結局、彼はその年限りで現役を引退することを決めた。指導者として残れる道はなく、引退後、何をするかの決断を
迫られることになる。
「引退してこれからの人生を考えた時に、どうせならちょっと違う仕事をしてみたくなってね」
そして、彼はこの『エキヨコ』という店を始めた。
759:fusianasan
11/02/11 22:46:03
「金も知識もない…ないない尽くし。でも、体力だけはまだ負けない自信があったからさ。手当たり次第やっていけば、
何とかなると思ってたんだよ」
彼…マスターはそう言うと、隣にいた梅田さんの頭を撫でた。
「一人じゃ大変だから、誰かバイトを雇おう…と思ってさ。でも求人広告出すお金もないし、とりあえず店の前に貼り紙を
貼ったら、この子…ノッポさんが来たってわけ」
梅田さんは店の中で『ノッポ』と呼ばれているようだ。確かに背が高いから、ピッタリなネーミングかもしれない。
「もー、その呼び方はやめてって言ったじゃないですかー」
「あれ、そんなこと言ってたっけ?」
「…でも嘘なんだよ。もう慣れたんだよ」
梅田さんがそう言うと、店内が温かい笑いに包まれた。なんだ、案外優しい空間じゃないか、と思った。
「今日はありがとう。また来てくれよ」
マスターはそう言って、ボクたちを送り出してくれた。
760:fusianasan
11/02/11 22:48:47
「じゃあ、ちぃ、またね」
「ばいばーい」
徳永さんは、ボクたちに手を振って反対方向の電車に乗って行った。ボクは何気なくそれを見送った…が。
「ん?」
その時、ボクは確かに見ていた。徳永さんの体に起きていた、ある変化を。
「○○くん、どうかした?」
帰りの電車の中で、矢島さんがボクに訊ねた。
「いや、何でもない…何でもないよ」
徳永さんの体に起きていた変化を、彼女に話すべきか話さざるべきか…ボクは考えていた。事は急を争うのかもしれない。
ならばできるだけ早く話した方がいい。
でも、ここは電車の中。誰かに話を聞かれてしまうかもしれないし、その中に徳永さんの知り合いがいる可能性だって、
ゼロではない。
ここで話すのはあまりにリスクが高すぎる気もする…
結局、ボクは言えなかった。言えないまま、自宅に帰った。それが後々、『ボクと彼女と彼女と彼女の関係』に影響をもたらす
ことになるのだけれど、その時は、そんなこと思いもしなかった。
(第一章 終)
VICTORY THE ALFEE-1993
URLリンク(www.youtube.com)
761:fusianasan
11/02/11 22:54:28
(´・ω・)っ(第二章 予告)
『ボク』が見つけた『彼女』の異変
そして、オレンジキッカーズの運命が決まる日
『ボク』は『彼女』の心の中を知る…
(´・ω・)っ(明日以降連載予定…)
762:fusianasan
11/02/11 23:01:14
|ω・) まあ、このマスターも後に…登場人物と密接なかかわりを持つことになるんだけど…
それはまた別の話と言うことで…
>>755
|ω・) いえいえ…
作者の気持ちから言えば、どんなことでもいいから感想を書いていただきたい、と思っています
個人的に一番辛いのは、書いても書いても何の反応もないことです
だから、一言でもいいから、毎回何かしらのリアクションをいただきたいな…とは常に思っておりまして…
|ω・) 読んでくださった方は…何か一言でもいただければ、嬉しいです
以上、切なる…wお願いでした
763:fusianasan
11/02/12 00:08:12
エロ「が」ある、ではなくて、エロ「も」あるリア消スレみたいな感じで甘酸っぱくていい感じ
ただ
>その時は、そんなこと思いもしなかった。
>でも、まだボクは知らなかった。
といった描写がやや目立つのが個人的には気になりました
まあ過去を振り返って書いているならやむを得ないことなんでしょうけど
764:fusianasan
11/02/13 19:04:07
>>760
第二章
―寒い夜だから あなたを待ちわびて どんな言葉でもいいよ 誰か伝えて―
それから二週間後。
また、矢島さんに誘われて一緒に行くはずだったのに、ボクは一人でスタジアムに行く羽目になってしまった。
矢島さんが『どうしても抜けられない用事』が入ったと言ってきたのである…当日の朝に。
「ったく、言うならもっと早く言ってくれないかねぇ」
とボヤきながら、ボクは電車に乗って行った。別に行かなくてもいいかとも思ったが、行かないで矢島さんに
後であれこれ言われるのがイヤだったのである。
電車に乗って、一人でスタジアムに行く。近頃めっきり寒くなった。慣れれば何ということもない行程なのだろうが、
ボクにはまだ『しんどい』ことに思える。
当日券を買い、入口をくぐって中に入ると…
「○○さーん!」
徳永さんが待っていた。別に何も伝えてはいなかったのに、どういうことだろう。
「あれ、どうしたの?」
「まいみちゃんが『今日は行けないけど○○君が代わりに行くから一緒に見てあげて』って言われたんですよ」
どうやら、またボクの知らないところで話がついていたらしい。まあ、徳永さんのことをもっと知るチャンスでもあるから、
ここは素直に従っておこう。
「そっか。じゃあ、行こうか」
そう言って、この間と同じ格好のボクは歩きだした…一つだけ違うことは、首にオレンジのタオルマフラーが増えていたことだった。
765:fusianasan
11/02/13 19:04:52
この間の試合で負けて、しかも先週のアウェイ戦を引き分けてしまったオレンジキッカーズは、二部昇格ラインとの
勝ち点差が4になってしまった。残りの試合で負けることは許されない…
というか、全部勝ってやっと追い付けるかどうかになってきた。
「今日の相手って、強いんだっけ」
「ちょっとぉ…今日の相手って、13位のチームですよ。勝たなくてどうするんですか!」
怒られてしまった。13位か…そりゃ確かに勝たないといけない相手だろうが、だからって怒らなくても…
ボクはふくれっ面になっていたらしい。横から小さい声が聞こえた。
「あのー、怒ってます…か?」
「いや、別に」
見抜かれないように平静を装う…ことを心がけたが、自信はない。ボクだって、いきなり怒られていい気分なわけは
ないのだから。
「あ、選手出てきた。試合見よう」
いいタイミングで選手が出てきた。これ以上揉めごとを起こさなくて済む。
766:fusianasan
11/02/13 19:05:57
この間、印象に残ったアンドレが今日も出てきた。しかし、試合開始からちょっと動きが悪い。
