08/12/31 23:06:13 Xaa7uMF6
「お腹へったな~」
その夜になってシェリファは、宿の階下の食堂で食事を取ることにした。
しかしそこで目にした物は…
「はいウィル、オレンジだよ。あ~ん」
「やめろ、一人で食べられる」
そこでは、ウィルとリーゼが仲良く食事をとっている姿だった。
おまけに、デザートとおぼしきオレンジを、今まさにリーゼがウィルに食べさせようとしている所だった。
シェリファはその光景を直視することができず、食事の事も忘れて部屋に舞い戻った。
ベッドに倒れこみ、枕を濡らす。2人はまるでお似合いのカップルのようだった。
リーゼは可愛い。お洒落だし、痩せた自分とスタイルは比較にならない。
なによりもあの明るさ、ウィルを強引に引っ張っていってしまうあの積極性は自分には真似できない。
自分とウィルが2人きりでリンゴを食べたときも、あんな風に食べさせてあげようとするなんて絶対無理だった…
シェリファは、ウィルとの一番の思い出までリーゼに奪われてしまったような気がした。
「ナタリア、私に勝ち目なんてないよ」
孤児院の事、真剣に考えてみよう。そんな事を思いながら夜は更けていった。
一時間程たっただろうか、シェリファの部屋に今日2人目の訪問者が現れた。
ノックの音がしたものの、泣きはらした顔を見られたくないと思ったシェリファは声で対応した。
「誰?」
ガチャリとドアが開く。
「アタシよ、アタシ」
「なっ、リーゼロッテ!」
「あらあら、その様子じゃずいぶん参ってるみたいね」
「っ!」
「そんな怖い顔しないでよ、確かにウィルにべたべたしすぎだったわ。それは謝る、ごめんなさい」
こちらの心を見透かすかのようにべらべらと言いたい事をしゃべるリーゼロッテ。
「でもね、きっと彼、あなたの事が好きよ」
「えっ」
思ってもみない、しかしナタリアと同じ事を言われる。
「ウィルったら、あたしが隣にいてもいつもあなたの事チラチラ見てるんだもん、やんなっちゃう」
「…」
「ほんとのこと言うとね、うらやましかったの。エーデルレーヴェ城で戦った時の事、覚えてる?」
シェリファはその時の事を思い出していた。あの時も、ウィルは自分を守ってくれていた。
「あの時ね、彼は必ずあなたと敵の間に自分が入るようにして戦ってた。そして戦いが終わった後、敵だった私の事を仲間に誘ってくれた。このご時世、こんなバカな男がまだいるのかってあきれたわ。でも…好きになっちゃった」
シェリファは彼女の言っている事が、何一つ偽りのない真実だと感じていた。
「でも、今のところはまだあなたに勝てないかな。彼、あなたの事気にしてばっかだし。昼間だって、すごく動揺してた。ねえ、あなたはウィルの事、好き?」
今まで一度もはっきりと口に出さなかったことを、ついに覚悟を決める時が来たのだ。
「好きよ。あなたよりもずっと」
「そ、じゃあ今日からあなたとアタシはライバルね。でも、今までみたいにあなたが何もしなかったらアタシが勝つわ」
「解った」
リーゼは部屋を去った。その夜の2人の瞳には、強い意志が宿っていた。
次の日の朝、一行が宿を出るときに。
「ウィールッ、一緒に行こう」
シェリファがウィルの左腕に抱きついた。
「あーっ、シェリファずるい。アタシだって」
リーゼがすぐにウィルの右腕に抱きつく。
「な、なんだ2人とも。は、離せー!!」
ウィルの叫び声が響く。その光景を、ナタリアは母親の様な眼差しで、アーネストはポカンと口を開けて見つめていた。
そして一行を祝福するかのように、グレンセンの教会の鐘の音が鳴り響いていた。
完