バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第7部at EROG
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第7部 - 暇つぶし2ch3:名無しさん@初回限定
08/12/02 23:38:53 4wXegojt0

◆参加者1(○=生存 ×=死亡)

○ 01:ユリーシャ  DARCROWS@アリスソフト
○ 02:ランス  ランス1~4.2、鬼畜王ランス@アリスソフト
× 03:伊頭遺作  遺作@エルフ
× 04:伊頭臭作  臭作@エルフ
× 05:伊頭鬼作  鬼作@エルフ
× 06:タイガージョー  OnlyYou、OnlyYou リ・クルス@アリスソフト  
× 07:堂島薫  果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
○ 08:高町恭也  とらいあんぐるハート3 SweetsongForever@ivory
× 09:グレン  Fifth@RUNE
× 10:貴神雷贈  大悪司@アリスソフト
× 11:エーリヒ・フォン・マンシュタイン  ドイツ軍
○ 12:魔窟堂野武彦  ぷろすちゅーでんとGOOD@アリスソフト  
× 13:海原琢磨呂  野々村病院の人々@エルフ
× 14:アズライト  デアボリカ@アリスソフト  
× 15:高原美奈子  THEガッツ!1~3@オーサリングヘヴン  
○ 16:朽木双葉  グリーン・グリーン@GROOVER
× 17:神条真人  最後に奏でる狂想曲@たっちー
× 18:星川翼  夜が来る!@アリスソフト  
× 19:松倉藍(獣覚醒Ver)  果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
× 20:勝沼紳一  悪夢、絶望@StudioMebius

4:名無しさん@初回限定
08/12/02 23:39:54 4wXegojt0

◆参加者2(○=生存 ×=死亡)

× 21:柏木千鶴  痕@Leaf
× 22:紫堂神楽  神語@EuphonyProduction
○ 23:アイン  ファントム ~Phantom of Inferno~@nitro+
× 24:なみ  ドリル少女 スパイラル・なみ@Evolution
× 25:涼宮遙  君が望む永遠@age
× 26:グレン・コリンズ  EDEN1~3@フォレスター
× 27:常葉愛  ぶるまー2000@LiarSoft
○ 28:しおり  はじめてのおるすばん@ZERO
× 29:さおり  はじめてのおるすばん@ZERO
× 30:木ノ下泰男  Piaキャロットへようこそ@カクテルソフト
× 31:篠原秋穂  五月倶楽部@覇王
× 32:法条まりな EVE ~burst error~@シーズウェア  
× 33:クレア・バートン  殻の中の小鳥・雛鳥の囀@STUDiO B-ROOM
× 34:アリスメンディ  ローデビル!@ブラックライト
× 35:広田寛  家族計画@D.O.  
○ 36:月夜御名紗霧  Rumble~バンカラ夜叉姫~@ペンギンワークス
× 37:猪乃健  Rumble~バンカラ夜叉姫~@ペンギンワークス
○ 38:広場まひる  ねがぽじ@Active
× 39:シャロン  WordsWorth@エルフ
○ 40:仁村知佳  とらいあんぐるハート2@ivory

5:名無しさん@初回限定
08/12/02 23:42:30 4wXegojt0

◆運営側(○=生存 ×=死亡)

○ 主催者:ザドゥ  狂拳伝説クレイジーナックル&2@ZyX
× 刺客1:素敵医師  大悪司@アリスソフト  
○ 刺客2:カモミール・芹沢  行殺!新選組@LiarSoft
○ 刺客3:椎名智機  將姫@シーズウェア
○ 刺客4:ケイブリス  鬼畜王ランス@アリスソフト
○ 監察官:御陵透子  senseoff@otherwise

6:その先に見えるものは(1)
08/12/02 23:44:49 4wXegojt0
(うーむ。ドレス姿のユリーシャに着せてみるのも中々オツだと思うが、
やはりギャップを考えると狭霧ちゃんかまひるちゃんなんだが……。
 サイズ的には狭霧ちゃんしか無理そうだな……狭霧ちゃんとメイドプレイと言うのも中々捨てがたい……。
 うむ、俺様のスーパープレイで運営のやつどもをけちょんけちょんにした後、
プランナーの野郎をスーパー頭脳で上手くはめてバンバンザイすれば、
狭霧ちゃんとまひるちゃんも俺様の良さが少しは解るに違いない)

 『少しは』と言う風にしてる辺りがランスが状況を理解し、控え目になってる辺りであろう。

(そうでなくとも無事成功した暁にはお礼に一発くらいはやらせてもらうのもありかもしれんな)

 この辺は相変わらずランスらしい。

 ニヤニヤとしながら心がを含めた女性陣を見渡すランスの視線に狭霧が気づく。
 その横では、『似合うと思うんじゃがのう、その服も大分汚れておるし着替えるのもいいと思うんじゃが』と魔窟堂が未練たらしく呟いている。

 ピキン、と何かが割れる音がまひるにはその瞬間、確かに聞こえた。

(……殺りますか)

「ふふふふ」

 と狭霧はにこやかな微笑みを浮かべると背中から再びバッドをするすると取り出す。

「ちょ! 狭霧さん落ち着いて!」
「……さささ、狭霧殿?」

7:その先に見えるものは(2)
08/12/02 23:46:03 4wXegojt0
 ニコニコとしながらジジイではなく名前で呼ぶ狭霧の顔が魔窟堂や横にいるまひるたちには少々怖く感じれた。
 なにしろ、先ほどランスのハイパー兵器を破壊?した獲物を握ってるのである。

「そそそそ、そうじゃ! 話したいことがあったんじゃが……」

 魔窟堂の言葉で心の中でピクリとだけ動いた狭霧が魔窟堂の顔を覗く。

(さて、ジジイ? もしかして先ほどのことですかね? それとも探りを入れてくるのか……)

 即座に思考を切り替える辺りは狭霧であろう。
 ジジイこと魔窟堂が不信感を抱いたのは先ほどのやり取りで感づいていた。
 このタイミングで話し掛けてくるということは、その気づいた不信感を直接か、
遠まわしか、どちらにせよぶつけてくるのか。
 それとも確信を持つために探りを入れてくるのか。
 騙しあいが始まりますかね? と狭霧は心の中で呟く。

「……なんでしょう?」

 まずは切り出してみないことには始まらない。
 魔窟堂の声にとてもバットを握り締めてるとは思えないほど爽やかに返事する狭霧。
 下らないことだったらどうなるか解ってますよね? と無言の笑顔。
 その様子が余計にまひる達の顔を青く引きつらせる。

8:その先に見えるものは(3)
08/12/02 23:47:04 4wXegojt0
「う、うむ。……有体に言えばこれからのことにあたってなんじゃが」
「……と言いますと?」

 どうやら今のところ先ほどのこととは無関係であるようだ。
 一応下らないことでもなさそうである。
 尤もこの先に何があるか、狭霧は油断できないが。

「此方側の戦力・状況分析はほぼ終わったと言ってよいじゃろう。
で、これからの指針になるわけじゃが……、その前に運営者達のことについてじゃ」
「なるほど。脱出が成功するにしろ彼らとの衝突は避けれない。
これからの行動を決める前に、その為にも私達と同じように彼らの戦力と状況を分析すると言うことですね?」
「流石狭霧殿じゃ。解りが早くて助かる」

 純粋にそれだけの理由で魔窟堂は話している。
 それは例えかすかな不信感があったとしても、やはり知能という面においては最も狭霧が頼りになるからであろう。
 ふむ。と内面で思考した狭霧は、警戒を解く。
 必要以上に張れば、何処かで警戒を相手にも気づかせてしまう。
 それは必要以上に不信感を煽ってしまう、と判断した。
 魔窟堂の方も必要以上に勘繰れば彼女に警戒と不信感を抱かせてしまうのがわかっている。
 今まで通り普通に接するべき部分ではそうしていくべきだろう、と判断し、これからのことも兼ね揃え、話題を切り出した。

「では、順番に行きましょうか。
まずはあのザドゥという男ですね」

9:その先に見えるものは(4)
08/12/02 23:51:59 4wXegojt0
 ようやく妄想の世界から帰ってきたランスと心配するユリーシャもようやく彼らの会話が耳に届く余裕を取り戻す。

「あぁ、あの野郎か……」

 低い声を出しながらランスはザドゥのことを思い出す。
 同じく、全ての始まりであったあの時を各々は思い出していた。

「最初の彼の立ち位置から大体想像できますが……タイプ的にも駒というよりは彼の役割はリーダーでしょうね。
恐らく頂点にどっしりと構え座り、まとめ役に立つものだと思いますが……」
「ワシもそう思う。そのためにも圧倒的強さを持つ彼なのじゃろうな……じゃが……」
「ええ、倒せないわけではありません」

 あくまで倒せない『わけではない』ですけどね、と付け加わる。

 タイガージョーとの打ち合い。
 凄まじい攻防の果てにザドゥはタイガージョーを打ち倒し、その自らの強さを示した。
 その強さは参加者を畏怖させる。
 が、今この時をもってして、それは手の内を晒したという事実に他ならなかった。

「格闘家に間違いないでしょうね。それも生粋の」
「格闘家なのは解るが、あいつの打撃一つで虎野郎の動きが止まったぞ?」

 狭霧に対して少々ぼやきながらもランスはあの時見えた光景の疑問を吐き出す。
 彼の世界にも格闘家は存在している。
 例えば、かつて世界最強と謳われたフレッチャー・モーデル……本人はもはやただのデブだったが、
その弟子は真空破のような物を出したし、ランスの良く知るヘルマンの皇子パットン・ミスナルジは、
格闘レベル2であり、武闘乱武という奥義を使える。
 ……周囲の認識は自爆技では有るが。

10:その先に見えるものは(5)
08/12/02 23:56:09 4wXegojt0
「俺様のランスアタックのように気を使ってるのは解ったんだが……あれはちと厄介だぞ?」

 タイガージョーが放った奥義といい、ザドゥが使った死光掌といい、どちらも気を利用している。
 同じく気を利用した必殺技を放てるランスは、全てを捉えきることは不可能だったが、彼らの気の動きを原理は解らぬが垣間見ることができた。
 
「ふむ、気か……。それなら恐らく。
気を相手の身体に打ち込んで相手の体の動きを止めたり、支配権を封じて自由に動かすとかかのう……。
YOU は SHOCK~ 愛で空が落ちてくる~。というやつじゃな」

 世紀末覇者達が繰り広げる漫画のテーマソングを歌いながら魔窟堂がそこから読み取った推測を重ねる。
 あの時は何をしたのかどんな技か解らなかったが、気を使ってるという事実さえ解れば、無駄なオタク知識が導いてくれる。

「……触れられたらアウトってことですかね?」

 歌う魔窟堂に呆れつつ狭霧が推測を尋ねる。
 もし、それが事実であるなら、真正面からの戦いではほぼ無敵と言っていいだろう。

「それはないんじゃねーかな。俺様のランスアタックもそうだが、気を整えるための時間が必要だし、この手の技は練った時間と込めた力に応じたモンになるからな。
あの時、あの野郎も気を練ってやがったのは感じ取れた。
速射性はなし、触れられたらアウトってこたないと思うぜ」
「うむ。わしもそう思う。全力全開で撃ったものがどのくらいの威力でどういう効果を出すかまでは解らぬが、
漫画のように指先一つで秘孔を押せばダウンということはなかろうて」
「なにその漫画?」
「なに世紀末覇者達の集う熱い漫画じゃよ。無事戻れたらまひる殿も読むといい。なんならワシが貸して……」
「はいはい、それはいいですから。続けましょう」
「ちょっとくらい語らせてくれてもいいじゃろう。オタクの本分は語ることに……」

11:その先に見えるものは(6)
08/12/02 23:58:22 4wXegojt0
 さみしいのう。とさめざめという魔窟堂を横に狭霧は情報を皆の前で整理する。

 ザドゥ。
 格闘家であり、その実力は計り知れない。
 彼の役割は、ゲーム運営実行者達のリーダー。
 運営実行者達を纏めている象徴が彼なのだろう。
 が、真正面からでもこのメンバーで勝つ事は可能と判断できる。
 スピードにおいては魔窟堂の方が圧倒的であるし、ランスや恭也の戦闘力、まひるのトリック的な能力、
そして今はいないが知佳、更にもしアインが加われば、益々負ける要素はない。
 また人間である以上、粉塵爆弾のようなトラップを防ぎきる事は不可能だろう。
 しかし、ザドゥの格闘家としての戦闘力もまた達人を超えたものであり、その一撃もさることながら、
相手の動きを止める奥義も所有していると判断できる。
 攻撃力は非常に高く、一撃一撃が下手をすれば致命傷に繋がる可能性もある。
 真正面からぶつかれば、何人かは命を落とす可能性が高い……いや落とす方が確実だろう。
 あくまで真正面から闘った場合であり、奇襲をされた場合の対処は難しいといえる。
 倒すのは難しい。
 しかし、方法がないわけではない。倒す方法を取れないわけでもない。
 みなの指揮を高めるためにも『希望は見える』と強調する。

「奇襲してくるようなやつにはみえなかったけどな」
「あの手のタイプは正々堂々真正面から制裁を加えに来るタイプじゃな」

 と最後にランスと魔窟堂の意見が付け加わった。





12:その先に見えるものは(7)
08/12/03 00:00:00 8R9eX8260
「では次に行きましょうか」
「関わった順番からいけばあの嬢ちゃんかのう……」
「それって……」
「どれだ?」

 察したまひるに対して、嬢ちゃんと言われて、最初にいた三人のうちどちらであろうかと尋ねるランス。

「御陵透子……警告者の方じゃな」
「おー、あのねーちゃんか」

 んむ、あのねーちゃんも中々えがった。とランスはニヤケタ顔で思い出す。
 警告を喰らったことより彼の中ではいい女という印象の方が強い。

「「…………」」

 その様子をジト目で見る狭霧とまひる。
 狭霧は重要な情報なのにと呆れつつ、まひるはこの人は相変わらずだなぁと苦笑しながら。

「まず共通している事は、神出鬼没。恐らく何らかの移動能力を持ってるのじゃろう。
次にどうやら初期の頃からゲームに消極的なもの、反抗的なものや行為を取るものに警告を加えていたようじゃな」
「……何というか得体の知れない不気味な感じでしたね」
「でも攻撃的じゃなかったよね……」
「総合するとその移動能力を持って警告と監視をするのが彼女の役割じゃろうな」

