11/01/19 00:59:15
そんな彼女が、ある授業でボクの隣の席に座ることになった。
ボクは彼女の名前を知っている。同じ中学校だったんだから、もしかしたら彼女もボクの名前を知っているかもしれない。
でもあんまり話せそうにない。成績優秀(らしい)彼女はいつも丁寧にノートを取っては、授業が終わると大事にカバンに
しまっているのだった。ろくすっぽ勉強したがらないボクとはわけが違うようだ。
でも、先に話しかけてきたのは彼女の方だった。隣になって二回目の授業中のこと。
「あ、あの、シャーペンの芯なくなったんで、貸してもらえませんか?」
「あ?ああ、どうぞ」
たったこれだけと思うなかれ。一言だけの返事を返すのに、内心どれだけオドオドしたことか…
「はい」
シャーペンの芯の入った入れ物を丸ごと渡すと、彼女はちょっと驚いたようだった。
「え?一本でいいんですけど」
「いいよ、全部もらっときな」
思わず口走ってしまった。勢いに任せて。言った直後「しまった」と思ったがもう遅い。なあに、シャーペンの芯なんて
大した値段じゃないや、あげちゃえあげちゃえ、と自分に言い聞かせる。
「ありがと…ございマス」
彼女は照れながらボクにお礼を言った。照れてはいたが、こちらに向けた表情は、確かに笑顔だった。
「…!」
なんだ、なんだこの気持ちは。一体ボクの心に何の変化が起きたというのだ?
考えたが答えは出なかった。ただ胸だけが妙にドキドキし続けて…
そう、ボクはこの時、彼女に一目惚れしてしまったのである。
(つづく)
606:fusianasan
11/01/19 01:01:29
ということで、スタートしました(´・ω・)
こんな感じで、やたらめったら長くて会話文と「…」が多くて
しかもエロ成分が少なめの話が合計10本続きます
かなりのボリュームになることが予想されますので
読まれる際はくれぐれもご注意を(´・ω・)
なお、この話と骨格は同じ話ですが
エロ描写を控えめにしたVerを
URLリンク(yy21.kakiko.com)
↑こちらに連載しています
上のスレではこちらでは連載していない話も連載予定なので
もしよろしければ、ご覧ください(´・ω・)
607:fusianasan
11/01/19 02:15:49
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!!
10人ってことは℃-uteも出るのかな?
でもそれだと出てこないメンバーも・・・
608:fusianasan
11/01/19 03:35:00
wktk!!
609:fusianasan
11/01/19 21:48:31
>>605
それからは普通に彼女…清水さんと会話ができるようになった。優等生だからとっつきにくいのかと思っていたが、
話してみると結構フレンドリーな人だった。
時々、ボクが授業中に寝ていたりすると…
「ほら…○○君…寝ちゃだめデスよ、起きて起きて」
とシャーペンで脇腹を突っついてくれたりもする。
そして、授業が終わった後に、
「もう、しっかりノート取らないとだめデスよ、ほら」
と、自分が取ったノートを写させてくれるのであった。
ボクは彼女のそんな優しい部分にますます惚れ込んでしまっていた。でも、これまで女の子と付き合ったことのない
男の悲しい性…
どうやって彼女と仲良くなるか、どうやって彼女をデートに誘うかのアイディアが思い浮かばなかったのである。何とか
彼女と仲良くなって、一緒にデートに行ってみたい。でも誘い方が分からない…困った、さてどうするか。
ボクは高校生になって初めて迎える中間テストのことより、そっちの方で頭がいっぱいであった。悪友の力も借りながら、
何とか目標を達成しようとあれこれ考えていた。
ない知恵をすべてそっちに傾けた結果、中間テストの結果は散々だったのは言うまでもない。
でも、その努力は無駄ではなかった。中間テスト明けの土曜日に、ついにボクは彼女と初デートをすることになったのだ。
610:fusianasan
11/01/19 21:49:28
五月の三回目の土曜日、暑い日だった。ボクは駅の前で、彼女が来るのを待っていた。
「お待たせ。遅くなってごめんなさい」
十分遅れで、彼女が現れた。
驚いた。普段の制服を着たおとなしい彼女からは想像もできないくらい、オシャレな服を着ていたからだ。
黒を大胆にあしらった、カッコいい服だった。
「…どうか、しましたか?」
ボクがあんまりキョトンとしていたせいだろう、彼女が怪訝な顔をした。
「いや、何でもないよ。ちょっとビックリしただけ」
「何で?…私の顔、何かついて…ますか?」
「そうじゃないんだ。その…私服がすごくオシャレだったから」
本音だった。だって、普段は『優等生だけど地味』な女の子がこんなに変身するとは思わなかったから。
「ホントに?…ありがと」
彼女…清水さんはそう言ってはにかんだ。よかった。ちょっとずつでも彼女との『距離』は縮まってるみたいだ。
611:fusianasan
11/01/19 21:50:51
二人で電車に乗った。行き先は…電車で五つ先の水族館。この日が決まってから、ない知恵を一生懸命
絞りに絞って考えたデートコース。一応、事前にそれとなく彼女に大丈夫かどうか訊いてみたし、多分、
外すことはないだろう、って思ってはいるんだけど…でも、正直期待と不安が半々ってとこだろうか。
電車の中。本当は話したいことがたくさんある。しかし、それは阻止されてしまった。電車の中に人が多いのである。
「何か、人多いね…」
「うん」
「ごめんね、こんなに人多いと思わなかったんだ…」
「…いいよ。待つのは平気だから、気にしないで」
またドキッとした。今まで「ですます調」でしか喋ってくれなかった彼女が無防備に、タメ口で喋ってくれたのだ。
彼女が少しずつボクの方に近づいてくれているような気がして、ボクは内心とてもうれしくなった。
612:fusianasan
11/01/19 21:51:36
(´・ω・)っ(つづく)
613:fusianasan
11/01/20 00:00:25
きたー
614:fusianasan
11/01/20 22:14:19
>>611
電車が水族館の最寄り駅に着いた。ボクと彼女は歩道橋にある「動く歩道」に足を踏み入れようとした。
その時…
「あっ!」
よそ見でもしていたのか、彼女が足を乗せるタイミングを失った。バランスを崩した彼女の体が倒れかかる。危ない。
「!」
ボクは反射的に、手を伸ばして彼女の体を支えていた。特に何かを考えたわけではなく、本能で。
倒れかかった彼女の体を、ボクは見事に自分の腕の中に収めることに成功した。
「…ごめん。びっくりした?」
素に戻ったボクがそう尋ねると、彼女は首を小さく横に振った。
「ううん。ありがとう」
そう答える彼女の顔はしかしどこか恥ずかしそうで、頬が赤くなっていた。ボクもボクで、自分の反射的に取った行動に
驚いてしまい、その後のデートの記憶がまったくない。
確か…イルカを見て、ペンギンを見た記憶まではあるんだけど…それ以外はあいまい。
ただ、二人でソフトクリームを食べたことだけはよく覚えている。だって、そんな経験、人生初だったから。
615:fusianasan
11/01/20 22:15:14
帰りの電車の中。
「楽しかったね」
彼女が自らボクにそう言ってきた。ボクは内心、今にも跳び上がりそうなくらい嬉しかった。まあ、ここで跳び上がっていたら、
多分彼女にも、周りの人にも、白い目で見られることになっただろうが…自制心のありがたみを今日ほど感じたことはなかった。
「う…うん!」
ボクは精いっぱい自制していたつもりなのだが、全く自制になっていなかったようだ。声が明らかに上ずって、興奮してるのが
誰の目にも分かってしまうレベル。たぶん顔には『うれしい』の四文字がデカデカと描かれていたことだろう。いや、まったくもって
お恥ずかしい…
でも、彼女はそんな僕を見て態度を変えなかった。
「そっか。よかった」
そう言って、ニッコリと微笑んで、それで終わり。実に簡潔、実にシンプル。
もしも恋愛経験豊富な人なら、彼女のそんな反応で、彼女が内心どう思っているのかを察するのは容易なのだろう。でも、あいにく
ボクはそうではなかった。心の中で
「これってどういう意味なのかな」
「ボク、間違ったこと言っちゃったかな」
「引かれてるんじゃないよな?」
とまあ、いろんな疑問符が浮かんでは消えて行った。
多分あの時電車に乗り合わせていた人の中で、ボクが一番疑問符だらけの人間だったことだろう。
616:fusianasan
11/01/20 22:16:20
電車が駅に着いた。彼女とはここでお別れだ。
「今日は…ありがとう」
本当は、この後『また…会ってくれないか?』って言いたかった。でも言えなかった。それを言うと、自分が
"がめつい"人間に思われそうな気がしたから。
「こちらこそ…ありがと」
黒を大胆にあしらったオシャレな彼女は、頬を少し赤らめながらそう答えた…と、次の瞬間。
「ねえ…もし…よかったら…その…」
彼女が少しどぎまぎしながら、続けて話し始めた。もっとも、話し始めたその言葉は妙な空白が何度か
混在していて、しかも、電車の走行音や周囲の人々の発する声や音にかき消されそうなくらい小さなもの
だったけど。
「え?何?」
肝心なことが聞き取れない。ボクは意を決して聞こうとした…が、運悪くそこへ別の電車が到着し、キキーッと
いう大きな鉄の塊が擦れる音を残してくれたおかげで、ボクの声もまたかき消されてしまった。
鉄の塊が擦れる音が消えた時、ようやく彼女の声が聞こえた。でもそれは…
「…ううん、何でもない。また、学校で。じゃ、またね。バイバイ」
彼女はそう言うと、一度こちらに手を振って去って行った。一体、彼女は何を言おうとしていたのだろう。二回目の
デートのお誘い?それとも告白?はてまた…
ボクにはそのすべてがまだ謎のままだった。毎日のように使っているのに、この時ほど電車を恨めしいと思った
ことはない。多分これからもそうだろう。
617:fusianasan
11/01/20 22:16:59
家への道を急ぎながら、ボクは彼女の言いたかったことをまだ考えていた。一刻も早く確認したかったが、そうもいかなかった。
ボクも彼女も、携帯電話など持っていなかったからだ。『電話をかける』という行為はイコール『家への電話』ということになり、
それに彼女が出るという保証は一切なかったからである。さすがにそれをやる度胸は、ボクにはなかった。
ボクが携帯電話を持つようになるのはもう少し先のことだが…それはまた別の時代の話。
618:fusianasan
11/01/20 22:18:32
(´・ω・)っ(つづく)
(´・ω・)っ(ちょっとしたおねがい)
読まれた方は…少しでもいいので、何か感想やご意見ご要望などいただけると
非常にありがたいです
長ーい話になりますが、少しずつエロティックな方向に振っていきますので
もうしばらくお待ちください…(´・ω・`)
619:fusianasan
11/01/21 02:31:48
乙です!
新狼の方とどう変わっていくのかちょっと楽しみ
620:fusianasan
11/01/21 15:58:57
乙です
これから先が楽しみです。
621:fusianasan
11/01/21 21:54:15
これからの展開に期待!
622:fusianasan
11/01/22 01:05:10
>>617
その日の夜。
「ボクにしか見えない地図を 広げて一人で見てた…」
自分で言うのも何だけど、ボクはロマンチストだ。星を見るのが好きで、中学生の頃、親にねだって十何万もする天体望遠鏡を
買ってもらったこともある。小学生の頃は、電車で片道三十分もかけて、プラネタリウムへ出かけるのが好きだった。
好きなことは歳を取るにつれていろいろと変わったけれど、星を見ることは子どものころからずっと、好きだったことの一つだった。
星を眺めながら、ボクは一人いろんなことを考えていた。まあ、八割方が清水さんのことだったんだけど。
「あの子も同じ空をどこかで見ているのかなぁ…」
できれば、そうであってほしいな。
そしていつかは、二人一緒に同じ空を眺めていたいな。と思った。
623:fusianasan
11/01/22 01:05:57
その夜、ボクは夢を見た。
夢の中で、ボクは清水さんと教室で喋っていた。夢の中のボクは実に積極的で、彼女にキスを求めている。
「もぅ…誰か来ちゃったらどうするの…?」
そう言って尻込みする彼女を、ボクは笑って制した。
「いいじゃない。どうせ誰も来ないさ」
そしてボクは彼女の唇を求めるのである。尻込みしていた彼女だが、観念したように目を閉じた。
「ん…」
唇と唇を合わせ、舌と舌を絡ませる。唇を離すと、彼女の顔が紅潮していた。
624:fusianasan
11/01/22 01:06:47
「ねえ、『アレ』、やってくれないかい?」
ボクがねだると、彼女は素直に従ってくれた。座っているボクの前にひざまずき、ゆっくりと手を伸ばす。
「ん…おっきくなってる…ね」
「だって…これで興奮しないのは、男じゃないさ…」
彼女のひんやりとした手が、ボクのそれに触れた。
「これだと動かせないや…脱がせて、いい?」
「いいよ」
彼女自らボクの制服のズボンのベルトに手をかけた。ベルトを緩め、ボタンを外し、ズボンとその下の下着を
ゆっくりと引き下ろしていく。
「ふふ…おっきいままだよ?」
彼女のひんやりとした手が、再びボクのそこに触れる。やがてその手は、ゆっくりと上下運動を始めていく。
「あぁ…」
上下運動がだんだんとリズミカルなものになっていく。
「気持ちいい?」
「うん、すごく気持ちいい…」
ボクがそう言うと、彼女はニッコリと微笑んで、そして唇を手のところへ持っていき…
ちゅぱ…ちゅぱ…
いつの間にか、与えられる感覚がひんやりとした手の触感から、温かい舌の触感に変わっていた。
625:fusianasan
11/01/22 01:07:26
目を閉じて与えられる感覚に酔っていたボクであるが、ふと目を開けて下を見た。上目づかいでゆっくりと舌を動かしている
彼女と目が合った。彼女は微笑んだまま、舌の動きを続け…それに加えてゆっくりとかぶりを振り始めた。
与えられる感覚が甘いものから痛痒いものに変わっていく。
「出ちゃいそうだよ…出していいかい?」
ボクがそう訊ねると、彼女は小さくうなずいた。もう障壁はない。フィニッシュへ昇りつめるだけ…
「あっ…出るっ!」
…ん?
