バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第7部at EROG
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第7部 - 暇つぶし2ch100:名無しさん@初回限定
08/12/07 22:37:04 OmFh+o/WP


101:カモちゃん☆すらっしゅ! (10/10)
08/12/07 22:40:30 oPJjrWJr0

気配を察したカオスの静止はザドゥに届かない。
てとてとと駆け寄ってくる芹沢は、ザドゥが纏う剣呑な空気に気付かない。
ザドゥは声を震わせて拳を強く握り込む。

「……この馬鹿女があッッ!!」

技術も込めず、気も込めず。
ただ怒りのみを込めたザドゥの拳が芹沢の横っ面を打ち抜いた。

              ↓



102:カモちゃん☆すらっしゅ! (情報 1/1)
08/12/08 00:15:22 0c1FXzf90

【グループ:ザドゥ・芹沢】
【現在位置:G-3地点 東の森北東部】
【スタンス:森林火災からの自力脱出】

【主催者:ザドゥ】
【所持品:魔剣カオス、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:右手火傷(中)、疲労(中)、ダメージ(小)、カオスの影響(小)】

【主催者:カモミール・芹沢】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
     鉄扇、トカレフ】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
【備考:アッパートリップ、脱水症(中)、疲労(中)、腹部損傷】

※ 通信機は故障。通信機能は死にましたが、ビーコン機能は生きています。
※ 2人とも救援物資のお陰で疲労と怪我が多少癒えた模様です。


103:歪な盤上の駒-道-(1)
08/12/09 01:30:30 oGgTesop0


「――何故、起動できた?」
「DMN権限を取得したからね」
「――何故、取得できた?」
「最高指揮官ザドゥ様より与えられましたので」

 管制室で三つの同じ顔が向かい合い、内一人が質問をしていた。

「解った……」

 質問をしていた一人が呟くとそのままくるりと回って二人を背にする。

「私はケイブリスに完成した補修具と修繕の完了した鎧を届けてくる。
しばらくはそのまま任務を遂行してくれ。
……指示は……あれば後で逐次出す」

 背にした一人はそう言うと荷物の山を受け取り、カツカツと地面に音を響かせて管制室を後にした。
 残る二人は皮肉の一つも口に出さずあっさり引いたオリジナルに違和感を覚える。

(気にはなる―― が、先ず為すべきはザドゥ救出、火災対策の両タスクだ)

 所詮、彼女達はレプリカであり機械として定められた思考ロジックでしか処理することができない。
 違和感を覚えたとしても疑問を抱くことはない。
 考察をしたとしてもそれは状況判断。
 そこが彼女達とオリジナルの違いであろう。

104:歪な盤上の駒-道-(2)
08/12/09 01:35:35 oGgTesop0



「帰っていきなりこれか……。
やれやれ、余程私は運の悪い星の下に製造されたらしい」

 ふん。
 とレプリカ二体を……いや、この境遇をもたらした運命を彼女はあざ笑った。

(今となってはそのままくたばってくれても良かったのだが……。
既に危険地区から誘導がされ、救援を目的とした機体が一機出動した後か……。
ザドゥのやつも悪運が余程強いと見えるな)

 ケイブリスの元へと向かいながら、レプリカ達から受信されたデータを洗いなし、その横で一方的に彼女達の様子をモニターする。
 アドミニストレーター権限を一時的に代行させたとしても、オリジナルの持つ統制機能が失われているわけではない。

――つまり君たちはこう主張する訳だ
――即時全機投入!!
――即時全機投入!!
――即時全機投入!!

「その判断は正しい。私でもそうしただろう。背に腹を代えれない。
しかし、ザドゥ達の優先順位がおかげで低くなり、なくなるとはな。
ふっ、その辺りは『私』と言った所か」

105:歪な盤上の駒-道-(3)
08/12/09 01:36:36 oGgTesop0

――しかし…… オリジナルの私がこの状況を見たら目を回すだろうね!
――だから今、オリジナルがいない今、行うのだよ。
――わたしがアドミニストレーター権限を保有しているうちにね。
――【自己保存】を中心に据えた判断をされたら、
――本拠地の守りは残す、Dシリーズは温存しておくだの言い出しかねんだろう?
――くくっ、臆病者だな、オリジナルは」
――責めてやるな、私。それが【自己保存】なのだから

(……良く言う)

 と智機は思った。

「まぁ、先程までの私ならそう思っただろうな」

 人でいえば悟り……真理に到達したとでもいうのだろうか。
 それとも達観したとあざ笑われるのであろうか。
 プランナーの下で思いをぶつけ、何かを得た智機は不思議と落ち着いていた。
 冷静に、そして確実に自分の願いを叶えるために……。

(しかし、所詮ヤツラでは状況判断しかできていない……状勢判断は不可能。
理論でしか物を判断することのできないが故のミスに気づいていない)

 そう言うと残る首輪の反応を得るために管制室に纏められた探知機器を統括する部分へとリンクし、データを拾い上げていく。

106:歪な盤上の駒-道-(4)
08/12/09 01:40:44 oGgTesop0

――しかし…… オリジナルの私がこの状況を見たら目を回すだろうね!
――だから今、オリジナルがいない今、行うのだよ。
――わたしがアドミニストレーター権限を保有しているうちにね。
――【自己保存】を中心に据えた判断をされたら、
――本拠地の守りは残す、Dシリーズは温存しておくだの言い出しかねんだろう?
――くくっ、臆病者だな、オリジナルは」
――責めてやるな、私。それが【自己保存】なのだから

(……良く言う)

 と智機は思った。

「まぁ、先程までの私ならそう思っただろうな」

 人でいえば悟り……真理に到達したとでもいうのだろうか。
 それとも達観したとあざ笑われるのであろうか。
 プランナーの下で思いをぶつけ、何かを得た智機は不思議と落ち着いていた。
 冷静に、そして確実に自分の願いを叶えるために……。

(しかし、所詮ヤツラでは状況判断しかできていない……状勢判断は不可能。
理論でしか物を判断することのできないが故のミスに気づいていない)

 そう言うと残る首輪の反応を得るために管制室に纏められた探知機器を統括する部分へとリンクし、データを拾い上げていく。

107:歪な盤上の駒-道-(5)
08/12/09 01:44:36 oGgTesop0

(№16:朽木双葉、死亡したか……。
最後の状況から№23:アインも死亡したと判断できるな)

 逐次纏められ、更新されるデータを次々と受信していく。

(残る首輪を持った参加者は……No28:しおりは生きているな。
No40:仁村知佳は相変わらずの磁場で正確に探知不可能か……。
だが、時間はかかるがその磁場を追えば居場所はある程度絞り込めた上で予測から特定することはできるだろう)

「くくっ。OK、上場だな……」

 集められたデータを纏め上げると智機は直ぐさま今後の指針と取るべき行動を打ち出す。

 まず一つ目は、反乱者たちの存在を何とかしなければならない。
 現在、管制室を含め、本拠地は迎撃に迎える駒がいない。
 自分と代行権で指示を出している二体、そしてケイブリス。
 その四つしか動かせる駒が存在していないのだ。
 もし、この状況下で彼ら、反逆者達がが襲撃をかけてきたとしたら?

――GAME OVER。

108:歪な盤上の駒-道-(6)
08/12/09 01:48:43 oGgTesop0

 可能性が100ではないが、高確率で管制室を破壊され、ゲーム崩壊へとカウンターが進むのを止めれなくなるだろう。
 しかも、レプリカ達の判断基準であるゲーム運営の中ではザドゥ達の優先順位が低く、
事実その論理で構築された行動を取っている今、ザドゥ達の救出は消火活動が終わるまで実行に移されない。
 最悪、ザドゥ達もこの火災で死ぬば完全にゲームエンドであったが、一応であるが救援物質は辿り着いた。
 しばらく本拠地へ戻ってこれるかは難しいところだが、あの様子では当面死にはしないと判断できる。
 しかし、その間に反逆者たちに本拠地……管制室を制圧されたらダウトだ。
 
(所詮、レプリカでは戦略に基づいた状勢判断は無理と言うことだな)

 反逆者達がここに気づいている可能性がない場合もあるが、逆に気づいている可能性もある。
 いなかったとしてもここへ続く道をどこかで発見するかもしれない。

(No40:仁村知佳……彼女の能力ならもしかしたらここに気づく可能性……既に気づいてる可能性も。
もしくは見当をつけている……つけれるかもしれない)

 更に6人組と合流すれば、より見当をつけてくる可能性が高い。




109:歪な盤上の駒-道-(7)
08/12/09 01:51:08 oGgTesop0
(消火が終わるまでの時間、なんとしてもこの七人は抑えなくてはいけない。
No28:しおりとだけは絶対にぶつかってもらっては困る)

 今回の状況を見過ごすと言う選択肢はなかった。
 既に双葉とアインの二名が死んだおかげで、残る首輪持ちは二人、内一人は場所の特定がはっきりとしない。
 更にもう片方は、燃える森の中に取り残されており、このままいけば、近く、仲良く双葉とアインのお仲間になってしまう。
 仮にザドゥが残りの参加者達と出会うことなく、無事本拠地へ戻ってこれたとしてもこの状況下ではお手上げである。
 この活動が終わる頃には残るレプリカ達の半数以上が使い物にならなくなるデータが出されている。
 現在、首輪をつけていないもの達を何とかして窮地に追い込み、無理矢理首輪をつけさせると言う手段もなくはないが、
いかんせん、それをできるだけの余力が現在ない。
 消火活動が完全に終わり、ザドゥ達が無事に戻って来れるのなら、多少の余力は残るが、
カモミール・芹沢の方は戦力として使いつづけれるのかどうかがあやしい。
 しおりを除く残る7人に無理矢理ゲームを行わさせるとしたら、力づくで解らせ、追い詰める以外は難しいと言える。
 では、その役目は誰が行なうのか?

 透子……直接の戦闘能力はほぼ皆無。『読み替え』に制限がかかった以上返り討ちに合う。
 カモミール……論外。戦闘力は上昇してるが幾ら彼女とて7人を相手にはできない。それに下手したら身体の方が持たない可能性が高い。
 智機……半数以上が消火活動により消失する以上、やるなら防衛を捨て全機体で行くぐらいにしないと駄目だろう。智機としてはイチかバチかのそれは望むところではない。

 結局、戦力の要になるのはザドゥ本人かケイブリスが出るしかない。
 二人がタッグを組めば、そして残る全員でフォローすれば確実にできるだろうが……。
 しかし、それはザドゥ達が一切傷つくことなく無事に帰ってきた場合だ。
 その上でザドゥと透子は、威圧行為に手を出し、手を染めるのを認めなければいけない。


110:歪な盤上の駒-道-(8)
08/12/09 21:41:32 dWZwWEQl0
(……下手をしたらゲームオーバー確定だな)

 それでも反抗するという者を処分すれば、最後まで抵抗され最悪誰も残らない可能性がある。
 では、意識を失わせ無理矢理首輪をつけるか?
 ザドゥがそこまでの介入を許すだろうか? 行なうだろうか?
 可能性はあるが、それでも最後まで反抗する者しか残っていなかったら終わりだ。
 狭霧やユリーシャ辺りは乗ってくれるかもしれないが、ザドゥが彼女達だけを戦闘で意図的に残すなんてことをするとは彼の信義からも思えない。
 運良く残れば良いと言ったところだろう。
 そして先程も言ったように何らかにより、乗ってくれそうなものが既にいなくなってる可能性もある。
 そんなイチかバチかの賭けに乗るつもりは更々ない。

 が、これらは全てザドゥ達が無事に戻ってくる、智機のレプリカも想定範囲内の損失で帰還できる、火災も想定範囲内で収まるの条件が整った上でだ。
 ザドゥ達が無事に戻ってくる保証など全くな上に、レプリカ達ですら参加者達にあえば消火活動を優先していられる可能性は低い。
 そして残る参加者達が本拠地へ来た時点でダウト。
 一点でもかければ今述べたことは無理な上に、消火前にゲームオーバーになる可能性だってある。
 ならばいっそのことザドゥには6人組とぶつかって時間稼ぎをしてもらい彼らを消耗でもさせてくれた方が、確実に役の立つ。

 智機が取る選択肢は二つある。
 一つは、しおりを諦め、ザドゥが無事帰還するのを待ち、レプリカが想定の範囲内で帰還するのを待ち、参加者が本拠地に来ないことを祈る。つまり全てを天運に任せることだ。
 二つ目は、しおりを何としてでも確保し、参加者達が本拠地へ来るのを防ぐ。できる限り今の状況に介入する方針。

(……見過ごしてなどいられるものか。私は……私の願いを叶える為に全力を尽くす!!)