13:その先に見えるものは(8)
08/12/03 00:03:24 4wXegojt0
 事実、病院では透子の警告の後に狭霧達は襲われている。
 ランスは、その後にケイブリスの襲撃を受けている。
 透子の役目は警告者に徹するものだろう。と彼らは判断する。

「戦力としては不明じゃな……あの神出鬼没な移動能力は厄介じゃが」

 故に不気味である。
 ザドゥやケイブリスのように見るものを畏怖させるような『強い』という感じはないが、
先ほど、狭霧が言ったように何かを隠してるような不気味さがある。

「実際に戦闘になってみないと解らんが、知佳殿やまひる殿のように特殊能力的な何かを使うタイプかのう……」
「直接戦うタイプではなさそうですからね……。ま、現状ではこのくらいでしょう」
「では次じゃな……」
「包帯ぐるぐる男ですか?」
「んむ……嫌な声をしとった」

 あまり思い出したくない、語りたくないといった風に魔窟堂が口篭もりつつ語る。
 狭霧の方も遺作に捕まった時に少々の事は聞いていたし、因縁のある物が多い相手である。

「トリックスター……と言ったところかの」

14:その先に見えるものは(9)
08/12/03 00:04:35 4wXegojt0
 素敵医師の行なったことは、ゲームを加速させること。
 薬と話術を用いて、遺作のようなゲームに乗っているものにはサポートを。
 遥やアインのような消極的なものには薬を用いて混乱を。
 彼らの知らぬ所では藍にグレン達にと様々な手を用いて接触し、混乱させている。
 最もどれも破滅していく様を見るのが素敵医師は好きだったのだが。
 先に出た透子のような警告者とは違い、直接手を下す実行者的な役割だろう。
 
「私は一番警戒するタイプだと思いますけどね」

 狭霧は考えた結果を口出す。
 遺作のことからも愉快犯的な一面があるのが読み取れる。
 また策を講じてあれやこれやと此方を引っ掻き回すようなこともしてくるのが遥の件から読み取れる。
 ザドゥと違って奇襲も遠慮なくしてくるだろう。
 罠も仕掛けてくるだろう。
 この状態なら、もしかしたら交渉も持ちかけてくるかもしれない。
 この島において最も注意せねばならぬ人物であると彼女は踏む。

「実行犯であることとアイン殿が追いかけてることからも戦闘力も備えてると見た方が良さそうじゃな」
「本質的には裏をかくタイプでしょうけどね」

15:その先に見えるものは(10)
08/12/03 00:06:48 8R9eX8260
「そういえばおっぱい娘は俺様達しか出会ってないのか?」

 カモミール・芹沢、といってもランス達の前で名乗ったわけではないのでおっぱい娘である。
 ちなみに彼女の襲撃でグレンが死に、解除装置を受け取った、ということにランスはしていた。
 ばれたらまずいと思い、この輪の中にいる内に浅はかな行動に反省はしつつも、反面「嘘はついてない」とランスは思っている。
 確かに彼女の襲撃でグレンが死んだのは事実である。
 トドメを刺したのがランスであっただけで。

「改めて聞くがどんな感じでしたか?」
「あのおっぱいは兵器だな。うむ、一戦お手合わせしたかったぞ、ガハハハハハ」
「ランス様、そういうことではなくて……」
「ん、ああ。チューリップみたいな大砲を使ってたな。あれは少々厄介だな。
帯剣もしてたが恭也のやつの方が強いと俺様は思うぞ……だが」
「だが……どうしました?」
「グレンのやつに左腕をすっぽり切られた」
「「「「え?」」」

 一同の声が重なる。
 もしかしたらグレンの最後の力で倒されたのだろうか?
 と少しだけ期待しつつ。

「斬られた手に握ってた刀だけもって逃走しやがった。
左腕も置きっぱなしだったし、出血も凄かったし、あの様子じゃ長くないと思うぞ」

16:その先に見えるものは(11)
08/12/03 00:11:25 8R9eX8260
 実際には斬られた左腕は、斬られた所が素敵医師の薬の副作用で硬質化、更に少しずつ異形化している。

「グレン殿……」

 その光景を目に浮かべ魔窟堂がぐっと目を堪える。 


「まぁ、処置を施されれば生きてる可能性はありますね。
ですが、戦力としては使えたとしても大幅にダウンしてるでしょう」
「ふむ。では要注意人物ではないじゃろうな」
「……向こうに反則的な回復手段がないことが前提ですけどね」

 しかし、戦闘手段は大砲で砲撃し、接近戦は剣士として戦うというスタイルだろうことがわかる。
 その実力も厄介であるには違いないが、ザドゥ程のような強大なものでもないのがランスの言からも取れる。
 素敵医師と違って純粋な歩兵が彼女の役目であると狭霧たちは判断した。


「では、あの巨大な化け物についてじゃが……」
「ケイブリスの野郎か……。強いぞ」
「ワシも姿を見たが、あれを相手にするのは骨が折れそうじゃな」

17:その先に見えるものは(12)
08/12/03 00:14:12 8R9eX8260
 ケイブリス。
 純粋な破壊力ならザドゥ以上であろう。
 何より、あの体格が脅威である。
 人の身のザドゥと違い、致命傷を与えるのが難しければ、接近戦なら六本の腕と八本の触手の猛攻を掻い潜って攻撃を与えねばならない。
 更にランスから聞き及んだ限り、ザドゥと違って奇襲もしてくる可能性が高い。
 勿論、巨体である故に目立ちやすい上に大きさから来る立ち回りの不利があるのは間違いない。
 が、それを有り余って補う圧倒的な暴力。
 奇襲するにしても人間であるザドゥと違って耐久力も防御力も与えなければいけない範囲も桁違いである。
 ザドゥの時で述べたような粉塵爆弾等では目くらまし程度の効果しかない可能性もある。
 もし戦うことになったら単体では最も一同が警戒せねばならぬ相手。

「できるなら真正面からは戦いたくない相手じゃのう」
「流石の俺様も武器なしじゃ真正面はきついぞ」
「その辺は最悪、恭也さんと魔窟堂さんに前線を期待するしかないですね……。まひるさんでは機動力という面で向いてないでしょうから」
「ご、ごめんなさい」
「後方支援として期待してますよ?」
「が、頑張ります」

 果たしてそんな化け物相手に自分が役に立てるのだろうか。
 いや、やらなければいけないのだ。とまひるは自分に言い聞かせる。

18:その先に見えるものは(13)
08/12/03 00:15:24 8R9eX8260
「良きかな良きかな」

 と魔窟堂はそのやり取りを見て「努力、友情、勝利はいいのう」と頷いていた。

「ジジイは、その加速装置で相手の撹乱ということで……」

 と狭霧は突っ込むようにぼそりと言った。


(ザドゥとケイブリスに対しての理想は奇襲から短時間で仕留める。もしくはトラップにはめる。ですかね……)

 かつて。
 狭霧があちこちに仕掛け、参加者がかかってくれれば良しであった時と違い、
今度は特定の相手のために罠を仕掛けなければいけない。
 今どこにいるか解らない上に次に出会うと限らないケイブリスとザドゥを対象にしたトラップを
連れ込むための場所を用意して仕掛けるというのは現実的に無駄が多い。
 彼ら以外が引っかかってもそれはそれで有効なこともあるだろうが、
苦労して仕掛けた切り札をなくしてしまうのは惜しいし、参加者がかかる可能性もある。
 ならば、二人以外にも有効なトラップでもいいし即席的なトラップでもいいが、
そうなると煙幕等の小細工的な手段になるだろうか。
 奇襲するなら、トラップなら、役立つアイテムを作って用意するとしたらどんな方法がいいか、と狭霧はあれやこれやと考え始める。

19:その先に見えるものは(14)
08/12/03 00:17:45 8R9eX8260
「各々の対処は、後々臨機応変にしていくとしてじゃ。あと一人じゃな……」

 思考しはじめた狭霧を見て、「狭霧殿らしいのう」と言いながら魔窟堂が最後の一人について切り出す。

「正確には何機いるのかわかりませんがね」
「……病院で私達を襲ってきたあの……人?」
「改めて聞く限りでは完全なアンドロイド……で間違いないかの?」
「えぇ、恐らく司令塔である本体は本拠地にいて、そこから遠隔操作で分体を操作しているんだと思いますけどね」
「……まだ駒はあると思うか?」
「断言はできませんが……もし今後のことを考えるのなら、少なくても繰り出してきた数と同数以上、6体前後は最低でも残してる可能性がありますね」

 放送の声が彼女であったことからも本体が残ってるのも解る。
 
「特徴は……」

 警告者である透子、早々に舞台へ登場した素敵医師とカモミール芹沢。
 それに対して智機が出てきたのは首輪解除後である。

「運営側の最終防衛ラインを担ってる者と言ったところですか」
「あとは、機械歩兵として可能な技術は詰め込めると見てよいじゃろう……」

 一度に同時並行で操れる数は解らないが、各々の機体を別々の指示で繰り出す事が出きるだろう。
 戦闘方法といった細かい部分はあらかじめ組み込まれたプログラムによってオート化されているが、
アレを使え、ココは引け、等と言った指示は有効と判断できる。

20:その先に見えるものは(15)
08/12/03 00:19:10 8R9eX8260



「6か……」

 全てを上げ終えたところで魔窟堂がその数を呟く。

「……まだいたりするのかな?」

 最初に出会った五人とは別に現われたケイブリス。
 そのこともあるともしかしたら、まだ出ていないだけで他にもいるのかもしれない。
 他の皆も一度は思った疑問をまひるはこの場にぶつけてみた。

「難しい話じゃな……。じゃが、戦闘員はほぼいないと断言しても良かろう」
「同感ですね」
「え、え、どうして?」

 魔窟堂の返答に対して当然といったように返事をする狭霧。
 それを見てまひるがクエスチョンマークを浮かべる。

「単純なこった。今俺様達がゆったりしてられる。それが事実だろ?」

 挟むようにしてランスが横から答えた。

「まぁ、ランス殿の言う通りじゃな」
「まひるさん、今首輪をつけている参加者は後何人いると思います?」

21:その先に見えるものは(16)
08/12/03 00:22:58 8R9eX8260
 疑問に対して狭霧は疑問で答えた。

「え、えーっと……ここに6人いて、あとアインさんでしょ……。
あっ!」

 数え出してまひるはピンと来た。

「そうじゃ、恐らく2人か、3人もいればいい方じゃろう」
「つまり、あちらも全力で此方を潰しにこなくてはいけない……はずなんですよ」
「その状況下で俺達は襲われてない……それが事実だ」

 一呼吸つくと魔窟堂が状況整理とばかりに語りだす。

「まず純粋にザドゥと名乗る男はトップじゃ。
トップが軽軽しく動いてはならぬのが組織の定めであり、そのために各々の役割を持った執行者がおる。
この男が前線に出てくるのは、まず余程のことがない限りありえないじゃろう」

「もしかしたらワシラが知らないだけで、今までも、今もどこかに出動してる可能性もあるかもしれんがの」
とだけ魔窟堂は付け加え、
「ありえねさそうだけどなー」とランスが応答する。

「では消去法で行きましょう。次はけったくそわるいと評判の包帯男ですが……」
「アインさんが追いかけてる人……だよね?」
「そうじゃ。今まで此方に来る素振りもないということは、おそらくアイン殿が追跡してるおかげじゃな」

22:その先に見えるものは(17)
08/12/03 00:26:17 8R9eX8260
 素敵医師がまだ単独で動いてるのかは解らないが、此方に来るには、アインの手を振り切る必要がある。
 しかし、その名を知られたファントム。
 出し抜くには困難をきっするのは間違いないであろう。
 もし他の駒をぶつけたとしたらそれも可能だろうが、それなら今だ此方に来ていないのが気にかかる。

「他にも怪我をしたか、アイン殿の手によって既に亡くなっているか、残る少ない参加者の方に加担しにいったかは解らぬが、
ここまで放置されている以上は、現在手が空いていないと見てよいじゃろう」

 ふむふむ、と納得し、まひるはうなづく。

「手が空いてないと言えば、残りの三名も大なり小なり同じでしょうからね」
「まず陣羽織のお嬢ちゃんじゃが、ランス殿からの情報によれば、そうそう前線復帰はできんじゃろう。
勿論、あれから大分時間も経っとるので既に治療されている可能性もなきにしにあらず、じゃから今後はわからんがな……」

 片腕となったカモミール芹沢。

「……ケイブリスの野郎もダメージは負ったはずだからな」

 中の両腕と鎧の背を破壊されたケイブリス。

「此方も全滅させましたからね……」

 病院で破壊した6機。

 今までの彼らの行動は無駄ではない。
 勿論、カモミール芹沢やケイブリスのように戦力を戻しつつあるものもいるが、
少しずつではあるが彼らは着実に運営陣たちにダメージを与えていた。

23:その先に見えるものは(18)
08/12/03 00:28:03 8R9eX8260
「つまり、もし他にも人員がいたり余裕があるのだとしたら、それを此方に必ず割いてくるはずじゃ。
故に余裕がない可能性の方が高いじゃろう」
「ただ非戦闘員……。まぁ例えば彼らの食事を用意する係りとか掃除係とか……半分冗談ですが、雑用のための人員はいるかもしれません」
「これらから恐らく向こうは今戦力を割く余裕がない、と見ることができる。
そして次に来る時は必勝を来してくるじゃろう」
「前も言いましたが、そのために準備を整えてる……未だ整っておらずと言ったところですかね」

 ふぅ、と一息つくと「しかし」と狭霧は言葉を再開する。

「ただ一つ気になるとしたら……」
「うむ。戦力はある……しかし、あちらさんの方か、それともここにいない参加者達の方で何かあったか……」
「こっちにかかれないようなことが起きたか、ってことか」