「うーむ…」
通してほしいパスが通らない。運動量も少ないし、体が重そうだ。疲れているのだろうか。
「オーレー オーレー ウィーアーオレーンジー」
徳永さんは隣で元気にチャントを口ずさみながら応援している。
ボクはといえば、座って試合の経過を目で追っている。アンドレにボールが渡った。二人のマーク。
「出せるのか?出せるのか?」
出した。ディフェンスの間をうまく抜けるスルーパス。
「行けっ!」
後はフォワードの和田が流し込むだけ。先制だ。
「やったああああああああああああ!!!!!!!!!!」
ボクは隣の徳永さんとハイタッチを交わした。この間はがっかりだったが、点が入るとサッカーってこんなにも
面白いものなのか、と思った。
767:fusianasan
11/02/13 19:06:36
試合は前半終了間際。1-0で勝ってはいるが、試合の流れを考えるともう1点2点欲しいところだ。
「ここで取れたら、後が楽になるんだけどなぁ…」
ボクは思わず呟く。すると…
右サイドの福田がボールを持った。そのままサイドを駆け上がる。相手守備陣は中を固めることばかり意識していたのか、
ボールへの寄せが甘い。
福田はそのままゴール前まで上がるとグラウンダーのクロスを上げた。相手のゴールキーパーが弾く…そこへ。
「あんどれえええええええええ!」
詰めていた。アンドレがどこからともなくやって来て、こぼれ球に詰めた。2-0。追加点だ。
「やったぁ!」
ボクはまた徳永さんとハイタッチを交わした。溜めに溜めていたものを解き放つような感じで、ハイタッチが実に気持ちいい。
何も、徳永さんの手の感触が気に入ったからとか、そういう理由ではないのだ…多分。
768:fusianasan
11/02/13 19:07:16
試合はハーフタイムに入った。
「何か買ってこようか」
そう尋ねたボクは、徳永さんのリクエスト通りコーヒーを買って帰って来た。
「はい、どうぞ」
「ありがとございます」
相変わらず舌足らずな声。でも、何気なく彼女が手を伸ばした瞬間…
ボクは見つけた。見つけてしまった。
彼女の手の内側…手首に、いくつかの傷が残っていたことを。それも、ただの傷ではない。
明らかに、自分で『試みた』跡を…
769:fusianasan
11/02/13 19:07:49
「よし、ボクもホットドック食べようっと」
ボクは知りたかった。試合の内容などもうどうでもよくなった。徳永さんがなぜそのようなことをしたのか、
そしてそれが一度ではないのはなぜなのか…
ボクは知りたかったが、訊けなかった。さりげなく訊ける自信がボクにはない。せっかく仲良くなってきた
ところなのに、ここでヒビを入れたくなかった。
ボクは見なかったことにして、黙ってホットドックを口に頬張った。いきなり突っ込んだせいか、思わず
むせてしまった。
「…大丈夫、ですか?」
徳永さんが心配そうにこちらを見ている。ボクは心の中で呟いた。
「いや、キミのせい、なんだよ」
と。
(つづく)
770:fusianasan
11/02/13 19:09:17
|ω・) ということで、一日遅れで第二章が始まりました…
>>763
|ω・) ああ、言われてみたら確かにそうかもしれません<描写の目立ち
|ω・) ちょっと修正法を考えておきます…
771:名無し募集中。。。
11/02/14 01:34:04
千奈美に何が・・・
772:fusianasan
11/02/14 21:39:28
>>769
後半が始まった。前半で2点を取ったからどこか安心して見ていられる。サッカーで最も危険なスコアは「2-0」だというが、
相手はシュートチャンスすらほとんど生みだせない。
アンドレは後半半ばで下がったが、その後もスコアは動かなかった。そして、タイムアップを迎える。
「やったあーっ!勝った勝ったにぃー!」
徳永さんは大喜びしているが、ボクは嬉しい半面、心のどこかにさっきのことが引っ掛かっていた。
「やりましたね!勝ちましたよ!」
「う、うん…そうだね。よかったよかった」
ボクは努めて嬉しそうな顔をした。まあ、嬉しくないわけじゃないんだけど…でも…
773:fusianasan
11/02/14 21:40:11
その日の帰り道。
「ねえ、エキヨコ寄りません?寄ろうよー」
「そうだね。行こうか」
まだ彼女と別れたくない。できればもうしばらく一緒にいて、様子を見たい。この間感じた違和感にしても、
今日見た『手首の傷』にしても、彼女には見過ごせない謎の部分が多すぎる。
「この子には…絶対に何かある。誰にも言えないようなことなのかもしれない」
多分ボクの抱いた感情は間違ってはいないはずだ。その答えを一刻も早く知りたい。だけど、せっかく
築きつつある彼女との信頼関係は損ねてはいけない。難しいミッションだ。
難しいけれど…やるしかない。歩きながら、ボクはそんなことを考えていた。
774:fusianasan
11/02/14 21:40:47
『エキヨコ』に行くと、『ノッポさん』こと梅田さんが迎えてくれた。
「いらっしゃーい…あれ、今日は舞美いないの?」
ボクはわけを話し、コーヒーを二つ頼んだ…のだが、またしてもマスターがいない。そのことを訊ねると、
「ああ、マスターなら町内会の集まりに行っちゃった。呼んでこようか?」
「いや…いいです。コーヒー、頼んで大丈夫だった?」
すると、梅田さんはちょっと焦った表情になった。
「えーっと、あんまり自信はないけど…でも、まあ、やってみるんだよ!」
嫌な予感がする。結局ボクは、注文をオレンジジュース二つに変えることになった。
「ごめんねぇ…」
梅田さんはそう言ってはいるが、あんまり謝ってなさそうな感じである。まあ、飲めたもんじゃないコーヒーを
出されるよりはいいか、とボクは思うことにした。
775:fusianasan
11/02/14 21:43:24
ボクと徳永さんが並んで座る。その横に梅田さんがジュースを持ってきて座った。話題は自然と、今日の試合の話になる。
「そっか、○○くんもすっかりオレンジのとりこなんだね」
「…まあ、ね」
ボクは内心、そのことよりも徳永さんへの謎のことの方が気になっていたのだが、話が進んでしまった以上は合わせるしかない。
「でもいいなぁ…試合見に行けて。あたし、最近全然見に行けてないからなぁ」
「どうして?」
徳永さんが笑顔で訊く。梅田さんは苦笑いして答えた。
「毎日、ここでバイトだもん」
「毎日?学校は?」
今度はボクがそう訊ねると、彼女は苦笑いを崩さないまま、ポツリと呟いた。
