恋姫†無双~ドキッ☆乙女だらけの外史演義~ 18at EROG
恋姫†無双~ドキッ☆乙女だらけの外史演義~ 18 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@初回限定
09/10/18 17:08:00 ydMJnBK90
さるに関する考察コピペ

 さるについてな
 支援がてら、最近報告の多いバイさるについての個人的考察を。

 バイさるは、
 『一つのスレに ある時間(H)内に 最近の投稿(N)のうち 沢山投稿(M回)したら「バイバイさるさん」になる』
 と言われている。
 H,N,Mは可変らしいが、VIPに於いては一時間の間で10回連投するとほぼ確実にさるさんとなる。投下間隔は実はあまり関係ない(連投規制は別)。
 さるになったら次回の00分になるまで待つしかない。00分を挟む事によりリセットされる。

 既定時間内に10レス以上投下するには支援が必要。支援により上記Nが増え、Nに対するMが減るためである。
 経験的に1投下1支援で20くらい可能。恐らく既定時間内で半分以上自分のレスで埋めなければさるは発生しないと思われる。可変のため確実とは言えないが。
 また、一時間というのは00分から次の00分までであり、初書き込みから一時間の間ではない。だから00分を跨ぐように投下すれば、一人でも最大20レスが可能。
 その他のさる回避としては、株主優待の利用、IPの切替えがある。

 投下する方、目安にしてください。
 異論や間違いの指摘も受け付けます。

3:名無しさん@初回限定
09/10/18 17:20:40 Y/JzoZdz0
>>1

4:名無しさん@初回限定
09/10/19 00:13:56 KqnMqeE+0
ヘ:::::::::;;: -‐''''""( )1
 ゙、::::::::-‐''""" ̄"'i
  :V;;||:::: '~ニ=ッ, r='|
  i!f !:::::      ゙、i
  i!ゝ!::::     ‐/リ
  i::/:、 :::、  /''ii'V
  ̄ハ:::::\ "''il|バ''
諸葛亮 曰く
「は、はわわ、>>1様、乙です」

5:名無しさん@初回限定
09/10/19 04:59:32 fGnbgXQ60
ゆえ、、、、董√はまだかー!

6:名無しさん@初回限定
09/10/19 09:47:22 F8mGSVUqO
きょ~うも楽しく>1乙だぁ~♪

7:名無しさん@初回限定
09/10/19 13:04:17 oYgdtNXV0
>>1

ところで外史喰らいの人って続き書いてるのかな?

8:名無しさん@初回限定
09/10/19 14:59:31 EOKelTr6O
前スレ>46を見るんだ

9:外史喰らい ◆g3lwFV02dE
09/10/19 16:14:22 tCxAtfzy0
>>7
ひどいノルマのせいで、後1週間ほど文章に触れない生活を送っとります…
11月頭には投下できると思うんで、もう少しお待ちください。

10:名無しさん@初回限定
09/10/19 18:52:33 oYgdtNXV0
>>9
了解、全裸で待機しておきますわ

11:名無しさん@初回限定
09/10/19 19:39:34 m5qEy7rk0
>>10
せめてピンクのショーツを身につけるんだ

12:メーテル ◆999HUU8SEE
09/10/19 20:48:03 7S9sZB/I0
わたしの名はメーテル……投下予告をする女。
短編を書いたのだけど、……ちょっと多くなったので分割して投下させて貰うわね。
21日水曜日から、25日日曜日にかけての五日間、それぞれ午後9時30分からで、五分割の予定よ……。

明日は来られない可能性があるので、ちょっと早めに告知よ、鉄郎……。

13:名無しさん@初回限定
09/10/19 21:00:27 5yQMvLTQ0
久しぶりのメーテルか

14:名無しさん@初回限定
09/10/19 21:51:17 Vro8FuO10
ちょっと
寒いけど服脱いどくか

  ∧_∧
 ( ・∀・)
 ( ∪ ∪
 と__)__)  旦~

15:名無しさん@初回限定
09/10/19 21:58:14 c7vYO1Bn0
このスレにクーラーが設置されました。

  r─────┐
  | l王三王三王三王三l o==ニヽ
  | |王三王三王三王三|  .| //
  ゝ 乂━━━━乂_| `-=
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  / /  / / / /  / /
 / /  /  / /  / /  ゴーゴー

16:名無しさん@初回限定
09/10/19 22:22:06 1dsDduEr0
冷える!冷えるぞ!
しかし俺は耐えて見せるぞおお

17:名無しさん@初回限定
09/10/20 13:42:55 fLigYq1KO
基本このゲームはバカップルが多いよなw

あ、なんか寒い

18:名無しさん@初回限定
09/10/20 20:12:07 sYQ7SArD0
>>17 ということは三国重鎮はバカばっかりと言うことじゃないか!

19:名無しさん@初回限定
09/10/20 20:35:40 787PX58s0
>>18
うわ、ひでぇ
人の原型を残してねえよ…

20:名無しさん@初回限定
09/10/20 20:45:24 CONjfbWL0
今日はハンバーグか

21:名無しさん@初回限定
09/10/20 20:47:59 yoOXL6Xd0
まあ、国を損なわなきゃ、私生活でどれだけ恋愛に傾注しようが構わんからなあ。

22:名無しさん@初回限定
09/10/20 21:14:11 oPa/XKZQ0
>>18
砂漠の塵になったか

23:名無しさん@初回限定
09/10/20 22:26:26 JHQyE8yC0
まったく口の減らないやつらばかりだぜ






俺は猛省して次の人生はまっとうに生きようと思ってるんだ・・矢が・・矢が一杯で怖いんだorz

24:名無しさん@初回限定
09/10/21 00:01:15 kxedmqHq0
何の流れにも乗らずに徐庶元直ちゃんのことを妄想してみる
はわわとあわわに類するロリっ娘なのはガチとしてパティシエスタイルが有力か
エプロンとおたまで軍の采配…なんという違和感

最初劉備のとこにいたけど、母親が曹操の捕虜になってしまい魏に降るらしいけど
蜀√で三軍師そろって房中術の本を一心不乱に読みふけるのか
魏√で閑職についたところを北郷隊に拾われ肌馬になるのか

何にせよしっくりくる性格が設定できない時点で妄想オワタ\(^o^)/

25:名無しさん@初回限定
09/10/21 00:40:15 KYXV/PYU0
見た目蒼天徐庶そっくりなロリとか

26:名無しさん@初回限定
09/10/21 00:49:22 ywApdZlJ0
>>24
必殺技は是非とも、イナズマキックで。

いっかずちを落とすよ~!(バキャ

27:名無しさん@初回限定
09/10/21 00:59:00 sEvXWhH60
一人だけ巨乳なのを妬まれて魏に亡命するとか

28:名無しさん@初回限定
09/10/21 01:10:53 nMOsCMoLO
どうせなら横山リスペクトの外はねヘアーで

29:名無しさん@初回限定
09/10/21 01:11:10 4fv/lr+Q0
>>24
よし、ならば我が妄想を受けよ!


徐庶母、一刀に骨抜き

徐庶母、徐庶へ手紙(魏のたねう……じゃなかった天の御使いの良さを長々と)

お母さん子徐庶、魏へ

初めは母親以外の誰にもその内面というか感情を見せない
&母の事で一刀を敵視で関係最悪

一刀のがんばりで徐々に打ち解けていく

比較的一刀の前では素を見せるようになり、一刀の前限定で鉄面皮から
笑ったり怒ったり泣いたりころころ表情が変わるようになる

素の姿が徐々に母親へ見せているときよりも輝かしいものへ
(それを母親にからかわれ赤面しながら追いかけっこ)

一刀召し上がる(スリーサイズはお好みで)

二回目の時に母親乱入、親子丼

こんな感じでどうだぁ!

30:名無しさん@初回限定
09/10/21 01:26:33 TqmPzhtK0
妄想力7000…8000…!?
馬鹿な!まだ上がるのか…!

31:名無しさん@初回限定
09/10/21 07:51:48 qNIOToTY0
何故か徐庶は気風の良い姐御のイメージ

32:名無しさん@初回限定
09/10/21 07:55:09 lnWGMk+9O
良い意味で脱帽

33:名無しさん@初回限定
09/10/21 08:33:16 NgU/7J+70
一刀の良さは分かるけど
桃香も大徳があり徐々も好きになってる筈だから
良さ書いても母親が幸せに暮らしてると思い安心して蜀で腕振るうんじゃね?w

種馬に狙われて母親が危ないと思って魏に来ただけなら
一刀が安全と思えば蜀に帰るだろうしな

病気とかで騙す場合は曹操が華琳だから母親だまくらかして連れてくるのは覇王として許さないだろうし

34:名無しさん@初回限定
09/10/21 08:35:38 wUwlGynw0
大徳(笑)

35:名無しさん@初回限定
09/10/21 10:57:06 U+YuA/Em0
>>33
ジョジョと申したか

36:名無しさん@初回限定
09/10/21 11:28:44 wyQHafd90
         ____
       /      \
      /   \ , , /\     マシンガン継投するお!  
    /  ==⊂⊃=⊂⊃=\    ピッチャー翠!
     |     ⌒(__人__)⌒ |     ピッチャー鈴々!
      \      ` ⌒´  ,/     ピッチャー春蘭!
.      /⌒~" ̄, ̄ ̄〆⌒,ニつ
      |  ,___゙___、rヾイソ⊃
     |            `l ̄

   ∩∩∩    .    ∩∩∩
  .∩_:||_:|_:|        |_:||_:|_:∩
  │ ___  つ      ⊂  ___ │
   ヽ   ノ   ___   ヽ  ノ
  / /   /_ノ  ヽ、_\   ヽ \  ストライク一つもとれねーおwwwwwwwwwww
  (  く   o゚=⊂⊃=⊂⊃=゚o   > )  お手上げだおwwwwwww
  \ `/::::::⌒(__人__)⌒:::::\' /
    ヽ|     |r┬-|     |/
      \    | |  |     /
          | |  |
           `ー'´

37:名無しさん@初回限定
09/10/21 11:30:45 tG12i7iX0
桃香の胸には大徳がつまってるんだよぉー!

38:名無しさん@初回限定
09/10/21 12:16:27 SUoYpIZJ0
俺の中では、
徐庶と言われればちっこいロリっ娘のイメージだが、
単福と言われるときれいなお姉さんに…

>>16のIDの後ろ3文字がエロに見えたことといい、俺は重症みたいだ…orz

39:名無しさん@初回限定
09/10/21 18:51:28 pbN+z1To0
>>38
みえる!みえるぞぅ!
オレにもエロってみえるぅぅうう!!

40:メーテル ◆999HUU8SEE
09/10/21 21:21:02 b6a85zy/0
わたしの名はメーテル……投下する女。
「美羽の七乃」を含む一連の流れのスピンオフ短編を、先日の予告通り21時30分から投下させてもらうわ。

なお、今回は原作中で言及されていない名前のキャラクターが、何名か登場するのよ鉄朗……。

41:美羽と七乃スピンオフ「遼来来」(1/23)
09/10/21 21:30:17 b6a85zy/0
 押し寄せる呉軍、その数およそ十万。
 対して迎え撃つ仲軍、七千余名。
 その戦力差は、火を見るより明らかであった。

 場所は城壁の上。
 北郷一刀の前に広がっているのは、地平の彼方まで黒々と染め上げる一面の闇。
 時刻は真夜中。頼りない星の輝きを補うために、周囲にはかがり火が焚かれている。
 吹く風はない。凪いだ、澄んだ夜だ。
 そんな中、一刀はなにをするでもなく、ただわだかまる闇を見つめていた。
「こないなとこにおったんか」
 背後から、声をかけられた。
「うん、ちょっと眠れなくてさ」
 一刀は後ろを振り返ってそう答えた。
 その視線の先には、月を背負った美しい女性が立っていた。
 すらりと伸びたしなやかな手足、肉感的なくびれた腰とサラシを巻いた大きな胸、それを包
み隠さず主張する服装は、出し惜しみを好まない彼女らしい格好だ。
 普段は結い上げられている髪が、いまこのときばかりは下ろされており、それはまるで夜空
を流れる天の川のよう。
 だが、何よりも目を引くのはその目。
 ややつり目がちの目は、人を惹き付けてやまない宝石の如き光を放っている。
 艶やかな唇は不敵につり上がり、眼光と合わさって、なんとも挑発的な装いを作り上げてい
た。
「霞こそ、こんなところになにか用か?」
 ―彼女の名は張文遠。真名は霞。
 数時間後には呉の大軍と衝突する、この城の司令官であり、そして一刀にとって、決して失
いたくないと思う、大切な女性でもある。



42:名無しさん@初回限定
09/10/21 21:30:53 WqdzsP+o0
支援

43:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(2/23)
09/10/21 21:33:27 b6a85zy/0
「ん。うちも似たようなもんや、なんや、こう、戦いの前で滾ってしもうてな。頭冷やさなあ
かんて思ったんよ」
 そう言って、霞はこれから起こることに期待を膨らませる少女のような、屈託ない顔で笑っ
た。
 だが一方、一刀は霞のそんな顔を見ても、同じようには笑えない。
「……なあ、本当に、やるのか?」
「やるよ」
 即答だった。
「それよりもうちは、一刀の方が心配や。本当にええんか? 死ぬかも知れへんよ?」
 『死』。
 それを突きつけられただけで、一刀の膝は震えだしてしまいそうになる。
 だが、それをぐっと堪える。
 彼女を前に、そんな姿は見せられない。
 やせ我慢だろうとなんだろうと、そこは意地の一点張りだ。
「……大丈夫。囮は、俺がやる」
「やっぱり恋じゃ駄目なん?」
「ああ、この城を守るには恋の力が必要だ。そして、敵を奇襲するには、霞の速さが不可欠だ。
だったらもう、消去法で囮になれるのは俺しかいないだろ」

 一刀が囮となって敵を引きつける、そしてその隙を縫って、霞が最速の一撃で敵の喉元を突
き破る。
 夜明けにときを同じくした奇襲作戦。
 それが一刀、霞、恋しかいない、兵も将も圧倒的に足りていないこの城の力で、唯一勝ちを
拾えるかもしれない作戦だった。