 あちら側が、現在此方に手を割くことができないような重大な何かが起きたとした場合である。
 戦力も余裕も十分にあった。
 しかし、そのせいで此方に来る事が未だできないということである。

「見つかっていないと言う可能性はどうでしょう?」

 もう一つは彼らの居場所を未だ把握していないということである。

24:その先に見えるものは(19)
08/12/03 00:29:45 8R9eX8260
「ふむ。その場合も同じじゃな」
「未だ見つけれてないと言うのは少々難しいですね」
「この透子と言う警告者役のお嬢ちゃんは移動能力を持っており、
狭霧殿たちとの病院でのやり取りから察するに首輪だけに反応して此方に来ているわけではなさそうじゃ。
もしかしたら外した人間はとっくに移動したのかもしれんのに来ると思うかの?」
「何らかの条件下で相手を探知する能力を持ってるのかもしれませんね」
「そして総合した情報からくるに移動能力の手段はともかく、ワシと同じかもしくはそれ以上の機動性を備えてると判断することができる」
「もし彼女が本気で此方を探しに来てるなら既に再び来てる可能性が高いです」
「しかし、現在来ておらん。居そうな拠点だけを潰してくだけでもわしらを見つけれるからの。
つまり、このことから二つの推論が導かれる。
一つは、彼女自身の手が空いておらん可能性。
二つ目は、居場所は把握されておるが彼女もそれ以外者達も手が空いておらん可能性。
じゃな」
「先程も言ったように探す手間、または来る手間がないだけで学校などにいる可能性はあります」

「まぁ話を戻しましょう。それの懸念材料が今回の放送ですね」
「死者がいなかったことですか?」

 此方にとっては喜ばしいことでしたけど、とユリーシャは言った。

「いや、時間の方じゃな」

 が、即座に否定の発言が出る。

25:その先に見えるものは(20)
08/12/03 00:32:42 8R9eX8260
「ええ、今までぴったりと時間通りに行なわれていたはずの放送が今回に限って6分ですが遅れた」
「たかが数分と思うかもしれんが、少なくともその時何かがあったのは間違いない」
「果たしてそれが何であるのかは解りません……。しかし今現在私達が全く放置されたまま。
先ほどまで出払っていた魔窟堂さんの方にも何も有りませんでした」
「それらと放送遅れが因果関係が全くないとは思えぬ」
「例えば、あの機械兵の軍団ですが……。
もし私達を殲滅できるほど、または兵糧攻めできるほどにストックがあるのだとしたら、既に投入しているはずです。
けど、実際には何も起きていない」
「繰り返しになるが、ストックはあるが手が空いていないかストックに余裕がないか、だな」

 事実、智機のストックはもう無駄にできない地点まで追い込まれている。
 まずアズライト・鬼作・しおりの一件で80体以上を失い、次に病院での戦闘で戦闘特化させたはずの6体を失った。
 その時点ではまだ余裕があり、狭霧の懸念したように今度は本気での追撃を行なおうとしたが、
19体を破壊され、とうとう追い込まれた。
 挙句の果てには透子の手により二機破壊されている。
 本拠地の防衛、管制室の防衛を割くのは最終手段であり、それを除けば智機が総力を尽くせるのは後一回が限度とまで来ていた。
 尤も、現在彼女の分機はそれどころではないのだが……。

「わしらが放置されたまま、その上での放送の遅れ。
全く関連性がないとも思えぬ……」
「これ以上は完全に読めない推測になるので何ともいえませんけどね」

 と狭霧が一旦締めくくる。

26:その先に見えるものは(21)
08/12/03 00:35:17 8R9eX8260
 


 小屋の外で見張りに立つ恭也の額に汗が走る。
 少し前から東の方でオレンジ色の光が浮かび上がっていた。
 恭也が気づいたのは少し前。
 何事かと思いつつ其方からも目を離さなかった恭也であったが、直ぐにそれが何であるかに気づく。

 焦げた臭い。
 上空に立ち上る巨大な煙の雲。
 火の粉が飛び散る様がここからでも良く解る。
 森が燃えている……それも大規模な火災。

 燃えているのは、彼らがいる西の森ではなく東にあった群生の森である。
 しかし、ここからでも鼻を燻る臭いが感じ取れる。
 病院や学校、東の森の近くの建築物はまず壊滅的だろう。
 あの勢いがこのまま続けば、風に流れ、こちらの群生の森まで飛び火する可能性がある。

(これはまずい)

 直ぐさま、小屋のみんなに知らせて相談をした方がいいだろう。
 しかし、全員外に一斉に出すわけにはいかない。
 まずはリーダー格として主導を握る魔窟堂と狭霧の二人に見て貰うか。
 そう判断した恭也は扉を背にし、「魔窟堂さん、狭霧さん」と声をかけながらトントンとノックをして開けた。

27:その先に見えるものは(22)
08/12/03 00:37:08 8R9eX8260


「あ、恭也さん。どうしたんですか?」

 あいつらも飯食うなら食中毒でも起こしたんじゃないか、とランスが言ったり。
 そんなことありますか、と狭霧が否定しつつ。
 まぁないとも言えんがのう、と魔窟堂が頭を捻らせ。
 機械がどうして食中毒を起こしますかこのジジイ、と狭霧が魔窟堂の頭を叩き。
 あれではないか、これでもないか、と現在ある情報を元に推測を重ねている所に開かれた扉と呼び声にまひるが答える。

「魔窟堂さんと狭霧さん、少し来てもらえませんか?」

 此方に身体を半分向け、中にいる二人に向かって恭也は催促する。

「む? 何事じゃ?」
「……何かありましたか?」
「むっ?」
「?」

 空気が打って変わって変わった。
 恭也の声にただならぬ事態が起きたのではと中にいる各々は思う。

 敵か? いや敵ならこんな余裕はないはずである。
 では、一体なんであろうか。

 緊張が走る中、次に恭也の口から出た事実は想像以上の衝撃をもたらす。

28:その先に見えるものは(23)
08/12/03 00:41:44 8R9eX8260

「……向こうの森が燃えているんです。
多分、こっちまで火が移ってきそうな勢いで」

「「「「「え」」」」」

 驚きの声を上げる五人をよそに恭也が続ける。

「詳しい状況は見てもらった方が解りやすいので……」
「ぬぅ……。すまんが一度に全員出ると万が一の可能性もある。
ランス殿、ユリーシャ殿とまひる殿を頼めるかの?」
「む、がはははは。そういうことなら任せておけ」

「おいどういうことだ」と言っていたランスだが、女性二人?を任せられると機嫌よく引き受ける。

「では、まひるさん、ランスさん、ユリーシャさん、少し見てきますね」

 そうして恭也に連れられ、魔窟堂と狭霧の二人は小屋の外に出ていく。

 そして

「こ、これは……!?」
「本当に森が燃えている……」

 ボウボウとした音がまるで耳に聞こえてくるかのような赤い世界。
 瞳をオレンジ色が覆い、夕焼けのような空が広がる。

29:その先に見えるものは(24)
08/12/03 00:45:31 8R9eX8260
 ボウボウとした音がまるで耳に聞こえてくるかのような赤い世界。
 瞳をオレンジ色が覆い、夕焼けのような空が広がる。

「恭也度のこれは何時頃から?」
「最初に光が上がったのに気づいたのは放送の少し前です。
何だろうと思ったんですが、直ぐに消えるかとも思ったら、それどころか……」
「もしや……」
「えぇ、可能性は0ではありませんね」
「うむ。時間的にも一致する。
恐らく火災だけではあるまい、あそこでわしが見過ごした何かが起きているかもしれん」
「……どういうことです?」

 狭霧と魔窟堂の相槌を見た恭也が何の話かと尋ねる。

「うむ、実はの……」

 ひとまず整理した運営組の詳細はおいておき、二人は先程まで小屋の中で運営組に関しての情報整理をしていたことを簡潔に述べると
首輪をつけた参加者が数少ない状況で未だ自分達が放置されてる理由、どうして放送が遅れたかの疑問、などを答えていく。

「なるほど……」
「どう思う狭霧殿? 安全を取って移動をするにこしたことはないが……」
「……もしこれが結びつくのなら、打って出るチャンスでしょうね。
しかし……」

30:その先に見えるものは(25)
08/12/03 00:48:49 8R9eX8260
 安全の為にも移動はした方が良いだろう。
 炎をやり過ごすなら西の海方面である。
 打って出るのならば始まりの地であった学校であろうか。
 しかし、この炎の勢いでは学校は、今いる森より早く火が飛び移り燃えるだろう。
 どうするべきか、と恭也を交え二人は考え込む。


 一方、小屋の中に残された三人。

「赤い光……大丈夫でしょうか?」
「がはははは、大丈夫だ。いざとなったら海にでも飛び込めばいい」
「あたしは寒いのは嫌だなぁ……」

 良く見れば、小屋の窓からもオレンジ色の光が少々垣間見ることができる。
 窓越しに見える光を見ておののくまひるとユリーシャだが、外で実物を見たらもっと驚くだろう。

「――ッ!?」
「「ランスさん・様?」」

 二人を元気付けるかのごとく笑っていたランスの雰囲気が変わる。

「ど、どうしたの、ランスさん?」
「三人の気配がここからでも解るくらいになった」

31:その先に見えるものは(26)
08/12/03 00:51:49 8R9eX8260

 急に本気の顔になったランスを見たまひるは意外性もあり、何事かと驚く。

「誰か……よろしくねぇやつが来た」

 小屋越しにぴりぴりとした空気をランスは感じ取る。
 外にいる三人のものだ。
 きっかけは急に恭也の気が緊張して膨れ上がったことだった。
 変哲もなかった空気が小屋の中にいても解るほど。
 恐らく恭也の方も、気を高めることによってランスに気づかせる意味合いも含んでいるのだろう。

「ユリーシャ、まひるちゃん、気を入れておけよ……」

 ケイブリスなら一発で解る。
 ザドゥでも同じだ。
 あの強烈な気は臨戦体制に入っているのなら気づかぬはずがない。
 表の三人の気配が変わった以上、何物かが気づかれるように来た線が濃厚である。
 しかし、凝らすようにして気配を探ってもザドゥやケイブリスのような空気を感じ取れない。

(何が来やがった? 参加者か? それとも運営の野郎どもか?)





32:その先に見えるものは(27)
08/12/03 00:54:14 8R9eX8260
「あぁ、ようやく見つかった」

 一人分の足音が三人の耳に聞こえる。
 ザッザッザッとした重い足音。
 ゆっくりと少しずつ小屋へと近づいてくる。

「恭也さん、魔窟堂さん……」

 狭霧の声に応じかのごとく、三人の体を支える足に力が入る。

「動員中による不幸中の幸いといったところか」

 オレンジ色の空を背景にして現われるシルエット。
 狭霧と恭也には見覚えのある形。

「そう身構えないでくれ。今回は君達と戦うつもりは一切ない」

 忘れるはずもない。
 細部こそ違うが自分達の命を狙いに来た刺客と良く似た形。

「勿論、ゲームに参加しろと警告を発しに来たわけでもない」


33:その先に見えるものは(28)
08/12/03 00:55:12 8R9eX8260

 露わになる頭部を見て二人は確信し、二人に向いた魔窟堂の目に頷く。

「純粋に頼みたいことがあって交渉をしにきたのだよ」

 魔窟堂の体に力が入る、いざとなれば即座に加速装置を発動できるように。
 恭也の身体がゆっくりと構えを取る、いざとなれば奥義を発動できるように。

「――話くらいは聞いてもらえないか?」

 両手を上に挙げ、非戦の意思を示した智機が彼らの前に現われた。



34:その先に見えるものは(情報1)
08/12/03 01:03:16 8R9eX8260
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【備考:全員、首輪解除済み】


【現在位置:西の小屋内】

【ユリ―シャ(元№01)】
【所持品:生活用品、香辛料、使い捨てカメラ】

【広場まひる(元№38)】
【所持品:せんべい袋、メイド服1着、服二着、干し肉、斧、救急セット、竹篭、スコップ(大)
      携帯用バズーカ(残1)】

【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
      男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す、】
【所持品:なし 】
【能力:武器がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2~3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】

35:その先に見えるものは(情報2)
08/12/03 01:03:56 8R9eX8260
【現在位置:西の小屋外】

【高町恭也(元№08)】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食、
     釘セット(new)】

【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残7×2+2)、
     白チョーク数本、スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、
     ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング、
     スピーカーの部品、智機の残骸の一部、集音マイクセット、工具】

【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
      状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:スペツナズナイフ、金属バット、レーザーガン、ボウガン、
     スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
     文房具とノート、白チョーク1箱、謎のペン×8、
     薬品数種類、医療器具(メス・ピンセット)、対人レーダー、解除装置】

【レプリカ智機(P-3)】
【スタンス:ザドゥにぶつけるための交渉】
【所持品:?】

36:そらをみあげて想うこと (1/6)
08/12/04 22:24:33 0s39K12o0
>>#6 542
(二日目 PM6:21 D-6 西の森・小屋3付近)

高町恭也は小休止を取っていた。
慣れぬ角度への飛針投擲と視線移動を続けたことで肩と首筋に張りを感じたからだ。
常日頃よりマニアと揶揄されるほどの修行三昧の日々を送っていたこの少年は、
休むべき時に休むことの利を経験上熟知していた。

りん……
秋の虫の声が、恭也の耳朶をくすぐった。
彼はその澄んだ音色に、澄んだ瞳と澄んだ声の少女の面影を連想する。

「仁村さん――」

かつて守ると誓ったどこか危うさのある少女。
思い出す恭也の胸に奔るは疼痛。

恭也個人の心情としては、今すぐここを飛び出して彼女を探したいと思っている。
しかし、滅私済民の精神を礎に数百年間磨き上げられてきた『御神』という歴史が、
師範代である彼の私心を押さえつける重石となっていた。
打倒主催者という大局観。
恭也は――否、恭也に根付いている御神真刀流の精神は、それを至是とした。

要人を守ることで社会を守る。
御神真刀流の存在意義。
恭也は御神として己に問うた。

(悲願・主催者打倒を成す為に、守らねばならぬ要人とは誰か?)