「…辞めちゃった」
776:fusianasan
11/02/14 21:44:36
ボクと徳永さんは一瞬、言葉を失った。多分、マンガ風に言えばこの時、二人とも頭の上に「?」マークが出ていたことだろう。
「ど、どうして?」
「…それは秘密」
いつの間にか梅田さんが真顔になっていた。ボクらに視線を向けることなく、壁の方を見ている。
「なんでかは、秘密。別に、あなたたちは…知らなくてもいいことだし」
空気が重くなった。ボクはなんだかいたたまれなくなって、早めにお暇することにした。
「…千奈美ちゃん、行こうか」
ここでボクは敢えて意識して『徳永さん』ではなく『千奈美ちゃん』と呼んだ。何とかして、彼女をボクの行動に同調させたかったのである。
そのためには、もっと距離を縮めていかないといけない…とボクは判断した。それが正しいことなのかどうかは分からないけれど。
「えっ?…う、うん」
徳永さんは戸惑いながらもボクについて来てくれるようだった。
「じゃあ、また来ます」
「もう帰っちゃうの?…寂しいなぁ」
梅田さんはそう言ってくれたが、ボクの方が落ち着かない。とりあえず、店を出ることにした。
777:fusianasan
11/02/14 21:45:51
駅へと向かう道。
「ねえ、どうか…したんですか?」
徳永さんが不思議そうな顔でボクを見る。ボクの心中を察してはくれないようだ。まあ、仕方ないか。
「いや、何でもない…でもさぁ、あんなこと訊いちゃって…何か、居づらくてさ」
ボクの本音である。真顔で『知らなくてもいいこと』なんて言われたら、ちょっと気が重くなるのは当然ではないか。
「はぁ…」
「そうだ…徳永さんに訊きたいことがあったんだ。一つ、訊いてもいいかい?」
「何ですか?」
思い切って、今日ずっと気になっていたことを訊くべきか、訊かざるべきか…今ならまだ別の質問をして逃げられる。
さあどうしようか…
ボクは考えた。考えたといっても数秒しか考えるための時間はないけれど、その中で精いっぱい考えた。そしてこう言った。
「徳永さんの…連絡先、教えてくれないかい」
「なんだ、そんなことかぁ」
ボクがあんまりにも深刻そうな顔をしていたので、何を言い出すのかと思っていたらしい。彼女は一気に緊張がほぐれた顔になった。
そしてボクたちは電話番号とメールアドレスを交換し、駅でいつものように別れた。
「またねー」
手を振る彼女…その手首には確かに沢山の傷があった。
778:fusianasan
11/02/14 21:47:16
それからボクは、何度も徳永さんに『例のこと』を訊こうとして携帯電話を取っては、その度に思い直してやめていた。
関係にヒビが入るのが怖かったのである。
あるいは見なかったことにすればよかったのかもしれない。でもそれはできない。
だって、自分の目にウソはつけないから。
でも、どうやって訊けばいいのか正直分からない部分もある。彼女の機嫌を損ねないようなやり方を考えなくてはいけないが、
でもなかなか思いつくものでもないし…
(つづく)
779:fusianasan
11/02/15 03:02:03
なるほど。
イカせるテクが分かったよ。
さっそく実践してみようと思うお(*´∀`)
URLリンク(hirashaine.com)
780:fusianasan
11/02/15 23:00:30
>>778
あれこれ思案しているうちに、また二週間が経った。
今日はオレンジキッカーズの今シーズン最終戦である。おそらく徳永さんも、そして矢島さんもスタジアムにやって来ることだろう。
「今日、訊こう。今日が終われば来年まで試合はない。もしここでヒビが入ったら、それまでの仲だったと思えばいいんだ」
ボクはそう自分に言い聞かせて、スタジアムへ向かった。
すっかり風が冷たくなり、めっきり寒くなったが…スタジアムはいつもよりも人が多かった。この一戦にすべてがかかっていることを、
サポーターはみんな理解しているのだ。
昇格圏内である3位との勝ち点差は2。勝ちが絶対条件。勝って、同時刻キックオフの3位チームが負ければ昇格決定、引き分けなら
得失点差勝負だ。
ボクは試合のことがもちろん気になっていた。いたけれど、それと同じかそれ以上に徳永さんに「例のこと」をどうやって訊くかをずっと
考えていた。
781:fusianasan
11/02/15 23:01:55
「よっ!」
誰かに背中をポンと叩かれた。びっくりして振り返ると、矢島さんが立っていた。
「えらいねえ、私が『見に行こ』って言わなくてもちゃんと来るようになったんだ。感心感心」
「はぁ…どうも」
彼女は明るく話しかけてくれるのだが、ボクは『例のこと』で頭がいっぱいであった。
「どうしたの?元気ないじゃん」
「はは…まあ、大丈夫だよ」
自分でもいったい何がどう大丈夫なのか分からないが、とりあえず適当に取り繕ってスタンドに入る。
いつもの席に、徳永さんがいた。心なしか元気がない気がする。よく見ると、この間はなかったオレンジ色のリストバンドを
両手に巻いている。だから、手首の状態は確認できない。
「いよいよ今日だね…なんとかなるよ、きっと」
努めて明るく振る舞っているように見えるが…元気がないのは緊張からか、それとも他の理由か…
そして、試合は始まった。
782:fusianasan
11/02/15 23:02:25
試合中は『例のこと』を忘れることにした。とにかくオレンジキッカーズの勝利を願って、ボクら三人は声を張り上げ続けた。
しかし、攻めども攻めどもゴールが遠い。相手はすでに順位目標の特にないクラブなのだが、プレッシャーからか最後の最後で
詰めが甘い。
ボールポゼッションも、シュートの数も、決定機も全部オレンジキッカーズの方が上。でもゴールが生まれない。
選手を変え、フォーメーションをいじり、何とか得点、そして勝利を目指すオレンジキッカーズだったが、決めきれないまま、時間だけが
刻々と過ぎていく。
スコアレスのまま、試合は後半アディショナルタイムに入った。目安は4分。
「4分か…」
ボクは無意識のうちにストップウォッチを押していた。1分経過、2分経過、3分経過…
3分半を過ぎたところだった。
783:fusianasan
11/02/15 23:03:18
もう引き分けも負けも一緒である。オレンジキッカーズはパワープレーを仕掛けていた。前線に背の高い選手が全員上がり、
そこへロングボールを放り込む。
長身の小川のところにボールが飛んできた。キープする。外へ開いた福田へ。福田のクロスボール。
アンドレが待っている。ヘッドだ!
