09/04/04 22:03:22
窓から差し込む陽光が眩しい。
ぼんやりしたままの頭で辺りを見回す。 見慣れた私の天井、枕、ベッドがあった。
(あれ……?何か夢見ていたような。それに誰かに呼ばれた気がしたんだけどな……)
「愛菜~! はやく起きなさい」
ぼんやりしたままベッドから這い出でようとしていると、一階からお母さんの呼び声がした。
壁の時計を見ると、七時を少し過ぎている。
制服に着替えて、良いにおいに誘われるように階段を下りる。
テーブルには新聞を読みながらコーヒーを飲むお父さんと、ご飯を食べている千春が居た。
私も席に着き、出された朝ごはんを食べ始める。
「ねぇちゃん。今日はいよいよ文化祭だったよな?」
お味噌汁を飲んでいた千春が、突然顔を上げて話しかけてきた。
「そうよ、それがどうかした?」
「昨日、隆とミケの人を誘ってたみたいだけどさぁ……」
「ミケの人……あぁ、春樹くんの事ね」
「ぶっちゃけ、ねぇちゃんはどっちと過ごすのさ。隆? それともミケの人?」
「そんなの二人とも案内するに決まってるでしょ。私から誘ったんだし」
「隆は足動かないくて大変そうだし、幼馴染としては放っておけないだろ?」
「まぁね……」
「でもさ、ミケの人だって不良だろ? 放置してたらヤバイ感じじゃん」
「不良って? 春樹くんが?」
「だって『姐さん』とかヤクザみたいだしさ。拳に包帯巻いてたり顔に怪我してたり、おまけに猫の世話していたなんて絶対不良だよ」
戸惑って何も言えない私に向かって、千春は「とにかく!」と指を突き出す。
「メンクイのねぇちゃんに文句は言わない。けど『二兎追うものは一兎をも得ず』だからな」
「千春……あんた難しい言葉知ってるのね」
「天然無自覚の二股も、ほどほどにって事さ。わかった?」
(わかったって言われても……)
突っ込みどころが満載すぎて、なんとも困ってしまう。
するとコーヒーを飲んでいたお父さんが、咳払いをしながら新聞を畳んだ。
「愛菜。千春。 話し込んでいる時間なんてあるのか?」
「げぇ! ヤバイ小学校に遅れる!」
「やだ! もうこんな時間じゃない!」
私と千春は、同時に声を上げて飛び上がる。急いで歯を磨いて、一目散に家を飛び出した。
腕時計を確認しながら、大急ぎで学校へ走っていく。
華やかに作られた文化祭の入場門を潜り、なんとか放送室に滑り込んだ。
スケジュールの集合時間には、なんとか間に合ったみたいだ。
①一郎くんに話しかける
②朝の千春の話を思い出す
③放送委員の仕事に没頭する
27:代理
09/04/05 00:34:55 aYhM4cak
>>26
827 :いやあ名無しってほんとにいいもんですね :2009/04/04(土) 21:32:50 発信元:218.131.41.39
【依頼に関してのコメントなど】1レス60行までOKな配達先です。またよろしくお願いします。
【板名】女向ゲー一般板
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窓から差し込む陽光が眩しい。
ぼんやりしたままの頭で辺りを見回す。 見慣れた私の天井、枕、ベッドがあった。
(あれ……?何か夢見ていたような。それに誰かに呼ばれた気がしたんだけどな……)
「愛菜~! はやく起きなさい」
ぼんやりしたままベッドから這い出でようとしていると、一階からお母さんの呼び声がした。
壁の時計を見ると、七時を少し過ぎている。
制服に着替えて、良いにおいに誘われるように階段を下りる。
テーブルには新聞を読みながらコーヒーを飲むお父さんと、ご飯を食べている千春が居た。
私も席に着き、出された朝ごはんを食べ始める。
「ねぇちゃん。今日はいよいよ文化祭だったよな?」