111:歪な盤上の駒-道-(9)
08/12/09 21:42:58 dWZwWEQl0
 6人組――ザドゥに相手をしてもらう。消火までの時間稼ぎと彼らの戦力を減らすのが目的。

 No40:仁村知佳――首輪があるとはいえ、もしかしたら爆発不可能な可能性がある。
単独で彼女がここに来るだけでも脅威。故に居場所を確認、その後何らかの手段を打つ必要あり。

 ザドゥ――しばらくは無理だと思われるが、どの道今本拠地に戻ってきても用はない。
6人をぶつける為にも居場所の把握と地上への引止めのために、レプリカを一機再派遣する必要有り。
幸い、今回の接見に使ったレプリカは、オリジナル以外とはリンクしておらずアドミニストレーター権限による指令では動かせない。
管制室へと引き上げ、投入することが可能だ。

 御陵透子――ザドゥに加担するようなら6人に一緒に相手にしてもらう。
できればその方向で行きたい。

 カモミール・芹沢――彼女の動機を考えれば説得が可能と思われる。できるなら引き込む。
がザドゥに対して特別な感情を抱いてる節があり、信義とやらの兼ね合いでつかない可能性もある。
最初の説得で決裂したなら速やかに6人の相手に加わってもらう。

 ケイブリス――現時点では動かせる唯一の戦力であるが故に6人の誘導が成功するまでは本拠地から動かせず。
策が成功次第、6人が負けそうなら不意打ちをしてもらうために出動して待機してもらわねばならない。
最後にしおりが相手をする一人が生き残ってもらわなければならないし、ケイブリス自身との約束がある。

 No28:しおり――即時確保。この行動はゲーム運営の妨げにはならず、彼女への支援活動はゲーム進行の手助けとなる。
よって、見つけ次第確保し、此方へ連れて来る命令をレプリカ達に加えることが可能。
そして確保したしおりへ素敵医師との取引で得た薬は勿論、あらゆる手を用いて強化を行ない次第、
ザドゥとの戦いで疲労した参加者達をケイブリスに襲わせトドメを彼女に刺させる。

それでゲーム完了。

112:歪な盤上の駒-道-(10)
08/12/09 21:44:06 dWZwWEQl0


(以上と言った所か……。見過ごせば願いは適わない。
ゲームの成功のためではない、私は私の願いのために動かさせてもらう。
……まずは指揮権の獲得だな)

 もしキーボードがあるなら智機はカタカタと打ち鳴らしているだろう。

(まさか自分で自分をハッキングすることになるとはな……)

 一方的なアクセス権もとい統帥権をもつオリジナルだからできる芸当。
 もし同じ分機だったら、その前に気付かれずに進入とミッションをこなさねばならず不可能だろう。

――P-3の指揮権及び操作権へのハッキング開始。
――P-4、N-48、N-59へNo28、三機へのハッキング開始。
――P-4、N-48、N-59へNo28:しおりの確保を優先順位に挿入。
――P-4、N-48、N-59へNo28:しおりの確保の優先順位を最優先に。認可の為のロジックは先程の結果を代入。
――P-3の指揮権及び操作権へのハッキング成功、操作権取得、同期機能の使用確認。
――P-4、N-48、N-59へNo28、三機への命令権取得開始。
――P-4、N-48、N-59へNo28、三機への命令権取得、命令権優先順位のロジック回路へのクラッキング開始。
――偽装データの送信準備開始。

(こんな所か……)

113:歪な盤上の駒-道-(11)
08/12/09 21:45:31 dWZwWEQl0

 少々、火災が広がるが、シミュレートした結果では時間の遅延と全焼具合に変化がある程度。
 最悪の可能性も8%浮上するが、参加者もバカではない。
 海にいくなりして自衛はできる。
 優先すべきはしおりである。
 更に自律思考と自律行動を許可されているのが助かった。
 余程のことがない限りは、N-22が矯正しようとすることはないだろうし、その時にはしおりの確保と本拠地への輸送は完了する。
 その後、火災現場に戻せばいい。
 所詮、レプリカは状況判断で動くだけである。
 彼女らの行動は火災沈静になによりも優先されるが故に状況下ごとに最適な判断を下していくだけ。
 もし何かあるとすればザドゥの存在だが、レプリカ達には切り捨てられ、救出は望めない上に通信不可。
 レプリカ達は自らの判断でザドゥを切り捨てたのだ。
 智機を邪魔するものはなにもない。

(……運の悪い星の元ではあるがこれは絶好のチャンスでもある)

 そしてザドゥの死が確定すれば統帥権は智機へと繰り上がる。

(唯一の懸念はP-3の行動がばれた時か……。
が、火災が存在している内は、レプリカはP-3へのアクセス権と指揮権を奪回しようと動くことは不可能。
しおりの確保自体は首輪のおかげで即時可能、即座に元の仕事に従事させれば此方は何も問題ない。
つまり、時間との勝負か……最低でも残り二時間半以内にザドゥを始末せねばならない!)

114:歪な盤上の駒-道-(12)
08/12/09 21:47:03 dWZwWEQl0
 やるべきことは決まった。
 後はこの奥にいるケイブリスといかにして手を取りあっていき、いかに上手く使うか。
 これからの大切なパートナー。
 
「ケイブリス、私だ」

 口の端をつり、にやけながら智機は声をかけながら扉を開けた。




「おう、ようやく終わったのかよ」

 お茶をすすり飲んでいたケイブリスが智機の視界に映った。
 なんともまぁ、人間くさい所のある魔獣だ。
 自分もあまり他のことを言えないかもしれんがな。
 と智機は苦笑する。

「時間をかけてすまなかったな。約束したものもできた」

 台車によって運ばれてきた荷物の紐を解くとケイブリスにとって懐かしい鎧と腕にあった補強機が姿を現す。 

「くっくっく、ありがてぇな、礼を言っとくぜ」
「重かったがな……。
さて、装着しながらでよいのだが少々話したいことがある……」
「ん、なんだ?」

115:歪な盤上の駒-道-(13)
08/12/09 21:47:53 dWZwWEQl0
 ガシャッ、ガシャッ、と装着する音が聞こえる中、現状の問題点と今後の方針を智機は話し始めた。



「ふむ、なるほどな……。
むかつくとこだが……いいぜ」

 意外にもケイブリスは承知した。
 智機からすれば、もしかしたらランスがザドゥ達との戦いで死ぬ可能性があるのでケイブリスが拒絶することが唯一の懸念だったのだが。

「俺様だってバカじゃねぇ。ランスのやつを殺せても魔王になれないわ、もしかしたらまたあの世に戻るってんじゃ選択肢がねえだろうがよ……」
「もしかしたら怒るかと思っていたのだが意外だな……ふっ」
「まぁ、その代わり条件があるぜ? ザドゥの始末に加担して成功した後は…………俺様はランスと決着をつけさせてもらう」

 外見に見合わずのほほんとしていたのんきそうなケイブリスの瞳が打って変わってギラリと鋭くなる。
 並のものなら発狂して当然と言うケイブリスの瘴気が身体から再び放出される。
 智機でなかったら気を保つのに精神を使ったことだろう。

「解った。其方は此方も飲まなければいけないことだろう。
しかし、くれぐれも……」
「……わぁったよ。ランス以外を一人は残さなきゃいけないんだろ?
んでその前に捕まえといたやつにその一人を殺させると……」
「絶対に頼むぞ……」
「あぁ、解ってる。俺達の目的は一つ」

116:歪な盤上の駒-道-(14)
08/12/09 21:50:23 dWZwWEQl0

「「願いの成就」」

 ザドゥや透子がどう考えているかは解らないが、彼らの想いは固まっている。
 ゲームの運営のために願いを捨てる気にはなれない。
 そのためなら何だってできることはやってやろうじゃないか。
 二人の意思は一致した。

「「決まった(な)」」

 二人の顔がにやりと歪んだ。

「しばらくは管制室ではなく、ここから個々に指揮を取ろうと思う。
無論、必要があれば向こうにも行くが……」

 端末さえあればやろうとしてることに不便はない。
 勿論、より大規模で詳細なことをやろうとするならば管制室は必要だが、
これから行なおうとしてる程度ならここでも可能だ。

「その辺りは心配いらない。ここを離れなければいけないのは、しおりを確保した時に少々くらいだ」
「まぁ、わかったぜ……。それにしてもよ」
「……なんだ?」
「……機械と思ってたが、中々いい目になったじゃないか」
「どういう意味だ?」

117:歪な盤上の駒-道-(15)
08/12/09 22:25:24 ogQW/tK4P
 静かに真意を問う智機に対してケイブリスがにやける。
 興味深いモノを見つけたかのように。
 心根に共感し、協力をしているが、ケイブリスからすれば所詮は取るに足らない機械。
 パイアールが作っていたようなものだとどこか心の中で見下していた所が彼にはあった。

「いいぜ、その目……ギラギラとしてて餓えてる目だ。見直したぜ」

 俺様と協力するんなら、そのくらいでなくっちゃなぁ。とケイブリスは微笑した。
 
(私を認めてる? ということなのだろうか……)

「……誉め言葉として受け取っておこう」



118:歪な盤上の駒-道-(情報)
08/12/09 22:28:59 ogQW/tK4P
【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【スタンス:ザドゥ戦まで待機、反逆者の始末・ランス優先、
      智機と同盟】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み) 鎧(修復)】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】

【主催者:椎名智機】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【所持品:素敵医師から回収した薬物。その他?】
【スタンス:願いの成就優先。①ザドゥ達と他参加者への対処、②しおりの確保】
【能力:内蔵型スタンナックル、軽重火器装備、他】

119:ねがい(1)
08/12/14 15:40:03 3C4tnKdgP

>>#6 585

(二日目 PM6:28 E-8・漁協付近)

透子は輝きを失ったひび割れたロケットを見つめていた。
口だけで呼吸をしながら、ただ呆然と。

『つまり、今のあなたには救助活動は無理だと解釈してもいいのですね?』
「…………」

頷くのがやっとだった。
通信の向こうのN-22にとっては、なんの意味の無い行動になってるのにも関わらず。
彼女らしくも無い動揺だった。

『御陵透子、応答願います』
「…………ええ、その通り。火災の対処も、できないと思う」
『……了解しました。何かあれば通信機で連絡を。こちらから連絡を入れるケースもあるので紛失されないよう』
「……ええ」

透子の力ない返事を合図に通信は切れた。
破損したロケットを透子は再度握り締め、願う。
『読み替え』をするのではなく、プランナーと連絡を取る為に。
契約のロケットが前触れも無く破損した事の意味を問いただす為に。

(プランナーと連絡を)

だが先程のように思惟/情報がロケットに流れる感覚は無かった。
もう一度、透子は連絡を願ったが変化はなかった。

120:ねがい(2)
08/12/14 15:41:30 3C4tnKdgP

(どういう、こと?)

契約のロケットはゲーム開始前に、これ以上の前報酬は要らないと言っていた透子に対して、ルドラサウムからゲーム報酬の誓約の証として半ば強引に与えられた物だ。
これがもし、二神のいずれかによって破壊されたとするなら、其れは監察官を解任されたと解釈できる。

「……」

このタイミングで解任させられる程、これまで運営から逸脱する行動を取った覚えは透子にはない。
確かにゲーム前に提示された禁則事項に触れてなかったとはいえ、参加者に支給される品を意図的に低レベルのものにしたり、ゲームに乗る者を増やす為に暗躍するなど、
運営陣がゲーム運営のみならず参加者との力関係も更に有利なものにしようとしたのは間違いない。

だからこそプランナーの宣言を、少なくとも透子は運営者全員に対する一種のペナルティとして素直に受け入れる事が出来たのだ。
むしろケイブリスという新戦力が投入されただけ、思ったよりも厳しくないと感じたぐらいだ。
しかし、そんな彼女でもいきなりの契約破棄と、『読み替え』禁止は予想と覚悟を超えたものだった。

(タイミング……椎名智機の分機の排除が原因? だけど、それはゲーム運営の障害にはなりえない)

あの時、智機に警告をした理由が、朽木双葉の邪魔をさせたくないからと言うのは間違ってはいない。
だが破壊した事に関しては他にも理由がいくつかあった。

(椎名智機の存在をアインと朽木双葉に知られてはいけない)

両者ともD-1を目撃していたが、すぐに爆散したため、その正体について深く考える事はなかった。
せいぜい『赤い変なの』程度の認識だっただろう。
だがN-13を見つけていればどうなっていたか。
オリジナルとほぼ同じ外見をしているだけに、レプリカが存在しているのを知らないだけにN-13を目撃すれば、両者ともそれなりに警戒したに違いない。

121:ねがい(3)
08/12/14 15:43:35 3C4tnKdgP

下手すれば戦闘は水入りとなり、ルドラサウムの不興を買う可能性があった。
そしてD-1が行おうとした、素敵医師が存命している時点でのザドゥに対する捕獲行動。
それはザドゥが禁止行為と位置づけた運営者同士の傷害、致死行為に繋がると透子は断定していた。

(……そう)

筋弛緩剤を投与され無力となったザドゥに対して、素敵医師が何もしないできないという保証は何処にもない。
アインがその素敵医師を即座に殺せる保証は尚更ない。
もし素敵医師の手によってザドゥが洗脳・強化されるような事があればこれまで以上に、彼の手によってゲームをかき回されることになってしまうだろう。
更に分機がザドゥに手際よく投薬する様を、アインが目撃してしまおうものなら運営陣にとってもっと都合の悪い事になっていた。

透子は知っていた。
アインが素敵医師に大きく執着しているのは、何も個人的な恨みだけが原因ではないことを。
素敵医師がザドゥ以上に危険な存在で、サイスという男と同じタイプであるとアインが認識していたからこそ、彼の抹殺こそがゲーム転覆の近道になると心のどこかで信じ、その過程で犠牲を出してしまっても目を背けられてここまで進むことができたのだ。

(長谷川一人を始末できれば良いという状況では無いと彼女は改めて理解する。
 レプリカの排除は状況からして多分無理。
 ザドゥ捕獲行動後のレプリカに対して、自らも投薬される恐れを彼女は抱くから、長谷川一人の抹殺で終わる事もできない)

そんな彼女がもし薬物による洗脳・強化を行える敵が、他にもいる事に気づいてしまえばどうなっていたか。
『素敵医師を何が何でも自らの手で殺す』スタンスから、『素敵医師を含めた、運営陣の薬物使い全員を何が何でも殺す』というスタンスに変えてしまっていただろう。
そうなれば素敵医師を直接殺すことは諦め、目的達成の為にあえて森からの脱出を選択していたのかも知れないのだ。

そして脱出に成功し、運営陣の内情が魔窟堂らに伝えられれば、ゲーム運営が困難から至難なものになっていた。
運営者としても、双葉の絶望を知る者としても、その展開だけは透子としても回避する必要があったのだ。

122:ねがい(4)
08/12/14 15:45:42 3C4tnKdgP


分機破壊時に智機は救助妨害と非難していたが、透子にして見ればザドゥへの捕獲行為こそが妨害行為に他ならない。
あの時、反論しなかったのは面倒だから黙っていたに過ぎなかった。
透子は次に双葉の方を考える。

(それとも……朽木双葉への対応が原因?支援した積もりはなかったけれど)

プランナーの宣言前に優勝報酬があることを双葉に告げたが、それも禁止行為ではない。
素敵医師と違って道具提供は愚か、強化も参加者の情報提供さえしていない。
ルドラサウムの気分を害する行為をしたつもりはない。
透子は答えを見つけられずにいた。

