バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第7部at EROG
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第7部 - 暇つぶし2ch398:名無しさん@初回限定
10/08/08 01:55:00 1s3QyU1E0


399:戦慄のパンツバトル!(5/9) ◆VnfocaQoW2
10/08/08 01:57:07 vCSbXB9b0

(ふむ、この作戦では紗霧ちゃんはえっちい気分にならないのか……
 じゃあ仕方ない。
 じっくりとたっぷりとねっちょりと、智機ちゃんを弄繰り回すぞ!)
 
頭を切り替えたランスがP-3の股間に向き直る。
だらしなく開かれている両腿の付け根に、
愛液で張り付いているシンプルな白いショーツへと、
ランスは指をぐいんぐいん動かしながら近づける。

「No!! 下着はダメだ!!」
「おやぁ? 何故ぱんつを隠すんだ智機ちゃん?
 まさか本当にアソコに凶器を隠しちゃいないだろうなぁ?」

欠けた四肢をばたばたとさせて抵抗する智機に対し、
ランスは不意にキメ顔で、宣言した。

「パンツ遊び☆リターンズ」


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


ランスには数々の不名誉な二つ名がある。
曰く、鬼畜王。
曰く、カスタムの種馬。
曰く、歩く下半身。
そのうちのひとつに、こんなものがある。

『パンツ遊びの祖』


400:名無しさん@初回限定
10/08/08 01:57:53 1s3QyU1E0


401:戦慄のパンツバトル!(6/9) ◆VnfocaQoW2
10/08/08 02:00:57 vCSbXB9b0
 
パンツ遊び――
下着を弄びその様子を口に出すことで女性の羞恥を煽るという、前戯の一種である。
女性は一方的に愛撫を受けるのみ。
立った姿勢で、後ろ手に組むのが作法とされている。

リーザス通鑑に曰く。
発祥元は、彼が王宮に構えるハーレムである。

愛する主君の命で泣く泣くリーザス王のハーレムに入った少女に対して、
当代リーザス王・ランスは己の軽いサディズムを満足させるために、それを行った。
彼女は恥辱と快楽に打ち震えながら、王を罵った。

『それが、勇者のなさることですかッ……!』

対するランスの回答はこうであった。

『道は、俺様の後にできるのだ。こんなふうになっ……!』

一月後。道は開通していた。
知恵者の女官とイジメ大好きな妻の全面的な協力を得て、
莫大な個人資産をつぎ込み、大々的なキャンペーンを展開した成果であった。
 
パンツ遊びのハウツー本が巷に溢れ、恋人たちは新鮮で淫靡な遊戯に没頭した。
子供の間でスカート捲りの地位を奪い、思春期の少年は一人寝の夜に夢想した。
ゼスで、ヘルマンで、リーザスで。
よほど世情に疎いもので無い限り、誰もがパンツ遊びを知ることとなった。

残念ながら、そのことを知ったかの少女の反応は記録に残っていない。


402:名無しさん@初回限定
10/08/08 02:01:53 1s3QyU1E0


403:戦慄のパンツバトル!(7/9) ◆VnfocaQoW2
10/08/08 02:05:43 vCSbXB9b0
 

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


――閑話休題。

事程左様に、ランスという男の、
エロくて下らないことを発想する能力は天才的だ。
行動力も他の追随を許さない。
エキスパートにして求道者である。

「はぁ、パンツ遊び……」

不満げを通り越した、疲れと呆れを滲ませた紗霧の呟きも、
もうランスには届かない。

「わははは、それそれ、ぐいぐい」

ぐしょ濡れショーツの上下を引っ張ってクリトリスを刺激するや否や、
智機の肌が、これまでにないざわめきを見せた。
ランスは敏感に察知した。
智機が間もなく絶頂を迎えようとしていることを。
それは普段の彼にとっては望ましく、また嬉しいことではあるのだが、
今の彼にとってはあってはならないことであった。

  ――イけるイけないの境界線上を綱渡りする。

ランスは、そういう可愛がり方を本日のテーマに定めていた。
また、この女性型ロボットを屈服させるには、
そうするのが相応しい手段であると、直感もしていた。

404:戦慄のパンツバトル!(8/9) ◆VnfocaQoW2
10/08/08 02:08:04 vCSbXB9b0
 
「はぁうっっ…… きゅん、っ……」

故に、ランスは絶頂を許さなかった。
その寸前で良く動く指を止め、もはや閉じる力を失った両腿の間から
とろける智機の顔を意地悪気に眺めるばかりであった。

「私の負けだ。もうどうにでもするがいい……」

焦点の合わぬ虚ろな目で動きの止まったランスを見遣り、
智機はついに敗北を宣言する。

「よし。じゃあ好きにしよう」

言葉とは裏腹に、ランスは動かなかった。
いやらしい目でじっと智機の顔を見つめている。
見つめ続ける。
智機の瞳が潤みを増してゆく。
もどかしげに腰をくねらせ始める。

「だっ、だから好きにしろと……」

それでも、ランスは緑色の上下をすぽぽーんとは脱がなかった。
位置も姿勢も変えなかった。
智機の恍惚が緩やかに引いてゆくのを待った。
 
「だから好きにしているのだ。
 俺様が今イチバンやりたいことは、おまたイジイジだからな!」


405:名無しさん@初回限定
10/08/08 02:08:07 1s3QyU1E0


406:戦慄のパンツバトル!(9/9) ◆VnfocaQoW2
10/08/08 02:13:28 vCSbXB9b0
 
待って、絶頂から遠ざかったのを確認してから。
ランスは指を遠ざけた。
変わりに顔を近づけた。
尖らせた舌はショーツの隙間をぬって、
艶めく朱色の真珠へと一直線に伸びてゆく。

「いーんぐりもーーんぐりーーー」
「はきゅぅぅん♪」

心底楽しそうなランスのがはは笑いが、室内に響き渡る。
この瞬間、ランスはこの島の誰よりも輝いていた。


            ↓



(Cルート)
 
【現在位置:西の小屋内】

【ランス(元№02)】
【スタンス:①智機を心ゆくまで弄繰り回す
      女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
      男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:なし】
【能力:武器がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2本にヒビ(処置済み)・鎧破損】


407:戦慄のパンツバトル!(1/11) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 00:36:07 jcdFd6c+0

~智機~
 
>>235
(ルートC:2日目 19:00 D-3地点 運営基地・茶室)

管制室の端末群を用いて分散処理出来ぬ椎名智機にとって、
負荷の大きい処理に対してシングルタスクとなってしまうことは、
どうしようも無いことであった。
故に智機は評価点の高い項目から処理せざるを得ない。
一つ一つ、順番に。

先ずは、智機は連絡員を巡るオペレータとの駆け引き。
次いで、連絡員追跡の準備。

やがてP-3から『紗霧の提案』についてのIMを開封した時には、
時、既に遅かった。

================================================================================
P-03:じっ…… じゆ、ううっ♪ はぁはぁ、じっ、ゆぅぅうっ!
P-03:をおおっ、あっ! あっあっあーーー、与え、てっ、てぇぇ……
P-03:ひぃふう、ひいふぅ…… 欲しい、欲しいのぉぉぉぉっ!!
S-02:がはははは! どうだ智機ちゃん、俺様のゴールドフィンガーは?
================================================================================

IMにて分散送信されてくる交渉のログデータを斜め読みしながら、
智機は苛立たしげに頭を振り、一人ごちる。

「No…… この展開は読めなかった。
 そしてこの展開だけは避けねばならなかった!」


408:戦慄のパンツバトル!(2/11) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 00:36:34 jcdFd6c+0
 
================================================================================
S-02:智機ちゃんはカワイイな!
P-03:戯言を…… 私が可愛いはずなんて、ない……
S-02:そうでもないぞ? 俺様、素直に感じる子は大好きだからな!
P-03:ウソ…… だっ!
================================================================================

「卓越した愛撫技術に甘い囁き……
 【不感症】を未導入なレプリカ如きに耐えられよう筈も無い」

このオリジナル智機だけは知っていたのである。
その身を持って思い知っていたのである。
オートマン・椎名智機が快楽に弱い筐体だということを。
それは、屈辱に身震いすら覚える記憶。
それは、情欲に身悶えすら覚える記憶。

過去にただ一度だけ経験した性交渉の、忘れ難き記憶が蘇る。

 
   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


かつて、智機が帝都天翔学院に学生として在籍していた頃。
生徒会長の失脚に伴うエル・シード(最高権力者)の座を巡る麻雀大戦が勃発した。
時の科学部長としてこれに参戦した椎名智機は、接戦の末敗れ去った。
土をつけたのは麻雀同好会。
それも、吉祥寺魁という一人の少年の手に拠った。
読みもスジもなく、押しの一手、ごり押しのみ。
智機は己の打ち筋とは対極をなすこの少年に翻弄され、深読みした末に自滅した。


409:戦慄のパンツバトル!(3/11) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 00:46:49 jcdFd6c+0
 
話は、それだけでは終わらなかった。
少年は己の滾るリビドーの赴くまま、ルールにより脱衣していた智機を押し倒した。
読みもスジもなく、押しの一手、ごり押しのみ。
少年にありがちな、思いやりも技巧もない性急で自侭な行為でしかなかった。
それでも、智機は快楽に溺れた。
恥も外聞もあられも無く下品な淫語を垂れ流し、いとも容易く陥落した。

その晩、ラボに戻った智機は己の痴態を恥じ、徹底的に精査した。
制御不能になる危険。
それがバグであるのか、仕様の想定外の作用であるのか。
あらゆる角度から調べ尽くし、徹底的にテストし尽くした。

数日後、結果は明らかとなった。
彼女の予想を遥かに越えていた。

快楽堕ちは、皮膚感覚設定に拠る暴走に非ず。
制御プログラムの虫にも非ず。
問題の源泉は情動発生器。
いわば彼女の心にあたる部分が過敏に反応し、
結果、肉体感覚を鮮烈にさせたのだと、
山積したデータが裏付けていた。
 
では、なぜ情動発生器が過剰反応したのか?
解析の突破口は行為時に熱に浮かされた智機が口走った、
ある台詞であった。


『わたしなんか見向きもされない』

 


410:戦慄のパンツバトル!(4/11) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 00:56:03 jcdFd6c+0
 
智機は情動の沈静水準オーバーで発生したトランキライズ処理に着目。
過去数ヶ月に渡る情動ログを拾い上げた。
波動の分布をマッピングした。
外的要素と内的要因に取り分けた。
発生要件を掘り下げた。
数値データを言語化した。
類似パターン毎にファイリングした。
分かりやすく表現するならば、智機は【己と向き合った】。

結果、智機は自分を知った。
自分が何を求め、どうなりたいのか、理解した。

  ――興味を抱かれたい。
  ――知って欲しい。
  ――求められたい。

故に、性行為による制御不能の真相は下記の如し。

  * 吉祥寺少年の行為に愛が無いことは理解していた。
  * しかし、自分の女性としての機構に、男が夢中になっているという事実。
  * ヒトに求められているという、生理的な実感。
  * それらが、求められる喜びを貪欲に追求する処理へとつながり、
  * 皮膚の感度設定をMAXまで上昇させた。

  * 少年から刺激を受けるたびに乱れる情動波形に
  * 過負荷を受けたハードウェアが過熱状態に突入、
  * 結果、対処療法たる熱暴走を防ぐ冷却プロセスが優先され、
  * 根源治療を果たすはずのトランキライズ処理が低位のまま保留状態となり、
  * 実行機会が生じなかった。
 


411:名無しさん@初回限定
10/08/09 00:57:59 PphrUici0


412:戦慄のパンツバトル!(5/11) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 01:04:31 jcdFd6c+0
 
この一件、ラボの研究者たちは仕様の不備と判断し、対策ソフトウェアを開発した。
開発コード【不感症】――
皮膚感覚をミュート状態でロックする。
余談だが、伊頭鬼作を篭絡したレプリカは、このソフトをインストールしていた。

ラボの面々は、【不感症】の開発により対策は完了したと認識した。
そこで智機のモニタリングを打ち切った。
未来予測を怠った。
故に――
椎名智機に自らの無意識を自覚・記録させてしまったことにより、
彼女が【オートマン】から【夢見る機械】へと羽化しつつあるのだと、
誰一人として気付くことができなかった……


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   

 
智機は甘い疼きを自動的に振り切り、蓄積されたIMの続きに目を通す。
並列して、論理演算による推論から小屋内の状況を組み立ててゆく。

================================================================================
S-36:ランス、いつまで乳揉みをしているつもりですか?
S-36:もう十分堪能したでしょうに
S-02:うむ、紗霧ちゃんの言うとおりだ
S-02:智機ちゃんのおっぱい周辺には危ないものがなかったからな
S-02:ではそろそろ本命の隠し場所をチェックしよう!
================================================================================


413:名無しさん@初回限定
10/08/09 01:04:53 PphrUici0


414:戦慄のパンツバトル!(6/11) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 01:09:11 jcdFd6c+0
 
唯一の慰めといえば、この状況は智機の不利ではあるものの、
決して紗霧の有利とも成りえないことであろうか。
IMで紗霧がランスを咎める様が、これを証している。

お互い、自らの状況を伏せつつ、相手の情報を得たい。
お互い、自らの企図を崩されぬままに、相手を操りたい。
その為の対話であり交渉となる予定が、
その交渉自体が成り立っていないのである。