お味噌汁を飲んでいた千春が、突然顔を上げて話しかけてきた。
828 :827の続きです :2009/04/04(土) 21:34:35 発信元:218.131.41.39
「隆は足動かないくて大変そうだし、幼馴染としては放っておけないだろ?」
「まぁね……」
「でもさ、ミケの人だって不良だろ? 放置してたらヤバイ感じじゃん」
「不良って? 春樹くんが?」
28:938
09/04/05 12:04:32
①一郎くんに話しかける
放送室に顔を出すと、一郎君が今日のプログラムを見ていた。
「おはよう一郎くん。昨日はごめんね」
「大堂か、おはよう。もう気にし無くて良い。とにかく今日一日よろしく頼む」
「こちらこそよろしくね」
「一般客の入場時間まで後45分だ。最終ミーティングに皆が集まるまで少し待っていてくれ」
「うん、わかった」
私はいつもの場所に座って、もってきたプログラムと今日の放送部のスケジュールをながめる。
その内に、他の放送部員も集まってきた。水野先生もやってきて全員そろったところで、一郎君が最終確認をしていく。
「俺は一日放送室にいる。何か緊急事態があれば、ここに来るように」
「私は、見回りなんかもあるからずっとここにはいられないけど、呼び出してくれればすぐに来るから」
水野先生の言葉にみんなが頷く。
「では、今日一日がんばろう」
一郎君がそう言ってミーティングを終わらせ、それぞれ持ち場に移動して行く。
私の午前中の仕事は呼び出しセンターでの仕事だ。
呼び出しセンターは校門入り口近くのテントにあって、迷子の呼び出しなどはそこに設置した設備で行う事になっている。
一緒に行動する子とそのテントに到着すると、丁度一般客の入場時間になった。
といっても、当然迷子がすぐにやってくるわけではない。
呼び出しセンターが忙しくなるのは、お昼頃の事だろう。
特にする事も無く、ただ時間が流れていく。
「暇だね……ね、私ちょっとだけぬけてきて良い?」
「え?」
「どうせ、誰もこないよ。ちょっとだけ、ね? じゃ、よろしくね!」
「あ……」
こちらの返事も聞かず、走って行ってしまった。
(こんなだから、一郎君に要領が悪いっていわれるんだ……)
思わずため息をついて、テントの前を通る人を眺める。
別の学校の人らしき同年代の人、この学校の卒業生らしき人、保護者らしき人、いろいろな人が入ってくる。
(まぁ確かに始まったばっかりだし、呼び出しなんてそうそう無いんだけどさ……ハァ)
「君、ため息なんかついてどうしたの? せっかくの文化祭なのに、楽しくなさそうだね?」
「え?」
急に声をかけられて、顔を上げると別の学校の人らしき同年代の男の子が立っていた。
一瞬ポカンと見つめて、すぐに仕事のことを思い出し口を開く。
「あ、あの……お呼び出しですか?」
「んー?違うよ。ただ君が暇そうにしてたから、声かけてみただけ」
「は、はぁ……」
想定外のことでどうすれば良いのかわからない。
どうしよう……
①男の子が何か言うまで待つ
②お勧めのイベント・展示を案内する
③誰かに助けを求める
29:939
09/04/06 09:31:40
①男の子が何か言うまで待つ
どうすれば良いのか分からず、男の子の様子をうかがう。
目があうと男の子は人懐っこく、にこっと微笑んだ。
(あ、あれ? 誰かに似てる気がする……)
「どうしたの? じっと見つめられると照れちゃうなぁ」
思わずじっと見たら、少しびっくりした顔をして言った。
そうは言っているが照れている様子はみせない。
私は慌てて視線を逸らした。
「ご、ごめんなさい」
「いいよいいよ、ところで君、二年の宗像ってヤツどこで何してるかしってる?」
