06/10/28 10:13:08
♪ ぅう~~~~♪
∧_,,∧ ♪ う~~~~~~~~~♪
♪ (´・ω・`) ぇるふぃっふぃ~~~~~ ♪
___ _○__\ξつヾ__ぇるふぃっふぃ~~~~~ ♪
/δ⊆・⊇ 。/†::† /δ ⊆・⊇。/
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| |
| | ::: . | |
_ ∩
( ゚∀゚)彡 じゃいじゃいじゃい!
⊂彡
∩. _
とらいとらいとらい! ミ(゚∀゚ )
ミつ
_ ∩
( ゚∀゚)彡 じゃいじゃいじゃい!
⊂彡
275:( ゜∀゜)彡 じゃいじゃいじゃい!
06/10/28 10:13:54
| ̄ りめんば わっとゅう~せ~~い
. ( ゚д゚) .| ぁばうざ らいふぅい~れ~~っ
| ヽノヽr┘ おぅ!ぅいねば ふぁうんだうんとわ~いっ
>> 'T おぅぞぅぃとら~い~っ
| ̄ とぅ
( ゚д゚ ) .| あ~んだ~すた~ん
| ヽノヽr┘ ゎせ~~るっ
>> 'T
. | ̄ ばっとなうざたいむはぶちぇ~ん
. ( ゚д゚) .| ぁんのぅわん いずとぅぶれぇ~ん
| ヽノヽr┘ おぉるぅいがっとぃずらぶとぅしぇぃ!
>> 'T ぅぃずあうと でぃすぺぃ~
| ̄
(゚∀゚) .| ほぉ~り~んら~ぶ
|ヽノヽ r┘ いん は~~んど!
>> 'T
276:( ゜∀゜)彡 じゃいじゃいじゃい!
06/10/28 10:21:19
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ かもん あんど
ヽ 〈
ヽヽ_)
_ ∩
( ゚∀゚)彡 じゃいじゃいじゃい!
⊂彡
m9(゚Д゚)っいんとぅざないっ! かもん あんど
∩. _
とらいとらいとらい! ミ(゚∀゚ )
ミつ
ほぅね~~~ぃ ヽ(゚∀゚)ノ かもん あんど
277:( ゜∀゜)彡 じゃいじゃいじゃい!
06/10/28 10:21:56
_ ∩
( ゚∀゚)彡 じゃいじゃいじゃい!
⊂彡
m9(゚Д゚)っいんとぅざないっ! かもん なぅ
ヽ(゚∀゚)ノ
へ ) ほぅっほぅっほぅっほぅね~~~ぃ
>
. _ ∩
(゚∀゚)/ ざっつおーるら~いっ!
⊂ |
つ ノ
(ノ
___/(___
/ (____/
278:( ゜∀゜)彡 じゃいじゃいじゃい!
06/10/28 10:22:51
♪ ぅう~~~~♪
∧_,,∧ ♪ う~~~~~~~~~♪
♪ (´・ω・`) ぇるふぃっふぃ~~~~~ ♪
___ _○__\ξつヾ__ぇるふぃっふぃ~~~~~ ♪
/δ⊆・⊇ 。/†::† /δ ⊆・⊇。/
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| |
| | ::: . | |
ハ_ハ
('(゚∀゚∩ かもん あんど
ヽ 〈
ヽヽ_)
_ ∩
( ゚∀゚)彡 じゃい!じゃい!じゃい!じゃい!
⊂彡
279:( ゜∀゜)彡 じゃいじゃいじゃい!
06/10/28 10:23:24
m9(゚Д゚)っいんとぅざないっ! かもん あんど
∩. _
とらいとらいとらい! ミ(゚∀゚ )
ミつ
ほぅね~~~ぃ ヽ(゚∀゚)ノ かもん あんど
_ ∩
( ゚∀゚)彡 じゃい!じゃい!じゃい!じゃい!
⊂彡
m9(゚Д゚)っいんとぅざないっ! かもん なぅ
ヽ(゚∀゚)ノ
へ ) ほぅっほぅっほぅっほぅね~~~ぃ
>
280:( ゜∀゜)彡 じゃいじゃいじゃい!
06/10/28 10:24:14
. _ ∩
(゚∀゚)/ ざっつおーるら~いっ!
⊂ |
つ ノ ハ_ハ
(ノ ('(゚∀゚∩ かもん あんど
___/(___ ヽ 〈
/ (____/ ヽヽ_)
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( ゚∀゚)彡 じゃい!じゃい!じゃい!じゃい!
⊂彡
m9(゚Д゚)っいんとぅざないっ! かもん あんど
∩. _
とらいとらいとらい! ミ(゚∀゚ )
ミつ
ほぅね~~~ぃ ヽ(゚∀゚)ノ かもん あんど
281:( ゜∀゜)彡 じゃいじゃいじゃい!
06/10/28 10:34:44
_ ∩
( ゚∀゚)彡 じゃい!じゃい!じゃい!じゃい!
⊂彡
m9(゚Д゚)っいんとぅざないっ! かもん なぅ
ヽ(゚∀゚)ノ
へ ) ほぅっほぅっほぅっほぅね~~~ぃ
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∧∧∩
( ゚∀゚ )/
ハ_ハ ⊂ ノ ハ_ハ
('(゚∀゚ ∩ (つ ノ ∩ ゚∀゚)')
ハ_ハ ヽ 〈 (ノ 〉 / ハ_ハ
('(゚∀゚∩ ヽヽ_) (_ノ ノ .∩ ゚∀゚)')
O,_ 〈 〉 ,_O
`ヽ_) (_/ ´
ハ_ハ ざっつおーるら~いっ! ハ_ハ
⊂(゚∀゚⊂⌒`⊃ ⊂´⌒⊃゚∀゚)⊃
282:名無し専門学校
06/10/28 10:40:04
今日と明日は岩倉祭か
283:名無し専門学校
06/10/28 14:18:42
贈る言葉
スレ荒れる板の 荒らしと氏ねの中
去り逝く野球へ 贈る言葉
視聴率 落として 苦しむよりも
放送なくして 泣く方がいい
人は 野球が多いほど
野球に 恨みを いだくのだから
打ち切りされれば うれしすぎるから
迷惑野球へ 贈る言葉
284:名無し専門学校
06/10/28 15:00:25
>>283
そのネタ飽きた
285:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:01:47
「わぁ~い!あたった、あたったっ!」
小さな子供が叫びながら駆けて行く。
それを見ながら、青葉は自販機からジュースを取って蓋を開けた。
その拍子に、肩に担いだギターケースがずり落ちた。
「・・・これじゃ、毎回のクリーニング代もばかにならないわね・・・」
「せめて自分でお洗濯出来るだけの時間が欲しいですね」
山ほどの洗濯物を抱えてコインランドリーから出てきたリツコに、その後に続いて
同じくらい洗濯物を抱えて出てきたマヤが応えた。
「家に帰れるだけ、まだマシっすよ」
二人の後ろに並び、そう言って肩を竦める青葉。
「・・・そうね・・・」
頷くリツコ。
「・・・本部にも生活設備が整ってるのが、救いといえば救いですよね」
「そうだなぁ。マヤちゃん達技術部は泊まり込みが多いから大変だろう?」
自分は副司令である冬月直属の青葉が尋ねた。
「そうですね。ね、先輩?」
「・・・そうね。青葉君が羨ましいわ」
顔だけを自分の方に向けてボソッと言うリツコに、青葉は顔を引きつらせた。
「・・・そう言えば、そうですね・・・」
マヤまでも同じ様にして呟いた。
286:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:03:50
青葉の顔が、さらに激しく引きつったのは言うまでもない。
「・・・あら、副司令。おはようございます」
「「おはようございますっ」」
ネルフ本部行きの電車で冬月と出会った3人が挨拶した。
「・・・ああ、おはよう」
冬月は新聞から顔を上げて3人を確認すると、新聞に目を戻しながら応えた。
「今日はお早いですね」
「ああ。年寄りは朝が早いと相場が決まっているものだよ」
リツコが冬月の隣に座りながら言うと、冬月は何でも無さそうに応える。
「・・・そう言えば、今日は評議会の定例でしたね。そちらへは?」
「ユイ君が行ってくれる。碇め、面倒な事は全て私かユイ君に押しつけよる」
「・・・ユイ博士も大変ですね」
「ああ。MAGIがあるから良いものの、そうでなければとっくに倒れているだろう。
・・・市議会は形骸にすぎん。ここの市政は事実上MAGIが全てやっているのだ」
冬月のセリフに、マヤが目を輝かせた。
「・・・3台のスーパーコンピュータ、MAGIがですか?」
「3系統のコンピュータによる多数決・・・民主主義の基本に則ったシステムだよ。
そうは思わんかね?」
「はい!思います!」
マヤが大きく頷いた。
287:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:05:01
「・・・評議会はその決定に従うだけだ。もっとも無駄の少ない効率的な政治だよ」
「さすがは科学の街!まさに科学万能の時代ですね!」
「・・・ふるくさいせりふ・・・」
マヤの言葉に、青葉が脱力して床に座り込みながら呟いた。
「・・・そう言えば、今日は『特別装備』の日だったな?」
冬月が新聞から目を離し、リツコを横目で見た。
「はい。総司令の命令により研究中だった新型特別装備のプロトタイプが完成しましたので、そのテストです」
「・・・朗報を期待しとるよ」
黒いジャージに身を包んだ少年が、視界に目標の人影を認め、大きな声でその名を呼んだ。
「・・・碇さんっ!」
「え?・・・あ、トウジ君。おはようございます」
振り向いたのは、黒い瞳の美少女。
穏やかに微笑むその少女に、トウジと呼ばれた少年は真っ赤になりながら応えた。
「お、おはようございます!碇さんっ!」
「・・・?」
真っ赤になったトウジを首を傾げて見る少女。
碇と呼ばれた少女のその姿は、トウジの脳裏を一撃で焼き尽くした。
288:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:06:27
(・・・あぁ・・・碇さん・・・今日も綺麗でっせ・・・)
目をハート型にしながら、トウジはぼ~っと少女を見ている。
少女の両脇に立っていた赤い髪の少女と青い髪の少女が、苛立たしげに口を挟んだ。
「・・・ユウキっ!早く行くわよっ!」
「・・・ユウキちゃん、急がないと遅刻しちゃうわよ」
碇ユウキと呼ばれた少女は自分の両脇に立っている少女達を見て、微笑んで頷いた。
「はい。行きましょう♪」
「・・・」
「・・・」
その微笑みを見た少女達が思ったのは、奇しくも同じ事だった。
((・・・女に生まれた方が良かったんじゃない・・・?))
『仕事仲間』でもある少女達がそんな事を考えているとはつゆ知らず、ユウキは微笑んだまま首を傾げた。
ちなみに、アスカも消極的ながらシンジの女装を受け入れるようになっていた。
それはユイに諭されたからだった。
「アスカちゃん、シンジ・・・いえ、ユウキを受け入れてあげて貰えないかしら?」
「なんでですか!?おばさまはシンジがあんな格好をするのを認めるんですか!?」
「・・・アスカちゃん、私はね、シンジの自由にさせてあげたいの。私だって、可愛い
一人息子があんな格好をしているのは見たくないわ。・・・でも、今、シンジが女装を止めたら、周囲が納得しないわ・・・」
「それはわかりますけど、でも・・・」
289:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:09:39
「・・・あの子は一人きりで育っちゃったから、人が自分を見てくれる事を強く
求めているのよ。それは私達の責任なんだけど・・・だから、『ユウキ』としてでも
あの子の事を見てくれる人がいて、あの子がそれを受け入れているのなら、私にはそれを止めさせる事は出来ない・・・」
「・・・おばさま・・・」
そんな会話があって、アスカはユウキを嫌々ながらも受け入れる事にしたのだ。
三人の前では、そんなユウキの姿を見てトウジが妄想の世界に旅立っていた。
(碇さん・・・その微笑み、わしにだけ向けて下さい・・・例えば・・・そうや!
『・・・あなた、お茶が入りましたよ』
『おう、すまんな、ユウキ』
『ふふっ・・・あなたったら、何をしていらっしゃったんですか?』
『・・・ああ、ちょっとな』
『・・・私に言えない様な事なんですか?』
『そ、そんな事はあらへん!お前に隠し事なんてするはずがあらへんやないか!』
『それじゃ、教えて下さい?』
『あ・・・ああ・・・実は・・・お前にこれを・・・』
『・・・わぁ、綺麗な指輪・・・あなた、これを私に・・・?』
『お、おう・・・』
『・・・ありがとうございます、あなた』
ってな具合に・・・くぅ~っ!碇さ~ん!たまらんでぇ~っ!!!)
290:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:10:49
「・・・それじゃ、行きましょう、トウジ君・・・トウジ君?」
ユウキの呼ぶ声も聞こえずに、トウジは鼻息を荒くして妄想に浸っている。
そしてトウジは赤い髪の少女&青い髪の少女によってその場に置いて行かれたため、
思いっきり遅刻してお下げの少女に耳を引っ張られる事になるのだった。
第一中学校2-Aの教室では、数学の授業の真っ最中。
まだ若い数学の女教師が黒板に一つの数式を書いて教室を見回す。
「・・・では、この問題を・・・碇さん、やってみて」
指名されたのは、窓際から二列目に座っているユウキ。
なぜか、この教師の授業では良く指名されるのだ。
「は、はい・・・」
おずおずと立ち上がって黒板の前に行くユウキ。
その姿を教室中が見守っている。
「・・・えっと・・・?」
黒板の数式を見上げて、首を傾げるユウキ。
その姿に、音もなく身悶えるクラスメート達。
その心の声曰く
(・・・うおおおおおおっっっっ!!ラブリィ~っっ!!!)
