10/09/12 22:42:14 oV1zlaqS0
タン、と。軽い音を残してまひるは跳んだ。
棒高跳びの国際級アスリートに競る高さまで、バーを使わずして跳んだ。
その高さの頂点で、まひるは蠢く鋭い爪を伸ばす。
先端を浅く引き掻かれた触手は、鮮烈な血液を迸らせる。
まひるはその数滴を背中に浴びたものの、勢いを殺すことなく着地した。
その際を狙ってか、偶然の賜物か。
別の触手の一本が、棍棒の勢いでまひるを叩き潰さんと、襲い掛かる。
「危ないっっ!!」
ランスは思わず叫んだ。
ユリーシャは耐え切れず目を伏せた。
紗霧は涼しい顔で解説を続けた。
野武彦は姿を消していた。
「まひるがヒット&アウェイのヒットを担うなら、
ジジイはアウェイ担当です。
攻撃なんてする必要はありません。
まひるのヒットタイムが終了後、直ちにまひるを抱え上げ、
魔獣の射程範囲外に離脱させます」
コンマ数秒後。
まひるを叩き潰しているはずの触手は空を切り、まひるに触れることなく、
したたかに地面に打ち込まれていた。
「ふぉふぉふぉ…… 人呼んでオタクのジョーとはわしの事!」
気付けばまひるを抱えた野武彦が、ランスの隣に舞い戻っていた。
加速装置――
オタクの夢と希望の象徴がここに躍如していた。
651:名無しさん@初回限定
10/09/12 22:44:02 U8r4fCw+0
652:神鬼軍師の本領(23/30) ◆VnfocaQoW2
10/09/12 22:49:25 oV1zlaqS0
この装置、原典に於いては、生身の人間を抱えたままの加速は不可能とされていた。
生身の肉体には、かかる加速の負担に耐えられぬという理屈である。
それは尤もな話ではあるが、広場まひるは、生身の人間に非ず。
ひとでなしである。
異能にまで卓越した身体能力は、超加速に、超速度に、耐え得るのである。
撹乱、攻撃、回避。
単純にして明確な役割分担。
それを徹底させることで生まれる、流れるような連携。
それを反復するだけで成果となる、単純明快さ。
立案の歯車と実働の歯車とが、これ以上無いほどかみ合っている。
「お前らみんな…… 結構やるんだな」
ランスの口から素直な感想が、ぽそりと漏れた。
受ける紗霧は、ふふん、と得意げに笑って見せた。
653:名無しさん@初回限定
10/09/12 22:51:05 U8r4fCw+0
654:神鬼軍師の本領(24/30) ◆VnfocaQoW2
10/09/12 22:54:21 oV1zlaqS0
【ハイエナたちの晩餐】
紗霧はブリーフィングの折、一連の戦術を、そう名づけた。
由来は、戦術の骨子から採られていた。
『ハイエナから学ぶべき点は三つ。
一つ、一撃離脱を基本とすること。
二つ、五感を潰すことを優先すること。
三つ、連携を徹底すること』
戦術は、突飛な発想によるものではなかった。
どちらかと言えば基本的な、誰でも思いつく類のものであった。
しかし、思いついたとて、紗霧ほど緻密に絵を描ける者はいないであろう。
しかし、思いついたとて、紗霧ほど深くに潜り込める者はいないであろう。
単純明快。然れども、微細深遠。
それが神鬼軍師の立てる作戦の特性といえよう。
655:名無しさん@初回限定
10/09/12 22:55:15 U8r4fCw+0
656:神鬼軍師の本領(25/30) ◆VnfocaQoW2
10/09/12 22:58:42 oV1zlaqS0
例えば、戦術、第一波。
――機先を制す。
紗霧はその一点に集中させた。
これ以上ない密度で昇華させた。
人材を。武装を。策略を。天運を。
そしてまた、大胆不敵でもある。
誰も思うまい。
思ったとしても実行すまい。
ランスを囮とし、主力から外すなど。
それとて紗霧にとって、特段奇を衒ったものではない。
囮として最も有効な駒がたまたま最強の駒であっただけである。
その囮を使って生まれる隙こそが大事なのであれば、
戦闘力が低下するを惜しまぬのが、彼女の「当たり前」であった。
657:名無しさん@初回限定
10/09/12 23:00:16 U8r4fCw+0
658:神鬼軍師の本領(26/30) ◆VnfocaQoW2
10/09/12 23:07:15 oV1zlaqS0
例えば、戦術、第二波。