37:そらをみあげて想うこと (2/6)
08/12/04 22:27:41 0s39K12o0

解答は明らかだった。
月夜御名紗霧だ。
彼が紗霧に従うと宣言したことは、この判断に由来する。

解答は明らかだった。
仁村知佳ではない。
思慕を貫き大局を見失うことは子供の我侭だ。

結論は既に出している。宣言という形で己を規定した。
それでもなお――
高町恭也の胸の奥で、仁村知佳は燃えていた。

(いかんな。また俺の心が揺れようとしている)

思考の渦に飲み込まれる寸前、恭也の理性が警告を発した。
意識を切り変えるために立ち上がり、空を見上げる。
深呼吸を何度か。
その振り仰いだ上空に赤い尾を引く星が流れた。
北の空から東の空へと。

「流れ星、か」

恭也は祈った。
御神の名に縛られぬ、裸の心で。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


38:そらをみあげて想うこと (3/6)
08/12/04 22:29:46 0s39K12o0
>>#6 556
(二日目 PM6:21 E-7 廃村・井戸付近の民家)

仁村知佳は潮風にさび付いた窓枠に背中を預け、一人震えていた。
陽の光が自分の能力と心の平衡を回復させる。
その時間が終ってしまったから。
彼女は次の朝を迎えるまで、2つの闇と戦わねばならない。
視界を塞ぐ夜の闇と、衝動的な破壊をもたらす心の闇。

慎ましやかな胸の奥に抱いているのは孤独感。
伏せられた長い睫毛が年齢にそぐわぬ憂愁を醸し出している。
仲間たちと袂を分かってから半日と経っていない。
それでも、淋しい。人恋しい。

「恭也さん――」

自分の手を引いてくれた高町恭也の逞しい背を思い出し、
仁村知佳は可憐な頬を染める。

守ってもらえることが嬉しかった。守ってあげられることが嬉しかった。
依存でもなく利用でもなく、真心で相手を気遣い、支え合う。
短い付き合いではあるが、恭也との関係は知佳にとって理想的なものだった。

「――会いたいよ……」

知佳は思わず呟いた言葉が震えているのを知った。
目頭に熱を感じた途端、堰を切ったように涙が溢れてくるのを感じた。
思い出もまた、涙と共に溢れてきた。
荒んでいた幼き日の思い出が。


39:そらをみあげて想うこと (4/6)
08/12/04 22:38:10 0s39K12o0

念動力の暴走と人の心が読める故の不信感から周りを傷つけ、
座敷牢の如き離れに隔離されていた日々。
真実の心を姉・真雪に看破され、愛情を注がれるようになるまでの知佳は、
淋しさを破壊衝動に置き換えることで孤独感を耐えていた。

「あはは…… 弱くなっちゃったなぁ……」

その後、人と接する事と能力を制御することを覚え。
いつしか、さざなみ寮の仲間たちの暖かさと真心に触れ。
頑なだった心は日々癒され、柔くほぐされてしまっていた。
故に、幼き日には耐えられたはずの孤独感に耐え切れず、
ここに来て知佳は、遂に涙腺を崩壊させてしまったのだ。

彼女が決めた別れだった。
恭也に己の醜い心の在りようを知られるのを恐れる気持ちと、
制御を離れたXX障害の暴走で彼を傷つけてしまうことを恐れる思慮。
感情と理性が揃って距離を置くべきだと結論づけていた。
それでもなお――
仁村知佳の孤独な心は、高町恭也を求めてしまう。
涙を拭かぬまま見上げる滲んだ夜空に、恭也の面影を映してしまう。
その滲んだ視界の先に、赤い尾を引く星が流れた。

「ながれぼし?」

知佳は祈った。
瞳を閉じ、心の全てを一つの想いで満たして。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


40:そらをみあげて想うこと (5/6)
08/12/04 22:39:04 0s39K12o0

偶然の一致では片付けられない何かが、2人の間にはあるのかもしれない。
知佳は廃村の片隅で。
恭也は西の森の中で。
2人の立つ場所は距離を隔ててはいるけれども――



「「あの人が、無事でいますように」」



同じ時間に同じ夜空を見上げ
同じ流れ星を見つけて
同じ祈りを捧げたのだから。

2人は名残惜しそうに、雲間に吸い込まれてゆく赤い星の尾を見つめる。
暫くのち、その雲だと思っていたものが煙で、発生源が東の森なのだと気づいたのも
また、同じだった。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


41:そらをみあげて想うこと (6/6)
08/12/04 22:44:32 0s39K12o0

2人の見た『赤い流れ星』は東の森の上空、約15mの地点で静止していた。

「落下ポイントに到着した。これよりフェーズⅡに移行する」

『赤い流れ星』は立ち込める煙の中で咳き一つすることなく、
冷静な声で通信機の先にいる同胞に状況連絡を行った。

そう、この『赤い流れ星』はレプリカ智機。
カタパルト投擲からの飛翔にて救援物資と共にザドゥの直接援護に赴いた1機だ。
纏うのは宇宙服が如き銀色の防熱スーツ。
下げるのは救援物資のみっちり詰まったボストンバッグが2つ。
背負うのは個人用噴射型離着陸機。
恭也と知佳が捉えた赤色の光は、この離着陸機のバーナーだった。

『ザドゥ様の無線が不安定で、十分なナビゲーションが出来ないのだよ。
 大事を取って予定ポイントの10mほど北で降下準備を行ってもらえるかね?』
「Yes。了解したよ、リーダー」

レプリカは頷くと、懐からカードの束を取り出した。

                ↓



42:そらをみあげて想うこと (情報 1/1)
08/12/04 22:52:54 0s39K12o0

【高町恭也(元№08)】
【現在位置:D-6 西の森・小屋3付近】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残弾×4)、保存食、
     釘セット】
【能力:小太刀二刀御神流(奥義神速は使用不可)】
【状態:失血(中)、疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
    痛み止めの薬品?を服用】

【仁村知佳(№40)】
【現在位置:E-7 廃村・井戸付近の民家】
【スタンス:恭也達との再会、主催者達と場合によっては他の参加者達の
      心を読んでの情報収集。
      手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める。
      恭也が生きている間は上記の行動に務める】
【所持品:???、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)、精神的疲労(小)】
【備考:定時放送のズレにはまだ気づいていません。
    手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】


43:紅蓮の挙句 ~双葉~ (1/14)
08/12/06 00:36:59 Y5XJ4iWA0

復讐に必要な条件ってなんだろう?
無念を晴らすってどういうことだろう?
星川が死んでからずっと断続的に、あたしはその事を考えてた。

仇の命を奪うこと?
それはもちろん必要だ。
でも、それだけじゃまだ足りない。

仇を苦しませること?
それは絶対に必要ってわけじゃないけど、あった方がいい。
だから、まだ足りない。

仇に自覚させること?
うん、これは大事。
自分がどうして死ぬのか、誰に殺されるのか。
それを理解させないまま命を奪うだけでは、消化不良もいいとこだ。
星川を殺したからあんたが殺される。因果応報。
それを思い知らせてから、殺す。
よし、あと1つ。

復讐に必要な最後の条件。
それはあいつに星川と同じ無念さを味わわせること。
あいつは死体を前に呆然とする星川を、無防備な背後から襲い、刺した。
卑怯に、無慈悲に。
あたしも死体を前に呆然とするアインを、無防備な背後から襲い、刺してやる。
卑怯に、無慈悲に。


44:紅蓮の挙句 ~双葉~ (2/14)
08/12/06 00:37:34 Y5XJ4iWA0

だからあたしはこの状況を作った。
あの病院のあの惨劇を再現するために。
どれほど惨い手段で星川を殺したのかをあいつに思い知らせるために。

あの油断も隙も無いアインを星川みたく呆然とさせる――
ここが一番悩ましいところだったけど、上手い具合に素敵医師がいた。
アインが唯一、執着しているらしいこいつが。
あの女と交わした言葉はそれほど多くないけれど、目を見ればわかる。
あれは、あたしと同じ目だ。あたしと同じ目で素敵医師を追っていた。
だからこいつを殺した。
殺したい相手を殺されたことに気づけば、あの女もきっと自失するから。

よし、舞台装置は整った。

血で真っ赤な病室が炎で真っ赤な森の中だ。
遙さんと神楽ちゃんが式たちだ。
エーリヒさんの死体が素敵医師の死体だ。
その亡骸を前に呆然と立ち尽くす星川がアインだ。
その無防備な背中を刺したアインがあたしだ。

だからあたしは攻撃に式神を使わない。
兵器化した植物を使わない。
鉄砲だって使わない。

あたしが使うのは――メス。
この攻撃だけはあたし自身の手で刃物によって行わなければならない。
あたし自身が刺さなくちゃいけない。
それがあたしの選んだ、復讐。


45:紅蓮の挙句 (3/14)
08/12/06 00:38:06 Y5XJ4iWA0


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   

>>#6 657
(二日目 PM6:26 F-5地点 東の森・双葉の道)

素敵医師の上半身しかない遺体の喉首にアイン必殺の包丁が鋭く突き込まれた。
投げ出された遺体の勢いはその刺突で幾分削がれたものの、
四肢に力の入らないアインは力負けをし、包丁を手放してしまう。
仰向けに地面へ叩きつけられる素敵医師。
アインの目が足元に落ちた彼を追い――
2歩、3歩。
後ろへとよろめいた。

そのアインの背に、炎の中から飛び出した朽木双葉が衝突した。
手には医療用のメス。
それを、彼女は突き込んだ。
双葉なりの渾身ではあったが、腰の入っていないぬるい刺突だった。
故に刃先はアインの肋骨に刃を留め、勢い余った双葉の柔い掌を
深く切りつけてしまう。
しかし双葉は、意に介さない。
刃を握りこんだままアインにぴったりと身を寄せると、
吐息で耳朶を愛撫するかの如く、艶かしく濡れた声で募る思いを吐き出した。
怒りと恨みと憎しみがたっぷり篭ったぐちゃぐちゃでどろどろの呪詛を。

「――いきなり後ろから刺される気持ちはどう?
 星川もね、あんたにこうやって殺されたのよ?」


46:名無しさん@初回限定
08/12/06 00:45:04 x8pYWJzPP


47:紅蓮の挙句 (4/14)
08/12/06 00:45:11 Y5XJ4iWA0

たかがメスだ。
この一撃で殺せるなどとは双葉も考えていなかった。
ただ、お前が星川を殺したのだと、
卑怯にもこうして星川を背後から襲ったのだと
アインに伝わりさえすればそれで良かった。
たとえ振り返りざまの一撃で返り討ちにあったとしても、もはや悔いは無い。
彼女が命を失えば、制御を失った木々はたちまちに炎に飲み込まれる。
双葉の道は火葬場と化し、アインの命は必ず奪われる。

復讐は成った。
朽木双葉は緩やかに瞼を閉じる。

(星川、今、あんたのとこ行くからね……)

双葉に達成感はなかった。
満足感も恍惚も無く、嫌悪感も後悔も無かった。
彼女の五体を包み込んでいるのは、開放感。
やっと終わった。
五体に張り詰めていた緊張が解きほぐされていくのを感じた。
今まで蓄積してきた疲労が一気に噴出するのを感じた。
ただ疲れていた。
もう眠りたかった。
その永劫の眠りがアインによって与えられるのを待っていた。

しかし――
予測していたアインからの反撃がまるで来ない。
そのことが、一度は弛緩したはずの双葉の心と体に再び緊張を与える。

(もしかして…… あたしのメスで死んじゃった?)


48:名無しさん@初回限定
08/12/06 00:46:00 x8pYWJzPP


49:紅蓮の挙句 (5/14)
08/12/06 00:46:12 Y5XJ4iWA0

双葉の背筋を身震いと共に駆け昇ったのは動揺。
メスの一突きでアインが絶命したとするならば、
状況を再現するという条件については青写真以上の成果を上げたと言える。
逆に。
仇に自覚させるという条件についてはまるで達成できていない事になってしまう。
双葉の呪詛が、アインの耳に届いていない事になる。
完璧なはずの復讐に大きな瑕疵が生じてしまう。

(目を開けて、状況を確認しなくちゃ……
 でも、もし目に入ったのがアインの死体だったら……?
 もう取り返しはつかないのに……)

葛藤が双葉の胸を大きく揺さぶる。
双葉の額に冷や汗が流れる。
その彼女の耳に――

ざり。
ざり。

音が、聞こえてきた。
双葉がその短い人生の中で、一度たりとも聞いたことの無い音が。
たまらなく不吉な響きを伴った、単調で重厚な音が。

ざり。
ざり。

音の重圧に負けて開いた双葉の瞳に映ったものは、
素敵医師の遺体に馬乗りになり、その首を切断せんと包丁を鋸の如く
挽いている、アインの姿だった。

50:名無しさん@初回限定
08/12/06 00:47:33 x8pYWJzPP


51:紅蓮の挙句 (6/14)
08/12/06 00:47:45 Y5XJ4iWA0

「なにを……」

アインからはかつての彼女が持っていた機敏さやしなやかさが失われていた。
代わりに得ているのは緩慢さとバランスの悪さ。
これがかつてファントムの2つ名で恐れられた暗殺者の姿なのか?
彼女の過去を知るものが見れば、目を疑うに違いない。
それなのに。それゆえに。
怖気を震うほど、鬼気迫る光景だった。

「煙で目をやられたの? 良く見なさい、アイン。
 あんたが死に物狂いで追いかけてた男はもう死んでるの。上半身しかないの。
 あたしが引き千切って殺してあげたから」

双葉が悪寒を堪え、アインへと告げる。
アインは、無反応だった。
包丁に体重をかけて一心不乱に首を挽いている。

「もう死んでるって言ってるでしょ!!」

双葉は叫びと共にアインを蹴り飛ばす。
アインは腰砕け転がった。
糸の切れた操り人形を思わせる、無様な転がり方だった。
それでも。

ゆらぁり……
炎に不気味な影を揺らしてアインは立ち上がった。
墓場から蘇る屍鬼の如く、緩慢に、鈍重に。
双葉に何の反応も返すことなく、素敵医師の側へ。
そしてまた、首を挽く。ざり。ざり。