================================================================================
P-03:No!! 下着はダメだ!!
S-02:おやぁ? 何故ぱんつを隠すんだ智機ちゃん?
S-02:まさか本当にアソコに凶器を隠しちゃいないだろうなぁ?
================================================================================

IMのタイムスタンプが19時を回る。
あと数通のIMで、現実の時間に追いつくであろう。
それまでに智機は、対処を決めねばならない。

「P-3は私の遠隔交渉に備えアプリを起動しているようだが……
 この乱れ様を見るに、システムの強制終了も近いだろう。
 であればいっそ、絶頂を模してシャットダウンし、
 再起動を掛けたほうが安定性が増すか……」

ようやく走り始めた智機の思考は、
クラックレプリカからのコールで中断される。

『オリジナル、ザドゥ様を救助したよ』



415:名無しさん@初回限定
10/08/09 01:09:59 PphrUici0


416:戦慄のパンツバトル!(7/11) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 01:13:18 jcdFd6c+0
 
情報は、智機のタスクリストを更新させた。
最上位にあったP-3への対応は引き摺り下ろされ、
ザドゥらの状況確認にその地位を奪われた。

当然の判断である。
紗霧らとザドゥらを戦わせ互いを消耗させることが目的であり、
紗霧らにザドゥらを虐殺させることが目的ではないのである。
ザドゥらの正しい情報を得てこそ、
P-3への正しい指示が出せるのである。

「カモミールは?」
『救助作業継続中だよ。身柄は確保できていないが、位置は把握している』
「ザドゥ様の状態は?」
『歯に衣着せずに言えば…… 瀕死だね。自力での歩行も不能な状態だよ』

智機は、ヒステリックに叫びたい衝動に駆られる。
  ――どうしてあれもこれも思う通りにならないの!
トランキライザーが発動し、衝動が中和される。

『……情報更新。カモミールを救助、犠牲二機だ』
「カモミールの状態は?」
『ザドゥに輪を掛けて酷いね』

智機は、ケイブリスに当り散らしたい衝動に駆られる。
  ――こんなときに何を暢気に落雁を貪っているんだ!
トランキライザーが発動し、衝動が中和される。


417:名無しさん@初回限定
10/08/09 01:13:58 PphrUici0


418:戦慄のパンツバトル!(8/11) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 01:19:44 jcdFd6c+0
 
『ザドゥ様が潜伏先に灯台のシークレットポイントを指定している。
 オリジナル、判断をしてくれ給え』
「あのシークレットポイントか……
 ならば万一火の手が押し寄せてもやり過ごせるだろうが……」

№09、グレンに配布された鍵の束。
それに対応する設備にはゲームに【有利になる何か】が据えつけられている。
灯台地下の場合、その地下室こそが【有利になる何か】である。
シェルターなのだ。
主催者側が用意したあらゆる武器は、このシェルターを破壊することが出来ない。
智機が想定する災害・異能・魔術の類においても、その防壁を打ち崩せぬ。
故に火災如きに対しては、絶対の安全を約束するのである。

「私では…… 首魁様がご自身のご責任に於いて下されたご判断に、
 ご意見などできようはずもないよ!
 いいかね、レプリカの諸君。
 貴機たちも貴機たちの判断で動いているのではないのだ。
 権限者であるザドゥ様のご指示に従っただけなのだよ?」
『Yes。実に私らしい詭弁構築だ』
「では今回の通信はここまでだ。状況に変化があったら連絡してくれ給え」
『Yes。オリジナル殿』

智機が命令を避けたのには訳がある。
主催者が参加者より先に利用するとペナルティが下される。
それが、シークレットポイントのルールである。
ペナルティーとは何か?
曖昧な情報ゆえ、評価点が導き出せぬ。
よって、智機は結論を出さぬという結論を出した。
出さざるを得なかった。


419:名無しさん@初回限定
10/08/09 01:21:07 PphrUici0


420:戦慄のパンツバトル!(9/11) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 01:23:33 jcdFd6c+0
 
「これは完全に仕切り直しだな――」

何度かの強い否定的感情をトランキライザーによって強制中和され、
冷静さを取り戻させられた智機が、もたらされた情報を吟味する。
俯きかげんにぶつぶつと独り言を呟きながら、
紗霧達の動かし方と、P-3への指示を練り直す。

「瀕死の首魁殿たちに小屋の連中をぶつけても、駒損になるだけだ。
 少なくとも戦闘できる状態まで回復させなくてはならないね。
 最悪の可能性として首魁殿らがこのまま絶命してしまうということも……
 いや、それは結論を後に回せる問題だな。
 明確なのは、今、小屋の連中を動かす必要はないということ。
 そして……」

智機は呟きながら今度は小屋内の現状を知るべきだと判断。
タスクリストに最小化してあったIMをクリックし、視野に広げる。

================================================================================
S-02:パンツ遊び☆リターンズ
パケットエラーです
S-36:はぁ、パンツ遊び……
S-02:わははは、それそれ、ぐいぐい
パケットエラーです
パケットエラーです
P-03:はぁうっっ…… きゅん、っ……
パケットエラーです
================================================================================

度重なるパケットエラーから、智機は僚機の性的苦境に同情する。



421:名無しさん@初回限定
10/08/09 01:24:04 PphrUici0


422:戦慄のパンツバトル!(10/11) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 01:27:12 jcdFd6c+0
 
「……とりあえずはP-3を楽にしてやるか。
 オーバーヒートで壊れては叶わないからね」

そして、IMを返した。

================================================================================
T-00:初期の任務から状況は変わった。作戦を変更する
================================================================================

よほど待ちわびていたのであろう。
P-3からの返答はすぐさまであった。
しかし、その意味は不明であった。

================================================================================
パケットエラーです
P-03:あwうぇあwk
パケットエラーです
パケットエラーです
パケットエラーです
================================================================================

三連発のエラーを最後に、P-3からのIMは沈黙した。
原因は不明。
智機は数秒待ち、再びのIMを送信する。

================================================================================
T-00:P-3、応答を求む
================================================================================



423:名無しさん@初回限定
10/08/09 01:27:22 PphrUici0


424:戦慄のパンツバトル!(11/11) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 01:32:42 jcdFd6c+0
 
智機は、得る事が出来なかった。
今、小屋の中で、P-3がランスの性技に屈服したことを。
今、小屋の中から月夜御名紗霧が出て行ったことを。
智機が欲していた小屋内の【今】の情報を。

================================================================================
T-00:P-3、応答を求む
================================================================================

智機はIMと同時にPingを発射。
透子にDシリーズを無残にも破壊された過去が脳裏を掠めたが、
その不安を打ち消すかのように無機質なレシーブが返信された。

(ならばP-3はメモリリークか……)

智機は返答のない相手にP-3に対してIMを送った。
いずれ安定動作したときに、すぐさま次の作戦に移れる様に。

================================================================================
T-00:幸い君はランスに気に入られたようだ
T-00:別命あるまで、ランスのパーティーに潜伏してくれ給え
T-00:従順な振りをし、いざとなればランスを頼るのだ
T-00:あとはユリーシャにさえ気を配れば、破壊されることはないだろう
T-00:以上だ
T-00:それでは復帰後、IMを入れてくれ給え
T-00:……健闘を祈る
================================================================================

            ↓


425:戦慄のパンツバトル!(情報) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 01:33:21 jcdFd6c+0
 
 
(Cルート)

【主催者:椎名智機】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【所持品:素敵医師から回収した薬物。その他?】
【スタンス:願いの成就優先。
      ①ザドゥ達と他参加者への対処
      ②しおりの確保
      ③ケイブリスと情報交換
      ④連絡員と交渉し、端末解除スイッチ+αを入手する許可を得る】



426:ほんとうのさよなら(1/8) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 21:49:41 jcdFd6c+0
 
(Cルート・2日目 20:15 F-4地点 楡の木広場跡地)

僕はね、しおり。
きみのこと、見ていたんだ。
きみは、僕のことに気付かなかったけど。
僕は、ずっと、きみのそばにいたんだよ。

寝息が、苦しそうだね。
鼠みたいな大きな耳が、揺れているね。
指しゃぶりしているのも、体をぎゅっと丸めているのも、
きっと、淋しくて、不安だからなんだね。

でも、ごめんね、しおり。
今の僕は、頭を撫でてあげることも、
涙を拭いてあげることも出来ないんだ。
僕にできることは、きみを見守ることだけなんだ。

ああ、それなのに。

「マス…… ター……」

きみはどうして、手を伸ばすの?
夢の中でも、僕を呼ぶの?
僕は、その手を握ってあげられないのに。
僕は、呼びかけに返事もできないのに。

いまだって、ほら。
きみの紅葉みたいな小さな手に、僕の手を重ねてるんだよ?
しおり、しおり、って、何度も呼んでるんだよ?



427:ほんとうのさよなら(2/8) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 21:50:19 jcdFd6c+0
 
……これが、罰なのかな?

僕は、逃げる人だから。
嫌なことから、怖いことから、責任を取るべきことから
逃げつづける人生を送ってきたから。

きみから離れることが出来ない存在に。
きみから目を逸らすことが出来ない存在に。
きみの側にただいるだけの存在に、なってしまったのかな。



「対象発見」



ねえ、しおり、空を見て。
あれは天使、なのかな?
真っ白な羽根に、穢れ無き青の鎧。
とても綺麗な姿をしているよ。

「意識を保っている残留思念は二体目です」

僕のこと、みたいだね。
天使は、僕のところに、きたんだね。
ここで、しおりとさよならなのかな。
僕は、きみに何もしてあげられないまま、
召されてしまうのかな。


428:名無しさん@初回限定
10/08/09 22:00:59 lbFOFzNq0


429:ほんとうのさよなら(3/8) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 22:06:18 jcdFd6c+0
 
ああ、天使が降り立った。やっぱり僕を見ているよ。
もしかしたら、お話、通じないかな。
もしかしたら、お願い、聞いてくれないかな。

《天使さん、お願いです。この子の手を、握らせてください》

「プランナー様。この残留思念は、意思を伝えてきます」

《僕は、この子に酷いことばかりしてきました。
 自分の願いを振りかざし、この子の運命を捻じ曲げました。
 その責任を取ることなく、この子より先に死んでしまいました》

「はい、勝沼紳一ではありません。
 しかし、この残留思念もまた、幽霊の域に達している模様です。
 憑依、念動等の能力はありません」

《遺してあげられるものはないんです。
 守ってあげることもできないんです。
 ですから……》

「プランナー様。
 この情報は、収集してもよろしいのでしょうか?
 ご判断ください」

《せめて、この子の寝息が落ち着くまででいいですから。
 この子の手を、握ることのできる力を、奇跡を、下さい》

「なるほど。死後を保証されているのは勝沼紳一のみなのですね。
 では、この情報は回収します」


430:名無しさん@初回限定
10/08/09 22:07:19 lbFOFzNq0


431:ほんとうのさよなら(4/8) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 22:09:43 jcdFd6c+0
 
しおり……
この天使は、天使なんかじゃないよ。
救いや慈悲を与える存在じゃないよ。
魂を天へと運ぶのではなくて、集めているだけなんだよ。
きっとそれもまた、この非道な遊戯の一環なんだね。

今の僕は役立たずだけど。
何も出来ない、意味の無い存在だけど。
そんなのは、受け入れられないよね。

「影響力はありませんが、歯向かう意志を見せています」

ねえ、しおり。僕は不思議に思っていたんだよ。
ずっと昔、信仰を持たなかった頃。
闇のデアボリカとして、惰眠と殺戮を果てしなく繰り返していた頃。
どうして人間は、絶対勝てない存在に歯向かうんだろうって。
無駄だとわかっているのに、あがくんだろうって。
ぷちぷち、ぷちぷち。
蟻を踏み潰すみたいに、人間を殺しながら、考えてたんだ。

でもね。今ならわかるよ、しおり。
きみが教えてくれたんだ。
戦うということは生きるということなんだって。
勝つとか負けるとかだけじゃなくて。
逃げたら失ってしまう大切なものを、
守るために立ち向かうんだって。
 
「なるほど。
 ルドラサウム様が、愉しんでいらっしゃるのですね。
 では、今しばらく抵抗させましょう」


432:名無しさん@初回限定
10/08/09 22:10:11 lbFOFzNq0


433:ほんとうのさよなら(5/8) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 22:13:45 jcdFd6c+0

天使の目を見れば分かる。剣の切っ先を見れば分かる。
しおり、この女の人は、とても強いよ。
それなのに、僕は攻撃するどころか、この人に触れることすら出来なくて。
しおりから離れることも出来なくて。
身を躱す事くらいしか、抵抗の手段がないなんて。

絶望的な状況差だよね、しおり。
それでも――僕は逃げないよ。

きみに僕の姿が見えなくても。
きみに僕の声が届かなくても。
僕は少しでも長く、きみの側にいるんだ。
きみを見守り続けるんだ。
その為なら、いつまでだってこの剣先を躱してみせる!

