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Ws Home Page (今日の連載小説) 2001年1月30日:本田宗一郎物語(第41回)
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宗一郎の手にかかれば、4サイクルのエンジンを設計することなどわけのないことであった。しかし宗一郎が何より嫌ったのは、
当時のバイク用4サイクルエンジンの一般的な形式だった「サイドバルブ方式」の、バルブの配置だった。
燃焼室の左右にバルブの機構が設けられるため燃焼室が大きく変形し、理想的な燃焼を得られない。
現在では当たり前になっている燃焼効率の重要性を、宗一郎はこのときすでに直感的に見抜いていたのである。
「社長、これからは4サイクルの時代だよ」 藤沢の意見に頑としてうなずかず、宗一郎は吐き捨てるように言った。
「おれはサイドバルブが嫌いなんだよ」 藤沢の論拠はひとつ。2サイクルは売りにくくなっていたのである。
理由はエンジン音にあった。高出力化をねらって毎分三千、四千と回転を上げて行くと、2サイクル・エンジンはキーンという独特の音を発した。
それが消費者から嫌われていたのだ。一方の4サイクルは、二千五百回転程度で、2サイクルに比べて静かな点が好評を得ていた。
扱うメーカー側にも、出力の低さという弱点を是正しようとする意志はなく、現状維持で売れればいいという姿勢である。
よりコンパクトでパワーのあるエンジンを追い求める、今なら当然のような宗一郎の考えが、理解されるような時代ではなかったのである。
「とにかく今は2サイクルで行く」 ことば少なに言う宗一郎を、藤沢はそれ以上説得しようとはしなかった。
「わかった。もう何も言わないよ。ただし、これだけは頭に入れておいてくれ。ドリーム号D型の売れ行きは頭打ちになってきている。
巻き返しもありえないだろう」 宗一郎は無言で立ち上がると、部屋から、そして建物から出た。