(・・・きゃあぁぁぁぁ~~~~!!可愛いぃぃぃぃ~~!)
291:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:11:42
果ては、ユウキの横顔を見つめている女教師までもが
(・・・ホントに可愛いわぁ・・・うふふっ・・・)
などと考えているのだから、いかに『終わっている』かが良くわかる授業風景だ。
ちなみに、すでに大学を卒業している二人の少女は・・・
(あぁ、もうっ!アイツってば、こんな程度の問題で考え込んでどうすんのよっ!
良いわっ!・・・今日からこのアタシが『個人的家庭教師』をしてやるわよっ!
むふふふ~・・・ユウキっ!天才であるこのアタシが手取り足取り教えてやるわっ!)
(・・・大丈夫かなぁ・・・ユウキちゃん・・・ただでさえ、エヴァの訓練に時間を
とられて勉強遅れてるって言ってたのに・・・やっぱり、あたしが教えてあげなきゃ!
むふふふ~・・・ユウキちゃん!レイちゃんが手取り足取り腰取り教えてあげるっ!)
そんな事を考えて妄想モードに突入し、思いっきり顔がだらけている。
そして、ユウキはしばらく考えた後で、おずおずとチョークを持って黒板に向かった。
「・・・はい、良くできました。正解よ、席に戻っていいわ」
「はい」
黒板に書かれた数式を見た女教師が満足そうに頷くと、ユウキはホッとした表情で席に戻った。
その表情を見て、またクラスメート達は音もなく身悶えている。
筆頭・・・というか、一番悶え具合が激しいのは、某お下げのイインチョなのだが、
皆、自分だけの妄想の世界に入っているのか、誰も突っ込もうとはしない。
292:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:18:21
もちろんトウジはフンフンと鼻息を荒くしてユウキをじっと見つめている。
(・・・素敵や・・・素敵やで・・・碇さんっ!)
こうして、2-Aの怪しすぎる授業時間は刻々と過ぎて行くのだ。
一方、ネルフ本部の総司令執務室。
ゲンドウに呼び出された葛城ミサトは、眉をひそめていた。
ミサトの前ではゲンドウ、冬月、ユイ、リツコが揃ってミサトを見ている。
「・・・加持君は君の元恋人だったな」
「・・・それが何か?」
ゲンドウの問いに、ミサトは不愉快さを隠さずに聞き返した。
「実は、加持君がとある仕掛けをしたことがわかった」
冬月がゲンドウの後を引き継いで言った。
「・・・」
「・・・その仕掛けっていうのは、一時的にネルフ本部全域に対する電源供給を絶ってしまうものだったの」
ユイが困ったような表情で問う。
「・・・」
「昨夜未明、リョウちゃんが一人で本部の主電源設備付近をうろついているのが
発見されたわ。見つけたのは夜勤のシゲちゃんだったんだけど・・・」
言うまでもなく、「シゲちゃん」ってのは「青葉シゲル」の事だ。
293:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:19:15
「・・・時間が遅かった事もあって、シゲちゃんがMAGIにリョウちゃんのトレース
命令を出したんだけど、MAGIは命令拒否してきたのよ。で、リッちゃんが調べたら
MAGIは誰かの命令を受けて、昨日一日、リョウちゃんの行動をログに残さない様に
なってたのよ。それで、今朝になって秘密裏に電源設備の調査をしたんだけど・・・
正副予備の三系統ある電源設備の全てに、マイクロ波による爆破装置がついていたわ。
・・・ここまで言えば、ミーちゃんにはわかるわよね?」
ユイの言葉に、ミサトは怒りを隠せない表情で頷いた。
「・・・あんのバカ加持が、ネルフ本部全域を停電にしようとしたんですね?」
「さすがね、ミーちゃん。で、その目的は・・・」
「電源の復活経路による本部内設備の把握でしょう」
ミサトがユイの言葉を遮って言った。
「そうよ。・・・で、ミーちゃんにお願いがあるの」
ユイが頷いて言った。
すると、その場の雰囲気が少しだけ重苦しいものに変わった。
「消すんですね?そうですよね?」
その雰囲気を消し去ったのは、やけに嬉しそうなミサトの言葉だった。
「・・・は、早まらるんじゃないわよ、ミサト。彼にはまだ利用価値があるわ」
予想とは違うミサトの言葉&雰囲気に、リツコが少しどもりながら言った。
「リツコ!?だって、加持はネルフに対して明確に敵対行動を起こしたんでしょ!?
それなら・・・」
294:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:20:01
言い返すミサトの頭の中には、防大で教わった「チャンスは最大限に利用せよ」
という言葉がぐるぐる回っていた。
(・・・ここで加持を消しておけば、後は邪魔な女どもを一掃して、シンジ君と
ラブラブな生活よん♪・・・だいたい、アイツは昔っから邪魔だったのよね~)
「落ち着いて、ミーちゃん。リッちゃんの言う通りよ。加持君にはまだ働いて貰うわ。
・・・もちろん、今回の件に関してはきつく言っておくつもりよ」
「・・・それじゃ、どうしろと仰るんですか?」
ユイに諭され、憮然とした表情のミサト。
「リョウちゃんを説得して貰えないかしら?ネルフの専属になるように・・・」
「・・・私が・・・ですか?」
ミサトは、眉をひそめて聞き返した。
「そうよ。リョウちゃんのウィークポイントは貴女だから・・・」
「お断りします」
速攻で拒否するミサトに、ゲンドウがニヤリと笑って言った。
「・・・赤木博士」
「はい」
「・・・サードチルドレンの新たな住居及び新たな保護者の選考を頼む」
ゲンドウの言葉に、ミサトは一瞬だけ固まってしまった。
「了解しました」
無表情に頷くリツコ。
295:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:21:04
「な・・・なんでですか!?」
噛みつくような表情で言うミサト。
「・・・君が彼の説得を断るという事は、君も彼と繋がりがあると見なさねばならん。
貴重なパイロットを、敵性組織と繋がりがある者には預けておけんという事だ・・・」
冬月の説明に、ミサトは唇を噛んだ。
(くっ!そう来るとはね・・・ここは引き受けるしかないか・・・今、シンジ君と
離されるワケにはいかないものね・・・)
「・・・了解しました」
「引き受けてくれるのね、ミーちゃん」
ユイがニッコリ笑って言った。
「・・・では、加持一尉の事は君に一任する。任務の達成をこちらで確認した時点で、
君に対して報酬が与えられる」
「ほ、報酬・・・ですか?」
ゲンドウの口から出た単語に、ミサトが驚きの表情で反応した。
まさか、報酬など出るとは思ってもいなかったのだ。
「・・・うむ」
「報酬は、ミーちゃんの好きなエビちゅビールを1年分よ。それで良いでしょ?」
「え、エビちゅ・・・了解しましたっ!葛城一尉、全力を持って任務を遂行します!」
ユイの言葉に、ミサトは思いっきり勢い良く頷いて敬礼した。
296:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:21:57
そのミサトの頭の中には、シンジを隣に侍らせて大量のエビちゅを呑んでいる光景が浮かんでいた。
(・・・くぅ~っ!たまんないわ!シンジ君にエビちゅを注いで貰って・・・
『ミサトさん、どうぞ(はぁと)』
『・・・ありがと、シンジ君』
『い、いえ・・・ミサトさんのためですから・・・(ポッ)』
・・・な~んちゃってなんちゃってぇ~!!)
思いっきり妄想にはまりきっているミサト。
「赤木博士が君のサポートにつく。作戦の遂行については赤木博士と相談してくれ」
冬月が言うと、リツコがニヤリと笑ってミサトを見た。
「・・・話は以上だ。退出したまえ。赤木博士、君もだ」
「はっ!失礼します!」
「・・・失礼します」
意気揚々と部屋を出て行くミサトと、ニヤニヤしながら出て行くリツコを見送って、冬月がユイを見た。
「・・・良いのかね?ユイ君」
「ええ。・・・あなた、例の件はどうです?」
「・・・先方の了解は得た。後は実行するだけだ」
「ふふふ・・・それじゃ、早速・・・」
297:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:22:42
「・・・うむ」
ゲンドウはユイの言葉に頷いて机の上の電話に手を伸ばした。
「・・・ユイ君・・・本当に良いのかね?」
その光景を見ながら冬月が再度問う。
「ええ。可愛いシンちゃんのためですから」
きっぱりと言い切るユイに、冬月は何か言いかけた口を閉じた。
(・・・ユイ君の事だ、レイとアスカ君は何とかするだろう。そうすると、後は・・・
ふむ、私が考えることではないか・・・まぁ、彼女がシンジ君の支えになってくれれば
良いのだがな・・・・・・・・・・・・はて・・・『彼女』とは誰の事だったかな?
・・・そもそも、何の事だったのか・・・ふ~む・・・)
『元』京都大学教授、冬月コウゾウ。
相変わらずのボケ老人ぶりを発揮していた。
午前中最後の授業が終了した事を知らせる鐘の音が鳴り、教師は教科書を閉じた。
「・・・では、この続きは次回です」
「きりーっ、れーっ、ちゃくせーき!」
委員長の号令が終わり、教師が教室を出ていくと、2-Aの教室は異様な雰囲気に包まれた。
「・・・ユウキっ!今日は屋上で食べるわよっ!」
アスカが鞄からユイ謹製の弁当を取り出しながら言った。
298:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:23:51
「ユウキちゃん♪一緒に食べよっ♪」
レイが速攻でユウキに近寄りながら言った。
「い、碇さんっ!た、たまには、お弁当の比べっこしない?」
レイの横からヒカリが顔を出して言った。
その背後では、トウジ&ケンスケがユウキの方を遠巻きに見ている。
「・・・い、碇さん・・・わしと・・・わしと一緒に・・・」
「・・・碇・・・シャッターチャンスをくれぇ・・・」
ちなみに、この面子はいつもシンジ(ユウキ)と一緒にお弁当を食べているのだが、
本人達の脳裏からはその事は忘れ去られているらしい。
そして、その他の者達もユウキを見つめている。
中には、お弁当とユウキを交互に見つめている者もいる。
いつの間にか、廊下に他のクラスの者達や学年が違う者達が立ち並んでいる。
その視線は、ユウキに集中されている。
「・・・あ・・・あの・・・その・・・」
だが、肝心の本人であるユウキは、今日に限ってはっきりしない。
いつもなら、輝くばかりの微笑みを浮かべて頷くのだが。
「・・・何よ?何が言いたいのよ?」
はっきりしないユウキに、アスカが眉を寄せて聞き返した。
「そ、その・・・今日は、他の人と・・」
299:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:24:37
少し後ろに下がりながらおずおずと言うユウキの姿に、アスカばかりでなく、
その場にいた全員が呆気にとられたような表情を浮かべた。
「・・・なっ・・・な、なんですってぇ!?どーゆー事よっ!?」
速攻で真っ赤になってユウキに詰め寄るアスカ。
「ど、どーゆーって・・・」
怯えた表情を浮かべながら、さらに後ろに下がろうとしたユウキの背中に、何かが当たった。
「!?」
振り返ったユウキが見たのは、凍り付くような光を発する赤い瞳だった。
「・・・」
自分をじーっと見つめるその瞳に、ユウキは思わず小さく叫んでしまった。
「・・・ひっ・・・」
「・・・それ、どーゆーこと・・・?」
「・・・説明しなさいよ・・・」
前からはレイ、背後からはアスカに詰め寄られ、ユウキは目に涙を浮かべた。
涙を浮かべて怯える長い黒髪の儚げな美少女。
そのあまりにも「モエモエ~」な姿に、呆気にとられていたヒカリが復活した。
「ちょ、ちょっと、アスカ!綾波さん!」
「・・・」
「・・・あ・・・」
暴走しかかっていたアスカとレイはヒカリの声で我にかえった。
300:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:27:54
「・・・碇さん、どういうことなの?もし良ければ、話して貰えるかしら?」
ヒカリは、気まずそうなアスカ&レイを視線で制し、ユウキに優しく尋ねた。
「・・・あ、あの・・・」
あからさまにホッとした表情を浮かべて口を開くユウキ。
その脳裏には、昨日の出来事が浮かんでいた。
シンジはユイに呼び出され、ネルフ本部内にあるユイ専用研究室を訪れていた。
「ごめんね、シンちゃん。急に呼び出したりして。本当ならお母さんがシンちゃんの
ところに行きたかったんだけど、研究が忙しくて・・・」
ユイはそう言いながらシンジを研究室の中に引き入れた。
「ううん、別に良いけど・・・何の用なの?」
物珍しそうにユイの研究室を見回すシンジ。
そこは、あの伝説の『作戦部長公務室』とタメを張れるのではないか、と思われるほどだった。
さすがにエビちゅの空き缶などは転がっていないが、その代わりに様々な書類が床を
埋め尽くすほど積み重ねられている。
「・・・まぁ、とにかく座ってね。今、シンちゃんの大好きなあま~いココアを入れて
あげるからね(ハァト)」
ユイは喜々として言いながら、書類を掘り起こして粉ココアの缶を取り出した。
それを見ていたシンジは、母の家事への「不向きさ」を思い出した。
自分の記憶にある限り、母はコーヒー一杯もまともに入れられなかった。
301:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:28:40
それに、『シンちゃんの大好きなあま~いココア』とはどういうことなのか?
シンジには、自分が甘党だという自覚は無かった。
もちろん嫌いではないが、好きで飲み食いするほどではない。
おまけに、目の前で喜々としている母の様子を見る限り、出てくるモノが『だだあま』
である事が容易に想像出来た。
その二つの事項がシンジの想像力をかき立て、得られた結論は・・・
(ま、まさか、粉ココアと氷砂糖をほんの少しの蒸留水で溶かそうとした『ココア』が
出て来るんじゃ・・・そ、そんなモノを口にしたら、死んじゃうよ!)