44:名無しさん@初回限定
09/10/21 21:34:35 WqdzsP+o0
支援

45:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(3/23)
09/10/21 21:36:26 b6a85zy/0
「……怖い?」
「怖くないよ」
「嘘やな」
 霞は再び振り返って一刀の横に音もなくそっと立ち、ささやくようにそう言った。
「霞は、怖くないのか?」
「ん、勿論怖い」
 ただ二人、どこまでも続いていそうな暗闇を見つめながら言う。
 不意に霞の左手の指が、一刀の右手の指に絡んだ。
「うちは、一刀を失うのが怖い」
 手を結ばれて、ドキリとした一刀が霞の方を向くと、いつ詰めたのか、目と鼻の距離に彼女
の顔があった。
「しても、ええ?」
 驚いて、霞の言葉に声を返そうと開きかけたその途端、霞の唇がそれを奪っていた。
「ごめん。やっぱ我慢できんかった」
 会心の悪戯を成功させた少年の顔で、彼女はそんなことを言った。
 実に霞らしいその顔を見て、一刀の頬も自然と緩んだ。
「勝てるかな?」
「当然」
 再び即応して、彼女は言う。
「一刀のために、一刀と過ごす未来のために、うちは絶対に勝つ。勝って、生きて、戻ってく
る」
 だから、と続けて彼女はその顔を、一刀の胸に預けた。
「時間ギリギリまで、二人でこうしてたいな」
 そんなふうにして重なる、影と影。
 夜明けは近い。




46:名無しさん@初回限定
09/10/21 21:38:10 WqdzsP+o0
支援

47:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(4/23)
09/10/21 21:39:11 b6a85zy/0
 ◇◇◇

 しばらくすれば空も白み始めるであろう、そんな頃合い。
 呉軍の陣中。無数の天幕が張られたその一角で、二人の少女が闇を薄くしつつある空を見上
げていた。
「いよいよですね。蓮華さま」
「ええ、そうね……。孫家の悲願を成就するための第一歩、それがいま、踏み出されようとし
ているわ」
 呉王が妹、孫仲謀と、その片腕、呂子明である。
 二人はこの戦いにおいて、それぞれ総司令官とその参謀という役割が与えられていた。
 はじめて任された大役。二人とて、その責任を重く感じていないわけではない。だが、それ
以上に、大きな希望が胸に輝いていた。
 憎き袁術を討つ戦いの、最初の大一番を任されたのである。この戦いに勝てば、孫家の悲願
に大きく一歩近づくことになるだろう。
 重圧よりいまはむしろ、すぐにでも駆け出したい気持ちの方が勝っていた。

「蓮華さま!」
「ん? どうかしたの亞莎?」
 威風さえ感じさせる柔らかい笑みを浮かべた蓮華を前に、亞莎は頬を赤くして深呼吸した。
「私、頑張りますっ! 頑張って頑張って頑張りますっ! ですから、絶対勝ちましょう!」
 拳を握って息巻く亞莎の言葉に、蓮華は一瞬目をきょとんとさせたが、すぐにまた微笑んだ。
「ふふっ。今日の亞莎はいつも以上に頼もしいわね。期待してるわ」
「はいっ!」
 元気良く亞莎が答えた。


48:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(5/23)
09/10/21 21:42:26 b6a85zy/0
 今回の袁仲への進軍は、孫呉のほぼ全総力を持って行われる。そしてその背景には、先に北
方から袁仲に軍を進めた曹操の存在がある。
 強大な曹魏の軍事力に立ち向かうために、仲はいまその力の大部分を北部へと集結させてい
る。
 呉と隣接する南西部方面には、最低限の兵力しか残されていない。攻め込むなら絶好の機会
なのだ。
(大丈夫。何も問題はない、不安材料もない、負けるはずがない)
 亞莎が心中で一人ごちる。
 そう、今回の戦いは兵力比にして十対一以上。負けるはずのない戦なのだ。
 むしろ重要なのは、いかにして勝つか。
 この戦は事実としては火事場泥棒である。しかし、民草にそう思われるのは避けねばならな
い。
 幸いにして、曹操は良政を敷いてはいるが、万人に受け入れられる劉備のような大徳は持ち
合わせていない。また、袁術の風評は最近までお世辞にも誉められたものではなかった。
 そういった諸々を加味して考えれば、今回の戦の勝ち方次第では『火事場強盗』を『江東の
解放者』にすり替えてしまうことも十分に可能というのが、周瑜と陸遜という、孫家きっての
智才たちの判断だった。
 そして、その華々しき勝利をどう戦場に描くかが、自分の双肩にかかっている。そう思うと
亞莎は体の芯から震えが走る。
 しかしそれもこれも、蓮華の横に立っていれば、何も心配いらないように思えてくるから不
思議だった。

 孫仲謀という女性は不思議な魅力を備えた人間である。
 とき大胆、とき剛胆、それでいて繊細。細やかな機微を解し、ただ自然体で人を導く。
 そこにいるだけで光り輝く、太陽のような美しさを備えた大器、それが彼女だ。
 器の大きさに関してなら、現王孫策すらも自分自身以上であると認め、次世代の後継者であ
ると公言して憚らないほどである。
 だが、そんな彼女にも決定的に足りないものがあった。
 それが『経験』であった。

49:名無しさん@初回限定
09/10/21 21:44:28 WqdzsP+o0
支援

50:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(6/23)
09/10/21 21:45:33 b6a85zy/0
 先代孫堅の時代から戦場に立ってきた孫策からしてみれば、孫権はまだまだ若輩。
 けれど、長々とその成長を待っていられるほど彼女たちには時間も余裕もない。
 だからこそ、この度の戦の総大将に、彼女が据えられたのである。
 重要ではあるが、それほど難しくなく、危険も少ない。
 この度の戦は、孫家次世代を担う若者たちが経験を積むには、まさに絶好の機会だと考えら
れているのである。
 その証拠に、孫権、呂蒙の他にも、孫尚香や周泰といった他の若い将も、今回の戦場では重
要な役割を与えられていた。
 一方で周瑜、黄蓋、陸遜といった旧臣たちはこの戦いに参加しない。
 例外的に甘寧だけは、孫権のお目付として参加しているが、それにしたところで、経験不足
が危惧される布陣であることに違いはない。
 孫家の新たなる世代の試金石。この戦いはそういう位置づけなのだ。

(大丈夫っ、絶対に勝ちます!)
 そう亞莎が決意を固くしている最中、二人は後ろから近づいてくる足音を耳にした。

「あら二人とも、こんな早くから随分と張り切っているようじゃない」
 片手を上げてそう二人に声をかけたのは、背の高い女性。
 ぴっちりと服を纏い、それが彼女の凹凸をこれでもかと協調している。
 目つきは鋭い。だが、いまはそこに優しそうな色を湛えている。
 肌の色は褐色。
 彼女の名は孫策伯符、真名を雪蓮という。江南の小覇王と呼ばれる、呉王孫策その人である。



51:名無しさん@初回限定
09/10/21 21:48:11 WqdzsP+o0
支援

52:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(7/23)
09/10/21 21:48:49 b6a85zy/0
「はい姉さま。孫家の悲願、その大きな一歩を感じているところでした。ね、そうでしょ亞莎」
「は、はいっ!」
 堂々とした蓮華と、緊張のためかまだ堅さが残る亞莎。
 二人を見渡し、雪蓮はさもおかしそうに笑った。
「うん。私の目に狂いはなかったようね。その様子なら、あとを託しても大丈夫かな?」
 ―『あと』。まだ当分先の話であるはずのそれを言われて、孫権は端正な顔を曇らせた。
「姉さま、軽々しくあとなどと……」
 そう言って、孫権が姉に苦言を呈そうとしたところで、
「ごめんごめん。蓮華もきちんと成長したんだなぁって思うと、感慨深くってね。つい」
 あははと笑う。
 そして笑ってから、すぐに真剣な王の顔になった。
「ところで、二人ともちゃんと眠ったんでしょうね。まさか一晩中そこで星を見てました、な
んてこと言ったら、ちょっときつめに叱らなくちゃならないわよ?」
 雪蓮から疑惑の眼差しを向けられて、蓮華がうっと息を飲む。
 対して、亞莎から迅速なフォローに入った。
「ち、違います! 私も蓮華さまも、きちんと眠っています!」
「へぇ、どのくらい?」
「い、一刻ほど……」
 正直に答えた亞莎に、蓮華がため息をついた。
 嘘がつけない性分なのはわかる、だがもうちょっと気を回して応えられないものかと、蓮華
は自分のこめかみを押さえた。
 一刻、明らかに仮眠の時間である。到底しっかり寝ているとは言い難い。
 蓮華は仕方なしに、姉の叱咤を覚悟した。
 だが、その予想に反して、次に雪蓮の口から出てきたのは柔らかな言葉だった。
「ならば良し。一刻でも寝ているのと寝ていないのでは、大分違うからね。それだったら私か
ら言うことは何もないわ」
「雪蓮姉さま……」
 てっきり叱られると思っていた蓮華は、思いがけぬ姉の言葉に己の耳を疑った。

53:名無しさん@初回限定
09/10/21 21:49:52 WqdzsP+o0
支援

54:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(8/23)
09/10/21 21:52:33 b6a85zy/0
 その驚きが顔に出ていたのだろう、雪蓮は蓮華の顔を見て唇を尖らせた。
「あら、私だって人の子よ。与えられた大役に、心が逸って眠れなくなる気持ちくらいはわか
るつもりよ」
 そう言って、雪蓮は微笑む。
 その笑顔に、蓮華は心の中で胸をなで下ろした。

「で、早速先ほど、敵に動きがあったみたいだけど、どう対処したのか聞かせてくれないかし
ら」
 敵の動きというのは、少し前に城から敵の一軍が現れ、呉軍とは逆方向へ逃走していったこ
とを指していた。
「あ、はい。その軍の追撃は周泰・甘寧両将軍に当たってもらいました」
「へぇ。その心は?」
「はい。敵軍の将は二人。張遼と飛将軍呂布です」
「らしいわね。袁術ちゃんが有する最強の手駒ね」
「はい。ですが、その手勢は併せて七千程度。我が軍の敵ではありません」
「そうね。戦いは数だもの」
「ならばこそ、敵は本隊に増援を頼むためにこの場を脱出したのだと思われます」
「うんうん。私もそう思うわ」
「さて、ならば重要になるのは、張文遠、呂奉先、どちらが城を脱出したかということですが、
これは張遼だとしか考えられません」
「それはなぜかしら」
「籠城戦となれば、張遼将軍最大の持ち味である、その『神速』が生かしきれません。また、
残るもう一人は天下に名高い飛将軍。どちらが残って我が軍と戦うかと考えれば、自ずと答え
は見えてきます」
「なるほど。逃げたのが張遼で、城に籠もって我々を迎え撃つのが呂布ということね」
「はいそうです。ですから、『神速の張遼』を追いかけるために、みんめ……周泰将軍と甘寧
将軍に兵士三千ずつを付けて派遣しました。周泰には足止めのため、昼間のうちから敵が退路
に使いそうな道に罠を仕掛けるように指示してあります。必ずや追いついてくれることでしょ
う。そして、一度追いついてしまえば、数に勝るこちらの勝ちは揺るぎません。よって、これ
で張遼を討ち取ることが可能なはずです」

55:名無しさん@初回限定
09/10/21 21:53:41 ZHy/Sevx0
支援


56:名無しさん@初回限定
09/10/21 21:54:51 WqdzsP+o0
支援

57:名無しさん@初回限定
09/10/21 21:55:00 KnCV1RCZ0
支援

58:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(9/23)
09/10/21 21:55:59 b6a85zy/0
「なるほど。事前の準備も万端というわけね」
「はい。また蒋欽・賀斉両名が敵城攻撃を準備しております」
 語り終えた亞莎の姿は、普段の引っ込みがちな様子からは考えられない、凜としたものだっ
た。
 それを見て雪蓮が、険しそうにしていた顔を崩した。
「……合格。よく頑張ったわね、亞莎」
 待ち望んでいた言葉。それ言葉を聞いた亞莎の顔が、ぱっと華やいだ。
「本当ですか!?」
「ええ、これならなんの問題もないわ。今後も蓮華のこと、よろしくね」
「やったわね、亞莎」
 雪蓮の言葉を聞いて、蓮華も亞莎の手を取って己がことのように喜んだ。
「はい! 蓮華さま!」
 亞莎は握られた手を何度も振って、笑顔を振りまく。

 そうして、三人は睦まじくを幸福なときを過ごした。

 鬼が迫るとも知らず。


 ◇◇◇


 駆ける。愛馬黒捷が夜の闇を縫って駆ける。
 精鋭中の精鋭。八百騎からなる決死隊を率いて、張遼は神速にて敵に迫る。
 夜を征く騎馬たちは、速く、速く、更に早く。ぐんぐんとその速度を増していく。
 その先頭で、張遼は愛しい男を想い、徐々にその思考をシャープにする。


59:名無しさん@初回限定
09/10/21 21:57:09 WqdzsP+o0
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60:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(10/23)
09/10/21 21:59:04 b6a85zy/0
 一刀は己の役割を全うした。
 敵の前衛部隊の一部が、囮である一刀を追いかけてその姿を消している。
 ならば次は、自分が役目を果たす番だ。
 愛する男が稼いだ時間を、一瞬たりとも無駄にはできない。自分が無駄にしたその時間だけ、
一刀の命は縮まるのだ。
 愛しい男を救うためには少しでも速く、囮にかかった部隊を撤退させるしかない。
 そのためには忠犬どもに、自分の主人が危機に陥っていると知らせてやるのが手っ取り早い。
 そうやって取って返した前線部隊が駆けつけるより先に、孫家の血脈を残らずすべて絶つ。
 それが、霞が己に課した使命であった。

(一刀のためなら、うちは……うちは!)

 あっという間に、霞の視界一杯に敵の大軍勢が広がった。
 一瞬体に身震いが走る。
 それでも霞は馬足を緩めたりしない。むしろその逆に、速度を上げる!
 狭まった視界の先、そこにいたのは、ここは通さぬとばかりに大槍を構えて行く手を遮る小
柄な少女。

(獣でも、鬼でも、なんにでもなったる!)