――戦闘力を削ぐ。
紗霧はその一点に集中させた。
決して敵の急所を狙うことなく、
直接命を奪いにいくことなく、
ただ、敵の攻撃力を削ることを目標とした。
油断無く、手抜かり無く。
茶道の作法の如く決められた所作を反復し続け。
触手の一本一本を、丹念に潰し。
腕の一本一本を、丁寧に壊し。
時間の経過と共に、敵の抵抗力を減じて行く。
基本、基本、基本。
全ての行為は基本を逸脱しない。
順序、人材、武装、タイミング。
それらが適切に実行されているだけである。
にも関わらず。
なんと圧倒的で。
なんと非情で。
なんと効率的な作戦と化しているのか。
659:名無しさん@初回限定
10/09/12 23:08:59 U8r4fCw+0
660:神鬼軍師の本領(27/30) ◆VnfocaQoW2
10/09/12 23:11:42 oV1zlaqS0
『皆さんの命、私に預けなさい。
誰一人として無駄にすることなく、
有効に使いきって差し上げます』
紗霧はブリーフィングの前に、決起を促すべく、こう口にした。
それが全き事実であったことは、戦士たち全員が実感しているし、
なにより、眼前に倒れ伏すケイブリスの姿が如実に証明している。
月夜御名紗霧――
一長一短、一点豪華な人材を最適なパートに配し、
一曲の壮大で圧倒的な戦場音楽に仕立て上げる。
見えざるタクトをその手に握る指揮者であった。
661:名無しさん@初回限定
10/09/12 23:14:00 U8r4fCw+0
662:神鬼軍師の本領(28/30) ◆VnfocaQoW2
10/09/12 23:17:12 oV1zlaqS0
――本筋に戻す。
ケイブリスは這っていた。這って、左回りにぐるぐると回っていた。
錯乱しているのではない。
本人は、逃走しているつもりである。
左足と左の腕の二本の機能を失っていれば、
力加減のバランスが保てず、必然、輪を描く動きと成り果てる。
しかも、ケイブリスは目も見えぬ。
死にかけのゴキブリの如く円舞を踊っていることを視認出来ず、理解できぬ。
強大であった敵の、そんな惨めな様相を見ても、しかし紗霧は満足しない。
腕が三本、残っている。
触手も三本、残っている。
右足も残っている。
紗霧の描く第二波は、未だ完了していないのである。
「高町さんは『有能』、まひるさんとジジイは『異能』。
さて、ランスはどうなのですかね?
まさか、『無能』なんてことはありませんよね?」
紗霧は涼しげな瞳で、挑発的な発言で、ランスに参戦を促した。
「むかむかっ! ならば見せてやろう! この俺様の『全能』っぷりをな!」
「あ、そうそう。あなたのために右足は残しておきましたよ」
「おうっ、まかせろ!」
ランスは心底楽しげに、ケイブリスへと突貫する。
進行方向にうねっていた触手が、方向を逸らす。
状況を把握した恭也が、ランスへの戦闘支援を行ったのである。
それもまた、紗霧の策のうちであった。
663:名無しさん@初回限定
10/09/12 23:19:00 U8r4fCw+0
664:神鬼軍師の本領(29/30) ◆VnfocaQoW2
10/09/12 23:20:23 oV1zlaqS0
「長丁場になりますからね。
まひるさんとジジイには小休止を取って貰って、
しばらくはランスを遊ばせときましょう」
紗霧はランスの背を熱っぽい眼差しで見つめるユリーシャに
レーザーガンを手渡すと、自らはボウガンを取り出して、言った。
「さて、勝負は決したと言ってよいでしょう。
あとは消化試合です。
でも、気を抜いてはいけません。
狙いを定めずに振り回した腕でも、まともに食らえばお陀仏です。
ですので、私たちも攪乱に参加しましょう。
皆の力を一つにあわせて。
じわりじわりと。
ねちねちと。
慎重に丁寧に攻撃力を削いでゆきましょう」
畏るべきかな、神鬼軍師。
哀れなるかな、ケイブリス。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
665:名無しさん@初回限定
10/09/12 23:24:11 U8r4fCw+0
666:神鬼軍師の本領(30/30) ◆VnfocaQoW2
10/09/12 23:24:57 oV1zlaqS0
……あら知らないんですか?