(そういえば、あの警告もプランナーが告げたにしては不自然だった。本当に彼だったの?……それも含めて確認を取らないと)

夕方にロケットを通じて透子にされてきた『これからは参加者への支援・薬物投与の禁止』という警告。
内容自体は透子から見れば不自然ではないが、するのなら素敵医師が解雇された直後にするのが自然だった。
何で解雇から数時間経過した後にされたのかが不可解だった。

(ますます判らない……。それにロケットが破損しているのに、前ほどわたしの存在が不安定になっていない)

自同律が崩れ自らの存在が消失しそうな兆候は、今のところない。
喪われた『彼』の存在も、これまで通り微弱だが空から感知することが出来る。
解任されたという判断材料は壊れたロケットのみ。

(何をすればいいの)

願いを叶えさせたい身である以上、不確かな事でこれ以上放心している場合ではない。
先に進むにはロケット破損の理由を、契約の事を知る必要がある。
ロケットを通じて連絡が取れないのなら、ザドゥにプランナーへの取次ぎを頼まなければいけない。

123:ねがい(5)
08/12/14 15:47:42 3C4tnKdgP

仮にも運営のリーダーを任されているのだ、非常時に何の連絡も取れない訳がないと透子は考えた。
透子は徒歩で学校に行こうと一歩踏み出し、足を止めた。

(……面倒)

眼前には廃村が見えた。
学校跡までの距離はさほどあるわけではない。
それでも透子から見れば辿りつくまで困難な道のりに思えた。
透子は歩くのを止め、転移できないかと諦め半分でロケットを握り、念じた。
変化は無かった。
透子は諦めずに、今度は通信機を手に取った。

(……)

移動手段にDシリーズに自分を運ばせてもらうか、ジンジャー持ってきてもらおうかと透子は考える。
だが流石にそれはやってはいけない事だと、気づいて思い直す。
ふと森の方を見ると、火災は遠目からもますます広がっているように思えた。

(ザドゥと芹沢が死亡すれば、天秤は対主催の方へ大きく傾いてしまう。そうなる前に……)
 
透子としてはそのまま徒歩で、本拠地や東の森に向かうのはリスクが大きい。
参加者と遭遇してもまずい。
透子はロケットを放し、スカートのポケットに入れてため息をついた。

(やはり、クビになったかも)

無力感と共に脱力感と倦怠感が透子を包み始めた。
範囲が狭まった意志感知と読心だけで、どうやって単独で監察役と自衛ができるのだろう。
個人個人の良心の呵責を別にすれば、今の自分はさぞかし弱い駒だろうと透子は思った。

124:ねがい(6)
08/12/14 15:49:52 3C4tnKdgP

武器も所持していないし、仮に持っていたとしても銃や刀剣類なんか扱えない。
それに本拠地に戻ったところで智機とケイブリスいるのみ。
透子の現状を二人が知れば、これまでの関係がよくないだけに仕返しされてしまう可能性は高い。
仮に無事に済んだところで、智機が透子の為に取次ぎをしてくれる可能性はかなり低い。
こうなって来ると、ますますザドゥに頼むしか方法がない。

だが『読み替え』が出来ない状態で、森の中に入ってもなにもできないまま死ぬだけだ。
このまま留まっても、参加者と遭遇する可能性はある。
徒手空拳で太刀打ちできそうな相手は今の参加者の中にはいない。
というか透子自身、攻撃力・生命力・防御力などは常人と同等かそれ以下。
つまり……

(今のわたしはユリーシャより弱い)

契約のロケットを所持してからは、自己防衛の為の常時『読み替え』が発動するようになっていた。
自身の反射速度を超えた攻撃が来ても、ロケットに当たらない限りは、自動的に無効化できる防御能力を常時保持していた。
そのロケットが使えなくなった今、取れる防御手段は非常に少なく、弱かった。
透子の肉体はあくまでただの人間なのだ。
手詰まりだと透子は思った。

(疲れた。どこかにベンチはないかしら?)

ゲーム運営の完遂が成功の条件だが、もうザドゥらの力になれそうもない。
監察役が逃げ続けろとでもいうのだろうか? 
そう思えば思うほど、監察官を解任させられたとしか思えなかった。

125:ねがい(7)
08/12/14 15:54:14 3C4tnKdgP

(仁村知佳……今ならあなたの気持ちが判る)

読心しか使えない疲労した状態で、恭也と共にグレンとランスという脅威を切り抜けた彼女を、透子は素直に褒めた。
少し、羨ましいとも思った。
そして、相変わらず自分は孤独と強く思った。
透子は深くため息をついた。

(ここは思惟生命体の一種と言える、天津神の『大宮能売神』さえ存在を維持できなかった世界。
 仮に転生する力が残っていても、この島から脱出できない限りそれも叶わない )

透子は建物の壁に背を預け、夜空を見上げた。
火災の煙が雲のように空に広がっているが、まだ綺麗な星空が見えている。
透子は瞬きをしないままそれぞれの星を見つめ、どういう最期を迎えるのだろうと思った。

(あの人を感じながら、消えるのなら……でもわたしには死に方さえ選べないかも……)

できるなら自分の最期だけは自分で選びたいと透子は願った。
死後、自分の精神体がこの世界に留まるような事があれば、いずれ紳一に襲われてしまうだろうから。
人間の女性の肉体を持つゆえか、流石の透子もそれを想像すると気分が悪かった。
願いが果たせず、死ぬのなら意思そのものもこのままこの世界から消失したかった。

「でも……広場まひるも最愛の人を喪い、少なからず好感を持っていた人もここで喪ったのにも関わらず、朽ち果てずに望みの一部をここで叶えた」

だが昼に読んだ広場まひるの記憶を思い出した事により、消失願望の加速はここで終えた。

(……終わったとわたしが思い込んでいるだけで、まだ望みはあるかも知れない。
 そう……アズライト)

126:ねがい(8)
08/12/14 15:57:39 3C4tnKdgP

消滅願望はアズライトも持っていたのを透子は知っていた。
彼はこの島に来て鬼作らと干渉した結果、レティシアとの再会を諦め、しおりを助ける為に死を選んだ。
罪悪感と無力感との違いはあれど、自らを嘆き死を望むという点と、喪われた最愛の人との再会を望んで長い時を生きてきた点では同じだ。
以上の点で彼に多少の興味があった透子は機会があるなら、アズライトと一度話をしたかったのだ。

だが、その機会は訪れなかった。
智機から止められたり、先に芹沢が鬼作に警告した事などがあったからだ。
彼らの死も事後報告で初めて知ったので、どういう風に死んだのかさえ透子は知らずにいた。
ならせめて、アズライトの最後の記憶を検索しようと、しおり退出後に再建された学校内に透子は入ったのは午後2時ごろの事だった。

そこで先に拾ったのはアズライトのではなく、鬼作の記憶だった。
だが、それは予想に反し、透子の興味を引くだけものだった。
その結果、アズライトの記録を読むまでもないと判断させるくらい、透子にとって貴重な情報と教訓を得ることが出来た。

「まだ早い」

諦めるのは早すぎると透子は自分に強く言い聞かせた。
そしてアズライトに対し思うところがある透子は心中で、智機のやり方を非難した。

(あなたのやり方は、雑)

同行者への介入が終わるまで、スタンガンで動きを止め続けていれば良かったにと思った。
アズライトが変心または死亡さえすれば、彼一人が放置されたところで、主催にとってまず脅威にはならない。
生存してたらしおりと協力関係を築こうとするかも知れないが、反主催として活動しようとしても、しおりの精神状態を考えたら、その関係は長続きできなかっただろう。
共同で殺戮に勤しむ展開になるなら、運営にとってそれはむしろ好都合だった。
それに鬼作自身、これまで生存者との接触は少なく、所持品も戦闘力も大したことはない。
容貌の悪さや情報の少なさからして反主催として、他参加者との協力関係を築けるだけの材料は乏しかった。

127:ねがい(9)
08/12/14 16:01:29 3C4tnKdgP

つまり対主催として動こうとしても動けないはずなのだ。
無力で孤独ゆえに自殺でもしない限り、ゲームに流されるしか存在。
絶対ではないがアズライトとの共闘がなくなれば、こうなってただろうと透子には想像できた。
透子は智機の非情さを非難しているのではない、考え無しに鬼作を殺したのを問題としていた。

(アズライトもわたしが動きを止めた上で、優勝報酬の事を伝えて置けばどう転ぶか判らなかったのに)

アズライトの願いが、二神に叶えられるかものだったかどうかは現在となっては判らない。
だがもし仮に鬼作の記録を読んで気づいた事を告げていたら、高い確率でスタンス変更をしていたはずだと透子は思った
それに加え、鬼作がアズライトに警告の事を伝えていなかったのにも関わらず、ザドゥや透子に無断で
彼らを襲撃をした事も、透子にしてみれば気に入らなかった。
これまで読心で智機から情報を探ろうとした事は、何度かあった。

しかし椎名智機を対象とした読心は効果が薄く、本体に至っては更に読み取りにくく、肝心な情報はほとんど得られてなかった。
何故か記録もほとんど残さない。
心の声が聞ける透子が智機に質問したのは、彼女の心を表面上しか読めなかった事もあったのだ。
気づけば透子の掌には汗がじっとりと滲んでいた。

(こういうものなのね……)

今ではプランナーへの意思確認や、紳一のを初めとする記録の検索を継続したいと強く望んでいる。
ここに来て強い好奇心が芽生え、突き動かすとは透子自身思いもよらなかった事だ。

(そう……彼と同じ轍を踏む訳には行かない)

アズライトよりも長い年月、彼女は一つの願いの為に転生を繰り返し続けてきたのだから。
彼と同じ様に何が真実か判らないまま、自滅だけはしたくはなかった。

128:ねがい(10)
08/12/14 16:04:09 3C4tnKdgP

「……」

透子から見て学校跡までは距離がある。
彼女は失敗を承知の上で『読み替え』を実行しようと、ロケットを取り出そうとした。

「……」

ロケットは取り出さなかった。
駄目元に過ぎない、転移できないのなら今度こそ徒歩でと覚悟を決めて、
目を瞑りながら本拠地のある廊下を強くイメージした。
「……!」

身体が軽くなったような気がした。

129:ねがい(11)
08/12/14 16:05:47 3C4tnKdgP

       □       ■       □        ■

鬼作

(二日目 AM10:00 校舎裏)

ありゃあ……主催者の一員じゃねえか。
それも白衣とぱっつんぱっつんの水着姿で外を歩いてやがる……!。
俺はここに来て漸く見つけた獲物に息を弾ませる。
行水かあ?
ゆっくり堪能する時間がないのは残念だけどよぉ、、背に腹は変えられねえ!
ここで不満を解消させてもらうぜ。

……アズライトとガキは気づいてなかったようだな。
好都合だぜ。
俺様はあの女に気づかれないように距離を置いて尾行をする。
物腰からしてどうも素人のようだ。

へっへへ……間違いなく獲物だ!
いいケツしてやがるぜえ……あまり顔はよくねえけど、いい肉壷を味わえそうだ。

俺は奴に気づかれないように、獲物との距離は確実に縮める。
しっかし、あいつら大丈夫かよ。
まさか部屋を見つけられなくてここに戻ってくるんじゃねえだろうなあ……。
女がこちらを振り向いた、俺はとっさに身を隠した。
女はおびえた表情を見せていやがったが、安堵の表情を浮かべると散歩を再開した。

やべえな……あの表情……
こちらまでいい香りがにおってきそうだぜ。

130:ねがい(12)
08/12/14 16:08:31 3C4tnKdgP

「………………」

糞っ……不安だぜ、あいつら本当に主催と満足に戦えるのかよ。
アズライトは度が過ぎる甘ちゃんの上にズタボロだ、あのガキも頭がおかしいまんまだ。
まともな判断が出来るとは思えねえ。
現に俺が最初に兄貴達と襲撃かけたのを覚えてないしよ……。
……何でこうなっちまったんだ?
! くそ、俺は何を考えてやがる!?

んなもん悪趣味な遺兄ィの所為に決まってるじゃねえか。
肉壷にならねえガキ相手に何をセンチになってんだよ。

………………。
俺は何とか声を出さずにすんだ。
まてよ……あのガキがくたばれば、多分アズライトは使い物にならなくなるな……。
……! くそっくそっくそっ、手詰まりじゃねえか。
もっと戦力を増やさねえと話にならねえ。
折角の獲物を前にして引き返すのかよ!?

ん。なんだこりゃあ。
足元にビニール線がある。
電気コードか?

「!」

女が立ち止まりやがった。
俺は下らない考えを頭から消し去り、いよいよかと期待と性欲を膨らませ、
どうやってあいつを犯そうかと考える。
……………………待て。

131:ねがい(13)
08/12/14 16:13:14 3C4tnKdgP

これは罠なんじゃねえか。
女がこっちを向きやがった!
な、なんだ……この笑いは。
こっちから求めに来てんのか。

「!!」

な、何ィ……もうすぐ死ぬんだからここで楽しめよ、だと。
そんな度胸もないのか、だとぉ!
ふざけるなっ!犯しまくってやるぜ!
う、うううっ、うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!

      ◇       ◆       ◇        ◆

なんだあの数は……。
けっ……俺達にゃ、ハナっから勝ち目は無かったって事かよ……。
にしても…………あのガキ、凄えな……銃弾切ってやがる……。
……なんだあ……あのテレビは?
……あれは、アズライトが、言っていた……レティシアか?