 接近、接触。
 一瞬の交錯。
 翻る飛龍偃月刀。
 すれ違いざま振るわれた斬撃は、少女の体を構えた大槍ごと真っ二つにしていた。


61:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:00:02 WqdzsP+o0
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62:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:00:51 KnCV1RCZ0
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63:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(11/23)
09/10/21 22:01:29 b6a85zy/0
「ち、陳武将軍ーーーーーーーーっ!」

 宙を舞った少女であったものの残骸から、生暖かい液体が滝のように降り注ぐ。
 嗚呼、いま斬ったのは武勇名高い赤目の陳武であったか。
 周囲から上がった悲鳴を耳にして、霞の中からそんな考えが気泡のように浮かんで消えた。
 それでも彼女は一瞬たりとも心を残さず、全速力で馬を走らせる。
 戦いの喜びも、勝利の悦びもない。
 いま彼女にあるすべては、愛した男を救うというただそれだけ。

(うちは獣、うちは鬼。孫策、あんたらを地獄に叩き落とすまでは止まれへんっ! だから、
一刀、一刀、一刀―!!)

 想いが純化され、一刀以外のことが頭から追い出される。
 その境地に辿り着いたとき、ふっと霞を縛るすべての束縛が消え去った。
 そして彼女は、巨大な力が自分の体に流れ込むのを感じた。


 ◇◇◇

 雪蓮が立ち去ってからしばらく。
 天幕へと戻った蓮華たちを待っていたのは、心地よい喧噪であった。
 決戦を前にして、その場にいる誰しもが活力を漲らせた顔をしていた。
 興奮に包まれた天幕に入り、蓮華は流れが自分たちに来ていることを確信した。
 司令官の登場に、それまで騒がしかった天幕の中が静まりかえる。
 そんな中を、蓮華は亞莎を付き添わせてまっすぐ突っ切って歩く。
 そして一番奥まったところにある座の前まで来ると、ゆっくりと腰を下ろした。
 座に着いて、改めて家臣たちの顔を順ぐりまじまじと見る。


64:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:03:28 WqdzsP+o0
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65:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(12/23)
09/10/21 22:04:17 b6a85zy/0
 その場にいる誰も彼もが、期待に目を輝かせた子供のような顔をしていた。
 皆が、蓮華の一挙一頭足に注目し、その言葉をいまかいまかと待ちわびている。
 そんな彼らを前に、蓮華は一つ深呼吸して言った。

「構わない。続けて欲しい」

 その彼女の言葉に、
「若! では早速!」
「孫堅さま、わたくしに献案が!」
「わたくしにも!」
「いやいや! この私が先だっ!」
「ここはこのわたしめの報告が優先されるべきであろう!」
 主人の着席を待ちわびていた群臣から、次々声が上がる。
 ふと横を見ると、他の者たちと同じように目をきらきらさせた亞莎がこちらを見ていた。
 蓮華はその様子に内心苦笑しながら、それを一切表に出さず、自信を滲ませた顔で告げた。
「呂蒙。あなたが聞きなさい」
「―はいっ!」
 元気良く亞莎は答え、
「孫権さまへの献案・報告は、まずこの呂蒙が承ります!」
 その声に、今度は亞莎へ殺到する武官群臣たち。

 現在の呉軍の主な懸案事項は、今後の進軍経路と、北部から進軍する曹操軍の行軍予想とそ
の対策である。
 蓮華たちの目的は目先の城を落とすことではない。本命は寿春の占領にある。
 そのことは、同じように北から寿春目指して攻め上がってきている、曹操軍の存在抜きには
語れない。

66:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:06:11 WqdzsP+o0
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67:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(13/23)
09/10/21 22:07:53 b6a85zy/0
 彼らが見据える本当の敵は、袁術軍との戦いのあとのに控える曹操の大軍なのである。
 一応、寿春攻略後には後続二万を率いた周瑜・黄蓋らといった重臣たちが合流する予定であ
るが、それをあてにするようでは曹魏の屈強な軍には勝てないことを、亞莎はしっかりと把握
していた。
 だから彼女がいま最も重要視しているのは、無駄を省いた迅速な行軍と、緒戦での消耗を最
低限に抑えることであった。

 矢継ぎ早に裁可と命令を飛ばす亞莎には、手負いの老いた虎を仕留める若い虎の余裕はない。
 既に亞莎の中では既に、真の敵である曹操軍との戦いが始まっているのである。

 そんな亞莎の姿を頼もしそうに見ていた蓮華の顔が、不意になにかに気づいたように別の方
に向けられた。
「――?」
 主人の不審に気づいた亞莎が、怪訝な顔をする。
「どうかなされましたか?」
「いえ……なにやら、騒がしくないかしら」
「騒がしい?」
 蓮華の言葉に、亞莎がさっと手を挙げた。
 それを見た家臣たちの言葉が、一斉にやんだ。静かになった天幕の中、亞莎は目を閉じて耳
を澄ます。
 しかし、
「いえ、私には何も……」
 別段、何もとりたてて警戒しなくてはいけないような物音は聞こえなかった。
「しっ」
 けれども蓮華はそう言って亞莎の言葉を遮ると、目を閉じて広げた手のひらを耳の後ろにや
った。

68:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:08:09 f8/4I36aO
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69:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:08:31 WqdzsP+o0
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70:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(14/24)
09/10/21 22:10:10 b6a85zy/0
 一切何も聞き漏らさぬと、蓮華は耳に神経を集中させた。
 天幕の中に先ほど以上の沈黙が落ちる。
 誰もが息を飲む中、再び蓮華が口を開いたのは、たっぷりと十秒ほども経ったあとだった。
「……なにかの、息吹? それに合わせて大気が震えている」
「大気、ですか?」
 呟きに、亞莎が思わず疑問を返した。
 ものは試しと、亞莎も蓮華と同じように耳の後ろに手をやってみたが、やはり彼女には何も
聞こえなかった。
「なにかの聞き間違いでは?」
 戦場において、聞こえないものが聞こえてくるというのはよくあることだった。
 極度の緊張や疲れが原因だと言われているが、はっきりとはわからない。
 経験を重なれば少なくなるというそれが、蓮華が耳にしたものの正体に違いないと亞莎は思
った。
 何せいまは特に決戦前、気が昂ぶっている状態である。幻聴の一つくらい聞こえたところで
不思議なことではない。
 だが、亞莎の予想を裏切るように、争乱を告げる伝令が天幕に飛び込んできたのは、その直
後のことだった。

「ご報告申し上げます!」
 現れた男の姿。
 滝のように汗を流したその兵士の様子に、亞莎はなにか尋常ではないことが起きたと判断し
た。その場にいる各々の顔も、緊張で一気に顔が引き締まる。
「なにがあったか!」
 まずは軍師である亞莎が、一歩前に踏み出して兵士に報告を促す。
 亞莎はこの日のために様々な策を練っていた。大概の事態には対処可能とするだけの用意と
自信がある。
 口にした言葉には、それに相応しい自信が込められていた。
 だが、兵士の口から飛び出したのは、そんな彼女すら驚かせるに十分なものであった。


71:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:11:35 WqdzsP+o0
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72:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(15/24)
09/10/21 22:13:50 b6a85zy/0
「敵騎馬部隊が我が軍を奇襲! 迎え撃った陳武さまが討ち死になさいましたっ!」

 予想外の一言で、亞莎の顔から一気に血の気が失せた。
「そ、そんな馬鹿な!? 敵の部隊は袁術に援軍を請うために出撃したはずです! 我が軍に
奇襲を仕掛ける余裕なんてあるはずが……!」
 動揺を抑えきれず、その言葉尻が震えてしまう。
「まさか……」
 しかし一方、彼女の頭の冷静な部分は、結果から過程を浮かび上がらせていた。
「まさか、あれは囮? ……別働隊が奇襲作戦、本命はこちらで……」
 一つ一つを口に出し、整理していく。
 思考停止しそうになる理性を置いて、脳髄だけがその回転をずんずん増す。
 事実だけ並べれば、導き出される推測は実に明快だ。
 敵は二つに分けた部隊の一つを囮にし、城を空にするのも厭わずもう一つの部隊を使って強
襲を仕掛けてきたに違いない。
 自分たちはまんまとそれに引っかかったのだ。

「………」
 最初は予想外の事態にパニックに陥りかけていた亞莎だったが、落ち着くにつれて彼女の姿
は静かに爪を噛んで黙考する形に変わっていた。
 考えを巡らし、思索が一段落した亞莎ははたと気がついた。
 自分をじっと見ている目があった。
 無論、視線の主は蓮華である。

「亞莎、策を」
 短くそう切ったその言葉。
 彼女は王の威風を漂わせながら、固い表情で亞莎に問いかけていた。
 その唇は硬く引き絞られている。奥歯を強く噛みしめているのが、亞莎にも知れた。

73:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:14:28 WqdzsP+o0
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74:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(16/24)
09/10/21 22:16:36 b6a85zy/0
 そんな主人の姿を見て、亞莎は己の不明を恥じた。
 王が怒りを、動揺を押し殺している。だというのに、そんなときに軍師たる自分が平静を失
い、あまつさえ、そののちに沈思に耽るとはなんたるさまか。
 亞莎の顔が真っ赤に染まる。内心では恥ずかしさのあまり、逃げ出してしまいたかった。
 だが、亞莎にはまずなにを置いてもやらねばならないことがあった。

「……その前に確認させてください」
 言って亞莎は再び兵士に向き直った。
「敵の数は如何ほどですか?」
「はっ。正確な数はわかっていませんが、数百から、数千とも……」
 その報告を亞莎はしばし検討する。
 こちらの裏をかいた迅速な奇襲。おそらく実際の数はそう多くないはずだ。多くて精々二千
といったところ。
 それでもその数は事前に掴んでいる城の戦力として、かなりの割合になる。
 ならば城に残っている戦力はどれだけか。

 頭の中で冷静に算盤を弾き、彼女はすぐさま判断を下した。
「呂蒙隊、賀斉隊は本陣を守るように展開し、奇襲部隊を迎撃。その間蒋、欽隊は予定通り敵
城の攻撃を行ってください。また、追撃を行っている周泰隊、甘寧隊にも連絡を。敵の目的は
我が方の混乱を招くことです。各人には落ち着いてことに当たるように伝えてください」
 亞莎の口から流れるように、流暢な言葉がついて出た。
 敵の計略は実に単純かつ大胆だ。だがそれだけに、全容さえ掴んでしまえば脆い。
(大丈夫、いけます!)
 あえて当初の大方針は変えない。
 亞莎の指示した作戦は、数の上での圧倒的有利を生かした強引な力押し、至極真っ当なもの
であった。


75:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:17:01 KnCV1RCZ0
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76:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:17:09 WqdzsP+o0
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77:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(17/24)
09/10/21 22:19:56 b6a85zy/0
 伝令は亞莎が言ったことに蓮華が頷いたのを確認すると、新たなる役目を果たすべく立ち上
がり、その場を辞した。
 そうして天幕を去っていく伝令の背を見て、亞莎は面持ちは崩さぬままに緊張を緩和させた。
 一方亞莎の物言いを目にした群臣たちは、ほうっとその相貌を崩すことになった。
 未だに軍内からは『阿蒙ちゃん』など侮られることの多い彼女であったが、いま見せた背筋
を凛と伸ばした堂々たる立ち居振る舞いは、認識を改めねばならないとそう思わせるに十分な
ものであったからだ。
 彼らはこのとき、亞莎のことを呉の次代を担う才であると、はっきりと認めたのである。

 他方、亞莎や群臣たちが緊張を解いたのとは対照的に、厳しい面持ちを変えてはいない者が
いた。
 蓮華である。

 亞莎が指示した作戦は、戦力差を十分に活かした実に常道に乗っ取ったものである。
 なにも間違ってはいないし、問題もないだろう。だというのに、蓮華は現状に捨て置けない
しこりのようなものを感じていた。
 このままではいけない、なぜかそんなことを思うのだ。

「―亞莎」
「? どうかなさいましたか蓮華さま」
 蓮華の呼びかけに、亞莎は無防備な表情を晒す。
 他に異常がないか、もう一度調べた方が良い。
 そんなことを言おうとした矢先であった。
 蓮華の肌が、突然粟立った。
 そしてそれは目の前の亞莎も同じだったのか、彼女もまたなにかに戸惑った顔をしている。


78:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:20:04 ZHy/Sevx0
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79:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:20:51 WqdzsP+o0
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80:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(18/24)
09/10/21 22:23:19 b6a85zy/0
「!?」
 驚きも露わに蓮華が立ち上がるのと同時、彼女は突如として天幕が真っ二つに裂けたのを目
撃した。

 そして裂けた空からなにかが落ちてきた、そう感じた次の瞬間、世界を叩きつぶすかのよう
な轟音が響いた。
 広がった衝撃が周囲をなぎ倒し、砂埃が竜巻のように吹き上がる。
 巻き込まれた兵士が、何人も宙を舞う。

 しっかりと見ていられたのはそこまでだった。
 砂嵐が二人をも巻き込み、目を開けていられないほどになってしまったからである。
 それでも鋭敏な感覚を衰えた視力の代わりにしている亞莎には、猛威の中心になにかがいる
のがわかった。
「い、一体なにが……」
 感覚を研ぎ澄まし、その正体を探る。
 すぐにその正体は知れた、それは馬に騎乗した何者かであった。

 それが何者であるかを確かめる前に、亞莎は更なる異変に気がついた。
 捉えたのは聴覚。
 亞莎の耳は、大気の震えを感じ取っていた。

「蓮華さま! お逃げください!」
 誰かが、事態の把握すらできていないまでも、そう本能的に叫んだ。
 だが、すべては遅きに失していた。



81:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:23:56 WqdzsP+o0
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82:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:24:16 KnCV1RCZ0
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83:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:25:33 waBQWGLO0
紫苑

84:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(19/24)
09/10/21 22:25:50 b6a85zy/0
 砂嵐が収まったあと、最初に降り注いだのは真っ赤な雨だった。
 生暖かい雨。
 ―それが血だと気づいたころ、今度は別のものが降り注ぎ始めた。
「……っ!」
 亞莎が悲鳴を殺して息を飲む。次に降ってきたのは、腕、耳、腸、大小様々な人間の部品。
 それら中には、よく知る鎧の色が混じっている。
 しかしそれが、味方の、呉の兵たちのなれの果てだと至るには亞莎は若すぎた。
 今度こそ頭が真っ白になる。
 けれども、真の恐怖はその後に来た。

