09/02/18 17:03:00 nEltukBB
20.
……携帯が鳴った。
森嶋聡子は、思わず洗っていた茶碗を取り落としそうになった。
着メロは、すぐその相手からだと分かるようにと、無理やり設定させられたものだ。
水道を止める。タオルで素早く手を拭き、ダッシュボードの携帯に手を伸ばした。
液晶画面には相手の名が表示されている。だがそれは本名ではない。
相手にそう登録するよう命じられたものだった。
聡子はその文字に敢えて目をやらないように努める。
今の自分が、どんな女になってしまったかを……思い知らされるからだ。
少し躊躇いながら、携帯を開き、耳に当てる。
「……はい」
「お前さぁ」
いきなり、挨拶もなしに相手の声が飛び込んできた。
いつもながらの傍若無人さ、無礼さ。以前までの聡子なら憤りを覚えるだろう。
だが、今の自分は、そんな相手の行動に馴らされ、受け容れなくてはならなかった。
「お前さ、バレてんじゃねえ?」
「……何が…なの?」
答えながら、聡子の胸はドクン、と波打つ。
「なんか、今ちょっかい掛けてやったら、知ってるみたいな顔しやがったぜ」
「…ちょっと、やめて。…嘘よ」
ヒャハハ…、と向こうで相手が愉快そうに笑った。