あ…?
…夢、か?
ボクは目が覚めた。そこには教室などなく、いつもと同じ寝室があるだけだった。当然、彼女の姿もない。
「やっちゃった…」
そこで、自分のパジャマの前が濡れていることに気がついた。そう、ボクは夢の中で果ててしまったのである。
ああ、何て恥ずかしい…
こんなことは、絶対誰にも言えるわけがないではないか…
一人でそそくさと後始末をする自分の姿が何とも情けなく思えた。
626:fusianasan
11/01/22 01:08:30
月曜日。ボクは努めて普段と変わらない素振り…をして学校へやってきた。でも、内心は『いつ、どこで彼女に思いの丈をぶつけるか』で
頭がいっぱいだった。その日の授業のことなんてどうでもいいくらいに。
「よう、何かソワソワしてんな。どうしたの?」
"努めて普段と変わらない素振り"を心がけたボクの努力は、数十分でムダになってしまった。悪友のこの一言で、ボクは自分がいかに
浮ついていたかを理解せざるを得なかったのである。
「おはよー」
級友たちとにこやかに談笑しながら、彼女がやってきた。でも、さすがに今は声をかけられない。堅いゾーンディフェンスを敷く女子ばかり
の空間に飛び込んでいけるほど、ボクはトリックスターではない。
結局彼女は授業が始まるまでずっと級友たちとしゃべっていた。動きようがなかった。
授業の間中、ボクは彼女に自分の気持ちをどう伝えようか、そればかりが気になって、授業が手につかないまま時間が過ぎていった。
…結局、そのままその日の全授業を棒に振ることになったけど。
627:fusianasan
11/01/22 01:09:21
放課後、夕焼けの時刻。家に帰ろうかと一人歩いていたら、彼女が校門の前を同じように一人で歩いていた。チャンス!
「清水さーん!」
ボクがそう呼ぶと彼女は振り返って、ちょっと驚いた顔をした。
「あ、あのー…この間はどうも」
もっと気の利いたことは言えないのか…と自分でも思うが、仕方ない。恋愛下手だから。
「ああ、○○くん。こちらこそありがとう」
彼女は少し疲れているようだったが、それでも笑ってくれた。
「よかったら…一緒に帰らない?ちょっと話したいことがあるんだ」
思い切って言ってみた。さて、彼女はどう出る?と思ったら、
「いいよ。でも、私、行かなきゃいけないところがあるから、駅まででいい?」
駅というのは、この間待ち合わせた駅ではなくて、学校の最寄り駅のことだ。となると、歩いて数分の距離しかない。
だけど、とりあえず彼女と一緒に帰れることになったのだ。だから、時間制限などボクにはどうでもよかった。
「うん、わかった。じゃあ、行こうか」
ボクと彼女は、駅に向かって歩き始めた。
628:fusianasan
11/01/22 01:10:02
「この間さ、最後に…電車が通って聞こえなかったんだけど、何か言おうとしてたじゃない?」
例の話を振ってみた。すると彼女は
「ああ…あれ?いいよ、大したことじゃないから…あれは忘れて」
と答えた。なんだか意味深だ。だけど、それ以上突っ込む勇気はなかった。
「そっか、じゃあ、ボクも忘れようっと」
そう言って笑うしかなかった。
ボクたちはもうすぐ駅に着こうかというところまで歩いてきていた。この踏切を渡れば、後は駅へ一直線だ。
「ねえ…お願いがあるんだけど」
「何?」
この時、彼女の心は無防備だった、ように思えた。
「もしよかったら、また、会ってくれないかな」
「学校の、外で?」
「うん」
思い切って言えた。彼女の目を見て、しっかり言えた…はずだ。これでダメなら、諦めるしかない。
…諦めたくはないけど。
629:fusianasan
11/01/22 01:10:51
「うん、いいよ」
OKが出た。ボクはこの時、またしても内心飛び上がりたいくらい嬉しかった。でもあくまで冷静に…
いられないよね、やっぱり。
「ホント!?いいの?」
「どうしたの?そんなに驚いて」
彼女はそう言うと、ボクの目を冷静に見据えて言った。
「いいよ、だって、この間、楽しかったし」
「ホントに!?」
またしても声が上ずるボクを見て彼女は怪訝な顔をしていた。まあ、そりゃそうだよね。でもしょうがない。
だって、ホントに嬉しかったんだから…
その夜は興奮して眠れなかった。おかげで次の日の授業は輪をかけてボロボロだった。
(つづく)
630:fusianasan
11/01/22 01:13:30
>>619-621
どうもありがとうございます(´・ω・)
ちょっとだけエロ要素が…やっとこ入ってこれました(´・ω・)
新狼に書いている話はエロ要素をある程度カットした話(これがオリジナル)で
このスレに書いている話はオリジナル版にエロ要素を加えたり、きつめのエロ描写を入れた話になってます(´・ω・)
当分先になりそうですが、このスレ用の話では出てくる登場人物も一部変更する予定です
(>>599でリクあったし愛理かな?)
いろいろとご感想をいただけて嬉しかったです
これからもどうぞよろしくお願いします(´・ω・)
631:fusianasan
11/01/22 02:05:09
乙です!
夢精とか青春だなぁw
632:fusianasan
11/01/23 00:11:05
>>629
その約束から二週間後。ボクたちは二度目のデートをすることになった。行き先は、前行った場所とは反対方向にある、
ショッピングモール。
「実はね、見たい映画があるんだ」
彼女がそう言ったのは、一週間前のこと。
「何の映画?」
「この間公開になって、見に行きたかったの」
「じゃあ、それを見に行こうよ」
彼女が見たいと言っていた映画を二人で見た。ハリウッドのラブストーリーだ。
清水さんは主演の女優さんがお気に入りらしく、まばたきをする時間も惜しむかのように見入っていた。
ボクはその横でポップコーン食べながら見ている。まあまあ面白い映画だった。
「楽しかった?」
「うん…とっても楽しかったよ」
「そっか、ならよかった」
その後は二人でお茶をして、ウィンドウショッピングを楽しんで…
まあ、いわゆる普通のデートってやつだ。多分、初回よりは落ち着いていられた、と思うし、彼女との会話も弾んだ、ような気がする。
633:fusianasan
11/01/23 00:12:08
その帰り道。
「話があるんだ」
今日どんな展開になろうとも、これだけは言おうと決めていたこと。もう覚悟はできていた。
「何?」
彼女が足を止めた。その前にボクが立った。
ここは行くしかない。
「ボク…清水さんのことが好きなんだ。
ボクと…付き合ってくれないか」
言った。言ってしまった。とうとう言ってしまった。もう後には戻れない。でも仕方ない。いつかは絶対に言わないと
いけない言葉だったんだから。
少し間があった。ボクは相変わらず彼女の顔を見つめていた。彼女は顔を赤らめながら、少し困っているようだった。
「…ど、どうしたの?」
結局ボクが先に口を割ってしまった。黙っておいた方がいいのかなぁ…でも、沈黙が流れ続けるのも、耐え難いものが
ある。仕方ないかな。
「ごめん、今まで言えなかったんだけど、私…」
634:fusianasan
11/01/23 00:12:59
??
え?何だこの展開?ひょっとして、他に彼氏がいるとか?だったら今までのボクの苦労はなんだったんだよ!!
ここまで期待させといて、そりゃないだろうよ…
とボクは勝手に心の中で思いかけていた。というか、こんな言い方をされたら、そう思うしかないではないか。
でも、あまりに酷いよなぁ…
と勝手に早合点していたら、話は全く違う方向へ展開していく。
「私、今まで男の人と付き合ったことがないから…だから、その、分からないことだらけなんだ。
だから、○○くんに迷惑ばっかりかけるかもしれないよ?
それでもいい?…
それでも、私でいいの?」
635:fusianasan
11/01/23 00:13:59
そう言うと、彼女は下を向いてしまった。顔が真っ赤になっていて、すごく照れているようだ。
ここはひとつ、男気のあるところを見せなければ…
「何言ってるんだ。ボクも付き合ったことなんかないよ。初めて同士、それでいいじゃん!」
これは、今でも『うまく言えた』、と思う。
「わかった…じゃあ、付き合おっか…
分かんないことだらけだけど、よろしくね」
「ホント!?」
「…うん」
か細い声だったが、今度ははっきりと聞き取れた。顔を赤らめながら小さくうなずいた彼女が、
たまらなく可愛かった。
「やったー!」
ボクが叫んだもんだから、ひょっとしたら周囲を歩いていた誰かが振り返ってこっちを見ていた
かもしれない。でも、この時のボクにはそんなことはどうでもよかった。多分この瞬間、世界中
探しても、ボクより幸せな人間はそうそう見当たらなかったに違いない。とにかくボクは、ついに
清水さんのハートを射止めたのである。
636:fusianasan
11/01/23 00:14:37
ボクと彼女は再び歩き出した。ボクはどうしてもやってみたいことがあった。恐る恐る彼女に訊ねてみる。
「…手、つないでも…いい?」
「…いいよ」
そう言うと、彼女はそっと自分の手をこちらに差し出した。
ギュッ。
その日の帰り道、駅について彼女と別れるまで、ボクはずっと彼女の手を握っていた。『偶然』ではなく
『お互いの意思』のもとに握った彼女の手は、小さかったがとても温かかった。
できれば、ずっと握っていたいと思った。
電車が駅に着くまでがとても短く感じられた。これほど短く感じられたのは多分人生で初めてだろう。
『もっと乗っていたい』って思うことなんて、そうそうあるもんじゃない。この間は『恨めしい』なんて
思っていたのに、全くワガママな奴だと自分でも思うけれど、でも、人生ってそんなもんだ。
駅に着いて、改札を抜けて、そこで手を離す。とっても名残惜しいけど…しょうがない。
「いいんだ、これから彼女といっぱい手をつなげる日が来るんだから」
とボクは自分に言い聞かせた。
637:fusianasan
11/01/23 00:15:41
「じゃあ、また学校で…今度会う時は、彼氏と彼女、だね」
「うん」
そう言って、二人で笑いあった。とても幸せな時間。
「今日はありがとう、清水さん」
「もう…付き合いだしたんだから、清水さん、って呼ばなくていいよ」
内心「そうなってほしいなぁ」とは思っていたが、さすがに先手を打つのはちょっと躊躇してしまった。
それを察してくれたのか、彼女が扉を開けてくれたようだ。
「そっか…ありがとう、佐紀」
言った。言ってしまった。とうとう言ってしまった。ついに彼女を…呼び捨てで呼んでしまった。
ああ、憧れだったことが次々叶っていく…ボクは自分の身に起こっていることがちょっと信じられなくなっていた。
でも、こっそりほっぺたをつねってみたら痛かった。どうやらこれは夢ではなく、実際に起こっていることのようだ。
「…改めて呼ばれると…恥ずかしいね。なんか…まあ、いいや。ありがと、××くん」
彼女…佐紀も下の名前でボクを呼んでくれた。もっとも、やっぱり『君付け』だったけど。
「じゃあ、またね」
「うん」
佐紀を見送って、ボクは家に帰った。そして、一人部屋に戻って窓を開けると、『ヤッター!』と叫んでしまった。
近所迷惑だったかもしれないが、この日に限っては、そんなことはどうでもよかった。
(つづく)
638:fusianasan
11/01/23 11:40:33
佐紀ちゃん可愛すぎるw
639:fusianasan
11/01/23 16:51:19
エロシーンじゃないんだがたまらん
640:fusianasan
11/01/23 20:58:05
>>637
その夜。彼女になった佐紀から電話がかかってきた。もっともこのことはボクたち二人だけの秘密なので、一応体裁上は
『クラスメイトとしてちょっと連絡したいことがあったので』という名目でかけてきたそうだが。
母親に電話がかかってきたことを告げられたボクは自分の部屋に転送してもらい、そこで電話を受けた。内心、ちょっと
出るのが怖かった。もし『やっぱりあなたとは付き合えない』とか言われたらどうしよう、と思っていたのである。
しかし、その心配は杞憂に終わった。
「今日は…ありがとう。私…なんかでいいのかなって思ったけど、すっごく嬉しかった」
「ホント?ならよかった」
ボクがそう言うと、佐紀は興奮した口調のまま、
「さっきね、家に帰って、友達のところに電話したの。で、『彼氏ができた』って言ったら、すごく驚かれて…
でも、『おめでとう』って言ってもらえたんだぁ」
「そっか。よかった、じゃあボクも勇気を出した甲斐があったってことだね」
「あ、あれ、勇気出してたんだ」
「そりゃあそうだよぉ。心臓が止まるかと思うくらい緊張したんだから!」
会話が楽しく転がり始めた。これなら何とかやっていけそうだ。
「じゃ、また明日学校で…おやすみ」
「おやすみ」
641:fusianasan
11/01/23 20:59:00
電話を切った時、ボクは自分の心に今までとは違う感覚が広がってきたことに気がついた。今までの興奮とは違う何か。
「これは一体何なんだろう」
しばらくして気がついた。そうだ、安堵感だ。彼女と付き合えたこと、うまくやっていけそうな感じがしたことへの安堵感だ。
ようやくホッとした気分になって、ボクは眠りについた。
ところで、佐紀が話していた『友達』とボクは、後に深い付き合いになるのだが…それはまた別の話。
(第一章 終)
『流れ星』 スピッツ-1999
URLリンク(www.youtube.com)
642:fusianasan
11/01/23 21:02:31
(´・ω・)っ(第二章 予告)
加速度的に惹かれあっていく『ボク』と佐紀
しかし、その恋は思わぬ形で横槍が入ってしまう
真相を明かす佐紀、それを知らされた時、『ボク』は
一体どうする?