『雄雄雄雄々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々!!』

 その声に、比喩でなしに大地が揺れる。

 蓮華たちの前に立ちはだかったなにかが、生きとし生けるものすべてを震え上がらせる咆吼
を発した。
 そして手にした長物を、恐るべき速さで振るって血糊を散らす。
 するとその埒外な圧力を受け、周囲に残っていた人間が赤い霧となって四散する。
 そんな光景に遅れるようにして、これまで耳にしたことがないほどの断末魔の大合唱が、蓮
華たちの耳朶を打った。

 このようにして現れた者に亞莎は、しかしてそれを語る口を持たなかった。

〝―何という〟


85:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:27:09 WqdzsP+o0
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86:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(20/24)
09/10/21 22:28:16 b6a85zy/0
 凄惨にして残虐。
 その渦中から姿を見せたのは、馬に跨った一人の女だった。
 馬も人も、その身はこれ以上ないというほど、血で染められている。
 髪も、顔も、すべてがべっとりと汚れ、幾重も赤と黒が重ねられた服は、ぴったりと体に張
り付いている。
 手には、蛮行の象徴たる凶器が握られている。

 その姿を見て思う。

〝何という、強さ〟

 率直な、亞莎の感想である。

 呂子明という者は元来武人である。
 戦いの渦中で軍師としての才を見い出され、軍師として仕えているが、その本質には常に武
がある。
 彼女を語るにはまず彼女の武を語らねばならない。それほどまでに呂蒙と武は分かち難い。
 そのように彼女だからこそ、現れた者の姿を一目見て、全身が総毛立つのを止められなかっ
た。

〝常軌を逸している〟

 その姿を見ればわかる。この者は数万からなる敵勢を、中央から突っ切って、ここに到達し
たのだ。
 想像もつかぬほどの屍の山を築いて、自分たちの前に現れたのだ。
 それはもう明らかに、人の領域では為し得ない強さだった。
 その力は、亞莎の知るあらゆる強さを超えていた。


87:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:30:07 WqdzsP+o0
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88:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:30:37 wUwlGynw0
張来来

89:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(21/24)
09/10/21 22:31:13 b6a85zy/0
 気がつけば、大気を振るわせる喧噪が、最高潮に達している。
 徐々に大きくなり、ついにはっきりと聞こえてきたそれは……。

『  来! 』

『  来 来! 』

『  遼来来! 』

『  遼遼来!! 』

『  遼 来 来 !!! 』

『  ―張!  』

『     ―来!  』

『        ―来!  』

『       遼 !     』

『       来 ! !     』

『       来 ! ! !     』

 恐慌に陥ったものたちが上げている、天を裂かんばかりの怒号と悲鳴だった。
 恐怖の伝播よりなお速く、張遼はここに辿り着いたのだ。


90:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:31:59 KnCV1RCZ0
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91:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:32:04 WqdzsP+o0
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92:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(22/24)
09/10/21 22:34:19 b6a85zy/0
〝これが天下に聞こえし『神速』、これが『張遼』〟

 瞳に映ったその姿が、亞莎の心臓を鷲掴みした。
 汗が噴き出てくる、動悸が速まる、呼吸が浅く速くなり、ともすれば忘れてしまいそうにな
る。
 目を逸らしたいのに、逸らせない。釘付けになった視線が離せない。
 全身の毛という毛は逆立ち、体ばかりが熱くなる。
 だというのにその一方で、その内面は凍り付くようにどんどん冷えていく。

 そこに至りようやっと、亞莎は自分が感じているのが〝恐怖〟だと気がついた。

〝あれは人か?〟

 亞莎は単純な疑問を浮かべた。
 本当に人なのか、人ではないなにかでないか。
 あるいはそうならば、このまま過ぎ去って欲しいと、天災じみたそれに願った。

 だが、それはゆっくりとこちらを見た。
 恐ろしささえ越えた存在が、

 こちらをミた。

 そして、その貌を奇妙に歪めた。
 あとから思い出しても、そのときに張遼がどんな顔をしていたのかを亞莎は思い出せなかっ
た。
 ただ口にした言葉だけが、耳元でささやかれたようにはっきりと聞き取れた。



93:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:35:38 WqdzsP+o0
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94:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:36:54 ZZbKhS0nO
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95:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:37:05 KnCV1RCZ0
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96:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(23/24)
09/10/21 22:37:08 b6a85zy/0
  『ミィツケタ』

 途端、亞莎にかかっていた呪縛が解かれた。
 恐怖心がぐるりと反転して、それがそのまま行動に繋がる。
 体を前に出そうとする。
 呉の将として、なにを犠牲にしてでも、蓮華だけはお守りしなくてはならないと、軍師とし
て臆した心より先に、武人としての体が動いていた。
「総員! 孫権さまを守れ!」

 そして即座に動いたのは亞莎だけではない。
 周囲にいた屈強な男たちもまた、雄叫びと共に張遼へと殺到しようとしていた。
 彼らこそは雪蓮、そして蓮華を守ることを何より身上とする者たち。
 近直で王を守るという名誉に浴することを許された真の精鋭、孫家親衛隊である。

『おおおおおおおおっ!』
 天地が轟く。雄々しき叫びがこだまする。
 呉軍の中でも最も選りすぐられた猛者たちが、我先にと飛びかかった。
 その数三十。これだけの剛の者が一斉に襲いかかれば、どれほどの猛将であっても無事では
済むまい。
 そう思わせるに十分な、気迫と勢いを彼らは纏わせていた。

 だが、彼らは前に現れた存在は、既にそんな次元で語られるものではなかった。

 亞莎が感じたのはごうっという音、続いて旋風の唸り。
 視線の先では、赤い突風としか形容できないものが、男たちをまとめて貫いていた。
 次の瞬間、断ち切られ、八つ裂かれ、刻まれて爆散し、周囲に真っ赤な霧のみを生きた痕跡
として消え去る近衛兵たち。
 その動きを、亞莎は断片たりとも見抜くことができなかった。


97:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:38:57 KnCV1RCZ0
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98:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:40:18 WqdzsP+o0
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99:美羽と七乃スピンオフ「遼来来1」(24/24)
09/10/21 22:40:34 b6a85zy/0
「その赤い髪……あんたが孫策やな」
 なんでもないことを訪ねるように、女が聞いた。
 そして答えも聞かずに、散歩でもするかのような気安い足取りで馬を前に進め始める。
「別に恨みはあらへんが……」
 軽快な声とは裏腹に、血に汚れた顔は、仮面のように無感情。
 けれどもそれは、嗤っているようにも、泣いているようにも、怒っているようにも、苦しん
でいるようにも見える、不思議な貌をしていた。

「とりあえず」
 地の底から響くようなその声が、
「―死ね」
 宣告するさまは、まさしく地獄の獄卒のそれであった。

 蓮華を標的に定め、張遼は必殺の間合いに飛び込むために、馬の腹を蹴った。
 すると名馬黒捷が嘶きとともに前足を踏みしめ、恐るべき瞬足を発揮する。
 遮る暇もない。
 刹那ののち、蓮華の視界一杯に、凶器を振りかぶった赤い影が映っていた。

 誰もが動こうとする。
 けれども、その誰よりも張遼は速く。
 飛龍偃月刀が、神速をもって蓮華の首を刈り取るべく音をたてて走った。


100:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:41:32 hw9D9R/+0
ここで、ここで終わりなのか


101:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:42:55 WqdzsP+o0
しえ…鬼引きだなあw

102:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:43:58 wUwlGynw0
>>12で、今日から五日間連続でくると言ってるし、明日までの辛抱だな。

103:メーテル ◆999HUU8SEE
09/10/21 22:44:28 b6a85zy/0
わたしの名はメーテル……投下終了を告げる女。
というわけで、今回は一刀が活躍する舞台裏のお話よ。

次回は明日の午後9時30分から、似たような文量よ、鉄郎。

104:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:45:42 wUwlGynw0
おつかーれ。
この分量が五つかw
楽しみだ。

105:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:45:59 DlBkZcQe0
今日はココまでっすか?

「霞すげぇぇぇ…。」の一言ッス。

お疲れ様でした。

106:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:46:11 KnCV1RCZ0

霞怖ええ……

107:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:47:57 ZHy/Sevx0
これはトラウマになるレベル

108:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:49:35 WqdzsP+o0
>>103
メーテル氏乙です
霞がマジもんの鬼状態ですな
次回の一刀サイドの話も楽しみだ

>>74の蒋、欽隊は蒋欽隊ですかね

109:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:51:00 wUwlGynw0
>>107
七夕の時、蓮華が霞の名前だけでガクブルしてたくらいだからなw

110:名無しさん@初回限定
09/10/21 22:52:13 FBfHy36e0
乙~

やべ思わず服脱いじまったよ

111:名無しさん@初回限定
09/10/21 23:06:15 wg6o03RdO
乙ですよ~

恋する乙女は無敵!って感じ。

112:名無しさん@初回限定
09/10/21 23:10:05 Yh3VvfyL0
無敵すぎるかなーなんてちょっと思ったけど

霞が張遼ってこと思い出したらそんなことなかった

113:メーテル ◆999HUU8SEE
09/10/21 23:17:53 b6a85zy/0
>>108
わたしの名はメーテル……うかつな女。
その通りね、そこの部分は正しくは「その間、蒋欽隊は予定通り敵~」よ、>>108の鉄郎……

114:名無しさん@初回限定
09/10/21 23:34:44 ZHy/Sevx0
史実でも無双だったしな

115:名無しさん@初回限定
09/10/22 02:03:04 AvotgMt+0
遼来遼来
このイベントを恋姫で、しかもメーテル氏に執筆していただけるとは、
感無量です!

116:名無しさん@初回限定
09/10/22 02:46:59 y2e120mT0
>>40
「美羽と七乃」だな

にしてもちんこさん
やっと出たと思ったら喋ってるの3レスかよw


117:名無しさん@初回限定
09/10/22 05:46:54 vBmDkf8J0
まさかの黒捷たん登場wお水が怖いのよね

118:名無しさん@初回限定
09/10/22 07:02:27 AzysJQAk0
霞こええけど、こんな強かったっけ?
と思ったけど蜀√でも恋と互角にやり合ってたんだった
ていうか、張遼だもんな

119:名無しさん@初回限定
09/10/22 09:04:09 SQ7TvQA40
メーテル氏乙です。
>『ミィツケタ』
これは確実にトラウマになるレベル。

あと、12レス目、
>「孫堅さま、わたくしに献案が!」
これは孫権でしょうか?

120:名無しさん@初回限定
09/10/22 10:36:36 oQ6BoV6e0
最近はロダに上げられるのが主流だから、スレに投下されたのみて懐かしくなった

121:名無しさん@初回限定
09/10/22 12:13:46 YjKYnTA3O
史実での『800人の張遼軍が10万の孫権軍を撃破した』という嘘臭い話がすんなり納得出来たなぁ。

122:名無しさん@初回限定
09/10/22 12:18:49 6HIcgyv50
遼来来やられちゃったよー、と思っているSS作者はきっといるw

123:名無しさん@初回限定
09/10/22 12:58:23 noyKmrd10
まあそれは先に書いちゃったもの勝ちって部分があるからなw
魏ルートでとか切り口変えてやりようはあるんだろうけど。

124:名無しさん@初回限定
09/10/22 13:01:53 56+CW8Rq0
流石数少ない演義よりも史実のほうが派手な活躍した武将w

125:名無しさん@初回限定
09/10/22 13:05:26 AvotgMt+0
>>117
黒捷「血は平気ッスよ!」

自分もチラッと思ったんだけど
メーテル氏は某蒼天を参考にしたんだろうか

126:名無しさん@初回限定
09/10/22 13:16:41 GwDqQP6rO
俺は黒捷たん登場と陳武真っ二つでそう思った

127:名無しさん@初回限定
09/10/22 13:24:00 AvotgMt+0
もしそうなら、呉追撃とかむっちゃ楽しみだ
全裸待機どころか、全裸で4日間行動できる

128:名無しさん@初回限定
09/10/22 13:26:23 wRmu6Qeo0
メーテルは何気ない所にネタが隠れてるから気が抜けないw

129:名無しさん@初回限定
09/10/22 13:50:07 WMypk/hQ0
上着から袴からサラシまでも真っ赤に染まってるんだろうなぁ

130:名無しさん@初回限定
09/10/22 14:00:45 wRmu6Qeo0
下までぐっしょり……ゴクリ

131:名無しさん@初回限定
09/10/22 14:22:18 mXICK8Zn0
>>111
乙女?一刀さんが食ってないはずはないw

恋姫†無双その名のとおりの奮闘振りを納得できる感じなのがいいな
まあ上位クラスの武将がマジギレして一閃として突っ込んできたら抑えきれないよなw
しかも呉の武TOP陣:雪蓮・思春・明命・祭が全員いないならなおさら

132:名無しさん@初回限定
09/10/22 14:45:58 vBmDkf8J0
霞はテンションで強さが大きく変化するような印象はあるな
平常時は春蘭や雪蓮と同じかそれ以下だろうが
MAXなら愛紗以上、優れた愛馬に乗ってたらさらに倍でドンだw

133:名無しさん@初回限定
09/10/22 14:47:38 6HIcgyv50
霞は配下も強い印象があるな。
他は部隊より将だけな気がするんだがw

134:名無しさん@初回限定
09/10/22 14:55:14 dQswG6Tz0
霞を甘く見た呉陣営のミスか

135:名無しさん@初回限定
09/10/22 15:07:14 mXICK8Zn0
まあ恋心補正なんて一刀に出会ってない亞莎には思い浮かばないわな
あと、TOPが嫌ってるはずの袁術だから忠義に値する人物と評価しないだろうから
こんな鬼神になって攻めてくるとは思わないだろうし

136:名無しさん@初回限定
09/10/22 15:16:24 d4g4xTbh0
三国屈指の名将の一人として警戒はしていたんだろうけど、まさかあんな化け物状態になってるとは思わんわなw
霞達が少数って事で勝利を確信して、その後の対魏戦に気を取られてて油断があったのもあるだろうけど。

137:名無しさん@初回限定
09/10/22 15:33:43 AvotgMt+0
>>128
ただ、ネタ元と思われる某蒼天では李典と楽進の見せ場でもあったので
それだけが残念