そして、シンジは慌てて否定した。
「あ、い、良いよ、別に。それより、何の用なのか教えてよ」
やや慌てた様子のシンジ。
その脳裏には、ナニかごつごつした半透明の物体と、茶色と言うよりは黒っぽい粉が
浮いている謎の液体が入っているカップを、ニコニコしながら差し出すユイの姿が映し出されていた。
「・・・あら、そう?遠慮しなくても良いのよ?シンちゃんってば、小さいときには
甘いココアが大好きだったでしょ?」
そう言いながらもユイの手は手早くカップを用意している。
「う、ううん、ホントに良いから・・・」
「そう・・・」
がっくりと肩を落としたユイの姿に罪悪感を覚えたシンジだが、改めて口を開いた。
302:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:29:39
「・・・で、何の用なの?」
「ええ・・・それじゃ、本題に入りましょ。・・・シンちゃん、今の生活は楽しい?」
「え?あ、う、うん・・・」
いきなり真剣な表情で聞かれ、シンジは目をぱちぱちさせて頷いた。
「・・・そう。学校にお友達は出来たの?」
「うん」
「男の子?」
「うん。鈴原トウジと相田ケンスケって言うんだ」
「鈴原・・・相田?・・・もしかして、エントリープラグに入った子?」
「う、うん。そうだよ」
頷きながら、シンジは少し眉をひそめていた。
「そう。その子達は良くしてくれる?」
「うん!僕の事を『親友』だって言ってくれるんだ」
本当に嬉しそうに頷くシンジの顔を見て、ユイは少し微笑んだ。
「そう。良かったわね、シンちゃん」
「うん・・・でも、それがどうかしたの?」
「・・・シンちゃん。あのね、私、もう少しシンちゃんが他の人とも話をした方が
良いと思うの。なぜかわかる?」
ユイはシンジの顔を正面から見つめて言った。
303:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:30:37
「・・・で、何の用なの?」
「ええ・・・それじゃ、本題に入りましょ。・・・シンちゃん、今の生活は楽しい?」
「え?あ、う、うん・・・」
いきなり真剣な表情で聞かれ、シンジは目をぱちぱちさせて頷いた。
「・・・そう。学校にお友達は出来たの?」
「うん」
「男の子?」
「うん。鈴原トウジと相田ケンスケって言うんだ」
「鈴原・・・相田?・・・もしかして、エントリープラグに入った子?」
「う、うん。そうだよ」
頷きながら、シンジは少し眉をひそめていた。
「そう。その子達は良くしてくれる?」
「うん!僕の事を『親友』だって言ってくれるんだ」
本当に嬉しそうに頷くシンジの顔を見て、ユイは少し微笑んだ。
「そう。良かったわね、シンちゃん」
「うん・・・でも、それがどうかしたの?」
「・・・シンちゃん。あのね、私、もう少しシンちゃんが他の人とも話をした方が
良いと思うの。なぜかわかる?」
ユイはシンジの顔を正面から見つめて言った。
304:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:31:25
「・・・」
首を横に振るシンジ。
「確かに、鈴原君も相田君もいい子かも知れないわ。もちろん、鈴原君には鈴原君の、
相田君には相田君の考え方があるわよね。でも、それはあくまでもその二人の考えに
過ぎないわ。これはわかるわね?」
「・・・うん・・・」
「でも、他の人には他の人の考え方があるわ。だから、シンちゃんには色々な人の
様々な意見を聞いて、多角的な考え方が出来る大人になって欲しいの。一つの事だけを
思い込むんじゃなくって、その事に対する色々な視点で見られる人になって欲しいの」
「・・・よくわからないよ・・・」
「そうね、それじゃ・・・マーちゃんに例えてみましょう」
「・・・日向さん?」
「ええ。シンちゃんも良く見ていればわかると思うけど、マーちゃんはミーちゃんに
『ホレホレゾッコン』よね」
ユイの口から出た暴露話に、シンジは思いっきり驚きの声をあげた。
「・・・え・・・ええっ!?ひゅ、日向さんが、ミサトさんに!?」
「あら、シンちゃん。気付いてなかったの?」
「・・・う、うん・・・」
「そう。・・・で、とにかくマーちゃんはミーちゃんに『ホレホレゾッコン』なの。
ここまでは良いわね?」
305:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:32:29
「う、うん・・・」
「・・・で、問題はマーちゃんがミーちゃんしか見てないって事なの。仕方が無いこと
なのかもしれないけれど・・・。でも、ミーちゃんはマーちゃんの事なんて、何とも
思ってないのよ。これは、シンちゃんもわかるでしょ?」
「う、うん・・・」
「・・・可哀想よね、マーちゃん」
「うん」
「私は、マーちゃんが素直にミーちゃんを諦めて他の女の人を好きになった方が良いと
思うのよ。でも、マーちゃんにはそれが出来ない。なぜか?それは、マーちゃんが広い
視界を持っていないからなの」
「・・・」
「少し視線をミーちゃんからずらせば、女の人は沢山居るわ。でも、マーちゃんは
その事に気付いていないのよ」
「・・・何となく、母さんが言いたいことがわかった気がする・・・」
説明を続けていたユイは、シンジの呟きを聞いて内心ニヤリと笑った。
「そう。そこで母さんがシンちゃんに勧める事は、もっと友達を増やしたらどうか、
っていう事なの。色々な人と付き合ってその話を聞いていれば、きっと色々な考え方が
出来るようになるわ。だから・・・」
「・・・うん。でも・・・」
306:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:41:03
「でも?」
俯いてしまった息子に、優しく聞き返すユイ。
「・・・友達を増やすって言っても、どうしたら良いのか、わからないよ・・・」
「そうねぇ・・・それじゃ、みんなと一緒にお弁当でも食べてみたらどうかしら?」
「えっ!?」
「お弁当の時間って、一緒にいる人達と色んな話をするでしょ?だから、自然に友達も
出来ると思うの。・・・どうかしら?」
「・・・うん。わかったよ」
「良かった。シンちゃんならわかってくれると思ってたわ。何と言っても、私の可愛い
シンちゃんだものね(ハァト)」
「か、母さん、止めてよ!」
いきなり抱きついてきた母に、少しだけ頬をピンクにして抵抗するシンジだった。
「・・・と言うわけなんです・・・だから・・・」
ユウキが語ったのは、『友達を増やしたい』と言う事実一点のみだった。
余計なことを言わないのは、この数ヶ月で学んだ教訓によるものだ。
「そ、そうだったんだ・・・」
ヒカリがそう言って考え込んだ。
その後ろの方では、トウジが滝涙を流している。
「・・・い、碇さ~ん・・・わしじゃ・・・ダメなんか・・・」
307:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:41:47
「・・・泣くな、トウジ・・・」
トウジの横に立っているケンスケが、なぜか窓の外を見つめながら呟いた。
そしてユウキは、封印されていたモノを自分が解放してしまった事に気付いた。
なぜなら、いつもなら遠巻きに見守っているだけの他の生徒達が我先とばかりに自分に
駆け寄って来たからだ。
「・・・そ、それじゃあさ、今日は俺達と一緒に食べようぜ!」
ユウキに詰め寄ってきた男子生徒の一人がそう言った。
「なっ、なに言ってるのよ!あんたらなんて碇さんが相手にするわけないでしょ!?」
速攻でその横の女子生徒が否定した。
「・・・ね、碇さん。(ハァト)碇さんは今日はあたし達と一緒に食べるのよね?」
「そうよね~、やっぱり碇さんはむさ苦しい男は嫌いよね~(ハァト)」
女子生徒達が群がってきた男子生徒達を押し退けながら、ユウキに迫った。
その目は一様にギラギラと輝いており、なぜか呼吸も荒い。
両手には各自しっかりお弁当を持っているのはご愛敬。
「あ、う、うん・・・」
女子生徒達のあまりの迫力に、思わず頷いてしまうユウキ。
「ほぉら見なさい!男はお呼びじゃないのよ!さっさと失せなさいっ!」
ここぞとばかりに男子生徒達を手際良く教室の外に追い出してしまう女子生徒達。
その光景に、ユウキは後頭部に大きな汗を流した。
「・・・」
308:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:42:26
ちなみに、トウジ&ケンスケはいつもユウキと一緒に食べているという事で、ただ
押し出されるだけでなく苛烈と言えるほどの攻撃を受けてボロボロになっていた。
そして、ボロボロになった二人は他の男子生徒達にも攻撃を受け、その日の午後の
授業時間を保健室で過ごすことになった。
「・・・うう・・・な、なんで俺が・・・」
「い・・・いかり・・・さん・・・わしは・・・げふぅっ!」
そんな呻き声をあげている二人だが、保健室すらも彼らの安らぎの地では無かった。
なぜなら、保険医である若年の女性もユウキのファンだったからである。
・・・当然、彼女は二人の治療をすると見せかけながら、いたぶって楽しんでいた。
一方、アスカ&レイ&ヒカリの三人は、目をギラギラさせた興奮状態の女子生徒達を
前にして、少しだけ心細かったユウキの
「・・・あ、あの・・・綾波さん達は・・・一緒に、その・・・」
との頬を染めての呟きに、文字通り躍り上がって喜び、ユウキの両隣&正面を
ゲットしたのは言うまでもない。
309:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:43:19
そして、某無精髭のスパイは本部内の食堂にいた。
「・・・それにしても、珍しいな?」
加持は自分の向かいに座っているミサトに語りかけた。
「何がよ?」
「いや・・・葛城の方から食事のお誘いとはな・・・」
「・・・今月は財布の中身が厳しいの。あんたなら奢ってくれるでしょ?」
本当に美味しそうに食べながら言うミサトに、加持は苦笑した。
「・・・なるほどな」
「・・・そうだ。・・・あんた、今夜暇でしょ?久しぶりに呑みに行かない?」
さりげなさを装っているが、密かに緊張した様子のミサトに、加持は肩を竦めた。
「お、こりゃまた・・・どういう風の吹き回しだ?」
「・・・いや・・・なの・・・?」
少しだけ俯き、寂しそうに呟くミサトを見て、加持は慌てて答えた。
「いや、そうじゃない。葛城さえ良ければ、俺は何時でも付き合わせて貰うよ」
(・・・これは・・・フッ・・・やはり葛城は俺の事を・・・)
そう考えながら、いつもの笑みを浮かべる加持。
「何時にする?」
「あ・・・そうね、7時に・・・ねぇ、久しぶりに・・・迎えに来てくれる?
あたし、デスクに居るから」
そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべるミサトに、加持は内心ガッツポーズした。
310:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:44:45
(・・・やったぞ・・・ミサト・・・俺の元に帰ってきてくれるんだな・・・)
「我が姫がお望みとあれば、喜んで」
そう言いながら、わざとらしくお辞儀する加持。
「・・・ばっ・・・」
その仕草に赤くなって怒鳴ろうとしたミサトだが、ここが食堂である事を思い出し、声を潜めた。
「・・・もう・・・バカなんだから・・・」
そのミサトの様子に、加持は微笑みを浮かべた。
それを上目遣いに見ながら、慌てた様子で目の前の食事を取り続けるミサト。
(・・・よっしゃ!まず第壱段階はおっけ~よね!次は・・・)
こうして、加持はミサトの策略に掛かるのだった。
第一中学校校庭、放課後。
「・・・ほら、ユウキちゃん。早く行かなきゃ・・・」
「え、ええ・・・でも・・・」
「アンタ、あんな変態どもを気にしてるの!?ジャージバカと盗撮ストーカーなんてほっとけば良いのよっ!」
レイとアスカがユウキを促しているが、ユウキは心配そうに校舎の方を見ている。
「で、でも・・・」
「ほらっ!実験に遅れると怒られるわよ!?」
「そうだよ、ユウキちゃん。赤木博士は怒ると凄く怖いんだから、早く行こうよ~」
レイが少し困ったような声を出すと、ユウキはようやく頷いた。
311:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:49:53
「・・・ええ。それじゃ、行きましょう」
ちなみに三人の少し後ろでは、ヒカリが寂しそうにユウキの後ろ姿を見つめている。
人差し指をくわえ、物欲しそうな顔をしてユウキの後ろ姿を見つめるヒカリ。
その姿は、実はなかなかのモノなのだが、その前に「可愛い」というレベルを遙かに
超越した三人の美少女が立っているため、決して目立ちはしない。
ふと妙な雰囲気を感じて後ろを振り向いたユウキは、そのヒカリの姿を見て、思わず頬を赤くした。
「・・・ど、どうしたの?洞木さん」
「あ、ううん!何でもないわ!」
慌てて手を振って応えるヒカリに、先の姿を見なかったアスカとレイが首を傾げた。
「こんにちは~」
最初に発令所に入ったレイが明るい声で挨拶すると、リツコが振り向いた。
「あら、レイ。来たのね?ユウキとアスカは?」
「ここにいるわよ」
胸を張って応えるアスカと、その後ろに隠れるようにしながら入ってくるユウキに、
リツコは頷いた。
「・・・ユウキちゃ~ん(ハァト)いらっしゃ~い(ハァト)」
オペレーター席に座っていたマヤがそう言いながら、ユウキに駆け寄った。
「あ、マヤさん・・・こんにちは」
ニッコリ笑いながら言うユウキに、マヤは目をハート形にして見とれている。
312:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:50:46
「・・・マヤっ!仕事に戻りなさい!」
「あ、は、はいっ!」
頬を引きつらせたリツコが思いっきり怒鳴り、マヤは全身に汗を浮かべて慌てて席に駆け戻った。
「全く、この娘ったら・・・それじゃ、今日の実験の主旨を教えるわ。今日の実験は
『新型特殊装備装着時におけるサードチルドレンの心理テスト』よ」
「・・・はぁ?新型特殊装備って・・・?」
リツコの言葉に、アスカが不思議そうな顔をした。
「ユウキ専用プラグスーツのプロトタイプが出来上がったのよ。その機能チェックと、
様々なシチュエーションにおけるユウキの精神状態のチェックが今日の実験の目的よ」
「・・・?」
ユウキは、リツコの言っている事が理解できなかったらしく、首を傾げている。
その仕草に再度撃墜される発令所の者達。
「・・・それじゃ、アタシ達はどうすんのよ?」
「もちろん、貴女達にも実験に参加して貰うわ」
「どうやって?」
「詳しくは後で説明するわ。さぁ、ユウキ。さっさとプラグスーツに着替えてきなさい。
新しいのが更衣室に用意してあるから。レイとアスカはここで待機よ」
「はい」
ユウキはリツコの言葉に従って発令所から出て行った。
その後ろ姿を見送ったレイは、少し寂しそうな顔をして呟いた。
313:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:51:42
「ユウキちゃん・・・」
「・・・リツコ、説明してよ」
「そうね。それじゃ、今日の実験の詳細を教えるわ」
アスカの言葉にリツコが頷いた。
「・・・まず、感情チェックを行うわよ。これは、ユウキが自分の持つ感情を正しく理解しているかどうかのチェックね」
「・・・なんでですか?」
レイが少し眉をひそめて尋ねた。
「・・・あの子の生い立ち・・・知っているわね?」
「・・・は、はい・・・」
「・・・それがどうしたのよ・・・?」
レイとアスカが少し顔をしかめた。
「・・・あの子はずっと一人きりで育ってきたわ。だから、感情の正常な成長が
成されているかどうか、いまいち不明なのよ。そしてそれは、エヴァとのシンクロに
良くない影響を与えかねないわ。だから、万が一に備えるという意味でも、あの子の
感情の動きについて、把握しておかなきゃならないのよ・・・」
「・・・」
「・・・」
黙り込む二人の少女。
その姿を見て、リツコが続けた。
「で、貴女達の今日の任務は・・・」
314:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:55:39
「碇、子供達の学校生活についての今日の報告書が諜報部から・・・・・・っ!?」
総司令執務室に入ってきた冬月は、そこで見た光景に驚いて目を見張った。
部屋の中央のデスクについているゲンドウが、いつもの『ゲンドウポーズ』もとらず、
机上のモニターに、まさに食い入る様に張り付いて見ていたからだ。
いつもなら、あのサングラスの下から感情を消した目つきでこの部屋への侵入者を
じっと見つめているはずだ。
「・・・い・・・碇・・・?」
冬月は呆然としながら声をかけたが、ゲンドウは冬月の方を見もしない。
「・・・用事なら後にしろ・・・」
返ってきた声に、冬月は再び驚いて目を見張った。
(・・・い、碇が『子供達』という単語に反応しないだと!?バカな!)