「あっ…!」
入ったかと思った。でもボールはゴールラインわずか手前で相手の頭に当たる。相手の頭に当たってクリアされたボールは
力なくゴールラインを割った。コーナーキックだ。
「最後のチャンスだね…」
矢島さんがポツリと呟く。ボクも黙ってうなずく。時計は3分50秒経過。おそらくこれがラストプレー。
アンドレがコーナーフラッグに向かう。サポーターの声がより一層大きくなる。ゴールキーパーまで上がってくる。とにかく
勝つしかないのだ、もう守ってなんかいられない。
アンドレがボールをセットした。左足を振り抜いた。中には6人が待っている。前田が合わせる。ヘッドだ!
784:fusianasan
11/02/15 23:04:08
…一瞬の空白の後、ボールはクロスバーを直撃して、そのままゴールラインを割った…
そして、主審の笛が、静まり返ったスタジアムに響き渡った。オレンジの選手たちは、倒れ込んだ…
785:fusianasan
11/02/15 23:04:59
三人とも言葉が出なかった。いや、出せなかったのかもしれない。力尽きたように放心状態となり、ただ座りこむだけだった。
しばらくして、ボクはようやく意識が戻った。そして、ふと横を見た。
矢島さんが、泣いていた。初めて見た彼女の涙。
ボクは―不思議なことに、この時は何も迷わず―彼女の肩を抱いた。彼女は何も言わず、ただ目の前のピッチを見ながら、
涙していた…
矢島さんの肩を抱きながら、ボクは反対側を見た。
徳永さんは泣いてはいなかった。ただ、呆然と座り込んだまま、起き上がれずにいた。彼女だけではない。周りを見ると、
似たような状態になっているサポーターの人がたくさんいた。声を出しているのは、ゴール裏のほんの一部だけだ。彼らは
声援、罵声半々の声を飛ばしている。
786:fusianasan
11/02/15 23:05:32
3位のチームは引き分けたが、オレンジキッカーズも引き分けた。勝点差2は変わらなかった。
4位。昇格することはできなかった…
すっかり暗くなってきた。今夜は身も心も…寒い夜になりそうだった。
(つづく)
787:fusianasan
11/02/15 23:06:09
|ω-) 業者に懐かれてしまったか…トホホ
788:fusianasan
11/02/15 23:20:14
ドンマイw
あまりいい読者じゃないかもしれないけどw読んでますよー
789:fusianasan
11/02/18 03:04:34
>>786
重い帰り道になった。結局、ボクは徳永さんに『例のこと』を訊くことがついにできなかった。彼女は『一人で帰れるから』と
スタジアムを出たところでボク、そして矢島さんと別れて帰ってしまったのだ。
一方、矢島さんといえば…
「大丈夫?」
「大丈夫…」
彼女はそう言うが、元気はない。こんなに沈んでいる彼女を見るのは初めてだ。ボクも内心どうしていいか困ってしまった。
「ごめんね…気使わせて」
「いいよ…行こうか」
「…うん」
彼女は小さく頷いた。少し声が嗄れている。どうやら、もう言葉を発するのにも疲れてしまったらしい。ボクは
―これまた無意識に―
彼女の手を握って、駅の方へ歩いた。
790:fusianasan
11/02/18 03:05:12
駅に着いた。あとはこれから電車に乗って、そこでお別れ、なのだが…
「もう少し、一緒にいて…いいかい?」
「…どうしたの?」
「何かさ…よくわかんないけど…今日はもう少し、一緒にいたいなって思ってさ」
ボクの本心だった。ここまで落ち込んだ彼女を…できれば肩だけではなく…思いきり、抱きしめたかった。
ボクの提案を聞いた矢島さんは少し考えていたが、小声でこう言った。
「約束…守ってくれるんだったら…」
「約束って?」
「この後のことは…誰にも言わないで。えりにも、ちぃにも、他の人にも。
…約束できる?」
「ああ、約束するさ。誰にも言わないよ」
ボクが言い出した以上、今更後には引けない。ボクも覚悟を決めて、約束した。
「じゃあ…いいよ。○○くんの…好きなところ、連れてって」
そして、ボクの選択肢から『家に帰る』が消えた。多分、彼女の選択肢からも、消えたはずだ…
ボクら二人は、家とは反対方向の電車に乗り込んだ。
791:fusianasan
11/02/18 03:06:00
あんまり降りたことのないような駅で、ボクたちは電車を降りた。そして、二人でご飯を食べることになった。
「何食べたい?」
「…何でもいいよ」
結局、ボクはパスタを食べることにした。彼女もそれに従って、ついてきてくれた。
二人でパスタを食べながら…しかし、サッカーの話はほとんどしなかった。お互い、したくもなかったのだろう。
ただ、矢島さんがボソッと呟いた一言が、ボクには強烈な印象を残した。
「こんなに悲しくても…辛くても…お腹だけは、減るんだね…人間って」
「…」
ボクには返す言葉もない。無言で頷くのがやっとだった。
792:fusianasan
11/02/18 03:06:31
食事を終えて歩いているうちに、ボクたちはいつしか迷い込んだらしい。周辺にはラブホテル街が並んでいる。
「ねえ…ここ…って…」
「…そう、みたい…だね…」
今なら、うまく口説けば傷心の彼女をこの中に導くことも可能な気がする。
でも…矢島さんとはこれからも同じ学校に通う関係だし…生徒会のこともあるし…
と、こんなところで突然現実的な話がボクの頭をもたげてきた。
「ねえ、一つ訊いていい?」
矢島さんが、ふと呟いた。
「何?」
「あの子…佐紀とも…こんなところへ、来てたの?」
「…え?」
いきなりそこでその名前を出すか…と内心思ったが、仕方ない。矢島さんは佐紀の友人なのだから。