138:名無しさん@初回限定
09/10/22 15:36:32 6HIcgyv50
いや、まあ、蒼天持ち出すまでもなく、史実でも楽進たちの見せ場だけどな。

139:名無しさん@初回限定
09/10/22 15:42:56 AvotgMt+0
史実の方では呉軍襲来に慌てふためいた印象が強いかな
張遼に落ち着かされてからは協力して当たったけど

140:名無しさん@初回限定
09/10/22 21:23:26 A71Zw0Ya0
>>132
ガン泣き鈴々には勝てない

141:メーテル ◆999HUU8SEE
09/10/22 21:24:33 3R0sVMvC0
わたしの名はメーテル……投下予告をする女。
今日は10分遅れての40分から投下を開始するわ。

>>119
指摘の通り、孫権の間違いよ、鉄郎……

142:名無しさん@初回限定
09/10/22 21:26:52 LpLxe7fk0
>>140
最強の鈴々は橋の前だろ

後、ご主人様が危険に晒された時の愛紗も強いな

143:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(1/22)
09/10/22 21:42:28 3R0sVMvC0
 眼前に迫った張遼の姿を、蓮華はどこか希薄な現実感の中で眺めていた。

 死の運び手を前に、不思議な静けさすら感じるのだ。
 いろいろなことが突然に起こりすぎて、理解が追いついていない……というわけではない。
 むしろ来るべきものが来た、そんな必然と調和すら感じる。
 いま、蓮華の心は奇妙にやすらいでいた。
 そんな彼女の胸に去来するのは〝天命〟という二文字。
 ここに蓮華は、己が天運が尽きたことを悟っていた。

 思い返せば無念は多いが、それでも蓮華には許された時間を精一杯生きたと誇れる満足があ
った。
 夢半ばに果てるのが天運ならば、受け入れる他ない。
 気がかりは優秀な姉と、まだ若い妹がなんとかしてくれるだろう。
 彼女たちに任せれば呉は安泰だ。

 そのような考えに身を委ね、ありのままの現実を受け入れて、蓮華は自分の首目掛けて迷い
なく迫ってくる白刃を眺めながら、静かに目をつむった。


 蓮華が目を閉じると、何もかもが闇に落ちた。
 視界が閉ざされると同時、不思議なことに音も消えた。
 肌をくすぐっていた朝風の流れも、感じなくなった。

 ああ、既に自分は死んでしまったのか。
 きっと痛みを感じる瞬間すらなく、自分は死の世界へ旅立ったのだろう。
 存外死ぬというのも、どうということもないのだな。
 と、そんなことを思いながら蓮華は閉じていた目を開いた。


144:名無しさん@初回限定
09/10/22 21:45:54 6HIcgyv50
お、はじまた。

145:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(2/22)
09/10/22 21:46:17 3R0sVMvC0
 するとそこに広がっていたのは、地獄だった。

 まず飛び込んできたのは不吉なまでに赤い世界。
 黒い縁に彩られた赤い太陽、赤い空に、真っ赤な大地。
 思いがけぬ光景に蓮華が一歩後ずさると、足元でぐにゃりとした感触のものを踏みつけた。
 何事かと思って下を見る。
「ひ…っ」
 このとき、蓮華ははじめて悲鳴を漏らした。
 赤く染まっていたのは地面ではなかった。
 その正体は、びっちりと敷き詰められた人間の死体であった。
 斬死体、圧死体、轢死体、燃死体、潰死体……。
 さながら死の展覧。地平の果てまで続く、死体の絨毯。
 それが赤い大地の正体だった。

 しかも、蓮華はその死体たちに見覚えがあった。
 あれは馬番の者、あれは配膳の者、あれは親衛隊長、あれは今朝方すれ違った者……。
 虚ろな目で蓮華を見上げている骸たち、それらすべてが呉の兵士たちのなれの果てであった。
 よく見れば、その中には五体をバラバラにされた明命や思春、亞莎といった、蓮華に親しい
者たちの姿まである。

 あまりに酷たらしい光景に、蓮華は口元を押さえて息を飲んで愕然とする。
 すると、こんな死体しかないはずのこの地獄の中で、彼女に声がかけられた。

『安心し、すぐにあんたも仲間入りや』


146:名無しさん@初回限定
09/10/22 21:47:32 yVLEYBca0
支援

147:名無しさん@初回限定
09/10/22 21:48:39 yEbcTzIO0
支援

148:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(3/22)
09/10/22 21:51:33 3R0sVMvC0
 感情の起伏が乏しく、恐ろしく乾いた平坦な声。
 蓮華が勢いよく振り向くと、そこにはいつのまにか赤い太陽を遮る影があった。
 逆光の中で飛龍偃月刀を振り上げる、血まみれの鬼。
 ―張遼だった。

 張遼が槍を振りかぶる。
 先ほどの焼き直し、このままならまた蓮華を避け難い一撃が襲うだろう。
 だが、それを受け止める彼女の趣は、まるで違った。

 必死の様相で奥歯を噛みしめる。
 先ほどのように、穏やかでなどいられない。
 これだけの責任を突きつけられて、震えずにはいられない。
「こんなのは……」
 自分の双肩にかかっている重さを突きつけられて、奮わずにはいられない。
 精一杯生きた?
 嘘だ。自分にはまだやらなくちゃいけないことが沢山ある。
 あとは姉と妹に任せる?
 孫仲謀という人間は、そんなに諦めの良い人間ではない。

「こんなのは嘘だ!」
 蓮華が叫び、無慈悲な飛龍偃月刀が振り抜かれる。
 凶刃が奔るその直前、惑いを振り払った蓮華は、左足を思い切り前へと踏み出した。


149:名無しさん@初回限定
09/10/22 21:53:24 5FoJAmkk0
支援です。

150:名無しさん@初回限定
09/10/22 21:53:27 lwf8V6AD0
支援

151:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(4/22)
09/10/22 21:54:08 3R0sVMvC0
 そして力一杯、奥歯を噛む。
(例え天命だとしても―)
 力を込めて、強く強く強く。
 割れてしまうのではないかというほど強く噛みしめる。
(―あんな光景を私は認めない!)
 ごく自然に、死を受け入れたはずの体が動いていた。

 蓮華の強固な意志が、霞を突き動かす〝天意〟とは別の〝天意〟を引き寄せた瞬間であった。

◇◇◇

 バサリという音を立て、斬り捨てられたものが、宙を舞って地に落ちた。
 その結果に霞の目がわずかに見開かれる。
 霞にとって予想外だったのは、それはいま眼前で起こったこと。
 蓮華は身を屈めて、咄嗟のところで断頭の一撃を避けていた。
 先ほど斬られて落ちたのは、蓮華の首ではなく、遅れた彼女の後ろ髪である。

「孫権さまをお守りしろ―!!」

 間髪入れずに誰かが叫んだ。
 その声を契機に、蓮華の危機を救うべく、再び呉の勇士たちが束になって霞に群がり始める。
 しかも、その数は先ほどの比ではない。
 『軍』の様相を呈した兵士たちの群が、その戦力を霞個人に叩き付けようとうねる。
 だが、そこに、
「張遼将軍に続け―!!」
 今度は遅参した奇襲部隊八百が、怒濤の勢いで乱入した。
 二つの波がぶつかるようにして両軍が激突し、混乱が巻き起こる。
 すると先ほどまで安穏としていたはずの場所が、一瞬で戦争の狂気が支配する乱戦場と早変
わりした。


152:名無しさん@初回限定
09/10/22 21:57:02 U4y6lJTh0
紫燕

153:名無しさん@初回限定
09/10/22 21:57:41 Uh07aTGa0
支援

154:名無しさん@初回限定
09/10/22 21:57:44 yEbcTzIO0
支援

155:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(5/22)
09/10/22 21:58:12 3R0sVMvC0
「蓮華さま! 早くこちらへ!」
 亞莎は蓮華の腕を素早く掴むと、彼女の体を引きずるようにして後退しようとした。
 既に周囲は張遼旗下の騎馬隊と、付近に待機していた本隊の兵士が入り乱れた混迷の極みに
陥っている。
 この混乱に紛れてしまえば、再び探し出すのは容易ではない。
 そう考えてのことであり、対する霞も重々そのことを承知していた。
「逃がさへん――っ!!」
 霞は手近にあったもの、斬りかかろうとしていた呉兵の首を左手一本で握りつぶしながら持
ち上げると、その体を勢いよく蓮華たちがいる方に向かって投擲する。
 だがそれは、狙いがそれて彼女たちの近くに着弾。その場にいた何名かの兵士を巻き込んで
赤い花を咲かすに留まった。
「もう一度っ!」
 コツは掴んだ、次は外さない。
「ひっ!? ぎゃっ!」
 霞は別の手近な兵士を投射物に定めると、中指と薬指でその兵士の両の眼窩を抉って、軽々
持ち上げた。
 頭蓋を砕きながら、再び振りかぶって投擲体勢に入る。
 しかし、そうして執拗に追撃しようとする霞の腕を、幾人もの兵士たちが掴んでいた。

「孫権さま!」
「孫権さまをお守りするんだ!」
「孫権さまには指一本触れさせん!」


156:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(6/22)
09/10/22 22:01:46 3R0sVMvC0
 一塊、叫びながら団子のようになってしがみついてくる兵たち。
「ちぃっ!」
 霞はそれに構わず、掴んだ兵士を投げつける。
 けれども、彼らの執念のたまものか、霞の投擲は第二投も逸れて、蓮華たちには当たらなか
った。
「っ、邪魔くさい!」

 手元を狂わされた霞は、感情を爆発させて、素手で、飛龍偃月刀で、周囲の兵をなぎ倒して
引きはがそうとする。
 だが、それすらさせじと、兵たちはますます群がっていく。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 人波に呑まれ、見えなくなっていく張遼。
 蓮華がそのとき最後に見たのは、天に吠える鬼の姿だった。

「今すぐこの場を離れます! 私に付いてきてください」
「しかし……」
「わかってます! でも、速く!」
 必死の形相で言う亞莎。彼女が言いたいことくらい蓮華にもわかる。
 敵が迫るいまは、なにを置いてもまず逃げなくてはならないときなのだ。
 だが、だからといって自分を助けるために命を投げ出した者たちを簡単に切り捨てられるほ
ど蓮華は非情ではなかった。

 と、そのとき、蓮華は斬られた後ろ髪がパチパチと爆ぜる錯覚を覚えた。
 不意に、首だけで後ろを振り返る。
 そしてその瞬間、蓮華はこれまでみたことがない現象を目撃した。
 雲一つない蒼天がまばゆい光を発したのだ。
 同時、耳をつんざく雷鳴。


157:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(7/22)
09/10/22 22:04:21 3R0sVMvC0
 落雷である。
 空は雲一つない青空が広がっているというのに、雷である。
 不可解なそれが至近に落ちたのだと理解するのに、蓮華は半秒ほどの時間を要した。
 蒼天に雷。蓮華はその因果に、人の力では及ばぬ畏怖すべきものの存在を感じた。
 そう、まるでそれは、龍のような……。
 そこまで考えたとき、蓮華の中で先ほど張遼と対峙したときに見た白昼夢がフラッシュバッ
クした。

 鮮血の世界。
 ただ一人立つ張遼。無数の死体。
 仲間たちの無残な姿。

 結果的にはそれが、霧のようにかかった蓮華の迷いを振り払ってくれた。
 後悔はあとに残し、いまはただ走る一事である。
「行きましょう亞莎!」
 あのような未来は、なにを置いても避けねばならない。
 そのために、彼女は自分にできうる限りを尽くすつもりであった。
 二人は走る。

 ◇◇◇

「落石だ!」
 そう叫ぶ誰かの声が聞こえた。
 そして一瞬遅れて、ガラガラと音を立てて転がり落ちてきた巨石が、前方を塞ぐのが見えた。
 峡谷の矮路。迂回路はない。
 唯一の進むべき道が、閉ざされてしまった。


158:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:07:08 5FoJAmkk0
支援です。

159:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(8/22)
09/10/22 22:07:25 3R0sVMvC0
「くそっ!」
 落石によって起こった砂埃を前にして、なんとか馬の足を止めた一刀が毒づく。
 敵の罠は周到だった。
 まるでこちらの動きを察知しているかのように、的確に仕掛けられた罠の数々。
 仕掛けた物の邪悪さがにじみ出ているようなそれは、見事に一刀率いる軍の動きを制限し、
翻弄した。
 そして彼らはついにいま、袋小路へと追い詰められたのだ。

 後方を振り返れば砂塵。
 迫ってくる敵軍のものである。

 思わず奥歯を鳴らしてしまう。
 一刀が引き連れてきた兵士の数は千五百。
 向かっている敵軍の数はわからないが、こちらより少ないということはないはずだ。
 下手をすれば、何倍もの大軍かもしれない。
 普通に考えて、正面からぶつかり合ったら万が一つの勝ち目もない。
 第一、こうして兵を引き連れてはいるものの、一刀自身は戦闘指揮の経験など皆無なのだ。
 だが、それでも……。
「全軍、戦闘準備だ!」
 生き残らなければならない想いは、一刀の中で煌々と燃えていた。

 汗の滲む手で腰に差した剣を掴むと、その硬さが、自分のいる場所が戦場であることを嫌が
応にも思い知らせてくれた。
 顔を引き締め、前を睨む。
 戦う覚悟を決めて、固唾を呑んで敵を見た。
 すると、こちらに向かって迫っていた呉軍の動きが、急に緩やかになったのがわかった。
 一刀がじっと見守る中、しばらくしてその動きが止まる。


160:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:10:22 gBk3z0pA0
支援

161:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(9/22)
09/10/22 22:10:44 3R0sVMvC0
 動きを止めた呉軍。一刀の目には、その中から馬に乗った人間が二人が前に出てくるのが見
えた。
 女の子が二人だ。
 だが、一刀もこの世界に来て一日二日ではない。
 一見して可愛らしい女の子だったとしても、それが外見通りとは限らないことは、身にしみ
てわかっていた。
 一刀は軍を率いているのは、間違いなく彼女たちだろうと、そう思った。
 やがて、対面する両軍の間で馬を止めた二人は、名乗りを上げた。