「し、しかし、子供達についての報告書だぞ?すぐに見たいのではないのか?」
「・・・後にしろ、と言っている・・・」
再び返ってきた言葉に、冬月は思わず持っていた書類を落としてしまった。
(・・・な・・・なんなのだ?・・・なにがあったというのだ!?
・・・ははぁ・・・あのモニターに映っている映像だな・・・あの碇をして
子供達よりも優先させる映像・・・これは・・・見せて貰うぞ、碇・・・)
落とした書類を手早く拾い集めた冬月は、足音を立てないように気をつけながら、
そっとゲンドウの背後に回り込んだ。
「・・・・・・!?」
315:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:56:32
ゲンドウの肩越しにモニターを覗き込んだ冬月は、そこに映し出されていた映像の
あまりの破壊力に、再び書類を落としてしまった。
「・・・なっ・・・こ、これって・・・!?」
ユウキは自分専用の更衣室のロッカーに入っていたプラグスーツを身につけ、驚きの声をあげていた。
その視線は、自分の身体に向いている。
新型プラグスーツは、一言で言えば『バニーさん』だった。
頭に装着しているインターフェース・ヘッドセットは薄いピンク色のモコモコした毛で
覆われた『ウサ耳』だし、尻の部分には同じくモコモコの短いしっぽまでついている。
首から下の肌は全てプラグスーツで覆われているのだが、首回り及び肩の部分は透明な
素材で出来ており、白い肌が露わになっている。
太股から足首までは透明な素材で覆われているのだが、なぜかその素材には、黒地で
細かい網目模様が足首まで入っている。
足首から先は黒く塗り潰されており、なおかつ、かかとの部分が少し高くなっている。
胸から腰にかけては薄いピンク色の素材で覆われており、胸と尻の部分の膨らみが
妙に強調されているようなデザインになっていた。
「・・・こ・・・こんなの・・・はずかしいよ・・・」
更衣室内に備え付けられている全身鏡に自分の姿を映して、ユウキは呟いた。
身に着けてから恥ずかしがるあたりに、性格が現れていると言えるかも知れない。
鏡に映るユウキの頬は、紅く染まっていた。
316:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 15:57:19
総司令執務室は、沈黙に包まれていた。
「「・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」」
いや・・・なぜか妙に荒い呼吸音が響いている。
しかも、二つ。
「「・・・」」
突然、怪しい呼吸音がまるでシンクロしているかのようにぴたりと止まった。
二つの影が覗き込んでいるモニター脇の小型スピーカーから、小さく呟くような声が
聞こえてきた。
「・・・こ・・・こんなの・・・はずかしいよ・・・」
その声を聞いた二つの影は、プルプルと身体を震わせた。
「「・・・っ!」」
その間にも、モニターに映し出されている人物は、露出している肌を羞恥のために
紅く染めてもじもじしている。
「・・・よ・・・よくやったな、ユウキ・・・」
「・・・ユ・・・ユウキ君・・・素晴らしいぞ・・・」
二つの怪しい影はほぼ同時に呟き、ハッとした表情で互いの顔を見た。
317:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:03:01
「・・・こ・・・これが、新しいプラグスーツだなんて・・・」
ユウキはもう一度、鏡に写った自分の姿を確認して、恥ずかしそうに呟いた。
その時、更衣室の壁に取り付けられている内線電話が鳴った。
ユウキは一瞬だけ驚いて肩を震わせたが、すぐに駆け寄って電話を取った。
「・・・は、はい」
『・・・どう?きちんと身につけられたかしら?』
電話の向こうから聞こえるリツコの声に、ユウキは思わず背筋を伸ばした。
ユウキは、どこか冷たい感じがするリツコを苦手とする部分があるのだ。
「・・・は、はい・・・」
『そう。それじゃ、その格好のままで発令所に戻ってきて。実験を開始するわ』
「・・・はい・・・」
ユウキが小さく頷くと、そのまま電話が切れた。
「・・・この格好で・・・行かなきゃならないなんて・・・」
受話器を壁に掛け、改めて自分の姿を見下ろしたユウキは、再び頬を紅く染めた。
少しの間、立ち尽くしていたユウキだったが、やがて大きくため息をつくと、
先ほど自分が脱いだ第一中学校の女子制服を綺麗にたたんでロッカーにしまい、
深呼吸をして、更衣室のドアを開けるボタンに手を伸ばした。
318:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:04:12
その頃、総司令執務室では・・・
「碇ッ!貴様、実の父親のくせに、何を考えているのだ!?」
「何だと!?そう言う貴様こそ、私のユウキに対して何を考えているのだ、冬月!?」
「『私のユウキ』だとッ!?ユウキ君の様な素晴らしい子には、俺のような人格者が
相応しいのだ!貴様のような人格破綻者の娘にしておくのはもったいないぞっ!」
「なにが人格者だ!いい歳をしておいて、何をほざくか!ボケ老人は用済みだっ!」
「誰がボケ老人だ!?」
「貴様だっ!」
「ふざけるなっ!貴様こそ、ユイ君に嫌われて・・・いや、フラレたくせにっ!」
「何だとっ!?俺がいつユイにフラレたと言うのだ!?このボケ老人がっ!」
「何だとっ!?俺がいつボケたと言うのだ!?このフラレ虫がっ!」
それからしばらくの間、総司令執務室には罵詈雑言の嵐が飛び交っていたらしい。
プシュッ。
空気の圧搾音と共に発令所の扉が開き、顔を真っ赤にしたユウキが発令所に現れた。
現れたと言っても、開いたドアの向こう側で真っ赤になって俯いているだけだ。
「・・・来たわね」
リツコが、読んでいた書類から目を上げずに言った。
「「・・・」」
他の者達は、あまりの事に全く言葉が出ない。
319:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:05:17
『恥じらう美少女バニーさん』の姿に、完全に思考能力を奪われているのだ。
「こちらへ来なさい。実験の説明をするわ」
「・・・は、はい・・・」
小さい声で応え、おずおずとドアをくぐって発令所に入ってきたユウキ。
その顔は羞恥のために真っ赤に染まり、視線は自分の足下だけを見ている。
両手の指を恥ずかしそうに身体の前でモジモジと絡ませている姿は、まさに
全てを撃沈せんばかりの美しさだった。
「・・・早く来なさ・・・」
書類から目を上げながらそう言いかけたリツコが、沈黙した。
ユウキの姿を視界に入れてしまったのだ。
・・・どうやら、老若男女お構いなしの圧倒的攻撃力を誇っているらしい。
「は、はい・・・・・・・・・?」
リツコの言葉を、叱責されたものと勘違いしたユウキは、慌ててリツコの目の前に
駆け寄り・・・そして、硬直しているリツコの姿に、僅かに首を傾げた。
「・・・あ、あの・・・リツコさん?」
「・・・っ!な、なに!?」
自分の名を呼ばれ、動揺しまくりながら応えるリツコ。
その拍子に持っていた書類を落としそうになり、慌てて両手で抱えなおしている。
「・・・どうか、なさったんですか?」
無邪気に尋ねながら、不思議そうな表情でリツコの顔を見つめるユウキ。
320:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:06:11
見つめられて頬を赤く染めながら、どもりまくりつつも辛うじて尋ね返すリツコ。
このあたりは、冷静沈着を常とするリツコならではだ。
もしこれがゲンドウあたりであったら、『・・・良くやったな、ユウキ・・・』の
一言で会話を終わらせ、なおかつ暴走するであろう・・・。
幸いにして、リツコは常に科学者として冷静であろうと努力していたため、会話は
無事に繋がり、周囲に自分の無様な姿は見せずに済んだ、と本人は思い込んでいる。
もちろん、周囲の者達もリツコの周章狼狽した姿など、目に入っていないのだが。
「なな、なんでもないわっ!そ、それより新型特殊装備はどうかしらっ!?」
(お、落ち着きなさい、リツコっ!私はノーマルのはずでしょっ!)
必死に自分に言い聞かせるリツコ。
その甲斐あってか、リツコはいつも通りの冷静な仮面を被りなおす事に成功した。
「・・・あ、あの・・・ちょっと、はずかしいです・・・」
ユウキは相変わらず真っ赤になったまま、今度は少し俯いた状態で上目遣いに
リツコを見ながら言った。
あまりにも強烈すぎる攻撃を食らったリツコだが、今度は耐性が出来たのか、
あまり動揺する事も無かった。
もしこれがマヤあたりであったら、『か・・・かわいいぃ~ッ!ユウキちゃんッ!』の
一言で会話を終わらせ、なおかつ暴走するであろう・・・。
「そ、そう・・・ま、まぁ、それは我慢して貰うしかないわね。その形状は、あらゆる
状況下におけるあなたの生存確率を上げる為のモノなのよ」
321:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:07:30
「・・・はぁ・・・そうなんですか・・・」
「それじゃ、各種機能のチェックを開始するわ」
リツコはそう言いながら、怪しい微笑みを浮かべた。
その頃、暴走真っ最中の総司令&副司令を唯一止められる存在である碇ユイ技術二佐
兼ネルフ第二副司令は、第二新東京市のとある喫茶店に居た。
「・・・それでは、了承して下さいますのね?」
「ええ。何と言っても、他ならぬ貴女と冬月先生の頼みですからね。それに、家族も
この話には賛成してくれていますし・・・」
しっかりと頷いた相手の男に、ユイは笑顔を向けた。
「感謝致しますわ。・・・私どもの我が儘で、貴方ばかりかご家族にまでご迷惑を
お掛けするのではないかと思いまして・・・」
「・・・どうせ私は、貴女方と旧知の仲だと言うことで、上から睨まれてますから。
それに、近頃は不穏な雰囲気も漂ってますからね」
男はそう言って笑った。
322:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:13:29
そして、作戦部長葛城ミサトは、自分専用の執務室で考え込んでいた。
(・・・どこまで許してやろうかしらね・・・ほっぺにキス、くらいかしら?)
