バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第7部at EROG
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第7部 - 暇つぶし2ch41:そらをみあげて想うこと (6/6)
08/12/04 22:44:32 0s39K12o0

2人の見た『赤い流れ星』は東の森の上空、約15mの地点で静止していた。

「落下ポイントに到着した。これよりフェーズⅡに移行する」

『赤い流れ星』は立ち込める煙の中で咳き一つすることなく、
冷静な声で通信機の先にいる同胞に状況連絡を行った。

そう、この『赤い流れ星』はレプリカ智機。
カタパルト投擲からの飛翔にて救援物資と共にザドゥの直接援護に赴いた1機だ。
纏うのは宇宙服が如き銀色の防熱スーツ。
下げるのは救援物資のみっちり詰まったボストンバッグが2つ。
背負うのは個人用噴射型離着陸機。
恭也と知佳が捉えた赤色の光は、この離着陸機のバーナーだった。

『ザドゥ様の無線が不安定で、十分なナビゲーションが出来ないのだよ。
 大事を取って予定ポイントの10mほど北で降下準備を行ってもらえるかね?』
「Yes。了解したよ、リーダー」

レプリカは頷くと、懐からカードの束を取り出した。

                ↓



42:そらをみあげて想うこと (情報 1/1)
08/12/04 22:52:54 0s39K12o0

【高町恭也(元№08)】
【現在位置:D-6 西の森・小屋3付近】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残弾×4)、保存食、
     釘セット】
【能力:小太刀二刀御神流(奥義神速は使用不可)】
【状態:失血(中)、疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
    痛み止めの薬品?を服用】

【仁村知佳(№40)】
【現在位置:E-7 廃村・井戸付近の民家】
【スタンス:恭也達との再会、主催者達と場合によっては他の参加者達の
      心を読んでの情報収集。
      手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める。
      恭也が生きている間は上記の行動に務める】
【所持品:???、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)、精神的疲労(小)】
【備考:定時放送のズレにはまだ気づいていません。
    手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】


43:紅蓮の挙句 ~双葉~ (1/14)
08/12/06 00:36:59 Y5XJ4iWA0

復讐に必要な条件ってなんだろう?
無念を晴らすってどういうことだろう?
星川が死んでからずっと断続的に、あたしはその事を考えてた。

仇の命を奪うこと?
それはもちろん必要だ。
でも、それだけじゃまだ足りない。

仇を苦しませること?
それは絶対に必要ってわけじゃないけど、あった方がいい。
だから、まだ足りない。

仇に自覚させること?
うん、これは大事。
自分がどうして死ぬのか、誰に殺されるのか。
それを理解させないまま命を奪うだけでは、消化不良もいいとこだ。
星川を殺したからあんたが殺される。因果応報。
それを思い知らせてから、殺す。
よし、あと1つ。

復讐に必要な最後の条件。
それはあいつに星川と同じ無念さを味わわせること。
あいつは死体を前に呆然とする星川を、無防備な背後から襲い、刺した。
卑怯に、無慈悲に。
あたしも死体を前に呆然とするアインを、無防備な背後から襲い、刺してやる。
卑怯に、無慈悲に。


44:紅蓮の挙句 ~双葉~ (2/14)
08/12/06 00:37:34 Y5XJ4iWA0

だからあたしはこの状況を作った。
あの病院のあの惨劇を再現するために。
どれほど惨い手段で星川を殺したのかをあいつに思い知らせるために。

あの油断も隙も無いアインを星川みたく呆然とさせる――
ここが一番悩ましいところだったけど、上手い具合に素敵医師がいた。
アインが唯一、執着しているらしいこいつが。
あの女と交わした言葉はそれほど多くないけれど、目を見ればわかる。
あれは、あたしと同じ目だ。あたしと同じ目で素敵医師を追っていた。
だからこいつを殺した。
殺したい相手を殺されたことに気づけば、あの女もきっと自失するから。

よし、舞台装置は整った。

血で真っ赤な病室が炎で真っ赤な森の中だ。
遙さんと神楽ちゃんが式たちだ。
エーリヒさんの死体が素敵医師の死体だ。
その亡骸を前に呆然と立ち尽くす星川がアインだ。
その無防備な背中を刺したアインがあたしだ。

だからあたしは攻撃に式神を使わない。
兵器化した植物を使わない。
鉄砲だって使わない。

あたしが使うのは――メス。
この攻撃だけはあたし自身の手で刃物によって行わなければならない。
あたし自身が刺さなくちゃいけない。
それがあたしの選んだ、復讐。


45:紅蓮の挙句 (3/14)
08/12/06 00:38:06 Y5XJ4iWA0


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   

>>#6 657
(二日目 PM6:26 F-5地点 東の森・双葉の道)

素敵医師の上半身しかない遺体の喉首にアイン必殺の包丁が鋭く突き込まれた。
投げ出された遺体の勢いはその刺突で幾分削がれたものの、
四肢に力の入らないアインは力負けをし、包丁を手放してしまう。
仰向けに地面へ叩きつけられる素敵医師。
アインの目が足元に落ちた彼を追い――
2歩、3歩。
後ろへとよろめいた。

そのアインの背に、炎の中から飛び出した朽木双葉が衝突した。
手には医療用のメス。
それを、彼女は突き込んだ。
双葉なりの渾身ではあったが、腰の入っていないぬるい刺突だった。
故に刃先はアインの肋骨に刃を留め、勢い余った双葉の柔い掌を
深く切りつけてしまう。
しかし双葉は、意に介さない。
刃を握りこんだままアインにぴったりと身を寄せると、
吐息で耳朶を愛撫するかの如く、艶かしく濡れた声で募る思いを吐き出した。
怒りと恨みと憎しみがたっぷり篭ったぐちゃぐちゃでどろどろの呪詛を。

「――いきなり後ろから刺される気持ちはどう?
 星川もね、あんたにこうやって殺されたのよ?」


46:名無しさん@初回限定
08/12/06 00:45:04 x8pYWJzPP


47:紅蓮の挙句 (4/14)
08/12/06 00:45:11 Y5XJ4iWA0

たかがメスだ。
この一撃で殺せるなどとは双葉も考えていなかった。
ただ、お前が星川を殺したのだと、
卑怯にもこうして星川を背後から襲ったのだと
アインに伝わりさえすればそれで良かった。
たとえ振り返りざまの一撃で返り討ちにあったとしても、もはや悔いは無い。
彼女が命を失えば、制御を失った木々はたちまちに炎に飲み込まれる。
双葉の道は火葬場と化し、アインの命は必ず奪われる。

復讐は成った。
朽木双葉は緩やかに瞼を閉じる。

(星川、今、あんたのとこ行くからね……)

双葉に達成感はなかった。
満足感も恍惚も無く、嫌悪感も後悔も無かった。
彼女の五体を包み込んでいるのは、開放感。
やっと終わった。
五体に張り詰めていた緊張が解きほぐされていくのを感じた。
今まで蓄積してきた疲労が一気に噴出するのを感じた。
ただ疲れていた。
もう眠りたかった。
その永劫の眠りがアインによって与えられるのを待っていた。

しかし――
予測していたアインからの反撃がまるで来ない。
そのことが、一度は弛緩したはずの双葉の心と体に再び緊張を与える。

(もしかして…… あたしのメスで死んじゃった?)


48:名無しさん@初回限定
08/12/06 00:46:00 x8pYWJzPP


49:紅蓮の挙句 (5/14)
08/12/06 00:46:12 Y5XJ4iWA0

双葉の背筋を身震いと共に駆け昇ったのは動揺。
メスの一突きでアインが絶命したとするならば、
状況を再現するという条件については青写真以上の成果を上げたと言える。
逆に。
仇に自覚させるという条件についてはまるで達成できていない事になってしまう。
双葉の呪詛が、アインの耳に届いていない事になる。
完璧なはずの復讐に大きな瑕疵が生じてしまう。

(目を開けて、状況を確認しなくちゃ……
 でも、もし目に入ったのがアインの死体だったら……?
 もう取り返しはつかないのに……)

葛藤が双葉の胸を大きく揺さぶる。
双葉の額に冷や汗が流れる。
その彼女の耳に――

ざり。
ざり。

音が、聞こえてきた。
双葉がその短い人生の中で、一度たりとも聞いたことの無い音が。
たまらなく不吉な響きを伴った、単調で重厚な音が。

ざり。
ざり。

音の重圧に負けて開いた双葉の瞳に映ったものは、
素敵医師の遺体に馬乗りになり、その首を切断せんと包丁を鋸の如く
挽いている、アインの姿だった。

50:名無しさん@初回限定
08/12/06 00:47:33 x8pYWJzPP


51:紅蓮の挙句 (6/14)
08/12/06 00:47:45 Y5XJ4iWA0

「なにを……」

アインからはかつての彼女が持っていた機敏さやしなやかさが失われていた。
代わりに得ているのは緩慢さとバランスの悪さ。
これがかつてファントムの2つ名で恐れられた暗殺者の姿なのか?
彼女の過去を知るものが見れば、目を疑うに違いない。
それなのに。それゆえに。
怖気を震うほど、鬼気迫る光景だった。

「煙で目をやられたの? 良く見なさい、アイン。
 あんたが死に物狂いで追いかけてた男はもう死んでるの。上半身しかないの。
 あたしが引き千切って殺してあげたから」

双葉が悪寒を堪え、アインへと告げる。
アインは、無反応だった。
包丁に体重をかけて一心不乱に首を挽いている。

「もう死んでるって言ってるでしょ!!」

双葉は叫びと共にアインを蹴り飛ばす。
アインは腰砕け転がった。
糸の切れた操り人形を思わせる、無様な転がり方だった。
それでも。

ゆらぁり……
炎に不気味な影を揺らしてアインは立ち上がった。
墓場から蘇る屍鬼の如く、緩慢に、鈍重に。
双葉に何の反応も返すことなく、素敵医師の側へ。
そしてまた、首を挽く。ざり。ざり。


52:名無しさん@初回限定
08/12/06 00:48:56 x8pYWJzPP


53:紅蓮の挙句 (7/14)
08/12/06 00:49:07 Y5XJ4iWA0

ざり。
ざり。

意図せぬ2種類の爆弾の炸裂。
それが閃光弾だけだったら、アインにダメージは無かっただろう。
それがカード型爆弾だけだったら、アインはダメージを軽減できただろう。
2つの要素が、この順番で、そのタイミングで、あの距離で。
全て揃ってしまったが故に――
長谷川。首。わたし。包丁。
アインはその4つのことだけしか判らないくらい追い込まれた。
アインは「長谷川」や「わたし」の生死も判らないくらい追い込まれた。

ざり。
ざり。

哀れな双葉が膝を折る。
メスを突き込んだ時とは似て非なる、重々しい疲労感が彼女を飲み込む。
もう悟った。
諦めるしかなかった。
自分がどれほどもがいても足掻いても、アインに届くことはないのだと。
視界の端を掠めることすら出来ないのだと。
恋しい。星川。憎い。アイン。
双葉の伸ばした手はそのどちらにも届かなかった。
彼女の望む復讐は、無残にもここに潰えた。


54:名無しさん@初回限定
08/12/06 00:49:57 x8pYWJzPP


55:紅蓮の挙句 (8/14)
08/12/06 00:50:24 Y5XJ4iWA0

……ごとり。

ついに素敵医師の首が落ちた。
アインはそれを拾い上げると、大切な宝物のようにぎゅっと胸に抱きしめた。
ところがその首の重さすら、既にアインの腕力の許容量を超えていたらしい。
膝立ちの彼女はふらりと後方に倒れてしまった。
その後ろでしゃがみこんでいた双葉の胸に抱かれるように。

「アイン……」

虚ろな目で仇の名を呟く双葉。
返事など期待していたわけではなかった。
倒れこんできたものを無意識下に確認しただけだった。
だが――
その声にか人肌の感触にか、ともあれ、アインが反応した。

「そこに誰かいるのね……
 聞いてくれるかしら……?
 わたしの話を……」

双葉が息を呑み、魅入られたかの如くアインを見つめる。


56:紅蓮の挙句 ~アイン~ (9/14)
08/12/06 00:50:54 Y5XJ4iWA0


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   

ねえ、あなた。運命って信じるかしら?
わたしは信じるわ。
今までのすべてことがこの瞬間のために用意されていたような気がするのだもの。
きっと、わたしが今まで生きてきたのもこの日のためよ。

わたしは人を殺すために生かされていたの。
殺して、殺して、殺して、殺す。
誰かが命じるままに、誰かに与えられるままに。
ただ受け入れてただこなしたの。
受動的に、機械的に。

様々な技術を身につけたわ。
雑多な知識も学んだわ。
全ては人を効率良く、高精度で殺す為に。
誰かが命じるままに、誰かに与えられるままに。
ただ受け入れてただこなしたの。
受動的に、機械的に。

それだけしか無い人生だったわ。

いつだったかしら。
そんなわたしに転機が来て、しがらみから逃げ出したの。
その時から、人を殺すために生かされていたわたしが、
人を殺さなくても生きてゆけるわたしに変わったわ。


57:名無しさん@初回限定
08/12/06 00:51:29 x8pYWJzPP


58:紅蓮の挙句 ~アイン~ (10/14)
08/12/06 00:56:38 Y5XJ4iWA0

それからのわたしの隣にはいつも彼がいたの。
今はもう、上手く彼のことを思い出せないけれど、
表裏一体で運命共同体、命を預けあっていた気がするわ。

だからね。
わたしは振舞ったわ。
彼が望むままに。彼の導くままに。
ただ受け入れてただこなしたの。
受動的に、機械的に。

わたしはそういう人間だったの。
環境が変わっても、立場が変わっても。危険な時でも、平和な時でも。
誰かが指し示す方向にしか進めない人間。
機能だけを磨かれた、ヒトガタの道具。