「宗像……って、一郎くんのこと?」
逸らした視線を男の子に戻すと、うんと頷く。
「そうそう宗像一郎。なるべくなら、会いたくないんだよねー」
言って少し顔をしかめた。その顔から笑顔が消えて、誰に似ているのかが分かった。
(あ、一郎くんに似てるんだ……)
そっくりと言うわけではない。どことなく、似ているという程度。
「で、知ってる? どこにいるか」
「し、知ってますけど……、あなたは?」
「あ、俺? 大丈夫不審者じゃないよー。 俺はアイツの従兄弟で、宗像修」
「従兄弟? しゅう……くん?」
「そうそう、修学旅行のシュウって字ね。で、君の名前は?」
「あ、大堂愛菜です」
「ふーん、アイナちゃんね。 どんな字なの?」
「あ、えっと、アイは愛情の愛、ナは野菜の菜という字で、愛菜です」
釣られて名乗ってしまった後にハッとしたが、すでに遅い。
ニヤニヤと笑う修くんに、思わず顔をしかめる。
「君、騙されやすいでしょ? 気を付けないとダメだよ」
「……余計なお世話です」
「ほらほら、そんな怒らないで。 で、宗像一郎がどこにいるか知ってる?」
「知ってますけど、関係者以外立入禁止の場所だから、会えませんよ?」
「そうなの? じゃあ好都合。 俺アイツに会いたくないんだよね。だから近寄りたくないの」
「そ、そうなんですか……なら、会う心配は無いと思いますよ。
一日放送室に居るって言ってましたし、あの近くは一般客は近づけない場所ですから」
「そうなんだ、じゃ、心置きなく見物できるかな?
ね、愛菜ちゃんここの仕事終わるの何時かな。終わったら俺を……」
「何をしている、修?」
と、急に話題の人物の声が聞こえて、私と修くんが驚いてそちらに顔を向ける。
「い、一郎くん? どうしたの?放送室にいるんじゃ?」
「そうだが、放送室からここは良く見えるんだ。そしたら……」
そう言いながら、一郎くんは修くんをジロリと見る。
そう言われて校舎をみる。確かに放送室からはここが良く見えるだろう。
「お、俺は何もして無いぞ?」
「お前の言う事は信用ならない。……大堂、コイツに何かされて無いか?」
「ちょっとちょっと、あんまりじゃない? 俺何もして無いよね?」
どうやら、この二人は仲が悪いらしい。
真面目な一郎くんと、軽そうな修くんじゃ当たり前かもしれないけれど……。
とりあえず、なんて答えよう。
①「何もされてませんよ」
②「名前を聞かれただけだよ」
③「……ナンパ?」
30:940
09/04/06 11:12:20
②「名前を聞かれただけだよ」
男の子はニコニコしながら「そうそう」と頷く。
一郎くんは修くんをまだ疑いの目で見ていた。
「あっ、ちょうど隣の椅子空いてるね♪ 座らせてもらおっと」
言うが早いか、修くんはさっき抜け出していった子の席に手をかけた。
その姿を見て、一郎くんがすぐに止めに入る。
「この席は部外者禁止だ」
「どうして? 空いてるなら、座らせてくれてもいいじゃん?」
「部外者は座れない決まりだ。それにお前は他校の生徒だろう」
「じゃあ、今から関係者になるよ。俺も今日からここの生徒。それでいいでしょ?」
「ちょっと、待て……」
修くんは強引に椅子に腰掛けてしまった。
そして目の前にある卓上マイクを興味深げに触りだした。
「あのさ、愛菜ちゃん。このボタンがONなんだよね。これは?」
「あっ、触ったら駄目です。それはチャイムのボタンだから」
「チャイム? どんな風に鳴るの?」
「ピンポンパンポンって、迷子のお知らせや緊急呼び出しの前に鳴らすものです。絶対に触れちゃ駄目ですよ」
「分ってるって。君の迷惑になるような事はしないからさ」
(そこに座られているだけで、十分迷惑かも……)