今夜、予定されている『元』恋人との逢瀬について考えているのだ。
その表情は険しい。
(ホントはイヤだけど・・・シンジ君との、二人きりの愛の生活を守るためだし・・・
いっそのこと、事故に見せかけて本当に殺ってやろうかしら?・・・でも、そんな事を
したらユイ博士が怒りそうだし・・・もうしばらく生かしといてやろうかしら・・・)
やや剣呑な事を半ば本気で考えながら、ミサトは天井を見上げた。
(・・・それにしても・・・シンジ君ってば本当に可愛いわね~・・・昨夜なんて、
お風呂あがりにバスタオル一つで出てったら全身真っ赤になって凍ってたし・・・
『・・・みっ、ミサトさんっ!』な~んて、声が裏返ってたもんね~)
天井を見上げるミサトの顔が、いつの間にか、でれ~っとだらしなく崩れている。
もしもこの表情をシンジが見たら、黙ってため息をついただろう。
323:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:14:21
そして、再び発令所。
「・・・機能チェック・・・ですか?」
「ええ。一応、事前にもチェックはしてあるけれど、実際にあなたが身に着けた状態で
チェックをした方が、確実なのよ」
リツコの説明に、ユウキは小さく頷いた。
「・・・わかりました・・・」
「それじゃまず最初に、念のために言っておくけど、あなたが今頭につけてるのが
インターフェースヘッドセットよ。・・・わかってるわね?」
リツコが確認するように説明すると、ユウキは勢い良く頷いた。
「は、はい!」
それを見て、リツコが手元のコンソールを操作してから言った。
「・・・スイッチを入れたから、ヘッドセットを動かしてみて」
「・・・え?」
『はぁ?』といった様な表情で、ユウキが聞き返した。
それに対して、リツコは軽くため息をついて説明した。
「・・・そのヘッドセットは特製で、対象の脳神経に繋いで対象の感情通りに動く様に
出来ているのよ。もちろん、『しっぽ』もヘッドセットと連動してるわ」
「・・・そう言われても・・・」
戸惑いの表情を浮かべるユウキ。
それを見て少し考え込んだリツコは、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
324:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:15:03
「・・・ところで、着心地はどうかしら?」
「え?・・・あ、はい。・・・わ、悪くないと思いますけど・・・」
突然変わった話題に、ユウキはその顔に浮かぶ戸惑いの色を濃くしながら応えた。
「・・・あら、『シンジ君』は男の子なのに女の子の服を着て『着心地が良い』なんて言うの?」
「ぁ・・・」
揶揄するようなリツコの口調に、ユウキは小さな声をあげて俯いた。
その頬は真っ赤に染まっている。
同時に、ユウキの頭の上に立っていた『ウサみみ』がぴょこんと揺れた。
おまけに、お尻についていたモコモコの『しっぽ』もフルフルと細かく震えている。
「・・・っ!!!」
あまりにも『モエモエ~』な姿に、ユウキを見ていた全ての者達が凍り付いた。
自称「のーまる」であったはずのリツコすらもが凍り付いていたのだから、その姿の
威力も知れようというものだ。
325:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:15:48
再度、総司令執務室。
「・・・むぅ・・・」
「・・・おぅ・・・こ、これは・・・」
二人のイイ歳をしたオヤヂどもが、一つのモニターを食い入るように見ながら
呟いていた。
つい先ほどまで争っていたはずの男達は、今は仲良く顔を寄せ合いながらモニターに
映る一人の女装少年の姿に見とれている。
「・・・」
「・・・」
ゴクリと喉をならしながら、その人物の一挙一動を見逃すまいと、瞬きもせずに
モニターに見入っている。
やがて・・・
「・・・くっ!」
「・・・どうした、冬月?」
「い、いや・・・少し目が乾いたようだ・・・」
どうやら、瞬きもせずにモニターを見ていたために、目が乾いて痛くなったらしい。
「・・・フッ・・・ボケ老人らしいな・・・」
「な、なんだと!?誰がボケ老人だ、誰が!」
「・・・それくらいもわからんのか?」
そして、またもや争いが始まった。
326:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:16:32
「そ、それじゃ、次にフィット感の調整ね。・・・マヤ」
「・・・」
辛うじて先ほどの『衝撃』から立ち直ったリツコが呼ぶが、マヤは返事をしない。
「・・・マヤ?返事はどうしたの?」
不思議に思ったリツコがマヤを見ると、マヤは目をハート型にして、ユウキをじっと見つめていた。
「・・・マヤっ!」
「・・・は、はいっ!?」
再びリツコが、今度は微かに苛立ちを込めて呼ぶとマヤは我に返り、慌てて大声で応えた。
「・・・貴女の出番よ」
「は、はいっ!」
リツコに言われたマヤは、思い切り嬉しそうに頷いて立ち上がった。
「・・・?」
ユウキは不思議そうな顔をして首を傾げた。
「・・・わかってるわね、マヤ?」
「はい!」
リツコの言葉に頷きながらも、視線はユウキに釘付けなマヤ。
「・・・それじゃ、初めてちょうだい」
「はいっ!・・・ユウキちゃん、イクわよぉ?」
マヤがユウキに歩み寄りながら言った。
327:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:17:32
「・・・え・・・?」
再び首を傾げるユウキ。
非常にあどけないその様子に、発令所の空気が一瞬だけ凍り付く。
「はいはぁい、動かないでねぇ~♪」
マヤはそう言いながら、自らの両手をユウキの両肩に置いた。
「え?え?」
戸惑うユウキ。
肩に置かれたマヤの手は、優しく撫でるようにプラグスーツの表面をなぞった。
まるで愛撫しているかのような手つきに、ユウキは全身をピンク色に染め、慌てて抗議した。
「・・・・・・マ・・・マヤさん・・・や・・・止めて・・・下さい・・・!」
なぜか抗議の声がとぎれとぎれになっているのはご愛敬。
「・・・うふふふ・・・うふうふ・・・」
マヤは、なぜかみょ~に艶っぽい笑い声をあげながら、ユウキのプラグスーツに
包まれた身体を撫で回している。
「・・・マヤ、どうかしら?」
リツコが手元の書類に視線を落としながら言った。
「・・・うふうふふうふふふふ・・・」
不気味な笑みを浮かべながらも、両手を動かし続けるマヤ。
自分を呼ぶリツコの声も聞こえていないらしい。
328:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:19:07
「・・・・・・マヤ?」
「・・・うふふふぅふふぅふうふぅ・・・」
反応の無いマヤにリツコが再び呼びかけるが、マヤは全く無反応。
というか、相変わらず不気味に笑っている。
「マヤっ!」
「・・・うふふうふふうふうふふうふ・・・」
「マヤっ!マヤっ!マヤっ!マヤマヤマヤマヤマヤマヤマヤマヤマヤマヤっっっっ!」
とうとうリツコがキレて、大声でマヤの名前を連呼した。
「・・・・・・・・・・・・・・・は、はいっ!?な、なんでしょう?先輩?」
マヤも、さすがに今度は聞こえたようだ。
「・・・具合はどうかしら?」
リツコが片手で目を覆い、小さくため息をつきながら尋ねた。
「・・・あ、最高ですぅ!赤くなっちゃって、私の手が動くたびに悩ましい吐息を
漏らしちゃったりして・・・ホントに可愛いですぅ!」
「・・・ちょ・・・マヤ・・・さん・・・や、やめ・・・んっ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・マヤ、そういう事を聞いてるんじゃないわ。
サイズはちゃんと合っているか、って聞いてるのよ?」
「あ・・・は、はい。えっと、大丈夫だと思いますぅ!だって、こんなに・・・」
「・・・ん・・・んんっ・・・」
「そう。それなら良いわ」
329:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:19:53
リツコはそう言ってからもう一度ため息をつくと、発令所を見回して呟いた。
「・・・無様ね」
リツコの視線の先々には、体中をピンク色に染めてマヤの手の感触に悶えている
ユウキの姿に見入っている者達がいた。
中には、目を充血させながら鼻血を流している者や、どこから取り出したのか、
携帯用の高性能ビデオカメラをユウキに向けている者もいる。
「・・・もう良いわよ、マヤ。次のチェックよ」
リツコが再度ため息をついて言ったが、マヤは手の動きを止めず、不満そうな口調で
聞き返した。
「えぇ~・・・もうですかぁ~?」
「・・・マヤ」
さすがに頭にキたのか、リツコの声のトーンが下がった。
「は、はいっ!」
これにはさすがのマヤも全身を震わせ、すばやくユウキの体から手を離した。
330:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:20:44
そんな発令所の様子を別室からモニターを通して見ていた少女達は・・・
「くっ・・・あんのバカマヤめぇ~!アタシのシンジになんて真似してんのよ!」
「落ち着きなさい、セカンド・・・それに、あなたのシンちゃんじゃないわ。
『あたしの』シンちゃんなんだから」
二人して額に血管を浮かせていた。
よく見ると二人とも拳を握り締めており、怒りのためか、全身が細かく震えている。
「ハン!バカファーストのくせに、下らない嘘をついてんじゃないわよ!」
「嘘じゃないわよ。それに、今はシンちゃんじゃなくて『ユウキ』ちゃんよ」
「・・・フンッ!」
「・・・なによっ!」
二人の少女達・・・アスカとレイは、モニターから視線を外し、互いに睨み合った。
リツコが席に戻ったマヤを横目で見て言った。
「・・・三つめのチェックよ。ユウキ」
両手で自分の体を抱き締め、荒いままの呼吸を必死になって整えていたユウキは、
リツコに言われてビクンと体を震わせて応えた。
「は、はい・・・」
「それじゃ、始めるわよ」
リツコはそう言いながら、ちらりと監視カメラに視線を向けた。
331:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:21:53
「・・・はい・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
332:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:24:33
しばらくの間、発令所に沈黙が漂った。
「・・・あ、あの・・・リツコさん?」
沈黙に耐えきれなくなったユウキが、おずおずと口を開いた。
「・・・ちょっと待って」
そう言ってユウキを制したリツコの額には、青筋が浮かんでいた。
(・・・ひっ・・・)
それを見てしまい、全身を真っ青にして思わず後ずさるユウキ。
しかし、怒り心頭なリツコはユウキになど目もくれず、本部内を繋いでいる内線電話を
握り締めてボタンを押した。
そして次の瞬間・・・
フッ、とネルフ全域、いや、ジオフロント全体の明かりが消えた。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
333:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:25:12
突然訪れた暗闇に誰もが口を閉ざし、呼吸すら止める。
「・・・・・・・・・・・・わ、私じゃないわよ」
ボソッと聞こえる謎の声。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
気まずい沈黙が発令所を包み込んだ。
同時刻、ボケ老人&バカ親父。
「・・・な、なんだ!?」
「・・・赤木博士か・・・」
334:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:25:57
同時刻、ファースト及びセカンド、両チルドレン。
「・・・なっ・・・ふぁ、ファースト!アンタがバカな事言ってるから、明かりが
消えちゃったじゃない!」
「・・・バカな事言ってるのはセカンドでしょ!?あたしのせいにしないでよ!」
同時刻、某作戦部長。
「・・・え?・・・停電?・・・まさか・・・でも・・・これなら、あんのバカ加持と
無駄な時間を過ごさなくてもイイかも・・・」
同時刻、某無精ヒゲ。
「・・・時間通り、か・・・」
そして再び発令所。
「・・・あ、あの・・・」
ユウキの声が暗闇に響いた。
「!・・・そ、そうね。マヤ、本部内の状況は?」
我に返ったリツコの声に、マヤが応えた。
「・・・どうやら、この発令所全体の電力供給が絶たれているようです」
マヤの言葉通りに発令所はほぼ完全な闇に包まれており、ほんの僅かな光すらも
見ることが出来なかった。
335:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:26:58
「・・・仕方ないわね」
リツコが言うのと同時に、シュッと音がして、明かりがついた。
一瞬だけ目が眩んだユウキが改めて見ると、それはリツコが手に持ったライターの明かりだった。
「・・・あ・・・」
「・・・全員、現状の確認!停電しているのがここだけなのか、それともネルフ全域が
停電しているのか・・・」
リツコの声に、慌てて立ち上がるオペレーター達。
「・・・急ぎなさい!」
「・・・ちょっと待って、セカンド。いくらなんでもおかしいわ」
いつまでたってもつかない明かりに、レイが真剣な表情になった。
「・・・そう言えばそうね・・・ファースト、ここは一時停戦よ」
アスカも、冷静な戦士の表情に変わった。
「・・・仕方ないわね。とにかく、発令所に行きましょ」
「当然の結論ね・・・・・・っ!?」
暗闇の中を、記憶にあるドアの方に向かって歩いていたアスカが、立ち止まって息を飲んだ。
「・・・セカンド?何やってるのよ?」
アスカの背後からレイが尋ねる。
「・・・あ、開かないのよ!ドアがっ!」
「・・・えっ!?」
336:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:27:43
「・・・碇、これは・・・彼か?」
「・・・」
「・・・保安部がチェックしていたのではないのか?」
「・・・問題ない・・・」
「・・・何が問題ないと言うのだ?この様子では、おそらく、ジオフロント全体が
停電しているのだぞ?」
「・・・も、問題ない・・・」
「・・・ユイ君がいなくてよかったな、碇・・・」
「・・・ももももももも、問題ない・・・」
「生き残っている電源は予備電源の一部だけです!」
「全体の僅か2%!?」
「生き残った電源はMAGIとセントラルドグマの維持に回して!」
「全館の生命維持に問題が生じます!」
「構わないわ!最優先よ!」
「了解!」
「・・・まさか・・・」
次々とあがってくるオペレーター達の報告を聞いて指示を出していたリツコが、
ぼそりと呟いた。
337:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:32:00
「・・・先輩?何か仰いましたか?」
リツコの前に座っているマヤが振り返って尋ねた。
闇に包まれた発令所を薄明かりで照らし出す様にオペレーター席に置かれたロウソクの
明かりが、妙な雰囲気を醸し出している。
そのロウソクは各オペレーター席に置かれており、事情を知らない者が見たら、
『・・・百物語?』とでも呟きそうな光景であった。
「い、いえ、何でもないわ」
(・・・まさか・・・加持君のトラップが他にもあったって言うの!?いいえ!
そんなはずがないわ!この私とMAGIの目を逃れることは出来ないはずよ!
・・・でも、だとしたら、誰が・・・?)
