10/07/19 17:30:08 ZSZBeZiC
オーストラリアの地方都市に店舗を構える投資銀行。
その豪奢なたたずまいのビルの一室。
「ところで相棒、壁にかかっているこのユニフォームは何なんだ?」
「いや、ちょっとしたお守りみたいなもんさ」
「おい、ちょっと待てよ。これ、イタリア代表・・・カンナバーロのじゃねえか!」
「そんな目で見るなよ。昔、あるスポーツの大会で交換したのさ。そう、俺はWカップに出たんだ」
「Wカップ? 冗談よしてくれ。あれは一流のフットボーラーが集う夢の祭典だぜ。
お前みたいに一日中デスクワークしてる奴がどうやってWカップに出るんだ?」
「それもそうだよな、ハハハ。」
「わははは」
しかし、窓の外の街並みを見つめる彼の青い瞳には、ある一日の光景が焼きついていた。
ひきしまった精悍な表情の裏に自信をみなぎらせたイタリア人の集団。
彼らのほとんどが一年で驚くほどの金額を稼ぐプロの選手だという。
彼らオージー達は燃えた。そして、全力で立ち向かい、死闘の末にぎりぎりのドローを掴みとったのだ。
たいていの人間がサッカーというものを知らないこの国では、誰も彼らを賞賛しなかった。
しかし、胸の奥で今も燃え続ける小さな誇りとともに。今日も彼はパソコンのキーを叩き続ける。