09/09/04 17:16:35
今日は柔らかい日射しでまさに散歩日和。これ以上の重ね着は必要無さそうだったが、人間は日焼けか紫外線を恐れてかわざわざUVカット仕様の眼鏡とマスクの着用を怠らない。
イーブイは人間のぎこちない動作ひとつひとつを凝視していた。玄関でしゃがんで靴紐を結ぶ、扉を開けて外に出る、慎重に鍵を閉め、最後に振り向いて笑みを見せる。
そんなかおしないでほしい。どんどんかなしくなるから。
人間の顔を見ているとイーブイは突然機嫌を損ねた子供の様に口を尖らせ足早に道路へ飛び出し、右折した。今日も行き先は多分「きいろのもり」だろう。
人間は仕方ないなと小さく呟き、早歩きで後を追う。ただし体への負担を考え、決して走らない様に。
少しずつ一人と一匹の差が開いていたのと夢中で走っていたのとで、イーブイは白い体毛の中に隠しておいた物が落ちた事に気が付かなかった。
人間がそれに気付いたのは一度落ちた地点を過ぎてからだった。拾い上げてみれば、何とと言うべきかやはりと言うべきか困ったが、古ぼけたピカチュウドールだった。
昔自分がイーブイの誕生日プレゼントに買ってあげた暇潰し用品に下らない理由でクマと名付けたのは人間の方。あまりに低レベルだから人間はもう理由を覚えていない。
まだ自分が元気だったあの頃、イーブイはよくソファーを占領して一日中ぬいぐるみで遊び倒していた。近年でも人間を放っておく余裕がある時はピカチュウを頭の下に敷いたり、抱き枕にしていた。
クマを見つめていた人間の脳裏で、ベッドから見える窓の向こうの景色が蘇る。あそこに本物のピカチュウが姿を見せる様になったのはいつからの事だったか。