リツコがそこまで考えた時、リツコの後ろに立っていたユウキが口を開いた。
「・・・あ、あの・・・」
「・・・どうしたの、ユウキ?」
「・・・停電・・・ですよね、これ・・・」
「・・・そうよ」
「・・・ど、どうして停電なんか・・・?」
「・・・誰かが、人為的に電源を落としたとしか考えられないわ」
「そんな!」
「落ち着きなさい、ユウキ。正副予備の三系統全ての電源が完全に落ちるなんてこと、
普通じゃ有り得ないわ。だとしたら、残る結論は一つよ」
338:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:32:40
「・・・」
「ユウキちゃん」
「・・・マヤさん・・・?」
「大丈夫よ。すぐに電源は復活するわ。そうですよね?先輩」
「・・・そうね。保安部に電源の確保を命令したし・・・でも、おかしいわね?」
「え?何がですか?」
「・・・司令と副司令の姿が見えないのよ。ミサトもね」
「・・・案外、どこかに閉じこめられてるんじゃないですか?」
「・・・あり得るわね」
リツコはため息をついた。
「・・・あ、開け~っ!・・・開いて、お願い!今開かないと困るのよ!」
ミサトが自分の執務室のドアを蹴っ飛ばしながら叫んだ。
どうやら、「自然現象」とかいう奴に駆り立てられているらしい。
「開いてよぉ!も、漏れちゃう~っ!!」
・・・情けない声だった。
339:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:33:39
「・・・これは誤算だったな・・・まさか、自分も閉じこめられるとは・・・」
加持は、自分の目の前を塞ぐ金属の板に向かって呟いた。
自分は簡単なロック程度はあっという間に外せる自信がある。
だが、加持を自分の執務室に閉じこめているのは電力供給が止まった自動ドアであり、
外部からの機密防衛のために過剰とも言えるほど重く分厚く作られているそれは、
人間一人の力ではどうやっても開ける事が不可能だった。
「・・・碇司令・・・これも、あなたのシナリオ通りなのですか・・・?」
加持は、心底情けない顔で呟いた。
「・・・と、とにかく、発令所に行かなければな」
「・・・う、うむ・・・冬月・・・」
「なんだ?」 「・・・開けろ」
「な・・・なんだと!?」
「・・・扉を開けろ、と言った」
「き、貴様!」
「・・・総司令としての命令だ(ニヤリ)」
「くっ・・・!」
「・・・ふっ・・・どうした?命令に逆らうのか?」
「ぐぅ・・・い・・・碇・・・」
額に大きな青筋を浮かべて、歯を食いしばって怒りを堪える冬月だった。
340:第壱拾壱話 静止した闇の中で
06/10/28 16:34:24
ネルフ本部の各所が混乱に陥っている時、たまたま非番だった眼鏡のオペレーター
日向マコトは、たまった洗濯物を抱えて第三新東京市を歩いていた。
「・・・全く・・・葛城さんもホントにズボラだなぁ・・・洗濯物くらい、自分で
何とかして欲しいよな・・・はぁ・・・シンジ君も大変だよな・・・」
ブツブツと呟きながら歩く。
「・・・あれ?」
ふと、日向は目の前の信号の明かりが消えている事に気付いた。
「なんだ?・・・システム異常か?それとも、赤木博士が実験でもミスったかな?」
この街を制御しているのがMAGIである事を知っている日向は、首を傾げた。
その時、日向の頭上を戦自のヘリコプターが通過した。
「・・・第三新東京市の皆様、こちらは戦略自衛隊です。ただいま、当市に正体不明の
存在が接近しております。住民の皆様は、直ちにシェルターへ避難を開始して下さい。
繰り返します・・・」
そのヘリから聞こえてきたアナウンスに、日向は目を大きく見開いた。
「・・・や、やばいっ!どうしよう!」
慌てて周囲を見回す日向の視界に、「イイモノ」が飛び込んできた。
「・・・ラッキ~っ!」
叫んで道路に飛び出し、「イイモノ」を止める日向。
それは、どこかの運送屋のにーちゃんが運転するトラックだった。
341:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:36:31
「・・・マヤ、まだなの?」
ロウソクの明かりに照らされたリツコが口を開いた。
「は、はい。現在の復旧率、いぜんとして変化ありません」
「・・・全く・・・ミサトや司令達は何をしているのかしら?」
リツコが苛立ちを隠さずに呟いた時、リツコの背後に立っていたユウキがおずおずと
口を開いた。
「・・・あ、あの・・・」
「何かしら?」
苛立ちを隠さなかったリツコも、ユウキには何故か優しく尋ねる。
「・・・今、使徒が来たら・・・どうなるんですか・・・?」
ユウキの言葉に、電源の復活しか考えていなかったリツコ達は、ハッと気付いた。
使徒迎撃専用都市である第三新東京市だが、高度に機械化された街のエネルギー源は
紛れもなく電気なのだ。
その電気がほとんど使えない状態である現在、使徒が現れたらどうなるか・・・。
決戦兵器であるエヴァンゲリオンすらも電気を利用しているのだ。
「そ、そうね・・・。青葉君、技術部に連絡して!エヴァンゲリオン各機発進準備!」
リツコが大声で言った。
「えっ!?し、しかし、電源が・・・」
「・・・予備のディーゼルがあるでしょう!万が一に備えるに越したことはないわ!
エヴァ各機の起動準備を急がせて!」
342:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:37:22
「りょ、了解!」
青葉が頷き、MAGIの維持に回している電源を一部だけ利用して、ケージ近辺に放送を流した。
そして、運が良いのか悪いのか、ユウキの懸念は大当たりする事になった。
「・・・うぅ~っ!」
「・・・うぅ~っ!」
二人の少女が、闇の中で呻いている。
「・・・ちょっと、ファースト!もっと力入れなさいよ!」
苛立ちの声をあげたのはセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー。
「・・・入れてるわよ!セカンドこそちゃんとやってよ!」
反論の声をあげたのはファーストチルドレン、綾波レイ。
「・・・もう一回やるわよ!」
「・・・わかってるわよ!」
そして、二人の少女は自分達を閉じこめているドアに手を掛けた。
「「・・・せ~の!」」
かけ声と共に全力を込めてドアを開けようとするのだが、少女二人の力で開くほど、
特務機関ネルフのドアは軟弱ではなかった。
それを知ってか知らずか、二人はまたもや呻いた。
「・・・うぅ~っ!」
「・・・うぅ~っ!」
343:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:41:55
そして、司令執務室。
「・・・どうした、冬月。開けるなら早くしろ・・・イヤなら帰れ!」
ゲンドウが、思いっきり人を見下した口調で言った。
「ぐぐぐぅ~っ・・・碇めぇ~・・・」
冬月は呻きながらドアを開けようとして全力を込めている。
その様子は、見ているのがゲンドウでなかったら思わず止めさせてしまいたくなるほど
ヤバげだった。
全身、特に顔面を真っ赤にして、思いっきり体重をかけてドアを押しているその姿は、
『・・・血管切れちまうんじゃね~の?』と言いたくなってしまいそうだ。
「・・・どうした・・・開いていないぞ・・・」
ゲンドウがニヤリと笑って言ったが、冬月は息を切らせていて、何も答えない。
「・・・」
「・・・フッ・・・おまえも歳か・・・」
ゲンドウの呟きに、冬月は歯を食いしばって怒りを堪えた。
「・・・ぐぐぐぐぐぅぅぅぅ~~~っ!!」
344:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:42:35
「・・・だ・・・ダメぇ~っ!も、もれちゃう~っ!誰か、開けてぇ~っ!」
先刻から、ひたすら叫んでいる女性が一人。
言わずと知れたネルフ作戦部長、葛城ミサトである。
「・・・くっ・・・くくっ・・・開きなさいよ~・・・」
呻きながら、カリカリと音を立てて開かないドアを引っ掻いているミサト。
情けない姿だったが、不幸中の幸いか、彼女の姿は誰にも見られる事は無かった。
「・・・まいったな」
押しても引いても全く開かないドアを目の前にして、加持は頭を掻いた。
「・・・お叱りを受けるのはゴメンなんだがなぁ・・・」
呟く彼の頭の中に浮かんでいるのは、自らがもつ幾つかのスポンサーうちの一つ、
極東の島国のお偉いさん。
「・・・ま、しょうがないか・・・」
そう呟いて、加持は肩を竦めた。
345:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:43:36
「・・・急いでくれっ!」
こちらはジオフロントの頭上、第三新東京市。
「おっしゃあっ!まかせとけっ!」
全ての電気が消えた無人の街を、一台のトラックが爆走している。
その運転席には、運送屋の作業着を着たオヤジ。
そして、助手席にはメガネをかけた青年、日向マコト。
運転手のオヤジと日向の間には、山ほどの洗濯物の入った袋が置かれている。
「間に合わなかったらヤバイぞっ!?」
日向の叫びに、オヤジの瞳がギラリと輝いた。
「・・・わかった・・・本気でイクぜっ!うおおおおおおっ!!」
オヤジの咆哮と同時にトラックのエンジン音が跳ね上がり、法定速度からは遙かに
かけ離れた速度で走っていたトラックが、さらに速度を上げた。
「・・・・・・っ!」
思わず掴まる所を探して彷徨う日向の手。
(・・・ま・・・まるで葛城さんの運転のようだ・・・)
「いぃぃぃぃぃやっほぉう~っ!!」
すでにオヤジの目はどこか遠くを見ている。
叫び声すらも、何かヤバイものを感じさせるほどだ。
襲い来るスピードの恐怖の中で、日向がちらりとスピードメーターに視線を向けた。
「・・・・・・!」
346:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:44:20
針は、振り切っていた。
「・・・おっ・・・おいっ!だ、大丈夫かよっ!?」
思わず叫ぶ日向だが、返ってきた言葉はまっとうなものでは無かった。
「そ~れそ~れシ~フトア~ップ!シ~フトダウ~ン!ヒ~ルあんどトゥ~~~っ!
・・・ぼうず~、四輪ドリフトってしっちょるけ~~!?うわはははぁ~~っ!」
ちなみに、セリフの真ん中の沈黙の時点で、トラックは真横に滑っている。
それも、助手席をアウト側にして。
・・・つまり、日向の視点から見ると真横からガードレールや電柱が迫ってくる様に
見えるのだ。
「・・・・・・こんなのイヤだぁ~っ!誰か助けてくれぇ~っ!」
思いっきり涙ウルウル状態になりながら叫ぶ日向マコト。
ネルフの仲間達が見たら、間違いなく冷たい視線で見られるであろう姿だった。
「いやはははははぁぁぁぁ~~~っ!!」
まだまだオヤジは止まりそうになかった。
347:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:45:33
「・・・エヴァの起動準備は?」
「初号機を最優先で起動準備を進めています。手動で停止信号プラグを排出中です」
「・・・そう。・・・ユウキ、ケージへ行ってエントリー準備よ」
「は、はい!」
リツコの言葉に頷いたユウキは、戸惑いながらケージへと向かった。
「・・・マヤ、レイとアスカは?」
「・・・そ、そう言えば・・・」
マヤは、そう呟いて黙り込んだ。
「・・・・・・・・・手の空いてる者はファーストとセカンドを救助しに行きなさい!
ついでにミサトもね!・・・あ、司令達は放っておいていいわよ!・・・邪魔だから」
リツコが大声で叫んだ。
「・・・開かないな」
「・・・ああ」
冬月の言葉にゲンドウが小さく頷いた。
「・・・どうやら空調も止まっているようだな・・・」
「・・・ああ」
司令執務室に閉じこめられた二人は、ドアを開けることを諦めて落ち着いていた。
ジオフロント全体が停電しているため、司令執務室も換気が止まって暑くなった。
348:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:46:52
止まっているのは電気の供給のみなので、ゲンドウと冬月は水道の水をバケツに入れて
そのバケツに足を突っ込んでいた。
「・・・ぬるいな」
「・・・ああ」
その様な事が許されない発令所の者達が見たら、間違いなくタコ殴りだろう。
そんな事も知らずに冬月とゲンドウは勝手な事を言っていた。
「・・・せめて、氷が欲しいところだな」
「・・・ああ」
「氷か・・・氷と言えば、今年はまだかき氷を食べていないな、碇?」
「・・・また呆けたか、冬月・・・シンジの誕生日に食ったではないか・・・」
「そ、そうだったか?」
(むぅ・・・思い出せんな・・・本当に今年になって食ったのか・・・?ま、まさか、
碇がまた私を騙しているのではあるまいな・・・?)