(´・ω・)っ(明日以降連載予定…)
643:fusianasan
11/01/24 18:24:47
乙です
佐紀ちゃん可愛いです
続きがきになるー
644:fusianasan
11/01/24 22:29:47
第二章
―寂しがりの二人が あの夏の魔法の中で
同じ気持ちと同じ恋 分け与えられたのかな―
こうして、ボクと佐紀は付き合い始めたわけであるが…まあお互い、付き合うのは初めて同士だ。だから、分からないことだらけ、一歩一歩
手探りで進んでいくしかない。
それに、学校の中であんまりいちゃついてると周囲に何を言われるか分かったもんじゃない。だから、校内じゃお互い妙によそよそしかったり…
ボクとしては、本当は校内だろうが、どこだろうが思いっきりいちゃついてみたいのである。でもそうもいかない…のが、何とももどかしい。
「なかなか付き合うのも楽じゃないってことか」
と、ボクは自分で自分に言い聞かせた。
645:fusianasan
11/01/24 22:31:35
そんなある日の夕方。
「ねえ、今日は一緒に帰る?」
佐紀が珍しく訊いてきた。普段そんなことを言わない子なのに、どうしたんだろう。
「うん。でもどうしたの急に?」
気になって訊いてみると、
「実はね…××くんには言ってなかったんだけど…私、高校に入った時から習い事を始めたの。それで…
今日は放課後そっちに行かなくちゃいけないから…」
「へー、そうだったんだ。で、何の習い事?」
「ダンス」
「ダンス?」
「うん」
意外だった。おとなしい、典型的な文系少女だと思っていた彼女がそんなことをやっていたとは。でも、背の低い彼女には
結構向いていそうだ…って言ったら怒られそうだから、さすがにそこまでは言わなかった。
「だから、今日と木曜日は放課後会えないの。ごめんね」
「いいよ。毎日会ってたら悪いもんな」
本当は学校が終わってからだって、毎日会いたい。会いたいに決まっている。彼女に夢中になっているのだから当たり前の話だ。
でも、それは言えなかった。ボクは『物分かりのいい男』を演じてしまったのである。それがいいのか悪いのか、この段階ではまだ
分からなかった。
どういうわけか、ボクは心の中で胸騒ぎを覚えた。なぜ?自分でもわからなかったけど。
646:fusianasan
11/01/24 22:32:33
ボクの胸騒ぎを別とすれば、佐紀との恋愛はまあまあうまくいっていた。初めて同士だと、歯止めが利かない。付き合うまでに紆余曲折、
二転三転した分だけ、付き合ってからのボクたちはどんどんお互いに夢中になっていく。加減の度合いが分からないから、どんどん
加速していってしまうのだ。
最初の頃の堅さはどこへやら、ボクたちはあっという間に角が取れて丸くなっていく。丸くなって、お互いを求め合うようになっていき…
放課後。駅前のファーストフード店。
「ねえ、おいしい?」
「うん、おいしい」
寄り道して、二人してポテトを食べていた。佐紀の口にちょっと残っていた塩を見つけたボクは、
「あっ、ここに塩が残ってる」
と、指で取っちゃったりなんかしたりして…で、その指が勢い余って口に入っちゃったりして…
「チュプ…んん…これは、指だよぉ」
「あっ、勢い余っちゃった。へへ、ごめんね」
「もう…」
そう言いながら、佐紀は困った顔のまま、ボクの指をちょっとだけ舐めてくれた。何とも言えない快感があった。はて、ボクは指にも
感じるポイントがあるんだろうか。知らなかったなぁ…
『人前でいちゃつけない』とか言っていたのは昔の話、ボクたちはベッタベタな、周囲の人が見たらちょっと…いやかなり引くくらいの
関係になっていた。
恋をすると周りが見えなくなると言うが、まさにその通り。少なくともこの時間は、ボクと佐紀の二人しかこの世の中にいないような気分だった。
647:fusianasan
11/01/24 22:34:57
駅の改札口。
「じゃあ、ここで。また明日ね」
「うん。おやすみ…あっ、ちょっと待って」
ここまで加速度的に惹かれあう二人だったが、実はまだ、『あの日』以来一度も休みの日にデートできていなかった。
「ん?どうしたの?」
「なぁ、今度の日曜、どこか行かないか?」
「日曜?私はいいけど…でも、どこ行くの?」
「いや…まだ決めてない」
「えぇ?ダメじゃん!」
これで話はあっさり破談になりかけ…たが。
648:fusianasan
11/01/24 22:35:51
「佐紀は、どこか行きたいところある?」
「私?そうだなぁ…」
一瞬の間があった。そして、佐紀がボソッと言った。
「どこか、二人で思いっきり遠くへ行ってみたいなぁ」
意外な一言だった。佐紀は特定のどことは指定せず、ただ『遠くへ行ってみたい』、それも『思いっきり』遠くを願った。
一体どういうことだろうか。
「そっか…じゃあ、そうしようか。どこか探してみるよ」
「うん!楽しみにしてるね」
佐紀の真意がわからないで戸惑うボクと、嬉しそうな佐紀。この変なコントラスト。
649:fusianasan
11/01/24 22:36:23
木曜日の放課後。今日、佐紀はダンスの教室に通っている。一人になったボクは、久々に悪友と遊ぶことにした。
川沿いの公園で、ボクと悪友はしょうもない話をしていた。悪友はボクと佐紀とのことを聞きたがっている。もっとも、
興味本位なのは言うまでもない。
ボクは彼にどこまで話すべきか迷ったが、とりあえずこの間の一件を話してみた。すると、
「深読みし過ぎなんじゃねえの」
ボクの心境を思ってか、悪友がそう言った。
「そうかなぁ…今まで誰かと付き合ったことねえから、分からないんだよね」
ボクの本音。加速度的に夢中になってはいたけれど、それが本当にいいことなのかどうかは分からないのが本音だった。
「まあ、いいんじゃねえの。清水さんに嫌われてるわけでもないんだろ。ならいいじゃん」
悪友はそう言うと視線を宙に浮かせた。その視線の先には川が流れていて、その向こうの川岸で子供が遊んでいる。
「あの右側の女の子が可愛いな」
…なんだ。結局最後はそういう話かよ。ボクは彼に相談したことを内心後悔した。
(つづく)
650:fusianasan
11/01/24 23:31:44
乙です
651:fusianasan
11/01/25 21:47:30
>>649
日曜日の朝。少し暑い朝だった。ボクはいつものように駅の前にいて、佐紀を待っていた。
「お待たせ。ごめんね、遅くなって」
約束の時間から今回も五分遅れで彼女がやってきた。今日は白いワンピース姿だ。背の低…もとい、小柄な彼女によく似合っている。
「で、どこ行くの?」
「秘密」
ボクは佐紀に行き先を秘密にしていた…いや、秘密にしていたといえばカッコいいが、実は直前までどこに行くか決めかねていたのだった。
行きたいところは山ほどあるが、彼女の意向もあるし、何より明日は学校だから、確実に日帰りで帰れるところにしなければいけない。
「そうだ。海まで行ってみよう…か?」
「海?」
まだ本格的な海のシーズンには少し早い。でも、人の多いところにはあまり行きたくなかった。シーズン外なら、きっと人もまばらなことだろう。
「でも、私、水着とか持ってきてないし…」
「いいんだよ。海辺とか、散歩して…嫌?」
「…まあ、それでもいいけど」
どうやら、あんまり嬉しそうではない。まあそりゃそうか。だけど、『どこか遠くへ』と漠然と指定されても、正直どうしていいかわからなかったのだ…
とは言えなかった。
「まあ、とにかく行こうよ」
佐紀の手を引っ張って、ボクは駅から電車に乗り、バスに乗り換えて目的地を目指した。その先に何が待っているかは、まだ分からなかったけど。
652:fusianasan
11/01/25 21:48:55
バスの中はあんまり人がいない。ボクら以外の乗客は数人といったところか。
「ふぁぁ…何だか眠くなっちゃった」
佐紀は大あくびをすると、そう呟いた。そして、そのまま彼女はボクの横で眠り込んでしまう。
「Zzz...」
思えば、彼女の寝顔を見るのは初めてかもしれない。目を閉じたまま小さな顔をコクリ、コクリとやっている彼女の姿は可愛いとしか
言いようがない。『無防備な彼女』が、ボクの目と鼻の先にいる…
ボクはそれがたまらなく嬉しかった。
バスに揺られて一時間半。終点の駅に着いた。人影もまばらな終点は、電車も一時間に一本か二本しかないような小さな駅だった。
「誰もいないね…」
ここから電車で一駅か二駅も走れば港に着く。でも、いつ電車が来るかなんて調べてもいない。訊けばいいか、と思っても駅にも誰も
いないようだ。
「あと三十分かかるってさ」
佐紀が時刻表を見てポツリと言った。三十分くらいなら、待てないこともない。
「じゃあ、待とうか」
二人して誰もいない、そして誰も来そうにないホームのベンチに座った。
「ちょっと疲れたんじゃない?」
「ううん、さっき寝たから、大丈夫だよ」
そう言いはしたが、佐紀の目はまだ眠たそうだ。
「いいよ、もうちょっと寝てなよ」
ボクはそう言って、彼女の頭が乗れるように自分の肩を少し下げてやった。
「じゃあ、もうちょっとだけ…寝てていい?」
彼女はその肩に頭を乗せて、そして再び目を閉じた。
653:fusianasan
11/01/25 21:49:36
そのまま少しの時間が流れた。電車の来ない駅はまるで時間が止まったかのように静かだ。
ボクの耳に聞こえるのは時々やって来る鳥のさえずりや羽音と、ボクの肩に載っている少女の寝息だけである。
そんな時間が続いているうちに、ボクは何だかこの世界が二人しかいないような錯覚にとらわれてしまった。何せ、
あたりを見回しても誰もいないし、誰か来る気配すらないのである。
「ふぇ…ふぁぁ…」
佐紀が目を覚ました。どうもボクの肩が無意識のうちに動いてしまい、それで目を覚ましてしまったようだ。
目を覚ました彼女は半分寝ぼけ眼のまま、『どうしたの?』という感じでボクの顔を見る。その表情が…
ボクの心に火をつけた。つけてしまった。
だって、その表情はボクが今までの人生の中で出会った…どんな人よりも可愛らしかったから。
ボクは黙って彼女を抱きしめ、そして唇を求めた。彼女は一瞬驚いたようだったが、ボクの無言の要求を受け入れた。
唇と唇が触れた。それも一瞬ではない。ゆっくりと続いていく口づけ。
いや、時間にしたらそんなに長いことではなかったのかもしれない。でもボクにはその時間がとてもとても長く感じられた。
そして、長く続ければ続けるほど、自分と彼女の心を通わせられる、と思っていたのだった。
それが正しいのかどうかは分からないけど。
654:fusianasan
11/01/25 21:50:49
唇を離すと、ボクたちは我に戻ったかのように体を離した。
「ごめんね、急に…」
「ううん、気にしないで…ちょっと、びっくりしただけだから」
ボクはいきなり、今まで気にも留めなかった周囲の様子が気になってきてしまった。まあ、見渡す限り相変わらず
誰もいないことには変わりないんだけど…でも、誰かに見られてなかったかとか、誰か通ったらどうしようとか、
そんなことが気になってきてしまって…
我ながら実に小心者だと思う。でも、なかなかこういう部分は直りそうにない。
「キス、しちゃったね…ごめんね」
「…」
佐紀は何も言わなかった。何も言わず、ただ下を向くだけだった。
ボクの発作的な行動は、彼女が望んだこととはかけ離れていたのだろうか。『ボクしか見えてなかった』というのは、
ボクの勝手な思い込みだったんだろうか…
会話がないまま、いつしか電車がやってきた。ボクたちは、黙ってその電車に乗り込んだ。電車の中でもほとんど
会話がなかった記憶がある。
窓越しに見える海岸線。人気もまばらなその景色はまだどこか重たそうで、まるでボクの心の中を描き出したようだった。
655:fusianasan
11/01/25 21:51:30
二駅先の駅にボクたちは降り立った。ここもやっぱり人のいない場所だった。
「行こうか」
「…うん」
佐紀が小さくそう言った。少しは愁眉を開いてくれたのだろうか。ボクたちは駅から歩いて、海岸沿いを目指した。
「ねえ…怒ってる?」
「何が?」
「さっきのこと」
ボクは恐る恐る訊いてみた。答えを聞くのが怖いような…でも答えを聞かないと先に進めないような…複雑な気持ちだ。
「怒ってないよ…別に」
佐紀はそう言うが、声はどこか元気がない。まあ、今日、ずっとなんだけど。まるで、付き合う前に戻ってしまったみたいだ。
それはなぜ?ボクが悪いのか?だとしたら、どうしたら元に戻ってもらえるんだ?