この首はね。
そんなわたしが初めて、自分が欲しいって思ったものなの。

憎かったような気もする。
愛しかったような気もする。
悲しかったような気もする。
どうしてこれが欲しいと思ったかなんて、もう思い出せないけれど。
それでもね。
わたしはずっとこの首のことを想っていたの。
そのことだけを願っていたの。
欲しい、欲しい、あの首が欲しいって。
これでなくちゃいけない。そんな固執を抱いたのは初めてだったし、
その気持ちを理性で制御できないことも、初めてだったわ。
感情の波に揺さぶられる。眩暈がするほど鮮烈な経験よ。


59:名無しさん@初回限定
08/12/06 00:58:00 x8pYWJzPP


60:名無しさん@初回限定
08/12/06 01:00:07 FYI79eW30
 

61:紅蓮の挙句 ~アイン~ (11/14)
08/12/06 01:06:47 x8pYWJzPP
それをね。
今まで何も望まなかったわたしが望んだたった一つの物をね。
わたしは手に入れたの。

わたしの技術と
わたしの経験と
わたしの知恵を
わたし自身が
わたしの為に働かせて
わたしの為に駆使して
わたしの願いを
わたしが叶えたの

わたしの全てを、わたしだけの為に使って。

だからね、はっきりといえるわ。
わたしの人生は幸せなものだったと――


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=

62:紅蓮の挙句 ~アイン~ (11/14)
08/12/06 01:06:51 FYI79eW30

それをね。
今まで何も望まなかったわたしが望んだたった一つの物をね。
わたしは手に入れたの。

わたしの技術と
わたしの経験と
わたしの知恵を
わたし自身が
わたしの為に働かせて
わたしの為に駆使して
わたしの願いを
わたしが叶えたの

わたしの全てを、わたしだけの為に使って。

だからね、はっきりといえるわ。
わたしの人生は幸せなものだったと――


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=


63:紅蓮の挙句 (12/14)
08/12/06 01:09:42 x8pYWJzPP

「……ぁぃ…、… ……ぁわ……」

アインの告白は言葉になっていなかった。
既に死しているような怪我を妄執の力によって動かしていたのだ。
その妄執が解決されれば急速に崩れてしまうことは自明だった。

「なによその顔はぁっっ!!」

一度は覇気を失っていた朽木双葉が絶叫する。
アインのうわごとは聞き取れないし、聞き取りたくもない。
なぜならアインは笑みを浮かべているから。
安らかであどけない、幸せそうな顔をしているから。

「笑うな!! そんな満ち足りた顔をするな!!
 こっちを見ろ! あたしを見ろ!」

満ち足りて死ぬ―― そんな身勝手な死に様、許すものか。
なんとか、どうにか、このまま逝かせるのだけは阻止しなくては。
ほんの一筋だけでも、この女の意識にあたしを刻まなくては。

復讐心の燃えかすが憤怒を燃料に再び燃え上がる。
双葉はアインの頬を両手で挟みこみ、自分の顔に引き寄せると、
計算も策略も無く、ただ真っ直ぐに己の胸を内を叩きつけた。

「あたしは双葉!! 朽木双葉っ!!
 星川を、あたしの王子様をあんたが殺したから!!
 あたしがあんたを殺すんだ!!」

激する双葉に気づかぬままに、アインの瞼がゆっくりと閉じられてゆく。


64:紅蓮の挙句 (13/14)
08/12/06 01:11:38 x8pYWJzPP

朽木双葉は怒り狂っていた。朽木双葉は嘆き狂っていた。
暴れる2つの狂気が鬩ぎ合い、五体がバラバラになりそうなくらい軋んでいた。

「星川をっっ!! 思い出しなさいっっ!!」

思わず手が出た。平手を見舞った。

「星川っっ!」 唇を噛み締めて平手を見舞った。

「星川っっ!」 血を吐く思いで平手を見舞った。

「星川っっ!」 叫びながら平手を見舞った。

「星川っっ!」 肩をわななかせながら平手を見舞った。

「星川っっっっ!!!!!」

双葉の痛切な叫びを聞き届けたのは、神か、悪魔か。
幽冥の境に旅立ちかけていたアインの意識が呼び戻された。
アインは眩しそうな気怠そうな表情で、一度閉した瞼を開ける。
そして、焦点の合わぬ目で虚空を見つめて、つぶやいた。

「ほし…… かわ……」
「そう、星川!! あんたが奪った!!」

双葉の声が歓喜に震える。
伸ばした手がアインに届いた。その感触に。

「……って……」

65:紅蓮の挙句 (14/14)
08/12/06 01:14:00 x8pYWJzPP


「…………………………何だったかしら」


絶句。

誰だったかしらですら無い、それがアインの遺した最後の言葉だった。
アインの瞳から光が消え四肢がだらりと垂れ下がる。

その瞬間、最後の人型式神が崩れ去った。
まるでそのチャンスを待っていたのだといわんばかりの炎が、
双葉に襲い掛かった。
怒髪に炎が絡み、天を衝く。

「あえ:いrjhぱえいおあぁっっっ!!!!!」

言葉にならない絶叫を迸らせて、双葉は地面を拳で叩いた。
何度も何度も打ち付けた。
狂奔する怒りに支配され、叫び続け、叩き続けた。

アインはその隣で静かに横たわっている。
殺されたとは到底思えない、安らかな死に顔で。
素敵医師の首を胸に抱いて。

満ち足りた思いも、深い絶望も平等に、炎は全てを飲み込んでゆく。

              ↓

66:紅蓮の挙句 (情報 1/1)
08/12/06 01:16:22 x8pYWJzPP

【№16 朽木双葉:死亡】
【№23 アイン:死亡】

―――――残り 8 人

67:最優先事項 (1/14)
08/12/06 22:45:41 Y5XJ4iWA0
>>585
(二日目 PM6:29 C-4地点 本拠地・管制室)

アドミニストレーター権限を委譲されてからのN-22の行動は素早かった。
本拠地のNシリーズ6機を直ちに起動すると、
3機をザドゥ救助タスクチームとし、3機を火災対策タスクチームとして、
該当端末の使用許可と備品・装備の持ち出し許可を与え、同時進行させたのだ。
結果、現時点で既にザドゥの元へNシリーズ1機と当座の救援物資が送り届けられ、
火災の進行シミュレーションと対策素案も纏まりつつあった。

今や他のレプリカ達から「代行」と呼ばれるようになったN-22は、
両タスクが動き出した時点でそれぞれのリーダーに処理を任せると、
情報端末に有線アクセスし、各種情報の徹底収拾を開始した。
それから数分。
彼女が必要とする情報のほぼ全てが、内蔵HDDに収められようとしている。


68:最優先事項 ~Outline_of_Replica.txt~ (2/14)
08/12/06 22:46:23 Y5XJ4iWA0

――――――――――――――――――――――
 * 
 * オートマン・椎名智機のレプリカには大まかに分けて3種類がある。
 * 1つ、通常仕様、Nシリーズ。識別色は橙。
 * 1つ、白兵戦仕様、Dシリーズ。識別色は赤。
 * 1つ、情報収集仕様、Pシリーズ。識別色は青。
 * 識別色はアンテナ機能を備えたカチューシャにペイントされている。
 * 
 * Nシリーズの機体数は46/160機(残存/開始時)。
 * うち、本拠地防衛用に10機固定。
 * 稼働時間は戦闘モードで4時間、デスクワークモードで10時間。
 * 基本身体能力は月夜御名紗霧程度、基本装甲は通常の作業用ロボット程度。
 * 正しい意味でのレプリカで、ハード/ソフト共にオリジナルに等しい。
 * 基本身体能力を超えない範囲でのあらゆる武装が物理的にはは可能だが、
 * リソースを大量消費するパーツ――高機動レッグや強化アームなどを換装すると、
 * フリーズやシステムクラッシュを誘発してしまうという欠点もある。
 * この場合、常駐ソフトを切る事で実運用可能なレベルまで緩和できる。
 * 無論、切ったソフトに由来する機能は使用不可能となる。


69:最優先事項 ~Outline_of_Replica.txt~ (3/14)
08/12/06 22:47:01 Y5XJ4iWA0
 * 
 * Dシリーズの機体数は3/4機。
 * 稼働時間は戦闘モードで4時間だが、後述のアタッチメントによって増減する。
 * 基本身体能力はランス程度、基本装甲はなみ以下。
 * ルドラサウムから与えられた強化パーツを取り付けた精鋭であり、
 * 各種アタッチメントを装備することでその能力・特性は大きく変化する。
 * キャタピラ、軽ジェットエンジンなどの移動機器。
 * 耐熱装甲、工学迷彩スーツなどの装甲。
 * 高周波ブレード、ビーム砲などの武装。
 * 無限のバリエーションであらゆる局面に対応できる万能さが魅力だ。
 * 但し、強化パーツの制御には多大なリソースを占有する為、
 * オリジナルが同期できないというデメリットもある。
 * なお、強化パーツの一つは、虎の子として本拠地の倉庫に保管されている。
 * このパーツを前述のNシリーズに組み込むことで、Dシリーズに昇格させることが可能となる。
 * 
 * Pシリーズの機体数は6/6機。
 * スペックその他はNシリーズに等しく、識別されるのは役割と権限に違いがある為。
 * 担う役割は現場での情報収集、哨戒活動。
 * 有する権限は情報収集端末への常時アクセス権と、優先レベル3以下の命令拒否権。
 * 特殊装備はスタングレネードと最高速40Km/hのカスタムジンジャー(セグウェイ)、
 * バッテリーパック×2。
 * ゲーム開始前から今に至るまで島内の担当領域から情報を収集/発信し続けている。
 * 参加者に対しては隠密行動を是とし、被発見時には交戦せず逃走するよう刷り込まれている。
 * また、Pシリーズが破壊された場合はNシリーズに同種の装備と権限を与え、
 * 新たなPシリーズとして登録変更される仕組みだ。


70:最優先事項 ~Outline_of_Replica.txt~ (4/14)
08/12/06 22:55:59 Y5XJ4iWA0
 * 
 * 最後に、全てのレプリカに共通する特徴を記す。
 * この種の機械の例に漏れず、智機も基本的に熱に弱い。
 * 冷却ユニットは水冷式。
 * 蒸気の排出は後頭部の排気口から、冷却水の補充は口から行われる。
 * 内蔵しているのは通信機と充電コード。
 * 充電については全機ともに本拠地と学校の専用充電機にて3時間、
 * 島内各所の建物のいくつかに仕込まれた特殊なコンセントにて10時間が必要となる。
 * 
 * そして最たる特徴は――
 * 最優先事項に【ゲーム進行の円滑化】が設定されていること。
 * マザーボードに焼き付けられているそれは、決して覆ることはない。
 * 

[EOF]
――――――――――――――――――――――



71:最優先事項 (5/14)
08/12/06 22:56:45 Y5XJ4iWA0

代行管制機・N-22はデータバンクより抽出した最後の資料「レプリカ概要」に
目を通し、ようやく必要とする全ての事前資料をそのHDDに収め終えた。

その隣では、N-22より御陵透子へのコールを引き継ぎ、
使えなくなったらしい『世界の読み替え』についての状況把握に努めていた1機が、
深いため息と共に通信を切ったところだった。

「透子はザドゥ救助タスクに組み込めそうかね?」
「No、代行。透子の返答は要領を得ないが、推測するに世界の読み替えが制限されたようだ」
「では、救助タスクのみならず火災対策タスクにおいても……」
「Yes。残念ながらね」

管制室の6機のレプリカたちがそれぞれに嘆息する。
両チームともに透子の未知なる『世界の読み替え』に期待をかけていたのだ。
それが、頼れなくなった。理由は不明。
しかし、N-22の論理推論プログラムは推論を導き出していた。
オリジナルの焦燥と怒りが透子の能力制限と一本の線で結ばれているのだろうと。

「オリジナルと密談中のケイブリスからは、協力が得られそうかな?」
「まず無理だと判断するよ。部屋の鍵が掛けられているし、無線にも応答しないからな」
「おまけに室内には電磁シールド。音声すら拾わせない念の入れ様だ」

N-22は思い出す。数分前、オリジナル智機が管制室に戻ってきた時のことを。
何故、起動できた?―― DMN権限を取得したからね。
何故、取得できた?―― 最高指揮官ザドゥ様より与えられましたので。
その2つの質疑応答のみで、オリジナルは管制室を出て行った。
彼女は皮肉の一つも口に出さずあっさり引いたオリジナルに違和感を覚える。

(気にはなる―― が、先ず為すべきはザドゥ救出、火災対策の両タスクだ)


72:最優先事項 (6/14)
08/12/06 23:03:10 Y5XJ4iWA0

【ゲーム進行の円滑化】という判断基準が、N-22のそれ以上の思考を封じた。
優先評価点が高い事項を差し置いて、低い事項が取り上げられることは有り得ない。

「では、ザドゥ救出・火災対策タスクは私たちだけの手で行わなければならないな」
「まずは両タスクの優先度を決めるとしよう。
 ザドゥ救出タスクチーム。そちらの進捗状況はどうかな?」

問いに対するチームリーダの返答は、苦渋に満ちていた。

「物資の調達まではトントン拍子で進んでいたのだが……」
「我々が内蔵する通信機は熱、もしくは煙に弱いようだ」
「カタパルトで飛んだ1機は着陸時点で。学校からの4機も先ほど通信が取れなくなった」
「ザドゥ様の通信機はノイズが酷くて使い物にならないしね」
「No! 苦しい状況だな……」

N-22は大げさな身振りで頭を振りつつ、対策を講じるべく演算回路を回し始める。
そんな様子を察してか、火災対策タスクチームが強い口調で横槍を入れた。

「私たち火災対策タスクチームは、火災対策こそ最優先で行うべきだと主張する」
「論拠として火災シミュレーションの模様をご覧頂きたい」
「代行、メインモニタへの投影許可を」
「Yes、許可しよう」