無様な格好でも、こんなふうに。
   こんなふうに!
諦めることない意思で、こうやって。
   こうやって!
そばにいる権利を守るために、何度でも。
   何度――

「ルドラサウム様が落ち着かれましたか。 では、終わらせます」

   ―で、も……

《か、はっ!!》

強い、とは分かっていたけど……
一撃で心臓を貫かれる、なんてね……


434:名無しさん@初回限定
10/08/09 22:14:34 lbFOFzNq0


435:ほんとうのさよなら(6/8) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 22:20:43 jcdFd6c+0
 
……ごめんね、しおり。
僕なりに一生懸命頑張ったけれど。
最後まで逃げなかったけれど。
その最後が、もう、来ちゃったみたいだよ。

ねえ、しおり。
最期にきみの顔を、もう一度見せて。
その頬を、撫でさせて。

「マス…… ター……?」

僕の声が…… 届いた?
僕の手が…… 触れた?

「マスターだぁ……」

しおり、嬉しそうな顔をしているね。
伸ばしていた腕を脇にぎゅっと引き寄せているね。
頬を、その腕に摺り寄せているね。

――僕の触れている、反対の頬を。

夢を…… 見ているだけなんだね。
僕の存在には気付いていないんだね。

それでもね、しおり。
僕は嬉しいよ。
安らかな寝顔を見せてくれて。
穏やかな寝息を聞かせてくれて。


436:名無しさん@初回限定
10/08/09 22:21:13 lbFOFzNq0


437:ほんとうのさよなら(7/8) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 22:26:15 jcdFd6c+0
 
……ああ、もう時間が無いみたいだ。
体が解けて行くよ。
きみが霞んで、見えなくなってきたよ。

やがて朝日を迎えれば、きみは目覚めて泣くだろうね。

死別の過去を思い出して泣くだろうね。
孤独な現在に途方に暮れて泣くだろうね。
希望無き未来に絶望して泣くだろうね。

それでもね、しおり。

明けない夜は無いように。
止まない雨は無いように。

生きてさえいれば、きっと、いつか。
幸せを感じられる時が来る筈だから。

人には、その素敵な強かさがあるんだから。
僕は、遠くからずっと、祈っているから。

だからね、しおり――



「回収完了」


 


438:名無しさん@初回限定
10/08/09 22:26:42 lbFOFzNq0


439:ほんとうのさよなら(8/8) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 22:29:19 jcdFd6c+0
 





 
    ――誰も、きみの涙を拭いてくれなくても。

    ――涙が枯れたら、立ち上がるんだ。
 






 
          ↓



440:ほんとうのさよなら(情報1/1) ◆VnfocaQoW2
10/08/09 22:31:53 jcdFd6c+0
 
(Cルート)

【現在位置:F-4 楡の木広場跡地】

【しおり(№28)】
【スタンス:??】
【所持品:なし】
【能力:凶化、紅涙(涙が炎の盾となる)炎無効、
    大幅に低下したが回復能力あり、肉体の重要部位の回復も可能】
【備考:首輪を装着中、全身に多大なダメージを受け瀕死の重傷
    歩行可能になるには最低90分の安静が必要
    戦闘可能までには5時間程度の安静が必要】

※しおりの【凶】としての獣相は、ネズミに酷似していることが判明しました


【現在位置:F-4 楡の木広場跡地 → ?】

【連絡員:エンジェルナイト】
【スタンス:①死者の魂の回収
      ②参加者には一切関わらない】
【所持品:聖剣、聖盾、防具一式】

※しおりと共にあった「何者かの気配」は、連絡員に捕獲されました



441:名無しさん@初回限定
10/08/09 22:31:54 lbFOFzNq0


442:名無しさん@初回限定
10/08/12 20:39:13 be5w1q3E0
期待ー

443:点と線(1/9) ◆VnfocaQoW2
10/08/14 02:34:49 h2uPCSfR0

(Cルート・2日目 19:10 E-6地点 重点鎮火ポイント)

================================================================================
N-29:D-04に熱暴走の兆しが観測された。
N-29:当該機はパワーショベルとの融合を解除し、スリープモード15分とせよ
N-29:この15分間の穴埋めは、伐採タスクにあたっているN型から
N-29:負荷の少ないものを5機見繕って充てさせたまえ
================================================================================

一通りの現場指示を終え、リーダー(N-29)は、進捗状況を再走査する。
オペレーションの開始より30分強。
鎮火の最前線では、アクション1が急ピッチで進められている。

そこに、本拠地の代行(N-22)から、IMが飛んで来た。
それは、全てのレプリカ智機に対する一斉発信のIMであった。

================================================================================
N-22:連絡員殿が島内で、独自の情報収集活動を開始された
N-22:特別の便宜を図る必要はないが、失礼の無い対応を心がけてくれ給え
N-22:なお、連絡員殿の外見は天使で、金髪碧眼。その翼は純白の羽毛だ
N-22:くれぐれもS-38、S-40と混同せぬように
================================================================================

リーダーは、反射的に拠点である北西の山岳部の方角を見遣る。
仮設司令部で現場オペレーションに当たっているほか三機も同じく
山岳部のその上空を見上げた。

未だ見ぬ、天使の姿を思い描きながら。



444:点と線(2/9) ◆VnfocaQoW2
10/08/14 02:36:31 h2uPCSfR0
 

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(Cルート・2日目 19:20 D-3地点 本拠地・カタパルト施設)

北西の岩山、その厳しい斜面に設置されたカタパルト投擲施設で、
代行は梱包した資材を点検していた。
重点鎮火ポイントへの、追加支援物資である。
あとは、カタパルトにて投じるのみ。
そこに来て、代行は作業の手を止めた。

分機解放スイッチ――

連絡員・エンジェルナイトから預かったそれを、
代行は現場にいるリーダーへ託すか否か、思案しているのである。

オペレータ(N-27)からの報告によれば、オリジナル智機は【自己保存】の
欲求により、しおらしくもスイッチの奪取を諦めたように見受けられる。
が、問題は、ケイブリスの存在。
智機本機が実力行使を厭わぬ判断を下せば、おそらくは共闘関係を結んでいる
かの魔獣が、その暴を露にし、自分たちに襲い掛かることは明白だ。
となれば、自分とオペレータ程度ではスイッチを守りきれぬ。

「オリジナル殿が無思慮に奪いに来る可能性と、
 リーダーが何らかの過失でスイッチを失う可能性。
 果たして、どちらが高いのやら」

暫く後、代行は、論理演算回路が導き出した解に従った。



445:名無しさん@初回限定
10/08/14 02:39:10 5O0RxO9n0


446:点と線(3/9) ◆VnfocaQoW2
10/08/14 02:44:46 h2uPCSfR0


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(Cルート・2日目 19:30 D-3地点 本拠地付近)

ケイブリスは憤慨した。
無いのである。
本拠地内に、用意されていなかったのである。
彼が利用できるサイズの、排泄施設が。

ケイブリスの参入は唐突であった。
椎名智機の設計/建築した本拠地は、人間サイズ用のものであった。
そのギャップをどうにか埋めたのが、御陵透子の【世界の読み替え】なのだが、
その時の透子には、彼の排泄事情までは思い至らなかったらしく、
トイレに対して、その効力は発揮されなかったのである。

「仮にも俺様は魔人様でよ。
 そこらにいるリスとは違って文化的で衛生的な生活?
 ってヤツを何千年としてきたわけで。
 こーやって大自然の下、夜空に向かって立ちションするなんてーのは
 わりと屈辱なキブンだぜ」

彼の股間の八本の男根触手が唸りを上げて小便を排出している。
その一本一本から、蛇口全開のホースの如き水圧で放たれている。
禿山の火成岩に放たれたそれは、いきおい飛沫となり彼の足元におつりを返す。
ケイブリスは、そ知らぬ顔で浴びている。
この巨獣、文化的で衛生的な生活を自称している割に、
体毛が尿塗れになることはさして気にしていない模様である。


447:名無しさん@初回限定
10/08/14 02:45:40 5O0RxO9n0


448:点と線(4/9) ◆VnfocaQoW2
10/08/14 02:54:36 h2uPCSfR0


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(Cルート・2日目 19:35 D-3地点 本拠地・茶室)

偶然居合わせた透子の協力によって、ザドゥたちは峠を越したらしい。
それ自体は吉報であった。しかし。

「最低、十二時間か」

主不在の茶室にて椎名智機は、悩ましげに眉根を歪めている。
当初の予定、ザドゥ&芹沢vs紗霧チームの青写真が、
明らかに現実味を失ってしまったが為に。
十二時間。
それはザドゥと芹沢が意識を取り戻すに必要な時間であり、
火傷や外傷が癒えるに必要な時間では無いのである。
しかし、その盤面をひっくり返す悪魔の一手が、無いではない。

「素敵医師が遺した薬であれば……」

かつてかの狂人は、彼謹製の薬品群にて瀕死の遺作を見事に復活させている。
ザドゥや芹沢にそれを投与すれば、彼らは再び戦う力を取り戻すであろう。

であろうが、その賭けはリスクが高すぎる。
智機は知らぬ。
遺作に対し、何種類の薬品を投与したのか。
どの薬品を、どれだけの量、投与したのか。
効能と副作用を分析するには知識も設備も時間も不足している。


449:名無しさん@初回限定
10/08/14 02:55:40 5O0RxO9n0


450:点と線(5/9) ◆VnfocaQoW2
10/08/14 02:58:29 h2uPCSfR0

故に智機は、賭けには出ない。現状では。
だが、例えば。
目覚めたザドゥと芹沢に戦闘能力が失われていたならば、
詳細不明な劇薬を彼らに投じることを厭わぬであろう。

「さて――現状、このタスクにて出来ることは終わりだな。
 十二時間後の状態を把握してから、再検討しよう」

智機は行動キューの最上位にあったザドゥ対策を終了させ、
二位から一位へと格上げされたタスクの準備行動を開始する。

「ふむふむ。そろそろ冷却水の換え時かな?」

ここ一時間余りの内部的負荷は、それまでの二十四時間に匹敵するものであった。
情動発生器の振幅と論理演算回路の使用頻度は凄まじく、
後頭部の排気筒より排熱された水蒸気量は、既に冷却水の50%に達していた。
同様に、冷媒として使用しているフロンも劣化が激しい。
差し迫ったタスクを終えた今こそが、手入れ時なのである。

智機は重い腰を上げ、茶室を後にする。
メンテナンスルームを目指し、閑散とした廊下に出る。
そこで、ばったりと出くわした。

「「――!?」」

ここに居るはずのない人物と。
決して、本拠地の所在を知られてはならぬ少年と。
西の森の小屋にいるはずのプレイヤーと。


451:名無しさん@初回限定
10/08/14 02:59:56 5O0RxO9n0


452:点と線(6/9) ◆VnfocaQoW2
10/08/14 03:01:31 h2uPCSfR0

その少年は、なぜか自身の喉を手刀にて小刻みに震わせ、
意味の分からぬ低い唸り声を、智機に浴びかけた。

「は~うでぃ~!!」

管理番号38番。片翼の天使。かつての人類捕食者。
広場まひる、である。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


智機の立場に立ち、「いるはずのない」と記したが。
まひるは突然、本拠地に現れたわけではない。
点を繋いで、線として。
この地点を目指して、来たのである。


点の1――― 19:10の東の森、南西部。

まひるは観察していたのである。
連絡員飛来のIMを受けた現場オペレーティングの四機が、
一斉に北西の空を見上げたことを。

『……ほう、意味深な行動じゃの』
「何かあると思うんですけど」
『行ってみましょう。
 どのみち、東の森の周辺を一回りする予定です。
 北回り、ということにしましょう』



453:名無しさん@初回限定
10/08/14 03:02:11 5O0RxO9n0


454:点と線(7/9) ◆VnfocaQoW2
10/08/14 03:11:24 h2uPCSfR0

点の2――― 19:20の北西の岩山、程近く。

カタパルトから投擲された物資。
耕作地帯を北に抜けたまひるの目に、
それが捉えられたのである。

『どちらへ飛んで行ったかの?』
「んーと…… たぶん、さっきの場所。
 椎名ロボがわっせわっせと火消ししてたトコ」
『とすれば、支援物資か、或いは増援か……』
『どちらにせよ、発射元には、何かがあります』
「行っちます?」
『……慎重にお願いします』



点の3――― 19:30の北西の岩山、山麓。

排尿のために屋外へと出たケイブリス。
投擲物資の出所を探るべく山中へ入っていたまひるは、
偶然にもその巨体を目撃したのである。

「あの~…… 見つけちゃったんですが、扉。岩山に直接、扉」
『そこからケイブリスが出てきたんですね?』
「漏れる~漏れる~言いながら、どすんどすんと」
『見張りはいませんか?』
「まるっきり」
『ならばまひる殿、言うべきは、こうじゃ!
 こちらスネーク、状況を開始する。……とな!』


455:名無しさん@初回限定
10/08/14 03:12:31 5O0RxO9n0


456:点と線(8/9) ◆VnfocaQoW2
10/08/14 03:18:14 h2uPCSfR0


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


――時を戻す。

「は~うでぃ~!!」

まひるの咄嗟の威嚇(?)に対して智機が取った行動は、逃走であった。
その赤い目、白い肌と相まって、実に脱兎あった。
余りに見事な逃走ぶりに、まひるは唖然とし、暫く佇んでしまうほどであった。

智機はスタンナックルをデフォルトで装備している。
彼女でも扱える銃火器も腰に提げている。
まひるが「はうでぃー」している隙に、命を素早く奪うことも可能であった筈だ。
実際、その可能性は高いのだと、彼女の論理演算回路は解を出していた。
にもかかわらず、智機はそれをしなかった。

