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『Ｗｉｔｈ』
早狩武志
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「そういえば、今度、結婚式あるんだって」
薄暗いバーの片隅。カウンターの片隅で、スツールに腰かけた女は、突然、小声でそういった。
「またかよ、最近多いなぁ」
並んで座った男が、横目で見る。
「……んで、今度は誰が？」
「あたしが」
一瞬だけ、男は驚いたように女の方へとむきなおる。
その後、おもむろに男は額に左手を当てると、コン、と右手に持ったグラスをカウンターに置いた。
「お前なー、頼むから自分の話を伝聞で言うなよな」
「あたしも、もう来年で二十七だしね」
女は、空になっていた男のグラスに、無造作にアーリーを注ぎ足す。
「母方の方の祖母がね、ガンなのよ。もう、抗ガン剤とかモルヒネとかガンガンつかってて、痛みとかは全然無いらしいけど、末期なの。
でもいい人でね、自分の葬式の話を他人事のように笑って話せちゃう人なの。あたしたちに、気落ちさせない為にね」
男は話を聞きながら、それを一気に飲み干した。
「……でも、でもね、この前病室で、ふと何かの拍子に
『あと、晃子の花嫁姿だけは、見ていきたかったけどね』って、さりげなく言った時、その時の表情がね……」
「別に、そんなふうに俺に言い訳みたいに言わなくたっていいだろう」
「父もいいって言ってくれてね。一人娘の母が嫁いできて、ずっと父の両親の面倒を見ていたから、
負い目もあるのかな。それとも最後の孝行と思ったのか、普通なら、娘の結婚に反対する筈の父親も、賛成なのよ」
そういってから、しばらくして、ポツリと女は言い添えた。
「相手も、いい男性だしね」
「そうか、ならよかった」
少し、ホロ苦い沈黙が残った。
「お前とは、これまで結構いい酒が飲めてたんだがな」
一息ついて、グラスを揺らす。
「……ま、お前が結婚したからって、誰と飲んでも酒の味はかわらんか」