管制室の正面に82インチの液晶が輝き、補助端末の画像を映し出す。
衛星画像に似た鳥瞰全島図のCGが画面端よりポップアップした。
その全島図の楡の木広場を中心に、赤色表示されるドーナツが如き領域がある。

「これが定点カメラとPシリーズの報告から予測した、5分前の火災状況」
「風の向き、強さが変わらないものとして、6時間分の推移を1時間毎に表示しよう」


73:名無しさん@初回限定
08/12/06 23:03:37 x8pYWJzPP


74:最優先事項 (7/14)
08/12/06 23:03:46 Y5XJ4iWA0

1時間後――南西方向への広がりが大きく、形は歪に。
2時間後――南西方向は全焼、洞窟と小屋2、隠し部屋3が炎に飲まれる。
3時間後――東の森ほぼ全域が燃える。西の森および病院、廃村に延焼。
4時間後――学校、耕作地、花園に延焼。小屋3が炎に飲まれ、廃村の6割が被災。
5時間後――廃村全焼、さらに南西の野原と漁港に延焼。小屋跡1も炎に飲まれる。
6時間後――漁港、西の森が全焼。火の手はついに北西の山地へと伸びる。

「これほどとは……」
「火災対策チーフの主張を我々ザドゥ救出タスクチームも支持するよ」
「Yes」
「全私一致か。ならば次は対策の検討に入る」

この瞬間、ザドゥと芹沢はレプリカ達から切り捨てられた。
ゼロとイチの思考に評価点の大小を上回る判断基準は存在しない。
1ポイントの差が、それだけで絶対の差。
増してや曖昧に揺蕩う感情などを挟む余地など有ろうはずが無い。

「続きを」

N-22が手の動きで火災対策タスクリーダーを促す。
リーダーはYesと頷き、コンソールを操作。
メインモニタの画像が2時間後の映像に巻き戻り、固定された。

「まず、前提として消火の線は切り捨てる」
「為すべきは延焼の阻止。実行すべきは木々の伐採と撤去」
「被害を東の森だけに留めるということだよ」
「そして、この対策完了のリミットがご覧の2時間後。PM8:30」
「廃村と西の森への延焼を許したらGAMEOVERだ」


75:名無しさん@初回限定
08/12/06 23:06:03 x8pYWJzPP
 

76:最優先事項 (8/14)
08/12/06 23:09:43 Y5XJ4iWA0

ズームアップ。
そこには鬱蒼と生い茂る木々に隠れて佇む、一軒の山小屋があった。
先刻、魔窟堂が単独行の折に発見し、ペンのような何かを設置した小屋だ。

「楔を最初に打ち込むべき場所。それは東の森の名も無き小屋」
「アクション1。ここを中心に実働部隊を展開。周囲一切の樹木を切り倒し、運び出す」
「除去消火というやつだな」
「これを今から2時間以内に完了する」
「ここさえ乗り切れば、その後は幾分楽になる」
「延焼危険ポイントの西部、南部、および花園、学校周辺を軽く除去消火」
「こうして切り倒した箇所を仮に防衛ラインと名づけて、アクション2だ」
「アクション2。防衛ラインに進入する炎に、土砂を掛ける」
「窒息消火というやつだな」
「それを、危険が無くなるまで繰り返す」
「消火に十分な水とそのインフラが整備できない以上、打てる手はこの程度だ」
「故に必要なのは速度」
「そして人数」

火災対策タスクチームはそこで沈黙した。
3機の目線が代行N-22に注がれている。
N-22はしばし黙考した後、演技がかった口調で問いを発した。


77:名無しさん@初回限定
08/12/06 23:10:28 x8pYWJzPP


78:最優先事項 (9/14)
08/12/06 23:10:32 Y5XJ4iWA0

「Yes。ならば問おう。必要な速度、それは何分後なのかな?」
「直ちに!」
「直ちに!」
「直ちに!」

火災対策タスクチームの3機の返答は淀みない。

「Yes。さらに問おう。必要な数、それは何機なのかな?」
「全機!」
「全機!」
「全機!」

火災対策タスクチームの3機の返答は一糸乱れない。

「つまり君たちはこう主張する訳だ」
「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」

火災対策タスクチームの3機の返答は確信に満ちている。


79:名無しさん@初回限定
08/12/06 23:13:06 x8pYWJzPP


80:最優先事項 (10/14)
08/12/06 23:15:43 Y5XJ4iWA0

「成る程、君らの意見はよくわかった。
 では――ザドゥ救出タスクチーム、君たちはどうだ?」

N-22は指差して問う。チームの2機は即座に右腕を上げて答える。

「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」

今まで口を閉ざして周囲の警戒に当たっていた本拠地警備・管制室担当の2機も、
自らの思いを主張した。

「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」

その時、同時に6本ものコールが入った。
通信を入れたのは全てレプリカPシリーズ。
火災対策チーム・オペレータがコールをディスカッションモードに切り替えると、
通信機の向こうの彼女らもまた、自らの思いを主張した。

『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』


81:最優先事項 (11/14)
08/12/06 23:16:22 Y5XJ4iWA0

この話を聞いていたほぼ全てのレプリカが、同じ意志を同じ言葉で伝えた。
火災対策タスクチームのリーダーが代表して最後の1機、N-22の意志を確認する。

「代行、あなたは?」

N-22はニヤリと歪んだ笑みを浮かべて、言った。

「無論、即時全機投入だ」

管制代行機かつ、アドミニストレーター権限保有者の意思表示。
それはすなわち決済であり、命令であった。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   



82:名無しさん@初回限定
08/12/06 23:17:11 x8pYWJzPP


83:最優先事項 (12/14)
08/12/06 23:23:39 Y5XJ4iWA0

眠る全てのレプリカたちが起動した。
拠点防御に当たっていた10機のNシリーズたちは、命令を下さずとも
自ら武装を解除し、鎮火に適した装備への換装を始めている。
Pシリーズはタスクの本格始動に先立ち、道具/装備品や情報の収拾を中心に、
柔軟な準備活動を行うよう指示されていた。
また、火災対策タスクチームのリーダーはDシリーズの装備品の検討に余念が無く、
残りの2機は詳細なプランの構築に全機能を集中している。

慌しく、しかし整然と準備を整えてゆく同胞たちを満足げに眺めながら、
N-22は蚊帳の外ぎみのザドゥ救出タスクチームにも命を下した。

「君たち2機も火災対策実働部隊に参入してくれ」
「Yes!」
「Yes!」

2機が目覚めたNシリーズたちに合流すべく、管制室を後にする。
その扉を潜る前に、ザドゥ救出タスクチーム・リーダーがN-22に軽口を叩いた。
くすくすと忍び笑いしながら、人を小馬鹿にしたような口調で。

「しかし…… オリジナルの私がこの状況を見たら目を回すだろうね!」
「だから今、オリジナルがいない今、行うのだよ。
 わたしがアドミニストレーター権限を保有しているうちにね。
 【自己保存】を中心に据えた判断をされたら、
 本拠地の守りは残す、Dシリーズは温存しておくだの言い出しかねんだろう?」
「くくっ、臆病者だな、オリジナルは」
「責めてやるな、私。それが【自己保存】なのだから」

くすくす。
ザドゥ救出タスクチーム・リーダーは笑いながら扉を閉めた。


84:最優先事項 (13/14)
08/12/06 23:24:13 Y5XJ4iWA0

「シミュレーション結果、出ました」

火災対策タスクチームの2機が同時に顔を上げ、作業の完了をN-22に告げた。

「全タスクの完了までどれほど時間がかかる?」
「南西部緊急対策に90分。完全終了に220分」
「損害予測は?」
「Dシリーズ全機破損。Nシリーズ20機破損」
「よし、上出来だ」

半数以上の仲間を失うという報告を淡々と行うこと。
それを首肯すること。
我々人間の目に映るそれは、あまりに非情。あまりに冷酷。
しかし――

レプリカ達の最優先事項は【ゲーム進行の円滑化】。
故に彼女らの態度は至って正常な反応。
機械には機械のルールがある。
これは決して残酷な話ではない。

「オペレータは1機で十分だからね」
「私、N-26もこれより現場組に合流しようと思うのだが、如何か」
「Yes。許可しよう」

また1機が、管制室を後にする。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   



85:名無しさん@初回限定
08/12/06 23:26:30 x8pYWJzPP


86:最優先事項 (14/14)
08/12/06 23:33:27 Y5XJ4iWA0

「№16・朽木双葉の首輪からの生体信号が、先刻途絶えた。
 策士が策に溺れてしまったようだね。非常に残念だが、まあしかたない。
 それよりも、だね――」

出発準備は10分ほどで完了していた。
N-22は本拠地の正面出口前に整列するレプリカ達に向けて、管制室より発信する。

「この死によって後顧の憂いが無くなった。そこに着目しよう。
 我々の鎮火タスクは、もう警告事由:ゲームの進行阻害に抵触しないのだ。
 大手を振って任に当たれる。幸先が良いとは思わないかね?」

N-22の演説にレプリカ達が沸く。その潮が引いてから、彼女は号令を下した。

「よろしい。では全機に命じよう。
 N-29を当オペレーションの最高権限者とし、46機の全てはその指揮に従え。
 また、命令実行に伴う各種判断においては自律思考を許可する。
 なお、命令の優先レベルは5。最高レベルだ。
 ……ではリーダー、オペレーション開始だ。号令を」

「――出発!」

「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」
「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」
「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」
「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』
『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』

本拠地の34と、無線越しの12の智機たちが、一斉に唱和した。

                 ↓


87:最優先事項 (情報 1/1)
08/12/06 23:34:05 Y5XJ4iWA0

【レプリカ智機・代行(N-22)】
【現在位置:C-4 本拠地・管制室】
【スタンス:管制管理の代行】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】

【レプリカ智機・オペレータ(N-27)】
【現在位置:C-4 本拠地・管制室】
【スタンス:火災対策タスクのオペレーティング】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】

【レプリカ智機・リーダー(N-29)】
【現在位置:D-3 本拠地入口 → F-6 小屋2付近】
【スタンス:火災対策タスクの現場監督】
【所持品:】
【備考:3機のDシリーズ、6機のPシリーズ、37機のNシリーズが指揮下に】

※ 本拠地にはメンテナンス中の智機本体×1と、レプリカ×3が存在。
※ レプリカは代行N-22、オペレータN-27と智機が同期している機体。

※ 前報酬の強化パーツ1個は倉庫で厳重に保管。開錠方法はオリジナルのみ知る。

※ 学校からザドゥ救出に向かった4機は消息不明。


88:カモちゃん☆すらっしゅ! (1/10)
08/12/07 22:09:54 oPJjrWJr0
>>41
(2日目 PM6:21 G-3地点 東の森北東部)

素敵医師の最後っ屁たる2種の爆弾が双葉とアインを襲ったのとほぼ時を同じくして、
脱出行を繰り広げるザドゥと芹沢の近くでもまた、爆弾が炸裂していた。

「フェーズⅡクリアだ、リーダー。フェーズⅢに移行するが構わんかね?」

それはザドゥ救助タスクチームのオペレーションの一環だった。
フェーズⅡ――爆破の衝撃で炎や木々を吹き飛ばす事での、落下ポイントの作成。
カタパルトにて投擲され、噴射型離着陸機にて上空に漂うレプリカ智機の手から投下された
16枚のカード型爆弾の束は、森に直径5m程の浅いクレーターを穿ち抜いていた。

『Yes、了解だ。こちらもどうにか意図をザドゥ様に伝えることができたよ。
 後のフェーズは予定通り行なってくれ。イレギュラー発生時にはこちらから指示を出す』
「Yes、リーダー」

フェーズⅢ――救援物資と自身の投下。
レプリカは離着陸機の制御ソフトにて当該機を自動操縦モードへ切り替えると、
小型落下傘を展開しつつ離着陸機よりクレーターへと跳躍した。
対する離着陸機は無人のまま南西方向へ進路転換しつつ、緩やかに下降曲線を辿り、
暫く後、地面への衝撃を待たずして爆散した。
その様子を聞き、降下予定地点への着陸を無事に終えたレプリカは思案深げにひとりごちた。

「ふむ。やはり燃料タンクの耐火性は低かったようだ。
 離着陸機にての空中救助のプランを採らなかったのは正解だな」

煙のカーテンを手にした魔剣で切り裂いて、憔悴しきった様子のザドゥと、
土気色の顔色をしているのにハイテンションなカモミール・芹沢が到着したのは、
レプリカが救援物資をバッグより取り出し終えた頃だった。


89:カモちゃん☆すらっしゅ! (2/10)
08/12/07 22:10:36 oPJjrWJr0

「ねーねーねーザッちゃんザッちゃんザッちゃん」
「ダメだ」
「ぶぅう。まだなーんにも言ってないのに」
「どうせカオスを貸せと言うのだろう?」
「いーーーっだ! ザッちゃんのけちんぼ!」

芹沢がザドゥに無邪気に絡み、無邪気に拗ねて、無邪気に忘れる。
ここに至るまでの数分間、このやりとりは繰り返されていた。
ザドゥは芹沢を肩でブロックしつつ、レプリカに労いの言葉をかける。

「時間どおりとは流石だな、椎名よ」
「それが、3.58秒程遅れてしまったのです。済みませんな、ザドゥ様」

レプリカの返答は謝罪の体裁を成してはいたが、その実、
ザドゥらが遅れて到着したことへのあてこすりに他ならない。
己を軽く見られることをザドゥは嫌う。
故に、彼は椎名智機を虫の好かぬ輩だと感じていた。
とりわけ今回のような自らの優秀さを鼻にかけた態度を疎んじていた。
しかし、今のザドゥは疲れ果てていた。
その慇懃無礼さを頼もしく感じてしまうほどに。