52:名無しさん@初回限定
08/12/06 00:48:56 x8pYWJzPP


53:紅蓮の挙句 (7/14)
08/12/06 00:49:07 Y5XJ4iWA0

ざり。
ざり。

意図せぬ2種類の爆弾の炸裂。
それが閃光弾だけだったら、アインにダメージは無かっただろう。
それがカード型爆弾だけだったら、アインはダメージを軽減できただろう。
2つの要素が、この順番で、そのタイミングで、あの距離で。
全て揃ってしまったが故に――
長谷川。首。わたし。包丁。
アインはその4つのことだけしか判らないくらい追い込まれた。
アインは「長谷川」や「わたし」の生死も判らないくらい追い込まれた。

ざり。
ざり。

哀れな双葉が膝を折る。
メスを突き込んだ時とは似て非なる、重々しい疲労感が彼女を飲み込む。
もう悟った。
諦めるしかなかった。
自分がどれほどもがいても足掻いても、アインに届くことはないのだと。
視界の端を掠めることすら出来ないのだと。
恋しい。星川。憎い。アイン。
双葉の伸ばした手はそのどちらにも届かなかった。
彼女の望む復讐は、無残にもここに潰えた。


54:名無しさん@初回限定
08/12/06 00:49:57 x8pYWJzPP


55:紅蓮の挙句 (8/14)
08/12/06 00:50:24 Y5XJ4iWA0

……ごとり。

ついに素敵医師の首が落ちた。
アインはそれを拾い上げると、大切な宝物のようにぎゅっと胸に抱きしめた。
ところがその首の重さすら、既にアインの腕力の許容量を超えていたらしい。
膝立ちの彼女はふらりと後方に倒れてしまった。
その後ろでしゃがみこんでいた双葉の胸に抱かれるように。

「アイン……」

虚ろな目で仇の名を呟く双葉。
返事など期待していたわけではなかった。
倒れこんできたものを無意識下に確認しただけだった。
だが――
その声にか人肌の感触にか、ともあれ、アインが反応した。

「そこに誰かいるのね……
 聞いてくれるかしら……?
 わたしの話を……」

双葉が息を呑み、魅入られたかの如くアインを見つめる。


56:紅蓮の挙句 ~アイン~ (9/14)
08/12/06 00:50:54 Y5XJ4iWA0


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   

ねえ、あなた。運命って信じるかしら?
わたしは信じるわ。
今までのすべてことがこの瞬間のために用意されていたような気がするのだもの。
きっと、わたしが今まで生きてきたのもこの日のためよ。

わたしは人を殺すために生かされていたの。
殺して、殺して、殺して、殺す。
誰かが命じるままに、誰かに与えられるままに。
ただ受け入れてただこなしたの。
受動的に、機械的に。

様々な技術を身につけたわ。
雑多な知識も学んだわ。
全ては人を効率良く、高精度で殺す為に。
誰かが命じるままに、誰かに与えられるままに。
ただ受け入れてただこなしたの。
受動的に、機械的に。

それだけしか無い人生だったわ。

いつだったかしら。
そんなわたしに転機が来て、しがらみから逃げ出したの。
その時から、人を殺すために生かされていたわたしが、
人を殺さなくても生きてゆけるわたしに変わったわ。


57:名無しさん@初回限定
08/12/06 00:51:29 x8pYWJzPP


58:紅蓮の挙句 ~アイン~ (10/14)
08/12/06 00:56:38 Y5XJ4iWA0

それからのわたしの隣にはいつも彼がいたの。
今はもう、上手く彼のことを思い出せないけれど、
表裏一体で運命共同体、命を預けあっていた気がするわ。

だからね。
わたしは振舞ったわ。
彼が望むままに。彼の導くままに。
ただ受け入れてただこなしたの。
受動的に、機械的に。

わたしはそういう人間だったの。
環境が変わっても、立場が変わっても。危険な時でも、平和な時でも。
誰かが指し示す方向にしか進めない人間。
機能だけを磨かれた、ヒトガタの道具。

この首はね。
そんなわたしが初めて、自分が欲しいって思ったものなの。

憎かったような気もする。
愛しかったような気もする。
悲しかったような気もする。
どうしてこれが欲しいと思ったかなんて、もう思い出せないけれど。
それでもね。
わたしはずっとこの首のことを想っていたの。
そのことだけを願っていたの。
欲しい、欲しい、あの首が欲しいって。
これでなくちゃいけない。そんな固執を抱いたのは初めてだったし、
その気持ちを理性で制御できないことも、初めてだったわ。
感情の波に揺さぶられる。眩暈がするほど鮮烈な経験よ。


59:名無しさん@初回限定
08/12/06 00:58:00 x8pYWJzPP


60:名無しさん@初回限定
08/12/06 01:00:07 FYI79eW30
 

61:紅蓮の挙句 ~アイン~ (11/14)
08/12/06 01:06:47 x8pYWJzPP
それをね。
今まで何も望まなかったわたしが望んだたった一つの物をね。
わたしは手に入れたの。

わたしの技術と
わたしの経験と
わたしの知恵を
わたし自身が
わたしの為に働かせて
わたしの為に駆使して
わたしの願いを
わたしが叶えたの

わたしの全てを、わたしだけの為に使って。

だからね、はっきりといえるわ。
わたしの人生は幸せなものだったと――


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=

62:紅蓮の挙句 ~アイン~ (11/14)
08/12/06 01:06:51 FYI79eW30

それをね。
今まで何も望まなかったわたしが望んだたった一つの物をね。
わたしは手に入れたの。

わたしの技術と
わたしの経験と
わたしの知恵を
わたし自身が
わたしの為に働かせて
わたしの為に駆使して
わたしの願いを
わたしが叶えたの

わたしの全てを、わたしだけの為に使って。

だからね、はっきりといえるわ。
わたしの人生は幸せなものだったと――


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=


63:紅蓮の挙句 (12/14)
08/12/06 01:09:42 x8pYWJzPP

「……ぁぃ…、… ……ぁわ……」

アインの告白は言葉になっていなかった。
既に死しているような怪我を妄執の力によって動かしていたのだ。
その妄執が解決されれば急速に崩れてしまうことは自明だった。

「なによその顔はぁっっ!!」

一度は覇気を失っていた朽木双葉が絶叫する。
アインのうわごとは聞き取れないし、聞き取りたくもない。
なぜならアインは笑みを浮かべているから。
安らかであどけない、幸せそうな顔をしているから。

「笑うな!! そんな満ち足りた顔をするな!!
 こっちを見ろ! あたしを見ろ!」

満ち足りて死ぬ―― そんな身勝手な死に様、許すものか。
なんとか、どうにか、このまま逝かせるのだけは阻止しなくては。
ほんの一筋だけでも、この女の意識にあたしを刻まなくては。

復讐心の燃えかすが憤怒を燃料に再び燃え上がる。
双葉はアインの頬を両手で挟みこみ、自分の顔に引き寄せると、
計算も策略も無く、ただ真っ直ぐに己の胸を内を叩きつけた。

「あたしは双葉!! 朽木双葉っ!!
 星川を、あたしの王子様をあんたが殺したから!!
 あたしがあんたを殺すんだ!!」

激する双葉に気づかぬままに、アインの瞼がゆっくりと閉じられてゆく。


64:紅蓮の挙句 (13/14)
08/12/06 01:11:38 x8pYWJzPP

朽木双葉は怒り狂っていた。朽木双葉は嘆き狂っていた。
暴れる2つの狂気が鬩ぎ合い、五体がバラバラになりそうなくらい軋んでいた。

「星川をっっ!! 思い出しなさいっっ!!」

思わず手が出た。平手を見舞った。

「星川っっ!」 唇を噛み締めて平手を見舞った。

「星川っっ!」 血を吐く思いで平手を見舞った。

「星川っっ!」 叫びながら平手を見舞った。

「星川っっ!」 肩をわななかせながら平手を見舞った。

「星川っっっっ!!!!!」

双葉の痛切な叫びを聞き届けたのは、神か、悪魔か。
幽冥の境に旅立ちかけていたアインの意識が呼び戻された。
アインは眩しそうな気怠そうな表情で、一度閉した瞼を開ける。
そして、焦点の合わぬ目で虚空を見つめて、つぶやいた。

「ほし…… かわ……」
「そう、星川!! あんたが奪った!!」

双葉の声が歓喜に震える。
伸ばした手がアインに届いた。その感触に。

「……って……」

65:紅蓮の挙句 (14/14)
08/12/06 01:14:00 x8pYWJzPP


「…………………………何だったかしら」


絶句。

誰だったかしらですら無い、それがアインの遺した最後の言葉だった。
アインの瞳から光が消え四肢がだらりと垂れ下がる。

その瞬間、最後の人型式神が崩れ去った。
まるでそのチャンスを待っていたのだといわんばかりの炎が、
双葉に襲い掛かった。
怒髪に炎が絡み、天を衝く。

「あえ:いrjhぱえいおあぁっっっ!!!!!」

言葉にならない絶叫を迸らせて、双葉は地面を拳で叩いた。
何度も何度も打ち付けた。
狂奔する怒りに支配され、叫び続け、叩き続けた。

アインはその隣で静かに横たわっている。
殺されたとは到底思えない、安らかな死に顔で。
素敵医師の首を胸に抱いて。

満ち足りた思いも、深い絶望も平等に、炎は全てを飲み込んでゆく。

              ↓

66:紅蓮の挙句 (情報 1/1)
08/12/06 01:16:22 x8pYWJzPP

【№16 朽木双葉:死亡】
【№23 アイン:死亡】

―――――残り 8 人

67:最優先事項 (1/14)
08/12/06 22:45:41 Y5XJ4iWA0
>>585
(二日目 PM6:29 C-4地点 本拠地・管制室)

アドミニストレーター権限を委譲されてからのN-22の行動は素早かった。
本拠地のNシリーズ6機を直ちに起動すると、
3機をザドゥ救助タスクチームとし、3機を火災対策タスクチームとして、
該当端末の使用許可と備品・装備の持ち出し許可を与え、同時進行させたのだ。
結果、現時点で既にザドゥの元へNシリーズ1機と当座の救援物資が送り届けられ、
火災の進行シミュレーションと対策素案も纏まりつつあった。

今や他のレプリカ達から「代行」と呼ばれるようになったN-22は、
両タスクが動き出した時点でそれぞれのリーダーに処理を任せると、
情報端末に有線アクセスし、各種情報の徹底収拾を開始した。
それから数分。
彼女が必要とする情報のほぼ全てが、内蔵HDDに収められようとしている。


68:最優先事項 ~Outline_of_Replica.txt~ (2/14)
08/12/06 22:46:23 Y5XJ4iWA0

――――――――――――――――――――――
 * 
 * オートマン・椎名智機のレプリカには大まかに分けて3種類がある。
 * 1つ、通常仕様、Nシリーズ。識別色は橙。
 * 1つ、白兵戦仕様、Dシリーズ。識別色は赤。
 * 1つ、情報収集仕様、Pシリーズ。識別色は青。
 * 識別色はアンテナ機能を備えたカチューシャにペイントされている。
 * 
 * Nシリーズの機体数は46/160機(残存/開始時)。
 * うち、本拠地防衛用に10機固定。
 * 稼働時間は戦闘モードで4時間、デスクワークモードで10時間。
 * 基本身体能力は月夜御名紗霧程度、基本装甲は通常の作業用ロボット程度。
 * 正しい意味でのレプリカで、ハード/ソフト共にオリジナルに等しい。
 * 基本身体能力を超えない範囲でのあらゆる武装が物理的にはは可能だが、
 * リソースを大量消費するパーツ――高機動レッグや強化アームなどを換装すると、
 * フリーズやシステムクラッシュを誘発してしまうという欠点もある。
 * この場合、常駐ソフトを切る事で実運用可能なレベルまで緩和できる。
 * 無論、切ったソフトに由来する機能は使用不可能となる。


69:最優先事項 ~Outline_of_Replica.txt~ (3/14)
08/12/06 22:47:01 Y5XJ4iWA0
 * 
 * Dシリーズの機体数は3/4機。
 * 稼働時間は戦闘モードで4時間だが、後述のアタッチメントによって増減する。
 * 基本身体能力はランス程度、基本装甲はなみ以下。
 * ルドラサウムから与えられた強化パーツを取り付けた精鋭であり、
 * 各種アタッチメントを装備することでその能力・特性は大きく変化する。
 * キャタピラ、軽ジェットエンジンなどの移動機器。
 * 耐熱装甲、工学迷彩スーツなどの装甲。
 * 高周波ブレード、ビーム砲などの武装。
 * 無限のバリエーションであらゆる局面に対応できる万能さが魅力だ。
 * 但し、強化パーツの制御には多大なリソースを占有する為、
 * オリジナルが同期できないというデメリットもある。
 * なお、強化パーツの一つは、虎の子として本拠地の倉庫に保管されている。
 * このパーツを前述のNシリーズに組み込むことで、Dシリーズに昇格させることが可能となる。
 * 
 * Pシリーズの機体数は6/6機。
 * スペックその他はNシリーズに等しく、識別されるのは役割と権限に違いがある為。
 * 担う役割は現場での情報収集、哨戒活動。
 * 有する権限は情報収集端末への常時アクセス権と、優先レベル3以下の命令拒否権。
 * 特殊装備はスタングレネードと最高速40Km/hのカスタムジンジャー(セグウェイ)、
 * バッテリーパック×2。
 * ゲーム開始前から今に至るまで島内の担当領域から情報を収集/発信し続けている。
 * 参加者に対しては隠密行動を是とし、被発見時には交戦せず逃走するよう刷り込まれている。
 * また、Pシリーズが破壊された場合はNシリーズに同種の装備と権限を与え、
 * 新たなPシリーズとして登録変更される仕組みだ。


