09/06/20 15:22:54
俺が奴と戦ったあの時から随分と時が経った。
俺は名実共に最強のトレーナーだった。そう、「だった」のだ。今では。
今になってようやく、俺は奴の言っていたことの意味が分かってきたような気がする。
ポケモンは……おかしいのだ。普通の生命体とは違う。貪欲に戦いを求め、異種間同士の
戦いの勝敗に躍起になる。
強さを追い求め、追い続けてようやく漠然と感じるようになった。異種間などではない
のだ。人間が学校で学び、社会に出て人々に貢献し、そして人類としての種をより強固な
ものへと成長させるように、ポケモンはそれ自体が一つの種族なのだ。だから姿かたちが
異なろうと、生態系の重なりがあれば子を為せる。白人、黒人、黄色人種がお互いにこと
をなし子供を産めるように。まるで人間のように。
奴は言っていた。声が聞こえる、と。強くしろと囁く声が聞こえると言っていた。
俺にはそんな声は聞こえなかった。けれど分かるのだ―。俺はポケモンを育ててきた
のではない。ポケモンが俺に育てさせてきたのだ。
奴らは人の手によって、その自然に持って生まれた力を伸ばしていく。何世代もかけて。
奴がどうしてあそこまでポケモンバトルを避けていたのか、今ではよく分かる。奴は恐
れていたのだ。ポケモンにとって、自らを強く育て上げられない人間は不要なのだ。
奴はミュウツーだけ持っていなかったのではなかった。
ミュウツーしか残っていなかったのだ。