08/10/24 02:40:20
社説:餌付け自粛 野生と適切な「距離」を 秋田魁新報
今年も冬の使者であるハクチョウが県内に飛来し始めた。ハクチョウとの触れ合いの場としてにぎわってきた
飛来地だが、今冬は状況が様変わりしそうだ。昨年の大館市の長木川に続き、主な飛来地を抱える自治体が
住民に餌付けの自粛を求めることを決めたからだ。
餌付け自粛へと一気に流れが加速したのは、今年4月に十和田湖で起きたハクチョウの鳥インフルエンザ問題
による。ハクチョウの飛来地には、ウイルス保有率の高いカモ類も多く集まる。そのふんが人を介して運ばれる
ことによって鶏などへの感染が広がりかねないため、県が餌付け自粛を強く要請、各自治体が呼応した形だ。
「安全」を最優先した行政の対応に異論はない。だが、餌付けそのものの本質論に十分触れないまま、「規制」
が先行した感がある。
ハクチョウへの餌付けの是非をめぐっては、以前からいろいろ議論されてきた。県北で長年給餌活動に取り組
んできた人から、餌付けによる「交流の場」づくりの意義を力説されたことがある。「野生鳥獣と触れ合うのは環境
教育の一環。子どもたちが、自然や生き物を大切にしようという心をはぐくむきっかけになる」という趣旨であった。
その思いも理解できないわけではない。
その一方、反対論は多い。餌付けは野生鳥獣をペット化し、自ら餌をとって自然界で生き抜く能力を弱めてしま
うというのが代表的な意見だ。餌付けされた種のみが増加することによる生態系の乱れ、生息環境として不適な
地に鳥獣が集中して引き起こしかねない事故や病気の多発などを懸念する声もある。
視座を人間側に置くか、野生鳥獣側に置くかで餌付けに対する見解は大きく分かれる。だが、近年は「野生鳥
獣は自然状態のままで」というのが主流になってきたようだ。
餌付けされた動物による被害が急増しているとして、栃木県日光市ではニホンザルを、神戸市ではイノシシを
対象とした「餌付け禁止条例」を制定するなど、ここ数年で人為的な影響を極力少なくしようという動きが活発化し
てきた。観光振興や「かわいいから」といった趣味的感情から続けてきた餌付けによって、本来の生息圏から逸脱
する野生鳥獣が増えている現状が背景にある。