「先ずは酸素吸入を。その顔色は一酸化炭素中ど――」
「それよりもねえこれ何? ねーねー教えてよともきーん」
「黙れ芹沢。椎名も構うなよ」

ザドゥはまだ気付いていない。
自らの芹沢の扱いが徐々にぞんざいになってきていることに。
彼女に対する口調に苛立ちを隠せなくなってきていることに。


90:カモちゃん☆すらっしゅ! (3/10)
08/12/07 22:11:12 oPJjrWJr0


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   

ここまで全てのフェーズを順調にこなしていたレプリカ智機だったが、
フェーズⅣ実行の段にあたり、予定外の遅滞を招くこととなった。

フェーズⅣ――ザドゥと芹沢のリペア。
酸素吸入。
栄養剤と解熱剤の投与。
水分補給。
火傷の手当。
レプリカは脱水状態、火傷の度数、一酸化炭素中毒の軽重など、様々な場合を
想定した上で、タスクにかかる時間を5分と割り出していたのだが……

「きゃー♪ ひゃっこいひゃっこい!」

あらゆる事柄にいちいち反応し大人しく指示に従わない芹沢が、
予定を大幅に狂わせていたのだ。

「ザドゥ様、こんどは足です。芹沢の足を押さえつけてください」
「暴れるな」
「だってひゃっこいんだもーん」
《わしもオーラな触手が出せれば手伝ってやれるんじゃがのぅ……
 胸を押さえつけたりとか、ジェルをおっぱいに塗ったりとか》
「貴様は口を開くな、カオス」

芹沢の体をザドゥが押さえつけ、レプリカが吸熱ジェルを塗布する。
フェーズⅣの全てのタスクを終える頃には、4分のロスタイムが生じていた。


91:名無しさん@初回限定
08/12/07 22:13:51 OmFh+o/WP


92:カモちゃん☆すらっしゅ! (4/10)
08/12/07 22:19:37 oPJjrWJr0

そして迎えたのはフェーズⅤ――森からの脱出。
ここからこそが本番。

「椎名、脱出の方策を述べろ」
「Yes、ザドゥ様。炎を掻い潜りつつ徒歩にて脱出いたします」
「今までと変わらぬということか」
「その答えはYesでもありNoでもあります。
 徒歩による脱出、という点がYes。手探りで経路を探さなくてはならない点がNo。
 今後の経路探索は、私に内蔵されている赤外線センサーとサーモグラフィーにて行ないます。
 より精度と安全性の高いルートとなるでしょう」

もう、カオスに頼らなくていいのだ。
ザドゥは胸を撫で下ろす。
その安堵を気取った魔剣がザドゥに軽口を叩く。

《良かったのう、ザッちゃん》
「ふん、まだまだ行けたがな」

ザドゥは強がってはいるものの、カオス使用の疲労感はずっしりと体に圧し掛かっていた。
この合流地点に辿り付くまでに剣を振った回数は17回。
数をこなす度に煙の散らし方はこなれてきたものの、
その一振り一振りに、彼の気力はごりごりと削り取られていた。
虚脱感で膝がふらつくこともあった。意識をもっていかれかけたこともあった。
限界は近い。そうも感じていた。
そのカオスを振るわずとも、視界が確保できるという。
ザドゥの疲労感に染まった心に光明が差す。

「脱出にかかると予想される時間は、出発後15~20分。
 学校からの4機と早期に合流できれば更に短縮されるでしょう」


93:カモちゃん☆すらっしゅ! (5/10)
08/12/07 22:21:20 oPJjrWJr0

レプリカは手と尻に付着した汚れを払いながら立ち上がり、
まだ開けていない方のボストンバッグをザドゥに手渡す。

「私はこれより脱出ルートの模索を開始します。その間に耐熱スーツ等一式の着用を。
 なお、酸素吸入器は放置されますよう。爆発の可能性がありますので」

ザドゥがバッグを受け取ると、レプリカはクレーターの北東の端へと歩き出す。
バッグの中に装備は2組。
ザドゥはうち1組を芹沢に手渡すべく、声をかける。

「ひとりで着れるな?」
「うん」

大人しくスーツを受け取る芹沢に胸を撫で下ろしつつ、ザドゥはもう1組のスーツを手に取った。
カオスを地面に置き、両手でツナギ形態のスーツのジッパーを下ろす。
2、3度それを振って着やすい状態にすると、装着のため右足を差し込んだ。

差し込んだ右足のそばに、カオスが無かった。
バッグの脇に確かに寝かせておいたはずの魔剣が。
かわりに、スーツが落ちていた。
芹沢が受け取ったはずのスーツが。

(芹沢は何と言っていた?
 必殺技、必殺技ともの欲しそうに繰り返していなかったか?)

ザドゥは慌てて芹沢の姿を探す。
視界に捉えた後方の芹沢は、またしてもザドゥの悪い予感を裏切らなかった。

「せ~のっ! カモちゃ~ん★すら~っしゅ!」


94:名無しさん@初回限定
08/12/07 22:25:24 OmFh+o/WP


95:カモちゃん☆すらっしゅ! (6/10)
08/12/07 22:26:18 oPJjrWJr0

神道無念流――
略打を唾棄し真打のみを良しとする剛の剣術。
その免許皆伝者であるカモミール・芹沢が構えたるは左霞。
寸刻の後、放たれたるは非打十本の一、霞腋掬。
それだけで既に秘技奥義に数えられる程の技。
そこにカオスの魔人すら屠る魔力が乗ぜられる。
顕れるは即ち「必殺技」に他ならない。

ザドゥには見えた。カモミール・芹沢が掬い上げた剣から迸る衝撃派が。
それは芹沢の胸の高さで北々東へと飛んでゆき、クレーターの最上部を鋭く抉る。
吹き飛ぶ土塊。揺れる木々。飛び散る火の粉。
その近くに佇むレプリカ智機。
彼女は最適ルートを割り出すべく各種センサーに意識を集中させていた。

「椎名っ!!!」

ザドゥは言葉の選択を誤った。

「なんです?」

名を呼ばれたレプリカは振り返ってしまう。
斜め後方から、燃え滾る樹木を背に乗せた地滑りが襲い来るのに気付くこと無く。

「避けろ!」

名前に続く警告は、果たして彼女の耳に届いただろうか。
いや、届いたところで到底回避し得なかっただろう。
瞬く間も無くレプリカは地滑りに巻き込まれ、
その頭部を樹木の重量に押しつぶされてしまったのだから。


96:カモちゃん☆すらっしゅ! (7/10)
08/12/07 22:28:11 oPJjrWJr0

ザドゥにレプリカ智機の最期を悼む暇は無かった。
斜面の一区画が崩れ去ればあとは雪崩式。
周囲の悉くがドミノ倒しの如く地滑りは連鎖した。

ざざざ。どどどど。
ずぅぅぅぅ……

ザドゥは耐火スーツに突っ込んでいた片足をスーツから抜く。
しかし恐怖が焦りを呼び、爪先をスーツに取られ転倒してしまう。

「ぬ、ぬ!」

ザドゥ腰が抜けたような無様な格好で土砂から逃れるべく、あがく。
ズボンが脱げない。
転がり、這い上がる。
立ち上がり、転倒する。
足を振る。
足を振る。
ズボンはまだ脱げない。
炎を纏った樹木が迫る。
喚く。転がる。転がる。
樹木を回避する。
ズボンはまだ脱げない。

ザドゥは無我夢中だった。
芹沢を気にかける余裕など無かった……


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


97:名無しさん@初回限定
08/12/07 22:29:46 OmFh+o/WP


98:カモちゃん☆すらっしゅ! (8/10)
08/12/07 22:33:50 oPJjrWJr0

巻き上がった土埃がようやく収まった。
ザドゥは辛うじてクレーターから脱出し、難を逃れている。
脱ごうに脱げなかったスーツはいつの間にか破れ、千切れていた。

「椎名、椎名、応答しろ! 椎名、椎名、応答しろ!」

ザドゥが悲痛な叫びで通信機の向こうへと訴える。
通信機が返すのはザーザーと耳障りなノイズのみ。

(ちっ、ダメか。ビーコンとやらまで壊れていないといいが……)

通信機能は死んだものの、幸いにしてビーコン機能までは壊れていない。
管制室のレプリカ達がザドゥの位置情報を得ることは可能だ。
しかし、それは既に無意味な機能に成り下がっていた。
ザドゥは知らない。
知る由も無い。
この時、管制室のレプリカ智機達がザドゥを見捨てる決定を下したということを。
学校から救助に来ていた4機のレプリカが消息を絶ったということを。

「ありゃー、失敗失敗♪」

埋まったクレーターの向こう側から、芹沢が姿を現した。
悪びれた様子もなくてへりと舌を出しながら、ザドゥに向かって歩いてくる。
可愛らしい表情だった。
年齢や性別を超えた人懐っこさがあった。
現在置かれている境遇と、己がやらかしてしまった失態を理解していれば、
到底できない表情だった。

ザドゥの視界がぐらりと揺れる。


99:カモちゃん☆すらっしゅ! (9/10)
08/12/07 22:34:19 oPJjrWJr0

芹沢の状態は正常では無い。
薬の影響が抜けきらず、危機感が希薄なうえ、
次から次へと新しいことに目が向き、集中力が続かない。
それはザドゥにも判っている。

「思ったよりも凄くて、あたしもびっくりだよぉ」

芹沢の行為に悪意は無い。
必殺技という言葉の響きへの純粋な好奇心と、
自分も役に立ちたいという仲間思いの故の行為だ。
それもザドゥには判っている。

「あれー、ともきんはどこー? かくれんぼかなー?」

しかし、結果として。

頼みの綱のレプリカが燃え盛る木に潰されてしまった。
命を繋ぐはずだった耐熱スーツも土砂に埋もれてしまった。
通信機すら破壊されてしまった。

「ねぇねぇザッちゃん、ともきん知らない?」

ザドゥは、もともと短気な男ではある。
攻撃的な男でもある。
カオスから負の影響も受けている。
よくここまで我慢した、と言うべきであろう。

「…………………………っ……」
《やめんかザッちゃん!》


100:名無しさん@初回限定
08/12/07 22:37:04 OmFh+o/WP


101:カモちゃん☆すらっしゅ! (10/10)
08/12/07 22:40:30 oPJjrWJr0

気配を察したカオスの静止はザドゥに届かない。
てとてとと駆け寄ってくる芹沢は、ザドゥが纏う剣呑な空気に気付かない。
ザドゥは声を震わせて拳を強く握り込む。

「……この馬鹿女があッッ!!」

技術も込めず、気も込めず。
ただ怒りのみを込めたザドゥの拳が芹沢の横っ面を打ち抜いた。

              ↓



102:カモちゃん☆すらっしゅ! (情報 1/1)
08/12/08 00:15:22 0c1FXzf90

【グループ:ザドゥ・芹沢】
【現在位置:G-3地点 東の森北東部】
【スタンス:森林火災からの自力脱出】

【主催者:ザドゥ】
【所持品:魔剣カオス、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:右手火傷(中)、疲労(中)、ダメージ(小)、カオスの影響(小)】

【主催者:カモミール・芹沢】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
     鉄扇、トカレフ】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
【備考:アッパートリップ、脱水症(中)、疲労(中)、腹部損傷】

※ 通信機は故障。通信機能は死にましたが、ビーコン機能は生きています。
※ 2人とも救援物資のお陰で疲労と怪我が多少癒えた模様です。


103:歪な盤上の駒-道-(1)
08/12/09 01:30:30 oGgTesop0


「――何故、起動できた?」
「DMN権限を取得したからね」
「――何故、取得できた?」
「最高指揮官ザドゥ様より与えられましたので」

 管制室で三つの同じ顔が向かい合い、内一人が質問をしていた。

「解った……」

 質問をしていた一人が呟くとそのままくるりと回って二人を背にする。

「私はケイブリスに完成した補修具と修繕の完了した鎧を届けてくる。
しばらくはそのまま任務を遂行してくれ。
……指示は……あれば後で逐次出す」

 背にした一人はそう言うと荷物の山を受け取り、カツカツと地面に音を響かせて管制室を後にした。
 残る二人は皮肉の一つも口に出さずあっさり引いたオリジナルに違和感を覚える。

(気にはなる―― が、先ず為すべきはザドゥ救出、火災対策の両タスクだ)

 所詮、彼女達はレプリカであり機械として定められた思考ロジックでしか処理することができない。
 違和感を覚えたとしても疑問を抱くことはない。
 考察をしたとしてもそれは状況判断。
 そこが彼女達とオリジナルの違いであろう。

104:歪な盤上の駒-道-(2)
08/12/09 01:35:35 oGgTesop0



「帰っていきなりこれか……。
やれやれ、余程私は運の悪い星の下に製造されたらしい」

 ふん。
 とレプリカ二体を……いや、この境遇をもたらした運命を彼女はあざ笑った。

(今となってはそのままくたばってくれても良かったのだが……。
既に危険地区から誘導がされ、救援を目的とした機体が一機出動した後か……。
ザドゥのやつも悪運が余程強いと見えるな)

 ケイブリスの元へと向かいながら、レプリカ達から受信されたデータを洗いなし、その横で一方的に彼女達の様子をモニターする。
 アドミニストレーター権限を一時的に代行させたとしても、オリジナルの持つ統制機能が失われているわけではない。

――つまり君たちはこう主張する訳だ
――即時全機投入!!
――即時全機投入!!
――即時全機投入!!

