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Ws Home Page (今日の連載小説) 2001年2月18日:本田宗一郎物語(第60回)
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飛行機が日本を離れるや、藤沢は宗一郎にこう持ちかけた。
「社長、原付自転車を作ってくれないか」 「あれには、こりた。自転車を利用してたんじゃ、結局いいものは作れないかならな」
「だから、原付のスクーターのようなやつを作ってほしいんだ」 「スクーターもこりた。あんな革新的だったジュノオも大失敗だったじゃないか」
「だから、ジュノオより軽くてスマートで、50ccのやつを」 「50ccでか、ちょっと無理だな」
「社長らしくないな」 「ちょっと待ってくれ、おれ寝るぞ」 藤沢は粘った。宗一郎が機内で眠り、目覚めるたびに、耳元でささやいたのである。
ついには宗一郎がうるさがっても、藤沢は呪文のように50cc、50ccと唱えつづけた。
ドイツに着くと、宗一郎と藤沢は精力的に工場を見て回った。フォルクスワーゲンやポルシェ、メルセデスといったメーカーである。
宗一郎の行きたがったオートバイ工場には、ドイツのクライドラーやイタリアのランブレッタなどが含まれた。
藤沢の策はここで功を奏した。
小さいバイクがあると、宗一郎はそれを気にして、「こういうのが欲しいのか?」と、いちいち藤沢に訊ねはじめたのである。
「こんなんじゃダメだ」 「これか?」 「違うなあ」 「じゃあ、こんなのか?」 「これじゃない」 「お前な、自分が欲しいもんがわかってないんじゃないか。
それで、俺に作れっていうのか?」 「ないから作ってくれと言ってるんだよ。俺は本田の作が欲しいんじゃないか。
社長だって、俺が、これと同じものが欲しい、って言ったら怒るだろう」 「はは、まあ、そうだな」
こうした問答を通して、宗一郎は藤沢の欲しがっているもののイメージを少しずつ理解していった。
お気づきの方も多いかと思うが、これが、数年後にデビューする製品、今なお売れ続けている世界のベストセラー、スーパーカブとして結実するのである。