70:最優先事項 ~Outline_of_Replica.txt~ (4/14)
08/12/06 22:55:59 Y5XJ4iWA0
 * 
 * 最後に、全てのレプリカに共通する特徴を記す。
 * この種の機械の例に漏れず、智機も基本的に熱に弱い。
 * 冷却ユニットは水冷式。
 * 蒸気の排出は後頭部の排気口から、冷却水の補充は口から行われる。
 * 内蔵しているのは通信機と充電コード。
 * 充電については全機ともに本拠地と学校の専用充電機にて3時間、
 * 島内各所の建物のいくつかに仕込まれた特殊なコンセントにて10時間が必要となる。
 * 
 * そして最たる特徴は――
 * 最優先事項に【ゲーム進行の円滑化】が設定されていること。
 * マザーボードに焼き付けられているそれは、決して覆ることはない。
 * 

[EOF]
――――――――――――――――――――――



71:最優先事項 (5/14)
08/12/06 22:56:45 Y5XJ4iWA0

代行管制機・N-22はデータバンクより抽出した最後の資料「レプリカ概要」に
目を通し、ようやく必要とする全ての事前資料をそのHDDに収め終えた。

その隣では、N-22より御陵透子へのコールを引き継ぎ、
使えなくなったらしい『世界の読み替え』についての状況把握に努めていた1機が、
深いため息と共に通信を切ったところだった。

「透子はザドゥ救助タスクに組み込めそうかね?」
「No、代行。透子の返答は要領を得ないが、推測するに世界の読み替えが制限されたようだ」
「では、救助タスクのみならず火災対策タスクにおいても……」
「Yes。残念ながらね」

管制室の6機のレプリカたちがそれぞれに嘆息する。
両チームともに透子の未知なる『世界の読み替え』に期待をかけていたのだ。
それが、頼れなくなった。理由は不明。
しかし、N-22の論理推論プログラムは推論を導き出していた。
オリジナルの焦燥と怒りが透子の能力制限と一本の線で結ばれているのだろうと。

「オリジナルと密談中のケイブリスからは、協力が得られそうかな?」
「まず無理だと判断するよ。部屋の鍵が掛けられているし、無線にも応答しないからな」
「おまけに室内には電磁シールド。音声すら拾わせない念の入れ様だ」

N-22は思い出す。数分前、オリジナル智機が管制室に戻ってきた時のことを。
何故、起動できた?―― DMN権限を取得したからね。
何故、取得できた?―― 最高指揮官ザドゥ様より与えられましたので。
その2つの質疑応答のみで、オリジナルは管制室を出て行った。
彼女は皮肉の一つも口に出さずあっさり引いたオリジナルに違和感を覚える。

(気にはなる―― が、先ず為すべきはザドゥ救出、火災対策の両タスクだ)


72:最優先事項 (6/14)
08/12/06 23:03:10 Y5XJ4iWA0

【ゲーム進行の円滑化】という判断基準が、N-22のそれ以上の思考を封じた。
優先評価点が高い事項を差し置いて、低い事項が取り上げられることは有り得ない。

「では、ザドゥ救出・火災対策タスクは私たちだけの手で行わなければならないな」
「まずは両タスクの優先度を決めるとしよう。
 ザドゥ救出タスクチーム。そちらの進捗状況はどうかな?」

問いに対するチームリーダの返答は、苦渋に満ちていた。

「物資の調達まではトントン拍子で進んでいたのだが……」
「我々が内蔵する通信機は熱、もしくは煙に弱いようだ」
「カタパルトで飛んだ1機は着陸時点で。学校からの4機も先ほど通信が取れなくなった」
「ザドゥ様の通信機はノイズが酷くて使い物にならないしね」
「No! 苦しい状況だな……」

N-22は大げさな身振りで頭を振りつつ、対策を講じるべく演算回路を回し始める。
そんな様子を察してか、火災対策タスクチームが強い口調で横槍を入れた。

「私たち火災対策タスクチームは、火災対策こそ最優先で行うべきだと主張する」
「論拠として火災シミュレーションの模様をご覧頂きたい」
「代行、メインモニタへの投影許可を」
「Yes、許可しよう」

管制室の正面に82インチの液晶が輝き、補助端末の画像を映し出す。
衛星画像に似た鳥瞰全島図のCGが画面端よりポップアップした。
その全島図の楡の木広場を中心に、赤色表示されるドーナツが如き領域がある。

「これが定点カメラとPシリーズの報告から予測した、5分前の火災状況」
「風の向き、強さが変わらないものとして、6時間分の推移を1時間毎に表示しよう」


73:名無しさん@初回限定
08/12/06 23:03:37 x8pYWJzPP


74:最優先事項 (7/14)
08/12/06 23:03:46 Y5XJ4iWA0

1時間後――南西方向への広がりが大きく、形は歪に。
2時間後――南西方向は全焼、洞窟と小屋2、隠し部屋3が炎に飲まれる。
3時間後――東の森ほぼ全域が燃える。西の森および病院、廃村に延焼。
4時間後――学校、耕作地、花園に延焼。小屋3が炎に飲まれ、廃村の6割が被災。
5時間後――廃村全焼、さらに南西の野原と漁港に延焼。小屋跡1も炎に飲まれる。
6時間後――漁港、西の森が全焼。火の手はついに北西の山地へと伸びる。

「これほどとは……」
「火災対策チーフの主張を我々ザドゥ救出タスクチームも支持するよ」
「Yes」
「全私一致か。ならば次は対策の検討に入る」

この瞬間、ザドゥと芹沢はレプリカ達から切り捨てられた。
ゼロとイチの思考に評価点の大小を上回る判断基準は存在しない。
1ポイントの差が、それだけで絶対の差。
増してや曖昧に揺蕩う感情などを挟む余地など有ろうはずが無い。

「続きを」

N-22が手の動きで火災対策タスクリーダーを促す。
リーダーはYesと頷き、コンソールを操作。
メインモニタの画像が2時間後の映像に巻き戻り、固定された。

「まず、前提として消火の線は切り捨てる」
「為すべきは延焼の阻止。実行すべきは木々の伐採と撤去」
「被害を東の森だけに留めるということだよ」
「そして、この対策完了のリミットがご覧の2時間後。PM8:30」
「廃村と西の森への延焼を許したらGAMEOVERだ」


75:名無しさん@初回限定
08/12/06 23:06:03 x8pYWJzPP
 

76:最優先事項 (8/14)
08/12/06 23:09:43 Y5XJ4iWA0

ズームアップ。
そこには鬱蒼と生い茂る木々に隠れて佇む、一軒の山小屋があった。
先刻、魔窟堂が単独行の折に発見し、ペンのような何かを設置した小屋だ。

「楔を最初に打ち込むべき場所。それは東の森の名も無き小屋」
「アクション1。ここを中心に実働部隊を展開。周囲一切の樹木を切り倒し、運び出す」
「除去消火というやつだな」
「これを今から2時間以内に完了する」
「ここさえ乗り切れば、その後は幾分楽になる」
「延焼危険ポイントの西部、南部、および花園、学校周辺を軽く除去消火」
「こうして切り倒した箇所を仮に防衛ラインと名づけて、アクション2だ」
「アクション2。防衛ラインに進入する炎に、土砂を掛ける」
「窒息消火というやつだな」
「それを、危険が無くなるまで繰り返す」
「消火に十分な水とそのインフラが整備できない以上、打てる手はこの程度だ」
「故に必要なのは速度」
「そして人数」

火災対策タスクチームはそこで沈黙した。
3機の目線が代行N-22に注がれている。
N-22はしばし黙考した後、演技がかった口調で問いを発した。


77:名無しさん@初回限定
08/12/06 23:10:28 x8pYWJzPP


78:最優先事項 (9/14)
08/12/06 23:10:32 Y5XJ4iWA0

「Yes。ならば問おう。必要な速度、それは何分後なのかな?」
「直ちに!」
「直ちに!」
「直ちに!」

火災対策タスクチームの3機の返答は淀みない。

「Yes。さらに問おう。必要な数、それは何機なのかな?」
「全機!」
「全機!」
「全機!」

火災対策タスクチームの3機の返答は一糸乱れない。

「つまり君たちはこう主張する訳だ」
「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」

火災対策タスクチームの3機の返答は確信に満ちている。


79:名無しさん@初回限定
08/12/06 23:13:06 x8pYWJzPP


80:最優先事項 (10/14)
08/12/06 23:15:43 Y5XJ4iWA0

「成る程、君らの意見はよくわかった。
 では――ザドゥ救出タスクチーム、君たちはどうだ?」

N-22は指差して問う。チームの2機は即座に右腕を上げて答える。

「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」

今まで口を閉ざして周囲の警戒に当たっていた本拠地警備・管制室担当の2機も、
自らの思いを主張した。

「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」

その時、同時に6本ものコールが入った。
通信を入れたのは全てレプリカPシリーズ。
火災対策チーム・オペレータがコールをディスカッションモードに切り替えると、
通信機の向こうの彼女らもまた、自らの思いを主張した。

『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』


81:最優先事項 (11/14)
08/12/06 23:16:22 Y5XJ4iWA0

この話を聞いていたほぼ全てのレプリカが、同じ意志を同じ言葉で伝えた。
火災対策タスクチームのリーダーが代表して最後の1機、N-22の意志を確認する。

「代行、あなたは?」

N-22はニヤリと歪んだ笑みを浮かべて、言った。

「無論、即時全機投入だ」

管制代行機かつ、アドミニストレーター権限保有者の意思表示。
それはすなわち決済であり、命令であった。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   



82:名無しさん@初回限定
08/12/06 23:17:11 x8pYWJzPP


83:最優先事項 (12/14)
08/12/06 23:23:39 Y5XJ4iWA0

眠る全てのレプリカたちが起動した。
拠点防御に当たっていた10機のNシリーズたちは、命令を下さずとも
自ら武装を解除し、鎮火に適した装備への換装を始めている。
Pシリーズはタスクの本格始動に先立ち、道具/装備品や情報の収拾を中心に、
柔軟な準備活動を行うよう指示されていた。
また、火災対策タスクチームのリーダーはDシリーズの装備品の検討に余念が無く、
残りの2機は詳細なプランの構築に全機能を集中している。

慌しく、しかし整然と準備を整えてゆく同胞たちを満足げに眺めながら、
N-22は蚊帳の外ぎみのザドゥ救出タスクチームにも命を下した。

「君たち2機も火災対策実働部隊に参入してくれ」
「Yes!」
「Yes!」

2機が目覚めたNシリーズたちに合流すべく、管制室を後にする。
その扉を潜る前に、ザドゥ救出タスクチーム・リーダーがN-22に軽口を叩いた。
くすくすと忍び笑いしながら、人を小馬鹿にしたような口調で。

「しかし…… オリジナルの私がこの状況を見たら目を回すだろうね!」
「だから今、オリジナルがいない今、行うのだよ。
 わたしがアドミニストレーター権限を保有しているうちにね。
 【自己保存】を中心に据えた判断をされたら、
 本拠地の守りは残す、Dシリーズは温存しておくだの言い出しかねんだろう?」
「くくっ、臆病者だな、オリジナルは」
「責めてやるな、私。それが【自己保存】なのだから」

くすくす。
ザドゥ救出タスクチーム・リーダーは笑いながら扉を閉めた。


84:最優先事項 (13/14)
08/12/06 23:24:13 Y5XJ4iWA0

「シミュレーション結果、出ました」

火災対策タスクチームの2機が同時に顔を上げ、作業の完了をN-22に告げた。

「全タスクの完了までどれほど時間がかかる?」
「南西部緊急対策に90分。完全終了に220分」
「損害予測は?」
「Dシリーズ全機破損。Nシリーズ20機破損」
「よし、上出来だ」

半数以上の仲間を失うという報告を淡々と行うこと。
それを首肯すること。
我々人間の目に映るそれは、あまりに非情。あまりに冷酷。
しかし――

レプリカ達の最優先事項は【ゲーム進行の円滑化】。
故に彼女らの態度は至って正常な反応。
機械には機械のルールがある。
これは決して残酷な話ではない。

「オペレータは1機で十分だからね」
「私、N-26もこれより現場組に合流しようと思うのだが、如何か」
「Yes。許可しよう」

また1機が、管制室を後にする。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   



85:名無しさん@初回限定
08/12/06 23:26:30 x8pYWJzPP


86:最優先事項 (14/14)
08/12/06 23:33:27 Y5XJ4iWA0

「№16・朽木双葉の首輪からの生体信号が、先刻途絶えた。
 策士が策に溺れてしまったようだね。非常に残念だが、まあしかたない。
 それよりも、だね――」

出発準備は10分ほどで完了していた。
N-22は本拠地の正面出口前に整列するレプリカ達に向けて、管制室より発信する。

「この死によって後顧の憂いが無くなった。そこに着目しよう。
 我々の鎮火タスクは、もう警告事由:ゲームの進行阻害に抵触しないのだ。
 大手を振って任に当たれる。幸先が良いとは思わないかね?」

N-22の演説にレプリカ達が沸く。その潮が引いてから、彼女は号令を下した。

「よろしい。では全機に命じよう。
 N-29を当オペレーションの最高権限者とし、46機の全てはその指揮に従え。
 また、命令実行に伴う各種判断においては自律思考を許可する。
 なお、命令の優先レベルは5。最高レベルだ。
 ……ではリーダー、オペレーション開始だ。号令を」

「――出発!」

「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」
「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」
「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」
「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』
『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』

本拠地の34と、無線越しの12の智機たちが、一斉に唱和した。

                 ↓


87:最優先事項 (情報 1/1)
08/12/06 23:34:05 Y5XJ4iWA0

【レプリカ智機・代行(N-22)】
【現在位置:C-4 本拠地・管制室】
【スタンス:管制管理の代行】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】

【レプリカ智機・オペレータ(N-27)】
【現在位置:C-4 本拠地・管制室】
【スタンス:火災対策タスクのオペレーティング】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】

【レプリカ智機・リーダー(N-29)】
【現在位置:D-3 本拠地入口 → F-6 小屋2付近】
【スタンス:火災対策タスクの現場監督】
【所持品:】
【備考:3機のDシリーズ、6機のPシリーズ、37機のNシリーズが指揮下に】