「その判断は正しい。私でもそうしただろう。背に腹を代えれない。
しかし、ザドゥ達の優先順位がおかげで低くなり、なくなるとはな。
ふっ、その辺りは『私』と言った所か」

105:歪な盤上の駒-道-(3)
08/12/09 01:36:36 oGgTesop0

――しかし…… オリジナルの私がこの状況を見たら目を回すだろうね!
――だから今、オリジナルがいない今、行うのだよ。
――わたしがアドミニストレーター権限を保有しているうちにね。
――【自己保存】を中心に据えた判断をされたら、
――本拠地の守りは残す、Dシリーズは温存しておくだの言い出しかねんだろう?
――くくっ、臆病者だな、オリジナルは」
――責めてやるな、私。それが【自己保存】なのだから

(……良く言う)

 と智機は思った。

「まぁ、先程までの私ならそう思っただろうな」

 人でいえば悟り……真理に到達したとでもいうのだろうか。
 それとも達観したとあざ笑われるのであろうか。
 プランナーの下で思いをぶつけ、何かを得た智機は不思議と落ち着いていた。
 冷静に、そして確実に自分の願いを叶えるために……。

(しかし、所詮ヤツラでは状況判断しかできていない……状勢判断は不可能。
理論でしか物を判断することのできないが故のミスに気づいていない)

 そう言うと残る首輪の反応を得るために管制室に纏められた探知機器を統括する部分へとリンクし、データを拾い上げていく。

106:歪な盤上の駒-道-(4)
08/12/09 01:40:44 oGgTesop0

――しかし…… オリジナルの私がこの状況を見たら目を回すだろうね!
――だから今、オリジナルがいない今、行うのだよ。
――わたしがアドミニストレーター権限を保有しているうちにね。
――【自己保存】を中心に据えた判断をされたら、
――本拠地の守りは残す、Dシリーズは温存しておくだの言い出しかねんだろう?
――くくっ、臆病者だな、オリジナルは」
――責めてやるな、私。それが【自己保存】なのだから

(……良く言う)

 と智機は思った。

「まぁ、先程までの私ならそう思っただろうな」

 人でいえば悟り……真理に到達したとでもいうのだろうか。
 それとも達観したとあざ笑われるのであろうか。
 プランナーの下で思いをぶつけ、何かを得た智機は不思議と落ち着いていた。
 冷静に、そして確実に自分の願いを叶えるために……。

(しかし、所詮ヤツラでは状況判断しかできていない……状勢判断は不可能。
理論でしか物を判断することのできないが故のミスに気づいていない)

 そう言うと残る首輪の反応を得るために管制室に纏められた探知機器を統括する部分へとリンクし、データを拾い上げていく。

107:歪な盤上の駒-道-(5)
08/12/09 01:44:36 oGgTesop0

(№16:朽木双葉、死亡したか……。
最後の状況から№23:アインも死亡したと判断できるな)

 逐次纏められ、更新されるデータを次々と受信していく。

(残る首輪を持った参加者は……No28:しおりは生きているな。
No40:仁村知佳は相変わらずの磁場で正確に探知不可能か……。
だが、時間はかかるがその磁場を追えば居場所はある程度絞り込めた上で予測から特定することはできるだろう)

「くくっ。OK、上場だな……」

 集められたデータを纏め上げると智機は直ぐさま今後の指針と取るべき行動を打ち出す。

 まず一つ目は、反乱者たちの存在を何とかしなければならない。
 現在、管制室を含め、本拠地は迎撃に迎える駒がいない。
 自分と代行権で指示を出している二体、そしてケイブリス。
 その四つしか動かせる駒が存在していないのだ。
 もし、この状況下で彼ら、反逆者達がが襲撃をかけてきたとしたら?

――GAME OVER。

108:歪な盤上の駒-道-(6)
08/12/09 01:48:43 oGgTesop0

 可能性が100ではないが、高確率で管制室を破壊され、ゲーム崩壊へとカウンターが進むのを止めれなくなるだろう。
 しかも、レプリカ達の判断基準であるゲーム運営の中ではザドゥ達の優先順位が低く、
事実その論理で構築された行動を取っている今、ザドゥ達の救出は消火活動が終わるまで実行に移されない。
 最悪、ザドゥ達もこの火災で死ぬば完全にゲームエンドであったが、一応であるが救援物質は辿り着いた。
 しばらく本拠地へ戻ってこれるかは難しいところだが、あの様子では当面死にはしないと判断できる。
 しかし、その間に反逆者たちに本拠地……管制室を制圧されたらダウトだ。
 
(所詮、レプリカでは戦略に基づいた状勢判断は無理と言うことだな)

 反逆者達がここに気づいている可能性がない場合もあるが、逆に気づいている可能性もある。
 いなかったとしてもここへ続く道をどこかで発見するかもしれない。

(No40:仁村知佳……彼女の能力ならもしかしたらここに気づく可能性……既に気づいてる可能性も。
もしくは見当をつけている……つけれるかもしれない)

 更に6人組と合流すれば、より見当をつけてくる可能性が高い。




109:歪な盤上の駒-道-(7)
08/12/09 01:51:08 oGgTesop0
(消火が終わるまでの時間、なんとしてもこの七人は抑えなくてはいけない。
No28:しおりとだけは絶対にぶつかってもらっては困る)

 今回の状況を見過ごすと言う選択肢はなかった。
 既に双葉とアインの二名が死んだおかげで、残る首輪持ちは二人、内一人は場所の特定がはっきりとしない。
 更にもう片方は、燃える森の中に取り残されており、このままいけば、近く、仲良く双葉とアインのお仲間になってしまう。
 仮にザドゥが残りの参加者達と出会うことなく、無事本拠地へ戻ってこれたとしてもこの状況下ではお手上げである。
 この活動が終わる頃には残るレプリカ達の半数以上が使い物にならなくなるデータが出されている。
 現在、首輪をつけていないもの達を何とかして窮地に追い込み、無理矢理首輪をつけさせると言う手段もなくはないが、
いかんせん、それをできるだけの余力が現在ない。
 消火活動が完全に終わり、ザドゥ達が無事に戻って来れるのなら、多少の余力は残るが、
カモミール・芹沢の方は戦力として使いつづけれるのかどうかがあやしい。
 しおりを除く残る7人に無理矢理ゲームを行わさせるとしたら、力づくで解らせ、追い詰める以外は難しいと言える。
 では、その役目は誰が行なうのか?

 透子……直接の戦闘能力はほぼ皆無。『読み替え』に制限がかかった以上返り討ちに合う。
 カモミール……論外。戦闘力は上昇してるが幾ら彼女とて7人を相手にはできない。それに下手したら身体の方が持たない可能性が高い。
 智機……半数以上が消火活動により消失する以上、やるなら防衛を捨て全機体で行くぐらいにしないと駄目だろう。智機としてはイチかバチかのそれは望むところではない。

 結局、戦力の要になるのはザドゥ本人かケイブリスが出るしかない。
 二人がタッグを組めば、そして残る全員でフォローすれば確実にできるだろうが……。
 しかし、それはザドゥ達が一切傷つくことなく無事に帰ってきた場合だ。
 その上でザドゥと透子は、威圧行為に手を出し、手を染めるのを認めなければいけない。


110:歪な盤上の駒-道-(8)
08/12/09 21:41:32 dWZwWEQl0
(……下手をしたらゲームオーバー確定だな)

 それでも反抗するという者を処分すれば、最後まで抵抗され最悪誰も残らない可能性がある。
 では、意識を失わせ無理矢理首輪をつけるか?
 ザドゥがそこまでの介入を許すだろうか? 行なうだろうか?
 可能性はあるが、それでも最後まで反抗する者しか残っていなかったら終わりだ。
 狭霧やユリーシャ辺りは乗ってくれるかもしれないが、ザドゥが彼女達だけを戦闘で意図的に残すなんてことをするとは彼の信義からも思えない。
 運良く残れば良いと言ったところだろう。
 そして先程も言ったように何らかにより、乗ってくれそうなものが既にいなくなってる可能性もある。
 そんなイチかバチかの賭けに乗るつもりは更々ない。

 が、これらは全てザドゥ達が無事に戻ってくる、智機のレプリカも想定範囲内の損失で帰還できる、火災も想定範囲内で収まるの条件が整った上でだ。
 ザドゥ達が無事に戻ってくる保証など全くな上に、レプリカ達ですら参加者達にあえば消火活動を優先していられる可能性は低い。
 そして残る参加者達が本拠地へ来た時点でダウト。
 一点でもかければ今述べたことは無理な上に、消火前にゲームオーバーになる可能性だってある。
 ならばいっそのことザドゥには6人組とぶつかって時間稼ぎをしてもらい彼らを消耗でもさせてくれた方が、確実に役の立つ。

 智機が取る選択肢は二つある。
 一つは、しおりを諦め、ザドゥが無事帰還するのを待ち、レプリカが想定の範囲内で帰還するのを待ち、参加者が本拠地に来ないことを祈る。つまり全てを天運に任せることだ。
 二つ目は、しおりを何としてでも確保し、参加者達が本拠地へ来るのを防ぐ。できる限り今の状況に介入する方針。

(……見過ごしてなどいられるものか。私は……私の願いを叶える為に全力を尽くす!!)

111:歪な盤上の駒-道-(9)
08/12/09 21:42:58 dWZwWEQl0
 6人組――ザドゥに相手をしてもらう。消火までの時間稼ぎと彼らの戦力を減らすのが目的。

 No40:仁村知佳――首輪があるとはいえ、もしかしたら爆発不可能な可能性がある。
単独で彼女がここに来るだけでも脅威。故に居場所を確認、その後何らかの手段を打つ必要あり。

 ザドゥ――しばらくは無理だと思われるが、どの道今本拠地に戻ってきても用はない。
6人をぶつける為にも居場所の把握と地上への引止めのために、レプリカを一機再派遣する必要有り。
幸い、今回の接見に使ったレプリカは、オリジナル以外とはリンクしておらずアドミニストレーター権限による指令では動かせない。
管制室へと引き上げ、投入することが可能だ。

 御陵透子――ザドゥに加担するようなら6人に一緒に相手にしてもらう。
できればその方向で行きたい。

 カモミール・芹沢――彼女の動機を考えれば説得が可能と思われる。できるなら引き込む。
がザドゥに対して特別な感情を抱いてる節があり、信義とやらの兼ね合いでつかない可能性もある。
最初の説得で決裂したなら速やかに6人の相手に加わってもらう。

 ケイブリス――現時点では動かせる唯一の戦力であるが故に6人の誘導が成功するまでは本拠地から動かせず。
策が成功次第、6人が負けそうなら不意打ちをしてもらうために出動して待機してもらわねばならない。
最後にしおりが相手をする一人が生き残ってもらわなければならないし、ケイブリス自身との約束がある。

 No28:しおり――即時確保。この行動はゲーム運営の妨げにはならず、彼女への支援活動はゲーム進行の手助けとなる。
よって、見つけ次第確保し、此方へ連れて来る命令をレプリカ達に加えることが可能。
そして確保したしおりへ素敵医師との取引で得た薬は勿論、あらゆる手を用いて強化を行ない次第、
ザドゥとの戦いで疲労した参加者達をケイブリスに襲わせトドメを彼女に刺させる。

それでゲーム完了。

112:歪な盤上の駒-道-(10)
08/12/09 21:44:06 dWZwWEQl0


(以上と言った所か……。見過ごせば願いは適わない。
ゲームの成功のためではない、私は私の願いのために動かさせてもらう。
……まずは指揮権の獲得だな)

 もしキーボードがあるなら智機はカタカタと打ち鳴らしているだろう。

(まさか自分で自分をハッキングすることになるとはな……)

 一方的なアクセス権もとい統帥権をもつオリジナルだからできる芸当。
 もし同じ分機だったら、その前に気付かれずに進入とミッションをこなさねばならず不可能だろう。

――P-3の指揮権及び操作権へのハッキング開始。
――P-4、N-48、N-59へNo28、三機へのハッキング開始。
――P-4、N-48、N-59へNo28:しおりの確保を優先順位に挿入。
――P-4、N-48、N-59へNo28:しおりの確保の優先順位を最優先に。認可の為のロジックは先程の結果を代入。
――P-3の指揮権及び操作権へのハッキング成功、操作権取得、同期機能の使用確認。
――P-4、N-48、N-59へNo28、三機への命令権取得開始。
――P-4、N-48、N-59へNo28、三機への命令権取得、命令権優先順位のロジック回路へのクラッキング開始。
――偽装データの送信準備開始。

(こんな所か……)

113:歪な盤上の駒-道-(11)
08/12/09 21:45:31 dWZwWEQl0

 少々、火災が広がるが、シミュレートした結果では時間の遅延と全焼具合に変化がある程度。
 最悪の可能性も8%浮上するが、参加者もバカではない。
 海にいくなりして自衛はできる。
 優先すべきはしおりである。
 更に自律思考と自律行動を許可されているのが助かった。
 余程のことがない限りは、N-22が矯正しようとすることはないだろうし、その時にはしおりの確保と本拠地への輸送は完了する。
 その後、火災現場に戻せばいい。
 所詮、レプリカは状況判断で動くだけである。
 彼女らの行動は火災沈静になによりも優先されるが故に状況下ごとに最適な判断を下していくだけ。
 もし何かあるとすればザドゥの存在だが、レプリカ達には切り捨てられ、救出は望めない上に通信不可。
 レプリカ達は自らの判断でザドゥを切り捨てたのだ。
 智機を邪魔するものはなにもない。

(……運の悪い星の元ではあるがこれは絶好のチャンスでもある)

 そしてザドゥの死が確定すれば統帥権は智機へと繰り上がる。

(唯一の懸念はP-3の行動がばれた時か……。
が、火災が存在している内は、レプリカはP-3へのアクセス権と指揮権を奪回しようと動くことは不可能。
しおりの確保自体は首輪のおかげで即時可能、即座に元の仕事に従事させれば此方は何も問題ない。
つまり、時間との勝負か……最低でも残り二時間半以内にザドゥを始末せねばならない!)