というか、あの子、そんなことまで喋ってたのか…女の子の情報網、侮れないな…って、感心している場合ではない。
793:fusianasan
11/02/18 03:07:24
「いろいろ聞いたよ…どんなこと、してたか…
私にも、同じことしたいって、思ってるんでしょう?」
したくないわけはない。ボクだって男である。だいたい、学校内でも『とても美人で気立てがよい』と評判の女の子と
一夜を共にするなんて、男なら誰だってそれを望むものじゃないのかね…?
でも、それをストレートに曝け出していいものか…
ボクがそのことに悩んでいたら、先に彼女が口を開いた。
「分かってるよ…本当は、行きたいんでしょ?」
「…うん」
頷いてしまった。我慢しなきゃいけない、と思ってたんだけど。
「そう…○○くんは…正直だね…」
そう言うと、矢島さんはちょっとだけ空を見上げた。
…そして、呟いた。
「今日だけ、だからね。約束できる?」
「ああ…約束するよ」
はっきり、そう言えた。
「分かった…
今夜のことは、二人だけの秘密ね」
そして、ボクと矢島さん…舞美ちゃんは…意を決してそこへ入っていった…
(つづく)
794:名無し募集中。。。
11/02/18 07:46:23
舞美ともいよいよか・・・
795:fusianasan
11/02/18 21:47:11
>>793
部屋へと入ったボクたちは、すぐにヘナヘナと座り込んでしまった。プライベートな空間に入った途端、お互い緊張の糸が
プツリと途切れてしまったらしい。
言葉が出ない。何か話した方がいいとは分かっているが、体から言葉が出てこない。言葉を絞りだそうとすればするほど、
言葉を生みだすための細胞が絞めつけられたような感覚になる。苦しい。こんなに苦しい気持ちになるなんて…
今、自分は女の子とラブホテルにいるのだ。しかも、その女の子は『とても美人で気立てがよい』と学校内でも評判の女の子だ。
おそらく、同じ学校のたくさんの男が、彼女とこんな時間を過ごすことに憧れているはずだ。それをやっているボクが今、
ここにいる。
それなのに、心は全く持って晴れない。そして言葉が出てこない。
彼女を気遣う言葉も、優しく包み込む言葉も、愛の言葉も、何も出てこない。
ボクは自分で自分が悲しくなった。自分で彼女を誘い、この状況を作っておきながら…一体ボクは何をやっているんだろう。
796:fusianasan
11/02/18 21:48:25
「…先に、シャワー、浴びる?」
舞美ちゃんがそう言ったのは、この部屋にやってきて十分ぐらい経った頃だった。驚くべきことだが、それまでボクたちは
お互い一言も発せないままでいたのだ。
「…矢島さんは?」
「私は…まだいいよ」
そう言うと、彼女はポツリと呟いた。
「…ねえ、お酒…飲みたいな…」
「えっ?」
797:fusianasan
11/02/18 21:49:06
飲むも何も、ボクも彼女もまだ未成年である。真面目そうに見える彼女がそんなことを言い出すとは
思わなかったので、ボクは面食らってしまった。
「○○くん、買ってきてよ…コンビニ行ったら、多分バレないから」
「…はぁ…」
もしかして、ボクが酒を買いに行っている間に、彼女はここから逃げ出すつもりなんじゃないだろうか。
ボクはそんなことを考えた。
「分かった。買ってくるよ…でも、ここに、いてくれるよね?」
ボクがそう言うと、彼女は―疲れた顔ではあったが―笑ってくれた。
「大丈夫。私、そんなに信用できない人に…見える?」
「…見えないね…ハハッ」
ボクも小さく笑って、部屋を出た。
798:fusianasan
11/02/18 21:49:42
酒を買おうとしていることがもしバレたらどうしよう、とボクは内心ヒヤヒヤしていた。しかし、思いのほかあっさりと
買うことができた。身分証明書の類も一切いらないノーチェック。
「よかった…」
コンビニで応対したむさくるしい金髪の店員に、ボクは心の中でお礼を言った。でも、店を出てからも誰かに
見つかりそうな気がして、ボクは一人でホテルまで走った。
『自分がものすごく悪いことをしている』気分になって…心が、さらに暗くなっていく。
799:fusianasan
11/02/18 21:50:16
部屋に戻って、彼女にチューハイを渡した。ボクはウイスキーの水割りの入った小さな缶を開ける。
「…かん」
「…ぱい」
小さく二人で缶と缶をぶつけて、飲み始めた。舞美ちゃんはチューハイをあっという間に飲み干していく。
そんなことは予想していなかったから、ボクはまた、大いに驚いた。
ボクの表情が驚きに満ちたものになって、彼女を見ていたらしい。彼女はそれに気がついて、
「どうしたの?」
と訊ねる。
「いや、そんなに…お酒、飲めるとは…思わなかったから…」
正直な感想だった。ボクはウイスキーの水割りを少しだけ飲んで、もうそれでいっぱいいっぱいになってしまった。
800:fusianasan
11/02/18 21:50:46
「…多分、私…○○くんの思ってるような…人間じゃないと思う…」
舞美ちゃんが突然そう言った。ボクは意味深長すぎるその言葉を聞いて、思わず缶を落としそうになった。
「それ、一体、どういうこと?」
「…きっと、○○くん、私のこと…『品行方正な女の子』だって、思ってるだろうから…
でも、本当は違う…そんな人間じゃ、ないから…」
そう話す彼女の表情は、あの試合後の時と同じくらい、暗いものになっていた。
801:fusianasan
11/02/18 21:51:32
「多分ね、○○くんが…本当の私を知ったら、きっとガッカリすると思うよ…」
(つづく)
802:名無し募集中。。。
11/02/18 23:13:20
乙です!
