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現実の直視
ある研究者グループが、うつ病患者と健康な人の2つのグループに対してある心理学的実験を行った。
被験者の前にあるのはボタンとディスプレイ。ボタンは被験者の気分で自由に押して良いという許可が与えられている。
そして被験者には「なるべき多くの回数、ディスプレイを点灯させて下さい」とだけ伝えて、被験者一人で一定時間部屋に籠ってもらう。
被験者の頭の中では
「目の前のボタンとディスプレイは連動しており、何らかの条件を満たす形でボタンを押せば光るはずだ」と踏んで試行錯誤を始める。
5秒間隔でボタンを押してみたり、素数の回数だけ押してみたり、一定のリズムを刻んだりと被験者は様々な押し方をするのだが、ディスプレイの明かりは不規則なような法則があるような何とも確信を持てないような光り方をする。
それもそのはず、ボタンの押し方とディスプレイの点灯には何の関係も無く、裏では研究者が被験者の動きを見てそれらしくディスプレイの電源を操作していたのであった。
実験終了後、被験者に
「ボタンの押し方とディスプレイの光り方には、何か法則が見出させましたか?」と質問すると2つのグループではっきり回答が分かれた。
健康な被験者の多くは「法則がある」と回答し、うつ病の被験者の多くは「ない」という回答であった。
ボタンの押し方とディスプレイの点灯の間に関係が無いことを見破ったのはうつ病患者のグループであったのだ。
世の中には自分でコントロール出来る物事と、運命や偶然に支配されるコントロールが出来ない物事がある。
自分の意志が及ばない物事、心理実験ではディスプレイの点灯に当たるが、それに対して健康な被験者グループは“コントロールが及んだ”と考えて“法則がある”と答えた。
一方、うつ病の被験者は事実を歪曲することなく現実をありのままに直視して“法則はない”つまり
“自分の意志は及ばない”と回答したことを暗示している。
この実験からすると、人間の心は都合のよい歪曲無くして、現実を直視できるほど頑丈には作られていないようだ。もしくは多くの人にとって現実の出来事は心の傷なしに直視できないということであろうか。