ハイエナの集団は百獣の王すら捕食するんですよ?
↓
667:名無しさん@初回限定
10/09/12 23:26:13 U8r4fCw+0
668:神鬼軍師の本領(情報 1/2) ◆VnfocaQoW2
10/09/12 23:29:50 oV1zlaqS0
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:E-5 耕作地帯】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:生活用品、香辛料、メイド服、?服×2、干し肉、スペツナズナイフ、
文房具、白チョーク1箱、レーザーガン(←紗霧)、フラッシュ紙コップ】
【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2~3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】
【高町恭也(元№08)】
【スタンス:紗霧に従う】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、釘セット、保存食】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
痛み止めの薬品?を服用】
669:名無しさん@初回限定
10/09/12 23:31:14 U8r4fCw+0
670:鬼軍師の本領(情報 2/2) ◆VnfocaQoW2
10/09/12 23:35:28 oV1zlaqS0
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残弾5)白チョーク数本、
スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、簡易通信機、工具、
ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング】
【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:金属バット、ボウガン、メス×1、謎のペン×8、小麦粉、
薬品・簡易医療器具、対人レーダー、他爆指輪、解除装置】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷有、意思に揺らぎ有り】
【広場まひる(元№38)】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ(大)、簡易通信機】
【主催者:ケイブリス(刺客04)】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先、智機と同盟】
【所持品:なし】
【備考:出血(中)、左足大破、両目、喉、左上腕破壊、
左右中腕骨折(補強済み)、触手5本破壊(残3本)】
<フラッシュ紙コップ>
ユリーシャが持っていた使い捨てカメラからフラッシュを摘出、
内側にアルミホイルを巻いた紙コップに設置したもの。
671:神鬼軍師の本領(8/30) ◆VnfocaQoW2
10/09/13 21:00:11 rdXaZffL0
【抜け分追加 >>622と>>624の間】
故に青髪の少女は迫る巨獣を恐れない。
恐れる理由など見当たらない。
(ランス様に楯突く豚め…… 後悔しなさい!)
彼女がいつしか手に構えしは、ビッグサイズの紙コップ。
至近で見下ろすケイブリスの顔面。
大きくつぶらなクリアブルーの瞳。
ユリーシャはそこに筒先を向け、筒の尻に取り付けられた紐を一息に引いた。
――ぱん。
それが、真の決戦の開始を告げる喇叭となり。
同時に、この戦いにおける一番槍ともなった。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
672:名無しさん@初回限定
10/09/20 19:18:00 ZSztpH1J0
673:名無しさん@初回限定
10/09/25 23:03:52 i3G3A0CI0
674:名無しさん@初回限定
10/10/03 16:17:19 A9Smcan90
675:名無しさん@初回限定
10/10/12 00:38:25 WNgnGKl80
676:名無しさん@初回限定
10/10/17 13:17:36 /Ciw8uyB0
677:名無しさん@初回限定
10/10/25 22:23:54 L/I02IwZ0
678:名無しさん@初回限定
10/11/01 00:21:52 /du3gDFK0
679:名無しさん@初回限定
10/11/09 01:30:50 b+sjteKS0
680:名無しさん@初回限定
10/11/11 07:31:11 jdBSAsfm0
681:名無しさん@初回限定
10/11/17 01:13:14 6QNLij5w0
682:名無しさん@初回限定
10/11/24 00:46:57 RX1tyKPo0
683:名無しさん@初回限定
10/12/01 01:10:40 wX/yngs20
684:名無しさん@初回限定
10/12/10 04:48:06 EK6+hk9+P
685:名無しさん@初回限定
10/12/17 02:50:08 VN+Xt97YP
686:名無しさん@初回限定
10/12/22 02:15:16 gGPlc3wr0
687:名無しさん@初回限定
10/12/31 15:24:35 rybr9SnP0
688:名無しさん@初回限定
11/01/01 00:42:23 S6tb9Qet0
あけおめ
689:名無しさん@初回限定
11/01/01 15:47:58 MNJa+dAg0
w
690:名無しさん@初回限定
11/01/04 10:10:43 huZuCvid0
691:名無しさん@初回限定
11/01/10 22:14:47 XDTU5Ok30
692:名無しさん@初回限定
11/01/19 07:03:40 sSwhoXla0