「我が名は周幼平!」
「我が名は甘興覇! 袁軍の将に告げる。貴殿らは完全に追い詰められている、言い残すこと
があれば我らが聞こう!」

 朗々とした声が袋小路に響く。
 一刀の予想は的中した。
 周泰と甘寧。一刀が知る三国志の中では、二人とも赤壁の戦いでも活躍した呉軍の将だ。
 間違いなく彼女たちが、自分たちを追い詰めた軍の統率者だろう。

 そして、その彼女たちの登場に、一刀は一筋の光明を見た。
 軍を止めたということは、今すぐ戦いになるということはないに違いない。
 となれば、まだ話し合いの余地はある。
 どうにかして彼女たちを説得できれば、生き残る可能性はぐっと増すかもしれない。


162:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:10:51 lqMpbX4oP BE:1695236257-2BP(1830)
支援

163:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(10/22)
09/10/22 22:13:20 3R0sVMvC0
 一縷の望みに賭け、甘寧たちがそうしたように、一刀も馬を進ませ前へ出た。
「俺の名前は北郷一刀。世間じゃ〝天の御使い〟なんて呼ばれてる」
 大声を出さずとも、互いの声が聞こえる距離で一刀はそう言った。
 その距離まで近づくと、周泰と甘寧、二人の姿もはっきりと目にすることができた。
 二人とも、肌の色は江南の民の特徴として聞かされていた、やや濃い色をしている。
 片方は鋭い目つきの女性で、髪の毛を頭の後ろでお団子にしているのが特徴的である。
 もう一人は背中に長い刀のような武器を背負った忍者?のような格好をした長い黒髪が美し
い少女だった。
 共に、思わず見とれてしまうほどの美少女である。

 一刀の名乗りを聞いて、二人はすぐに目配せをする。
 そして体を強ばらせて息を飲む一刀に、目つきの鋭い方の娘が言った。
「ちっ、やはりか。おい、明命。どうやらおまえの危惧していたとおりのようだ」
「そのようですね。ここに張遼がいないとなれば……本隊を狙った奇襲が本命なのかもしれま
せん」

 ―しまった。
 会話を耳にした一刀の顔が青く染まる。
 二人の言葉を聞いて、己の迂闊さを悟ったのだ。
 彼女たちは敵に情けをかけるために呼びかけたのではなかった。
 自分たちが追いかけていた敵が、本当に張遼だったのかを確かめるための引っかけだったの
だ。
 そして一刀はまんまとそれに引っかかった。
 ならば、そんな間抜け相手に彼女たちがとる行動は一つだろう。


164:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:13:33 5pyBFWu50
支援


165:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:14:55 yVLEYBca0
支援

166:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:15:56 cXYOaQb+0
支援

167:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:15:58 gBk3z0pA0
支援

168:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:16:50 5pyBFWu50
支援

169:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:17:10 yEbcTzIO0
支援

170:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(11/22)
09/10/22 22:17:40 3R0sVMvC0
「ならば貴様に用はない。ここで死ね」
 目つきの鋭い方の娘、甘寧は幅広の曲刀を頭の後ろ手に構える独特のポーズでそう言って、
問答無用で躍りかかってきた。
 殺す気で襲ってくる相手に対して、説得もへったくれもない。

 一刀は慌てて剣を抜き、上段に構えようとするが、
「遅い!」
 迎撃体制が整う前に、甘寧は攻撃の間合いに入っていた。

 風を切って剣が振るわれる。
 万事休す、そう思ったそのときそのときであった。

 思いがけず、救いの主は現れた。
 黒い影が一刀の前に立ちはだかったのである。

 音もなく唐突に割っては入った何者かは、既に攻撃モーションに入っていた甘寧の腕を狙い、
信じられない速さの蹴りを繰り出した。
 ぱぁんという、足と手がぶつかり合う音が響く。

「ぐうっ!」
 予想外の闖入者の乱入に、甘寧は合わせられた手を庇いながら後退した。

 そうやって登場した者の姿を見て、一刀がうわずった声を上げる。
「お、おまえは……っ!」
「そう―」
 眼前に、甘寧を蹴り飛ばした姿勢のまま、微動だにせず片足でそびえ立つ巨身。


171:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:18:59 lqMpbX4oP BE:484353825-2BP(1830)
しえんぬ

172:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:19:06 dQswG6Tz0
しえん

173:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:19:21 5FoJAmkk0
支援です。

174:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:20:00 cXYOaQb+0
支援

175:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:20:15 Uh07aTGa0
支援

176:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(12/22)
09/10/22 22:21:00 3R0sVMvC0
 ピンクのヒモパンビキニに、はちきれんばかりの特盛り筋肉。
 ワセリンでも塗っているかのようなテカテカのお肌。
 スキンヘッドの横、綺麗に結わえられたお下げが二つ。
 それを括るこれまたピンクのリボンがトレードマーク……そんなマッシヴ、アンド、プリテ
ィー!

「ぬふぅぅん! この世に舞い降りた天使! ご主人様のアイドル、貂蝉ちゃん登場よ~ん!」

 マッスルポージングをきめる漢女道の継承者、貂蝉であった。

 そして更にもう一人。
「儂のことも忘れては困るぞ主殿よ! とわあああああ!」
 頭上から降ってきた声を聞いて上を向く。
 するとそこには、腕を組んだままで落下してくる、溢れんばかりの筋肉フンドシ髭燕尾スタ
イル。
 アクセントは屹立した髭と、力強い肉体がこれでもかと詰め込まれた純白のソックス+ロー
ファーの革靴。
 オリエント無敗のマスター漢女、卑弥呼が周泰の前に爆着した。

 あわや首はねの危機から脱した一刀は、なんとか助け出してくれた貂蝉に礼を言った。
「た、助かったよ……」
 流石にこんな場面での登場を予想していたわけでもなかったのだが、既に順応できる程度に
は、この不条理な存在とのつきあいができるようになってきた一刀である。
「いいのよん。愛するご主人様のためですもの。火の中水の中、戦場のど真ん中よぉん」
 そう言って貂蝉は、胸の前に手をやり交差する。古くさい言い方だと『だっちゅ~の』のポ
ーズである。
 ついで明らかに重力とも柔らかさとも無関係な動きで、胸筋がぴくぴくと震えた。
 流石にその光景を目にし、助けてもらった身で申し訳ないと思いつつも、一刀は顔を引きつ
らせた。


177:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:21:27 yEbcTzIO0
支援

178:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:22:42 5pyBFWu50
支援

179:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:23:09 Oi4t3I7g0
漢女来来!

180:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(13/22)
09/10/22 22:25:11 3R0sVMvC0
「立てるかしら?」
 そう言ってすっと差し出された手を、思わず条件反射的に手にとって一刀は立ち上がった。
「あ、ありがとう」
「どうってことないわよ、このくらい。それにしてもご主人様ったらぁ、単刀直入に聞くけど、
今回のこと、狙ってやったのかしらん?」
「狙ってやったって……え?」
「霞ちゃん、呉の大軍、八百の決死隊、絶体絶命の危機、それにこの場所。これら全て、ぜー
んぶ狙って揃えたのかということよ」
「えっと、話がいきなりすぎてわからないんだけど……?」

 貂蝉が人差し指を立てて話し始めようとしたところで、手を押さえていた甘寧が、怒りに身
を震わせながら眉間にしわを寄せ改めて体勢を低くした。
「おのれ……っ!」
 再び甘寧が構える。
 どこからか鈴の音が鳴る。先ほどのような無造作な構えではない、今度こそ本気だ。

 けれども、それを見た貂蝉ははぁと一つため息をつくだけだった。
「あららぁん。いまはわたしとご主人様が仲睦まじく愛の語らいをする時間なのよん」
「知るかそんなこと!」
「んもぅ、せっかちな女は損をするわよ」
「ぬかせっ!」
「う~ん、困ったわねぇ。わたしはご主人様と大事な話をしなくちゃならないんだけど……卑
弥呼、卑弥呼ー!」


181:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:25:27 AvotgMt+0
シ、シリアスが死…支援!

182:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:26:02 yVLEYBca0
支援

183:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:26:40 lqMpbX4oP BE:2179589459-2BP(1830)
存在感がすごいよなこの二人

184:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(14/22)
09/10/22 22:28:32 3R0sVMvC0
 その大声に、一刀も思わず貂蝉が声を投げつけた方を見た。
「なんじゃ! 儂はこう見えてもけっこう忙しいぞ!」
 少し離れた場所でそう答えた卑弥呼は、徒手対長刀の熾烈な戦いを繰り広げている真っ最中
であった。
「悪いんだけど、わたしがご主人様と話してる間、こっちの子の面倒も見て貰えないかしらー
?」
「なんじゃと!? さては貴様、主殿との甘~い時間を独り占めするつもりじゃな!? 許さ
ん、許さんぞぉっ!?」
「や~ねぇ。恋の戦いは正々堂々正面から、でしょう。抜け駆けなんてしないわよんっ。だか
ら今回だけはお願いよ。緊急事態だって、あなたもわかってるでしょう?」
「む、うむむっ! そうであったな。よし、あいわかった、今回だけじゃからな!」
「恩に着るわぁん」
 周泰と火花散る苛烈な戦いを繰り広げていた卑弥呼が、突然その場で強烈な踏み込みを行っ
た。
 するとまるでロケットが発射されるときのように、その巨体が足元の地面を爆発させて垂直
上昇。
「えぇっ!?」
 衝撃で突然目の前で巻き上がった土砂によって、周泰の視界が閉ざされる。
 その間卑弥呼は、無茶な筋力を活かした跳躍力で、重力を振り切って天高く跳び上がってい

 そして次の瞬間、どういうわけか卑弥呼は空中で進路を転換し、最初そうしたように、今度
は甘寧の前に『着弾』してみせた。


185:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:30:51 xg82J7/30
卑弥呼の戦闘シーンがGガン風味で再生される支援

186:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:30:52 5pyBFWu50
しえん


187:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(15/22)
09/10/22 22:31:39 3R0sVMvC0
「なっ!?」
 着弾の衝撃、甘寧の周囲にも土煙が舞う。
 あまりに突然の出来事に、甘寧の動きが止まる。
 そして驚きに上げた彼女の声に、野太い獣声が被さった。
「とおおおおおおおおおおお!!」
 視界を塞ぐ粉塵を切り裂いて、突き出された丸太のような太い腕。
 それは反応が遅れた甘寧の腹に滑り込み、〝気〟が込められた一撃を彼女に叩き付けた。
「ぐあっ!?」
 衝撃を受け、悲鳴を上げながら玩具のように衝撃に吹っ飛ばされる甘寧。
 そしてその体が、敵を見失ってきょろきょろしていた周泰のすぐ近くに転がった。
「し、思春殿!?」
 突如として跳んできた甘寧を見て、周泰が驚きの声を上げる。
 周泰が吹き飛ばされてきた方を見ると、そちらからはのしのしと巨体が歩いてくるところだ
った。

「ふしゅるるるる……。さあ来るがいい、尻の青い小娘どもめ。いましばらくの間、この卑弥
呼が相手をしてやろう」
 卑弥呼が仁王立ちに言い放つと、周泰と甘寧は、真剣な顔で頷き合って無言で武器を構えた。
 珍妙な格好とは裏腹に、その強さは本物。生半可な意気込みで戦って勝てる相手ではないと
踏んでのことである。
「くくくっ、お主たちには、わしが直々に正しいフンドシのしめ方というものを教えてやろう
!」

 少し離れた場所に、一昔前の特撮ヒーローものみたいな、冗談のような爆発が起きていた。
 呉の二人の意識が卑弥呼の方に向いたことを確認してから、貂蝉は改めて一刀に向き直った。
「ということで、これでしばらくは大丈夫そうね」

188:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:32:37 I86TJHDk0
支援です。

189:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:32:53 5FoJAmkk0
蓮華、色んな意味で貧乏くじ引いてるなぁw。

支援です。

190:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:33:49 yVLEYBca0
支援

191:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:34:07 lqMpbX4oP BE:871835292-2BP(1830)
しえんぬ

192:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(16/22)
09/10/22 22:34:46 3R0sVMvC0
「うーん、色々思うところはあるけど、いまはいいや……。それで、大事な話ってのは? さ
っき緊急事態がどうとか言ってたけど」
「一から話すと長くなるんだけど、ご主人様がやろうとしたことがちょっとばかり上手に行き
過ぎちゃって、まずいことになりかけてるのよ。そのことをわたしたちは伝えにきたの」
「?」
「わかりやすく言うとね、このままじゃ霞ちゃん、霞ちゃんじゃなくなっちゃうかもしれない
わよ」
「……は?」
 突然霞のことを持ち出されて、一刀の顔が呆けたものになった。

「で、ご主人様は、結局今回の状況を狙って作り出したのかしら? それとも偶然?」
正面から目を見据えられて聞かれたその質問に、一刀は内心でドキリとした。
「えっと、それは……ファクターを揃えてやれば、俺が知っている三国志の流れが再現される
かも知れないっていうことのこと?」
 京での玉璽を巡る騒動、官渡での一件、他にも細々としたいくつかの出来事。
 いま貂蝉がした質問。それは一刀がこの世界に来てから、何度か体験した、そういった不可
解な事柄から薄々感づいていたことを、肯定する問いかけであった。
「あはぁん。流石ご主人様、鋭いわね、ますます惚れ直しちゃう! っていうことは」
「……ああ。今回、ちょっと意識した」
「なぁるほど。分かるわん、今回みたいな苦しい局面を前にして、裏ワザに頼りたくなっちゃ
ったそのキ・モ・チ。でもね、それが今回は随分ととんでもないものを呼び覚ますことになっ
ちゃったのよ」
「貂蝉、さっきから回りくどく何のことを……だいたい霞が霞でなくなるって、一体どういう
ことなんだよ?」
 二人の会話がそこで途切れた。
 甘寧と周泰が、出鱈目理不尽の塊と戦っている音や声が聞こえてくるが、それを無視して一
刀はじっと言葉の続きを待った。
 貂蝉はそんな真剣な顔をした一刀の顔をしばらくみつめて、口元をほころばせると、再び説
明を始めた。


193:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:35:35 yEbcTzIO0
なんという不敗無双。で支援

194:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:36:18 lqMpbX4oP BE:387482742-2BP(1830)
しえん

195:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:37:34 6HIcgyv50
ふんどしのしめかたw

196:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:37:57 5pyBFWu50
しえん


197:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:39:32 YjKYnTA3O
≫195
なっちゃいない!本当になっちゃいないぞ!by師匠

198:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(17/22)
09/10/22 22:40:36 3R0sVMvC0
「ええ、ご主人様の読みは悪くなかったのよ。正史から派生した外史には、正史本来の流れを
なぞろうとする矯正力、あるいは復元力と言い換えても良いけど、とにかくそういうものが備
わっているの」
「やっぱり……」
 そうでないかとは思ったのだ。
 この世界は、一刀が知る三国志の世界とは全く違う。
 違うのに、希に一刀が知る歴史によく似たことが起こる。
 それを説明するには、貂蝉が言ったような大枠が存在していると考えるのが一番楽だったの
だ。
「だからご主人様がやったように、あえて状況やキャラクターといったファクター揃えてやれ
ば、正史の流れにちなんだ結果が得られる可能性は十分にあるわ」
 キャラクター、そしてファクター。その言葉に一刀はうっすら顔をしかめながらも、先を促
した。
「うん、それはわかった。で、霞が霞で無くなるっていうのは?」
「やぁん、今日はみんなせっかちねぇ。お姉さん火照っちゃう! で、霞ちゃんのことだけど
ね。今回はそのご主人様が仕掛けた裏ワザが裏目に出たみたいなのよ」
「裏目?」
「これはわたしたちにとっても想定外だったのだけど、霞ちゃんの想いが強すぎたみたいでね、
そのせいで彼女、矯正力とシンクロしちゃってるのよ。その結果、本来意志なんて持っていな
い世界を正常に運営させるための力が、いま霞ちゃんの中に顕現しかかっているの。まあ、当
然と言えば当然よね。いくら霞ちゃんといえども、たった一人で十万人の大軍勢を相手にする
のは流石に無理。ということは、自分の力で不可能なことをやろうというのだから、不足した
分はどこからか借りてなんとかするしかないでしょう?」
「それが……」
「そう、矯正力よ。でもそうやって世界の矯正力に力を借りれば借りるほど、霞ちゃんの自我
は薄れていくことになる。そして最終的に、霞ちゃんは霞ちゃんじゃなくなってしまうかもし
れない。最悪の場合、〝天の意志〟っていう、この世界を運行しようとする力に意識を乗っ取
られてしまうかもしれない」
 そこまで聞いたとき、既に一刀の顔色は蒼白になっていた。

199:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:41:20 AvotgMt+0
そういえば3人の共通点はフンドシか。性質は大分異なるがw 支援

200:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:43:48 gBk3z0pA0
支援

201:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(18/22)
09/10/22 22:44:18 3R0sVMvC0
「そ、それじゃ……俺のせいで、霞の身に大変なことが起ころうとしているっていうのか!?」
 自分の考えたことのせいで、彼女が危険に晒されることは分かっていた。
 そのことで悩みもした。
 だが、霞が霞でなくなる、そんなことが起こるだなどと、一刀は思ってもみなかったのだ。
「ええ、しかも悪いことに、その兆候はもう出ているの。……丁度いいわ、あちらを覧なさい
な」

 貂蝉が突然振り返って背後を指さす。
 つられて一刀もそちらを見た。

 顔を向けたその瞬間、蒼天の空が突如として輝いた。

 なにが起こったのかがわからず、怪訝な顔をする一刀。しかし、一瞬遅れて耳に届いた轟音
で、いまのが落雷の光だったことを理解した。
 見上げた先には雲一つない、気持ち良いほどの青空が広がっているというのにだ。
「か、雷? こんな晴れた日に?」
「青天の霹靂。いまのはただの雷じゃないわよ。霞ちゃんの願いと想いに導かれた〝天の意志
〟そのものよ」
「それじゃあ、霞はいまので……」
「そう、いまの落雷で彼女はまた一歩〝天の意志〟との同化が進んだわ」
「それを……、自分の身に起こっていることを、霞は!?」
「知らないでしょうねぇ。でも、知っていたとしても、いまの霞ちゃんなら喜んで〝天の意志
〟と同化する道を選ぶでしょうね」
「そんな、どうして……」
 と、口にしてはっと気がついた。

「俺の……ため?」

 決まっているじゃないか。
 彼女は自分のため、自分と生きる未来のためと言っていた。
 ならば彼女がいま戦っているのは、北郷一刀のためなのだ。


202:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:44:22 lqMpbX4oP BE:3051424679-2BP(1830)
しえんぬ

203:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(19/22)
09/10/22 22:48:01 3R0sVMvC0
 一刀の考えを肯定するように貂蝉が頷く。
「霞ちゃんはいま、すべてを投げうってご主人様を助けるために戦っているのよ。だから彼女
は決して止まらない、止められない。そして、そんな彼女の先には、自我を失ってこの世のす
べてをなぎ倒す化け物となる、そんな結末しか待っていないわ」

「主殿!」
 一刀が貂蝉の告げた言葉で愕然とする中、卑弥呼の大声が響いた。
「あら卑弥呼、もう終わったの?」
「うむ。あやつら二人して、先ほどの落雷を見た途端、血相を変えて後退していきよったぞい」
「ぬふぅん。なるほどねぇ、彼女たちの存在もまた、矯正力に組み込まれているのかもしれな
いわね。だとしたら虫の知らせの一つくらいあってもおかしくないわ。もしそうならご主人様、
残り時間はあまりないわよ」
「え?」
「左様。既に張遼は、度を超えてその力を振るいつつある」
「ええ、矯正力から力を借りてね」
「だ、駄目だそんなの! 速く霞を止めなくちゃ!」
 自分のために霞の身に重大なことが起ころうとしている、そう考えると居ても立ってもいら
れなかった。
 一刀は叫んで霞が戦っている戦場へと続く道を見る。
 そこで気がついた。先ほどまで隊伍を成していた呉軍の兵士たちが、一兵残らず消え去って
いることに。
 すぐさまその意味を悟る。周泰と甘寧が連れて戻ったに違いない。
 寿春へ抜ける最短ルートは、先ほどの落石で潰されてしまっている。これを迂回して別の道
を進むとなれば、相当の時間がかかる。
 どのみち援軍の要請は間に合わない。それを見越して自分たちは捨て置かれたのだ。
「……あ」
 と、そこまで思い至り、一刀は背後を振り返った。
 するとそこには一刀の命令を待つ、袁仲配下の兵千五百が控えていた。


204:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(20/22)
09/10/22 22:51:32 3R0sVMvC0
 彼らを置いてはいけない。
 だが、彼らを戦場に連れて行くのはもっと駄目だ。仮に連れて行っても、自分の指揮能力で
は彼らをみすみす殺すだけだと一刀にはわかっていた。
(だけど……)

 霞のことも捨ててはおけない、だがいまの自分には、多くの命を預かる責任があるのだ。
 一刀が一人で逡巡していると、そんな葛藤を見透かしたかのように貂蝉が言った。
「安心してご主人様。ご主人様の兵たちは、わたしがきちんと美羽ちゃんのところまで連れて
帰ってあげる」
「ほ、本当に!?」
「うむ、我らにかかれば、兵の千や千五百、相手するなど子供の手を捻るより容易いことよ」
「ええ。だからご主人様は、思った通りに行動してちょうだい」
「卑弥呼、それに貂蝉……」
 漢女たちの漢っぷりに、思わず鼻がツンとした。

 それを見て貂蝉が言う。
「おおっと、ご主人様ったら、門出に涙は似合わないわよん」
 続けて卑弥呼が言う。
「うむ、生きて返ってきたら、儂の胸で思う存分泣くが良い!」
 それを聞いた一刀の頭が、知らず自然と下がった。
 いまの一刀にはそうやって、正体不明の二人に、誠心誠意感謝を示すことしかできなかった。
「ほんと、二人ともありがとう。何度も俺を助けてくれて……」
「いいのよん、顔を上げてちょうだい。なんと言っても愛しいご主人様のためだもん。尽くす
女、それが……」

『漢女道!』


205:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:53:36 5FoJAmkk0
支援です。

206:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:54:01 gBk3z0pA0
支援

207:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(21/22)
09/10/22 22:54:22 3R0sVMvC0
 声をハモらせ、二人はタイミングを合わせて必要以上に筋肉を誇示するポージングをする。
 それを見た一刀がふらりとよろめく。
 しかしそれでも、二人の脳殺(脳細胞が死滅すること)に耐えて、一刀はあとを任せて駆け
出そうと……

「っとぉ、その前に!」
 見送りの言葉を言ったばかりの貂蝉が目に止まらぬ速さで一刀の前に回り込んでいた。

「うわぁっ! 心臓に悪いっ! っと、で、……なに?」
「ご主人様に言い忘れたことがあったわ。最悪、霞ちゃんが〝天の意志〟そのものになっちゃ
ったら気をつけてね。〝天の意志〟は真っ先にご主人様を殺そうとするかもしれないから」
「な、なんだって!?」
 その言葉に、卑弥呼も然りと頷く。
「うむ。〝天の意志〟からすれば、この世界を歪めている最大の元凶の一つは主殿であるから
な、最優先に狙われてもおかしくない」
「そんな、霞が……俺を?」
 冗談を言っている風ではない二人の様子に、一刀は呆然と呟いた。

「そうよ。だからもしかしたら、ご主人様はこれから見たくないものを見るかもしれない。そ
れでも行くのかしら?」
 その言葉で、一刀はまっすぐに問いかけるに貂蝉の瞳が、引き返すならこれが最後のチャン
スだと告げていることに気がついた。

 ならば答えはただ一つ。


208:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:54:32 6HIcgyv50
>>198
>状況やキャラクターといったファクター揃えてやれ
「を」が脱字かな?

209:名無しさん@初回限定
09/10/22 22:56:47 gBk3z0pA0
>>208
流れの中では埋もれて見逃すかもしれんから終わってからの方がいいんじゃないか?

210:美羽と七乃スピンオフ「遼来来2」(22/22)
09/10/22 22:57:57 3R0sVMvC0
「ああ!」
 一刀は力強く頷いた。
「それは〝天の意志〟であって本当の霞じゃない。俺は俺の知っている、霞を信じる!」
 迷うことはない。いま重要なのは霞を信じる、その一事だ。
 一刀の言葉に、貂蝉は満足したように頷いた。
「そう、だったらもうわたしたちには、頑張ってハッピーエンド目指すご主人様を応援するこ
としかできないわ。でも、これだけは覚えておいて、この世界で奇跡を起こすのは、いつだっ
て絆の力だってことをね」
「わかった!」
 そう言って、ぐっと親指を突き出した貂蝉に、一刀もまた、親指を突き出して返したのだっ
た。



 一度部隊に戻り、副官に事情を説明し終えた一刀が、馬に乗ってこの渓谷を去っていく。
 その姿を見送りながら、卑弥呼が唸る。
「ううむ。相変わらず主殿はイイオノコだのぅ。胸の漢女回路も思わずぎゅんぎゅん回ってし
まうわい!」
「そりゃあわたしたちのご主人様ですもの」
 腕を組んで手のひらを頬にあてて、ほうっと息をつく貂蝉。
「あとは、『揺り戻し』があるかどうかね」
「ああ」

 そうして一刀の姿が完全に見えなくなったことを確認してから、二人は落石によって塞がれ
た方の道を見た。
「さて、それじゃあわたしたちも始めましょうか」
「石ころごときの相手というのは、些か不満じゃがのぅ」
 そう言って、二人はバキボキと手をならしたのであった。

211:名無しさん@初回限定
09/10/22 23:03:04 yVLEYBca0
支援

212:メーテル ◆999HUU8SEE
09/10/22 23:05:28 3R0sVMvC0
わたしの名はメーテル……投下終了を告げる女。
今回はやや世界観に踏み込んだお話よ。
「美羽と七乃」を含む、一連の流れの外史での世界観は、たまたまこうであるというだけのものよ。

>>208
「を」の脱字ね……わたしの名はメーテル、誤字脱字が多い女……
しっかり校正しても、取り切れていない女……

次は明日の午後9時30分からよ、鉄郎……

213:名無しさん@初回限定
09/10/22 23:07:05 6HIcgyv50
おつかれー
今日のは怖くもあり、明日が楽しみでもあるな。

誤字脱字は、特に多いとは思わないけどw

214:名無しさん@初回限定
09/10/22 23:08:29 A71Zw0Ya0
最近の大河バリの過剰演出ワロ

215:名無しさん@初回限定
09/10/22 23:08:40 lqMpbX4oP BE:1356189247-2BP(1830)
おつかれメーテル

>「くくくっ、お主たちには、わしが直々に正しいフンドシのしめ方というものを教えてやろう!」
今回のポイントはここだな、俺はそう決めた

216:名無しさん@初回限定
09/10/22 23:10:20 JB64hSdR0

ちょっとフンドシ買ってくる

217:名無しさん@初回限定
09/10/22 23:13:43 gBk3z0pA0
メーテル氏乙です。
今なら恋すら圧倒しそうなくらいの霞だけど、そうなっている事への代償があるわけか。
しかし漢女2人がかっこいいな。
卑弥呼の着弾とふんどし指南には噴いたけどw

218:名無しさん@初回限定
09/10/22 23:13:56 VX64GHYb0
乙です

蓮華を守る兵士達がファルコの為に身を挺する元斗の兵とダブって見えた

219:名無しさん@初回限定
09/10/22 23:16:20 TI2uXH+C0
無双の力の源が分かった
そういう設定だったのね

220:名無しさん@初回限定
09/10/22 23:22:51 Oi4t3I7g0
霞がついに張遼越えちまった

まぁ、外史的なねじれが発生すればそうなるわな

221:名無しさん@初回限定
09/10/22 23:51:33 YjKYnTA3O
メーテル氏乙~

もし暴走した霞が一刀を傷つけちゃったら正気に戻った時すんごい落ち込みそう

222:名無しさん@初回限定
09/10/23 00:34:04 c5sLI5O20
落ち込んだ霞を励ます?ために、七日七晩の閨無双があって欲しい

223:名無しさん@初回限定
09/10/23 00:53:31 RtJR3odhO
メーテル氏おつでした
一刀、頑張って霞を取り戻してほしい。

>>222
一刀なら余裕とみた

224:名無しさん@初回限定
09/10/23 01:25:12 Kvbw7h9W0
>223
霞のほうが持たないと思われ。

225:名無しさん@初回限定
09/10/23 01:29:55 JYMCH8Z+0
魏ルート寄りなら凪、無印寄りなら愛紗をカンフル剤に投入すれば元気になるのに……。

226:清涼剤 ◆q5O/xhpHR2
09/10/23 03:15:07 9kbk1Qjr0
専用版に無じる真√N関連のファイルをUPしました。

形式:Zipファイル
内容は以下の通りです。
・以前作ったものにワカレミチ篇を追加した出来事表
・州地図
・ワカレミチ篇終了時勢力図
・ワカレミチ篇終了時徐州地図
※自作ですので造りが甘いです。

一応アドレスも貼っておきます。
URL:URLリンク(koihimemusou.x0.com)
微妙ですがよければどうぞ。

227:名無しさん@初回限定
09/10/23 07:33:51 o04nZtgr0
>>226
おお、これは便利。乙です!