「・・・問題ない・・・」
ニヤリと笑って言うゲンドウに、冬月は再び首を傾げた。
349:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:47:34
『初号機エントリープラグ挿入!続いて弐号機及び零号機の起動準備を開始します!』
ケージとの回線からの報告にマヤが頷いて振り返った。
「了解。・・・先輩」
「・・・それにしても、レイ達はまだなの?」
リツコが眉をひそめた、その時。
発令所の最下段、一番大きい物資搬入用の入り口からトラックが入ってきた。
突然の騒音に注目する者達の前に、派手なブレーキ音を響かせてトラックは止まった。
「・・・現在使徒接近中・・・直ちに迎撃の要有りと認むぅ・・・」
助手席の窓から顔を出したのは、言わずと知れた日向マコトだった。
だが、その言葉には力強さが無い。
どうやら、オヤジの運転のあまりの恐ろしさに、身体に力が入らないようだ。
「クッ・・・!ケージに連絡!初号機だけでも先に出して!・・・弐号機及び零号機は
パイロットが到着し次第、順次発進!急いで!」
「了解っ!」
マヤが応え、にわかに発令所は騒がしくなった。
「エヴァの携帯用バッテリーの支度も急がせて!」
「はいっ!」
350:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:48:17
ユウキは、エントリープラグ内でぼ~っとしていた。
「・・・はぁ・・・待機はしてるけど・・・実際には出撃はしないんだろうな・・・」
呟いた瞬間、目の前の空間に通信パネルが開いた。
「・・・ユウキちゃん!」
「えっ!?あ、ま、マヤさん?」
「使徒が接近中よ!急いで起動して!」
「!・・・は、はい!」
「・・・こっちからは何もサポート出来ないから、ユウキちゃんが手動で起動して。
起動したら、取りあえず拘束具を自力で排除してね。起動を確認した時点で、拘束具の
油圧はフリーにするわ。それから、そこから見て左の方に携帯用のバッテリーパックを
用意したから、装着して」
マヤの早口での説明に少し混乱しながらも、ユウキは頷いた。
「はい!」
「・・・それじゃ、行って!」
「・・・エヴァンゲリオン初号機、起動開始します・・・シンクロ・スタート・・・」
ユウキはゆっくりと言った。
351:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:48:55
「・・・まったく・・・さっさと・・・開けないから・・・」
「う・・・うるさいわよ・・・セカンド・・・」
初号機がバッテリーパックを背に狭い通路の中を四つん這いになって進んでいる頃、
レイとアスカは息をきらせながら必死にケージへ全力疾走していた。
全力で走りながらの会話は所々が呼吸のためにきれている。
「・・・急ぎなさい!・・・ファーストっ!」
「・・・わかってるわよ!・・・セカンドっ!」
初号機が起動した頃になってようやく救助された二人は、発令所のリツコとの通信で
現れた使徒に初号機が単独で向かった事、零号機と弐号機も起動準備を進めている事を
聞いたのだ。
そして、二人はその場から猛烈なダッシュを開始した。
が、二人がケージにたどり着いたのは、初号機が迷路の様な通路を潜り抜けて、
使徒と会敵する直前だった。
352:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:50:49
しばらく時間を戻して、第二新東京市。
「・・・あら?臨時ニュースかしら?」
喫茶店で男と差し向かいでお茶を飲んでいた碇ユイは、視界の隅で突然切り替わった
TV画面に目を向けて呟いた。
「・・・まさか、また・・・?」
ユイの向かいに座っている男が振り向いてTVの画面を見ると、ぽつりと呟いた。
「またって・・・」
ユイが呟いた時、TVの画面に映っているアナウンサーが口を開いた。
『・・・番組の途中ですが、緊急ニュースをお伝えします。・・・本日3時45分、
関東地方全域に特別非常事態宣言が発令されました。住民の皆様は直ちにシェルターに
避難して下さい。繰り返しお伝えします・・・』
「なっ・・・!」
思わず声をあげるユイ。
このご時世、関東地方にだけ特別非常事態宣言が出される状況など、使徒の襲来を
除いて考えられない。
しかし、ネルフからは自分に対して連絡は無い。
喫茶店内で自分の護衛をしているエージェントを見るが、その男も驚いた表情で
TV画面を見つめている。
「・・・あ・・・そ、その、少し、失礼しますわ・・・」
ユイは慌てて相手の男に言い、保安部のエージェントに歩み寄った。
353:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:51:27
「・・・副司令、ネルフ本部と・・・連絡がとれません・・・」
男も、青い顔をしている。
その手には、いつ取り出したのか、携帯電話が握られている。
「!」
その時、ユイはふと思い出した。
確か、加持の仕掛けたトラップが発動するのが今日の予定だったはずだ。
保安諜報部と技術部に命じて、電源設備に対する仕掛けは全て解除させたはずだが、
まさか、まだどこかに残っていたのか?
・・・だとしたら、最悪の事態だった。
(・・・電源が落ちている時に使徒が来たら・・・)
その考えは、さすがのユイをも全身蒼白にさせた。
決戦兵器であるエヴァのエネルギー源は電力、その電力が絶たれたとなると・・・
人類は使徒に対して完全に無抵抗になってしまう。
そして、その結果・・・サードインパクトが起こる・・・。
「副司令、どうなさいますか?」
「・・・急いで本部に戻ります!支度を!」
「りょ、了解!」
ユイの決断に、エージェントは喫茶店を飛び出して行った。
「・・・シンジ・・・レイ・・・アスカちゃん・・・」
脳裏に子供達の姿を思い浮かべ、ユイは唇を噛み締めた。
354:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:52:08
再びネルフ本部。
「・・・ユウキちゃん、聞こえる?」
初号機プラグ内に通信パネルが開き、マヤの姿が映し出された。
「はい。聞こえます、マヤさん」
「使徒は現在E-72、つまり第三新東京市の中心部にいるわ。胴体の下部から
溶解液を出して装甲板を解かしているわ。直接こちらへ侵攻してこようとしているの。
それで、あなたが今進んでいる通路は使徒の直下へと続いているわ。だから・・・」
「・・・わかりました。取りあえず、下から攻撃してみます」
「・・・お願い。気をつけてね」
「はい。通信、切断します」
言われていた通りにバッテリーを少しでも節約するために通信を切断したユウキは、
前方が少し明るくなっている事に気付いた。
「・・・あれが・・・?」
呟いて、慎重にそちらへ近づいて行く。
「・・・」
ユウキがたどり着いたのは、縦穴だった。
「・・・ここかな・・・」
自分が居る横穴から頭だけを出して頭上を見上げたユウキの視界に入ったのは、
紛れもなく使徒の姿だった。
「!」
355:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:52:44
慌てて首を横穴に戻し、苦労して持ってきたパレットガンを確認すると、
発令所に通信を繋いだ。
「・・・マヤさん」
ユウキが声をかけると同時に、通信パネルに映ったマヤが大声で叫んだ。
「・・・ユウキちゃん!大丈夫!?」
「は、はい。・・・使徒を確認しました。これより攻撃を開始します」
マヤの声のあまりの大きさに、思わず顔をしかめたユウキだが、気を取り直して
言った。
「・・・気をつけなさい、ユウキ。こちらの計算によると、使徒の溶解液に
耐えられるのは10秒が限界よ」
マヤの背後からリツコの声が聞こえ、ユウキは大きく頷いた。
「はい!」
「それと、たった今レイとアスカがケージに到着したわ。すぐに起動させるけれど、
間に合うかどうかはわからないわよ」
「・・・大丈夫です、リツコさん。・・・それじゃ、攻撃します」
リツコの言葉にユウキはそう言って、パレットガンを握り締めた。
356:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:53:32
「・・・エヴァ零号機及び弐号機、エントリープラグ挿入完了!」
ケージからの報告が発令所に届くのと、ユウキがタイミングを見計らって横穴から
飛び出すのとは、全くの同時だった。
「エヴァ零号機及び弐号機は自力で起動!レイ、アスカ・・・出来るわね?」
一応、この場での最高責任者であるリツコがマイクを持っている。
「はい!」
「あったりまえでしょ!」
少女達の声が返ってくると、リツコは頷いて青葉に言った。
「・・・戦況の報告をしなさい!初号機はどうなっているの!?」
「そ、それが・・・」
青葉は少し戸惑った様な表情を浮かべている。
「・・・あ、あの・・・先輩・・・」
同じく戸惑ったような表情で、マヤが声をかけてきた。
「何かしら、マヤ?」
青葉の様子に少し苛立ったリツコだが、科学者としての矜持か、すぐに冷静さを
取り戻して聞き返すと、マヤが呆気にとられたような表情で言った。
「・・・パターン青、消滅しました・・・」
それに対するリツコの反応は、かなり珍しいモノだった。
「・・・は?」
リツコは一言だけ発して、口を開けたまま呆然とマヤを見つめ、立ち尽くしたのだ。
357:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:54:18
「・・・で、ですから・・・パターン青、消滅しました・・・」
再び、だがおずおずと応えるマヤ。
その顔には、はっきりと「信じられない」と書いてある。
「・・・ぁ・・・そ、そう・・・初号機は?」
小さく声をあげて立ち直ったリツコは、まだ納得がいかない様な表情をしながらも
口を開いた。
「あ・・・は、はい!・・・異常箇所はありません!ユウキちゃんも無事です!」
「青葉君、もう一度使徒の反応を確認して」
「・・・パターンブルーは消滅。その他の反応も全くありません。使徒の殲滅を
確認しました」
「・・・そう。使徒殲滅ね・・・」
青葉の返事に、リツコは軽く息を吐いた。
それを聞いて、緊張した空気が張りつめていた発令所に、安堵の雰囲気が漂った。
どのような使徒かも良くわからないまま、ただ使徒襲来の報だけを聞き、おまけに
ネルフばかりか頭上の都市もが電源を断たれて半身不随、決戦兵器であるエヴァは
たった一機だけが辛うじて稼働。
もしも自分達が負けたらサードインパクトが起こる、その恐怖は、発令所ばかりか
ネルフ中の者達全てが感じていた事だった。
「・・・青葉君、使徒殲滅の報を本部内に流して」
「了解!」
358:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:54:56
「マヤ、初号機を呼び出して」
そう言ってリツコがマヤを見ると、すでにマヤは初号機に通信回線を繋いでいた。
「ユウキちゃん、聞こえる!?」
「はい、聞こえます、マヤさん。使徒の反応はありますか?」
「今、パターン青の消滅を確認したけど・・・大丈夫?」
「ええ」
ユウキが頷くと、マヤが何か言う前にリツコが口を挟んだ。
「・・・ユウキ、使徒は完全に沈黙しているの?」
「・・・えっと・・・はい。まぁ、見た感じは・・・」
「そう。・・・マヤ、初号機のバッテリーの残存量は?」
「え?えっと・・・全力稼働で15秒、移動だけなら2分弱、ってところですね」
「そう。それなら保ちそうね。・・・ユウキ、バッテリーの残存量に注意しながら
ケージに帰還して。変なところで立ち往生しないでね。後が大変だから」
「・・・はい。初号機、帰還します」
ユウキが頷いて通信が切れた。
「あ・・・」
モニターからユウキの姿が消えるのと同時に、青葉が声をあげた。
「・・・何かしら?青葉君」
「いえ・・・零号機、弐号機の両機が起動しました・・・」
その言葉は、発令所中に沈黙をもたらした。
359:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:55:43
スピーカーから聞こえる少女達の声が、その沈黙をさらに強化した。
「・・・零号機、起動完了!マヤさん、指示をお願いします!」
「弐号機、起動完了っ!マヤっ!使徒はどこなのっ!?」
そして、発令所の沈黙を破ったのは、青葉だった。
「・・・赤木博士、葛城一尉についてですが・・・救助の者を突き飛ばして、勢い良く
走り去ってしまったとの報告ですが・・・」
「・・・・・・」
リツコは、大きなため息をついた。
「・・・はぁ~・・・」
ミサトが、思いっきり肩を落としてため息をついた。
「・・・ため息をつきたいのはこっちの方よ、全く・・・」
リツコが呟いて、がっくりと肩を落とした。
二人は、本部電源の全面的切断と使徒侵攻時の不在を責められ、減棒されたのだ。
もちろん、全ての責任が二人にだけあるわけではない。
だが、使徒来襲時の作戦責任者はミサトであり、本部に使徒が襲来した際にミサトが
本部内に居た以上、どのような理由があろうと『任務放棄』とされても仕方がない。
電源に関しても、本部内の電源を管理しているのがMAGIであるため、そのMAGIの
最高管理責任者であるリツコに責任があるとは言えなくもない。
もちろん、保安諜報部のトップも同様に減棒されている。
360:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:56:29
「・・・はぁ・・・」
30女達のため息は重かった・・・。
一方その頃チルドレン達は、やる事もないので一足先に地上に出ていた。
葛城邸近くの小高い丘にあるいつもの公園に到着した3人は、このまま帰るのもねぇ、
と言うことで芝生の上で一休みする事にした。
「・・・うわぁ~・・・ユウキちゃん、ほら、星があんなに綺麗だよ・・・」
ふと空を見上げたレイの言葉につられて、ユウキも小さく頷いた。
「・・・うん・・・」
「あ~あ、また今回もシン・・・ユ、ユウキに手柄を取られちゃったわね・・・」
そう言うのはアスカ。
もちろん、ユウキを真ん中に挟んでレイとアスカはぴったりとくっついている。
「・・・ご、ごめんね・・・」
思わず謝ってしまったユウキに、アスカが小さく笑って応えた。
「何謝ってんのよ・・・別にいいのに・・・」
「そうよ!ユウキちゃんが謝る必要なんてないんだから!わたし達の出撃が遅れたのが悪いんだからね!」
レイがアスカの反対側から少し強めに言うと、ユウキは少しだけ首を傾げた。
「あ・・・で、でも・・・」
「・・・ふふっ・・・でも、そんなところも、シンちゃんらしいかな・・・」
小さく笑ってレイがそう言った。
361:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:58:27
「そうね・・・シンジらしいって言えば、シンジらしいわね・・・ふふっ・・・」
レイの言葉に、アスカも小さく笑って頷いた。
「・・・?」
二人の言葉にユウキは首を傾げた。
(・・・あれ・・・?いま、何か変な気がしたような・・・)
それは、『ユウキ』ではなく『シンジ』と呼ばれた事による違和感だったのだが、