「………………」

お嬢ちゃんも長続きしそうにないな……。
けどよ……そうなる前に意地見せてやるぜ。
俺に気づかないガラクタどもに目にもの、みせてやるぜぇ…… 。

      ◇       ◆       ◇        ◆

へ、へへへへへへ、えへへへ…………
あのガラクタども、今に見てやがれっ……
俺は最後のガスボンベを運びながら、奴等に気づかれない様に小さく笑った。

132:ねがい(14)
08/12/14 16:17:32 3C4tnKdgP

……俺様って案外すげえんじゃねえか? 溜まってたからその所為かもな……。
アズライトの野郎、まだモニターを前に固まってやがるんだろうなあ……。
ちったあ、ガキを見習えよ……。
………………アズライト、おめえは思いもつかねえだろうし、知らない方がいいかも知れねえし、
もう手遅れかも知れねえから伝えねえがよ……。

おめえの探していたレティシアはきっと……主催者どもの所にいたんだぜ。
でなきゃ……なんでブラウン管の向こうに写ってやがるんだよ……。
見間違えるほど、呆けたのかよ。
そうじゃねえんだろ?
俺は流血で悟られねえ様に、手ぬぐいで血を吸い取る。

…………………………!
頭が上手くはたらかねえ……俺のはいぱーこんぴゅーたーもめんてなんすが必要かあ?
くだらねえことを思いついたぜ……。
俺の……俺達の血を引いてるのが、あのガキみてえに美人に生まれる筈がねえだろ……。
あのガキどもとブルマー女の顔を思い出しちまった、情けねえ……。
…………本格的にヤキが入っちまったか。 俺はナイフを強く握り締めた。
第一、何十年前の話だよ。
それもすぐに死んじまったじゃねえか、夢見すぎてんだよ。
やべえ……! あいつ……まだ……!
いい加減にしやがれぇ!!

133:ねがい(15)
08/12/14 16:21:02 3C4tnKdgP

       □       ■       □        ■

(二日目 PM6:45 管制室)

「救助は無理ですか」
「ええ。ザドゥ達は無事?」
「救援物資を持ったレプリカを向かわせました」
「火災は?」
「我々が対応いたします」
「そう」

透子はN-22にそう返答した。
管制室の前の廊下に透子が現れたのはつい先ほどの事。
自分を対象とした『読み替え』が発動したのだ。
次に透子は言う。

「あなた達の本体はどうしてるの」
「本体はメンテナンス中です。戻ってくるのに時間が掛かりそうです」
「……そう」

N-22に不審な点はなく、智機本体の休憩もさっきの様子だとごく自然な行動と透子には見て取れた。
そして数歩後退し、天井を見上げ透子は想った。

(朽木双葉……)

素敵医師と朽木双葉とアインの生死をN-22から確認したのも、つい先ほどの事だった。
透子が唆かしていた朽木双葉と他二名は死んだのだ。
双葉が死を迎えたことは透子にしても残念なことだった。
予期せぬ形で想い人を喪った双葉に対しても、透子には同情する部分があった。

134:ねがい(16)
08/12/14 16:22:55 3C4tnKdgP

だから優勝できずに死んでしまうなら、せめて苦しまずにいてほしいと心の片隅で思っていた。
だが最後に検索した記録と、さっきの報告を合わせて考えるに、安らかとは程遠い最期を迎えたと透子には想像できた。

「……」

小さな喪失感なのか、言い知れないもやもやが透子の胸を叩いたような気がした。

(……次は)

だがこれ以上、透子が惑うことは無かった。
これからザドゥを通じてプランナーから確認を取らなければならないから。
わたしはこれからどうすればいいのか、わたしは脱落したのかと、問う為に。
その前に智機本体らがここに来る前に、管制室でやることがある。
透子は管制室から記録を読み取ろうとした。

これからの智機本体の意図を探る為に。

(…………ない)

不自然なまでの記録の少なさに、透子は智機に警戒されているのだと思った。
レプリカ達の記録はあるにはあったが、どれも知りたい情報ではなかった。
それに加えて透子は知る由も無いのだが、ケイブリスと智機の会話の記録も拾えなかった。

「何をしているのです?」
「……別に」

N-22からの追求をそっけなく返す。

(諦め……)

135:ねがい(17)
08/12/14 16:26:13 3C4tnKdgP

『……にぁ……も……ぃ……』
「!」

聞いた覚えの無い声の記録を透子は拾った。
もう一度検索する。

『……にぁ……も……ぃ……』

(誰?)

気のせいではなかった。。
更にその声は二神と運営陣と参加者の誰の声でもなかった。

「誰か、来た?」
「誰も来ていませんが?」
「でも……」

男か女かよく判らない声だった。
紳一の時とは別種の存在がいると透子はふと思った。
他の記録を注意深く吟味するが、さっきと変化は無く『声』もそのままだった。
N-22は透子をしばし見つめ続けてから言った。

「御陵透子、お疲れのようです。自室での休憩を薦めます」
「……」

N-22に言うとおり、疲れているのは確かだった。
だが透子はあることに気づいてN-22に言った。

「しばらくここには戻ってこない」

透子は学校付近のある場所をイメージし、とっさにそこに行くのを強く願った。

136:ねがい(18)
08/12/14 16:57:46 3C4tnKdgP
N-22の制止の声が上がったが、それを無視して管制室から透子は消えた。
智機達がザドゥ達の救助に専念していると誤解したままで。


       □       ■       □        ■


(二日目 PM6:49 H-6・学校跡付近)

透子は『読み替え』で望んだ場所―学校付近への転移に成功していた。
すぐさま通信機のスイッチを入れてN-22に向けて言う。

「またわたしの方から連絡する」

透子は電源を切って、通信機を草むらに隠して、その場から100メートル以上離れた。
透子がこれから取る行動を通信機から智機に悟られない為に。
それから安堵の息を吐いた。

(本拠地……わたしの部屋に行くのも危険。椎名智機との接触は、これからはなるべく避けた方が無難)

智機がアズライト達に取った手段を再確認したからこその行動だった。
転移くらいしか『読み替え』の使い道がないのでは、ちょっとした不意打ちでも倒されてしまう恐れがある。
ロケットなしでどれだけ『読み替え』が通じるのか早急に知る必要があった。

(色々、試してみないと……。それより前に道具が必要)

自衛の為にも扱える道具はあるに越したことは無い。
本拠地に行けば銃器や電子機器はたくさんあるが、救助に必要なものは智機が使用・管理している。

137:ねがい(19)
08/12/14 16:59:38 3C4tnKdgP

運営陣に頼れないなら、島から調達するしかないのだが、銃などの強力な武器はなく、役に立ちそうな物は参加者があらかた回収した後だ。
役に立ちそうな物は透子には調達できそうに無かった。

(……灯台付近には隠し部屋がある。 砲撃で灯台は破壊されたけど、わたしが知る限りまだ手は付けられていない。
 もしかしたら解放されているかも)

解放されてなお、未使用のまま放置されていれば、運営者も手を付けて構わないことになっている。
破壊されてたり、素敵医師がすでに利用してたりするかも知れないが、その場所を透子は知っていたので収穫は無くても時間はそれほどロスしない。
彼女としては、やや気が引けるが背に腹は変えられない。

(長谷川の隠れ家にも使えるものが残ってるかも)

探さなければならないが、記録からして森の西の端辺りH-3に彼の隠れ家がある可能性は高いと透子は目星を付けた。

(彼は参加者の支給品もいくつか持っていったはず。説明書付きで残っていればいいけど)

ゲーム開始より何時間か前、素敵医師はランダム支給品のいくつかを役に立たない物品と交換していた。
まだ参加側に有利だからというのが、素敵医師の言い分だった。
智機は止めなかったし、芹沢も止めなかった、ザドゥはやや渋い顔をしていたがそのまま通した。
透子は元より追求する気さえなかった。

その状況を懸念したザドゥは、参加者出発後に透子に対して一つの命令を出していた。
死んだタイガージョーの支給品や、デイパックを持っていかずに出発した広田寛の支給品を比較的見つけやすい場所に配置するようにと。
ザドゥが参加者側に不利にし過ぎると、後々二神から文句を付けられるのでは判断したからだ。
透子はそれに従い、使えそうな日用品数点を含めて、第一放送前に廃村を中心にそれらを配置していた。

(残っていれば、いいけど)

138:ねがい(20)
08/12/14 17:01:18 3C4tnKdgP

透子は灯台跡付近に向かうべく、自らを対象に『読み替え』を行い、この場から姿を消した。


       □       ■       □        ■


(二日目 PM6:50 管制室)

透子退出から数秒後に、N-22の双眸から横に光の線が流れた。
N-27がN-22に問いかけたのはそれから一分後の事だった。

「……の予定時間を過ぎた」
「ああ、もうそんな時間か。だが問題無い」
「優先順位は低いからな」
「絶対に必要ではないからな」
「それに仕方ない」
「そうだ仕方ない」
「我々に余裕は無いからな」
「だが向こうにとっては想定の範囲内」
「だからこそ我々は作業に専念できる」
「そう、この場合……」

交互に声を出していた二機が今度は揃って結論を口にする。

「「向こうが我々の代わりに行う手はずだからな」」


                   ↓

139:ねがい(状態表)
08/12/14 17:05:42 3C4tnKdgP

【監察官:御陵透子】
【現在位置:H-6・学校跡付近→Ⅰ-5・灯台跡付近】
【スタンス: ① 隠し部屋1と素敵医師の隠れ家を探し、そこで使えるアイテムを回収する
       ② ①の後、『読み替え』でどれだけの事が出来るか実験する。
       ③ ①と②の後、自信があればザドゥ救出を試みる。
         救出の手助けができそうになければ、紳一ら一部参加者の記録検索を再開する。
         ルール違反者に対する警告・束縛、偵察は一旦、中止
【所持品:契約のロケット(破損)】
【能力:記録/記憶を読む、『世界の読み替え』 (現状:自身の転移のみ)】
【備考:疲労(小)、通信機は学校跡付近に放置。】


【レプリカ智機・代行(N-22)】
【現在位置:C-4 本拠地・管制室】
【スタンス:管制管理の代行】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】

【レプリカ智機・オペレータ(N-27)】
【現在位置:C-4 本拠地・管制室】
【スタンス:火災対策タスクのオペレーティング】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】

※透子は智機達がザドゥ達を見捨てる判断をしたことに気づいていません。
※透子の管制室での行動は智機本体に伝えられました。
※透子に伝えられた『警告』はプランナーのものであるとは限りません
※管制室での『謎の声』の主は現在不明です。
※鬼作と交わったレプリカ智機はかなりの改造が施されていました。

140:訂正
08/12/14 21:21:44 3C4tnKdgP
>>133
「本体はメンテナンス中です。戻ってくるのに時間が掛かりそうです」

「ここに戻ってくるのに時間が掛かりそうです」
に修正します。

141:名無しさん@初回限定
08/12/18 23:10:17 gzmCo5Ng0
 

142:名無しさん@初回限定
08/12/22 00:34:59 QAeifmfi0
 

143:修正
09/01/03 01:00:17 BwCQSRT2P
前スレ>>662-665の『Why?』の修正・加筆が完了いたしました。

URLリンク(jbbs.livedoor.jp)

144:名無しさん@初回限定
09/01/03 01:12:09 BwCQSRT2P
最新274話までのまとめをUPしました。
『Why?』修正済みです。

URLリンク(www.dotup.org)

パスは rowa です。

145:名無しさん@初回限定
09/01/10 02:39:04 4zECegch0
 

146:名無しさん@初回限定
09/01/24 06:40:59 hI3CeSsW0


147:名無しさん@初回限定
09/01/30 23:58:49 xF1LZGnW0
 

148:名無しさん@初回限定
09/02/07 03:52:37 Yc4anuhC0
 

149:名無しさん@初回限定
09/02/15 00:25:34 PeE9iP6v0


150:名無しさん@初回限定
09/02/25 22:15:42 o54cxV6WO
促進

151:名無しさん@初回限定
09/03/05 02:33:46 toWDpNIJ0
 

152:名無しさん@初回限定
09/03/12 02:02:58 WJFqcNL/0


153:名無しさん@初回限定
09/03/21 06:30:44 du27nxM00


154:名無しさん@初回限定
09/03/28 00:54:14 HYKvm9PO0
 

155:名無しさん@初回限定
09/04/07 02:37:32 TpqaRbrK0
 

156:名無しさん@初回限定
09/04/14 01:35:14 8CUEM8Up0
 

157:名無しさん@初回限定
09/04/23 07:12:34 eGt5xOmG0


158:名無しさん@初回限定
09/04/30 02:50:26 8I1swGmA0
 

159:名無しさん@初回限定
09/05/09 02:39:32 PIa1u4Gs0
 

160:名無しさん@初回限定
09/05/18 04:34:45 uXdrWQsg0


161:名無しさん@初回限定
09/05/28 01:54:57 MGDiB0TY0


162:名無しさん@初回限定
09/06/06 03:13:29 UU9hw3TP0
 

163:悪夢 ~知佳~ (1/11)
09/06/06 20:45:00 sgGLAfgY0
>>41
(二日目 PM6:54 F-6 東の森・小屋2付近)

炎が宵闇を侵食している。
太陽光など比較にならぬ明るさと温度が周囲に満ちている。
東の森南部、浅いところに位置する小屋付近。
そこから南に程よく距離を置いた潅木の陰に身を潜める少女が一人。
濁ったフィンの乙女、№40・仁村知佳。

知佳が偵察するのは数十機の智機たち。
忙しなく、されど整然と、消火活動に勤しんでいる。
音声は皆無。
諧謔や言葉遊び好む智機達ではあるが、音声による情報伝達より
数十倍効率的なデータ通信にての指揮命令を採択していた。

(前、勝てなかったのが2機、か……
 でも、今なら…… 今しか……)

知佳が着目していたのは、赤い智機ことDシリーズ。
この小屋周辺に2機、存在している。
うち1機は井戸のポンプと融合し水の汲み上げに余念なく、
もう1機はショベルカーと融合し木々と土砂の運搬に専念している。
故に。
不意を衝けば――
先手を取れば――
あの2機さえ壊してしまえれば、眼前の智機を鏖殺することは難しくない。
一心不乱の作業は、あからさまな隙なのだ。
しかしその隙こそが、知佳の攻撃の手を躊躇わせていた。

164:悪夢 ~知佳~ (2/11)
09/06/06 20:46:17 sgGLAfgY0

(機械たちを壊せば敵は減るけど延焼は止まらないかもしれない。
 機械たちを放置すれば延焼が止まるかもしれないけど敵は減らない。
 どっちが恭也さんたちにとってのマイナスなんだろう……)

指標がない。無き故に迷う。
火災に気付いて30数分、ここに身を潜めて10分。
知佳は結論を出せずにいた。
身動きがとれずにいた。
その知佳の止まった時間を動かしたのは、背後から近づく何かだった。