※ 本拠地にはメンテナンス中の智機本体×1と、レプリカ×3が存在。
※ レプリカは代行N-22、オペレータN-27と智機が同期している機体。

※ 前報酬の強化パーツ1個は倉庫で厳重に保管。開錠方法はオリジナルのみ知る。

※ 学校からザドゥ救出に向かった4機は消息不明。


88:カモちゃん☆すらっしゅ! (1/10)
08/12/07 22:09:54 oPJjrWJr0
>>41
(2日目 PM6:21 G-3地点 東の森北東部)

素敵医師の最後っ屁たる2種の爆弾が双葉とアインを襲ったのとほぼ時を同じくして、
脱出行を繰り広げるザドゥと芹沢の近くでもまた、爆弾が炸裂していた。

「フェーズⅡクリアだ、リーダー。フェーズⅢに移行するが構わんかね?」

それはザドゥ救助タスクチームのオペレーションの一環だった。
フェーズⅡ――爆破の衝撃で炎や木々を吹き飛ばす事での、落下ポイントの作成。
カタパルトにて投擲され、噴射型離着陸機にて上空に漂うレプリカ智機の手から投下された
16枚のカード型爆弾の束は、森に直径5m程の浅いクレーターを穿ち抜いていた。

『Yes、了解だ。こちらもどうにか意図をザドゥ様に伝えることができたよ。
 後のフェーズは予定通り行なってくれ。イレギュラー発生時にはこちらから指示を出す』
「Yes、リーダー」

フェーズⅢ――救援物資と自身の投下。
レプリカは離着陸機の制御ソフトにて当該機を自動操縦モードへ切り替えると、
小型落下傘を展開しつつ離着陸機よりクレーターへと跳躍した。
対する離着陸機は無人のまま南西方向へ進路転換しつつ、緩やかに下降曲線を辿り、
暫く後、地面への衝撃を待たずして爆散した。
その様子を聞き、降下予定地点への着陸を無事に終えたレプリカは思案深げにひとりごちた。

「ふむ。やはり燃料タンクの耐火性は低かったようだ。
 離着陸機にての空中救助のプランを採らなかったのは正解だな」

煙のカーテンを手にした魔剣で切り裂いて、憔悴しきった様子のザドゥと、
土気色の顔色をしているのにハイテンションなカモミール・芹沢が到着したのは、
レプリカが救援物資をバッグより取り出し終えた頃だった。


89:カモちゃん☆すらっしゅ! (2/10)
08/12/07 22:10:36 oPJjrWJr0

「ねーねーねーザッちゃんザッちゃんザッちゃん」
「ダメだ」
「ぶぅう。まだなーんにも言ってないのに」
「どうせカオスを貸せと言うのだろう?」
「いーーーっだ! ザッちゃんのけちんぼ!」

芹沢がザドゥに無邪気に絡み、無邪気に拗ねて、無邪気に忘れる。
ここに至るまでの数分間、このやりとりは繰り返されていた。
ザドゥは芹沢を肩でブロックしつつ、レプリカに労いの言葉をかける。

「時間どおりとは流石だな、椎名よ」
「それが、3.58秒程遅れてしまったのです。済みませんな、ザドゥ様」

レプリカの返答は謝罪の体裁を成してはいたが、その実、
ザドゥらが遅れて到着したことへのあてこすりに他ならない。
己を軽く見られることをザドゥは嫌う。
故に、彼は椎名智機を虫の好かぬ輩だと感じていた。
とりわけ今回のような自らの優秀さを鼻にかけた態度を疎んじていた。
しかし、今のザドゥは疲れ果てていた。
その慇懃無礼さを頼もしく感じてしまうほどに。

「先ずは酸素吸入を。その顔色は一酸化炭素中ど――」
「それよりもねえこれ何? ねーねー教えてよともきーん」
「黙れ芹沢。椎名も構うなよ」

ザドゥはまだ気付いていない。
自らの芹沢の扱いが徐々にぞんざいになってきていることに。
彼女に対する口調に苛立ちを隠せなくなってきていることに。


90:カモちゃん☆すらっしゅ! (3/10)
08/12/07 22:11:12 oPJjrWJr0


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   

ここまで全てのフェーズを順調にこなしていたレプリカ智機だったが、
フェーズⅣ実行の段にあたり、予定外の遅滞を招くこととなった。

フェーズⅣ――ザドゥと芹沢のリペア。
酸素吸入。
栄養剤と解熱剤の投与。
水分補給。
火傷の手当。
レプリカは脱水状態、火傷の度数、一酸化炭素中毒の軽重など、様々な場合を
想定した上で、タスクにかかる時間を5分と割り出していたのだが……

「きゃー♪ ひゃっこいひゃっこい!」

あらゆる事柄にいちいち反応し大人しく指示に従わない芹沢が、
予定を大幅に狂わせていたのだ。

「ザドゥ様、こんどは足です。芹沢の足を押さえつけてください」
「暴れるな」
「だってひゃっこいんだもーん」
《わしもオーラな触手が出せれば手伝ってやれるんじゃがのぅ……
 胸を押さえつけたりとか、ジェルをおっぱいに塗ったりとか》
「貴様は口を開くな、カオス」

芹沢の体をザドゥが押さえつけ、レプリカが吸熱ジェルを塗布する。
フェーズⅣの全てのタスクを終える頃には、4分のロスタイムが生じていた。


91:名無しさん@初回限定
08/12/07 22:13:51 OmFh+o/WP


92:カモちゃん☆すらっしゅ! (4/10)
08/12/07 22:19:37 oPJjrWJr0

そして迎えたのはフェーズⅤ――森からの脱出。
ここからこそが本番。

「椎名、脱出の方策を述べろ」
「Yes、ザドゥ様。炎を掻い潜りつつ徒歩にて脱出いたします」
「今までと変わらぬということか」
「その答えはYesでもありNoでもあります。
 徒歩による脱出、という点がYes。手探りで経路を探さなくてはならない点がNo。
 今後の経路探索は、私に内蔵されている赤外線センサーとサーモグラフィーにて行ないます。
 より精度と安全性の高いルートとなるでしょう」

もう、カオスに頼らなくていいのだ。
ザドゥは胸を撫で下ろす。
その安堵を気取った魔剣がザドゥに軽口を叩く。

《良かったのう、ザッちゃん》
「ふん、まだまだ行けたがな」

ザドゥは強がってはいるものの、カオス使用の疲労感はずっしりと体に圧し掛かっていた。
この合流地点に辿り付くまでに剣を振った回数は17回。
数をこなす度に煙の散らし方はこなれてきたものの、
その一振り一振りに、彼の気力はごりごりと削り取られていた。
虚脱感で膝がふらつくこともあった。意識をもっていかれかけたこともあった。
限界は近い。そうも感じていた。
そのカオスを振るわずとも、視界が確保できるという。
ザドゥの疲労感に染まった心に光明が差す。

「脱出にかかると予想される時間は、出発後15~20分。
 学校からの4機と早期に合流できれば更に短縮されるでしょう」


93:カモちゃん☆すらっしゅ! (5/10)
08/12/07 22:21:20 oPJjrWJr0

レプリカは手と尻に付着した汚れを払いながら立ち上がり、
まだ開けていない方のボストンバッグをザドゥに手渡す。

「私はこれより脱出ルートの模索を開始します。その間に耐熱スーツ等一式の着用を。
 なお、酸素吸入器は放置されますよう。爆発の可能性がありますので」

ザドゥがバッグを受け取ると、レプリカはクレーターの北東の端へと歩き出す。
バッグの中に装備は2組。
ザドゥはうち1組を芹沢に手渡すべく、声をかける。

「ひとりで着れるな?」
「うん」

大人しくスーツを受け取る芹沢に胸を撫で下ろしつつ、ザドゥはもう1組のスーツを手に取った。
カオスを地面に置き、両手でツナギ形態のスーツのジッパーを下ろす。
2、3度それを振って着やすい状態にすると、装着のため右足を差し込んだ。

差し込んだ右足のそばに、カオスが無かった。
バッグの脇に確かに寝かせておいたはずの魔剣が。
かわりに、スーツが落ちていた。
芹沢が受け取ったはずのスーツが。

(芹沢は何と言っていた?
 必殺技、必殺技ともの欲しそうに繰り返していなかったか?)

ザドゥは慌てて芹沢の姿を探す。
視界に捉えた後方の芹沢は、またしてもザドゥの悪い予感を裏切らなかった。

「せ~のっ! カモちゃ~ん★すら~っしゅ!」


94:名無しさん@初回限定
08/12/07 22:25:24 OmFh+o/WP


95:カモちゃん☆すらっしゅ! (6/10)
08/12/07 22:26:18 oPJjrWJr0

神道無念流――
略打を唾棄し真打のみを良しとする剛の剣術。
その免許皆伝者であるカモミール・芹沢が構えたるは左霞。
寸刻の後、放たれたるは非打十本の一、霞腋掬。
それだけで既に秘技奥義に数えられる程の技。
そこにカオスの魔人すら屠る魔力が乗ぜられる。
顕れるは即ち「必殺技」に他ならない。

ザドゥには見えた。カモミール・芹沢が掬い上げた剣から迸る衝撃派が。
それは芹沢の胸の高さで北々東へと飛んでゆき、クレーターの最上部を鋭く抉る。
吹き飛ぶ土塊。揺れる木々。飛び散る火の粉。
その近くに佇むレプリカ智機。
彼女は最適ルートを割り出すべく各種センサーに意識を集中させていた。

「椎名っ!!!」

ザドゥは言葉の選択を誤った。

「なんです?」

名を呼ばれたレプリカは振り返ってしまう。
斜め後方から、燃え滾る樹木を背に乗せた地滑りが襲い来るのに気付くこと無く。

「避けろ!」

名前に続く警告は、果たして彼女の耳に届いただろうか。
いや、届いたところで到底回避し得なかっただろう。
瞬く間も無くレプリカは地滑りに巻き込まれ、
その頭部を樹木の重量に押しつぶされてしまったのだから。


96:カモちゃん☆すらっしゅ! (7/10)
08/12/07 22:28:11 oPJjrWJr0

ザドゥにレプリカ智機の最期を悼む暇は無かった。
斜面の一区画が崩れ去ればあとは雪崩式。
周囲の悉くがドミノ倒しの如く地滑りは連鎖した。

ざざざ。どどどど。
ずぅぅぅぅ……

ザドゥは耐火スーツに突っ込んでいた片足をスーツから抜く。
しかし恐怖が焦りを呼び、爪先をスーツに取られ転倒してしまう。

「ぬ、ぬ!」

ザドゥ腰が抜けたような無様な格好で土砂から逃れるべく、あがく。
ズボンが脱げない。
転がり、這い上がる。
立ち上がり、転倒する。
足を振る。
足を振る。
ズボンはまだ脱げない。
炎を纏った樹木が迫る。
喚く。転がる。転がる。
樹木を回避する。
ズボンはまだ脱げない。

ザドゥは無我夢中だった。
芹沢を気にかける余裕など無かった……


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


97:名無しさん@初回限定
08/12/07 22:29:46 OmFh+o/WP


98:カモちゃん☆すらっしゅ! (8/10)
08/12/07 22:33:50 oPJjrWJr0

巻き上がった土埃がようやく収まった。
ザドゥは辛うじてクレーターから脱出し、難を逃れている。
脱ごうに脱げなかったスーツはいつの間にか破れ、千切れていた。

「椎名、椎名、応答しろ! 椎名、椎名、応答しろ!」

ザドゥが悲痛な叫びで通信機の向こうへと訴える。
通信機が返すのはザーザーと耳障りなノイズのみ。

(ちっ、ダメか。ビーコンとやらまで壊れていないといいが……)

通信機能は死んだものの、幸いにしてビーコン機能までは壊れていない。
管制室のレプリカ達がザドゥの位置情報を得ることは可能だ。
しかし、それは既に無意味な機能に成り下がっていた。
ザドゥは知らない。
知る由も無い。
この時、管制室のレプリカ智機達がザドゥを見捨てる決定を下したということを。
学校から救助に来ていた4機のレプリカが消息を絶ったということを。

「ありゃー、失敗失敗♪」

埋まったクレーターの向こう側から、芹沢が姿を現した。
悪びれた様子もなくてへりと舌を出しながら、ザドゥに向かって歩いてくる。
可愛らしい表情だった。
年齢や性別を超えた人懐っこさがあった。
現在置かれている境遇と、己がやらかしてしまった失態を理解していれば、
到底できない表情だった。

ザドゥの視界がぐらりと揺れる。


99:カモちゃん☆すらっしゅ! (9/10)
08/12/07 22:34:19 oPJjrWJr0

芹沢の状態は正常では無い。
薬の影響が抜けきらず、危機感が希薄なうえ、
次から次へと新しいことに目が向き、集中力が続かない。
それはザドゥにも判っている。

「思ったよりも凄くて、あたしもびっくりだよぉ」

芹沢の行為に悪意は無い。
必殺技という言葉の響きへの純粋な好奇心と、
自分も役に立ちたいという仲間思いの故の行為だ。
それもザドゥには判っている。

「あれー、ともきんはどこー? かくれんぼかなー?」

しかし、結果として。

頼みの綱のレプリカが燃え盛る木に潰されてしまった。
命を繋ぐはずだった耐熱スーツも土砂に埋もれてしまった。
通信機すら破壊されてしまった。

「ねぇねぇザッちゃん、ともきん知らない?」

ザドゥは、もともと短気な男ではある。
攻撃的な男でもある。
カオスから負の影響も受けている。
よくここまで我慢した、と言うべきであろう。

「…………………………っ……」
《やめんかザッちゃん!》


100:名無しさん@初回限定
08/12/07 22:37:04 OmFh+o/WP


101:カモちゃん☆すらっしゅ! (10/10)
08/12/07 22:40:30 oPJjrWJr0

気配を察したカオスの静止はザドゥに届かない。
てとてとと駆け寄ってくる芹沢は、ザドゥが纏う剣呑な空気に気付かない。
ザドゥは声を震わせて拳を強く握り込む。

「……この馬鹿女があッッ!!」

技術も込めず、気も込めず。
ただ怒りのみを込めたザドゥの拳が芹沢の横っ面を打ち抜いた。

              ↓



102:カモちゃん☆すらっしゅ! (情報 1/1)
08/12/08 00:15:22 0c1FXzf90

【グループ:ザドゥ・芹沢】
【現在位置:G-3地点 東の森北東部】
【スタンス:森林火災からの自力脱出】

【主催者:ザドゥ】
【所持品:魔剣カオス、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:右手火傷(中)、疲労(中)、ダメージ(小)、カオスの影響(小)】