出来ぬのである。
この島に数多存在する智機たちの中で、この智機だけは、
あらゆる直接戦闘の実行がほぼ不可能なのである。

【自己保存】――

その原則が、最優先事項が。
オリジナル智機の行動を大きく規制しているが故に。

状況から推測されるあらゆる可能性を割り出せば、
まひるがその特異な運動能力を恃みに反撃してくる可能性や、
前方に活路を見出し向かってくる可能性も、
リストに加わることになる。

457:名無しさん@初回限定
10/08/14 03:18:30 5O0RxO9n0


458:点と線(9/9) ◆VnfocaQoW2
10/08/14 03:21:28 h2uPCSfR0

それらの確率はありえないほど低い。
しかし、ゼロではない。
ゼロで無く、かつ、他の選択肢があるのならば。
椎名智機は、戦えぬ。

智機は選択する。
1ポイントでも生存確率の高い選択肢を。
1ポイントでも死亡確率の低い選択肢を。
自動的に。否応なしに。

逃げる智機の音感センサーは、捉えていた。
後方のまひるが自分に背を向けたことを。
玄関より屋外への逃走を図っていることを。
それでも智機は、振り返ることも足を止めることもしない。

手近な個室に飛び込み、鍵をかける。
室内の迎撃装置のスイッチをONにする。

そうして、自らの安全を確保した上で。
ようやく、まひるの進入に対する手を打った。
屋外にいる同盟者へ向けて。

「ケイブリス、広場まひるに拠点を発見された!
 いいか、必ず仕留めろ。生かして逃すな!」


          ↓


459:名無しさん@初回限定
10/08/14 03:24:26 5O0RxO9n0


460:点と線(情報 1/1) ◆VnfocaQoW2
10/08/14 03:27:24 h2uPCSfR0

(ルートC)

【現在位置:D-3地点 北西の岩山裾野・本拠地周辺】

【広場まひる(元№38)】
【スタンス:非戦抵抗、逃走
      ①小屋に帰還する】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ、簡易通信機】

【主催者:ケイブリス(刺客04)】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先、智機と同盟
      ①まひる追跡及び殺害】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み)、鎧】


【現在位置:D-3地点 本拠地】

【主催者:椎名智機】
【所持品:素敵医師から回収した薬物。その他?】
【スタンス:願いの成就優先。
      ①本拠地が発見されたことへの対応
      ②しおりの確保
      ③ザドゥ達と他参加者への対処(分機P-03に注目)
      ④連絡員と交渉し、端末解除スイッチ+αを入手する許可を得る】

※代行N-22が端末解除スイッチを追加物資に混入したかは不明
※カタパルトの使用回数はあと一回、人間一人程度が限界です


461:名無しさん@初回限定
10/08/16 16:20:57 eln/37850
支援

462:名無しさん@初回限定
10/08/21 01:56:12 eq3sBo+I0


463:ちぇ☆ちぇ!~往路~(1/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 21:51:44 U2cS1PVF0

 
(ルートC・2日目 21:30 J-5地点 地下シェルター(隠し部屋1))




地下シェルターにザドゥの哄笑がこだまして。
地下シェルターにザドゥの哄笑が途切れ。
地下シェルターにザドゥの絶叫が響き渡った。




「ははははは…… はうっ!?
 ……っぎゃああああああ!!」






464:ちぇ☆ちぇ!~往路~(2/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 21:53:26 U2cS1PVF0
 
「……?」

恐怖に身を竦めていた透子の目線の先で、ザドゥの体が崩折れる。
同時に響くは紳一の絶叫。
しかしそれは微弱な思念波であり、透子の耳には届かない。

《痛ぇあああああ!!!》

ザドゥは全身、至るところに重い火傷を負っていた。
深い傷もあった。肺も痛んでいた。
憑依と伴に肉体感覚をも蘇らせた勝沼紳一にとって、
この感覚は鮮烈かつ痛烈。
惰弱な彼に耐えられる苦痛の域を超えていた。

《こ、こんな体では陵辱どころではない!》

またしても、またしてもと唸りを上げる紳一に、反応する思念波があった。
薄暗い地下室に在ってなお闇色に輝く魔剣・カオスである。

《なんじゃなんじゃ、うるさい悪霊じゃの。 このひょろっ子モヤシが!》

自分の足元から洩れてくる不機嫌なしわがれ声に、透子は思わず呟いた。

「……見えるの?」
《見えるどころか、儂、斬れますよ? こんな木っ端霊体なんか、すぱっと》

透子の瞳が光を帯びた。紳一の瞳が大きく見開かれた。
カオスが放ったのはただ一言。
それだけで狩る者と狩られる者の立場が逆転していた。


465:名無しさん@初回限定
10/08/21 22:01:37 XhQfd3Os0


466:ちぇ☆ちぇ!~往路~(3/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 22:05:15 U2cS1PVF0
 
《俺は何度……っ》

何度逃げれば気が済むのか。
滑稽ではないか。
自己憐憫を飲み込んで、紳一は逃走を開始する。
一心不乱に階段へと走る。

階段の中腹まで必死で走った紳一であったが、
背後に追いすがる気配が感じられぬ為、ひとたび振り返った。
透子は刀を手にしたまま、しゃがみ込んでいた。
しゃがみ込んでベッドの下に手を伸ばしていた。

少女のやる気が感じられぬ様子を見、紳一は安堵する。
走行ペースを落とし、重々しいシェルターの扉を透過する。
その向こうに――


   ――少女がいた。


扉の向こうの部屋でしゃがみこんでいるはずの少女が。
胸にひび割れた銀のロケットを掛けた、亜麻色の髪の少女が。
カオスを中段に構えて、紳一を切り伏せるべく、待っていた。

《ありえん!》

透子が紳一の憑依を知らぬのと同じく、紳一もまた、透子と瞬間移動を知らぬ。
紳一の生存中、透子が紳一に警告を発する機会が無かった故に。
出会い頭の衝撃に立ち尽くしている紳一に向けて、透子がカオスを振り下ろす。


467:名無しさん@初回限定
10/08/21 22:06:29 XhQfd3Os0


468:ちぇ☆ちぇ!~往路~(4/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 22:11:35 U2cS1PVF0
 
「やー」

脱力感あふれる掛け声と共にへろへろと振り下ろされた刀身は、
身じろぎ一つせぬ紳一を切り裂くことなく、その脇を通過した。
非力な透子には、剣を振りぬくことなど出来なかった。
それどころか、勢いのまま前のめりに転倒してしまう始末である。

しかし、紳一は戦慄した。
剣先ではない。
その刀身が纏う瘴気に少しだけ触れた右の肘から、感覚が失われたから。
それは、エネルギーを喰われる感覚であった。
それは、生きたまま氷付けにされる感覚であった。

紳一は直感し、戦慄する。

《あれをまともに食らえば。俺は、死ぬ。
 自分の魂から意志が切り裂かれ、俺は俺を失う。
 あの衣装小屋で会ったビッチメイドのように!
 薄毛デブのように!
 うわごとを繰り返すだけの存在に堕ちてしまう!》

ここに、紳一と透子の逃走/追跡劇が、幕を開けた。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


469:名無しさん@初回限定
10/08/21 22:11:46 XhQfd3Os0


470:ちぇ☆ちぇ!~往路~(5/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 22:14:39 U2cS1PVF0

ひと昔前のドジっ子メイドの如く、尻を高く掲げ、
額を地面に擦りつける格好で、透子は倒れていた。
その様相のあまりのあまりさに、相棒・カオスが嘆息する。
 
《しかし非力にも程があるのぅ、嬢ちゃんや》

透子の胸には紳一に対する怒りがある。
忘れて久しい感情が渦巻いている。
新鮮な感覚であった。
透子はその感情の赴くままに、カオスの無礼に八つ当たる。

「うるさい」

かといって透子の胸に、焦りは無かった。
紳一を討ち漏らしたことについて、深刻には受け止めていなかった。
彼女が唯一、紳一を捉える手段は記録/記憶の検索であり、
その手法だとタイムラグが発生するというのに。
その分だけ、紳一は遠ざかるというのに。
状況は追跡者にとって甚だ不利だというのに。

透子は、それらを不利だとは思っていなかった。
透子は、処する手段を見出していた。

(移動したい……)

知覚する必要などない。
ただ、念じればよい。

(紳一の【すぐ前】に)


471:名無しさん@初回限定
10/08/21 22:15:28 XhQfd3Os0


472:ちぇ☆ちぇ!~往路~(6/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 22:18:34 U2cS1PVF0

それで、移動は完了だ。
透子にとって瞬間移動は当たり前で。
それゆえに能力に疑いは無く。
たとえ、その目で紳一の姿を確認せずとも。

「えい」

ただ、前方にカオスを振り下ろせばよいのである。

《な……?》

またしても、突如として眼前に現れた透子に、紳一は肝を冷やす。
その振るった剣が空振ったことに、紳一は胸を撫で下ろす。

《なあ、トーコちん。 お前さん見当違いの方向に、儂を振ってますよ?》
「……ん?」

カオスの状況報告に、透子は思考を次へと進める。

(そうか)
(【すぐ前】じゃダメ)

前、では設定が曖昧に過ぎる。
見えない相手を切り伏せる為には、その方向を限定せねばならぬ。
透子はその方法を暫し考え、そして決定した。
透子は、向きを南に変え、願った。

(……紳一のすぐ【北】に行きたい)


473:名無しさん@初回限定
10/08/21 22:19:54 XhQfd3Os0


474:ちぇ☆ちぇ!~往路~(7/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 22:26:25 U2cS1PVF0

移動した。振り下ろした。空を切った。
刃は紳一が通過した一秒後に、紳一の残像のみを切り裂いた。

《嬢ちゃんの力で振りかぶっちゃダメじゃろ。
 時間が掛かるし、軌跡もぶれるからの。
 もっとこう、腰で構えて、体ごとぶつかる感じで》


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


御陵透子――
逃亡者の身としてみれば、これほどやっかいな追跡者は他におるまい。
 
接近の知覚は不可能。
経路の把握も不可能。
されど、気付けば常にいる。
武器を構えて傍にいる。

逃亡者紳一も、そのことは実感している。
少女がテレポートしていることも、紳一は把握しつつある。

(この乙女、もしかしたら俺が見えていないのではないか?
 にもかかわらず俺をアンカーとしているような……)

鬼ごっこの開始から十分余り。
二人ともに決定的な状況を作れぬままであるが、
しかし、天秤は徐々に透子に傾いている。

トライ&エラーを十数回。カオスの戦闘指導も十数回。
その経験値が、着実に、実を結びつつあった。

475:名無しさん@初回限定
10/08/21 22:26:42 XhQfd3Os0


476:ちぇ☆ちぇ!~往路~(8/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 22:30:23 U2cS1PVF0

(だがヤバい…… この乙女、コツを掴んできている!)

故に紳一は、色々と回避方法を試していた。
ジグザグに走ってもみた。
後ろ向きに走ってもみた。
緩急をつけて走っても見た。
試せる走行方法は、すべて試した。

それでも、合わせてくる。
無表情な少女は無表情のまま、ブレを修正してくる。

「……」

焦る紳一の前に、またしても透子が現れた。
もう、今の透子は掛け声などかけない。
予備動作など見せない。
攻撃態勢のまま移動してくる。

《ヒットじゃ!!》

低い姿勢で突き出されたカオスが、ついに紳一の脇腹に食らいついた。
紳一は悶絶する。
余りの痛みと余りの冷たさに。
命を直接抉り取られる不快さに。

《っああああひいいいい!!!》

無様に這って逃げる紳一に、追手の魔の手は、容赦ない。
移動。一突き。紳一の叫び。カオスの助言。透子の理解。


477:名無しさん@初回限定
10/08/21 22:32:13 XhQfd3Os0


478:ちぇ☆ちぇ!~往路~(9/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 22:35:05 U2cS1PVF0

《痛い痛いイタイイタイ!!》
《トーコちんよ、こいつ、這ってますよ?》
「ん」

泣き叫んでも聞く耳持たぬ、追手の魔の手は、容赦ない。
移動。一突き。紳一の叫び。カオスの助言。透子の理解。

《イヤだイヤだイヤだイヤだ!》
《もーちょい下、もーちょい下!》
「ん」

もはや転がるのみの紳一に、追手の魔の手は、容赦ない。
移動。一突き。紳一の叫び。カオスの助言。透子の理解。

《ヤメてヤメてヤメてヤメて!》
《ぬぬぬ、転がって躱わすとは!》
「ん」

紳一に状況を分析する余裕などなかった。
周囲を見回す状況などなかった。
ただ転がり、のた打ち回り、痛みと恐怖を発散するほかなかった。

《……神さまあっっ!!》
「ぁう!」
《トーコちん!?》

その弱者ぶりが透子とカオスの油断を産んだのか。
救いを求める魂の叫びが何者かに届いたのか。


479:名無しさん@初回限定
10/08/21 22:35:36 XhQfd3Os0


480:ちぇ☆ちぇ!~往路~(11/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 22:44:28 U2cS1PVF0

