09/02/24 21:14:40 /Iv15F7r
30.胎動(1)
「…はい、緊張しないで下さいね」
男性医師の声が聞こえて、聡子はことさら意識をその部分から外そうと努めた。
ひんやりした器具の先端が、最も恥ずかしい部分に触れるのを感じた。
思わず聡子は太腿の内側をビクリと震わせてしまう。
「大丈夫ですよ、力を抜いて」
医師がまた言った。
17年ぶりの産婦人科への通院。どうしても聡子は緊張を解く事が出来ない。
周りの妊婦が自分より遥かに年若いということも、たまらなく気恥ずかしかった。
だが、自分の胎内に新しい生命は間違いなく宿ってしまっている。
そして、出産を決意したのは、間違いなく自分自身なのだった。
(…そうだわ。たとえこの子が……)
そこまで思った時、医師の言葉で聡子の思考は、遮られた。
「はい、プローブ入ってますから。大丈夫、大丈夫。楽にね」
妊娠初期の検査は、子宮の内部をより近くから診察する必要があるため、
細長い筒形をした検査器具を、膣内に挿入して行う。
聡子は下半身裸になり、内診台で大きく足を開いてその診察を受けている。
腰から下は布で仕切られていて、医師や看護士の動きは聡子からは見えない。
聡子の表情も向こうから見られることはない。
だが、今、このシーツの向こうで、男性医師が明らかに自分のそこを広げている。
そう思うと、やはり聡子は羞ずかしくて消え入りたくなった。
(優を産んだときも…そうだったな)
優を身篭った時、まだ若かった聡子は医師がゴムサックを嵌めて行う触診にどうしても慣れなかった。
帰宅してから、思わず涙をこぼしてしまったことを思い出す。