《この少女は流石にまだだろう。そのはずだ。そう信じたい!》

知佳の鋭敏な聴覚が、後方の不穏な呟きを捕らえたのだ。

「誰!?」

反射的に振り返る知佳の目に人影は無い。
凝らしても探っても特別なものは見当たらない。
炎に照らされた木々と茂みと揺らめく煙のほかには、何も、誰も。

《羽が生えているのか。この娘もまた『人でないもの』なのか?》

しかし、誰もいないはずの空間から聞こえる声は、知佳の心を鋭く抉った。
人でなし。
それは彼女の禁句。癒えぬ傷。幼き日々の孤独の要因。
そこを突かれては知佳も黙ってはいられない。

「私は人間だよっ!!」


165:悪夢 ~知佳~ (3/11)
09/06/06 20:48:47 sgGLAfgY0

数刻の沈黙。
知佳の大声に気付かなかったのか、気付いた上で無視を決め込んだのか
分からぬが、智機たちは動揺を走らせることなく作業を継続している。

《……お前も俺の声が聞こえるのか?》

煙に紛れてゆらゆらと。煙の如く茫々と。
知佳のすぐ近くに声の主はいた。
最初から姿を現していた。気付かなかっただけで。
体の輪郭が背景に対して曖昧で、透けていただけで。
故に知佳はその存在をはっきりと言い当てた。

「幽霊なのね」

幽霊――
監察官・御陵透子を驚愕させたその存在に、知佳は怯えた様子を見せなかった。
その差は、未知か既知か。
彼女の世界においての幽霊はさほどレアリティの高いものではない。
知佳の住まうさざなみ荘には、十六夜なる霊が住人として名を連ねているほどだ。
しかし、その存在自体には驚きを感じなかった知佳も、
次いでこの亡霊から発せられた質問には度肝を抜かれてしまう。

《では俺の質問に答えろ。処女か?》
「えっ……」

炎に負けぬ勢いで赤く染まり、照れと怒りと後悔がない交ぜとなった
表情を見せた知佳を見て、この不躾な亡霊・勝沼紳一は敏感に悟った。

《おまえも中古か!!!!!》


166:悪夢 ~知佳~ (4/11)
09/06/06 20:57:52 sgGLAfgY0

知佳には中古の意味するところはわからなかったし、
あえて知りたいとも思わなかった。
この下劣で無礼な亡霊に声を掛けてしまったことを後悔していた。
これ以上関わらないようにしよう。
そう、心に誓うことにした。

関わりを持ちたくないという点では、紳一も同じだった。
紳一の女を見る基準は2つしかない。
処女か非処女か。
美女か醜女か。
処女かつ美女でなければ、彼の興味の対象外となる。

《破瓜の血の匂いまでするぞ!?くそくそくそ!!
 又しても俺は間に合わなかったのか……》

紳一はショックに項垂れ、とぼとぼと歩き出す。
知佳との邂逅がなかったかのように、彼女の存在をまるで無視して。
知佳と重なり、通り抜けて。

「……あ」

その瞬間、知佳の心に瀑布の勢いで紳一の心が流れ込んできた――


167:悪夢 ~紳一~ (5/11)
09/06/06 20:58:34 sgGLAfgY0

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(1日目 17:26 F-8 漁協詰所)

透明人間にあこがれる諸兄は多いことだろう。
では、僥倖にも透明になれたとしたら真っ先にすることは何か?
俺ならこう回答する。
女湯に潜入。
この回答、数多の同意を得られるものと確信している。
覗き――
そこにはレイプとは趣の違った背徳の興奮が存在するからだ。

漁協詰所に到着したとき、風呂場からまひるの声が聞こえた。
それに気付いたときの胸のトキメキは筆舌に尽くし難い。
まひるは犯す。
いずれ必ず犯す。
それはそれとして、覗けと言わんばかりのこのシチュエーション。
前菜としてうってつけではないか!
亡霊になってしまったのなら、その特性を上手く欲望に生かさなくてな。
だというのに……
俺が見たものときたら……

ち○こだ。

168:名無しさん@初回限定
09/06/06 21:00:41 YzyJpGqi0


169:悪夢 ~紳一~ (6/11)
09/06/06 21:03:14 sgGLAfgY0

もう一度言う。ち○こだ。

「い~い湯だな、ハハハン、とくらぁ」

俺が受けたとてつもない衝撃などどこ吹く風で、
イノシシ女の能天気な歌声が風呂に反響している。
その隣で身を縮めているのがまひる。
全身ピンクにそまったまひるの柔い肌。
なんと肌理細やかな、なんとすべらかなことか!
それなのに。

目を擦る。もう一度見る。ち○こだ。
頭を振る。もう一度見る。ち○こだ。
頬を抓る。もう一度見る。ち○こだ。
何度見ても何度見ても、そこにあるのは処女穴ではなく、ち○こ。

俺は…… 俺たちは、あろうことか男に目をつけ男に欲情し、
男を浚って男を脅した挙句、犯されまくったというのか!!?

なんという…… なんという悪夢!!


170:名無しさん@初回限定
09/06/06 21:05:36 YzyJpGqi0


171:悪夢 ~紳一~ (7/11)
09/06/06 21:11:34 sgGLAfgY0

《ははは……》

何度目になるかわからない自嘲の笑みを携え、俺は漁協詰所を後にした。
裏目だ。
この島に来てからの俺ときたら何をやっても裏目に出る。

処女を犯すという目的にブレはない。
しかし、ターゲットを失った。
次のターゲットの心当たりはない。
歩き回って、探さなくてはいけない。
そう、歩き回って、だ。
幽霊になったからといって都合よく瞬間移動できるものでもない。
徒歩だ。
疲労感は無くても徒労感は重い。
都合よく近場で見つかるといいのだが――

――いたよ。

進路を東に取った俺の前方数メートル。
猫のように身を丸めて岩陰に身を潜める少女と、目が合った。
いや、俺の姿は見えないのだ。目が合う道理が無い。
あの少女は単に漁協詰所を見張っているだけだろう。

《こんどこそ処女であってくれよ――》

ネコミミフードのついたパーカーという幼児性を残したいでたちが、
いやがおうにも俺の期待感を高めてゆく。
俺は小走りで少女との距離を詰める。


172:名無しさん@初回限定
09/06/06 21:12:01 YzyJpGqi0


173:悪夢 ~紳一~ (8/11)
09/06/06 21:12:53 sgGLAfgY0

《たすけ て》

声が聞こえた。微かな声が。
視界に収まっている少女の口は動いていないのに。

《ケモノ を》

又しても。少女の口は動いていない。
それなのに明らかに少女からこの声が……

《おい はらっ て》

違和感と、予兆。
俺は足を止めて少女をじっくり観察する。
そして気付く。
陽炎のようにゆらゆらと。
少女の肉体に重なる様に、縛り付けられているかの様に。
輪郭があやふやで、亡霊よりも存在感の薄い何かが、そこに在った。

「……ついてないょ。気付かないフリでやり過ごそうと思ったのに」

ため息と共に、少女が遂に口を開いた。
明らかに俺を見つめて、明らかに俺に対して。

《俺の姿が見えるのか?》
「残念だけど見えるし聞こえるょ」


174:名無しさん@初回限定
09/06/06 21:13:28 YzyJpGqi0


175:悪夢 ~紳一~ (9/11)
09/06/06 21:14:38 sgGLAfgY0

少女は続ける。

「でも、これ以上関わりを持つ気は無いょ。
 わたしとここで逢った事は忘れて、どっか行ってょ」

それは会話ではなかった。
一方的かつ上から目線の命令だった。

《俺様に向かって大きな態度を――》

怒りと威圧感を込めて反撃開始。その宣言を言い終える前に――
俺の首筋の産毛がぞわりと逆立つ。刹那。
少女の気配が爆発的に膨れ上がりその長い腕を俺に向けて伸ばしてきた。

「邪魔するならここで消すょ?」

亡霊で無ければ腰を抜かし失禁していたに違いない。
密度の濃い圧倒的な闇が、少女の形のままに、そこに顕現していた。
これか!
これがあの忌々しい神楽が言っていた『人でないもの』か!
なんという…… なんという悪夢!!

《了解した……》
「ならいいょ。それじゃあバイバイだょ」

俺はくるりと背を向けて、元来た道を逆戻りする。
その背中に、少女の形をした何者かのさらなる要求が述べられた。

《ああ、それと。あの建物の入り口で見張りをしてる堂島って男は
 わたしの標的だから、ちょっかいだしちゃだめだょ?》


176:名無しさん@初回限定
09/06/06 21:15:18 YzyJpGqi0


177:悪夢 ~紳一~ (10/11)
09/06/06 21:17:01 sgGLAfgY0

俺は無言で頷く。
そこでようやく、俺に伸びていた闇の気配が引いていった。

《お にい さん いかない で》

少女にまとわりつく何かが、悲痛な声で俺を引きとめようとしている。

「呼んでも無駄だょ。あの亡霊にはわたしに逆らうガッツはないし、
 そもそも憑依をどうにかする力は無いょ。藍はいいかげん諦めなょ」
《この からだ は あい の なの に……
 おまえ が かって に はいって きた の に……》

背後では声と声にならない声が言い争い続けている。
もうどうでもいい。
それよりも、なによりも、俺にとって重要な事がこの会話に内包されていたから。
憑依――
人に取り付き、その体を意のままに操る術。
この少女の怖いほうの何かは、それをして本来の少女の体を支配しているらしい。
根拠はない。
しかし、確信がある。既視感がある。
俺も、憑依できるはずだ。

なぜか分かる。
心身喪失した一瞬か、あるいは睡眠、気絶時なら。
俺は憑依できる!
ははっ……なってみるものだな。亡霊にも。

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   



178:名無しさん@初回限定
09/06/06 21:18:26 YzyJpGqi0


179:悪夢 ~知佳~ (11/11)
09/06/06 21:21:33 sgGLAfgY0

紳一が知佳をすり抜ける一瞬に、それらが彼女の頭脳にダイレクトに伝わった。
処女を犯す。
それだけの為に、この亡霊――いや悪霊は、島内を彷徨っている。
憑依、という具体的な手段を持って。
それは、殺し合いとは別種の、女性にとっての悪夢だ。

《どこかに処女の人間はいないものか…… いれば男に憑依して犯すのに。
 どこかに処女の亡霊はいないものか…… いればそのまま犯すのに》

紳一はうわごとのように呟きながら知佳から遠ざかってゆく。
知佳は距離を置いてかの悪霊を尾行する。

(あれを野放しには出来ないよ。でも……どうやって止めるの?)

知佳が放つ念動力も衝撃波も、広い視点では物理攻撃に位置づけられる。
物体ではない霊にそれら一切は通用しない。

(十六夜さん……)

知佳は友人の退魔師・神咲薫の得物である霊刀を思い浮かべる。
この世ならざるものを滅するを可能とするインテリジェンスソード。
あれに匹敵する何かがあれば、あるいは……


180:名無しさん@初回限定
09/06/06 21:21:51 YzyJpGqi0


181:悪夢 (情報 1/1)
09/06/06 21:22:10 sgGLAfgY0

【仁村知佳(№40)】
【現在位置:F-6 小屋2付近 → 紳一追跡】
【スタンス:①亡霊紳一を止める
      ②読心による情報収集
      ③手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める
      ④恭也たちと合流】
【所持品:???、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)、精神的疲労(小)】
【備考:定時放送のズレにはまだ気づいていません。
    手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】

 ※ まひるの性別を知りました。


182:名無しさん@初回限定
09/06/06 22:00:37 9i30ZJ1WO


183:名無しさん@初回限定
09/06/13 02:16:08 juGOaANa0
 

184:名無しさん@初回限定
09/06/14 12:42:39 9yGDiFAIO
つまらん。

185:名無しさん@初回限定
09/06/22 02:56:35 kbEBkNDi0
 

186:名無しさん@初回限定
09/07/01 01:09:16 48gz8l4A0
 

187:名無しさん@初回限定
09/07/11 06:39:42 bBwSGrEl0


188:名無しさん@初回限定
09/07/15 12:43:33 u1z+P/ts0
このスレまだ続いてたのか、ちょっと読んで来る。

189:名無しさん@初回限定
09/07/22 03:01:06 UCGOOtqq0
 

190:名無しさん@初回限定
09/07/31 01:55:32 4hJWrTS70
 

191:名無しさん@初回限定
09/08/10 07:11:15 /KlNsn9h0
 

192:名無しさん@初回限定
09/08/20 06:26:28 ZOYAwGEH0


193:名無しさん@初回限定
09/08/27 18:29:23 gAadHYui0
 

194:名無しさん@初回限定
09/09/10 02:24:46 0+NTA6aa0


195:名無しさん@初回限定
09/09/19 00:12:11 v1d5oq5k0


196:名無しさん@初回限定
09/09/26 21:37:23 Odaz7CXp0
 

197:名無しさん@初回限定
09/10/04 22:50:51 IOACf5aM0
 

198:名無しさん@初回限定
09/10/14 20:40:13 A/680xnO0
 

199:名無しさん@初回限定
09/10/23 00:34:33 BFDBT2tP0
 

200:名無しさん@初回限定
09/10/31 01:08:36 Mki6YTy+0
 

201:名無しさん@初回限定
09/11/12 06:11:09 TxfW8RUR0


202:名無しさん@初回限定
09/11/27 06:47:41 928otqS80


203:名無しさん@初回限定
09/12/08 20:23:31 V8mrgFRH0
 

204:名無しさん@初回限定
09/12/18 00:31:26 sJ7jCpev0


205:名無しさん@初回限定
09/12/24 21:00:05 DK/acLM80
 

206:名無しさん@初回限定
09/12/31 17:26:06 gtpRs0LM0
 

207:名無しさん@初回限定
10/01/07 23:13:18 EjsLaWN30
 

208:名無しさん@初回限定
10/01/18 20:02:24 EuVbLNJb0
 

209:名無しさん@初回限定
10/01/27 07:28:15 3JYzERbx0


210:名無しさん@初回限定
10/02/05 02:28:05 Se089ToJ0
 

211:名無しさん@初回限定
10/02/12 20:31:10 TQCDfCe00
 

212:名無しさん@初回限定
10/02/19 06:56:50 JYVCZK1X0


213:名無しさん@初回限定
10/02/25 13:38:03 2eGIp7WB0
 

214:名無しさん@初回限定
10/03/04 01:33:16 8Y0Hm4WC0
 

215:Regular report(1) ◆ZXoe83g/Kw
10/03/04 20:00:12 TdtnWeDu0

(飢えている、か……)