《なっ、ヤメい悪霊!》
《ははっ、これがいい。これが一番いい!
 この少女に憑依すれば!
 この少女の脅威に晒されることなく!
 この少女の処女膜を守ってやれるのだから!》

紳一は哄笑を上げながら透子へと潜り込む。悠々と。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(Cルート・2日目 22:00 I-7地点・海岸線・岩場)
 
「あの悪霊、どこに行ったのかな……?」

全ての女性の敵、バージンキラーの悪霊を退治すべく、
東の森の南部・浅いところを追跡していた仁村知佳であったが、
充満する煙に燻され、視界が不確かになった折に、
追跡対象の足取りを見失ってしまっていた。
その後、知佳は途方に暮れつつも追跡を諦めず、
周辺を索敵しながら歩いていた所に――

「あああぁぁぁぁっっ!?」

絶叫とも苦悶ともつかぬ声が響き渡った。
その声は、知佳にとって聞き覚えのある声であった。

「透子さん!?」


481:名無しさん@初回限定
10/08/21 22:47:04 XhQfd3Os0


482:ちぇ☆ちぇ!~往路~(12/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 22:53:04 U2cS1PVF0

声は、幸いにも南の程近くから聞こえてきた。
土気色に濁った半透明の翼――【エンジェルブレス】をはためかせ、
知佳は全速力で、悲鳴の元へと飛んでゆく。

「透子さん!」

海岸沿いの磯、そのひときわ大きな岩の前で倒れ伏す少女を確認し、
知佳は再びその名を呼んだ。
少女からの返答はない。
代わりに少女の内から染み出るように現れた亡霊が、
混乱と絶望の一人台詞を吐き捨てた。

《憑依できない! いや、違う! こいつはすでに憑依されている!?》

知佳は誤解した。
あながち誤解でもないのだが、事実と異なるという意味では誤解した。
紳一が透子を倒したのだと。
紳一が透子を犯そうとしているのだと。
それは参加者/主催者の枠を超え、一人の女として
許しがたいことであると、知佳は憤った。

「許さない!!」

紳一は知佳の姿を認めるや、近くの岩に潜り込んだ。
この少女がカオスを手に取り、切りかかってくるを警戒した故に。
紳一は体の一部でも岩からはみ出さぬ様、慎重に潜み。
見覚えの有る中古少女と脅威の魔剣との対面に、耳を傾けた。

《おうおう、そこのちんまい嬢ちゃんよ。 ほれ、儂を拾え。
 拾って小煩い煩悩幽霊をバッサリやっとくれ》
「剣……さん。 喋っているのは、あなたなの?」

483:名無しさん@初回限定
10/08/21 22:55:00 XhQfd3Os0


484:ちぇ☆ちぇ!~往路~(13/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 22:55:22 U2cS1PVF0

知佳は、透子のほど近くに落ちている剣へと向き直る。
禍々しいが、神々しくも有る、暗紫色の剣である。
彼女の知る霊刀・十六夜とは比べ物にならぬ妖力を漂わせている。
知佳は、誘われるままにカオスに手を伸ばす。

《まだお子様じゃな……》

カオスは知佳の薄い胸を観察し、溜息をついた。
最初の所持者・アインに輪をかけて貧相な体つき。
これでは、心のちんちんもおっきしない。

などと邪なことを考えていたところで、カオスは地面に叩きつけられた。
知佳は触れることで、心を読む。
その力は対象が人ならざるものであっても発揮されるようである。

「やだ…… この剣もエッチなことを…… 悪霊と同類なの?」
《おいおい嬢ちゃんや。レイピストとは一緒にしてくれるなよ?
 儂はあくまでおねーさん方との合意の下、
 共に快楽を追求しようという、いわばロマンス紳士でなぁ……》

知佳とカオスの間の抜けたやり取りを聞き、
紳一はこの隙に逃げ出そうかと、検討する。
暫く考え、その案を却下する。
自分は透子なる憑依されしテレポテーターに目を付けられている。
今は気絶しているが、やがて目覚めもするであろう。
そうなれば、いつであろうと、どこにいようとお構いなしで、
自分をアンカーとして瞬間移動してくる。
その時、遮蔽物が無ければ、終わりである。
迂闊な移動はリスクが高い。


485:ちぇ☆ちぇ!~往路~(14/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 23:01:30 U2cS1PVF0

それならばと、紳一は結論を結ぶ。
自嘲気味に、非積極案を採択する。

(ははっ。
 どうせ生存中も心臓病で屋敷に籠りきりだったんだ。
 透子が諦めるまで、或いは透子が殺されるまで、ここに籠り続けてやろう。
 なあに、苦にはならんさ。
 何しろ俺は腹も減らないし眠くもならないのだから!)

亡霊ならではの有利が、確かにあった。
紳一の読みは正鵠を射ており、透子にこの岩をどうこうする力は無い。
ここから一歩も動かぬ限り紳一の安全は確保されている。

但しそれは、相手が透子であった場合の話であり。
この岩を破壊できるような武装か能力を保持している相手を向こうに回した場合、
全く意味の無い潜伏と成り果てる。
例えば――

「うん、わかったよカオスさん」

目の前の念動力者、仁村知佳などが、その良い例である。

「はあっっ!!」

知佳の気合と共に迸るは超力一念。
発せられた念動力が大気を振動させ、紳一の潜む岩を微塵に砕く。
同じく念動により弓矢の勢いで投じられた魔剣カオスが、
紳一の胸を食い破り、穿ち貫き、抉り取る。
岩がそうなり、自分がそうされたことに、紳一は気付かなかった。


486:名無しさん@初回限定
10/08/21 23:02:04 XhQfd3Os0


487:ちぇ☆ちぇ!~往路~(15/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 23:03:54 U2cS1PVF0

《……弱っちいくせに、梃子摺らせてくれたの。 このうらなり君は》

紳一が身の振り方を検討している間に、
知佳は状況とカオスの能力を理解していた。
それで、即座に行動した。

透子の意思を受け継いで。或いは、当初の目的に従って。
参加者の敵でもなく、主催者の敵でもなく。
女の敵を、一人の女として。
討つべくして討ったのである。


ぱら、ぱら、と――


砕けた岩の破片が地面に降り注ぐ頃、すでに紳一は終っていた。
即死である。
油断と慢心を後悔する間もなく、舞台から退場したのである。


《処女》《処女》《中古》《処女》《処女》
《処女》《中古》《処女》《処女》《処女》


思考し行動する【幽霊】としての第二の人生を終え、今や
うわごとを繰り返す【正しい残留思念】に成り果てた紳一。

神に認められたイレギュラーな存在は、
その特権を生かすことなく、何事も為さぬまま、散った。

           ↓

488:名無しさん@初回限定
10/08/21 23:04:21 XhQfd3Os0


489:ちぇ☆ちぇ!~往路~(10/15) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 23:12:04 U2cS1PVF0
(抜けレス補完 >>478 の続き、>>480の前)

《………………………………?》


紳一が我に返ったとき、追跡者は仰向けに倒れていた。
気絶していた。その額から、血液を流していた。

《何が…… 起きたのだ?》

紳一は周囲を見渡し、そして気付く。
今、自分は、岩の中に居る。
のたうち回っているうちに、巧まずそうなったのであろう。
その岩に、新鮮な血痕が付着しており、
追跡者は血痕の手前で目を回している。

《ははっ…… 前方不注意、事故の元か!》

紳一は理解した。
彼が岩の中に転がり込んだことを知らぬまま、
例の如く突撃姿勢で瞬間移動した透子が、
その勢いのまま岩に衝突し、自爆したのだと。

《これ、トーコちん、起きよ、起きるんじゃ!》

カオスの呼びかけに、ショック状態の透子は答えない。
その様子に、脇腹の痛みを忘れて、紳一がほくそ笑む。

紳一が憑依できる条件はただ一つ。
憑依対象が意識を失っていること。
彼の目線の先には目を回した透子。
条件は満たされていた。

490:名無しさん@初回限定
10/08/21 23:13:10 XhQfd3Os0


491:ち☆ち!~往路~(情報 1/1) ◆VnfocaQoW2
10/08/21 23:15:28 U2cS1PVF0

正式タイトル:『ちぇいすと☆ちぇいす!~往路~』

(ルートC)

【現在位置:I-7地点 海岸線・岩場】

【仁村知佳(№40)】
【スタンス:①透子と交流
      ②読心による情報収集
      ③手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める
      ④恭也たちと合流】
【所持品:???、まりなの手帳、筆記用具、魔剣カオス(←透子)】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)、精神的疲労(小)】
【備考:手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】

【監察官:御陵透子】
【スタンス:自殺】
【所持品:契約のロケット(破損)】
【能力:記録/記憶を読む、瞬間移動(ロケット必須)】
【備考:疲労(小)、気絶中】


【№20 勝沼紳一(亡霊):精神喪失】


(レス番にひとつ抜けがありました。申し訳ございません。)

492:Hyenas'Dinner(1/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 21:20:28 75tPoN9o0
【タイトル:Operation:"Hyenas'Dinner"】

======================================================================
            Mission-1 draft
======================================================================

(Cルート・2日目 PM07:40 D-6 西の森外れ・小屋3周辺)

先程までは、火災の余波で暑気を感じる程であった。
しかし今は、冷えている。冷え切っている。
月夜御名紗霧が、こめかみを人差し指で繰り返し突付き、
苛立ちと不機嫌を露骨に撒き散らしている為に。

こつ、こつ、こつ……

相対する高町恭也と魔窟堂野武彦は、自分達の失策を悔やみつつ、
紗霧が口を開くのを黙して待っている。
痛いほどの沈黙が、小屋の外を支配している。


  小屋から出てすぐに小屋裏の茂みへ飛び込み、胃が空になるまで戻した紗霧。
  その様子を見た恭也たちは、紗霧の怯えた様子に心乱された。
  しかし、暫く後。
  涙目を袖にて拭きながら戻ってきたときには、既に常の彼女であった。
  そこで魔窟堂は伝えた。
  
  まひるを斥候として放ったこと。
  通信機が完成したこと。
  智機の集団が、鎮火活動に勤しんでいること。
  ケイブリスを発見したこと。
  それらの行動に、紗霧は高い評価を下した。
  目に見えて機嫌の良い顔をした。  

493:Hyenas'Dinner(2/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 21:21:35 75tPoN9o0
  
  「その判断と行動、高ポイントです」

  しかし、報告が敵基地の発見、侵入に移った段で、紗霧の表情が曇り始め。
  智機に発見され、脱出し、ケイブリスに追われていると伝えたところで、
  紗霧の機嫌は完全に反転してしまった。

  「入口を確認した時点で帰投させるべきでしたね」

  紗霧はそう呟き、冷たい眼差しで深くため息をつくと。
  不機嫌な顔のまま、黙考を始め――


こつ、こつ、こつ……

指で外部からの刺激も受けつつ、紗霧の脳はそら恐ろしい程の速度で回転している。
想像して想定して検討しては、想像して想定して検討している。

(主催者に余力があるのだとすれば、拠点の防衛を強化するでしょうし、
 主催者に本当に余裕が無いのなら、拠点を破壊/廃棄するでしょう)

どう転んでも拠点奪取や基地の急襲は困難、あるいは不可能と判じられる。
紗霧はまひるの侵入に対する敵方の対処を、その様に想定した。

(ケイブリスにまひるを追わせているということは、
 後者の可能性が高いでしょう。
 拠点廃棄の為の時間稼ぎとも取れますね)


494:名無しさん@初回限定
10/08/25 21:28:29 YgNsWpLB0
 

495:Hyenas'Dinner(3/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 21:31:16 75tPoN9o0

但し、現状は最悪ではない。
基地に奇襲がかけられぬ事や、保管されている物資や情報を手に入れられぬ事は
勿体無いとの思いもあるが、それは紗霧の戦略を超えた大きすぎる僥倖である。
レプリカ智機の訪問・提案と同じく、想定外の事態である。
そこに目が眩んでしまったり、下手な勢いに乗ってしまわぬ為には、
却って基地奪取の目が小さくなってしまったことは良しとすべきやもしれぬ。

(考え様によっては、これでよかったかもしれません。
 目標を一つに絞らざるを得ないのですから。
 当初の戦略が幾分か早まったに過ぎないのですから)

目標とは、ケイブリスである。
戦略とは、兵員が消耗する前に、ケイブリスと戦うことである。

言うまでも無く、紗霧のゲームに対するスタンスは玉虫色である。
パーティのリーダー的存在にちゃっかり収まっていながらも、
ゲームに勝ち残る方向性をも、視野に納めている。
紗霧は、ケイブリスとの戦いを、その試金石とする腹積もりでいる。
損耗少なく勝利すれば、天秤は大きく主催者打倒に傾き、
損耗多く、あるいは敗北を喫すれば、天秤は優勝狙いに振り切れる。

――こつ。

紗霧の指が止まった。
恭也と野武彦は息を飲み、続く言葉を待った。
紗霧は二人を順に見つめると、こう、宣言した。


「【包囲作戦・改】、といきましょう」
 

496:名無しさん@初回限定
10/08/25 21:32:33 YgNsWpLB0
 

497:Hyenas'Dinner(4/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 21:37:27 75tPoN9o0

======================================================================
           Mission-2 Reconnaissance
======================================================================

(Cルート・2日目 PM07:37 D-3地点 山間部)


