09/09/09 22:10:13
まるで熟年離婚みたいだ、と呟いた人間は虚ろな目でイーブイを見やる。話の途中で思い出した言葉が喉まで出かかるがぐっと堪えた。
一方核心を突かれたイーブイは複雑な感情同士で板挟みになり、思わず前足で頭を抱えた。
家の庭まで来る「きいろのもり」出身のピカチュウは、要するに人間の世界で言う所の浮気相手に等しかったからだ。片方に非があった訳では無いが、互いに原因として思い当たる節はあった。かといってどちらかがどちらかを攻める事も出来なかった。
人間は自分の体調ばかりを気にし過ぎて付き添う立場であるポケモンに掛かる物理的・精神的不安を解消してリフレッシュしてもらう、いわゆる「レスパイトケア」の機会を設けなかった事等に起因すると信じ、
イーブイはなまじ適応力が高かった為に「自分だけで世話できる」と高をくくっていたのが徒になり、徐々に自らを追い詰めていった挙げ句どんどん人間から気持ちが離れる悪循環に陥ってしまった事を余計に責めた。
いくら責めた所で、イーブイが人間に対して「まだしなないの」と思ってしまった事が少なからずある過去を覆す事は叶わなかった。
もっと早くレスパイトケアを行っていれば。ココだって辛い時があったのに。
もっと早くあのピカチュウを受け入れていれば。せめて仲良くなる努力をしていれば。
在宅に拘っていなければ。素直に緩和ケア病棟に移れば。
あるいはもっと他の人に助けてもらえば。
ぼくはココと二人で最期を迎えたかっただけだったのに。ぼくのせいだ。
――ぼくがココを束縛したからこうなったんだ。
あのひとがしんでしまうまえにすこしでもながくそばにいたかった。
だからびょういんには、はいってほしくなかった。いえのことはなんでもわかるから、だいじょうぶだとおもいこんでいた。でもむりだった。
わたしもあのひともしたいことをがまんして、ふたりだけでくらしていくのはさいしょならうれしかった。
けれどだんだんよわっていくあのひとをみていると、わたしもだんだんふたりきりがいきぐるしくなってしまった。
しぬのがこわいはずなのに、むりしてわらってくれるあのひとのかなしそうなえがおなんて…もうみたくなった。わたしがなきたくなっちゃうから。
あんなかおをあのひとがしつづけるくらいなら、まだしあわせだったときにおわかれしたかった。