そんなボヤキがのど元まで出かかったけれど、初対面の人には言えるはずもない。
さすがの一郎くんも修くんの奔放ぶりには敵わないようだ。
左手で音量のつまみをつついたり押したりしている修くんを止めるので精一杯みたいだった。
その様子を見ていて、ふと気になった。
「あの、修くんって左利きなんですか?」
「へー。よくわかったね」
「それに……何かスポーツをしてるみたい……」
服の上からでも体格がしっかりしているのが分かる。
「愛菜ちゃんって、俺のこと知らないんだ。ちぇっ、他校でも結構知られてるって思ってたんだけどなー」
「もしかして何かの有名な選手とか、ですか?」
「まぁね。俺って顔もいいからさ。自然とファンの子が増えちゃって困るんだよね」
残念そうに口を尖らせているかと思ったら、すぐに自慢げに笑っている。
コロコロ変わる表情を観察しながら、見てて飽きない人ってきっとこういう人を指すのだろうなと感心してしまった。
私は……
①一郎くんを見る
②そろそろ出て行くように言う
③何のスポーツをしているか尋ねる
31:941
09/04/06 12:44:10
①一郎くんを見る
少し呆れつつどうすようかと一郎くんを見ると、視線に気付いたのか一郎くんは私に顔を向けた。
「すまないな大堂。コレは俺の従兄弟なんだが……」
「あ、うん、さっき聞いたよ」
「そうか……」
「コレとか、ひどくない? ちょーっと先に生まれたからって、年上面してさっ。たった二週間よ、二週間!」
「二週間だろうが、一日だろうが、一時間だろうが先に生まれた事に変わりはない」
「うっわー、おとなげないっ」
「うるさい、早くそこから退くんだ」
一郎くんらしくない言い合いに、目が点になる。
仲が悪いと思ったけれど、どうやらそうでもないらしい。
心を許しあっている同士の気軽さがそこにはある。
「ねぇちゃん? なにしてんの?」
思わずにこにこして見ていると、聞きなれた声がした。
「千春? あんた学校は?」
「部活だったけど、引き上げてきた」
「サボリ?」
「自主休業」
「それをサボリって言うんでしょ?」
「そうともいう。 ……てか、また引っ掛けてるのかよ」
「は?」
「二股ならぬ、四股? いや、僕が知らない所でまだまだありそうだよなぁ」
「なにバカな事言ってるの、あ、ごめんね。 これ、弟の千春」
「どうも、こんにちはと、はじめまして。ねぇちゃんがいつもおせわになってます」
千春は一郎くんにこんにちは、修くんに始めまして、と挨拶してペコリと頭を下げる。
「こんにちは、大堂の弟さんか……そういえば一度、家で会ってるな。」
「へぇー、君の弟? 結構年が離れてるんだね」
一郎くんと修くんは千春を見る。
二人の視線にも動じず、千春は修くんをじっと見る。
それから私を見てわざとらしくため息を突いた。
「メンクイ……」
「ちーはーるー! そんなことないって言ってるでしょ!」
「くっ、ぷぷぷ。 俺の顔が良いってほめてくれるんだ」
楽しそうに、修くんは笑うが私は恥ずかしいだけだ。
私は慌てて別の話題を探す。
「ところで千春、なんでこんなに早く来たの? 予定の時間より1時間も早いじゃない」
「僕が隆かミケの人案内する予定だから、下見してどこに何があるか把握しとくの当然だろ?」
「え? 二人とも私が案内するって言ってるのに」
「予定が変わるかもしれないだろ? じゃ、そういうことで。時間になったら又ここに来るよ」
千春は言いたい事だけ言うと、一郎くんと修くんにペコリと頭を下げて校内へ行ってしまった。
「なんか、しっかりしてる弟さんだね」
まだ笑いながら、修くんが言う。
私は……
①「ただマセてるだけだよ」
②「……ところで、いつまでここに居るの?」
③「あれでもいろいろ心配してくれてるみたい」