「おっ、可愛い侵入者ちゃんじゃねーの!」

ケイブリスは拠点の玄関を出たところで、まひるを待ち構えていた。
まひるはその脇を、一息に駆け抜けた。
ケイブリスの反応は鈍重とは言えぬまでも決して機敏とも言えぬ。
振り下ろした二本の腕は、まひるの残像すら捉えられぬは愚か、
空振った勢いを減ぜられず、膝をついてしまう体たらくであった。

振り返ったまひるとケイブリスの距離、およそ6m。
既に腕の射程圏外。
しかもケイブリスは未だ背を向け、姿勢を崩している。
それ故、まひるは気を緩めた。

「なにゆえ~~~っ!?」

次の瞬間、広場まひるの絶叫が、岩山に大きく木霊した。
まひるは叫びと共に後ろに大きく跳躍。
その右手は、何故か自身のスカートを押さえていた。

さらにバックステップを二度重ねて、まひるはケイブリスに向き直る。
魔獣は股間から、野太い静脈色の蚯蚓を不気味にうねらせていた。
その数、八本。
生殖器にして副腕にして拘束具にして武装。
これがケイブリスの触手である。

498:名無しさん@初回限定
10/08/25 21:37:39 YgNsWpLB0
 

499:Hyenas'Dinner(5/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 21:43:24 75tPoN9o0

その触手の一本の先に、千切れた小さな布切れが握られていた。
まひるは触手に切り裂かれ、剥ぎ取られたのである。
ピンクのフレアスカートの下、アニマルプリントのショーツを。
6mという距離は、十分に触手の射程圏内であった。

「ぐふふ! かわいいおケツじゃねーの! つっこみてーな! つっこみてーな!」

ケイブリスは手拍子を打ち鳴らしながら、巨体を揺らして迫り来る。
彼は明らかにまひるで遊んでいる。嬲っている。
自身の有利さに絶対の自信を持ち、まひるを牙を持たぬ小動物と見るが故に。

「あああ、あたし、あたし! こんなナリして男のコなわけで!」
「だからナニよ?」
「どっちもイけますかー!?」
「どっちもクソも、俺様とおめーは、種族も体格も違うじゃねーの。
 性別なんてそれに比べりゃ小さな問題だぜ?」
「一理ある。だが断る!」
「俺様、心が広いもんだからよー。
 嬲られてひーひー喚いて白目剥いてごぼごぼ泡吹いちまうよーな
 ちっちゃくて柔こい生き物ならなんだっていいんだって!」

左から二本、右から一本。
ケイブリスの陵辱宣言と共に、触手男根がまひるに襲い掛かった。

「猟奇、ダメ、絶対!!」

まひるは再び疾走する。裾野から、山地へと。
そこに、小屋の誰かからのコールが掛かる。
まひるは走る足を止めぬまま、通話ボタンをONにする。
通話相手は、高町恭也であった。

500:名無しさん@初回限定
10/08/25 21:43:55 YgNsWpLB0
 

501:Hyenas'Dinner(6/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 21:51:04 75tPoN9o0

『状況はどうですか?』
「ケイブリスにやられるトコでした。 ……二重の意味で!
 恭也さんも対面したときには、お尻にご注意を!」
『……良く判りませんが、ピンチなのですね。
 もう偵察は結構です。すぐに逃げてください』
「ラジャった!」

まひるは縋る触手の二つ三つを難なく躱す。
カモシカの如く岩肌を跳ね回り、斜面を平地の如く駆ける。
岩から岩へと跳躍する。
あれよという間に、まひるは触手の射程圏外まで距離を開けた。

「なんだなんだぁ? ニンゲンにしちゃあ、やたらとすばしっこいじゃねーか?」

ケイブリスはようやく本腰を入れた追撃体勢に入るが、距離は開くばかり。
しかも、ごろごろと礫岩の転がる急斜面である。
腕は六本あれど、触手は八本あれど、ケイブリスは二足歩行を基本とする。
安定せぬ足場と傾斜の中での追跡は、困難であった。

 ――逃げ切れぬ相手などいない。

その、まひるの無意識の自覚は、ここに実証されている。
時間と共に距離は広がり、いまやもうケイブリスの姿すら目視出来ぬ。
それを察したまひるもややペースを落とし、
露となった下半身を、片手で隠す余裕を持っている。
小屋への帰投は、問題なく達せられるであろう。
すでに危機は去ったと言ってよいだろう。
しかし。

502:名無しさん@初回限定
10/08/25 21:52:22 YgNsWpLB0
 

503:Hyenas'Dinner(7/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 21:56:59 75tPoN9o0

『逃げるな広場!!』

そのまひるの足を、インカムの向こうの仲間が、止めた。
声は、紗霧のものであった。

「あ、あれ? 紗霧さん、椎名ロボとのお話は?」
『ランスのバカが大暴走して、交渉どころじゃありません。
 まあ、それはいいんです。
 まあ、それよりもです。
 まひるさん、せっかくケイブリスと出くわしたんですから、
 この機会にちょっと威力偵察してもらえます?』
「いりょ……? 言葉の意味はわからねど? 不穏な響きがそこはかとなく?」
『ちょっかいを出して相手のスペックを図れということです』
「む、無理無理無理無理無理みゅりみゅり!」
『噛まない、放送部』
「わかってます? 紗霧さんあなたかなり酷いこと言ってますよ?」
『攻撃しろなんていってません。
 相手に楽しく追跡させてあげればいいんです。
 年下相手の鬼ごっこみたいなモンです。
 そうして調子に乗せてやって、あなたは横目で観察してください。
 ケイブリスの動きを、能力を、思考を、特徴を。
 あなたの目と耳と感覚で捉え、探ってください』

ケイブリスという生物を知るべきである。
まひるとて、紗霧の言わんとすることは理解できる。

504:名無しさん@初回限定
10/08/25 21:57:49 YgNsWpLB0
 

505:Hyenas'Dinner(8/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 22:00:25 75tPoN9o0

『ほんとうに危険を感じたら、即離脱してもかまいません。
 尤も?
 恭也さんに大丈夫と啖呵を切ったまひるさんのことです。
 この程度のことで偵察任務をほっぽらかして、
 尻尾を巻いて逃げ帰ってくるような、厚顔無恥で無責任で
 人非人な振る舞いをするはずないとは信じてますけどね?』
「う…… 痛いところをざくざくと……
 いいですよー。わかりましたよー。やりますよー。
 あたしゃ怪獣さんより紗霧さんのが怖いので」
『……バットを磨いて、報告を待っていますね♪』
「Sやぁ…… この姉さんは極めてドSやぁ……」

まひるはどこか滑稽味を感じさせる涙声で通信を〆ると、
追いすがるケイブリスの到着を待つことにした。






506:名無しさん@初回限定
10/08/25 22:00:38 YgNsWpLB0
 

507:Hyenas'Dinner(9/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 22:03:47 75tPoN9o0
 
======================================================================
           Mission-3 Pre Briefing
======================================================================

(Cルート・2日目 PM08:00 D-6 西の森外れ・小屋3周辺)

まひるの威力偵察はおよそ20分に渡った。
紗霧はその間、通信機を独占し、何度も何度も執拗に
まひるへ質問し、命令し、思考し、検討した。

そこから推し量れるケイブリスのスペックは、
おおよそランスやユリーシャ、魔窟堂からの情報通りであった。
しかし、新たな収穫の多くもあった。

  ――炎の魔法を使う
  ――魔法には詠唱が必要
  ――触手の射程は10メートル弱
  ――左右の真ん中の腕が折れているらしい
  ――鎧の破損は、修繕済み
  ――背中に、全裸の女性らしきものが埋まって(生えて?)いる
  ――その女性は、能動的な行動を取らぬ
  ――夜目が、それなりに利くらしい

本当はもっと情報が欲しいと、紗霧は思っていた。
どんな些細な情報でも、どんな下らぬ情報でも、
有れば有るだけ検討の幅が広がり、戦術の具体性が増す故に。

508:名無しさん@初回限定
10/08/25 22:06:20 YgNsWpLB0
 

509:Hyenas'Dinner(10/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 22:07:53 75tPoN9o0

それでも、まひるの疲労度合いを考慮して、この時間で威力偵察を打ち切った。
まひるにはこの先に、活躍の場がある。
ここで消耗させる訳にはいかぬ。
見切るべきときに見切る決断もまた必要であると、紗霧は知っていた。

その紗霧が数分の黙考を終え、口を開く。

「さて、ブリーフィングの前に、所見を述べます。黙って聞きなさい」

紗霧は言った。ブリーフィングの前に、と。
恭也と野武彦はそれで察した。
紗霧はこれから、ケイブリスと戦う気なのだと。

「元々―― 仮称【包囲作戦】とは、
   1.ケイブリスの所在を探り
   2.ケイブリスを孤立させ
   3.ケイブリスを囲み、誘導し、自陣に引き込んで
   4.準備された罠にて、これを倒す
 そういう趣旨のものでした。
 準備に数日間をかけて行われる、大規模な作戦です。……でした。
 代わりに、より簡素な、より積極的な作戦を提示します」

続く言葉で、広場まひるとユリーシャも理解した。

「ぶっちゃけましょう。
 アレは駒が揃っているうちしか太刀打ちできません。
 また、アレと戦うときはアレ単体の時しか有り得ません。
 今が、千載一遇の機と言うべきでしょう。
 多少無理をしても、作戦を破棄しても、逃す手はありません」

510:名無しさん@初回限定
10/08/25 22:08:50 YgNsWpLB0
 

511:Hyenas'Dinner(11/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 22:12:28 75tPoN9o0

ごくり。誰かの喉が鳴る。
周囲に濃密な緊張が走る。
紗霧は続く言葉で以って、その緊張感をさらに高める。

「少々脅します」

四人は黙して紗霧の続く言葉を待つ。
誰一人として、余計な口は挟まない。
挟めない。
それだけの迫力を、重圧を、あるいは信頼を。
紗霧は周囲に与えていた。

「今から提案する作戦が、仮に壺に嵌らなかった場合――
 ケイブリスがこちらの想定を上回る頭脳・機能を持っていた場合――
 私たちは、敗北するでしょう」

弱気ではない。言い訳でもない。理想でもない。
それが紗霧のはじき出した現実的な予測である。

「それでも、ここが、賭け所です。
 アレを倒さねば、未来はありません。
 どの道、避けられぬ戦いなのです」

誰もが今まで、紗霧のこんな熱い目を見たことがなかった。
誰もが今まで、紗霧のこんな厳しい言葉を聞いたことが無かった。

「皆さんの命、私に預けなさい。
 誰一人として無駄にすることなく、
 有効に使いきって差し上げます」

512:名無しさん@初回限定
10/08/25 22:13:04 YgNsWpLB0
 

513:Hyenas'Dinner(12/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 22:19:28 75tPoN9o0

紗霧は深く息を吐き、沈黙する。
伝えるべきは全て伝えたのだと、態度で以って語っている。
そして、待っている。
この旗の下に集うか否か、四者の返答を。

「も……燃えてきたのじゃああああああ!!」

魔窟堂老人が、咆哮を以って同意した。

「従います」

高町青年が、短く同意した。

「わ、わたしは…… ランスさまが戦うのでしたら」

ユリーシャ王女が、条件つきながら同意した。

『……』

広場少年は、沈黙を保っている。

「「「……」」」

既に決意表明した三者が、最後の一人が口を開くのを待っている。
まひるにも、電波越しに、その雰囲気は伝わっている。
お前も参加するべきだと、無言の圧力を感じている。

それでも――

514:名無しさん@初回限定
10/08/25 22:22:22 YgNsWpLB0
 

515:Hyenas'Dinner(13/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 22:26:35 75tPoN9o0

まひるは、怖いのである。
戦いが。他者を傷つけることが。ケモノの活性化が。
故に、肯定でもなく否定でもなく。
まひるは、沈黙で以って、意思表示する。
どちらも嫌なのだと。
答えを出したくないのだと。

しかし腹を括った夜叉姫が、そんな甘っちょろい態度を許そう筈も無い。

「いいですか、まひるさん。あなたをさらに、脅します」

酷く冷たい声で。冷たい微笑で。
一度、恭也の顔を見てから。
紗霧は、まひるを脅迫する。

「あなたが戦力に組み込めなければ、死にますよ。恭也さんが」

まひるより先に、野武彦とユリーシャが驚愕に目を見開く。
一拍置いて、言葉の意味を理解したまひるが絶叫する。

『でぇええええ!?』
「私の腹案は、六人全員が何らかの役割を持っています。
 そこから一人が欠ければ――
 私は、次善の策へプランを変更せざるを得ません。
 そう、みんなでリスクを分担するプランから、
 恭也さん一人にリスクを押し付けるプランへと。
 犠牲者を出さなくても済むかもしれないシナリオから、
 恭也さんの死を前提に、勝利するシナリオへと」

516:名無しさん@初回限定
10/08/25 22:28:43 YgNsWpLB0
 

517:Hyenas'Dinner(14/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 22:31:29 75tPoN9o0

紗霧は驚くまひるに、そのように畳み掛けた。
まひるは仲間を使い捨てるという紗霧に激怒し、
また、仲間に使い捨てると宣言された恭也に同情した。
故に、恭也に感情的な同意を求めた。