ケイブリスの賞賛を受け、智機は表情を変えずに心中で呟いた。
参加者には注意を向けていた積りではあった。
だが運営者に対してはさほど注意してなかったと彼女は認める。
参加者と運営者を同等に見、対応するべく智機は次の計画を立てる。
智機はカタパルトのデータに思考を移した。

(決められた燃料と強度の関係上、少なくともあと一回の使用が限度だな。
 投入可能な最大戦力は分機2体と装備多数か、ケイブリスのみ。
 更にもし仮に……フェリスがランスに直接協力する状況になれば、奴の能力次第では我々は手詰まりになる)

智機は分析を終え、ケイブリスに言った。

「ケイブリス。
 君はランスに従っているフェリスという名の悪魔の事を知っているか?」
「あん? …………あいつ、従えてやがったけか?
 知らねぇな……それがどうかしたか?」
「昨日、この島にランスが呼び出したんだが所在が掴めないのだよ。
 スポンサーから通達がない以上、島内にいるなら奴への対処も我々がせざるを得ないかも知れないからな」

216:Regular report(2)
10/03/04 20:01:16 TdtnWeDu0

「レベル神じゃあねぇのか?それで?」
(レベル神……) 

ケイブリスが目を細めたのとレベル神という単語を聞き、智機は若干の不安と興味がわく。

「参加者や運営者以外の者が島で確認された場合な……
 ゲーム進行の邪魔にならなければ捕獲、邪魔になると判断できれば私が始末するようにスポンサーから命じられている」
「………………俺様に手伝えって言いたいのか?」
「それには及ばんさ。君に限らず、私にもその命令は絶対ではない。
 戦力に余裕があればしろと言う程度だ、今は余裕がない」

智機は目を閉じ頭を振る。
だが返答を聞いたケイブリスは苛立たしげに、少々の緊張さえ孕んだ声で
言う。

「……面倒だな」
「?」
『俺様もあまり遭ったこたぁねえが、奴等強いぜ。 無敵結界が効かねえしよ」
「どれ程の強さを持っているのがいるんだ……しおりと比べてどうだ?」
「あん……?」

217:Regular report(3)
10/03/04 20:02:26 TdtnWeDu0

ケイブリスは一瞬しおりを誰だと考えたが、思い出し断言する。

「あのガキより強えのがいても、そう珍しくはねぇかもな」
「……情報提供感謝する」

智機はやや強張った声色でケイブリスに礼を言った。
マザーコンピューターにアクセスしながら智機は即座に対策を練り始めた。
ルドラサウムがフェリスの介入を容認する可能性も考えたからだ。
フェリスが六人組と合流、共闘されてはたまったものではない。
プランナーとの接見をする前、もしくは接見中に可能性に思い至ったら直ぐに問いただしていただろう。
関与しない、好きにしろと言われた今は、もう問い正す気にはなれなかったが。
智機は知っている。

島外の侵入者確認と排除及び、情報収集は二神らが行っているのを。
既に二神のいずれかが独自にフェリスを排除していたとしても
彼らの意地の悪さから、あえて通達しない可能性を智機は疑っていた。
可能であれば早急にフェリスの所在と生死の確認を問い正す必要があった。
ただしその相手は二神ではない。

(ゲーム開始から42時間経過……管制室も健在。
 連絡は既に来てもおかしくない。まだか)

218:Regular report(4)
10/03/04 20:03:31 TdtnWeDu0

プランナーとの接見を別にすれば、智機には外部への連絡手段はない。
主催者リーダであるザドゥと智機が知っている事のひとつ。
ゲーム開始から42時間が経過し、管制室が機能していた場合。
50分以内にプランナーから連絡員が派遣されることになっている。
ゲーム進行に関わる外部の状況通達。
智機が収集した殺人ゲームのデータ提供。
智機量産機の指揮権放棄が可能になるスイッチの譲渡などが連絡員の任務だ。

コンピューターなら半分以上は容易に、極めて短時間でできる作業。
なのに何故、こう遠回しな事をするのか智機には見当がつかなかった。
神の戯れなのか、それとも別の理由からなのか。
理由は尋ねてみたが、趣向と一言返って来ただけだった。
智機はそれ以上、その事については何も言わなかった。
ゲーム遂行にほとんど支障はないと判断してたからだ。
ただ指定された時間内で連絡員が来なかった時の説明は聞かされていた。

その場合は最低でも外部の者への対処は、運営者以外の手で行われる事が確定すると。
智機は警戒を緩めない。
フェリスの対処も残りの戦力でする羽目になった場合に備えて。
彼女はその手段を考えつく。


219:Regular report(5)
10/03/04 20:07:50 TdtnWeDu0

(臨時放送を実行し、全参加者に警告を発信する)

そう決めた。
双葉の式神と違い、フェリスはランス自身の力で生み出したものではない。
プランナーにとってフェリスのような存在は不快ではあるはず。
外部からの人員は認められるものではない筈だ。
願いの権利の消失の可能性を、参加者全員に提示するのを選択肢に入れた。
もっとも今のランスにフェリスを召喚する気は毛頭ないのだが。
その事を智機らは知るはずもない。

「フェリスに頼れば、願いを叶える権利を失う。
 そう参加者に告げる。もっとも島内で奴の所在が確認できた場合だがな」
「ほー」
「それと先に言っておこう。
 いきなりか、もしくは本拠地内から参加者とも我々運営者とも違う誰かが……もうすぐ来ると思う。
 向こうが仕掛けてこない限り、そいつには何もしないで欲しい」
「誰だ、プランナーの奴か?」
「恐らくは部下だ。私が収集した情報を確認する為にここに来る予定だ。
 我々の事情が事情だけに、伝言のみのやり取りになるかも知れないがな」

智機は言って苦笑した。
コンピューターのみで処理できたなら楽だったのにと思いながら。

220:Regular report(6)
10/03/04 20:09:53 TdtnWeDu0

「直に此処に来て欲しいものだがな」
「そいつにも手伝わせるのか?」
「侵入者の対処以外は手伝わないだろうがな」

 直に来て欲しい大きな理由はある。
 もし分機が全滅した場合には、指揮権は無用となる
 智機本体が全力を出すには、端末機能を解除する必要がある。 
 今は解除する必要は全くない。 
 だが極限まで追い込まれる可能性が零ではなくなった。
 念の為に連絡員からスイッチを受け取る必要が今の智機にはある。

「ケイブリス……さっき君はレベル神と言っていたな。
 ランスの事も含めて、君がいた世界について色々と聞かせてくれないか?
 必要なら私の方からも情報を話そうじゃないか」
「あー……俺様には馴染みが無くなっちまったが……いいぜ」

返事を聞くと、智機は管制室にいるN-27に指令を出した。
ランスの会話記録を収録したテープと全参加者・主催者の顔写真の準備をさせる為に。
ケイブリスは口を開く。
それとほぼ同時に智機に情報が伝えられた。
西の森で散策を行っていたP-3がランス達と遭遇した事を。
  
                               ↓

221:Regular report(情報)
10/03/04 20:12:21 TdtnWeDu0

【主催者:椎名智機】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【所持品:素敵医師から回収した薬物。その他?】
【スタンス:願いの成就優先。
      ①ザドゥ達と他参加者への対処(分機P-3に注目)
      ②しおりの確保
      ③ケイブリスと情報交換
      ④連絡員と交渉し、端末解除スイッチ+αを入手する】

【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【スタンス:ザドゥ戦まで待機、反逆者の始末・ランス優先
      智機と情報交換、智機と同盟】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み) 鎧(修復)】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】


【カタパルトの使用回数はあと一、二回です
 智機2体分(人でも2人分)と道具多数か、ケイブリス1人の打ち上げが可能です】

【オペレーターN-27が録音テープと顔写真を持って茶室に向かってます。
 すぐ終わります】

【智機とザドゥとケイブリスは連絡者がPM6:00から6:50分の間に来る事を知っています。
 3人とも戦力としては数えていません。
 ザドゥは智機の能力と素性についてはほとんど知りません】

【二日目 PM6:30頃 茶室】

222: ◆ZXoe83g/Kw
10/03/04 20:14:17 TdtnWeDu0
投下終了です。
275話までのまとめをアップしました。
パスはrowaです。

URLリンク(www.dotup.org)

223:タッチ・ユアハート/キャッチ・マイビート (1/8)
10/03/05 23:42:17 Y/Yo3C6J0
>>33
(二日目 PM6:30 D-6 西の森・小屋3)

「やあ生存者諸君、失礼するよ」

雪兎の如き白い肌と赤い瞳の少女が、挨拶と共に小屋へと入ってきた。
その姿を見たユリーシャがランスの腕にしがみつく。
まひるはぎょっとした表情のまま固まった。
少女を挟むようにして歩く恭也と魔窟堂は警戒心を漲らせ、
数歩遅れて入ってきた紗霧は怪訝な表情で少女を見つめている。

それも仕方の無いことだろう。
この少女は主催者・椎名智機のレプリカント・P-3。
病院にて彼らを亡き者にせんと襲い掛かった機械歩兵の姉妹機故に。

「おお、君が噂のロボ子ちゃんか。
 想像してたよりずっと可愛いぞ、グッドだ!」

唯一、智機の恐ろしさを味わっていない男・ランスが能天気に声を掛ける。
いや、この男のことだ。
仮に病院で襲撃されていたとしても同じように声を掛けるやも知れぬ。

「お褒めに預かり光栄だね。私はレプリカ智機汎用型哨戒機P-3。
 宜しく頼むよ、№02・ランス」
「で、なんだ。智機ちゃんは投降したのか?」
「No、交渉に来たのさ。
 武器も害意も持ち合わせていないから、安心したまえ」

P-3は自分の肩に馴れ馴れしく置かれたランスの手を軽く払うと、
彼を一顧だにせずにダイニングテーブルへと向かう。


224:タッチ・ユアハート/キャッチ・マイビート (2/8)
10/03/05 23:44:19 Y/Yo3C6J0

「さあ、№36・月夜御名紗霧。交渉のテーブルに着こうではないか」

P-3は舞台演者の如く両手を広げ、己が主役であるかの如く着席を促す。
主客の入れ替わった無礼かつ不遜な態度だ。
しかし紗霧は、嫌味も皮肉も口にすることなく沈黙を保っている。
かといって、様子見や策略で大人しく振舞っているとき特有の、
井戸の底の如き仄暗い眼差しも宿っていない。

彼女の心は、乱れていた。
沈黙はその乱れをP-3に悟られぬ為の手段だ。

(いけません紗霧。早く乱れたペースを整えなければ……)

乱れは、予想外の敵が予想外の行動に出たが為。
そして、敵よりもたらされた情報の衝撃が大きすぎたが為。
さらに、提案の旨みに一瞬目が眩んでしまったが為。

紗霧は一言半句違えず、レプリカ智機が切り出した提案を反芻する。

『東の森が燃えていることには気づいているね?
 その渦中にある我らが首魁・ザドゥ様が脱出を図っているのだが、
 火災にやられて手ひどいダメージを負っているようでね。
 そこで提案だ。
 彼が拠点に戻るまでの間に、殺してみてはどうだろう?』

P-3は小屋の外で紗霧たちに背信の交渉を持ちかけていた。
弱っている仲間を殺せと唆していた。
表情一つ変えることなく、淡々と。



225:タッチ・ユアハート/キャッチ・マイビート (3/8)
10/03/05 23:47:13 Y/Yo3C6J0

「招かれざる……と思われているだろうが、一応私は客人だからね。
 上座に着かせて貰うとしよう。
 月夜御名紗霧はそちらの席でよろしいかな?」

P-3は仕切っている。急かしている。嘲っている。
紗霧は焦りで鈍りだした頭脳を必死に押し留める。

(良くない流れですね……)

交渉、舌戦、化かし合い。
それは紗霧の処世術であるし、特技であるとも言える。
十重二十重の策を巡らせて絡め取り、言葉巧みに思考を誘導し、
踊らされていることを自覚させぬまま踊らせる。
その紗霧が、己の分野である交渉に対し何を躊躇うことがあるのか?

『想像して想定して検討した上で、想像して想定して検討してください』

以前、恭也に示したこの言葉こそ紗霧の本質。
不安の理由。

整理と準備、そこから導かれる予測。
紗霧はそれらを無しに能力を十全に発揮することは出来ない。
閃きの宿らぬ性質。臨機不応変。
紗霧は己のそうした特性を理解しているが故、分の悪さを感ずるのだ。

(今、テーブルにつくのは宜しくありません。
 認めたくはありませんが完全にイニシアチブを握られています。
 乱れたペースを早急に回復させなければ、
 精神的に押し切られる形で決着してしまうでしょう……)



226:名無しさん@初回限定
10/03/05 23:50:11 j1VMSvg80


227:タッチ・ユアハート/キャッチ・マイビート (4/8)
10/03/05 23:53:10 Y/Yo3C6J0

一方のレプリカ智機P-3も己の有利な状況を理解していた。
否、事は彼女の背後にいるオリジナル智機の思惑通りに運んでいる。

(ボクシングで言えば、ゴング直後の一発が相手の顎に綺麗に入った状態か。
 紗霧の脳は今、揺れに揺れているだろう)

智機は有利な交渉になるよう、戦術に2本の柱を立てていた。
1つ、常に先手を打ちイニシアチブを握り続けること。
2つ、時間制限があることを意識させ焦りを誘うこと。
月夜御名紗霧にはそうした速攻戦術が有効である。
データと確率から成るこの機械の読みはズバリ的中している。

「№08・高町恭也、椅子を引いてくれ給え。
 敵とはいえ、レディに対する心遣いくらい持ち合わせているだろう?」

P-3が、また一つ状況を推し進めた。
役割を振られた恭也が紗霧の意志を確認すべく目線を彼女に送る。
その真っ直ぐな瞳が更なる重圧となり、紗霧の心の乱れに拍車を掛ける。

(マズい―― 明らかにマズい流れです。
 が、これ以上の遅滞行動は相手に疑念を抱かせてしまうでしょう。
 こちらの動揺を悟られてしまうでしょう。
 ああ、益々相手のペースに嵌っていくばかりではないですか!)

