09/01/18 18:04:45 eo8TNyix
魂が軋む。
かつて矢も盾もたまらず手に入れた挙句、耐え切れずに投げ出したそれが今も俺を苦しめる。
わかっているのに、突き放せない。
逃げようとして逃げ切れず、抗おうとして抗えない。
軋む音、魂が軋み、心がかすれて悲鳴をあげる。
愛してるなんて言葉は、隣の国においてきた。
砂糖菓子をねだる子供らの童歌だ。
苦い思いを強い酒で喉から胃へと流し込むと、焼け付くような熱が通った。
夜に温い雨が降る。雨の日は女の背中を思い出す。
どうしても手に入れたい女だった。
友人との争奪戦の末、どうにか口説き落とし妻にしたが、地獄だった。
妻は身体が弱く、常に傍に誰かがいないと不安がったが
俺は戦うしか能のない男だ。自然、留守がちになる。
「どうか傍にいてください。あなたがいないと心配で胸が張り裂けそうになるのです」
そう悲しい顔でいつも言われた。
その悲しみを救ってやることは出来ないと気付くのにそう時間は掛からなかった。
愛ゆえの地獄、望みゆえの絶望。
結局俺は逃げ出した、愛から、望みから、女から。
あの日、妻を取り合った友人に最後の頼みごとをした。
「どうか、彼女を引き受けてくれないか?」
友人はまだ独り身だった。
「グェンダル、なぜだ?」
「俺は彼女を幸せにすることが出来ない。俺じゃ無理なんだ」
一方的に離婚を申し出、酷い男だと詰られても仕方なかった。
実際、酷い男だ。言い訳のしようがない。
友人を頼れと言い、俺は一人でジェラベルンを後にした。
思いを伝えることは出来ない。伝えても傷つけるだけだ。
俺があいつらに渡せるのは金だけ、ただそれだけが愛していた思い出の中の人々に
してやれることだと知っている俺は明日も匿名で送金するための金を稼ぐのだ。
下らない男の、下らない人生の、下らない生き甲斐。
まったく下らない人生だ。
再び酒を呷ると、流れ落ちる熱い塊が喉と胃を強く温める。
それを頼りに眠りについた。明日も仕事が待っている。