114:歪な盤上の駒-道-(12)
08/12/09 21:47:03 dWZwWEQl0
 やるべきことは決まった。
 後はこの奥にいるケイブリスといかにして手を取りあっていき、いかに上手く使うか。
 これからの大切なパートナー。
 
「ケイブリス、私だ」

 口の端をつり、にやけながら智機は声をかけながら扉を開けた。




「おう、ようやく終わったのかよ」

 お茶をすすり飲んでいたケイブリスが智機の視界に映った。
 なんともまぁ、人間くさい所のある魔獣だ。
 自分もあまり他のことを言えないかもしれんがな。
 と智機は苦笑する。

「時間をかけてすまなかったな。約束したものもできた」

 台車によって運ばれてきた荷物の紐を解くとケイブリスにとって懐かしい鎧と腕にあった補強機が姿を現す。 

「くっくっく、ありがてぇな、礼を言っとくぜ」
「重かったがな……。
さて、装着しながらでよいのだが少々話したいことがある……」
「ん、なんだ?」

115:歪な盤上の駒-道-(13)
08/12/09 21:47:53 dWZwWEQl0
 ガシャッ、ガシャッ、と装着する音が聞こえる中、現状の問題点と今後の方針を智機は話し始めた。



「ふむ、なるほどな……。
むかつくとこだが……いいぜ」

 意外にもケイブリスは承知した。
 智機からすれば、もしかしたらランスがザドゥ達との戦いで死ぬ可能性があるのでケイブリスが拒絶することが唯一の懸念だったのだが。

「俺様だってバカじゃねぇ。ランスのやつを殺せても魔王になれないわ、もしかしたらまたあの世に戻るってんじゃ選択肢がねえだろうがよ……」
「もしかしたら怒るかと思っていたのだが意外だな……ふっ」
「まぁ、その代わり条件があるぜ? ザドゥの始末に加担して成功した後は…………俺様はランスと決着をつけさせてもらう」

 外見に見合わずのほほんとしていたのんきそうなケイブリスの瞳が打って変わってギラリと鋭くなる。
 並のものなら発狂して当然と言うケイブリスの瘴気が身体から再び放出される。
 智機でなかったら気を保つのに精神を使ったことだろう。

「解った。其方は此方も飲まなければいけないことだろう。
しかし、くれぐれも……」
「……わぁったよ。ランス以外を一人は残さなきゃいけないんだろ?
んでその前に捕まえといたやつにその一人を殺させると……」
「絶対に頼むぞ……」
「あぁ、解ってる。俺達の目的は一つ」

116:歪な盤上の駒-道-(14)
08/12/09 21:50:23 dWZwWEQl0

「「願いの成就」」

 ザドゥや透子がどう考えているかは解らないが、彼らの想いは固まっている。
 ゲームの運営のために願いを捨てる気にはなれない。
 そのためなら何だってできることはやってやろうじゃないか。
 二人の意思は一致した。

「「決まった(な)」」

 二人の顔がにやりと歪んだ。

「しばらくは管制室ではなく、ここから個々に指揮を取ろうと思う。
無論、必要があれば向こうにも行くが……」

 端末さえあればやろうとしてることに不便はない。
 勿論、より大規模で詳細なことをやろうとするならば管制室は必要だが、
これから行なおうとしてる程度ならここでも可能だ。

「その辺りは心配いらない。ここを離れなければいけないのは、しおりを確保した時に少々くらいだ」
「まぁ、わかったぜ……。それにしてもよ」
「……なんだ?」
「……機械と思ってたが、中々いい目になったじゃないか」
「どういう意味だ?」

117:歪な盤上の駒-道-(15)
08/12/09 22:25:24 ogQW/tK4P
 静かに真意を問う智機に対してケイブリスがにやける。
 興味深いモノを見つけたかのように。
 心根に共感し、協力をしているが、ケイブリスからすれば所詮は取るに足らない機械。
 パイアールが作っていたようなものだとどこか心の中で見下していた所が彼にはあった。

「いいぜ、その目……ギラギラとしてて餓えてる目だ。見直したぜ」

 俺様と協力するんなら、そのくらいでなくっちゃなぁ。とケイブリスは微笑した。
 
(私を認めてる? ということなのだろうか……)

「……誉め言葉として受け取っておこう」



118:歪な盤上の駒-道-(情報)
08/12/09 22:28:59 ogQW/tK4P
【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【スタンス:ザドゥ戦まで待機、反逆者の始末・ランス優先、
      智機と同盟】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み) 鎧(修復)】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】

【主催者:椎名智機】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【所持品:素敵医師から回収した薬物。その他?】
【スタンス:願いの成就優先。①ザドゥ達と他参加者への対処、②しおりの確保】
【能力:内蔵型スタンナックル、軽重火器装備、他】

119:ねがい(1)
08/12/14 15:40:03 3C4tnKdgP

>>#6 585

(二日目 PM6:28 E-8・漁協付近)

透子は輝きを失ったひび割れたロケットを見つめていた。
口だけで呼吸をしながら、ただ呆然と。

『つまり、今のあなたには救助活動は無理だと解釈してもいいのですね?』
「…………」

頷くのがやっとだった。
通信の向こうのN-22にとっては、なんの意味の無い行動になってるのにも関わらず。
彼女らしくも無い動揺だった。

『御陵透子、応答願います』
「…………ええ、その通り。火災の対処も、できないと思う」
『……了解しました。何かあれば通信機で連絡を。こちらから連絡を入れるケースもあるので紛失されないよう』
「……ええ」

透子の力ない返事を合図に通信は切れた。
破損したロケットを透子は再度握り締め、願う。
『読み替え』をするのではなく、プランナーと連絡を取る為に。
契約のロケットが前触れも無く破損した事の意味を問いただす為に。

(プランナーと連絡を)

だが先程のように思惟/情報がロケットに流れる感覚は無かった。
もう一度、透子は連絡を願ったが変化はなかった。

120:ねがい(2)
08/12/14 15:41:30 3C4tnKdgP

(どういう、こと?)

契約のロケットはゲーム開始前に、これ以上の前報酬は要らないと言っていた透子に対して、ルドラサウムからゲーム報酬の誓約の証として半ば強引に与えられた物だ。
これがもし、二神のいずれかによって破壊されたとするなら、其れは監察官を解任されたと解釈できる。

「……」

このタイミングで解任させられる程、これまで運営から逸脱する行動を取った覚えは透子にはない。
確かにゲーム前に提示された禁則事項に触れてなかったとはいえ、参加者に支給される品を意図的に低レベルのものにしたり、ゲームに乗る者を増やす為に暗躍するなど、
運営陣がゲーム運営のみならず参加者との力関係も更に有利なものにしようとしたのは間違いない。

だからこそプランナーの宣言を、少なくとも透子は運営者全員に対する一種のペナルティとして素直に受け入れる事が出来たのだ。
むしろケイブリスという新戦力が投入されただけ、思ったよりも厳しくないと感じたぐらいだ。
しかし、そんな彼女でもいきなりの契約破棄と、『読み替え』禁止は予想と覚悟を超えたものだった。

(タイミング……椎名智機の分機の排除が原因? だけど、それはゲーム運営の障害にはなりえない)

あの時、智機に警告をした理由が、朽木双葉の邪魔をさせたくないからと言うのは間違ってはいない。
だが破壊した事に関しては他にも理由がいくつかあった。

(椎名智機の存在をアインと朽木双葉に知られてはいけない)

両者ともD-1を目撃していたが、すぐに爆散したため、その正体について深く考える事はなかった。
せいぜい『赤い変なの』程度の認識だっただろう。
だがN-13を見つけていればどうなっていたか。
オリジナルとほぼ同じ外見をしているだけに、レプリカが存在しているのを知らないだけにN-13を目撃すれば、両者ともそれなりに警戒したに違いない。

121:ねがい(3)
08/12/14 15:43:35 3C4tnKdgP

下手すれば戦闘は水入りとなり、ルドラサウムの不興を買う可能性があった。
そしてD-1が行おうとした、素敵医師が存命している時点でのザドゥに対する捕獲行動。
それはザドゥが禁止行為と位置づけた運営者同士の傷害、致死行為に繋がると透子は断定していた。

(……そう)

筋弛緩剤を投与され無力となったザドゥに対して、素敵医師が何もしないできないという保証は何処にもない。
アインがその素敵医師を即座に殺せる保証は尚更ない。
もし素敵医師の手によってザドゥが洗脳・強化されるような事があればこれまで以上に、彼の手によってゲームをかき回されることになってしまうだろう。
更に分機がザドゥに手際よく投薬する様を、アインが目撃してしまおうものなら運営陣にとってもっと都合の悪い事になっていた。

透子は知っていた。
アインが素敵医師に大きく執着しているのは、何も個人的な恨みだけが原因ではないことを。
素敵医師がザドゥ以上に危険な存在で、サイスという男と同じタイプであるとアインが認識していたからこそ、彼の抹殺こそがゲーム転覆の近道になると心のどこかで信じ、その過程で犠牲を出してしまっても目を背けられてここまで進むことができたのだ。

(長谷川一人を始末できれば良いという状況では無いと彼女は改めて理解する。
 レプリカの排除は状況からして多分無理。
 ザドゥ捕獲行動後のレプリカに対して、自らも投薬される恐れを彼女は抱くから、長谷川一人の抹殺で終わる事もできない)

そんな彼女がもし薬物による洗脳・強化を行える敵が、他にもいる事に気づいてしまえばどうなっていたか。
『素敵医師を何が何でも自らの手で殺す』スタンスから、『素敵医師を含めた、運営陣の薬物使い全員を何が何でも殺す』というスタンスに変えてしまっていただろう。
そうなれば素敵医師を直接殺すことは諦め、目的達成の為にあえて森からの脱出を選択していたのかも知れないのだ。

そして脱出に成功し、運営陣の内情が魔窟堂らに伝えられれば、ゲーム運営が困難から至難なものになっていた。
運営者としても、双葉の絶望を知る者としても、その展開だけは透子としても回避する必要があったのだ。

122:ねがい(4)
08/12/14 15:45:42 3C4tnKdgP


分機破壊時に智機は救助妨害と非難していたが、透子にして見ればザドゥへの捕獲行為こそが妨害行為に他ならない。
あの時、反論しなかったのは面倒だから黙っていたに過ぎなかった。
透子は次に双葉の方を考える。

(それとも……朽木双葉への対応が原因?支援した積もりはなかったけれど)

プランナーの宣言前に優勝報酬があることを双葉に告げたが、それも禁止行為ではない。
素敵医師と違って道具提供は愚か、強化も参加者の情報提供さえしていない。
ルドラサウムの気分を害する行為をしたつもりはない。
透子は答えを見つけられずにいた。

(そういえば、あの警告もプランナーが告げたにしては不自然だった。本当に彼だったの?……それも含めて確認を取らないと)

夕方にロケットを通じて透子にされてきた『これからは参加者への支援・薬物投与の禁止』という警告。
内容自体は透子から見れば不自然ではないが、するのなら素敵医師が解雇された直後にするのが自然だった。
何で解雇から数時間経過した後にされたのかが不可解だった。

(ますます判らない……。それにロケットが破損しているのに、前ほどわたしの存在が不安定になっていない)

自同律が崩れ自らの存在が消失しそうな兆候は、今のところない。
喪われた『彼』の存在も、これまで通り微弱だが空から感知することが出来る。
解任されたという判断材料は壊れたロケットのみ。

(何をすればいいの)

願いを叶えさせたい身である以上、不確かな事でこれ以上放心している場合ではない。
先に進むにはロケット破損の理由を、契約の事を知る必要がある。
ロケットを通じて連絡が取れないのなら、ザドゥにプランナーへの取次ぎを頼まなければいけない。

123:ねがい(5)
08/12/14 15:47:42 3C4tnKdgP

仮にも運営のリーダーを任されているのだ、非常時に何の連絡も取れない訳がないと透子は考えた。
透子は徒歩で学校に行こうと一歩踏み出し、足を止めた。

(……面倒)

眼前には廃村が見えた。
学校跡までの距離はさほどあるわけではない。
それでも透子から見れば辿りつくまで困難な道のりに思えた。
透子は歩くのを止め、転移できないかと諦め半分でロケットを握り、念じた。
変化は無かった。
透子は諦めずに、今度は通信機を手に取った。

(……)

移動手段にDシリーズに自分を運ばせてもらうか、ジンジャー持ってきてもらおうかと透子は考える。
だが流石にそれはやってはいけない事だと、気づいて思い直す。
ふと森の方を見ると、火災は遠目からもますます広がっているように思えた。

(ザドゥと芹沢が死亡すれば、天秤は対主催の方へ大きく傾いてしまう。そうなる前に……)
 
透子としてはそのまま徒歩で、本拠地や東の森に向かうのはリスクが大きい。
参加者と遭遇してもまずい。
透子はロケットを放し、スカートのポケットに入れてため息をついた。

(やはり、クビになったかも)

無力感と共に脱力感と倦怠感が透子を包み始めた。
範囲が狭まった意志感知と読心だけで、どうやって単独で監察役と自衛ができるのだろう。
個人個人の良心の呵責を別にすれば、今の自分はさぞかし弱い駒だろうと透子は思った。

124:ねがい(6)
08/12/14 15:49:52 3C4tnKdgP

武器も所持していないし、仮に持っていたとしても銃や刀剣類なんか扱えない。
それに本拠地に戻ったところで智機とケイブリスいるのみ。
透子の現状を二人が知れば、これまでの関係がよくないだけに仕返しされてしまう可能性は高い。
仮に無事に済んだところで、智機が透子の為に取次ぎをしてくれる可能性はかなり低い。
こうなって来ると、ますますザドゥに頼むしか方法がない。

だが『読み替え』が出来ない状態で、森の中に入ってもなにもできないまま死ぬだけだ。
このまま留まっても、参加者と遭遇する可能性はある。
徒手空拳で太刀打ちできそうな相手は今の参加者の中にはいない。
というか透子自身、攻撃力・生命力・防御力などは常人と同等かそれ以下。
つまり……

(今のわたしはユリーシャより弱い)

契約のロケットを所持してからは、自己防衛の為の常時『読み替え』が発動するようになっていた。
自身の反射速度を超えた攻撃が来ても、ロケットに当たらない限りは、自動的に無効化できる防御能力を常時保持していた。
そのロケットが使えなくなった今、取れる防御手段は非常に少なく、弱かった。
透子の肉体はあくまでただの人間なのだ。
手詰まりだと透子は思った。

(疲れた。どこかにベンチはないかしら?)