謎ばかりが増える。でも、それをいちいち彼女に訊くわけにもいかない。だから余計に気が重くなって、空気まで重くなるんだ。
ああ、なんて悪循環。
656:fusianasan
11/01/25 21:52:03
でも、まだボクは知らなかった。彼女…佐紀が、もっと重大な問題を抱えているということに。
そして、その問題にボクも無関係ではいられないということに…
(つづく)
657:fusianasan
11/01/28 22:59:25
>>655
二人で海岸沿いの公園にたどり着いた。佐紀をベンチに座らせて、ボクは一人で歩き、自販機で二人分のジュースを買った。
「お待たせ」
ジュースを渡して、ボクもベンチに座る。目の前には海が広がっていて、時々海からの風がボクらに涼しい空気を運んでくれる
…そんな景色。
「ねえ、少しだけ、話したいことがあるの…聞いてくれる?」
佐紀がそう言ってきた。佐紀が今日一日、ずっと冴えない様子だったのはこの話のせいなのだろうか…ボクはただならぬ雰囲気を
察して、向き直った。
「実はね…ちょっと、話が来てるんだ」
「何の話?」
佐紀が次に言った言葉を、ボクは終生忘れることはないだろう…きっと。
658:fusianasan
11/01/28 22:59:55
「…引っ越さないか、って話」
659:fusianasan
11/01/28 23:01:30
ボクは驚きのあまり、ベンチから転げ落ちそうになった。一体どういうことなのか。
「実はね、パパが転勤になりそうで…で、家族みんなで引っ越さなきゃいけないかもしれないの」
「…それ、いつのこと?」
「夏休みの間には決まると思う…」
「…どこへ行くの?」
「神奈川」
遠い場所だ。ボクが会いたいと思っても、おいそれと会いに行けるような場所ではない。
「…」
ボクは何も言えなかった。こんな時、一体何を言えばいいのだろう。
660:fusianasan
11/01/28 23:02:24
「××くんのことは好きだよ。ホントに好き。大好き!
だけど…」
「…だけど?」
「私一人じゃ、どうにもならないこともあるから…」
そう話す佐紀の顔は曇って、今にも泣きだしそうだ。
「ごめんね…今日は…そのことを…どうやって言えばいいのかなって、ずっと考えてた…
機嫌が悪かったとか、怒ってるとか、そういうことじゃないの…
ただ…どうやって言えばいいのか分からなくて…考えてただけなの…
ホントに…ごめんなさい」
謝られても、ボクはどうしていいかわからない。そもそも、彼女が謝る必要があるのだろうか。いや、きっとないはずだ。
そう、これはボクにも彼女にも手が出せない、どうしようもないことなんだ、きっと。
だけど…ボクは…そんなの…
661:fusianasan
11/01/28 23:04:02
「ねえ」
泣きそうな顔の佐紀が、ボクに囁いた。
「もう一回、キス、して」
「…いいの?」
さっきは何かの弾み、衝動から来るものだった。だからお互い夢中だった。だけど、今は違う。二人の心の中は、さっきとは
比べ物にならないくらい重くなっているはず。なのに、佐紀はボクにまたキスを求めてきた。いいんだろうか…
ボクの問いに、佐紀は何も言わず、小さく頷いた。こうなると断る理由はない。ボクは彼女をそっと抱きしめた。
さっきよりは、上手にできた、と思う。
「…」
佐紀が唇を求めてきた。黙ってそれに応じる。佐紀から仕掛けられたキス。
優等生の彼女がこんなことを…ボクに…
さっきの一件のせいでまだ頭は混乱していたが、正直、ボクはとても興奮してしまった。
「また…キス…しちゃったね」
佐紀の顔は真っ赤になっていたが、でも、ほんのちょっとだけ涙が流れていたのを、ボクは見逃さなかった。
「佐紀…大好きだよ。世界で一番…一番、一番、好きだよ」
ボクの本心だった。嘘も偽りもお世辞も何もない。百パーセント、混じり気のない純粋な感情。それをありのまま佐紀にぶつける。
今まではどこかでセーブしていた部分があったかもしれない。でも、もうそんなのはやめてしまえ。
いいじゃないか、好きな人に『好き』と言って、何がいけないというんだ…
662:fusianasan
11/01/28 23:05:42
「…ありがとう…嬉しい」
佐紀の言葉は涙にかき消されそうだった。そして、その様子を見ているうちにボクも何だか目頭が熱くなって、
二人は一緒に泣いた。
ボクも佐紀も、間違いなくお互いがお互いのことを大好きで、お互いのことを求め合っていて、
それなのにそう遠くない将来、二人は引き離されようとしている…
ボクはそれが耐えられなかった。そんなの嫌だ、佐紀と離れるなんてできるわけない!
…何とかして、それを回避できる方法はないものか。回避が無理なら、せめて少しでも幸せな結末を迎えたい…
ボクはこの時決心した。絶対に佐紀をボクだけのものにする、と。
今思えば、バカなことを、と思う。でも、その時のボクにはそれが分からなかった。
涙顔のボクたちは…三度お互いを求め合って、抱きしめあって、そしてキスをした。もうこの段階ではボクの視界に佐紀以外の
何かが入ってくることもなかったし、たぶん佐紀も同じだっただろう、と思う。
お互いを求め合う時間がしばらく続いた。
その時間は、カン、という金属音で終わりを告げた。
「あ…」
抱きしめた勢いのあまり、佐紀がジュースの缶をベンチの下の地面へ落っことしてしまったのである。
倒れた缶から、残ったジュースが漏れ出ていく…ボクはそれを見て、なぜかとても悲しくなった。まるで自分たちの未来を
暗示しているかのようで…いやいや、そうなっちゃいけないし、そうなりたくもないけれど。
(つづく)
663:fusianasan
11/01/28 23:07:24
|ω・) 誰もいなくなっちゃった… 読者さん、いなくなっちゃったのかな…残念(´・ω・`)
664:fusianasan
11/01/29 00:45:45
おつです。
エロシーン期待してます。
665:fusianasan
11/01/29 23:39:00
>>662
「行こうか…」
「…うん」
どこに行くかも決めていない。いつまでいるかも決めていない。決めていないことだらけだけど、ボクは佐紀の手を握って海岸線を歩きだした。
時々、波がボクらの足元までやってくる。
「きゃっ!」
予想よりちょっと大きな波が来たのか、佐紀が波に足をすくわれたような形になった。体がボクの方にゆらり、と崩れてくる。
「!」
ボクは…我ながら見事に受け止めてみせた。
「ごめん…大丈夫?」
「大丈夫」
ボクの腕の中にしっかりと佐紀の体が収まっていた。
「…また、やっちゃったね」
佐紀は顔を赤らめながらボクにそう言った。さっきから自分が何かとヘマばかりしていて申し訳ない、と思っているのだろうか。ボクにとっちゃ
ヘマでも何でもないんだけど。だって、その仕草一つ一つがとっても素敵で、愛らしくて、たまらなく愛おしいのだから。
「いいよ…だって」
「だって?」
「佐紀のことが大好きだから」
666:fusianasan
11/01/29 23:39:53
我ながら、歯の浮くようなことを言っている。ボクの周りの人間が見たら、きっと笑い転げながら、お前、頭がおかしくなったんじゃないか、
と言うだろう。でも、そんなことはどうでもよかった。
また…これ以上ないくらいに顔を赤らめた佐紀にそっと顔を近づけ、キスを求める。
「もう…××くんはホントに、キスするの好きなんだね…」
佐紀がちょっと呆れたように笑った。
「そうかもね。自分でもここまでだとは、気がつかなかったよ」
ボクはそう答えた。本音である。付き合い始める前までは、自分がこれだけ能動的に求める人間だとは思いもしなかった。今も多少の
羞恥心はあるが、夢中になる気持ちの前には勝てそうもない。それほどまでに、ボクは佐紀が…好きで好きでたまらないのだ。
「いいよ。私のこと好きでいてくれるのは、やっぱり嬉しいもん。私でいいんだったら…」
そう言うと、佐紀は一瞬間をおいて…つばを飲み込んで…続きを話した。
「好きなだけキスしていいよ。もう…怖くないから。大丈夫だから。××と一緒なら…大丈夫だから」
そして、佐紀はゆっくりと目を閉じ、ボクの唇を受け入れた。それだけじゃない。今度は…
お互いの舌が絡むような、熱いくちづけ。
足元に冷たい水が来たが、ボクたちはもう気にもしなかった。
667:fusianasan
11/01/29 23:41:34
歩いているうちに一軒の小屋が見えた。どうも、判断するにまだ営業開始前の海の家か、その残骸のようだ。辺りには誰もいない。
「ねえ、ここ、入ってみよっか?」
ボクは佐紀にいたずらっぽく訊いてみた。
「いいのかなぁ…怒られたり、しないかな?」
「そうなったら、ボクが謝るから…ね?」
渋る佐紀を強引に丸めこんで、ボクはその小屋に入った。中には誰もいないし、カメラの類もないようだ。
誰もいないから当たり前だけど、小屋には何もない。埃をかぶった机や椅子と、これまた埃をかぶった畳の敷かれた空間が
あるだけだった。
ボクたちは埃を振り払って、畳の上に座った。
「ねえ、一つだけ…訊いてもいい?」
佐紀がボクに訊ねてきた。
668:fusianasan
11/01/29 23:42:15
「何?」
「さっきの、ことなんだけど…」
佐紀が引っ越すとか、引っ越さないとかの話である。
「もし、ホントに引っ越すことが決まったら…その時は、ちゃんと報告するから…真っ先に、××に言うから…」
そう言うと、佐紀は小さな声で呟いた。
「私のこと、嫌いにならないで…くれる?」
意外な言葉だった。どうしてボクが佐紀を嫌いにならなきゃいけないのだろう。そんな…ことで。
「どうしてさ、嫌いになるわけないじゃん」
「だって、引っ越したら、学校で会ったり、デートしたり、できなくなるし…
電話だって…できなくなるかもしれないんだよ?
…それでもいいの?」
そういうことか。確かにその通りだ。お互い携帯電話を持っていないこともあり、ボクらは電話で話す機会さえ満足に得られなかった。
佐紀が引っ越せば、ボクらの恋も終わってしまうのだろうか…
理屈の上ではその可能性は高いことぐらいボクでもわかっていた。でも、今の二人には、その選択肢を選ぶことなどできない。
「大丈夫だよ…きっと」
本当は「大丈夫だ」とはっきり言い切りたかった。言い切ってしまいたかった。でも、それを言い切れないのが…
ボクの心の中のどこかに残っていた不安の表れ、だったのかもしれない。
669:fusianasan
11/01/29 23:42:57
「ホント?信じて…いいの?」
「信じていいよ。信じてくれよ」
ボクがそう言うと、佐紀はボクの体に抱きついてきた。
「嬉しい…××のこと、好きになってよかった…」
ボクはそのまま畳の上に寝転がった。ボクの腰の上に佐紀が乗っている形になる。そして、佐紀がそこからボクの体の上へ倒れ込んできた。
「上に乗っかっちゃったね」
「重たくない?大丈夫?」
「大丈夫だよ」
670:fusianasan
11/01/29 23:43:48
彼女の重み自体は別にさしたる問題ではなかった。むしろ問題だったのは…ボクの下半身が…
その…
疼いていることの方で…
「ねえ…これ…」
「ん?何?」
佐紀が何を言いたいか、本当はボクも分かっているのだけれど、わざと知らないふりをした。
「…あたっ…てる…」
「何が?」
「だから…その…」
佐紀は明らかに言いづらそうだ。まあ、そりゃ、そうだろう。あっけらかんと言われてしまったら、こっちもどうしていいか困る。
「何が当たってるの?」
ボクが訊き直すと、彼女は意を決したように一度小さく呼吸を整えて、そして呟いた。
「××の…おちんちんが…私の…太ももに…当たってる…よ」
そう言う彼女の顔は真っ赤になっていた。よほど恥ずかしいのだろう。
671:fusianasan
11/01/29 23:44:34
「やっぱり、分かっちゃったか…」
「分かるよ、そりゃあ…」
下を向き、恥ずかしそうに呟く佐紀に、ボクはあるお願いをしてみることにした。
「ねえ、触ってみて欲しいって言ったら…怒る?」
「…え?何を?」
「佐紀の太ももに、今当たってるものさ」
ボクがそう言うと、佐紀の目がこれ以上ないくらい大きくなり、『何を言い出すんだ』と言わんばかりの表情になった。
「…本気?」
「うん…佐紀がおっきくしてくれたから、佐紀に鎮めて…もらいたいなぁ」
当たり前だが、こんなことを女の子におねだりしたことなんて今まで一度もない。にもかかわらず、ボクは心の中で、佐紀の表情が
困れば困るほど不思議な余裕が芽生えてくるのを感じていた。
「…わかった。でも、誰にも言わないでよ?」
困り果てた顔で彼女が呟く。ボクは笑いを噛み殺すのに必死だった。
「言わないよ、言う必要がないじゃんか」
ボクがそう言うと、佐紀は観念したように…そっとボクのベルトに手をかけた。
672:fusianasan
11/01/29 23:45:31
ベルトを緩め、ボタンを外し、ファスナーを下ろし…
そこで佐紀がポツリと言った。
「すごく…おっきくなってる」
布越しに彼女の手が触れた。そして、その手は布を下ろし、露わになったそれに直に触れていく。
「もしかして、男の人の…見るの、初めてだったりする?」
「…うん」
彼女は小さな声でそう答えた。顔は真っ赤で、今にも火が出そうな感じだ。
「じゃあ、手で、上下に、しごいてみて…くれる?」
「…こう?」
彼女の手がゆっくりと動き、ボクのそれをしごいていく。甘美な感覚がボクを包む。
「あぁ…気持ち…いぃ…」
673:fusianasan
11/01/29 23:46:32
体が甘美な感覚に包まれれば包まれるほど、だんだん意識が遠くなっていく。そして、数分経って…
「ひゃっ!」
ボクが果てるのと同時に、佐紀が悲鳴を上げた…放出されるところを見るのも当然初めてだったわけで…
彼女はかなり驚いていたようだ。
「すごい…いっぱい…出た…ね」
「ビックリさせちゃったね…ごめんね」
ボクが謝ると、彼女はティッシュでボクの放出した『それ』を拭き取りながら…笑ってかぶりを横に振った。
「ううん…大丈夫…気持ちよくなって…くれたんでしょ?なら…よかった」
そして、ボクらは再びキスを交わすのであった。
674:fusianasan
11/01/29 23:52:54
そのままボクと佐紀は小屋の中で二人…『いちゃついた』時間を過ごした。
帰りのバスで、佐紀はやっぱり眠り込んでしまった。ボクは彼女の手を握ったまま、一人で窓の外を見ていた。
こんなにうまくいっている二人が…引き離される日がやってくるのだろうか。もし本当にそうなってしまったら、ボクは一体
どうすればいいのだろうか…
考えても仕方のないことを、ボクはただ考え続けた。そのうちに、だんだんと気持ちが悲しくなってきて、車内に視線を
戻すと…
佐紀が穏やかな寝顔で眠っているのが見えた。彼女のそんな姿が、また愛おしく思えた。
(第二章 終)
『夏の魔法』 PEPPERLAND ORANGE-1998
URLリンク(www.youtube.com)
675:fusianasan
11/01/30 00:03:50
(´・ω・)っ(第三章 予告)
『ボク』と『佐紀』は、とうとう『初めての日』を迎える
残り少ない時間を惜しむかのようにお互いを求め合う二人
そして、やって来る旅立ちの日
『ボク』と『佐紀』の運命は…?
