09/09/07 20:25:07
ご指摘を頂いたので書き溜めてきました。コメントありがとうございます。
特徴的なしっぽを失い色褪せたピカチュウのぬいぐるみを見て人間は我に返った。
自分から散歩に誘ったのにいつまでぐずぐずしているんだ。
ビニール袋にさっとぬいぐるみを放り込むと人間は先を急いだ。
一人と一匹のお決まりの散歩コースとなっている公園は野生ポケモン保護区「きいろのもり」の一部にある国立公園だ。
その昔各地方で乱獲が相次いだ際、実験的に保護区をもうけ厳しく取り締まる一方で市民に憩いの場を提供する制作が次々と行われた。
「きいろのもり」は先駆けも先駆け、ピカチュウ系統の第一号保護区+国立公園なのだ。
毎回人間が立ち寄る一本の木まで辿り着くと、茶色いポケモンは既に木陰で根と根の間にちょこんと座って黄色いポケモンと談笑していた。
瞬間、人間の頭の中で「窓辺の記憶」が再生される。窓の向こうにいたピカチュウだ。ぼんやりとした疑問は感じていたのだが、これで合点がいく。
人間は納得すると同時に、自分たちの関係に入った亀裂がもう戻れない所まで来たのでは無いかという危機感に襲われた。
草を踏みしめる音に遠くで気が付いたピカチュウはイーブイに目で合図を送って木の葉に紛れて隠れた。人間はイーブイがすぐ足元に来る位近づいてから、木の幹を背もたれに体育座りをした。
人間は木漏れ日を見上げながらマスクを外すついでに先刻のピカチュウを探してみたが、そんな不審な陰は確認できなかった。
イーブイは人間がこちらを向くまでずっと人間の顔を睨みつけていた。黒い瞳は真剣そのものである。しばしば人間の寝室の窓先に出現していたのと同個体と思しきピカチュウと会話していた時の笑顔は浮かばない。
反対に視線を足元の進化ポケモンに戻した人間の表情は引きつった笑いのままだった。その笑みさえも消えかけている。
しばしの沈黙の後、不意に人間が口を開いた。