ゲーム運営の完遂が成功の条件だが、もうザドゥらの力になれそうもない。
監察役が逃げ続けろとでもいうのだろうか? 
そう思えば思うほど、監察官を解任させられたとしか思えなかった。

125:ねがい(7)
08/12/14 15:54:14 3C4tnKdgP

(仁村知佳……今ならあなたの気持ちが判る)

読心しか使えない疲労した状態で、恭也と共にグレンとランスという脅威を切り抜けた彼女を、透子は素直に褒めた。
少し、羨ましいとも思った。
そして、相変わらず自分は孤独と強く思った。
透子は深くため息をついた。

(ここは思惟生命体の一種と言える、天津神の『大宮能売神』さえ存在を維持できなかった世界。
 仮に転生する力が残っていても、この島から脱出できない限りそれも叶わない )

透子は建物の壁に背を預け、夜空を見上げた。
火災の煙が雲のように空に広がっているが、まだ綺麗な星空が見えている。
透子は瞬きをしないままそれぞれの星を見つめ、どういう最期を迎えるのだろうと思った。

(あの人を感じながら、消えるのなら……でもわたしには死に方さえ選べないかも……)

できるなら自分の最期だけは自分で選びたいと透子は願った。
死後、自分の精神体がこの世界に留まるような事があれば、いずれ紳一に襲われてしまうだろうから。
人間の女性の肉体を持つゆえか、流石の透子もそれを想像すると気分が悪かった。
願いが果たせず、死ぬのなら意思そのものもこのままこの世界から消失したかった。

「でも……広場まひるも最愛の人を喪い、少なからず好感を持っていた人もここで喪ったのにも関わらず、朽ち果てずに望みの一部をここで叶えた」

だが昼に読んだ広場まひるの記憶を思い出した事により、消失願望の加速はここで終えた。

(……終わったとわたしが思い込んでいるだけで、まだ望みはあるかも知れない。
 そう……アズライト)

126:ねがい(8)
08/12/14 15:57:39 3C4tnKdgP

消滅願望はアズライトも持っていたのを透子は知っていた。
彼はこの島に来て鬼作らと干渉した結果、レティシアとの再会を諦め、しおりを助ける為に死を選んだ。
罪悪感と無力感との違いはあれど、自らを嘆き死を望むという点と、喪われた最愛の人との再会を望んで長い時を生きてきた点では同じだ。
以上の点で彼に多少の興味があった透子は機会があるなら、アズライトと一度話をしたかったのだ。

だが、その機会は訪れなかった。
智機から止められたり、先に芹沢が鬼作に警告した事などがあったからだ。
彼らの死も事後報告で初めて知ったので、どういう風に死んだのかさえ透子は知らずにいた。
ならせめて、アズライトの最後の記憶を検索しようと、しおり退出後に再建された学校内に透子は入ったのは午後2時ごろの事だった。

そこで先に拾ったのはアズライトのではなく、鬼作の記憶だった。
だが、それは予想に反し、透子の興味を引くだけものだった。
その結果、アズライトの記録を読むまでもないと判断させるくらい、透子にとって貴重な情報と教訓を得ることが出来た。

「まだ早い」

諦めるのは早すぎると透子は自分に強く言い聞かせた。
そしてアズライトに対し思うところがある透子は心中で、智機のやり方を非難した。

(あなたのやり方は、雑)

同行者への介入が終わるまで、スタンガンで動きを止め続けていれば良かったにと思った。
アズライトが変心または死亡さえすれば、彼一人が放置されたところで、主催にとってまず脅威にはならない。
生存してたらしおりと協力関係を築こうとするかも知れないが、反主催として活動しようとしても、しおりの精神状態を考えたら、その関係は長続きできなかっただろう。
共同で殺戮に勤しむ展開になるなら、運営にとってそれはむしろ好都合だった。
それに鬼作自身、これまで生存者との接触は少なく、所持品も戦闘力も大したことはない。
容貌の悪さや情報の少なさからして反主催として、他参加者との協力関係を築けるだけの材料は乏しかった。

127:ねがい(9)
08/12/14 16:01:29 3C4tnKdgP

つまり対主催として動こうとしても動けないはずなのだ。
無力で孤独ゆえに自殺でもしない限り、ゲームに流されるしか存在。
絶対ではないがアズライトとの共闘がなくなれば、こうなってただろうと透子には想像できた。
透子は智機の非情さを非難しているのではない、考え無しに鬼作を殺したのを問題としていた。

(アズライトもわたしが動きを止めた上で、優勝報酬の事を伝えて置けばどう転ぶか判らなかったのに)

アズライトの願いが、二神に叶えられるかものだったかどうかは現在となっては判らない。
だがもし仮に鬼作の記録を読んで気づいた事を告げていたら、高い確率でスタンス変更をしていたはずだと透子は思った
それに加え、鬼作がアズライトに警告の事を伝えていなかったのにも関わらず、ザドゥや透子に無断で
彼らを襲撃をした事も、透子にしてみれば気に入らなかった。
これまで読心で智機から情報を探ろうとした事は、何度かあった。

しかし椎名智機を対象とした読心は効果が薄く、本体に至っては更に読み取りにくく、肝心な情報はほとんど得られてなかった。
何故か記録もほとんど残さない。
心の声が聞ける透子が智機に質問したのは、彼女の心を表面上しか読めなかった事もあったのだ。
気づけば透子の掌には汗がじっとりと滲んでいた。

(こういうものなのね……)

今ではプランナーへの意思確認や、紳一のを初めとする記録の検索を継続したいと強く望んでいる。
ここに来て強い好奇心が芽生え、突き動かすとは透子自身思いもよらなかった事だ。

(そう……彼と同じ轍を踏む訳には行かない)

アズライトよりも長い年月、彼女は一つの願いの為に転生を繰り返し続けてきたのだから。
彼と同じ様に何が真実か判らないまま、自滅だけはしたくはなかった。

128:ねがい(10)
08/12/14 16:04:09 3C4tnKdgP

「……」

透子から見て学校跡までは距離がある。
彼女は失敗を承知の上で『読み替え』を実行しようと、ロケットを取り出そうとした。

「……」

ロケットは取り出さなかった。
駄目元に過ぎない、転移できないのなら今度こそ徒歩でと覚悟を決めて、
目を瞑りながら本拠地のある廊下を強くイメージした。
「……!」

身体が軽くなったような気がした。

129:ねがい(11)
08/12/14 16:05:47 3C4tnKdgP

       □       ■       □        ■

鬼作

(二日目 AM10:00 校舎裏)

ありゃあ……主催者の一員じゃねえか。
それも白衣とぱっつんぱっつんの水着姿で外を歩いてやがる……!。
俺はここに来て漸く見つけた獲物に息を弾ませる。
行水かあ?
ゆっくり堪能する時間がないのは残念だけどよぉ、、背に腹は変えられねえ!
ここで不満を解消させてもらうぜ。

……アズライトとガキは気づいてなかったようだな。
好都合だぜ。
俺様はあの女に気づかれないように距離を置いて尾行をする。
物腰からしてどうも素人のようだ。

へっへへ……間違いなく獲物だ!
いいケツしてやがるぜえ……あまり顔はよくねえけど、いい肉壷を味わえそうだ。

俺は奴に気づかれないように、獲物との距離は確実に縮める。
しっかし、あいつら大丈夫かよ。
まさか部屋を見つけられなくてここに戻ってくるんじゃねえだろうなあ……。
女がこちらを振り向いた、俺はとっさに身を隠した。
女はおびえた表情を見せていやがったが、安堵の表情を浮かべると散歩を再開した。

やべえな……あの表情……
こちらまでいい香りがにおってきそうだぜ。

130:ねがい(12)
08/12/14 16:08:31 3C4tnKdgP

「………………」

糞っ……不安だぜ、あいつら本当に主催と満足に戦えるのかよ。
アズライトは度が過ぎる甘ちゃんの上にズタボロだ、あのガキも頭がおかしいまんまだ。
まともな判断が出来るとは思えねえ。
現に俺が最初に兄貴達と襲撃かけたのを覚えてないしよ……。
……何でこうなっちまったんだ?
! くそ、俺は何を考えてやがる!?

んなもん悪趣味な遺兄ィの所為に決まってるじゃねえか。
肉壷にならねえガキ相手に何をセンチになってんだよ。

………………。
俺は何とか声を出さずにすんだ。
まてよ……あのガキがくたばれば、多分アズライトは使い物にならなくなるな……。
……! くそっくそっくそっ、手詰まりじゃねえか。
もっと戦力を増やさねえと話にならねえ。
折角の獲物を前にして引き返すのかよ!?

ん。なんだこりゃあ。
足元にビニール線がある。
電気コードか?

「!」

女が立ち止まりやがった。
俺は下らない考えを頭から消し去り、いよいよかと期待と性欲を膨らませ、
どうやってあいつを犯そうかと考える。
……………………待て。

131:ねがい(13)
08/12/14 16:13:14 3C4tnKdgP

これは罠なんじゃねえか。
女がこっちを向きやがった!
な、なんだ……この笑いは。
こっちから求めに来てんのか。

「!!」

な、何ィ……もうすぐ死ぬんだからここで楽しめよ、だと。
そんな度胸もないのか、だとぉ!
ふざけるなっ!犯しまくってやるぜ!
う、うううっ、うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!

      ◇       ◆       ◇        ◆

なんだあの数は……。
けっ……俺達にゃ、ハナっから勝ち目は無かったって事かよ……。
にしても…………あのガキ、凄えな……銃弾切ってやがる……。
……なんだあ……あのテレビは?
……あれは、アズライトが、言っていた……レティシアか?

「………………」

お嬢ちゃんも長続きしそうにないな……。
けどよ……そうなる前に意地見せてやるぜ。
俺に気づかないガラクタどもに目にもの、みせてやるぜぇ…… 。

      ◇       ◆       ◇        ◆

へ、へへへへへへ、えへへへ…………
あのガラクタども、今に見てやがれっ……
俺は最後のガスボンベを運びながら、奴等に気づかれない様に小さく笑った。

132:ねがい(14)
08/12/14 16:17:32 3C4tnKdgP

……俺様って案外すげえんじゃねえか? 溜まってたからその所為かもな……。
アズライトの野郎、まだモニターを前に固まってやがるんだろうなあ……。
ちったあ、ガキを見習えよ……。
………………アズライト、おめえは思いもつかねえだろうし、知らない方がいいかも知れねえし、
もう手遅れかも知れねえから伝えねえがよ……。

おめえの探していたレティシアはきっと……主催者どもの所にいたんだぜ。
でなきゃ……なんでブラウン管の向こうに写ってやがるんだよ……。
見間違えるほど、呆けたのかよ。
そうじゃねえんだろ?
俺は流血で悟られねえ様に、手ぬぐいで血を吸い取る。

…………………………!
頭が上手くはたらかねえ……俺のはいぱーこんぴゅーたーもめんてなんすが必要かあ?
くだらねえことを思いついたぜ……。
俺の……俺達の血を引いてるのが、あのガキみてえに美人に生まれる筈がねえだろ……。
あのガキどもとブルマー女の顔を思い出しちまった、情けねえ……。
…………本格的にヤキが入っちまったか。 俺はナイフを強く握り締めた。
第一、何十年前の話だよ。
それもすぐに死んじまったじゃねえか、夢見すぎてんだよ。
やべえ……! あいつ……まだ……!
いい加減にしやがれぇ!!

133:ねがい(15)
08/12/14 16:21:02 3C4tnKdgP

       □       ■       □        ■

(二日目 PM6:45 管制室)

「救助は無理ですか」
「ええ。ザドゥ達は無事?」
「救援物資を持ったレプリカを向かわせました」
「火災は?」
「我々が対応いたします」
「そう」

透子はN-22にそう返答した。
管制室の前の廊下に透子が現れたのはつい先ほどの事。
自分を対象とした『読み替え』が発動したのだ。
次に透子は言う。

「あなた達の本体はどうしてるの」
「本体はメンテナンス中です。戻ってくるのに時間が掛かりそうです」
「……そう」

N-22に不審な点はなく、智機本体の休憩もさっきの様子だとごく自然な行動と透子には見て取れた。
そして数歩後退し、天井を見上げ透子は想った。

(朽木双葉……)

素敵医師と朽木双葉とアインの生死をN-22から確認したのも、つい先ほどの事だった。
透子が唆かしていた朽木双葉と他二名は死んだのだ。
双葉が死を迎えたことは透子にしても残念なことだった。
予期せぬ形で想い人を喪った双葉に対しても、透子には同情する部分があった。

134:ねがい(16)
08/12/14 16:22:55 3C4tnKdgP

だから優勝できずに死んでしまうなら、せめて苦しまずにいてほしいと心の片隅で思っていた。
だが最後に検索した記録と、さっきの報告を合わせて考えるに、安らかとは程遠い最期を迎えたと透子には想像できた。

「……」

小さな喪失感なのか、言い知れないもやもやが透子の胸を叩いたような気がした。

(……次は)

だがこれ以上、透子が惑うことは無かった。
これからザドゥを通じてプランナーから確認を取らなければならないから。
わたしはこれからどうすればいいのか、わたしは脱落したのかと、問う為に。
その前に智機本体らがここに来る前に、管制室でやることがある。
透子は管制室から記録を読み取ろうとした。

これからの智機本体の意図を探る為に。

(…………ない)

不自然なまでの記録の少なさに、透子は智機に警戒されているのだと思った。
レプリカ達の記録はあるにはあったが、どれも知りたい情報ではなかった。
それに加えて透子は知る由も無いのだが、ケイブリスと智機の会話の記録も拾えなかった。

「何をしているのです?」
「……別に」

N-22からの追求をそっけなく返す。

(諦め……)

135:ねがい(17)
08/12/14 16:26:13 3C4tnKdgP

『……にぁ……も……ぃ……』
「!」

聞いた覚えの無い声の記録を透子は拾った。
もう一度検索する。

『……にぁ……も……ぃ……』

(誰?)