(´・ω・)っ(明日以降連載予定…)
676:fusianasan
11/01/30 19:47:02
乙です
ついに・・・
677:fusianasan
11/01/30 20:29:31
第三章
―あいたい 今の君は どんな場所で 暮らしてる―
本格的な夏がやってきた。学校の中じゃ野球部の県大会を応援に行く人もいるようだが、ボクは行かなかった。
別に特に行く理由もないし。
かといって、期末試験に備えて勉強しようなんて立派なことを考えるわけでもなく…
ボクはただ、考えていた。考えてもどうなるわけではないことを、ただ考えていた。
「お待たせー。ごめん、待った?」
この笑顔の主が、もうすぐボクの前からいなくなってしまうかもしれないのである。
いや、「いなくなってしまうかもしれない」って表現は的確じゃない。「いなくなってしまう」確率は残念ながら
かなり高い。
678:fusianasan
11/01/30 20:30:47
「それまでに…ボクは…」
何をすべきで、何をすべきでないのか。彼女のために、一番プラスになる選択肢はなんだろう。
どんなにいろいろ考えても、決まった答えが出るわけじゃない…数学の授業のように、決まっていてなおかつ正しい答えが
出せるものならどんなに楽だろう。でもそうもいかない、のが悲しい。
「…ねえ、ねえったら!」
「…あ、ごめん、どうかした?」
どうやら、ボクが意識をほかに向けている間に、彼女はボクにずっと話しかけていたらしい。気がつかなかった。
「もう、全然聞いてないんだから…私の話」
ふくれっ面をする彼女を何とかなだめて、もう一回同じ話をしてもらった。
679:fusianasan
11/01/30 20:31:31
「ああ…そういうことか。ごめんごめん、全然聞いてなかったわ」
我ながら答えがどこか空虚なのが分かる。心中穏やかでないのに平静を装えるほど、ボクは器用な人間ではない。
「…そういうことだから。だから、今度の日曜日、あけといてね」
「うん」
珍しく佐紀の方からデートを予約してきた。別に嫌じゃないけど、不思議な気分だ。
「…その、準備とか…あるし」
「え?」
準備って何だ。何のことだ。何か大がかりなことでもあったっけ…?
「何のこと?」
思わず訊き返してしまった。すると佐紀は
「…もう!知らない!」
顔を真っ赤にしてどこかに行ってしまった。一体何だったんだろう。
680:fusianasan
11/01/30 20:32:42
よせばいいのに、ボクはそのことをそれとなく悪友に話してしまった。すると、悪友は大笑いしてこう言った。
「お前、そりゃ、アレだよ。初めての準備ってことだろうよ」
「はぁ?」
なんだそりゃ。
「ああ、そうかそうか。ごめんなぁ、未経験者には分からないよなぁ」
酷いことを言うもんだ。自分だって似たようなもんじゃないか…とボクは内心思いながら、それでも悪友の話を
黙って聞いていた。
「要するに、初めてはお前にもらってほしい、ってことだよ」
…はぁ。
「よかったなぁ。お前、すげー幸せもんだぞ」
「そうなのかなぁ…そうなんだろうなぁ、やっぱ」
ボクには、まだその程度の認識しかなかった。頭では理解できないこともないが、どうにも『それ』がまだ現実的なことと
して受け入れられないように思えて仕方なかったのである。
681:fusianasan
11/01/30 20:34:01
そして、日曜日がやってきた。
「お待たせ」
いつものように駅前で待ち合わせをした。白い服に身を包んだ佐紀は、いつもより少し翳があるように見えた。
「じゃあ、行こうか」
二人で映画を見に行って、喫茶店でお茶して…ここまではごくごく普通のデート、のはず。
でも、この日はそれでは終わらなかった…
「ねえ、私、行ってみたいところがあるんだけど」
喫茶店で、唐突に佐紀が切り出した。
「どこ?」
「…××くんの家」
比喩ではなく、ボクはこの時、飲んでいたアイスティーを噴き出しそうになった。
「…マジ?」
「…マジ」
さっきまで笑っていた佐紀の目が真剣だった。どうやら、これは本気のようだ。ははぁ、『準備』って、このことだったのか…
と今更になって思う。
しかし、ここまで真剣に言われたらボクも断れそうにない。もとよりあまり断ろうとも思ってないけど。
「分かった…でも、いいの?あんまり綺麗な部屋じゃないよ?」
「いいよ。そんなの最初からわかってたし」
…さりげなく酷いことを言われたような気もしたが、ボクは気にしないことにして、佐紀を自分の家へ連れて行った。
682:fusianasan
11/01/30 20:34:50
「おじゃましまーす…」
もとより今日はこの家、ボクたち二人以外誰もいないのだが…佐紀は恐る恐るという感じで、我が家にやってきた。
「ここが…ボクの部屋」
もっとも、大した部屋ではない。ベッドと本棚と勉強机とテレビとコンポがあって…それだけの部屋だ。
「へー、男の子の部屋って、こうなってんだね」
佐紀は興味津々といった感じであれこれ見ようとする。ボクは内心、あんまりあれこれ見てもらってもちょっと困るな、
と思いながらそれを見ている。
「…ねえ、エッチな本とか、ないの?」
「…は?」
いきなり何を言い出すんだ。そんなもの、あるわけないじゃな…
本当はあるんだけど。
683:fusianasan
11/01/30 20:35:50
ボクの白々しいウソは、あっという間に佐紀に見抜かれてしまった。
「きっとここら辺にあるような気がする…あ、あった!」
見つかってしまった。こっそりと公園の陰に捨てられていたのを拾ってきたやつだ。
「ふふ…女の勘は鋭いのです」
佐紀はそう言いながら、ボクが隠していたエッチな本を取り出した。表情はニヤニヤしっ放しだ。
「へー、男の子ってこんな本を読んでるんだね…」
佐紀がニヤニヤしながらページをめくる。驚いた。意外とこういうことに耐性持ってる子だったんだなぁ…
そうは見えなかったので、ボクはちょっと意表を突かれたような感じになった。
最初はニヤニヤしながら読んでいた佐紀だったが、だんだんと表情が真剣になってきて、口数が少なくなってきた。
よほどお気に召したのか、もしくはよほど夢中になる何かがあったのか、それは定かではないけど…
少なくとも、真面目な顔をして読むような本ではないような気がする…と、佐紀を見ながらボクはそう考えていた。
684:fusianasan
11/01/30 20:36:37
「ふーっ…一気に読んじゃった…」
そう言ってこちらを見る佐紀の顔は上気していて、ほんのり赤くなっている。心なしか、汗の量も多いようだ。
「…ひょっとして、興奮しちゃったとか?」
「え、まあ、それは…」
佐紀の顔がさらに赤くなった。図星のようだ。
「…なあ、一つ訊いてもいい?」
「何?」
ボクも内心こんなことを訊くのはどうかと思ったが、いまさら後には引けない気がした。
「…もし、その本に書いてあるようなことを…今から、したい、って言ったら…どうする?」
それが何を意味するかは、佐紀にも分かっているはずだ。
「…いいよ。だって…」
「だって?」
この次に来る言葉を、ボクはまだ予測できないでいた。そして、佐紀の口から発せられた言葉は、
ボクの想像を超えたものだった。
685:fusianasan
11/01/30 20:37:16
「そのつもりで来たんだし…」
(つづく)
686:fusianasan
11/01/30 21:19:21
ついに…
687:fusianasan
11/01/31 00:38:08
(;´Д`)ハァハァ
688:名無し募集中。。。
11/01/31 01:22:46
あちこちのスレで忙しいですなw
書く人さんが戻って来てくれるまでは任せました!w
689:fusianasan
11/01/31 08:20:56
期待
690:fusianasan
11/01/31 20:41:48
>>685
そう、佐紀は確かに『そのつもりで来た』と言ったのだ。そのつもりとは、つまり、そういうことだ…
…と、ボクは頭の中で自分で自分に言い聞かせていた。でも、正直、今日だとは予想していなかったから、
頭の中で多少の混乱を招いていた。
「××くんも…やっぱり…前からずっと…そういうこと…したいんだろうな…って思ってたし…」
まあ、したいかしたくないかって言われたら当然したい。したいに決まっている。でも、上手にできるだけの経験もないし、
自信もない。だから、ボクは内心そこはかとない不安を抱えていたのだ。
「それに…他の人にそういうことされるの…イヤだから…」
そう呟くと、それまで目線をずっと伏し目がちにしていた佐紀が、ボクの方を見た。
691:fusianasan
11/01/31 20:42:26
「最初は…××がいい…な」
692:fusianasan
11/01/31 20:43:08
ボクはもういてもたってもいられなくなって、佐紀を思いっきり抱きしめた。
「キス…しよう」
思いっきり唇と唇を合わせる。舌を絡ませる。もう夢中だ。二人してベッドに…もつれ合うようにして倒れた。
無邪気に、そして夢中のまま佐紀と絡み合っているうちに、佐紀がボクの上になった。ちょうど、ボクの腰の上に
佐紀の体が乗っている。
「これから、どうしたい?」
「さあ…分かんない」
ボクも佐紀もどうしていいか分からないまま顔を見合わせ、そして苦笑いを浮かべた。悪友がこの様子を見たら
多分大笑いすることだろう。でも仕方ない。ボクも佐紀も
『頭では分かるが、体が動かない』状態になっていたのだから…
「佐紀の好きなようにしたらいいよ」
「でも…わからないし…」
そう言うと佐紀は体をずらして、ボクの上に寝そべる形になった。そして、耳元に彼女の顔がやってきた。
「どうしていいかわからないから、××の好きなようにして…いいよ。××の好きな色に染めて」
至近距離で…頬を赤らめて…そんなことを言われたら…反則だよ、と思わず呟きたくなった。
693:fusianasan
11/01/31 20:43:57
「じゃあ…ボクの服…脱がせてよ」
ボクがそう"おねだり"すると、佐紀はニッコリ笑って頷いた。そして、ボクのシャツを脱がして、素肌になったボクの胸板に
そっと口づけをした。
「何か…改めてこんなにジロジロ見られると…恥ずかしいね」
ボクがそう言うと、佐紀は口づけをやめて、再びボクの耳元へ顔を持ってくると、そっと囁いた。
「でも…××の体…好きだけどなぁ」
「え?」
「なんか…ふつーなところが…いいな、って」
ボクは筋肉質でもないし、スポーツマンというわけでもない。あんまり自分の体に自信なんてないけれど、でも佐紀はそんな
ボクの気持ちを察してくれたのか、あるいは知らなかったのか…とにかく褒めてくれた。恋人同士故のお惚気成分が多分に
含まれているんだろうけど、とりあえずはそんなことは放っておいて、この優しさを甘受したい、と思った。
694:fusianasan
11/01/31 20:44:52
「じゃあ、次は…」
「…うん」
ボクは佐紀の目を見て、目と目…アイコンタクトで、次に何をするかを伝えた。
そして、佐紀の白い服にゆっくりと手をかける。彼女のピーン、と張り詰めた緊張感が服越しでも伝わってくる。
「緊張しないでいいよ」
ボクがそう言うと、佐紀は苦笑いを浮かべた。
「緊張したくないけど…やっぱり…恥ずかしい…」
まあ、その気持ちは分かる。ボクだって、『緊張しないで』という自分の言葉が―自分でも―
驚くほど緊張していることを理解していた。
でも、進めなきゃいけない。というか、進めたい。彼女のすべてを見たいのだ。
白い服のボタンを丁寧に外し、ゆっくりと脱がせる。別にそうしろと言われたわけでもないのに、やけに慎重に
手を動かしている自分がいた。
服と同じ、白いブラジャーだった。それも外そうとしたが、なかなか外れない。ホックの場所を間違えていたのだ。
「もう…ここだよ、ここ」
見かねた佐紀が、自分でやってくれた。それを外すと…
695:fusianasan
11/01/31 20:45:36
「あんまり…見ないで。恥ずかしいから」
「見せて。見たいんだ、全部」
ボクがそう言うと、佐紀はゆっくりと腕を下ろした。決して大きくはないが、きれいな胸が現れた。
中心には二つのきれいな蕾が見える。
その周りには小ぶりな円が描かれていて、それはきれいなピンク色であった。
佐紀は恥ずかしさのあまりなのか、ボクに抱きついてきた。ボクもそれを受け入れるが、手は彼女の下半身を
"攻撃"することを忘れてはいない。
「えぇ…もう、脱がす…の?」
「早く…見たいんだもん…」
そう言いながらボクは彼女の下半身をあっという間に下着だけにした。上とお揃いの白いパンティが現れた。
「脱がすね?」
「…うん」
聞き取れないくらい小さな声を発して、彼女が頷いた。その表情は、どこか震えていた。
696:fusianasan
11/01/31 20:46:33
そして、佐紀は生まれたままの姿になった。
彼女の下半身は大人のような黒々としたデルタを描いていた。しかし、だからといって無駄な肉がついていることはなく、
みずみずしくしなやかな肢体だった。
「私だけじゃ恥ずかしい…××も、早く脱いでよぉ…」
「じゃあ、脱がせてくれたら、嬉しいんだけどな」
ボクがそう『おねだり』すると、彼女は素直に従った。あまりの恥ずかしさに、判断ができなくなっていたのだろうか。
697:fusianasan
11/01/31 20:47:15
お互いを求め合いながら、ボクも佐紀も、生まれたままの姿になった。
「あんまりジロジロ見ないでよぉ…恥ずかしいじゃん」
そう言って、佐紀は体を隠そうとする…もっとも、ちっとも隠せていないのだけれど。
「いいから…見せて。見たくてたまらないんだ…お願い」
ボクが哀願するようにそう言うと、佐紀は観念したかのように、腕を開いた。
そして、ボクの体をそっと自分の腕の中に収めた。
ボクはまるで…母に抱かれているような…いや、姉のような…もしかしたら全く別の誰かの仕業のような…
そんな不思議な感覚を味わっていた。なんだろう、この『心の奥底に響く』気持ちは。
「来て…」
ベッドの上に寝転がった佐紀の上に、ボクが乗っかる形になった。
698:fusianasan
11/01/31 20:48:11
「また…当たってるね」
興奮しきったボクのそこが、いつの間にか、また佐紀の太ももに当たっていたらしい。
「ごめんね…もう、我慢できないや」
「ちょっと待って…」
そう言うと、佐紀は自らボクのそこに唇をつけた。
「初めてやるから…自信ないけど…もし、痛かったら、教えてね?」
そして、彼女の唇が、舌が、口がボクのそれを包んでいく。初めて味わう、温かい感覚。
ボクのそれが、彼女の口内で清められている…しかもそれをやっているのは、クラスでも真面目な美少女として通っている女の子…
おまけに彼女は、人生で初めての行為…
ボクを"燃えさせる"ための燃料は十分すぎるほど揃っていた。だから、ボクはその感覚に長くは耐えられなかった。
「やばっ!出るっ!」
「…?」
何のことか分からない、という表情をしながら続ける佐紀の喉に…ボクは思いっきり吐き出した。白いエキスをたっぷりと、吐き出した。
「ゴホッ…ゴホッ…」
直撃を受けた佐紀はたまらずむせた。まあ、当たり前のことか…
「ご、ごめん!大丈夫?」
佐紀は何も言わなかった。何も言わず、直撃した白いエキスをむせながらも飲み込んだ。
699:fusianasan
11/01/31 20:48:52
「ごめんよ…苦かったろう…」
白いエキスが苦いものであることぐらいは、ボクでも知っている。飲んだことがあるわけじゃないが。
「味…分かんなかった。反射的に飲んじゃった…苦かったのかなぁ…分かんないや…」
佐紀はそう言って笑った。半分は本当で、半分は彼女の優しさ、だと推測した。
ゆっくり彼女の体を抱き寄せ、大人のような黒々としたデルタに指を這わす。彼女は恥ずかしさのあまり
紅潮させたかぶりを横に振るが、ボクは構わず指を使う。
「あっ…やっ…」
しばらく指を細やかに使ってあげると、彼女のデルタからピチャピチャという音がし始めた。
佐紀の表情がうっとりとしたものになってきた。準備は…万全のようだ。
(つづく)
700:fusianasan
11/01/31 20:50:50
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!
