11/01/28 23:05:42
「…ありがとう…嬉しい」
佐紀の言葉は涙にかき消されそうだった。そして、その様子を見ているうちにボクも何だか目頭が熱くなって、
二人は一緒に泣いた。
ボクも佐紀も、間違いなくお互いがお互いのことを大好きで、お互いのことを求め合っていて、
それなのにそう遠くない将来、二人は引き離されようとしている…
ボクはそれが耐えられなかった。そんなの嫌だ、佐紀と離れるなんてできるわけない!
…何とかして、それを回避できる方法はないものか。回避が無理なら、せめて少しでも幸せな結末を迎えたい…
ボクはこの時決心した。絶対に佐紀をボクだけのものにする、と。
今思えば、バカなことを、と思う。でも、その時のボクにはそれが分からなかった。
涙顔のボクたちは…三度お互いを求め合って、抱きしめあって、そしてキスをした。もうこの段階ではボクの視界に佐紀以外の
何かが入ってくることもなかったし、たぶん佐紀も同じだっただろう、と思う。
お互いを求め合う時間がしばらく続いた。
その時間は、カン、という金属音で終わりを告げた。
「あ…」
抱きしめた勢いのあまり、佐紀がジュースの缶をベンチの下の地面へ落っことしてしまったのである。
倒れた缶から、残ったジュースが漏れ出ていく…ボクはそれを見て、なぜかとても悲しくなった。まるで自分たちの未来を
暗示しているかのようで…いやいや、そうなっちゃいけないし、そうなりたくもないけれど。
(つづく)