気のせいではなかった。。
更にその声は二神と運営陣と参加者の誰の声でもなかった。

「誰か、来た?」
「誰も来ていませんが?」
「でも……」

男か女かよく判らない声だった。
紳一の時とは別種の存在がいると透子はふと思った。
他の記録を注意深く吟味するが、さっきと変化は無く『声』もそのままだった。
N-22は透子をしばし見つめ続けてから言った。

「御陵透子、お疲れのようです。自室での休憩を薦めます」
「……」

N-22に言うとおり、疲れているのは確かだった。
だが透子はあることに気づいてN-22に言った。

「しばらくここには戻ってこない」

透子は学校付近のある場所をイメージし、とっさにそこに行くのを強く願った。

136:ねがい(18)
08/12/14 16:57:46 3C4tnKdgP
N-22の制止の声が上がったが、それを無視して管制室から透子は消えた。
智機達がザドゥ達の救助に専念していると誤解したままで。


       □       ■       □        ■


(二日目 PM6:49 H-6・学校跡付近)

透子は『読み替え』で望んだ場所―学校付近への転移に成功していた。
すぐさま通信機のスイッチを入れてN-22に向けて言う。

「またわたしの方から連絡する」

透子は電源を切って、通信機を草むらに隠して、その場から100メートル以上離れた。
透子がこれから取る行動を通信機から智機に悟られない為に。
それから安堵の息を吐いた。

(本拠地……わたしの部屋に行くのも危険。椎名智機との接触は、これからはなるべく避けた方が無難)

智機がアズライト達に取った手段を再確認したからこその行動だった。
転移くらいしか『読み替え』の使い道がないのでは、ちょっとした不意打ちでも倒されてしまう恐れがある。
ロケットなしでどれだけ『読み替え』が通じるのか早急に知る必要があった。

(色々、試してみないと……。それより前に道具が必要)

自衛の為にも扱える道具はあるに越したことは無い。
本拠地に行けば銃器や電子機器はたくさんあるが、救助に必要なものは智機が使用・管理している。

137:ねがい(19)
08/12/14 16:59:38 3C4tnKdgP

運営陣に頼れないなら、島から調達するしかないのだが、銃などの強力な武器はなく、役に立ちそうな物は参加者があらかた回収した後だ。
役に立ちそうな物は透子には調達できそうに無かった。

(……灯台付近には隠し部屋がある。 砲撃で灯台は破壊されたけど、わたしが知る限りまだ手は付けられていない。
 もしかしたら解放されているかも)

解放されてなお、未使用のまま放置されていれば、運営者も手を付けて構わないことになっている。
破壊されてたり、素敵医師がすでに利用してたりするかも知れないが、その場所を透子は知っていたので収穫は無くても時間はそれほどロスしない。
彼女としては、やや気が引けるが背に腹は変えられない。

(長谷川の隠れ家にも使えるものが残ってるかも)

探さなければならないが、記録からして森の西の端辺りH-3に彼の隠れ家がある可能性は高いと透子は目星を付けた。

(彼は参加者の支給品もいくつか持っていったはず。説明書付きで残っていればいいけど)

ゲーム開始より何時間か前、素敵医師はランダム支給品のいくつかを役に立たない物品と交換していた。
まだ参加側に有利だからというのが、素敵医師の言い分だった。
智機は止めなかったし、芹沢も止めなかった、ザドゥはやや渋い顔をしていたがそのまま通した。
透子は元より追求する気さえなかった。

その状況を懸念したザドゥは、参加者出発後に透子に対して一つの命令を出していた。
死んだタイガージョーの支給品や、デイパックを持っていかずに出発した広田寛の支給品を比較的見つけやすい場所に配置するようにと。
ザドゥが参加者側に不利にし過ぎると、後々二神から文句を付けられるのでは判断したからだ。
透子はそれに従い、使えそうな日用品数点を含めて、第一放送前に廃村を中心にそれらを配置していた。

(残っていれば、いいけど)

138:ねがい(20)
08/12/14 17:01:18 3C4tnKdgP

透子は灯台跡付近に向かうべく、自らを対象に『読み替え』を行い、この場から姿を消した。


       □       ■       □        ■


(二日目 PM6:50 管制室)

透子退出から数秒後に、N-22の双眸から横に光の線が流れた。
N-27がN-22に問いかけたのはそれから一分後の事だった。

「……の予定時間を過ぎた」
「ああ、もうそんな時間か。だが問題無い」
「優先順位は低いからな」
「絶対に必要ではないからな」
「それに仕方ない」
「そうだ仕方ない」
「我々に余裕は無いからな」
「だが向こうにとっては想定の範囲内」
「だからこそ我々は作業に専念できる」
「そう、この場合……」

交互に声を出していた二機が今度は揃って結論を口にする。

「「向こうが我々の代わりに行う手はずだからな」」


                   ↓

139:ねがい(状態表)
08/12/14 17:05:42 3C4tnKdgP

【監察官:御陵透子】
【現在位置:H-6・学校跡付近→Ⅰ-5・灯台跡付近】
【スタンス: ① 隠し部屋1と素敵医師の隠れ家を探し、そこで使えるアイテムを回収する
       ② ①の後、『読み替え』でどれだけの事が出来るか実験する。
       ③ ①と②の後、自信があればザドゥ救出を試みる。
         救出の手助けができそうになければ、紳一ら一部参加者の記録検索を再開する。
         ルール違反者に対する警告・束縛、偵察は一旦、中止
【所持品:契約のロケット(破損)】
【能力:記録/記憶を読む、『世界の読み替え』 (現状:自身の転移のみ)】
【備考:疲労(小)、通信機は学校跡付近に放置。】


【レプリカ智機・代行(N-22)】
【現在位置:C-4 本拠地・管制室】
【スタンス:管制管理の代行】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】

【レプリカ智機・オペレータ(N-27)】
【現在位置:C-4 本拠地・管制室】
【スタンス:火災対策タスクのオペレーティング】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】

※透子は智機達がザドゥ達を見捨てる判断をしたことに気づいていません。
※透子の管制室での行動は智機本体に伝えられました。
※透子に伝えられた『警告』はプランナーのものであるとは限りません
※管制室での『謎の声』の主は現在不明です。
※鬼作と交わったレプリカ智機はかなりの改造が施されていました。

140:訂正
08/12/14 21:21:44 3C4tnKdgP
>>133
「本体はメンテナンス中です。戻ってくるのに時間が掛かりそうです」

「ここに戻ってくるのに時間が掛かりそうです」
に修正します。

141:名無しさん@初回限定
08/12/18 23:10:17 gzmCo5Ng0
 

142:名無しさん@初回限定
08/12/22 00:34:59 QAeifmfi0
 

143:修正
09/01/03 01:00:17 BwCQSRT2P
前スレ>>662-665の『Why?』の修正・加筆が完了いたしました。

URLリンク(jbbs.livedoor.jp)

144:名無しさん@初回限定
09/01/03 01:12:09 BwCQSRT2P
最新274話までのまとめをUPしました。
『Why?』修正済みです。

URLリンク(www.dotup.org)

パスは rowa です。

145:名無しさん@初回限定
09/01/10 02:39:04 4zECegch0
 

146:名無しさん@初回限定
09/01/24 06:40:59 hI3CeSsW0


147:名無しさん@初回限定
09/01/30 23:58:49 xF1LZGnW0
 

148:名無しさん@初回限定
09/02/07 03:52:37 Yc4anuhC0
 

149:名無しさん@初回限定
09/02/15 00:25:34 PeE9iP6v0


150:名無しさん@初回限定
09/02/25 22:15:42 o54cxV6WO
促進

151:名無しさん@初回限定
09/03/05 02:33:46 toWDpNIJ0
 

152:名無しさん@初回限定
09/03/12 02:02:58 WJFqcNL/0


153:名無しさん@初回限定
09/03/21 06:30:44 du27nxM00


154:名無しさん@初回限定
09/03/28 00:54:14 HYKvm9PO0
 

155:名無しさん@初回限定
09/04/07 02:37:32 TpqaRbrK0
 

156:名無しさん@初回限定
09/04/14 01:35:14 8CUEM8Up0
 

157:名無しさん@初回限定
09/04/23 07:12:34 eGt5xOmG0


158:名無しさん@初回限定
09/04/30 02:50:26 8I1swGmA0
 

159:名無しさん@初回限定
09/05/09 02:39:32 PIa1u4Gs0
 

160:名無しさん@初回限定
09/05/18 04:34:45 uXdrWQsg0


161:名無しさん@初回限定
09/05/28 01:54:57 MGDiB0TY0


162:名無しさん@初回限定
09/06/06 03:13:29 UU9hw3TP0
 

163:悪夢 ~知佳~ (1/11)
09/06/06 20:45:00 sgGLAfgY0
>>41
(二日目 PM6:54 F-6 東の森・小屋2付近)

炎が宵闇を侵食している。
太陽光など比較にならぬ明るさと温度が周囲に満ちている。
東の森南部、浅いところに位置する小屋付近。
そこから南に程よく距離を置いた潅木の陰に身を潜める少女が一人。
濁ったフィンの乙女、№40・仁村知佳。

知佳が偵察するのは数十機の智機たち。
忙しなく、されど整然と、消火活動に勤しんでいる。
音声は皆無。
諧謔や言葉遊び好む智機達ではあるが、音声による情報伝達より
数十倍効率的なデータ通信にての指揮命令を採択していた。

(前、勝てなかったのが2機、か……
 でも、今なら…… 今しか……)

知佳が着目していたのは、赤い智機ことDシリーズ。
この小屋周辺に2機、存在している。
うち1機は井戸のポンプと融合し水の汲み上げに余念なく、
もう1機はショベルカーと融合し木々と土砂の運搬に専念している。
故に。
不意を衝けば――
先手を取れば――
あの2機さえ壊してしまえれば、眼前の智機を鏖殺することは難しくない。
一心不乱の作業は、あからさまな隙なのだ。
しかしその隙こそが、知佳の攻撃の手を躊躇わせていた。

164:悪夢 ~知佳~ (2/11)
09/06/06 20:46:17 sgGLAfgY0

(機械たちを壊せば敵は減るけど延焼は止まらないかもしれない。
 機械たちを放置すれば延焼が止まるかもしれないけど敵は減らない。
 どっちが恭也さんたちにとってのマイナスなんだろう……)

指標がない。無き故に迷う。
火災に気付いて30数分、ここに身を潜めて10分。
知佳は結論を出せずにいた。
身動きがとれずにいた。
その知佳の止まった時間を動かしたのは、背後から近づく何かだった。

《この少女は流石にまだだろう。そのはずだ。そう信じたい!》

知佳の鋭敏な聴覚が、後方の不穏な呟きを捕らえたのだ。

「誰!?」

反射的に振り返る知佳の目に人影は無い。
凝らしても探っても特別なものは見当たらない。
炎に照らされた木々と茂みと揺らめく煙のほかには、何も、誰も。

《羽が生えているのか。この娘もまた『人でないもの』なのか?》

しかし、誰もいないはずの空間から聞こえる声は、知佳の心を鋭く抉った。
人でなし。
それは彼女の禁句。癒えぬ傷。幼き日々の孤独の要因。
そこを突かれては知佳も黙ってはいられない。

「私は人間だよっ!!」


165:悪夢 ~知佳~ (3/11)
09/06/06 20:48:47 sgGLAfgY0

数刻の沈黙。
知佳の大声に気付かなかったのか、気付いた上で無視を決め込んだのか
分からぬが、智機たちは動揺を走らせることなく作業を継続している。

《……お前も俺の声が聞こえるのか?》

煙に紛れてゆらゆらと。煙の如く茫々と。
知佳のすぐ近くに声の主はいた。
最初から姿を現していた。気付かなかっただけで。
体の輪郭が背景に対して曖昧で、透けていただけで。
故に知佳はその存在をはっきりと言い当てた。

「幽霊なのね」

幽霊――
監察官・御陵透子を驚愕させたその存在に、知佳は怯えた様子を見せなかった。
その差は、未知か既知か。
彼女の世界においての幽霊はさほどレアリティの高いものではない。
知佳の住まうさざなみ荘には、十六夜なる霊が住人として名を連ねているほどだ。
しかし、その存在自体には驚きを感じなかった知佳も、
次いでこの亡霊から発せられた質問には度肝を抜かれてしまう。

《では俺の質問に答えろ。処女か?》
「えっ……」

炎に負けぬ勢いで赤く染まり、照れと怒りと後悔がない交ぜとなった
表情を見せた知佳を見て、この不躾な亡霊・勝沼紳一は敏感に悟った。

《おまえも中古か!!!!!》


166:悪夢 ~知佳~ (4/11)
09/06/06 20:57:52 sgGLAfgY0

知佳には中古の意味するところはわからなかったし、
あえて知りたいとも思わなかった。
この下劣で無礼な亡霊に声を掛けてしまったことを後悔していた。
これ以上関わらないようにしよう。
そう、心に誓うことにした。

関わりを持ちたくないという点では、紳一も同じだった。
紳一の女を見る基準は2つしかない。
処女か非処女か。
美女か醜女か。
処女かつ美女でなければ、彼の興味の対象外となる。

《破瓜の血の匂いまでするぞ!?くそくそくそ!!
 又しても俺は間に合わなかったのか……》

紳一はショックに項垂れ、とぼとぼと歩き出す。
知佳との邂逅がなかったかのように、彼女の存在をまるで無視して。
知佳と重なり、通り抜けて。

「……あ」

その瞬間、知佳の心に瀑布の勢いで紳一の心が流れ込んできた――



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