701:fusianasan
11/01/31 23:45:34
キターーーーー
702:fusianasan
11/02/01 22:10:50
>>699
「大丈夫?」
「うん…大丈夫。もう何も怖くないよ」
ボクはゆっくりと、佐紀の中に侵入していく。
「痛い?」
「…ん…だい…じょ…うぶ…がまん…で…きる…から…」
そうは言うが、彼女の顔は苦痛に歪んでいるように見える。中は強烈な締め付けで、ボクのそれをがっちりとホールドして離さない。
こりゃ抜け出せないや…抜くのに相当のエネルギーを要しそうなくらい、きつい。
ボクはしばらく動かず、彼女の強烈な締め付けに任せることにした。何もしていないのに彼女の中が、白いエキスの放出を誘う。
いやいや、まだ出したくないってば…
「…もう…うごいて…も…だいじょうぶ、だよ…いいよ…きて…」
佐紀がそう言ってくれた。ボクはゆっくりと腰を動かし始める。
そして、ボクと佐紀はお互い初めての快感の波に浸るのである。
…お互いの頭の中が真っ白になっていくまでに、そう長い時間はかからなかった…
「さ、さき…もう…でる!」
「…いい、よ…だ、し、て!」
そして、ボクは彼女の中に、すべてを出し尽くした。
703:fusianasan
11/02/01 22:11:24
「…どうだった?」
「うーん…ちょっと…痛かった、かな」
ボクの問いに、佐紀はそう答えた。本音だろう。タオルには、彼女の『初めての証』が付着していた。
「でも…私…今とっても…幸せだよ。
途中で、下から、××の顔を見たら…すごい…気持ちよさそうで…
それ見てたら、私、すっごく嬉しくなったんだ」
そう言って、佐紀はぼくの腕の中にやってきた。
「大好きだよ…」
佐紀は僕の頬に再び口づけをした。たまらなく愛おしかった。
「そっか、それならいいんだ」
佐紀を抱きながらもボクは、自分の感覚が急に現実に引き戻されたのを感じていた。ボクはもうすぐ、佐紀と離れ離れになろうとしている。
これだけうまく行っていて、お互いとても幸せな毎日を送っているというのに、その日々の終わりは…
その事実が、とてもとても、辛かった。
704:fusianasan
11/02/01 22:12:35
夏休みに入った。優等生の佐紀は期末試験で高得点を出したようだが、ボクはそれに遠く及ばない成績しか
あげることができなかった。ギリギリで夏休み中の補習を回避できたのは、佐紀の励ましと個人授業のおかげか、
それとも佐紀と過ごす時間をこれ以上短くしたくないとの思い故か…それは分からない。
夏休みに入ると、ボクたちはお互い時間を見つけては一緒に過ごした。
映画館、ショッピングモール、水族館、公園、図書館、そしてボクの家…
場所は変われど、二人の結びつきが変わることはなかった。彼女はボクを求め、ボクは彼女を求めていたのである。
ボクの家で…肌と肌を重ね合う日々が続いた。
そして…ボクたちはついに、超えてはならないかもしれない一線を踏み越えることになる。
705:fusianasan
11/02/01 22:13:28
その日、ボクと佐紀はお互い別の用事があって学校に来ていた。もちろん、お互い今日学校にいることは知っていたから、
二人で『学校デート』をすることにしたのである。
夏休み中の学校は人影もまばらで、いるのはせいぜい数人の教師と、一部の部活動をしている生徒ぐらいである。二人きりに
なれる場所を探すことなど簡単なことだった。
ボクたちは誰もいない音楽室にこっそり忍び込んだ。なぜ音楽室かといえば、何をやっても音が外に漏れる心配がない、と勝手に
思っていたのである(実際はそうでもなかったらしいのだが…)。
「ねえ、もし見つかったらどうしよう?」
「どうだろう…怒られちゃうだろうね」
平静を装ってはいたが、ボクは内心ドキドキであった。でも、もし見つかったら…というドキドキ感がボクの心を妙に興奮させていたのも
確かである。
「ね、キス、しよっか…」
「…誰かに見られたら、どうする?」
我ながら実に臆病者だと思うが、仕方ない。逆に、佐紀は妙に肝が据わっているというか、度胸があった。
「いいよ。別に」
「え?」
「見つかってもいい…××のことが好きだから、バレたって別にいいよ」
706:fusianasan
11/02/01 22:14:18
ボクはたまらなく嬉しかった。こんなことを言ってもらえる人間はそうそういない。ああ、ボクは何て幸せ者なんだろう…
と、一人で喜んでいた。
そして、ボクと佐紀はいつものようにキスを交わした。
調子に乗ったボクは、さらなる『おねだり』をしてみた。
「ねえ…口で…って、言ったら、怒る?」
「…ここで?」
佐紀はちょっと驚いたようだったが、怒りはしなかった。
「…分かった。でも、廊下から見えないように、していい?」
「いいよ」
そう言って、彼女は近くにあった机と椅子の陰に移動した。廊下からは何をしているか分からない位置である。
そして、ゆっくりとボクの制服のズボンに手をかける。
「見えたらマズいから、ファスナーだけ…でいい?」
「…うん」
佐紀はゆっくりとボクのファスナーを下ろし、中の布の切れ目から指を入れ、器用にボクのそれを出して…
ちゅぱっ…ちゅぱっ…と丁寧に、口に含んでいくのだった。
しばらくして、ボクは彼女の口の中に、また白いエキスをどっと放出した。佐紀はすこししかめっ面をしながらも、
一滴もこぼさずにすべてを飲み干した。
「ごめんよ…苦かった、よね」
「大丈夫だよ。もう慣れちゃった…××のせーし、いつも飲んでる気がするし」
そして、ボクらは何事もなかったかのように…お互い制服姿のまま…また濃密な時間を過ごすのであった。
707:fusianasan
11/02/01 22:15:10
その日の帰り道。
「さっきさあ…ボクのこと好きだから、バレてもいいって…言ってくれたじゃない?」
「うん」
「…ボク、すげー嬉しかったんだ」
ボクが突然そんなことを言い出したのが、佐紀には可笑しかったらしい。
「どうしたの?急にそんなこと言いだして」
「何かさあ…どうしてもお礼が言いたくて」
ボクの本音だった。ボクのことをそこまで好きでいてくれる彼女に、感謝せずにはいられなかった。
多分、人生で最初に付き合った女の子がこんなによくできた子だなんて、そうそうあるもんじゃないだろう。
それも、ひょんなことから…運命って不思議なものだ、としみじみ思っていた…ら。
「そっか…じゃあ」
そう言うと、佐紀が思いもよらぬ提案をした。
(つづく)
708:fusianasan
11/02/01 23:23:38
はあはあ
709:fusianasan
11/02/02 19:27:32
いいですね
710:fusianasan
11/02/02 22:38:05
>>707
「叫んでよ」
「えっ?」
「ここで、私のことが大好きだ、って叫んで」
叫んでと言っても、周囲は普通に街があって、人の流れがあって、時間が流れていて…とてもじゃないが、こんなところで
できることじゃない…
「ここじゃ無理!だから…」
ボクは佐紀の手を引っ張って、走り出した。別にそうしようと思ったわけではないが、発作的な衝動だったんだろうか。
「あ、ちょ、ちょっと、どこ行くの?」
佐紀の小さな手を引っ張って、ボクは走る。佐紀も何とかそれについていく。
不思議なもので、走っている間中、ボクは周りの景色がスローモーションのように見えていた。そして、心臓の鼓動が
やけに大きく聞こえた。
「もう…一体どこまで走る気!?」
「わかんない!」
本当に分からなかった。分からなかったから、できればどこまでも走っていたかった…佐紀と一緒に。
711:fusianasan
11/02/02 22:39:40
結局、走って走って行き着く先はボクの家の近所だった。そこに小川が流れている。小川と言っても、うまく跳べば
跳び越えられるくらいの小川だ。
「ここでなら…叫べる」
「じゃあ、叫んで」
走っている間とは一転、ボクの心の中にまた恥ずかしさが込み上げてきたのだが…そのことを知ってか知らずか、佐紀は
ボクにミッションを貫徹するようにという。仕方ない。やるしかないんだ。
ボクは佐紀を残し、一人小川の向こうへ跳んだ。そして、おもむろに口を開いた。
712:fusianasan
11/02/02 22:41:43
「さあきいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!
あいしてるよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」
…我ながら、びっくりするくらいの声が出た。自分でも驚くくらいの大声。
川向うの佐紀を見ると、彼女は満面の笑みで、ボクにこう叫んだ。
「すき!すきすきすきすき!!すきすきすきすきだああああああああああああいすき!!!!!!!」
そして、おもむろにボクの方に向かって跳んだ…
713:fusianasan
11/02/02 22:42:48
はいいが、着地でバランスを崩したか、彼女の片足が小川に落ちてしまった。
「ひゃあ!」
結局、彼女の片足は靴、靴下もろともずぶ濡れになってしまった。
「大丈夫?」
「大丈夫!」
しかし、佐紀は笑っている。ボクに向けて、これ以上ないくらい笑っている。
「もっと笑って」
「え?」
「笑ってて。もっともっと笑ってて」
ボクの横に上陸を果たした佐紀が、そう言った。
「××の笑ってる顔…もちろんそうじゃない時の顔も…好きなんだけど…笑ってる顔が、一番好きなの。
だから…もっと見せて。××の笑ってる顔…いっぱい、いっぱい見せて!」
…まったく、どこまで嬉しくさせてくれるんだ、この子は。
ボクはまたいてもたってもいられなくなって、佐紀を抱きしめていた。この時もやっぱり、他のことは
一切考えられなくなっていたのは、言うまでもない。
714:fusianasan
11/02/02 22:44:07
そして、それから数日後、佐紀の転校が正式に決まった。
「ごめんね…本当は、もっともっと…××くんのそばにいたかったんだけど…」
電話口でそう話す佐紀の声は涙声になっていた。その声を聞いたら、ボクまで泣けてきた。
「仕方ないよ…佐紀は悪くないさ」
ボクたちは、彼女が旅立つまでの間、時間を見つけてはできるだけたくさん会う約束をした。一瞬の間も惜しかった。
会うたびにボクらは抱き合い、キスをし、そして肌を重ねた。
佐紀は肌を重ねるごとに、ボクの上で何度も何度も声をあげていたっけ…
715:fusianasan
11/02/02 22:47:52
しばらく経った、夏の終わりのある日。
「じゃあ、行くね」
「…手紙書くから。電話もするし」
「うん…待ってる。ずっと待ってるからね」
いよいよ、佐紀が旅立つ日がやってきた。ボクが考えていたことがどこまでやれたかは定かではない。
でも、少なくとも、自分にできる精一杯の形で佐紀を幸せにすることは、多分できたんじゃないかなと、思った。
「また絶対遊びに来るから。そしたら、真っ先に××のところに行くね」
「うん。待ってるよ」
その約束が果たしていつ実現するかは、ボクにも佐紀にも分からなかった。
彼女を見送った時、ボクは自分が突然、夢から覚めたような感覚を感じていた…
716:fusianasan
11/02/02 22:49:13
事実だけを書こう。
ボクと佐紀はこの後しばらくして別れた。
別にケンカ別れしたわけでも、嫌いになって別れたわけでもない。
でも、顔の見えない、逢えない、連絡さえなかなか取れないような日々にはお互い耐えられなかったのである。
ボクらがもう少し大人なら、そんな日々も耐えられたのかもしれない。でも、その関係を続けるには、ボクらは
まだ若すぎた。
でも、二人の関係が完全に終わったわけではなかった。
後にひょんなことで、もう少し大人になったボクと佐紀は再会することになるのだが…
それはまた、別の話。
(第一編 終)
『一瞬の夏』 渡辺美里-1989
URLリンク(www.youtube.com)
717:fusianasan
11/02/02 22:51:37
(´・ω・)っ(第二編 予告)
ある時出会った、『優しい同級生』
ある時出会った、『傷を負った少女』
ある時出会った、『中卒フリーター』
彼女たちに、ボクは何ができる?
ボクは彼女たちと、何がしたい?
そして、四人をつなぐ一つの共通点、それは…
(´・ω・)っ(近日連載予定…)
718:fusianasan
11/02/02 22:54:17
ということで、主人公と佐紀ちゃんの一夏の恋は終わりました(´・ω・`)
やたらめったら長い割にエロ要素が少なくて、非常に申し訳ない…と今更反省しております(´・ω・)
まあ、多分次の話はもっとエロ要素が少なくなりそうな(というより、そこに辿り着くまでが長い)話なんですが…
お読みいただいて
ありがとうございました(*´・ω・)
719:名無し募集中。。。
11/02/02 23:08:43
乙でした
切ないな・・・
720:fusianasan
11/02/02 23:37:29
乙です
純愛の中でのエロ要素最高でした。
切ない感じもいいです。
721:fusianasan
11/02/06 23:44:26
むかーしむかし、というほど昔のことでもないけれど、とあるところに『帰ってきた!!Berryz工房のエロ小説を書こうよ!!』
というスレッドがありました
そこにはいろいろな作者の方がいて、それぞれがそれぞれ、多種多様な小説を投稿されていました
『濡れ場さえ書いておけば、他はどんな設定にしようが作者の自由』というルールだったようです
その中で自分も、いくつかの話を書きました
きっちり決められたルールに沿って話を書くのが苦手な自分には、上のルールは実に心地良いものでした
他の作者さんの話を読んだり、作者同士で表現や登場人物、その他もろもろのやり取りをしたり…
恐らく、自分にとって『居心地のいい場所』だった時期は、長かったような気がします
722:fusianasan
11/02/06 23:45:56
時が流れ、その場所の空気が、少しずつ変わってきたのを感じました
昔からいた人がいなくなり、新しくやってきた人たちが中心になっていきました
そして、いつしか自分が『古参』と呼ばれる部類の人間になっていたことを知ります
「少し…長く居過ぎたかもしれない」と思いました
でも、作っている話もあったことだし、せめてこれが終わるまでは、と自分に言い聞かせました
ある時。
いくつ目のスレッドか忘れましたが…
『ある作者がいれば、もう他の作者はいらない』という趣旨の書き込みを見かけました
自作自演かどうかは知りませんが、それに同調する意見も見かけました
なるほど。
既に自分が『招かれざる客』であったことにようやくここで気付きました
作品の内容がつまらないというのならそれは考え、修正し、対応できる
しかし、『いらない』というのなら、もうここにいる必要はない…
そう思って、書くのをやめました。製作途中であった話は続きを書くことがないまま、封印されました
723:fusianasan
11/02/06 23:47:00
それから、時々立っては短期間でdat落ちを繰り返すスレッドの中で
『あの作品の続きはまだだろうか』という書き込みを時々見かけました
同じ人が書かれたのかもしれないし、別の人が書かれたのかもしれない…
でも、待望してもらっているのに、何もできない自分。
心の中で『いや、本当に申し訳ない』と頭を下げました。
時が流れました。書いていた頃から…自分の立場も変わり、少々体を病み、ちょっとした問題を抱えながら
毎日を送っていました。
『帰ってきた!!Berryz工房のエロ小説を書こうよ!!』というスレッドはもはや新スレが立つこともなくなり
かつて立った避難所のようなスレッドが細々と続くだけになっていました
今なら、『誰某はいらない』というようなレスを見かけずに済むかもしれない。書くことに集中できる環境に
なっているかもしれない。
そう思って、もう一度何か書いてみようと思い立ちました。
どうせなら、かつて書いていたあの話が、最後にどういう結末になる『はず』であったかを明かす話にしよう。
そう考えて、久々に登場人物の設定を練り始めました。
が…
書けない。書けないのです。
かつてあれだけ苦も無く書けていたものが、たった二行、三行書くだけで何も書けなくなる。
驚きました。自分の頭が、そして心がこれほどまでに死んでいたなんて。
結局、その話は構想だけで放棄されました…
724:fusianasan
11/02/06 23:50:35
それからまた時が流れました。
もはや隆盛を誇っていた頃の住人の皆さんも三々五々、どこかへ行ってしまい
避難所の一つは消滅し、『PINKのなんでも』という板のスレだけが細々と生き残っている状況でした
しかし、今でも心のどこかで『あの時、話をしっかりとまとめられなかったこと』を悔やんでいる自分がいて、
そのことに対する申し訳なさが残っていました。
病を得た時とは状況が変わった。
今なら、もしかしたら何か書けるかもしれない。
いや、ちゃんと書けるか自信はないが、自分のリハビリのために、何か書いてみよう…
そう思って、物語を書き始めました
その最初の話が、『主人公と佐紀ちゃんのひと夏の恋』の話です
『どうせ作るのなら、今までちゃんと話を畳んでこれなかったことへの反省も兼ねて、あの時出していた人を
何かしらの形でみんな、登場させよう』と心に決めていました
その数を数えると、ちょうど10人になりました
久々にまとめサイトに行って、自分の書いたものや他の作者さんの書いた話を読み返しました
意外な発見があるもので、あの頃大して気にも留めなかった話や、表現に『おっ』と思わされることが多々ありました…
自分も、他人も。
725:fusianasan
11/02/06 23:52:54
ということで、どこまでやれるかは自分でもまだ分かりません。
分かりませんが、『あの時、自分の作品を待っていてくださった人のため』に
やれるところまでやろう、と決めました…
次の物語から、主人公の周りはどんどん暗いものが漂ってきます
その『暗いもの』はもしかしたら、かつて自分が見ていた景色なのかもしれないし、
そうでないのかもしれない。
ただ、その暗い景色の中で、彼や彼女たちはどう生きるのか…
この物語の根底は、そんなテーマなのです。
726:fusianasan
11/02/06 23:55:07
|ω・) 書いていいのかどうか分からなかったけれど、どうしてもこれは書いておこうと思ったので
自分とこのスレの関わりや、何でこの話を書こうと思ったかの説明を長々と書いてしまいました…
ちなみに、改めて読んだ中で、理系の学生さんやめようさんやヲタモドキさんの作品はすごく
共感できて惹かれる部分があったなぁ…
あの時、一言でもそれを言っておけばよかった、と今更後悔しています
まあ、お三方とももうこのスレは見てないだろうから、名前を出しちゃいましたがw
|ω・) 明日から第二編がスタートします お楽しみに…
727:名無し募集中。。。
11/02/07 01:51:10
あなたは多くの佐紀ヲタ住人にトラウマを与えたあの方なのでしょうか?w
違うかもしれませんが、まあ誰であれ続編期待してます
あとこれだけは言っておかないといけませんね
お帰りなさい!
728:fusianasan
11/02/07 04:28:07
自分は誰が必要、誰が不要とか全く気にしないで作品を楽しませてもらってたけどな
誰かが不要とか言ったり同調したりして作者さんを傷付けてたのなら、読者の一人としてお詫びします
まあどうせそんな事言ってた人は、多分今ここにはいないと思うけどね
729:fusianasan
11/02/07 21:20:19
第二編 彼と彼女と彼女と彼女と そしてfootball
第一章
―負けることだけ恐れて 勇気を忘れてはいないか? 心の翼広げて 勝利をつかむのさ
730:fusianasan
11/02/07 21:20:56
時が流れた。ボクは高校生活二年目の秋を迎えようとしていた。
その頃、ボクは理由あって生徒会の仕事の手伝いをやっていた。別にやりたくてやっていたわけではない。クラスの生徒会担当を
誰もやりたがらず、結局ボクにお鉢が回ってきたのである。
「あーあ、やりたかねえや、こんなの…」
生徒会担当と言ったって、やることは実質下働きだ。生徒会通信をクラスの人数分印刷して、持って行って、配って…
生徒会の会議の書記をやらされて…生徒会が何かやることになったら、その準備や後片付けの手伝いをやらされて…
こんなことのために週に何度かいちいち放課後に残されるなんて、すこぶるめんどくさい。道理で誰もやりたがらないわけだ。
ボクは貧乏クジを引かされることになった自分の運命を呪った。でも…
731:fusianasan
11/02/07 21:22:01
「○○くん、印刷、全部終わった?」
こんなやりがいのない、めんどくさい仕事でも、一つくらいはいいことがあるものだ。ボクは隣のクラスの矢島舞美さんという女の子と
仲良くなった。
実は、彼女は佐紀の友人だったそうである。そう、ボクと佐紀が付き合うことを決めた夜に、佐紀が電話で話していた『友人』こそ、
彼女だったのだ。
でも佐紀と付き合っていたころは、せいぜい学校で挨拶したくらいで深く話した記憶がない。それだけ、ボクが佐紀に夢中だったってこと
なんだろうか…
皮肉なことに、佐紀と別れた後の方が話す機会が増えた。ボクは内心、佐紀と別れたことで、その友人である彼女とは気まずい関係に
なってしまうだろうなと思っていたが、意外とそうではなかった。
授業で一緒になれば、彼女はボクに話しかけてくれたし、逆にボクが話しかけても、彼女は特に嫌な顔もしなかった。矢島さんもボクと
佐紀の関係はよく知っていたが、だからと言って別れたことでボクを責めることもなかったし、逆に、佐紀にあれこれ言うこともなかった。
「ま、それはそれで、別にいいんじゃない?私がどうこう言うことじゃないし」
と、実にあっさりした答えが返ってきたものだった。
732:fusianasan
11/02/07 21:22:45
一年生の秋のこと。矢島さんが、生徒会の一員になった。生徒会の一員と言っても、ボクのような別にやりたくもない
『下働き』ではなくて、ちゃんとした投票で選ばれる生徒会事務局のえらい人である。聞けば、彼女は担任教師に自分から
立候補したい、と言ったのだそうだ。
その理由を訊くと、彼女は笑ってこう言った。
「何かさ、おもしろそうだったから」
「…はぁ」
それが本当の理由なのかどうかは、ボクには知る由もなかった。
ボクが生徒会の『下働き』になったのは、二年生になった春のことだった。
「あれ?○○くん、生徒会担当になったの?」
彼女はボクを見つけると、気さくに声をかけてきた。
「そうだよ。誰もやりたがらなかったからさ、ジャンケンで負けて、結局ボクがやることになったわけ」
「へー、運がないんだねぇ…」
そう言って彼女は笑う。ボクも…まあ、ここは笑っておこうか。
「はは、まあ、そういうことさ。よろしく」
そして、ボクと矢島さんは生徒会のいろんな行事を通して、だんだんといい関係が築けるようになっていった。いろんなことの
手伝いをしていて、わかったことがある。
彼女が何事に対してもとても一生懸命な人だということ、彼女が誰に対してもとても優しく礼儀正しい人だということ、そして
彼女がとても汗かきだということである。
733:fusianasan
11/02/07 21:24:00
六月の終わりに、ボクらの高校では毎年恒例の文化祭がある。主導は当然生徒会だが、ボクも立場上、
手伝わされることになった。
来たくもないのに朝の早くに学校に呼ばれ、残りたくもないのに遅くまで学校に残され…いろいろと雑用をやる。
あんまり楽しいもんじゃない。普通に一生徒としてあれこれ回っている方が、よっぽど楽しい。
でも、後片付けがすべて終わって解散となり、疲れたボクが一人で帰ろうとしていた時…
「○○くーん!」
誰かの声がした。振り返ると、矢島さんがボクを追っかけてきた。
「あれ?どうしたの?みんなで打ち上げに行くんじゃ…」
「いいの、あれは後で別のとこで待ち合わせになったから」
そう言うと、彼女はカバンの中から缶ジュースを取り出した。
「こんなのしかないけど…これ、いる?」
「いいよボクは。矢島さんが飲みなよ、あれだけ働いてたんだし」
ボクがどれだけ働いたといっても、実際に主導した生徒会の人間の方が数倍働いている。一番働いているのは
三年生の役員の人たちだけど、矢島さんたち二年生の役員だって、かなり忙しく動き回っていた。それはボクも
よく知っていることだ。
734:fusianasan
11/02/07 21:24:47
「いいよ、私は。○○くんこそ、もらって。生徒会以外の人には…あんまりちゃんとお礼も言えなかったし…」
聞けば、彼女は自分の周りで働いていた人たち一人一人に、終わった後お礼を言って回っていたらしい。ところが生徒会の
『下働き』の人たちはあくまで生徒会以外の人間なので、片付けが終わったらそこで帰されてしまう。彼女はその人たちに
お礼を言えなかったことを悔やんでいたようだ。で、その中の一人にボクがいた、ということらしい。
「そっか…じゃあ、ありがたくいただいておくよ」
ボクはそう言って、ジュースをもらった。冷えていない常温の品だったが、そんなことは気にしなかった。
「ごめんね、でもホント助かりました…ありがとう」
そして、彼女はボクの肩を優しく叩いた。こんな時でも優しさを忘れない彼女の心に、ボクは内心感動していた。
735:fusianasan
11/02/07 21:25:53
「ああ、そうだ。ボクさあ…携帯電話、買ったんだよね」
その数日前に今更ながら、ボクは人生初の携帯電話を買ってもらった。
もっとこれが早くからあれば、佐紀と別れずに済んだのかもしれないなぁ…
と思ってしまったのは、ここだけの話だ。
「そうなんだ。じゃあ、私のアドレス、教えてあげる」
「…いいの?」
「いいよ!何で?いいに決まってるじゃん」
矢島さんは『どうしてそんなこと訊くの?』という表情をしていた。そして、快く自分の連絡先を教えてくれた。
「あんまり電話かけたら、怒られるかもね」
ボクがそう言うと、彼女は笑って、
「そんなことないよ。夜なら大丈夫。部屋に一人でいることが多いから…いつでも連絡してよ」
と言ってくれた。どこまで本当か分からなかったが、ボクにそんなことを言ってくれる彼女の優しさに、
また感動してしまった。
駅に着くまで二人でいろんな話をしたが、話せば話すほど、ボクは彼女に惹かれていく、ような気がした。
(つづく)
736:fusianasan
11/02/07 21:27:57
|ω・) ということで 第二編がスタートしました
高校二年生になった主人公と、三人の女の子を中心に話が展開します
ご期待ください…
737:名無し募集中。。。
11/02/07 23:49:47
乙です!舞美が出てきたか
××がまだちょっと珍しいとか将来の伏線だったりするのかな
他に出てくる子は誰なんだろ
そして主人公の相手は誰になるのか…楽しみです!