228:名無しさん@初回限定
09/10/23 13:33:32 1wK3d3Gt0
メーテル乙。
やっぱり合肥の戦いの再現だったか。
最初の大一番で、いきなり来来される蓮華カワイソス……

229:名無しさん@初回限定
09/10/23 20:39:44 OGLqIc1M0
最近ようやく時間できてまとめ読みしてるけど

 呉メインって少ないのな

230:名無しさん@初回限定
09/10/23 20:44:15 JYMCH8Z+0
呉は子供も出来て幸せに終わってしまっているからなあ。
補完的な短編ならともかく、長編は難しいんじゃないの。


演義的には呉がそもそも恵まれていないのはおいといてw

231:メーテル ◆999HUU8SEE
09/10/23 21:22:49 B2sCQU3T0
わたしの名はメーテル……今日も9時30分から投下する女。
今回でちょうど半分よ、鉄郎。

232:名無しさん@初回限定
09/10/23 21:23:26 tpxXXWH9P BE:2373330277-2BP(2000)
待ってたよメーテル

233:美羽と七乃スピンオフ「遼来来3」(1/21)
09/10/23 21:30:44 B2sCQU3T0
 荒い息をした馬が止まる。
 蓮華と亞莎。張遼の追撃を振り切った二人が到着したのは、後方に据えられた『もう一つの
本陣』であっ。
 まばらであるがきちんとした天幕が用意されているそこは、本来のそれに比べるとこじんま
りとした印象を受けるものの、しっかりと機能を備えた司令部なのである。

「そ、孫権さま!?」
 早速蓮華の到来に気づいた見張りの兵士が、慌てて跪いて礼をする。
 そしてそれに気がついた周囲の兵士たちも、腰を落とそうとするのを見て、蓮華は手を上げ
てそれを制した。
「ご苦労様。勤めを妨げるつもりはないわ。そのまま続けてちょうだい」
「はっ!」
 跪いていた兵が勢いよく立ち上がり、その他の兵たちも揃って礼をした。

「ふぅ……」
 職務に戻る兵士たちを見ながら、蓮華がため息をついたのも束の間、
「蓮華姉さま!」
 背中から突然襲われた。
 誰かが、勢いよく彼女の背中に飛びついたのである。
 こんなことをする心当たりは一人である。
「姉さま~姉さま~」
「こら小蓮っ!? もう、やめなさい!」
 負ぶさるように蓮華の背中にぶら下がっていた娘が、言い当てられて「えへへ~」と言いな
がら手を離して足を降ろした。
 振り向いた蓮華の前に立っていたのは、蓮華や雪蓮と同じ髪の色をした、まだ幼さが色濃く
娘だった。


234:美羽と七乃スピンオフ「遼来来3」(2/21)
09/10/23 21:33:18 B2sCQU3T0
 彼女の名は孫尚香、真名を小蓮という。
 孫策、孫権に続く孫家三姉妹、末の妹である。
「ごめんなさーい」
 小動物のように屈託なく笑う彼女こそが、この司令部の本来の主人であった。
 城を攻略したあと、そこに入って駐留する軍の指揮官を任される予定だった彼女は、雪蓮の
指示の下、その予習としてこうして小さいながらも陣を一つ構えて、後方で控えるように言い
つけられていたのである。
 下手をすれば指揮系統の混乱を招きかねない強引な実地訓練であったが、今回はそれが幸い
した。

 本陣を攻撃され、司令官である蓮華が逃走するという手痛い失態を犯しながらも、呉軍の指
揮系統が崩壊しなかったのは、『第二の脳』とも言えるこの中枢があったからに他らない。
 偶然の産物であるものの、まさに不幸中の幸いであった。

 蓮華はじゃれついてくる小蓮を困ったような顔で見ながら聞いた。
「雪蓮姉さまは?」
「姉さま? 姉さまならなら、怖い顔をしてあの天幕にいるよ」
 言って小蓮が指さしたのは、他のものより一回り大きな天幕だった。
 おそらくそこが、本来小蓮がいなければいけない場所なのだろうことは容易に想像がついた。

 亞莎に目を向けると、彼女は心配そうな顔で蓮華を見つめていたが、蓮華が頷くと自らもお
ずおずと頷きを返した。
「では亞莎は、打ち合わせ通り張遼を足止めするための策で、時間を稼いでちょうだい。その
間に私の方も話をまとめるから」
「……はい」

235:名無しさん@初回限定
09/10/23 21:35:11 u9bojy5AO
メーテルさん来た!
支援するぜ!

236:⑬
09/10/23 21:36:04 /d2hmY+uO
寝る前に支援

237:美羽と七乃スピンオフ「遼来来3」(3/21)
09/10/23 21:36:58 B2sCQU3T0
 そう目を伏せて礼をした亞莎はなにか言いたげであったが、蓮華はあえてそれに気づかない
ふりをして無視した。
 そして、雪蓮がいるという天幕の方を見る。
 自分の考えは間違っているのかもしれない。けれど直感によるひらめきを常日頃から大切に
するように言っている姉なら、わかってくれるという気持ちもどこかにあった。
 と、そんなことを思っていたために、こちらを見て心配そうにしている小蓮に気づくのが遅
れた。
「蓮華姉さま、大丈夫?」
「……ええ。ちょっと考え事をしてしただけよ」
「うーん、そうなの? なんか、蓮華姉さまも亞莎もちょっと変な気がするけど……、そんな
に敵の奇襲ってすごかったの?」
 可愛らしく小首を曲げてそう聞いてきた小蓮の言葉に、蓮華が怪訝な顔をした。
「小蓮。ここにはどの程度の情報が入ってきている?」
 そして聞いて、自身の中で不安が増大したのを感じた。
「え? うぅん……姉さまたちの本陣が敵の奇襲攻撃を受けたってことくらいかな。あとはそ
のときに少し被害が出たってことくらいで 他のことはなんか色々混乱してて……って、姉さ
まどうしたの?」
「ん、いや……」
 危機感なく、きょとんとした顔でそう言う小蓮の姿を目にして、
 〝―危うい〟
 蓮華はそう思った。

 いま小蓮が話した情報には、肝心要のことがすっぽりと抜け落ちてしまっている。
 鬼神のごとき、あの張遼の異様が彼女には伝わっていない。
 それだけではない。あれだけ想像を絶する奇襲攻撃を受けたというのに、この陣地にはどこ
か緩んだ空気すら漂っている。
 見回すと、誰しもが先ほどまでの蓮華たちのような、勝利を確信した希望に満たされた顔を
している。
 そこには、あるべき危機感がまったく足りていなかった。


238:名無しさん@初回限定
09/10/23 21:38:38 O/qpRETn0
支援

239:美羽と七乃スピンオフ「遼来来3」(4/21)
09/10/23 21:39:23 B2sCQU3T0
 あるいは、姉が兵たちに動揺を招かぬようにと情報を制限しているのかもしれないとも考え
たが、それでもいまの蓮華には、この状況が危険な兆候のように思えてならなかった。



「姉さま、ただいま到着しました」
 天幕に入りそのように挨拶をすると、現れた司令官の姿に周囲が一斉に静まりかえった。
 その中で蓮華はさっと、天幕の中の人員を確認する。
 やはり、そこには本陣で散り散りになった群臣たちの姿がなかった。
 つまり、あの場からここへ辿り着けたのは、今のところ自分たちだけということである。

「無事で良かったわ。張遼の騎馬隊に奇襲を受けて、本陣を脱出したと報告を受けたときは、
流石にひやっとしたわよ」
「お恥ずかしい限りです」
 そう言って、蓮華は神妙に頷いた。
「んー……。それで? なにか言いたいことがありそうな感じだけど?」
「………」
 その言葉に、蓮華は内心で舌を巻いた。
 こんなふうに心中を言い当てられたとき、この姉にはなにかもすべてがお見通しなのでない
かと思ってしまうことがある。
 同時に、そんな姉を相手にこれから自分が行わなくてはならない説得の難しさを、蓮華は改
めて確認した。
 それでも、最初から気圧されるわけにはいかない。
 蓮華は雪蓮の目を見てきっぱりと切り出した。


240:名無しさん@初回限定
09/10/23 21:39:24 bhsCb8Fa0
久々に支援

241:名無しさん@初回限定
09/10/23 21:40:08 O/qpRETn0
支援

242:名無しさん@初回限定
09/10/23 21:43:27 v9Ro/W/+0
しえn

243:美羽と七乃スピンオフ「遼来来3」(5/21)
09/10/23 21:43:28 B2sCQU3T0
「姉さま。私はこの度の戦、一度撤退して体勢を立て直すべきだと考えます」

 開口一番の撤退進言。
 その言葉に、一瞬周囲がしんと静まりかえった。そして一斉に、先ほど以上にざわめきが馬
を支配する。
 周りにいた臣下たちは、蓮華の言葉にそろって驚愕と困惑を示している。
 それはそうだろう、彼らは勝利を確信していたのだ。まさかそれを蓮華の口から水を差され
るとは思っていなかったのである。
 だが一方の雪蓮は、聞いた直後こそかすかに驚いた顔を覗かせていたが、いまはもう平素通
りの不敵な笑みを浮かべているだけであった。

「……意外ね。あなたのことだから、真っ先に報復に飛び出していきかねないと思っていたの
に」
 片目を瞑ってそう返す。
 すると蓮華は、姉の言葉が終わって一呼吸の間を置いてから、口を開いた。
「このままアレと戦うのは、危険が大きすぎます。どれだけの犠牲が出るかわかりません。我
々は一度退いて対策を練ってから出直すべきです」
「……あなたの言いたいこともわかるわ」
「と、いうと……?」
「私も、張遼を相手にするのは割に合わない犠牲を払わなくちゃいけないことを分かっている
わ。でも、撤退するというあなたの意見に頷くことはできない。これは決戦なの。ここで張遼
を討っておかなければ、呉の将来に重大な禍根を残すことになりかねない。まずはなにがあっ
ても勝利すること、それが第一よ」
「姉さま! 姉さまは何も分かっていません! アレを相手にするのはそんな次元では……」
「蓮華、いいから少し頭を冷やしなさい。敵は実質単騎なのよ。確かにそれなりの被害を出す
ことになるでしょうけど、正面から落ち着いて戦えば、なんの問題もない筈よ」
「姉さま!」

244:美羽と七乃スピンオフ「遼来来3」(6/21)
09/10/23 21:45:45 B2sCQU3T0
「それに、既に張遼を討つべく、徐盛に部隊を率いさせて向かわせているわ。だから安心しな
さい。万事心配いらないわ」
 いまの呉軍の司令官は蓮華である。
 だが、姉が徐盛を向かわせたことを、勝手と非難することはできない。
 それはむしろ、指揮不能となっていた蓮華の代わりを務めていてくれただけなのだから、感
謝こそすれ非難できよう訳がない。
「それに何より、既に四将軍が城を包囲して攻撃を始めているいま、こちらの勝利は時間の問
題。ここで退く道理がないわ」

 聞き分けのない子供に諭すよう言われた、穏やかな姉の言葉。
 彼女の言い分はまったく正しい。
 雪蓮が口にしたことが正論なのは確かだ。だが蓮華の理性ではない部分が、姉の判断は間違
っていると叫んでいた。
 惜しむらくは蓮華の中に、そのことをうまく伝えられるだけの言葉がなかったことである。

 戦闘中止を訴える司令官、続行を命じる王。
 言葉を交える二人の間には、驚くほどの温度差があった。
 そしてそれを埋めようとやっきになるほど、齟齬が生じて二人はますますかみ合わなくなっ
ていく。
 雪蓮の瞳に迷いはない。彼女はこの戦いの勝利を確信しきっている。
 それはそうだろう。いくら強いと言っても所詮は孤人。十万からなる〝群〟である呉軍が負
けるはずがない。そう考えるのが当然だ。


245:名無しさん@初回限定
09/10/23 21:46:39 O/qpRETn0
支援

246:美羽と七乃スピンオフ「遼来来3」(7/21)
09/10/23 21:48:13 B2sCQU3T0
 だが、一方で蓮華の考えはそうではない。
 あの張遼の強さは理屈じゃない。
 なにがあっても、あれは戦うべき相手ではないと感じているのだ。
 無論、蓮華の現状把握能力は、歴戦の猛者である姉のそれに遠く及ばない。
 けれど蓮華の中のなにかが、あの張遼は危険だとずっと警告しているのだ。
 ただの直感、されど直感。
 晴天の雷鳴に龍を感じて以来の、胸騒ぎがそこにはあった。
 なにか取り取り返しがつかないことが起きてしまうと、そう感じるのだ。
 蓮華はそんな心の声に従って、己の直感を信じて、更に辛抱強く説得を続けた。
 何より姉なら分かってくれる、そう思っていた。

 しかし、それが甘い見通しであったことを蓮華は知ることになる。

 ◇◇◇

「あの……」
 小蓮の言葉に、雪蓮と蓮華は反応しない。
 二人が話し始めてから、幾分か時間が経過していた。
 議論は平行線を辿り、やがてはその間に不穏な空気が漂い始めている。
 そんな兆候を察した小蓮がおずおずと口を開いたが―。
「………」
「………」
 二人は黙したままで、末の妹の言葉など一顧だにしない。


247:名無しさん@初回限定
09/10/23 21:50:06 u9bojy5AO
更に支援

248:名無しさん@初回限定
09/10/23 21:50:25 bhsCb8Fa0
支援


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