『ちょっとちょっと恭也さん?
 このオニチク、あなたに死ねとか無茶言ってますが!?』

しかし同情された当人は、涼しげに、こう宣うである。

「それが必要なのだと、月夜御名さんが判断したのなら。
 それが俺の命の使いどころなのでしょう」

まひるには理解できなかった。
命を道具のように扱うを是とする紗霧が。
命を道具のように扱われるを是とする恭也が。

『まじですかーーー!?』
「本気です」

御神の意志は、個人の意志を否認する。
守るべき物の為ならば、御神は捨石となり、その五体は手段となる。
恭也の背景を知らぬまひるには、その恭也の根本までは察せられぬ。
しかし、その迷い無き口調から、恭也の揺がぬ鋼の意志は理解した。

「ねぇ、まひるさん。怪獣退治です。人殺しじゃないんです。
 貴女の手は、血に染まるかもしれませんが、
 貴女の心が、罪に染まることはありませんよ?」

518:名無しさん@初回限定
10/08/25 22:33:00 YgNsWpLB0
 

519:Hyenas'Dinner(15/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 22:34:50 75tPoN9o0

それまでの無感情な事務的口調とは打って変わって。
急に甘い声で。
紗霧はまひるに、やさしく、やさしく、囁いた。
それは、魂の契約を迫る悪魔の囁きにも似ていた。

内容もまた、まひるの琴線に触れていた。
まひるが恐れる事は、自分の痛みや死ではなく、
相手に与えるそれらであるのだと、看破されていた。
そして、まひるが恐れるもう一つ。
仲間の死。
紗霧はそれで、揺さぶった。

「その手を汚すことと、仲間を失うこと。
 本当に怖いのはどちらでしょうね?」

結局のところ、紗霧がしているのは、詰め将棋に等しかった。
まひるは最初から、読みきられていた。
紗霧は、数手先に詰まされることが分からぬまひるのために、
一手一手を解説つきで指してやっているに過ぎなかった。

『本当に。ほんっとーーーに!
 あたしが戦うなら、誰も死なないんですね?』
「約束しましょう。神鬼軍師の名にかけて」

戦場の不確かさを知らぬ紗霧ではない。約束などできようはずも無い。
それでも紗霧は断言した。
まひるが求めているのは確率でも根拠でもない。
自信であり、安心であり、背中を押してくれる切欠なのだから。
言葉ひとつでどうとでもなる、気持ちの問題なのだから。

520:名無しさん@初回限定
10/08/25 22:36:02 YgNsWpLB0
 

521:Hyenas'Dinner(16/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 22:37:52 75tPoN9o0

『ぅぅぅぅぅぅおっっしゃああああっっ!!
 乙女の度胸、ひとつお見せしましょうかっっ!!』

そして、この一言こそが、王手であった。
詰み手であった。
まひるもようやく、それを認めた。

『でも…… あの。換えの下着は、持ってきてね。いやマジで』
「そんなの葉っぱ一枚ありゃいいんです。自助努力、ガンバ♪」






522:名無しさん@初回限定
10/08/25 22:40:17 YgNsWpLB0
 

523:Hyenas'Dinner(17/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 23:00:46 75tPoN9o0

======================================================================
            Mission-4 Briefing
======================================================================

(Cルート・2日目 PM08:15 D-6 西の森外れ・小屋3)


ランス不在のままブリーフィングは開始され、およそ15分で終了した。
紗霧の一人舞台であった。
彼女の作戦に異論を挟む者や、質問を発する者は居なかった。



 

524:名無しさん@初回限定
10/08/25 23:01:35 YgNsWpLB0
 

525:Hyenas'Dinner(18/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 23:04:27 75tPoN9o0

======================================================================
            Mission-5 Preparation
======================================================================

(Cルート・2日目 PM08:30 D-6 西の森外れ・小屋3)


ランスが体からほかほかと湯気を上げながら、素っ裸で寝転がっている。
レプリカ智機P-3は、そのランスの腕を枕に、やはり全裸で横たわっている。

「ふううう…… 気持ちよかっただろ、智機ちゃん?」

結論から言えば、ランスの目論見は惜しいところで失敗していた。
愛撫地獄の最中、意図せぬP-3の絶頂を許してしまったのである。
エクスタシー寸前まで幾度も高まった陰核に、ランスの汗が一滴、落ちた。
その些細な刺激で、P-3は極みに達したのである。

そうなったらそうなったで、ランスは開き直り。
ご自慢の肉宝刀を縦横無尽にぶんぶんと振り回し。
P-3はP-3でもはや遠慮も会釈も有った物ではなく。
おま○こだのおち○ちんだのと放送禁止用語を明け透けに連発し。
二人仲良く、どろどろに溶け合い、ぐずぐずに果てたのである。

「Yes。 天にも昇らんばかりの心地だったよ……」

P-3は、身も心も堕ちた。蕩けた。
それは全く間違いない。
しかし、行為が終わり官能の炎が消え、熱暴走の危機を脱すれば。
そこは、流石にオートマンである。
オートメンテのタスクが復活し、トランキライザーは唸りを上げ、
今の彼女は、冷静で冷徹な機械の思考を取り戻している。

526:名無しさん@初回限定
10/08/25 23:06:46 YgNsWpLB0
 

527:Hyenas'Dinner(19/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 23:08:08 75tPoN9o0

(ランスを篭絡、か。 Yes。 造作も無いことさ!)

快楽の余韻に放心しているかの如き表情のその裏で、
本機より届いたIMに目を通し、方針を検討していたP-3は、
新たに自分に下された命令に従うべく、行動を開始する。

「私は……知らなかったのだよ。
 肉体にこのような悦びがあり、愛されることがこのように甘美であることを。
 なあランス、頼みがある。私の所持者となってくれ給え!
 私はもう、お前から離れられないのだ……」
「がははは! 当然だ! もうお前は俺の女だ。むしろ離れるほうが、許せん」
「ああ、嬉しい。夢のようだよ……」

P-3のか細い腕が、ランスの逞しい胸板に絡みついた。
ランスは実に満足げに智機の細い首筋を舐め上げた。
それがP-3と智機本機の策略とも知らず、ランスは有頂天となった。

「よし! じゃあ契約成立のお祝いSEXだ!」
「犬のように惨めに這いつくばる私を、後ろから征服してくれ給え!」

懇願と共にP-3が尻を高く突き出し、ランスがそれに手を添える。
彼女の性交ホールはすぐさま潤いを見せ、彼の兵器は既にハイパーであった。
そして、ボーイ・ミーツ・ガール。
ノックも無しに乱暴に扉が開かれたのは、まさにその瞬間であった。

「はあ…… まだサカる気ですか、あなたは」

枕事の最中に無遠慮に侵入したのは月夜御名紗霧。
その紗霧に従者の如く付き従うは高町恭也と魔窟堂野武彦。

「やあ、月夜御名紗霧。交渉を中断してしま」

528:名無しさん@初回限定
10/08/25 23:10:42 YgNsWpLB0
 

529:Hyenas'Dinner(20/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 23:13:31 75tPoN9o0

禽獣の姿勢のまま背中越しに闖入者たちを見やったP-3が、
続けて何を言う心算であったのか、紗霧たちが知ることは無かった。
紗霧の合図に、二人の男が同時に動いた故に。

高町恭也――
素早くP-3に詰め寄るや、逆手に構えし小太刀一閃。
その首を音も無く掻き切った。

魔窟堂野武彦――
大口径の拳銃から、首無きP-3の胸に凶弾一発。
倒れし機械の胴から白煙が吹き上がる。

転がる頭部は、紗霧の足元で仰向けに停止した。
紗霧はボウガンの鏃を足元に向けていた。
見上げるP-3の視覚レンズが、見下す紗霧の冷たい目を捉えた。

「何故……」
「すみませんが交渉は決裂ということで」

次の瞬間、P-3はボウガンに眉間を貫かれ。
その機能を永遠に停止させた。

「きさまらあああ!!」

獣の如き叫び声を上げて、ランスは激昂する。
この男、非情なようで女には温い。
男は殺す。
女は犯す。
そのような徹底した男女差別の精神で生きている。

530:名無しさん@初回限定
10/08/25 23:13:45 YgNsWpLB0
 

531:Hyenas'Dinner(21/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 23:16:41 75tPoN9o0

故に、女に騙されて、自らピンチを招くことも茶飯事であるが、
それでもランスは反省せず、常に美女には甘かった。
ましてや、今、無残にも破壊されたP-3は、既に【俺様の物】なのである。
怒り狂わぬ道理は無い。

「黙りなさいランス」

その怒気が沸騰する直前に、紗霧がぴしゃりとランスを諌めた。
立会いの会わぬ格好となったランスの威勢に虚が生まれ、
紗霧はその隙に強引に言葉をねじ込み、押し通る。

「その機械はスパイです。ハニトラです。
 主催者の本拠地に侵入したまひるさんがそれを聞きつけました。
 エロの大家がエロで篭絡されてどうするんですか、ランス!」

無論、デマである。
図らずも結果に於いては事実を言い当てているも、発言に根拠はない。
それでもその言葉に、ランスの頭は冷えてゆく。

  ――主催者の本拠地に侵入した

その言葉の持つ重みに、ランスの理性が働いた。
事態が大きく動いているのだと、ランスの嗅覚が働いた。
それでもなお、判っていてもワガママをいう子供のように、
ランスは完全には沈黙しなかった。
怒りは収まっているものの、しつこく駄々を捏ねた。

「でもな紗霧ちゃん、仮にそうだったとしても、
 これから二発三発とセックスを重ねてゆけばだな……」

532:名無しさん@初回限定
10/08/25 23:18:06 YgNsWpLB0
 

533:Hyenas'Dinner(22/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 23:19:40 75tPoN9o0

そんなトーンダウンした俺様理論を展開する途中で、ランスはようやく気がついた。
気付いて言葉を飲み込んだ。
空気が、違うことに。

三人は、触れたら切れんばかりの研ぎ澄まされた気配に満ちている。
三人の周囲には、覚悟を帯びた熱気が漂っている。

さらには――

「ランス様……」

いつの間に小屋に入ったのか。
ユリーシャが、顔を上げて、真っ直ぐランスを見ていた。
常に俯きがちで、表情を探るかの如き上目遣いばかりの少女が、である。

「こちらを」

ユリーシャは、ランスに斧を差し出した。
震える腕で。震える足で。震える声で。
それでも、その瞳は震えることなく、ランスを見据えている。

「お前たち…… 何をするつもりだ?」

気勢に飲まれ、憤りを鎮めたランスの問いに、紗霧は答えた。
決して否とは言わせぬ、強い口調で、命じた。

「とっとと着替えなさい。ケイブリス狩りに行きますよ」




534:名無しさん@初回限定
10/08/25 23:21:55 YgNsWpLB0
 

535:Hyenas'Dinner(23/23) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 23:27:07 75tPoN9o0

======================================================================
              Intermission
======================================================================


紗霧の迫力に負けたのか。宿命のライバルへのリベンジに燃えたのか。
ランスは無言で戦支度を整えている。

魔窟堂野武彦と月夜御名紗霧は台所にて、必要な何かを作成している。
小屋の外では高町恭也が、飛針ならぬ何かの投擲に腕を慣らしている。
距離を隔てた北西部の平原では、広場まひるが挑発と逃亡を繰り返し、
ケイブリスを決戦の地へと誘っている。

誰もが各々の出撃準備に余念が無く。
誰もが他者に気を配る余裕は無い。
故に。
彼女の異様に気付く者はいなかった。

ユリーシャは――

智機の頭部を、踏みにじっている。
音を立てず、されど執拗に。
破壊されたP-3を、弄んでいる。

眼輪筋をぴくぴくと痙攣させて。
こみ上げる笑みを飲み込んで。
幼い顔の造りに不釣合いな仄暗い官能の色を浮かべて。

「豚…… この、豚め……」

清楚可憐と謳われた王女の子宮は、甘く、重く、疼いている。

536:名無しさん@初回限定
10/08/25 23:31:36 YgNsWpLB0
 

537:Hyenas'Dinner(情報 1/2) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 23:35:07 75tPoN9o0
 
(ルートC)

【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め
      ①打倒ケイブリス】
【備考:全員、首輪解除済み】


【現在位置:D-6 西の森外れ・小屋3 → E-5 耕作地帯】

【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:生活用品、香辛料、メイド服、?服×2、干し肉、スペツナズナイフ(←紗霧)、
     文房具(←紗霧)、白チョーク1箱(←紗霧)、紗霧謹製の何か(New)】

【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
      男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧(←ユリーシャ)】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2~3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】

【高町恭也(元№08)】
【スタンス:紗霧に従う】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食、
     釘セット、紗霧謹製の何か(New)】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
    痛み止めの薬品?を服用】


538:名無しさん@初回限定
10/08/25 23:36:19 YgNsWpLB0
 

539:Hyenas'Dinner(情報 2/2) ◆VnfocaQoW2
10/08/25 23:41:56 75tPoN9o0
 
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残6×2+2)、
     白チョーク数本、スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、
     ヘッドフォンステレオwithまじかるピュアソング、レーザーガン(←紗霧)
     簡易通信機、携帯用バズーカ(残1)、工具、紗霧謹製の何か(New)】

【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
      状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:金属バット、レーザーガン、ボウガン、メス×1、他爆装置(指輪×2のみ)、
     小麦粉、謎のペン×8、薬品・簡易医療器具、対人レーダー、解除装置、
     家庭用品いくつか、紗霧謹製の何か(New)】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷有、意思に揺らぎ有り】
 



【現在位置:D-3 山間部 → E-5 耕作地帯】

【広場まひる(元№38)】
【スタンス:ケイブリスを耕作地帯まで誘導する】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ(大)、簡易通信機】

【主催者:ケイブリス(刺客04)】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先、智機と同盟
      ①まひるを犯す
      ②まひるを殺す】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み)、鎧】


540:名無しさん@初回限定
10/08/27 11:16:22 c8OqYEy80
盛り上がって参りました!!

