10/05/25 03:44:08 FBI5tnxn
漱石「三四郎」より
「我々はそういう方面へかけると、全然無学なんですが、はじめはどうして気がついたものでしょうな」
「理論上はマクスウェル以来予想されていたのですが、それをレベデフという人がはじめて実験で証明した
のです。近ごろあの彗星(すいせい)の尾が、太陽の方へ引きつけられべきはずであるのに、出るたびに
反対の方角になびくのは光の圧力で吹き飛ばされるんじゃなかろうかと思いついた人もあるくらいです」
批評家はだいぶ感心したらしい。
「思いつきもおもしろいが、第一大きくていいですね」と言った。
「大きいばかりじゃない、罪がなくって愉快だ」と広田先生が言った。
「それでその思いつきがはずれたら、なお罪がなくっていい」と原口さんが笑っている。
「いや、どうもあたっているらしい。光線の圧力は半径の二乗に比例するが、引力のほうは半径の三乗に
比例するんだから、物が小さくなればなるほど引力のほうが負けて、光線の圧力が強くなる。もし彗星の
尾が非常に細かい小片(パーチクル)からできているとすれば、どうしても太陽とは反対の方へ吹き飛ば
されるわけだ」
野々宮は、ついまじめになった。すると原口が例の調子で、
「罪がない代りに、たいへん計算がめんどうになってきた。やっぱり一利一害だ」と言った。