昔狼のエロ小スレにも舞美で似たようなシチュエーションがありましたね
ここからの展開はどうなるかわかりませんが
803:fusianasan
11/02/18 23:33:31
自分の思ってる展開になるか?続きに期待
>>802
頼むsageてくだせえ
また業者が来てしまう
804:fusianasan
11/02/19 13:15:43
>>801
「…それは、聞いてみないと、知ってみないと、わからないから…」
ボクはそう言うのがやっとだった。今まで、ボクが見てきた彼女とは…明らかに別の舞美ちゃんが目の前にいる。
でも、『本当の私』って、何だろう。知りたい。でも知ってしまったら『ガッカリする』らしい。
それなら、知らない方が幸せなのかもしれない。だけど…
「…教えて、ほしい、な…その『本当の私』を…」
途切れ途切れに、ボクはそう呟いた。そして残ったウイスキーの水割りを一気に飲み干した。酒の力でも借りないと、
聞けないようなことかもしれない。
「…ごめん。少し、考えさせて…くれる?」
そう話す舞美ちゃんの表情は暗いままだ。そして…
グスン、グスンという声が聞こえた。そう、彼女は突然泣きだしたのである。
「ちょ、ちょっと…どうしたのさ?」
ボクは泣きだす彼女にそう訊ねたが、彼女は泣いたまま、一人で立ち上がると風呂場に行ってしまった。そして、入るなり
ドアを閉めてしまったのである。
805:fusianasan
11/02/19 13:16:31
部屋にはボクだけが残された。舞美ちゃんがいなくなり、一人になった途端、また何も言えない自分が帰ってきてしまった。
本当は、彼女を追いかけたいのだ。泣きやまない彼女を抱きしめたいのだ。だけど、この部屋に来た時のように、苦しい
気持ちになってしまった自分が帰ってきてしまって、ボクは動けなくなった。
「…」
体が重い。体の中にまるで鉛の重しを埋め込まれたようだ。そして、体の重さに比例するように心も重い。
傷ついた彼女に何もできない自分がもどかしい。いや、彼女を傷つけてしまったのは自分の行動にも責任があるだろう。
「誘わなきゃ、よかったんだ…」
試合が終わって、駅でそのまま別れていればよかったんだ。そうすれば彼女はそのまま家に帰れたはず。
いや、百歩譲って食事をしたところで別れていればよかったんだ。そうすれば、それ以上彼女を傷つけずに済んだはず。
なのに、ボクは自分の欲望を優先させて…こんなところへ…舞美ちゃんを連れてきてしまった…
ボクは一人、部屋で自分の行動を悔いていた。悔いたところでどうにかなることでもないのかもしれないが、それでも悔いていた。
いつの間にか、自分の目から涙があふれていることに気がついた。一人で泣いた。きっと部屋の向こうでは、彼女も同じように
泣いているのだろう。理由は…違えども。
806:fusianasan
11/02/19 13:17:18
しばらくして、風呂場の扉が開いた。
「…○○くん…いるんでしょう?」
舞美ちゃんの声が聞こえた。涙に暮れていたボクは、おもむろに体を起こした。
「…うん」
「…いいよ…入ってきても」
ボクは一人、風呂場に向かった。服を着たままで。
「やじま、さん…」
彼女は目が真っ赤になるまで泣いていた。その顔を隠そうともせず、ボクの方を見ている。
「○○、くん…」
ボクも同じように泣いていた。そして同じように彼女の方を見ている。
807:fusianasan
11/02/19 13:18:02
「…やじまさん、今日は、もう帰ろう…」
ボクはそう呟いた。
「ごめん。こんなところに連れてきて…ボクが悪かった…今なら、まだ電車があるはずだから…多分、帰れると思うから…」
彼女は何も言わない。何も言わないまま、ボクを見ている。
「…本当にごめんなさい」
そう言って、ボクは風呂場を出ようとした。後ろから声がした。
808:fusianasan
11/02/19 13:19:17
「…待って!」
後ろから体重がかかった。舞美ちゃんが…ボクの背中に…抱きついたんだ、と分かった。
「私…帰りたくない。ここまで来たら…もう帰りたくないよ…」
ボクの心はもう破裂寸前だった。いや、ボクに限らずどんな男でもそうだろう。
『とても美人で気立てがよいと学校内でも評判の女の子』が抱きついてきているのである。
これで興奮しない男なんていないはずだ…
でも、興奮する自分とは対照的に、この事実をどこかで冷静に見ている自分もいることに、ボクは気がついた。
「ちょっと待ってくれ。ここで彼女を抱いて、その後には何が残るんだ?気まずい関係のまま、これからまだ一年以上続く
学校生活を送るのか?いや、それ以前に千奈美ちゃんや、梅田さんとの関係はどうなる?一時の快楽に身を任せて、
自分を破滅させるなんて…愚かな話だ」
二人の自分が心の中で戦っている。そして、その勝敗の決定権はボクが握っている。
では、ボクはどちらを勝たせればいいのだろう…?
