09/02/04 09:59:02 Mwl4RS1T
6.
「…んっ…ぁん」
母の寝室のドアの前で、はっきりとその声は、聴こえた。
俺は、喉が一瞬でカラカラに乾いていくのを感じる。
それが、女性がどういう状況の時に出す声か、容易に判断できた。
疑いようもない。
母さんが、誰かに抱かれている。だけど、誰に?
間違いなく、相手は、父ではない。
寝室のドアはぴったりと閉じられていて中の様子を窺い知ることは出来ない。
頭が混乱する。整理して考えることが出来なかった。
「…ひぃ…っ…!」
次の瞬間、母さんの鋭い叫びが響いて、俺はビクリと震えた。
ゆっくりと俺は、後ずさりを始めていた。
誰だ。誰が、母さんを…。
…そうだ、庭。庭に回り、窓の隙間から…覗くことが出来れば。
玄関まで戻り、靴を履き、音を立てないように扉を開ける。
ひんやりとした冬の空気が、一瞬、俺を正気に戻す。
(俺は何をやろうとしてるんだ。)
だが、俺の足はその間にも勝手に、母の寝室の窓がある東側の庭へ進んでいた。
母さんの寝室の窓。まだ夕方なのに、薄いピンクのカーテンが引かれている。
だが、真ん中のカーテンの合わせ目が、わずかに開いていた。
(…母さん…)
中を覗いてはいけない。全てが終わってしまう。そんな予感がした。
だが、もう自分を止めることは出来なくなっていた。
俺はゆっくりと、母さんが抱かれている窓に歩み寄り、そして…中を覗き見た。