【主催者:カモミール・芹沢】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
     鉄扇、トカレフ】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
【備考:アッパートリップ、脱水症(中)、疲労(中)、腹部損傷】

※ 通信機は故障。通信機能は死にましたが、ビーコン機能は生きています。
※ 2人とも救援物資のお陰で疲労と怪我が多少癒えた模様です。


103:歪な盤上の駒-道-(1)
08/12/09 01:30:30 oGgTesop0


「――何故、起動できた?」
「DMN権限を取得したからね」
「――何故、取得できた?」
「最高指揮官ザドゥ様より与えられましたので」

 管制室で三つの同じ顔が向かい合い、内一人が質問をしていた。

「解った……」

 質問をしていた一人が呟くとそのままくるりと回って二人を背にする。

「私はケイブリスに完成した補修具と修繕の完了した鎧を届けてくる。
しばらくはそのまま任務を遂行してくれ。
……指示は……あれば後で逐次出す」

 背にした一人はそう言うと荷物の山を受け取り、カツカツと地面に音を響かせて管制室を後にした。
 残る二人は皮肉の一つも口に出さずあっさり引いたオリジナルに違和感を覚える。

(気にはなる―― が、先ず為すべきはザドゥ救出、火災対策の両タスクだ)

 所詮、彼女達はレプリカであり機械として定められた思考ロジックでしか処理することができない。
 違和感を覚えたとしても疑問を抱くことはない。
 考察をしたとしてもそれは状況判断。
 そこが彼女達とオリジナルの違いであろう。

104:歪な盤上の駒-道-(2)
08/12/09 01:35:35 oGgTesop0



「帰っていきなりこれか……。
やれやれ、余程私は運の悪い星の下に製造されたらしい」

 ふん。
 とレプリカ二体を……いや、この境遇をもたらした運命を彼女はあざ笑った。

(今となってはそのままくたばってくれても良かったのだが……。
既に危険地区から誘導がされ、救援を目的とした機体が一機出動した後か……。
ザドゥのやつも悪運が余程強いと見えるな)

 ケイブリスの元へと向かいながら、レプリカ達から受信されたデータを洗いなし、その横で一方的に彼女達の様子をモニターする。
 アドミニストレーター権限を一時的に代行させたとしても、オリジナルの持つ統制機能が失われているわけではない。

――つまり君たちはこう主張する訳だ
――即時全機投入!!
――即時全機投入!!
――即時全機投入!!

「その判断は正しい。私でもそうしただろう。背に腹を代えれない。
しかし、ザドゥ達の優先順位がおかげで低くなり、なくなるとはな。
ふっ、その辺りは『私』と言った所か」

105:歪な盤上の駒-道-(3)
08/12/09 01:36:36 oGgTesop0

――しかし…… オリジナルの私がこの状況を見たら目を回すだろうね!
――だから今、オリジナルがいない今、行うのだよ。
――わたしがアドミニストレーター権限を保有しているうちにね。
――【自己保存】を中心に据えた判断をされたら、
――本拠地の守りは残す、Dシリーズは温存しておくだの言い出しかねんだろう?
――くくっ、臆病者だな、オリジナルは」
――責めてやるな、私。それが【自己保存】なのだから

(……良く言う)

 と智機は思った。

「まぁ、先程までの私ならそう思っただろうな」

 人でいえば悟り……真理に到達したとでもいうのだろうか。
 それとも達観したとあざ笑われるのであろうか。
 プランナーの下で思いをぶつけ、何かを得た智機は不思議と落ち着いていた。
 冷静に、そして確実に自分の願いを叶えるために……。

(しかし、所詮ヤツラでは状況判断しかできていない……状勢判断は不可能。
理論でしか物を判断することのできないが故のミスに気づいていない)

 そう言うと残る首輪の反応を得るために管制室に纏められた探知機器を統括する部分へとリンクし、データを拾い上げていく。

106:歪な盤上の駒-道-(4)
08/12/09 01:40:44 oGgTesop0

――しかし…… オリジナルの私がこの状況を見たら目を回すだろうね!
――だから今、オリジナルがいない今、行うのだよ。
――わたしがアドミニストレーター権限を保有しているうちにね。
――【自己保存】を中心に据えた判断をされたら、
――本拠地の守りは残す、Dシリーズは温存しておくだの言い出しかねんだろう?
――くくっ、臆病者だな、オリジナルは」
――責めてやるな、私。それが【自己保存】なのだから

(……良く言う)

 と智機は思った。

「まぁ、先程までの私ならそう思っただろうな」

 人でいえば悟り……真理に到達したとでもいうのだろうか。
 それとも達観したとあざ笑われるのであろうか。
 プランナーの下で思いをぶつけ、何かを得た智機は不思議と落ち着いていた。
 冷静に、そして確実に自分の願いを叶えるために……。

(しかし、所詮ヤツラでは状況判断しかできていない……状勢判断は不可能。
理論でしか物を判断することのできないが故のミスに気づいていない)

 そう言うと残る首輪の反応を得るために管制室に纏められた探知機器を統括する部分へとリンクし、データを拾い上げていく。

107:歪な盤上の駒-道-(5)
08/12/09 01:44:36 oGgTesop0

(№16:朽木双葉、死亡したか……。
最後の状況から№23:アインも死亡したと判断できるな)

 逐次纏められ、更新されるデータを次々と受信していく。

(残る首輪を持った参加者は……No28:しおりは生きているな。
No40:仁村知佳は相変わらずの磁場で正確に探知不可能か……。
だが、時間はかかるがその磁場を追えば居場所はある程度絞り込めた上で予測から特定することはできるだろう)

「くくっ。OK、上場だな……」

 集められたデータを纏め上げると智機は直ぐさま今後の指針と取るべき行動を打ち出す。

 まず一つ目は、反乱者たちの存在を何とかしなければならない。
 現在、管制室を含め、本拠地は迎撃に迎える駒がいない。
 自分と代行権で指示を出している二体、そしてケイブリス。
 その四つしか動かせる駒が存在していないのだ。
 もし、この状況下で彼ら、反逆者達がが襲撃をかけてきたとしたら?

――GAME OVER。

108:歪な盤上の駒-道-(6)
08/12/09 01:48:43 oGgTesop0

 可能性が100ではないが、高確率で管制室を破壊され、ゲーム崩壊へとカウンターが進むのを止めれなくなるだろう。
 しかも、レプリカ達の判断基準であるゲーム運営の中ではザドゥ達の優先順位が低く、
事実その論理で構築された行動を取っている今、ザドゥ達の救出は消火活動が終わるまで実行に移されない。
 最悪、ザドゥ達もこの火災で死ぬば完全にゲームエンドであったが、一応であるが救援物質は辿り着いた。
 しばらく本拠地へ戻ってこれるかは難しいところだが、あの様子では当面死にはしないと判断できる。
 しかし、その間に反逆者たちに本拠地……管制室を制圧されたらダウトだ。
 
(所詮、レプリカでは戦略に基づいた状勢判断は無理と言うことだな)

 反逆者達がここに気づいている可能性がない場合もあるが、逆に気づいている可能性もある。
 いなかったとしてもここへ続く道をどこかで発見するかもしれない。

(No40:仁村知佳……彼女の能力ならもしかしたらここに気づく可能性……既に気づいてる可能性も。
もしくは見当をつけている……つけれるかもしれない)

 更に6人組と合流すれば、より見当をつけてくる可能性が高い。




109:歪な盤上の駒-道-(7)
08/12/09 01:51:08 oGgTesop0
(消火が終わるまでの時間、なんとしてもこの七人は抑えなくてはいけない。
No28:しおりとだけは絶対にぶつかってもらっては困る)

 今回の状況を見過ごすと言う選択肢はなかった。
 既に双葉とアインの二名が死んだおかげで、残る首輪持ちは二人、内一人は場所の特定がはっきりとしない。
 更にもう片方は、燃える森の中に取り残されており、このままいけば、近く、仲良く双葉とアインのお仲間になってしまう。
 仮にザドゥが残りの参加者達と出会うことなく、無事本拠地へ戻ってこれたとしてもこの状況下ではお手上げである。
 この活動が終わる頃には残るレプリカ達の半数以上が使い物にならなくなるデータが出されている。
 現在、首輪をつけていないもの達を何とかして窮地に追い込み、無理矢理首輪をつけさせると言う手段もなくはないが、
いかんせん、それをできるだけの余力が現在ない。
 消火活動が完全に終わり、ザドゥ達が無事に戻って来れるのなら、多少の余力は残るが、
カモミール・芹沢の方は戦力として使いつづけれるのかどうかがあやしい。
 しおりを除く残る7人に無理矢理ゲームを行わさせるとしたら、力づくで解らせ、追い詰める以外は難しいと言える。
 では、その役目は誰が行なうのか?

 透子……直接の戦闘能力はほぼ皆無。『読み替え』に制限がかかった以上返り討ちに合う。
 カモミール……論外。戦闘力は上昇してるが幾ら彼女とて7人を相手にはできない。それに下手したら身体の方が持たない可能性が高い。
 智機……半数以上が消火活動により消失する以上、やるなら防衛を捨て全機体で行くぐらいにしないと駄目だろう。智機としてはイチかバチかのそれは望むところではない。

 結局、戦力の要になるのはザドゥ本人かケイブリスが出るしかない。
 二人がタッグを組めば、そして残る全員でフォローすれば確実にできるだろうが……。
 しかし、それはザドゥ達が一切傷つくことなく無事に帰ってきた場合だ。
 その上でザドゥと透子は、威圧行為に手を出し、手を染めるのを認めなければいけない。


110:歪な盤上の駒-道-(8)
08/12/09 21:41:32 dWZwWEQl0
(……下手をしたらゲームオーバー確定だな)

 それでも反抗するという者を処分すれば、最後まで抵抗され最悪誰も残らない可能性がある。
 では、意識を失わせ無理矢理首輪をつけるか?
 ザドゥがそこまでの介入を許すだろうか? 行なうだろうか?
 可能性はあるが、それでも最後まで反抗する者しか残っていなかったら終わりだ。
 狭霧やユリーシャ辺りは乗ってくれるかもしれないが、ザドゥが彼女達だけを戦闘で意図的に残すなんてことをするとは彼の信義からも思えない。
 運良く残れば良いと言ったところだろう。
 そして先程も言ったように何らかにより、乗ってくれそうなものが既にいなくなってる可能性もある。
 そんなイチかバチかの賭けに乗るつもりは更々ない。

 が、これらは全てザドゥ達が無事に戻ってくる、智機のレプリカも想定範囲内の損失で帰還できる、火災も想定範囲内で収まるの条件が整った上でだ。
 ザドゥ達が無事に戻ってくる保証など全くな上に、レプリカ達ですら参加者達にあえば消火活動を優先していられる可能性は低い。
 そして残る参加者達が本拠地へ来た時点でダウト。
 一点でもかければ今述べたことは無理な上に、消火前にゲームオーバーになる可能性だってある。
 ならばいっそのことザドゥには6人組とぶつかって時間稼ぎをしてもらい彼らを消耗でもさせてくれた方が、確実に役の立つ。

 智機が取る選択肢は二つある。
 一つは、しおりを諦め、ザドゥが無事帰還するのを待ち、レプリカが想定の範囲内で帰還するのを待ち、参加者が本拠地に来ないことを祈る。つまり全てを天運に任せることだ。
 二つ目は、しおりを何としてでも確保し、参加者達が本拠地へ来るのを防ぐ。できる限り今の状況に介入する方針。

(……見過ごしてなどいられるものか。私は……私の願いを叶える為に全力を尽くす!!)

111:歪な盤上の駒-道-(9)
08/12/09 21:42:58 dWZwWEQl0
 6人組――ザドゥに相手をしてもらう。消火までの時間稼ぎと彼らの戦力を減らすのが目的。

 No40:仁村知佳――首輪があるとはいえ、もしかしたら爆発不可能な可能性がある。
単独で彼女がここに来るだけでも脅威。故に居場所を確認、その後何らかの手段を打つ必要あり。

 ザドゥ――しばらくは無理だと思われるが、どの道今本拠地に戻ってきても用はない。
6人をぶつける為にも居場所の把握と地上への引止めのために、レプリカを一機再派遣する必要有り。
幸い、今回の接見に使ったレプリカは、オリジナル以外とはリンクしておらずアドミニストレーター権限による指令では動かせない。
管制室へと引き上げ、投入することが可能だ。

 御陵透子――ザドゥに加担するようなら6人に一緒に相手にしてもらう。
できればその方向で行きたい。

 カモミール・芹沢――彼女の動機を考えれば説得が可能と思われる。できるなら引き込む。
がザドゥに対して特別な感情を抱いてる節があり、信義とやらの兼ね合いでつかない可能性もある。
最初の説得で決裂したなら速やかに6人の相手に加わってもらう。

 ケイブリス――現時点では動かせる唯一の戦力であるが故に6人の誘導が成功するまでは本拠地から動かせず。
策が成功次第、6人が負けそうなら不意打ちをしてもらうために出動して待機してもらわねばならない。
最後にしおりが相手をする一人が生き残ってもらわなければならないし、ケイブリス自身との約束がある。

 No28:しおり――即時確保。この行動はゲーム運営の妨げにはならず、彼女への支援活動はゲーム進行の手助けとなる。
よって、見つけ次第確保し、此方へ連れて来る命令をレプリカ達に加えることが可能。
そして確保したしおりへ素敵医師との取引で得た薬は勿論、あらゆる手を用いて強化を行ない次第、
ザドゥとの戦いで疲労した参加者達をケイブリスに襲わせトドメを彼女に刺させる。

それでゲーム完了。


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