809:fusianasan
11/02/19 13:20:06
その戦いは、舞美ちゃんの一言で決着がついた。
「…ねえ、こっち…向いて?」
言われるがまま、ボクは彼女の方を再び向いた。ボクが何か言う前に、その唇を彼女の唇が…ふさいだ。
「ん…」
キスをした。それも普通のキスじゃない。舌が絡み合う、濃厚なやつだ。そう、かつて誰もいない海で佐紀と交わした、
あのキスのやり方だ。
「…まいみ、ちゃん…」
「…初めて、名前で呼んでくれたね」
そして、彼女は再びボクに抱きついた。
「…私、もう帰れないよ…今夜は…一緒にいて」
耳元で彼女がそう呟いた。
(つづく)
810:fusianasan
11/02/19 20:42:41.34
きたー
811:fusianasan
11/02/20 14:56:47.90
>>809
「…とりあえず、一度…風呂場から出ようよ…」
ボクがそう言うと、舞美ちゃんも小さくうなずいた。そして、二人は大きなベッドの上に座り込んだ。
「あんまり…趣味のいい部屋じゃ…ないみたいだね…」
「…うん」
これまた驚くべきことだが、ボクたち二人はここにきて、ようやくこの部屋の全体を見回したのである。
今まではお互い、そんなことをする余裕などなかったのだ。
812:fusianasan
11/02/20 14:57:21.68
「…さっきは、ごめんね。別に…○○くんのことが嫌いだとか、そういうことじゃないの…だけど…」
「だけど?」
「…やっぱり、今は…話せないや。ごめん、さっきのことは…忘れて?」
そう言って、舞美ちゃんは笑った。でも、その笑顔はどこか痛々しい。すごく『無理して作っている』感じがする。
「…分かった。やってみるよ」
正直、ボクには『忘れられる』自信がなかった。あんな行動をする彼女は今まで一度も見たことがないし、あれだけ
酷く泣いている彼女もやっぱり一度も見たことがない。それがボクの脳裏に強く焼き付いている。
その強く焼き付いたものを消去することなんて、簡単にはできそうもない…
813:fusianasan
11/02/20 14:57:57.31
「ごめんね…心配かけて…迷惑もかけて…」
「迷惑だなんて、謝るのはボクの方だよ…」
また会話が止まってしまった。その度に重たい空気を感じてしまう。ダメだ、こんなことじゃいけないんだ、と
ボクは何度も自分に言い聞かせるけれど、だからと言って何ができるのかといえば、結局何にもできないのも
確かなわけで…
「…ねえ…もう一回…キス、して」
「いいの?」
「嫌なら…最初から言わないよ…」
814:fusianasan
11/02/20 14:59:12.66
今度はボクから、彼女の唇を奪う。そのまま体重をかけるように、彼女の体をベッドに押し倒した。上になったボクの首の
後ろに彼女の両腕が絡み付く。押し倒されても彼女は唇を離そうとはしない。
「ん…」
ちろちろ、チロチロ…舞美ちゃんの舌が小刻みに動いて、ボクの口の中を舐め回す。
ん…何だこの感触…気持ちいい…
これ続けられたら、きっとボクは…舞美ちゃんの虜になってしまうだろう…
彼女の舌がボクの舌をつん、つんと刺激した。『自分にも同じことをしてほしい』というサインだと判断した。
ボクは彼女に同じことをする。
「ん…」
舞美ちゃんの表情がうっとりとしたものになっていく。それはいつもみんなの前で…彼女が見せる顔ではない。
明らかに『女の顔』だ。
そして、彼女はゆっくりと目を閉じた。
815:fusianasan
11/02/20 14:59:44.67
ボクは今、彼女を…確かに…感じさせている…
816:fusianasan
11/02/20 15:00:34.83
その事実を悟った時、ボクは頭の中で火花がスパークしそうなくらい興奮してしまった。
せっかくだから、もっともっと楽しもう。彼女とこんなキスができるなんて、一生のうちで一度あるかないか、かもしれないし…
ボクたちは…長く、長く、口づけをしていた。ようやく唇を離すと、ボクの唇の周囲には舞美ちゃんの、舞美ちゃんの唇の周囲には
ボクの唾液がたっぷりと付着していた。
「まいみちゃん…ボク…もう…がまん、できそうに、ないよ…」
下半身の疼きが収まりそうにない。今にも暴発しそうな『それ』を、ボクは必死に理性でコントロールしていた。でも、それにも
限界が近そうだということを悟った。
「まって…らくに…してあげるから」
(つづく)
817:fusianasan
11/02/20 22:31:51.32
続き気になる
818:fusianasan
11/02/21 21:08:34.13
>>816
舞美ちゃんがボクのベルトに手をかける。ベルトを緩め、ジーパンのボタンを外してあっという間に降ろすと、最後に残った
下着を何のためらいもなく脱がせていく。その流れはとても手慣れた手つきに思えた。
「もしかして…舞美ちゃんは…」
いや、彼氏がいても別に驚きはしない。こんな美少女に男っ気が全くないとしたらそれこそどうかしている。
でも…こんなに素早く手慣れた手つきってのは…もしかして…
「いつも、男とこんなことを…?」
そんなことが頭をよぎる。でも、あんまり考えている時間はなかった。というのは…
「…んはっ!ぁあぁ…」
舞美ちゃんがボクのそれを舌で愛撫し始めたからだ。久々に味わう…痛痒い感触。思えば、佐紀が旅立って以来、女の子と
こんなこと、してなかったなぁ…
上手に舌を使いながら、自分の顔をリズミカルに動かし、口の中は不規則に、ボクの『それ』に吸いつく動きを見せる…
彼女はいろんなテクニックを駆使してボクを責める。最初から既に暴発寸前だったボクのそれは、あっという間に限界点を
迎えようとしていた。
