09/05/14 21:18:34 qFpucwjL0
こんな夜更けに、闇と風の中に身を潜めるのは誰だろう。
それは母と子だ。母は瞳がどこかあの人に似ている子をひしと抱きかかえている。
母 「息子よ、なぜ顔を隠すのだ」
子 「お母さんには狐が見えないの。列を成して、何かを叫んでいる・・・」
母 「あれはたなびく工場の煙だ・・・」
狐 「かわいい坊や、一緒においで。面白い遊びをしよう。岸辺にはきれいな蛹がいるし、白装束の老婆が笑って待っているよ。」
子 「お母さん、お母さん!きこえないの。狐がぼくになにかいうよ。」
母 「落ち着きなさい、排水が流れているだけだよ。」
狐 「いい子だ、私と一緒に行こう。私の娘たちがもてなすよ。首をここちよくゆすぶり、踊り、歌うのだ。」
子 「お母さん、お母さん!見えないの、あの暗いところに狐の娘が!」
父 「見えるよ。だが、あれは着物を着た人形だよ。」
狐 「愛しているよ、坊や。お前の美しい姿がたまらない。力づくでもつれてゆく!」
子 「おかあさん、おかあさん!狐がぼくをつかまえる!狐がぼくをひどい目にあわせる!」
母親はぎょっとして、子供を奥に隠した。この子の耳目鼻口髪の毛一本誰にもやらぬ・・・
腕に抱えられた子はよく見たらお人形だった。