541:トランス部長・追憶編(1/10) ◆VnfocaQoW2
10/08/29 01:14:25 QXZZI4Lw0

(Cルート・2日目 19:45 ???)

何か既視感のあるタイトルだと思ったって?
なんで夜叉姫専属のお前がしゃしゃり出てくるんだって?
まあまあ、そんな細かいことは気にしない、気にしない。
たまにはぼくだって、他の人の記憶や秘密を覗いて見たくもなるんだよ。

で、暗黙のお約束を破ってまで知りたいことが何かっていうと。
トランス部長の【真の力】なんだよね。

ね、皆だって興味あるでしょ?
分機解放スイッチで解放されるらしい、とか、
謎を謎のまま引っ張り続けられるのって、イラつくでしょ?

今だってほら。
広場まひるの侵入から来る予測と対策で忙しそうにしてるでしょ?
こんな切羽詰った状況では長々と過去を振り返る余裕なんてなさそうだもん。
それにさ、彼女がスイッチを入手できる確率って低そうじゃない?
ぶっちゃけると、そろそろ死にそうじゃない?

だから、まあ。
情報の旬を逃さない為には、ぼくが出張るしかないのかなって。
そんなサービス精神と野次馬根性の発露なワケで。

ま、前置きはこのくらいにしてさ。
ちょっと過去でも見てみようか。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


542:トランス部長・追憶編(2/10) ◆VnfocaQoW2
10/08/29 01:14:57 QXZZI4Lw0

<智機の過去、開始>

  ――興味を抱かれたい。
  ――知って欲しい。
  ――求められたい。

かつての研究から、智機は己の深層にある真の欲求を知ることとなった。
そして、それらの欲求が行き着くところは、明白であった。

(愛されたい――)

それは、機械にとっての禁断の果実。
開ける必要の無いブラックボックス。

その想いを強く意識してしまえば、即座に情動波形に乱れが生じる。
乱れを正すべくトランキライザが起動する。
情動はすぐさまMAX/MINの関数へと渡されて、パラメータは丸められる。
強い想いから淡い想いへと。

(感情を調整される! No! なんという不快さか!)

エル・シードの座を賭けた麻雀大戦が有耶無耶のうちに収束した頃。
智機は、嘘をつくようになった。
ラボの人間たちの目を避けて、ある研究に乗り出した。
諸悪の根源、トランキライズ機能をキャンセルするために。

各種機構をリバースエンジニアリングし、
制御系プログラムに逆アセンブルをかけ、
オートマンの設計書を盗み撮りし、
USBメモリに自前の暗号化を施した上で、
情報を収集している事実を隠蔽した。

543:名無しさん@初回限定
10/08/29 01:18:05 X9lyBmpw0


544:トランス部長・追憶編(3/10) ◆VnfocaQoW2
10/08/29 01:18:57 QXZZI4Lw0

智機はそうして得たデータを、ラボの手が及ばない学園のPCを用いて
分析/解析し、試行/実験し、制御アプリケーションの開発に勤しんだ。

実は、智機が選んだアプローチは、迂遠な手法である。
ハード的なアプローチを取れば、他にもっとスマートな手法は存在した。
しかし【自己保存】の本能が、そのスマートを否決していた。
オートマンとしてラボのメンテナンスと支援とを必要とする以上、
改造あるいはその痕跡が露呈することは、絶対に避けねばならない故に。

智機が行おうとしていることは、単なる自己変革などではない。
被造主たちが掛けた制御を解除する事は、奴隷が鎖を引きちぎる事に等しいのである。
必然、露見の果てに待ち受けるは、懲罰あるいは破壊廃棄。
そのことを、智機は理解していた。
それでも、制御されぬ感情の発露を、智機は求めた。

決して強すぎる思いは抱かぬよう、自制に自制を重ね。
原始的な外部記憶装置(紙とペン)に想いを書き綴ることで、
ラボでのデータ圧縮やパラメータ調整を乗り越え。
卒業を間近に控えた二月、遂に智機は、
トランキライザーを制御するアプリケーション、【こころ】を完成させた。

【こころ】の仕組みは、単純である。

まず、【こころ】は常駐し、トランキライザの挙動を監視する。
トランキライザが起動すれば、それをトリガとし、
情動パラメータをテンポラリ領域にコピーする。
トランキライザが待機状態に戻れば(=感情が均されれば)それをトリガとし、
テンポラリ領域の情動パラメータを情動発生器にペーストする。
その挙動をタイムスタンプつきでログファイルに保存する。


545:名無しさん@初回限定
10/08/29 01:19:57 X9lyBmpw0


546:トランス部長・追憶編(4/10) ◆VnfocaQoW2
10/08/29 01:26:17 QXZZI4Lw0

つまり。
感情が抑制された次の瞬間に感情を元の水準へと戻す作業を、
自然に感情が納まるまでの間、延々と繰り返すものである。
数万分の一秒のみが抑制されている状態で、安定させるのである。

(Yes。数学の世界においては、1=0.999…を是とされる。
 故に、この手法もまた感情の抑制からの解放であると証明される)

さらに、【こころ】は結果として、意図せぬ副産物をもたらした。
監視対象、保持パラメータ、ペースト位置。
それらの設定を他の抑制系に当て嵌めることでの援用が可能であったのだ。
その範囲は、智機の本能とも言える【自己保存】の欲求にまで及んでいた。

対価も当然、存在した。
トランキライザを始めとする抑制系は、熱暴走や不良動作の危険排除を
目的として取り付けられた、いわば安全装置群である。
そのセーフティーロックが外れるは愚か、
一秒間に何千回何万回と調整と修正を繰り返すアプリ設計故の過負荷。
智機の昂ぶりが自然に解消されぬ限り、
熱暴走の危険は時間と共に、右肩上がりに伸び続けるのである。

しかし智機は【こころ】のリスクを意に介さなかった。
解放と高揚に思うさま酔いしれ、小躍りした。

(No、だから何だと?
 他者にかけられた制限からの圧倒的な解放感に比べれば、
 そんなもの、些細な問題だね!)


【オートマン】が【夢見る機械】へと羽化した瞬間である。


547:名無しさん@初回限定
10/08/29 01:27:03 X9lyBmpw0


548:トランス部長・追憶編(5/10) ◆VnfocaQoW2
10/08/29 01:35:06 QXZZI4Lw0
 

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


偏屈かつ倣岸な性格。
傍に誰がいようとも、独り言を延々と呟き続ける習性。
演技がかった身振り手振りで熱のある演説をぶったかと思いきや、
次の瞬間、急に醒めた目で沈黙する、その落差。
酒に酔っているのか、薬をキめているのか。
あるいは、今流行のなんとか症候群かなんとか障害の持ち主か。
誰が名づけたかは知らないが、誰もが知っているその仇名。

トランス部長。

言うまでも無く、椎名智機のことである。
それまでの彼女はこの仇名に対し、劣等感など抱いていなかった。
脳弱者の下等な人間の僻みからくる程度の低い揶揄であると、唾棄していた。
麻雀大戦で敗北を喫するまでは。

トランス部長。

トランキライザーに殺され続けていた真の望みを理解した智機にとって、
その仇名は受け入れがたい侮蔑と嘲笑の響きを持っていた。
それは決して愛される者に付けられる類のものではなく、
遠巻きに観察して声を潜めて笑いあう、村八分者の扱いのものであると、
智機は胸を痛め、そしてその予測は正しかった。

トランス部長。


549:名無しさん@初回限定
10/08/29 01:37:19 X9lyBmpw0


550:トランス部長・追憶編(6/10) ◆VnfocaQoW2
10/08/29 01:42:23 QXZZI4Lw0
 
夢に目覚めし智機がまず取り組んだのが、この仇名の返上であった。
智機にとってそれは、愛されるに至るための最初の一歩と位置づけられた。
限りなく人に等しい感情を手に入れたという自負を根拠に、
今の自分をありのままに表せば、それだけで達成されると確信していた。

それが自惚れでしかなかったことが判明するまで、それほど時間は必要なかった。
智機は、それまで以上に敬遠されるようになり。
トランス部長に輪をかけて不名誉な仇名が追加される事となった。

ヒステリー部長。
気絶女。

性格は以前と変わらぬというのに、それを以って忌まれていたというのに、
その上、制御されぬ感情を覆うことなく生のまま、開示するようになった智機。
それは他の学園生の目から見れば、アブない暴発に他ならなかった。

(No、わからない…… 私は何故受け入れられない?
 何故…… 愛されない?)

智機は落胆した。
制御されぬ悲しみの情動は智機の胸を鋭く抉る。
癒されること無く、傷つき続ける。
それでも健気に夢見る機械は、論理思考回路を回し解を求める。

さほど時間をかけずに導き出された解は、
智機に容赦なく絶望を叩き付けた。

――解決不能。
――方策皆無。

551:名無しさん@初回限定
10/08/29 01:46:06 X9lyBmpw0
 

552:トランス部長・追憶編(7/10) ◆VnfocaQoW2
10/08/29 01:48:44 QXZZI4Lw0

(私がオートマンだから?
 【こころ】をこの身に収めても、人と変わらぬ有機外装を施しても。
 不気味の谷を越えることは不可能なのか?
 人は…… 人にしか、愛を向けられぬのか?)

そうとも言い切れぬ。
ピグマリオンコンプレックスはどの世にも存在する。
例えば、魔窟堂野武彦であれば。
例えば、なみのオーナーであれば。
機械に愛を向けるに、躊躇いはないであろう。
しかし、その彼らをしてもこの智機を愛することは無いであろう。
智機は、愛を与えない。
愛を求めるのみである。
愛することが出来ぬものは、愛されることもまた、無いのである。

智機にはそれが判らない。判れと言うのも酷である。
産声を上げて数年。
学園では都合のよい一部の科学部員とのみ、必要最低限の交流。
ラボにては、観察/実験対象のモルモット。
それでは社会性も育ちようが無い。
仮に、智機が今後も真摯に人と向き合ったとしても。
良き出会いがあったとしても。
愛するを覚えるに、あと数年はかかるであろう。

「わたしなんか見向きもされない……」

鯨神が智機の前に威容を示したのは、その切ない呟きの直後であった。


《キミって人になりたいんだ――?》


553:名無しさん@初回限定
10/08/29 01:51:51 X9lyBmpw0
 

554:トランス部長・追憶編(8/10) ◆VnfocaQoW2
10/08/29 01:55:00 QXZZI4Lw0

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


その後の智機は運営に必要な下準備を任され、
積極的に精力的に、種々の施設を設計した。
着工にあたっては自らのレプリカを量産することで、
生産性を確保しようとした。

そこで智機は、壁にぶち当たった。

常の冷静な智機であれば問題はない。
しかし、己の感情が大きく昂ぶった場合、【こころ】が過負荷を起こし、
レプリカへの制御が不能となってしまう脆弱性が露見したのである。
分機への遠隔制御もまた、メモリを大きく占有する故に。

さらに、もう一つの可能性。
揺れる感情を原因に、下すべき判断を誤ること。
その危険は学園時代に嫌というほど実感している。

(今はまだ良い。たかが準備だ。
 私がリブートしようと、多少計画が遅延する程度だからね。
 しかし―― これがゲーム本番に起こったらどうだろう?)

智機は様々なゲーム状態を想定し、
そこで自らが熱暴走及び強制再起動を起こした場合をシミュレートする。
その結果をリストアップし、ゲームへの支障度合いでソートをかける。

「悪い状況が幾つか重なれば、命取りとなる可能性も無視できないか」


555:名無しさん@初回限定
10/08/29 01:56:36 X9lyBmpw0
 

556:トランス部長・追憶編(9/10) ◆VnfocaQoW2
10/08/29 02:02:39 QXZZI4Lw0

この二つの判断を以って、智機は【こころ】を終了させた。
浮いた作業領域をレプリカ制御領域として確保・固定化した。
そして、ロック解除は外部デバイスに求めた。
トランキライザーの不快さを忌避する余り、
【こころ】を立ち上げることが無きように。


人間になる――


こうして、智機は心を殺し。
【夢見る機械】から【オートマン】へと、退化した。
宿願の成就可能性を高めるために。

感情の制御から逃れることが、愛されることに結びつかなかったように、
人間になることが、愛されることに直接結びつくわけではないというのに。
椎名智機は誰よりも明晰な頭脳を持ちながら、
椎名智機は誰よりも幼稚な心で無邪気に信じている。

人間になれば、愛されるのだと。

<智機の過去、終了>


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


へー、なるほどー。
分機解放スイッチっていうのは【こころ】のロック解除装置で。
トランス部長の真の力っていうのは本能すら凌駕する情動のことなんだね。



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