この時のユウキはそれに気付くことが出来なかった。
「・・・たまにはいいよね、こういうのも・・・」
レイが夜空を見上げたまま、そっと言った。
「ファーストにしてはいいこと言うわね・・・」
アスカも、普段の強気の口調がまるで嘘であるかのように、静かに言った。
「なによ・・・セカンドこそ、今日はやけに素直じゃない・・・?」
レイはそう言ったが、その口調は大人しいものだった。
「・・・」
アスカはそれには応えず、ただ、じっと夜空を見上げていた。
「・・・あ、あの・・・」
『鈍感プリンセス』の称号を『とあるごく一部』の連中に捧げられているユウキは、
二人がまた口論を始めるのかと思い込み、慌てて口を挟んだ。
「「何?」」
362:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 16:59:01
両側からサラウンドで聞こえる声に、ユウキは反射的にビクッと体を震わせた。
「・・・あ、あの・・・えっと・・・そ、その・・・」
「ふふっ・・・」
「うふっ・・・」
戸惑う「思い人」の姿に、赤い髪と青い髪の美少女達は期せずして笑った。
「・・・彼以外の要素だ・・・」
ここは司令執務室、第二新東京市から飛んで帰ってきたユイがゲンドウに尋ね、
帰ってきた言葉がそれだった。
「・・・それじゃ・・・!?」
驚きの表情を浮かべて息を飲むユイ。
「・・・ふむ・・・加持一尉を使うか・・・」
「あなた・・・」
「・・・それより、保安諜報部があてにならん以上、ガード課の再編成を考えねばならん・・・」
「で、でも・・・」
「・・・ちょうど良い機会だ。チルドレンガード課を『彼』に任せよう・・・」
「・・・本気なの?」
「ああ・・・ユイ、お前は反対か?」
「・・・わかったわ。あなたがそう仰るなら・・・」
「・・・問題ない・・・」
363:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 17:02:01
そして、ネルフの停電騒ぎから一週間が過ぎ、ユウキは学校へ向かっていた。
珍しくユウキは一人で歩いており、レイもアスカも見あたらない。
ユウキの周囲を遠巻きに囲むように歩いているのは、第一中の制服を着た生徒達だ。
どうやら、声をかける機会を狙っているらしい。
だが、誰か一人が動けば他の者も動くのは目に見えているので、互いを牽制するに
留まっているのだ。
ユウキの周囲には、穴の開いたドーナツ状に妙なプレッシャーが漂っているが、肝心の
ユウキ本人はそんな事には全く気付いていない。
だが、そんな妖しげな雰囲気を平然と突破して、ユウキに声をかける者が現れた。
「・・・お、おはようございます!碇さん!」
「あら、おはようございます、トウジ君、ケンスケ君」
背後から声をかけられ、振り返ってニッコリ笑いながら応えるユウキ。
「あ、ああ、おはよう、碇」
ケンスケはその微笑みに少しだけ頬を赤くしながらも、撮影に余念がない。
そしてトウジは、また今朝も見ることができたユウキの笑顔にノックダウン中。
ちなみに周囲にいた者達は、二人に向けられた笑顔の余波を食らって妄想中。
「・・・あれ?今日は一人か?」
ケンスケは、ユウキについで自分の商売の売り上げに貢献している美少女達の姿が
ないことに気付き、不思議そうに尋ねた。
364:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 17:02:43
普段なら、蒼銀の髪の美少女と赤い髪の美少女が目の前の黒髪の美少女の両脇を
しっかりとガードしているはずなのだが、今朝はその姿が全く見あたらないのだ。
「・・・ええ。綾波さんも惣流さんも、今日は朝からネルフに行っちゃって・・・」
少し不安そうに応えるユウキに、ケンスケは小さく息を吐いた。
「・・・そうか。そろそろ新作が欲しかったんだけどな・・・」
それでは自分にはどうしようもない、と思い切って、ケンスケは思考を切り替えた。
「・・・ところで、今日の昼はどうするんだ?」
「え?」
ケンスケの問いに、ユウキは首を傾げた。
「・・・昼飯だよ。今日は誰と食うんだ?」
「・・・あ・・・」
ユウキは口を小さく開けて固まった。
先週の騒ぎを思い出したのだ。
周囲で聞き耳を立てていた者達も、目をギラリと輝かせてユウキを見つめている。
あわよくばユウキと一緒に昼食を、と狙っているのだ。
と、話題が食事のことに移ったので復活したのか、トウジがユウキに詰め寄った。
「・・・い、碇さん!!」
「は、はい?」
いきなり目の前に現れたトウジに、ユウキは頬を少し赤くして後ずさった。
365:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 17:03:37
「・・・今日は、今日こそはワイらと一緒に・・・!」
目をギラギラさせて鼻息を荒くしながら迫ってくるトウジの必死な顔を見て、
ユウキは少し可笑しくなってしまい、微笑みを浮かべて頷いた。
「・・・はい。ご一緒しましょう」
「ほ、ほんまでっか!?」
思いっきり嬉しそうな顔をして聞き返すトウジ。
「ええ。・・・それとも、ご迷惑ですか?」
「そ、そんな事あらしまへん!迷惑なんて、そんなこと言う奴が居よったら、わいが
パチキかましたりますわ!」
両手を横に広げたり拳を握って顔の前に出したり、オーバーアクションなトウジに、
ユウキは思わず笑い出してしまった。
「フフッ・・・」
その笑顔を見て夢心地のトウジと、その笑顔を正面から撮影してガッツポーズのケンスケ。
ちなみに、周囲の者達はトウジがユウキを誘った時点で、トウジ&ケンスケの殲滅を
決定している。
そして、三人を取り巻く周囲の雰囲気が腐海へと転じようとした瞬間、再び背後から
聞き慣れた声がかけられた。
「・・・お、おはよう、碇さん!」
「・・・あら、おはようございます、洞木さん」
ユウキは声の方を振り返って挨拶を返した。
366:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 17:04:16
「一人で大丈夫だった?碇さん」
声をかけてきた人物-洞木ヒカリは駆け足でユウキの隣に並ぶと、心配そうな顔で尋ねてきた。
「え?・・・え、ええ・・・」
尋ねられた意味がわからず、小さく首を傾げながらも頷くユウキ。
「今日はアスカも綾波さんも用事で来られないんでしょう?二人から聞いてるわ。
・・・大丈夫。私が碇さんを守ってあげるから。ね?」
そう言って満面の笑みを浮かべるヒカリ。
「・・・あ・・・ありがと・・・」
本当に嬉しそうなヒカリの笑顔を見て、後頭部に汗を浮かべながら答えるユウキ。
「おはようさん、イインチョ」
「おはよう、イインチョ」
トウジとケンスケがヒカリに挨拶する。
『碇ユウキ応援委員会』の『第一中副委員長』であるヒカリを無視するとどうなるか、
身体で覚えているトウジとケンスケだった。
「・・・あら。おはよう、鈴原、相田君」
いかにも『あら、居たの?』ってな感じで振り返って二人を見てから応えるヒカリ。
「おう。そうや、イインチョ。今日はワイらがユウキさんと一緒に昼飯を食うで」
ヒカリを牽制するように言うトウジ。
(・・・今日はあの邪魔な綾波も惣流もおらんし、イインチョさえ何とかすれば、
今日の碇さんはわいのモンや!)
367:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 17:04:58
本人はさりげなく言ったつもりだったが、ヒカリにはその言葉の意味が理解できた。
「・・・わかったわ」
トウジの言葉の意味を知りつつも、取りあえず軽く流すヒカリ。
(・・・鈴原・・・碇さんは私が守ってみせるわよ!)
心の内でそんな事を考えつつも、表情には笑みを浮かべている。
「・・・あの・・・洞木さんもご一緒しませんか?」
ユウキがおずおずと声をかけてきた。
「ありがとう、碇さん。もちろん、喜んで」
そんな会話を交わしている内に、4人は学校に到着した。
こうして、『今朝の』碇ユウキ争奪戦は終了した。
その頃、ユイに送って貰ってネルフに来た二人は、廊下でリツコを捕まえていた。
「リツコ!」
「赤木博士、ちょっと良いですか?」
「・・・何かしら、アスカ、レイ?」
一旦立ち止まったリツコだが、二人の顔を見ると、ついてくるようにと合図して、
再び歩き出した。
「・・・何かしら、じゃないわよ。この間のテスト、もうやらないの?」
置いて行かれそうになったアスカが慌ててリツコの横に並びながら尋ねた。
「この間って?」
368:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 17:05:43
「・・・ほ、ほら・・・シンジの・・・」
「・・・あぁ、新型プラグスーツに関するテストね?」
「ええ。もう終わったんですか?」
リツコを挟んでアスカと反対側に並んだレイが尋ねる。
「・・・あの実験は打ち切りになったわ。ユイ博士の命令でね」
リツコはこともなげに言った。
「・・・」
「なっ・・・」
アスカは驚きの声をあげたが、レイはユイの名が出たので、黙って頷いた。
(・・・なるほどね)
「な、なんでよ!?なんでユイさんが・・・」
裏の事情を良く知らないアスカがリツコに尋ねているが、リツコは肩を竦めた。
「私だって知らないわよ。ユイさんに実験再開の許可を貰おうと思って聞いたら、
『その実験は直ちに中止して下さい』って言われただけだもの」
リツコが少し残念そうに言った。
たとえ何の実験であってもそれを中止するという事自体が残念なのか、それとも、
『あの実験』を中止せざるを得ないのが残念なのかはリツコ本人しかわからないが。
「・・・そう。しょうがないわね」
多少不審そうな顔をしてはいるが、アスカが頷いた。
「それより、貴女達は午前10時ジャストから実機を使ってのシンクロテストよ。
369:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 17:06:20
今日は一日中ずっと通しでシンクロして貰うから、覚悟してなさい」
「えぇ~っ!?」
「い、一日中!?」
二人の美少女が異口同音に叫んだ。
「そうよ。休憩なんかも出来るだけ入れないようにするわ。これは長時間シンクロに
おける各種データの採取が目的なの。わかったわね?」
リツコがそう言ってニヤリと笑った。
美少女達は、自分の顔に浮かんだイヤ~な顔を隠そうとはしなかった。
二人の美少女達が一日中血の匂いのする液体の中で『苦行』を強いられていた時、
第一中学校では少年少女達の青春のヒトコマが繰り広げられていた。
「いっ・・・碇さんっ!」
「・・・?・・・なんでしょう?」
昼食中にいきなり大声で話しかけてきた黒ジャージの親友に、ユウキは首を傾げた。
その姿が教室中をのたうち回らせているのだが、本人は全く気付いていない。
「・・・」
表面上は落ち着いた様子で弁当を食べ続けるイインチョこと洞木ヒカリ。
(・・・鈴原・・・下らない事を言ったら即時殲滅よ・・・ふふふ・・・)
だが考えている事はいつも通り。
「・・・」
370:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 17:07:06
(こりゃ、また一騒動ありそうだな・・・)
そんな事を考えながらも撮影に余念がないのはケンスケ。
「・・・」
周りの様子にも気付かずに真っ赤になって黙り込んでいる黒ジャージ、鈴原トウジ。
いつもなら、お弁当を食べるユウキの姿に赤くなりながらも食欲の権化の様に購買で
買いこんだパンをガツガツと食らっているのだが・・・
「・・・あの、トウジ君?」
黙り込んでしまったトウジに、ユウキがおずおずと声をかけた。
「・・・あ、は、はいっ!じ、実はっ!」
「はい」
「・・・そ、その・・・ま、また、妹が・・・」
「え?ミユキちゃんが?」
申し訳なさそうに頭を掻きながら言うトウジに、ユウキが再び首を傾げた。
「はぁ・・・ミユキのやつが昨夜『私、またお姉ちゃんのご飯が食べたいな~』なんて
ほざきよったんですわ・・・あ、もちろん、ワイはアカンっちゅうたんやけど・・・」
トウジはそう言いながら、真っ赤になっている。
これでは妹のミユキがユウキの手料理を食べたいのか、それともトウジ自身がユウキの
手料理を食べたいのか、良くわからない。
と言うか、この様子を見ていればどちらなのかは、普通ならわかるが・・・。
もちろん、ヒカリを初めとする周囲の者達はトウジの考えている事が理解できた。
371:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 17:08:02
(・・・妹さんをダシにして碇さんの手料理を食べたいだけじゃない!鈴原っ!)
(トウジ・・・お前にしては上出来だけど・・・イインチョが黙っていないぜ・・・)
((((((・・・鈴原~っ!!!殺すッッ!!!))))))
そんな感じで良い具合に周囲の雰囲気が悪化した瞬間、ユウキが口を開いた。
「・・・そうですか・・・ミユキちゃんが・・・」
『鈍感プリンセス』の称号を見事ゲットしているユウキは、トウジの『目算』になど
全く気付いていなかったのだ。
「!?・・・い、碇さん!?」
慌てて声をかけてきたのは、当然ながらヒカリ。
(まさか、碇さん・・・また鈴原の家に行くなんて言わないでしょうね・・・?)
そんな事を考えながら、ヒカリは続けて尋ねた。
「まさか、そんな事・・・考えてないわよね?」
「え?そんな事って、なんでしょう?」
またも首を傾げるユウキ。
その姿を見て転げ回っている者達の事など全く気付かずに、不思議そうな瞳をヒカリに向けている。
「・・・・・・・・・・・・」
真っ正面からユウキの瞳を受け止めてしまったヒカリは硬直してしまった。
だんだんその顔が赤くなっていき、完全に真っ赤になったところでヒカリは目を大きく
見開き、慌ててぶんぶんと首を横に振った。
372:EPISODE:11 The Day Tokyo-3 Stood Still
06/10/28 17:08:59
どうやら、妄想の世界に引き込まれそうになったらしい。
「・・・あ、あの・・・?」
いきなりの奇行に、ユウキがおずおずと声をかけた。
「えっ!?あ、そ、そうね、え、えっと・・・い、碇さん?」
動揺しまくっていたヒカリだが、何度か深呼吸して落ち着いてから、改めてユウキに声をかけた。
「・・・はい?」
「まさか、碇さん・・・鈴原の家に行こう、なんて考えてないわよね?」
「え?・・・あ、トウジ君さえよろしければ・・・」
ユウキがそこまで言った瞬間、ヒカリが大声で叫んだ。
「ダメよっ!絶対ダメっ!」
「・・・」
ユウキは驚いた顔をして、ヒカリを見た。
「・・・い、イインチョ。なんでダメなんや?」
ユウキと同じように驚いていたトウジが、顔をしかめて言った。
「ダメに決まってるでしょう!?ナニかあったらどうするのよ!?」
鬼モードに入りかけながら叫ぶヒカリにひきながら、辛うじて言い返すトウジ。
「な、なにかって・・・ナニがあるんや?」
「ナニって言ったらナニよっ!とにかく絶対にダメッ!」
今にもキレそうなヒカリの様子に、トウジはガックリと肩を落として呟いた。