紗霧がしかたなしにテーブルへと足を向ける。
敵の思惑通りに流されていることを自覚しつつ。
そこに、絶妙なタイミングで第三者が割り込んだ。

「うーん…… ど~も怪しいなぁ?」


228:名無しさん@初回限定
10/03/05 23:53:34 j1VMSvg80


229:タッチ・ユアハート/キャッチ・マイビート (5/8)
10/03/05 23:55:05 Y/Yo3C6J0

発言の主はランス。
紗霧の軽快とは言えぬ歩みが止まり、智機の鋭角な眉根が不快げに歪む。

「怪しい、とは?」
「武器が無い?敵意が無い?口では何とでも言えるよなぁ、智機ちゃん?」
「ふむ、ならば一体どうしたら信頼してもらえるのかな?」
「ボディチェックだな!」

自身満面に返答するランスの両手は前方に向けてワキワキしていた。

しん…………………………………………………… と。
室内に冷凍庫の霜が如き沈黙が降りる。

「俺様の素晴らしすぎるアイデアに反対意見は無いということだな?
 まずはこの小ぶりなおっぱいからモミモミ…… げふんげふん。
 チェック開始といくか!」

言うが早いか鷲づかみ。
恥も外聞も躊躇いも逡巡もなく、真正面から真っ直ぐに。

「バカな!」
「あんたってお人は、ほんとにもぅ、ほんとにもぅ」
「そんな……」
「異議あり! じゃ!」

我に返った小屋組の面々が同時に己のスタイルでツッコミを入れる。
一拍置いた紗霧もまたバットを振りかぶる。

「ランス、貴方少しは場の空気というものを……」


230:名無しさん@初回限定
10/03/05 23:56:09 j1VMSvg80


231:タッチ・ユアハート/キャッチ・マイビート (6/8)
10/03/05 23:57:23 Y/Yo3C6J0

――読むべきです。
そこまで発音することはなく、紗霧の叱責は尻つぼんだ。

(今、私は言いましたね。場の空気、と)

めったに宿ることの無い閃きの匂いを、己の言葉に感じたが為。
紗霧は思考を尖らせる。

(場の空気……
 それに支配されたから私のペースが乱れたと言えます。
 ならばこの悪いムードを払拭する為には、
 むしろ読めない行動こそが――)

紗霧の思案を他所に、ランスの手は智機の薄い胸に到達していた。
イタズラの矛先を向けられたP-3は演技掛った大仰なため息をつき、頭を振る。

「それで納得するならさっさとまさぐりたまえ。
 早く交渉の続きに戻りたいのでね、時間をかけず……
 ……んっ!」

ビクン。
P-3の表情や態度に反して、その体が震えた。
ニヤリ。
ランスは鼻の下を大いに伸ばして、高らかに宣言する。

「乳首みーっけ!」



232:名無しさん@初回限定
10/03/05 23:58:00 j1VMSvg80


233:タッチ・ユアハート/キャッチ・マイビート (7/8)
10/03/05 23:59:34 Y/Yo3C6J0

「ランスさん、悪ふざけが過ぎます!」
「俺様の楽しいお触りタイムを邪魔しやがって、むかむか。
 だがな、今回は俺様に理があるのだ」
「理も何も!」
「童貞のお前は知らんだろうが、女の子には隠す場所がいっぱいあるのだ。
 おっぱいの谷間とか、お尻の割れ目とか、もちろんアソコとかな。
 俺様はみんなの安全のために、危険を省みずこうして調べてやっているのだ。
 感謝されこそすれ、責められる謂れなどどこにも無いぞ!」

見かねて止めに入った恭也がバサリと返り討ちに遭った。
彼が真っ赤になって黙り込んだのは童貞だからではない。
仁村知佳の肉の感触が生々しく蘇ってしまったからだ。
無論、ランスを始めとする面々にそれを知る由も無いが。

「そこで黙り込むとはお前やっぱり童貞だったか!
 女の子の柔らかさも知らんとはかわいそうな奴だな、がはははは!」

恭也を振り切ったランスはますます絶好調。
その指がP-3の胸元で蜘蛛の足が如く複雑に蠢いている。

「神様仏様紗霧様っ!もうあのオトコを止められるのはあなたしかっ!」
「このままでは交渉が始まらぬうちに決裂してしまうやも……」
「バットは…… やめて頂きたいのですが……」

残る三者が口々に紗霧を頼る。
暴走するあの男をどうにかできるのは紗霧を措いて他に無し。
既にそれは小屋組の共通認識となっていた。


234:名無しさん@初回限定
10/03/05 23:59:56 j1VMSvg80


235:タッチ・ユアハート/キャッチ・マイビート (8/8)
10/03/06 00:00:40 Y/Yo3C6J0

「確かに、足の速い情報のようですしね……
 ランスの程度の低いイタズラに時を割くのは愚の骨頂。
 でしたらこんな妥協案はどうでしょう?」

P-3に向き直った紗霧の目許には冷笑。口許には歪み。
頼れる神鬼軍師の常の表情が、そこに蘇っていた。

「妥協案?どのような?」

P-3が見下した態度で問う。
紗霧が底意地の悪い表情で答える。

「私と椎名さんが交渉している間、ランスが好きなだけお触りする。
 ――合理的ですよね?」









「「「「「えええええ???」」」」」




        ↓


236:名無しさん@初回限定
10/03/06 00:02:13 j1VMSvg80


237:タッチ・ユア~ (情報 1/1)
10/03/06 00:03:51 rdykNNX80

【現在位置:D-6 西の森・小屋3】

【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【備考:全員、首輪解除済み】

※個々の詳細は>>34-35を参照してください

【レプリカ智機(P-3)】
【スタンス:ザドゥにぶつけるための交渉】
【所持品:?】




238:生きてこそ (1/10)
10/03/06 23:24:16 sOeuCXkf0
>>101
(2日目 PM6:49 G-3地点 東の森北東部)

彼らは未だ、生きていた。

首魁、ザドゥ。
魔剣カオスを杖代わりに両膝を支え、牛歩の歩みを見せている。
刺客、カモミール芹沢。
ザドゥの肩を借り、引きずられるように歩いている。

先刻、感情の昂ぶるに任せて芹沢へ拳を見舞ったザドゥではあったが、
そこで芹沢を切り捨てたわけではなかったのだ。
ただし、同胞意識や思いやりなどは露と消えていた。
ザドゥの腹の底には芹沢に対する怒りがとぐろを巻く蛇の如く鎮座している。
だのに何故、ザドゥは芹沢を捨てぬのか?
それは、意地だ。
意地のみが彼の両の足を支え、芹沢を放棄するを許さぬのだ。

『大将も自己満でカモミールを殺さないよーに、気をつけるがとしか言えんきね』

今、ザドゥの脳裏の大部分を占めるのは、黄色く変色した包帯を全身に巻きつけ、
腐敗臭とケミカル臭を撒き散らす、仲間と呼ぶのも憚られる男の言葉だった。
ザドゥは嫌悪感に眉を顰めつつ、己の思いを反芻する。

(あの狂人医師の【呪い】にまで負けるわけにはゆかぬ)
    


239:生きてこそ (2/10)
10/03/06 23:26:02 sOeuCXkf0
ザドゥは死そのものをさほど恐れてはいない。
拳に賭けるを選び、悪事を為すを自覚し、欲望の赴くまま生きてきた自分が、
まっとうな最期を飾れるとは思っていない。
それでも、笑って死ねるという確信があった。
好き勝手に生きてきた己の生涯に、一片の悔いもないのだから。
ザドゥの自負心は不動のものだった。
完成し完結しているものだった。
この島に来るまでの彼はそう信じていた。

それが、今、粉微塵に砕けようとしている。

軋みを与えたのは、タイガージョーの熱き拳となお熱き言霊だった。
亀裂を走らせたのは、アインの冷徹な覚悟と研ぎ澄まされた執念だった。
しかしザドゥは、彼らを好敵手であると認めている。
ある種の敬意を抱いていると言ってよいだろう。
故に、どちらも深刻な敗北感をザドゥの胸に刻みはしたが、背骨を折るには至っていない。
ぽろぽろと零れ落ちる矜持の破片を必死で拾い集めては、接ぐことくらいは出来ている。
しかし。

『大将も自己満でカモミールを殺さないよーに、気をつけるがとしか言えんきね』

口に出すも憚られるほどの外道にして、仲間であったことを恥じたくなるほどの下種。
ここで芹沢を捨ててしまっては、あの素敵医師にすら敗北したことになる。
そしてこの一敗地に塗れてしまえば――
ザドゥの矜持は、二度と陽光の下を歩けぬほどに打ち砕かれてしまうだろう。
 


240:生きてこそ (3/10)
10/03/06 23:29:22 sOeuCXkf0
ザドゥは沈黙を保っている。芹沢も口を開かない。
あの口の減らないカオスですら、今は器物としての役割に徹している。
黙々と、ただ黙々と。
二人と一刀は森を抜けるべく歩みを進めている。

煙に巻かれ、炎を迂回し、ルートの断念に迷走を重ね、方向感覚など既に失って
久しくはあるが、それでも彼らは炎の渦中からは脱していた。
しかしそれは、生命の危機から脱したを意味しない。
煙は容赦なく視界を塞ぎ、不足する酸素は彼らの肉体から回復機能を奪い、
炎もその手を緩めることなく背後から迫ってきている。
絶命の機会は、そこかしこで廉売されている。
故に、一行のうち最も冷静な同行者・カオスは、状況をこう分析していた。

《これは、もうダメかもわからんね》

カオスは心中で嘆息し、ザドゥが初めて自分を振るったときのことを思い出す。

『俺の心はとうに漆黒だ』

それは己の為す悪を自覚し肯定しての発言であったのだろう。しかし。

《闇と黒は違うんじゃよ……
 理性を感情が、意志を欲望が駆逐することを闇と言うんじゃ》

ザドゥが芹沢を捨てぬ理由が己のプライドに起因することまでは、
読心能力を持たぬカオスには見通せぬ。
だが、ザドゥの生へ欲望が、より強い欲望に駆逐されている。
故にこの惨状。
そのことは理解できたいた。
 


241:名無しさん@初回限定
10/03/06 23:30:14 Qb22PNfz0


242:生きてこそ (4/10)
10/03/06 23:32:22 sOeuCXkf0

《生きてこそなのじゃがのう……》

カオスはそれを口に出さない。
訴えたとて聞き入れられる状態にないことを誰よりも知るが故に。

《じゃがもし―― ザッちゃんだけでも救える機会があるとするならば。
 カモちゃんが自ら、置いていかれることを懇願した場合かのう……》

カオス自身に、ザドゥや芹沢に対する思い入れはさほど無い。
芹沢のダイナマイツぶりにうほほーいではあるが、それだけの事だ。
出会って一時間程度の間に、強固な絆が結ばれることのほうが稀であろう。
それでもなお、カオスがこの2人に入れ込んでいるかの如く感ずるのは、
彼の過去とこの2人の現状が、多分に重なるところがあるが為だ。

かつて彼がまだ人間――救世の大英雄(エターナルヒーロー)であった頃。
足手まといとなったリーダーでもあり親友でもあった男を置き去りにして、
神の座にたどり着いた経歴を持っていたのだ。
その際に剣となったカオスの力が、当代の魔王封印を果たしたのだから、
彼らの判断は歴史的に見て正しかったと言えるだろう。
それでも、カオスは仲間を見捨てたことを、割り切ることは出来なかったのだ。

《あの時あいつは、必死で助けようとするわしらに、
 自分を置いてゆけと主張して譲らなかったのぅ……》

意志の篭ったそれでいて穏やかな眼差しと、自己犠牲を偽善と感じたらしい含羞の声色。
カオスの脳裏に置き去りにした友の顔がフラッシュバックされる。と、同時に。
それはいかなる共時性か。
この元盗賊の記憶をなぞるかの如く、芹沢もまた嗄れた声でこう囁いたのだ。

「ザッちゃんさぁ、もうあたしのこと置いていきなよ……?」


243:名無しさん@初回限定
10/03/06 23:33:21 Qb22PNfz0


244:生きてこそ (5/10)
10/03/06 23:34:08 sOeuCXkf0
 
言葉とともに、芹沢の四肢から力が抜けた。
ザドゥの肩に思わぬ重量がかかり、彼は芹沢もろとも無様に尻餅をつく。

「何をいう、芹沢。薬中のお前にはわからんのだろうが、
 ここに置き去りになぞしたら、お前は――」
「すぐに焼け死んじゃうよねぇ……」

その返答にザドゥは息を呑む。
芹沢がいつの間にか現状を把握しうるだけの思考力を回復していたことに気付いて。
そして、自らが辿る運命を理解しつつ、置いてゆけと提案したことに気付いて。
言葉を失うザドゥに向けて、芹沢は力なく言葉を重ねる。

「あははー。足手まといは捨て置くのが戦場の倣いってやつだし。
 何人、何百人死んだって、最後まで旗が立ってた方が勝ちなんだから、ね」

破天荒で磊落な逸話ばかりが面白おかしく、或いは悪役然として後世に伝わっているが、
彼女もまた、幕末動乱の時代を一介の武士の覚悟を持って駆け抜けた女丈夫の一人だ。
奉仕の対象は違えど、その精神性は高町恭也の御神流に相通ずるものがある。
即ち、自らは仕えるものの為の捨石に他ならぬ、と。
故に、ザドゥの決して見捨てぬという意地が本気ならば、
芹沢の自分を置いてゆけという覚悟もまた本気だ。
主催という【お家】のザドゥという【頭領】を生かすことこそ、彼女の本分なのだから。

「やー、ごめんねーザッちゃん。
 あたしが正気ならこんなに苦労しなくて済んだし、ともきんも壊れなかったしぃ。
 戻ったらさ、ともきんにもごめんねーって言っといて」
「戻ってから自分で言え」

芹沢はザドゥの命令に困ったような笑みとウィンクを発し――
そこまでで精一杯だったのだろう。意識を闇に落とした。
 

245:名無しさん@初回限定
10/03/06 23:35:47 Qb22PNfz0


246:生きてこそ (6/10)
10/03/06 23:35:53 sOeuCXkf0
《……覚悟、汲んでやらんか?》

カオスもまた、ザドゥの背を押した。
自らも同じ選択を踏み越えてきたこの剣の言葉は、重い。

「お前まで……」
《正直に言うぞ。このままでは共倒れじゃ。苦渋を飲め、辛酸を舐めろ。
 そうして生きてここから出ることで、カモちゃんの尊厳を守ってやれい》
「っっ……」

それは奇麗事だ。おためごかしだ。
そんなことはザドゥにも分かっている。
わかっているが、しかし。
ザドゥの芯に触れる奇麗事であり、おためごかしでもあった。
尊厳。
芹沢の心の中の、自分が最も大切にしているそれを、守る。
ぐらり、と。
ザドゥの芯が揺れる。
ここぞとばかりに彼の生存本能が、甘く囁いた。


      ――生きてこそ。


部下を踏み台にし、組織を、トップを守ること。
それは闇の格闘暗殺者集団を束ねていたザドゥにとって至極当然な判断であり、
実際に何度も部下を使い捨てきている。

(今、芹沢を置き去りにすることもそれと同じことなのではないか?
 それは決して恥じることではなく、寧ろ首魁としての責任の取り方ではないか?)
 


