08/02/18 23:58:32 hjGeTtTh0
……寒い。
雪が降りそうな町を、アタシは一人歩く。
膝が痛い。寒くなると鈍い痛みがじくじくと痛む。
前はこの痛みも好きだった。結果として、この痛みのお陰であの生活を送れたんだから。
けれど、今は違う。蜂蜜のような甘い生活を思い出さずにはいられない、悲しい痛み。
冗談でも、アタシが“膝が痛い”と言うと、白銀君は苦笑いしながらだけど、アタシを気遣ってくれた。
そんな彼の事を―アタシは。
「へくしゅっ！」
不意にくしゃみが出て、考え事が一時中断される。
―白銀君と一緒なら、こんなに寒くはないだろうに。
じくん、と右膝の痛みがそれを否定する。
あの温もりも、あの日々も。もう、アタシには戻ってこないと。
白銀君の困った笑顔が好きだった。
ちょっとだらしないのも好きだった。
アタシを撫でてくれる手も、恥ずかしい事を囁いてくれる声も、全て。
けれど、同時にアタシは恐れていた。
その笑顔も、優しさも、全て。
アタシだけに向けられるものじゃないのかもしれないと。
良く言えば誰にでも優しくて。悪く言えば優柔不断。
それは彼の美徳なのかも知れない。
始めはそれでもいいと思ってた。
アタシだって子供じゃない。恋愛なんてそこかしこに一杯あるだろう。
とりあえず、しばらく雨風を防げて、そこそこ楽しければいいと思ってた。
だからアタシは白銀君を名前で呼ばなかった。
いつ、彼が他の子に目を奪われてもいいように。少しでも傷が浅いように。
けれど、蜂蜜みたいな生活を続けていくうちに―
アタシは、彼が好きになってしまっていた。
好きで好きで、たまらなくなってしまっていた。
このまま、ずっと一緒に居れればいいと思ってた。
―彼女が、帰ってくるまでは。