09/10/25 22:39:45 bsXt3xFD0
エピローグ
あの戦と呼べぬ戦いから、二日のときが経過していた。
最終的に呉軍が被った被害は、死傷者合わせておよそ四万弱。
張遼旗下八百の騎兵によって受けた被害であるが、その実殆どが、張遼一人の手によるもの
であることを、軍中で知らぬ者はいない。
その鬼神の如き強さは、足重く撤退する呉軍のうちで瞬く間に恐怖と共に広がっていた。
結果としてこのとき植え付けられた恐怖心が、ひいては呉のその後の命運に大きく関わって
いくこととなるのだが、そのことを語るのはこの段階ではまだ早い。
「お二人とも、どうぞご無事で……」
そう言って跪いたまま頭を垂れたのは、墨を流したかのような美しい長い黒髪と、ともすれ
ば他者に冷酷な印象を与えかねない鋭い目つきをした美女であった。
彼女は周瑜。字を公謹、真名を冥琳という。
雪蓮が最も徴用している重臣であり、呉最高の頭脳である。
彼女が跪くこの天幕には、いま、四人の人間がいた。
一人は彼女自身。
そして、一人は冥琳に対して、やや疲れを滲ませた声で上座から声を返した雪蓮である。
「相当手ひどくやられはしたけれどね。その様子だともう既に見てきたみたいだけど、どう思
う?」
大敗という結果を前に、それでもなんでもないことのように語る主君の言葉に、冥琳はやや
躊躇いを交えながらも実直に頷いた。
「正直なところ、これほどとは思っていませんでした」
「でしょうね。……流石にあんなのが出てきたんじゃあ、どうしようもなかったわ。袁術ちゃ
んも、随分と恐ろしいものを懐に忍ばせてたもんね。……でもって、蓮華の勘は大当たり」
「……わたしも報告を受けたときには、なにかの冗談かと思いました。雪蓮の判断が間違って
いたとは思いません」