738:fusianasan
11/02/08 22:05:51
>>735
話を生徒会室に戻そう。
「いや、まだ終わってない…」
クラス全員分を印刷しなきゃいけないのである。しかも、用意された性能の悪い印刷機はいちいち紙をその都度
突っ込まなければ動いてはくれない。一度に35枚入れたらその分だけ勝手にやってくれるほど、頭はよくないのだ。
「そっか。手伝おうか?」
「…いいの?」
「いいよ。早く終わらないと私の仕事も終わらないし」
手伝い始めた彼女が、突如ボクにふと相談を持ちかけた。
739:fusianasan
11/02/08 22:06:41
「ねえ、○○くんってさ、サッカー、興味ある?」
「…は?」
別に嫌いなわけではない。でも、だからといって自分から見に行こうと思ったこともない。それって興味があるのかないのか、
自分でもよく分からない…と内心思っていたら、
「実はさあ、知り合いがオレンジキッカーズのチケットくれたんだけど、一緒に行く予定だった友達が熱出しちゃってさぁ…」
「はぁ…」
「で、××くん、興味あるかな、って…よかったら一緒に行かない?」
オレンジキッカーズとは、この街にあるサッカーチームの名前だ。国内のトップリーグから数えて三部リーグのチームである。
聞いた話では来年の二部リーグ昇格に向けて、なかなかいい順位にいるらしい。
考えてみれば、別に断る理由が思い浮かばなかった。まあ、適当にサッカーを見て、あとは矢島さんとあれこれ喋っていればいいか、
と思った。
「分かった。じゃあ、行こう」
「ホント?ありがと!
じゃあ、今度の土曜日のお昼に駅の前で待ち合わせね」
話はとんとん拍子に決まった。そこからもう一盛り上がりしようとしたところに…
『ピー…ピー…ヨウシガキレテイマス』
機械音声が水を差した。やれやれ、何と空気の読めない、話のわからない機械なのだろう…機械なのだから、当たり前か…
740:fusianasan
11/02/08 22:08:11
土曜日の正午。矢島さんの家の最寄り駅にボクは立っていた。
「そういや、ここで誰かと待ち合わせするのも、久々だなぁ…」
矢島さんの家の最寄り駅。それはかつて佐紀と何度も待ち合わせをした駅である。初デートの時は、すごく緊張したなぁ…
そんなことを思い出しながら、ボクはガムを噛んでいた。
「お待たせっ!」
矢島さんがやってきた。オレンジのタオルマフラー、オレンジの上着、オレンジのロングパンツ…
上から下まで全部オレンジである。
「…ど、どうしたのその格好?」
まさかこんな格好でやってくるとは思わなかったボクは、思わずそう訊いてしまった。しかし、矢島さんは逆に
怪訝な表情でボクを見る。
「え?だって、応援しに行くんだから。○○くんこそ、オレンジの服とかないの?」
「…ない」
あんまり明るい服を持っていなかったボクは、いつも通り白と紺のコントラストである。まあ、確かに応援する格好
ではない…かな。
「それじゃダメだよ!よし、じゃあ改造計画!オレンジのグッズで、身を固めてもらうからね!」
「…はぁ」
矢島さんはボクの戸惑いをすっ飛ばして、勝手にどんどん話を進めていく。どうやら彼女は『常に一生懸命』な分だけ
『一度走り始めると止まらない』性格のようだ。
741:fusianasan
11/02/08 22:09:05
駅から電車で十五分。ボクと矢島さんは目的地のスタジアムにやってきた。オレンジ色の幟があちらこちらに立っていて、
売店…フードコートというそうだ…が並んでいる。
「こっちこっち!」
「…はい」
早足で歩く彼女に、ボクはついて行くのが精いっぱいだ。まったく、もう少しのんびり試合を見るつもりだったのに…
こんなはずじゃなかったんだけどなぁ…とボクは内心思っていた。
「ね、これとこれ、どっちがいい?」
彼女がオレンジ色の長そでシャツとタオルマフラーを持っている。どちらかをボクに買えというつもりのようだ。
「まっ、両方でもいいけどね!」
「…こっちで」
オレンジのシャツを着るのはどうも気乗りしなかったので、大人しくタオルマフラーを買う。二千円也。
「これでちょっとは応援する気になった?さ、行こ行こ」
ボクは買ったばかりのタオルマフラーを巻いて、スタジアムに足を踏み入れた。思えば、サッカーを生で見るなんて、
幼少時の頃以来の経験かもしれない。
742:fusianasan
11/02/08 22:13:33
「わー、結構入ってるね」
てっきりがらんどうのスタジアムを想像していたボクは、予想以上のお客さんに面食らった。
「こっちこっちー!」
矢島さんのバイタリティは本当にすごい。男のボクよりもはるかに元気いっぱいで、感心してしまう。
一体彼女はどうしてあんなにいつも元気なのだろうか…謎だ。
導かれるままについていくと、ボクたちの座るべき席の隣にもう一人女の子が座っていた。
「まいみさーん!」
「ちぃ!」
ちぃ…?誰だ?
「久しぶりだね」
「うん…ちなみは毎回来てたのに…」
どうやら二人は友人のようだが、二人の会話に入れない。ボクは何だか自分だけが取り残された気分になった。
「ああ、そうだ。紹介するね」
矢島さんの言葉で、ボクはようやく会話に加えてもらえることができた。
「後輩の徳永千奈美ちゃん。オレンジのサポーターなんだよ」
「はじめまして!」
徳永さんがボクに声をかけてきた。小麦色に焼けた健康的な肌が印象的だった。
「ああ、どうも、はじめまして…」
「ちぃちゃん、彼が○○くん。ほら、この間、私が『今度連れていく』って言ってたでしょ。あの子」
どうやら、事前に矢島さんは徳永さんにボクのことを紹介していたらしい。ボクは何も聞かされてなかったんだけどなぁ…
と思わず言いかけてやめた。危ない危ない。
743:fusianasan
11/02/08 22:14:58
|ω・)っ(つづく)
|ω・)っ(訂正)
>>739の舞美ちゃんのセリフ
正「で、○○くん、興味あるかな、って…よかったら一緒に行かない?」
誤「で、××くん、興味あるかな、って…よかったら一緒に行かない?」
|ω;) 校正でミスがありました お詫びして訂正いたします…
744:fusianasan
11/02/08 22:18:52
>>727
|ω・) 誰かは…秘密です まあ、分かる人は分かるだろうし、分からない人は分からないだろうけど
それでもいいかな、と…思っております
>>728
|ω-) 大多数の読者の方が…そうだったということはよく分かっております ただ、一部…特に後期…
そうでない読者の方がいて、その声が非常に大きかったのは事実で…残念なことですけどね
|ω・) お詫びだなんてとんでもない…きちんと読んでくださる方なら、大歓迎です
745:fusianasan
11/02/09 21:39:19
>>742
試合が始まった。
「ほら、ここはこうするのよ」
「あ、コーナーだから、タオル回さなきゃだよ」
「は、はぁ…」
矢島さんと徳永さんがボクに応援のイロハを手取り足取り教えてくれる。とりあえずは『ハイ、ハイ』と聞いているが、
分かったような、分からないような…
「いけー!そこで逆サイドー!」
「あー!何で打たないのもー!」
「あぶなーい!早くクリアクリア!」
ボクの隣で、矢島さんが叫んでいる。ホントに、感心するくらい活発な女の子だと思う。とてもじゃないがボクには
マネができない。
一方、初対面の徳永さんは…
「ああああああああああ!あぶなーい!」
「いやぁっ!!!!!!あぶないよー」
…どうも、二人とも大差ないようである。なるほど、同じような性格なら、そりゃ仲良くなるのも早いはずだわね、
とボクは心の中で呟いた。
746:fusianasan
11/02/09 21:40:06
試合の中で、オレンジキッカーズの10番の選手が目についた。金髪で白人の選手。
「あー、うまいところ出すな」
「あー、うまく抜いたな」
「あー、トラップ上手だな」
ボクは決してサッカーに詳しい方じゃないが、それでも数十分続けて見てると素人なりに上手な人の見分けが
つくものである…
まあ、プロなんだからボクたちに比べたら、全員めちゃくちゃうまいんだろうけど。
「ねえ、あの選手は何て名前?あの10番の人」
「ああ、アンドレ?」
矢島さんが彼の名前を教えてくれた。どんな選手なんだろう、と手元に渡されたマッチデー・プログラムを見ると…
『国籍:ブラジル』と書いてある。
「へー、ブラジルの人だったんだ」
金髪で白人のブラジル人なんて珍しいなぁ…と思っていたら。
747:fusianasan
11/02/09 21:40:50
「あああああああっ!」
「いやあああああっ!」
耳元で二人の悲鳴が一斉に聞こえた。ボクが顔を上げると…相手の選手が喜んでいる。
「ただいまの得点は…アルシオーネ和歌山 背番号20 森下友一選手の得点です…」
どうやらボクは一瞬目を離したすきに相手の得点シーンを見逃してしまったようだ…でもテレビ中継のように
リプレイ機能があるわけではない。
電光掲示板の機能しかないスコアボードでは、リプレイ映像を流してもらえるはずもなく…
結局、試合はそのまま0-1でオレンジキッカーズの負けになってしまった。アンドレは後半途中で他の選手と
交代してしまい、オレンジキッカーズは攻撃の柱を失って、その後はろくにシュートも打てずに完封負けである。
748:fusianasan
11/02/09 21:41:34
帰り道。みんな考えることは同じなのか、駅へ絶え間なく人の波が押し寄せている。
「ねえ、毎回こんなに人が多い感じなの?」
ボクはこんな人混みのなかにずっといるのはしんどいなぁと思いながら、矢島さんに訊ねた。
「うん、ずっとそうだよ」
「え…マジ?」
月に二度三度とホームゲームがある。その度にこの人の数。正直…人混みがあんまり得意ではない
ボクからすれば、ご勘弁願いたいものだ。
「あんまりアクセス良くないからね…仕方ないよ」
矢島さんはどこか寂しげに言った。熱心なサポーター故に、いろいろ言いたいこともあるのだろうが、相手が
素人のボクということもあってか、自重したように見えた。
「ねー、お腹すいた。どっか寄ってこうよー」
矢島さんの気持ちを知ってか知らずか、徳永さんはマイペースにそんなことを言っている。
ここは…どっちに同調した方がいいのかなぁ…
考えるより先に、言葉が出ていた。
「なんかボクもお腹すいちゃったな。どっか寄ろうよ」
「そう?じゃあ、エキヨコにしよう」
そして、ボクたち三人は喫茶店へ歩き始めた…やっぱり人ごみの中をかき分けながら。