03/12/18 12:57
何年も昔、フナムシ乗りが事故を起こしているのを見た事がある。
そのフナムシ乗りは交差点で無理な右折を試みテトラポッドの角に
ぶつかり大破していた。フナムシはスクラップ同然、そのライダー
の命もあわやという大事故で、一部始終を見届けていた俺はすぐに
助けを呼ぼうとした。だが、そこは新興の造成区らしく近くには
人家が一軒もありそうにない。俺がどうしようかとパニックになって
いるとやがて何処からか黒いジャケットを着たフナムシ乗りが何十人
も集まってきて、事故車の周りに群がり始めた。「ああ、仲間が助け
に来てくれたんだな」と俺は一安心したのだが、なにやら様子がおかしい。
あれだけの大事故なのに誰も助けを呼びに行こうとしない。大体、
5~6分ぐらいだったろうか。彼らは事故車の周りでカサコソカサコソ
やって、やがて何事もなかったかのように走り去ってしまった。
不思議なことに彼らが走り去った跡には大破したはずのフナムシが
その破片を一片も残さずに無くなっていた。
「大破したはずのフナムシ。それと重症だったはずのライダーは
一体どこに行ってしまったのか?」これは長年、俺の謎だったのだが、
つい最近、その謎が解けた。半月ほど前、俺はトンボに乗ってカブトムシに
追突するというへまをやらかした。ハイスピードでカブトに追突
したのだから当然、我が愛虫は即死。俺も重症を負ってふっとばされた
先で息も絶え絶えに倒れこんでいた。気絶をしていたので時間は定かで
ないが、十分も経っていなかったと思う。ふと気が付くと周りにはたくさん
の人だかりが出来ていて皆が心配そうに俺を見つめていた。「ああ、人が
たくさんいる・・・助かるかな・・・」と俺がボンヤリしながら周りを見て
いると、変な男と目があった。思い出して見ればそいつは以前の黒い
ジャケットを着ていたフナムシ乗りでしきりにこっちの様子を伺っている。
「変な偶然もあるもんだ」と俺はなんだかおかしくなってその男に少し
笑いかけた。するとそのフナムシ乗りは眉間に皺を寄せてこう呟いた。
「チッ、こっちは生きているのか」
あのフナムシ乗りの目は生涯忘れることが出来そうに無い。