「や…やばいよ…で…る…!」
そして、ボクは彼女の喉へと白いエキスを大量に放出したのであった。
819:fusianasan
11/02/21 21:09:06.52
「んっ…!」
舞美ちゃんは、吐き出しはしなかった。出されたそれを、すべて飲んでしまった。それだけではない。
ボクの『それ』にもう一度顔を近づけると、少し残った白いものをゆっくりと吸い上げ、そしてそれも喉の奥へと収めていく…
顔と頭の中は快感の余波に浸っていたが、ボクは内心驚いていた。
舞美ちゃんがこんなに…淫靡な女の子だとは…思っていなかったのだ…
「多分ね、○○くんが…本当の私を知ったら、きっとガッカリすると思うよ…」
彼女のその言葉が、唐突にボクの頭の中でリフレインされた。ひょっとして、彼女の言葉はそういう意味だったのか…
820:fusianasan
11/02/21 21:18:33.63
「ごめんね…すごくいっぱい…出ちゃった…」
ボクの『それ』はまだ硬さを失っていない。出したばかりだというのに…まだ収まらないようだ。すぐにまた大きくなろうとしている。
「大丈夫…まだ、したいんでしょ?」
「…うん」
舞美ちゃんは、優しい、しかしどこか陰のある笑顔をボクに見せた。
欲望を剥き出しにしているボクを内心見下しているのか、
出したばかりなのにまだ硬さを失わない『それ』に呆れているのか、
それともただ男が好きではないのか…
とにかく、今からするであろう行為に対して、かなりネガティブなイメージを持っていると見える。
でも、ちょっと待ってくれ。ネガティブなイメージを持っているなら、今までの彼女の行動
―激しいキス、手慣れた服の脱がせ方、上手なフェラチオ―の説明がつかない。
「一体どういうことだ…?」
ボクは内心、疑心暗鬼になっていた。
821:fusianasan
11/02/21 21:19:12.91
「…いいよ…抱いて…」
舞美ちゃんはそう言うと、自らベッドに寝転がった。そして、下半身裸のボクの手を引き、ベッドの中へと誘う。
「…いいのかい?ボク…本気で…しちゃう…よ?」
自分の声が震えているのが、すぐ分かった。
「…いいよ。でも、今日だけ…だからね?
あと…避妊は…ちゃんとして」
「…わかった」
さすがはラブホテルである。ベッドにコンドームがしっかりとセットされていた。
「これ…使おっか?」
ボクがそう訊ねると、彼女は黙って頷いた。すべての準備は整ったようだ。
(つづく)
822:fusianasan
11/02/21 22:35:53.40
あっちでもこっちでもエロイシーンがキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!
823:fusianasan
11/02/22 22:12:28.42
>>821
ゆっくりと彼女の服を脱がせる。佐紀の時は…彼女は、かなりの恥じらいを見せていたが、舞美ちゃんはそんな様子をほとんど見せなかった。
あっという間に下着姿になった彼女は、ゆっくりと立ち上がると…ためらいもなく…ボクに一糸纏わぬ姿を晒した。
「ごめんね…あんまり、胸は…大きくないから…」
「いや、そんなの…全然…気にならないよ…綺麗だ…」
体育祭とかで、舞美ちゃんが運動神経抜群なことは知っていたが、なるほど、この体ならそれもそうだろうと納得させられる。彼女の体は…
女の子にしては珍しく…腹筋が綺麗に割れていて…腕も結構な筋肉質で…足もすらりと長く…それでいて、綺麗な色白の肌と整った顔立ち、
そして美しく整えられた黒い長髪のコントラスト。相反するような部分を併せ持つ彼女の体は、とても美しかった。
『学校でもトップクラスの美少女』という評判は、決して嘘ではなかったのである。
でも…
824:fusianasan
11/02/22 22:13:52.08
「…」
ちょっと驚いた。彼女のそこ…入口にはあるはずの黒々としたデルタがない。そして、覆い隠すもののない入口は…
佐紀のそれとは…少し形を異にしている。
「もしかして…」
ボクはこれが『二人目の相手』。だから、それが人それぞれによる形の変化なのか、それとも何度も男と交わってきた故なのか、
それを完璧に判断するのはまだ難しい。でも…ここまでの彼女の行動を見ると…『状況証拠』は、揃っている気がした。
『彼女は男と何度も躰をつないでいるが、何らかの理由で現在はその行為をあまり好んでいない。
そしてその理由は、いつも明るい彼女でも、あまり人に話したがらないようなことである』
そんな仮説を自分の頭の中で考える。でも証拠は何もない。知りたい。だけど知らない方が幸せかもしれない。彼女を抱けるならば、
そんなことどうでもいいような気もする。でも、これからの関係を考えるとやっぱり知っておいた方がいいようなことでもありそうだ…
いろんな考えが頭の中を巡っては消えた。
825:fusianasan
11/02/22 22:15:08.71
「…どうしたの?」
ボクは考え過ぎるあまり、動きが止まっていたらしい。舞美ちゃんが、心配そうにボクの顔を見ている。
「いや、ごめん。何でもない…ただ…」
「ただ?」
「…いいのかな、って思って」
ここまで来ておきながら、ボクは舞美ちゃんの体を見ていろいろ考え込んでしまったおかげで、いきなり後ろめたい気持ちを
持つようになってしまった。今更何を…と言われそうだけど。
「…まだ、そんなこと、言ってるの?」
舞美ちゃんは…ボクにそう言うと、ボクの体に強く抱きついた。ぎしっ、という表現が一番ふさわしい感じだ。そして、耳元でこう囁くのだ。
「ここまで来たら…もう…戻れないよ…男でしょ?覚悟、決めてよ…」
「…わかった。でも、本当に、後悔、しないよね?」
「…うん」
(つづく)