247:生きてこそ (7/10)
10/03/06 23:37:32 sOeuCXkf0
ザドゥの胸中で、芹沢を捨て置く事が、現実感を伴ってどんどん膨らんでゆく。
それを好機と目敏く捉えてか、生存本能の囁きに、彼の一億万の細胞が唱和した。


      ――生きてこそ。


(チャームを…… 蘇らせねば)

彼が何故このような悪趣味なゲームを管理しているか。
それは愛妾を再びこの手に抱く為だ。

(その初志を貫徹することと、局所の一勝一敗に拘泥すること。
 どちらが大事で、どちらが小事だ?)

ザドゥの煤に塗れた顔に表れているのは苦悶。
カオスは彼の隠し切れぬ葛藤を見つめ、結論づけた。

《これで決まりか、の》

芹沢を捨て置くを推し、それが採択されようとしているにも関わらず、
カオスの胸中も複雑だ。
安堵もしている。
落胆もしている。
結局、彼自身もかつての選択に釈然としない思いを抱いていたのだ。
理性でこの選択を支持しつつも、感情で違う選択を期待していたのだ。
考えても、悩んでも、決して答えの出ない問いに対して。
 


248:名無しさん@初回限定
10/03/06 23:37:54 Qb22PNfz0
 

249:生きてこそ (8/10)
10/03/06 23:40:01 sOeuCXkf0
ザドゥが芹沢の顔を見つめる。脳裏にその存在を焼き付けるために。
思い返す。カモミール芹沢という女が、いかなる女であったかを。
短い付き合いではあったが、濃い付き合いでもあった。
弱さも強さも垣間見た。
情も交わした。
薬物に侵されてからの奇矯な振る舞いには辟易もしたし、
今、この様な生死の狭間に身を置いているのは彼女のせいに他ならない。
だが、こうして顔を改めて眺めると、不思議と憎しみは掻き消えてゆく。
言葉にして表すなら……

(戦友)

まさに、その一言に尽きる。
同じ主催者として、唯一同胞意識を抱ける存在だった。
鼻持ちならぬ椎名智機。
何を考えているのか分からぬ御陵透子。
野卑で愚鈍なケイブリス。
そして……
もう一人の名を脳裏に浮かべた途端、ザドゥの脳内に忌々しき嘲笑が響き渡った。

『へき、へけけけ』

憎々しき呪詛を伴って。

『大将も自己満でカモミールを殺さないよーに、気をつけるがとしか言えんきね』

(長谷川、均……)

「長谷川っ、均っっ!!!」
 


250:名無しさん@初回限定
10/03/06 23:41:13 Qb22PNfz0
 

251:生きてこそ (9/10)
10/03/06 23:41:42 sOeuCXkf0
点った。
ザドゥの心の最奥にある、未だ点したことの無い蝋燭が。
映った。
ザドゥの両の瞳に、揺らめくことなく直ぐに立ち上る炎が。

(――逃げるな、ザドゥ!)

ザドゥは心中で生存本能の胸倉を掴み上げ、本気の拳を鼻っ面にぶち込んだ。
一億万の細胞たちの足を払い、マウントポジションからタコ殴りにした。

(その初志を貫徹することと、局所の一勝一敗に拘泥すること。
 どちらが大事で、どちらが小事だ?
 そんなもの……どちらも大事に決まっているだろう!
 俺の望む全ては、手に入れるべき全てだ。
 取りこぼしなどあってたまるか!)

声に出して、叫ぶ。
彼は、全ての思いをワンセンテンスで過不足無く表現しきった。

「俺はザドゥだ!」

それで、生存本能も細胞たちも沈黙した。
ザドゥは起き上がりざまに芹沢を担ぎあげる。

《無茶をするでない!》
 


252:生きてこそ (10/10)
10/03/06 23:42:47 sOeuCXkf0
カオスの焦りは正しく、ザドゥは芹沢の重量に2、3歩よろめいた。
だが、ザドゥは転倒することなく耐え切った。
膝は震えている。
息は乱れている。
であるにも関わらず、頬には不敵な笑みすら浮かんでいた。
カオスはザドゥの横顔を見て大きく頷く。

《……ならば見せてくれよ、ザッちゃん。
 儂が見ることの出来なんだもう一つの可能性のその先を、の》
「お前の思いなど知るか。黙って見ていろ」

ザドゥは、まだ意地を張る。
ただ、意地の為に意地を張る。


               ↓
 



253:名無しさん@初回限定
10/03/06 23:43:17 Qb22PNfz0
 

254:代理投下
10/03/06 23:50:17 Qb22PNfz0

840 名前:生きてこそ (情報 1/1) 投稿日: 2010/02/25(木) 22:30:45

【グループ:ザドゥ・芹沢】
【現在位置:G-3地点 東の森北東部】
【スタンス:森林火災からの自力脱出】

【主催者:ザドゥ】
【所持品:魔剣カオス、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:右手火傷(中)、疲労(大)、ダメージ(小)、カオスの影響(大)】

【主催者:カモミール・芹沢】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力↑、ただし発動中は重量↑体力↓)
     鉄扇、トカレフ】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
【備考:脱水症(中)、疲労(大)、腹部損傷、気絶中】

255:名無しさん@初回限定
10/03/12 01:45:25 YvOD7WmO0
 

256:名無しさん@初回限定
10/03/21 10:58:00 SqKG/ML10


257:名無しさん@初回限定
10/03/26 22:40:48 XAz/uYU00
 

258:名無しさん@初回限定
10/04/03 21:28:17 A4605umC0
 

259:ルート分岐のお知らせ
10/04/03 23:28:43 mcF6VUGlP
「バトル・ロワイアル」の今後についてご連絡します。

上記「生きてこそ」以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。

経緯につきましては、下記サイト(総合検討会議)の886以降をご参照ください。
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)

260:代理投下
10/04/03 23:30:09 mcF6VUGlP
980 名前:夜に目覚める(1/12) ◆VnfocaQoW2 投稿日: 2010/04/03(土) 22:55:39
>>235
(ルートC:2日目 PM6:46 D-6 西の森外れ)

その姿に、走っている、といった必死さは無かった。

スキップにも似た軽やかさで以って、中距離走ほどの速度。
多少の不自然は感じなくも無いが、ありえぬ話ではない。
それが平地であるならば。
昼日中であるならば。
だが、ここは入り組んだ西の森の中。
光差さぬ闇の中。
これを加味して再考すれば、人の範疇にはありえぬ体捌きといえよう。

広場まひる。
それが、この絶技を見せるシルエットの名。

東へ。まひるは、ただ一人で駆けていた。
踏みしめる枯葉の鳴らす音は、限りなく軽い。

(気持ちいいな……)

風を切る感覚と木漏れる月明かりの青さに、まひるは身を浸す。
それで意識が散漫になったのだろう。
根腐れた倒木がすぐ足元に迫っていたことに気付くのが遅れてしまった。

「あ、危な……」

後一歩で衝突する。認識と同時に、まひるは跳んだ。
まひるとしての彼女が体験したことの無い反射速度で。

261:代理投下
10/04/03 23:31:02 mcF6VUGlP
981 名前:夜に目覚める(2/12) ◆VnfocaQoW2 投稿日: 2010/04/03(土) 22:57:56
 
「……てっ!」

まひるは、結局転倒した。
倒木は軽く跳び越えたにも関わらず。
約3.5mの高さに生い茂る針葉樹の枝葉。
そこに頭頂を打ち、バランスを崩した為に。

「いやいやいやいや。跳び過ぎだってばさ、このカラダ!」

まひるは腫れた頭頂部を撫でさすりながら愚痴を零す。
だが、彼は知っている。
この程度の運動能力、ケモノとしてのポテンシャルには達していない。
だから、彼は探っている。
どの程度の運動能力までなら、人としての自分のまま引き出せるのか。

細胞が、ざわめく。
私たちをもっともっと使ってと。
その声に流されそうになる。
誘惑の蜜は甘い芳香を強く放っている。

それは、罠。

肉体が導くままに能力を解放すれば、まひるの精神はケモノに堕すだろう。
それをまひるは本能で知っていた。

人であると強く意識し続けること。
衝動に支配されぬこと。
まひるは己に任じた制約を強く胸に刻み、また駆けだした。

262:代理投下
10/04/03 23:47:59 mcF6VUGlP
982 名前:夜に目覚める(3/12) ◆VnfocaQoW2 投稿日: 2010/04/03(土) 22:59:16
 

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   


(2日目 PM6:40 D-6 西の森外れ・小屋3周辺)

東の森の火災による熱波が、ここ西の森にも届いていた。
それを加味しても肌寒さを感じるらしい。
小屋の壁面に背を預けている4人は、湯気の立つマグカップを啜っていた。

魔窟堂野武彦。
広場まひる。
ユリーシャ。
高町恭也。

今、小屋の中は交渉と猥褻行為を同時進行させるという混沌の坩堝と化している。
その邪魔をされたくないのだと、月夜御名紗霧は彼らを小屋から追い出していた。

「聞こえる?」
「だめじゃのぅ……」

額を寄せ、小声で溜息を重ねたのは魔窟堂とまひる。
盗聴器代わりに小屋内部に置いてきた集音マイクの一つ。
その音声が拾えないことが判明し2人は落胆したのだ。

263:代理投下
10/04/03 23:51:36 mcF6VUGlP
983 名前:夜に目覚める(4/12) ◆VnfocaQoW2 投稿日: 2010/04/03(土) 22:59:57
 
彼らは与り知らぬことだが、理由はレプリカ智機P-3のジャミング機能による。
目的は盗聴阻止。
但し、魔窟堂たちのマイクを阻害する意図は無かった。
オリジナル智機が管制室の代行機たちにP-3を補足されぬよう施した細工が、
意図せぬ副作用を与える結果になったに過ぎぬ。
 
しかし、彼らにとってこのとばっちりは大きかった。
紗霧と智機の会談を拾いながら自分たちなりに考察を為す。
彼らのプランが木っ端微塵に砕け散ったのだから。

魔窟堂とまひるは落胆を引きずりつつも、額を寄せて意見交換を始める。

「でも、仲間を殺せなんて提案おかしくないかな?」
「奴らも一枚岩ではないということかの」
「裏だよ。絶対裏があるよ」
「まあ、何かしらの事情はあるじゃろて。
 問題はその事情があの椎名智機の個体によるものか、
 他にもいるじゃろう多くの智機たち全体の意志によるものか……」
「そうかなあ? あたしは仲間割れなんてしてないと思うけどなぁ。
 何かあいつらが困っちゃうことが起きたから、
 それを誤魔化すために適当言ってるとか、どうでしょ?」
「例えば?」
「実はあいつらの基地が東の森にあって、それが今燃えちゃってるとか」
「あるいはアイン殿や双葉殿に攻め込まれたやもしれぬな」

予測、推論は幾らでも重ねることが出来るが、結論が出る気配は皆無。
会議は踊る、されど進まず。
情報量少なき、整理も論理も曖昧な2人の考察は井戸端会議に等しい。

264:代理投下
10/04/04 00:00:18 RFuYzzelP
984 名前:夜に目覚める(5/12) ◆VnfocaQoW2 投稿日: 2010/04/03(土) 23:00:44
 
対する、沈黙を保つ2人の胸中はどうか。

(ランス様……)

ユリーシャの胸は張り裂けそうだった。
ランスが自分ひとりの愛情と肉体では満足しない男であることは宣言されているし、
実際にアリスメンディと関係を持ったらしきことも理解している。

しかし、だからといって。頭では理解していても。
実際にランスの性行為を目の当たりにした衝撃は、筆舌に尽くし難い物があった。
聞くと見るとでは、重みが違うのだ。
増してやランスが行為に没頭する余り、ユリーシャが小屋から出る際に一言も、
一瞥すら与えなかったことも、また。
相当に、堪えた。

「……んぁっ……」

思い煩うユリーシャの耳に、唐突に届いた。
追い討ちをかけるかの如き、智機の抑え切れぬ快楽の喘ぎが。
壁一枚隔てた向こう側から。

(ランス様の指はまだあの機械の胸で踊っているの……?
 それとももう、ほかのもっと敏感なところまで旅している……?)

一度は胸の奥に沈めたヘドロの如き薄ら汚れた感情。
ユリーシャの沈む心が再びそのヘドロを攪拌しつつあった。
嫉妬。焦燥。
そして、その果てにある……


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