32:942
09/04/07 09:15:21
③「あれでもいろいろ心配してくれてるみたい」
一郎くんは「そうか」と頷いて、今度は修くんを見た。
「いい加減そこから離れるんだ。他の人に迷惑だろう」
「大丈夫だよ~。そうそう呼び出しなんて来ない……」
「あ、あの……」
修くんが言いかけたそのとき、控えめな声がかけられた。
見ると、とてもきれいな女の人が申し訳なさそうに立っている。
「あ、お呼び出しですか?」
「はい、あの、おねがいします」
「修……」
「はいはい」
利用者が現れた途端、一郎くんの言葉に修くんはおとなしく従った。
「では、呼びだす方のお名前と、呼びし場所を教えていただけますか?」
「あ、はい。呼びだすのは高村周防。えっと、場所はここでも良いですか?」
「はい。かまいませんよ。いま呼び出します」
女の人はホッとしたように微笑んで、ペコリと頭を下げた。
どこか不安げに周囲を見回している。
私はチャイムのボタンを押して、マニュアルどおりに呼び出しをかける。
「お呼び出しを致します。高村周防さま、高村周防さま、お連れ様がお待ちです。
至急校門脇、呼び出しセンターまでお越し下さい」
呼び出しをかけて、マイクのスイッチを切る。
「ありがとうございます」
「いいえ、すぐに……」
来ると良いですね、と言いかけて、ものすごい勢いで走ってくる人影を見つけた。
女の人も気付いたのかパッと表情が明るくなる。きっと呼びだした高村さんなのだろう。
「綾!」
「周防」
「お前はまた、少し目を話すとすぐはぐれる」
「ごめんなさい」
しゅんと小さくなる綾さんを軽く小突いて、迎えに来た高村さんはこちらににっこり笑いかけてきた。
「手間をかけさせて悪かったな、ありがとう」
「いいえ、仕事ですから」
「ありがとうございました」
再度お礼を言った綾さんに、高村さんは手を差し出す。
「ほら、今度は迷子になるなよ」
「はい」
「じゃあな」
高村さんはしっかりと綾さんの手を握って、私たちに反対の手をヒョイと上げて挨拶すると校舎のほうへと歩いて行った。
「あんなにきれいな恋人じゃ、気苦労たえないだろうねー」
修くんが二人を見送りながら、独り言のように呟いた。
そんな呟きに一郎くんが小さくため息をつく。
「俺は放送室に戻る。修、お前もいい加減イベントを見に行くなり帰るなりしたらどうだ」
「はいはい」
「じゃあ大堂、ここはよろしく頼む」
「はい」
一郎くんはそう言って戻って行った。私と修くんがそこに残される。
①修くんは無視して仕事に専念
②修くんに話しかける
③修くんに面白そうなイベントを案内する
33:943
09/04/07 10:41:08
②修くんに話しかける
一郎くんが去って、修くんはようやく開放されたとばかりに「うーん」と伸びをした。
そんな様子を見て、私は修くんに話しかける。
「修くん。一郎くんが苦手なんですか?」
「まぁね。それより、ためぐち」
「ためぐち?」
「愛菜ちゃん。同級生なのに堅苦しいよ」
修くんは私の言い方が気に入らなかったのだろうか。
敬語は使うなといいたげな言葉だ。
「敬語はやめた方がいいって事ですか?」
「もちろん。堅物は一郎だけで十分だよ」
「そっか……同級生だもんね。わかったよ、これでいいかな?」
「そうそう。そっちの方が可愛いもん」
(か、可愛いって……!)
社交辞令なのか、素で言っているのか。
慣れない言葉に戸惑う私を面白そうに見ながら、修くんは椅子から立ち上がった。
「ところで愛菜ちゃん。この学校の事務所ってどこかな?」
「えっと、事務室のことかな。だったら西校舎の一階だけど……どうしたの?」
「うん。編入手続きの願書もらいに行こうと思って」
「編入の願書……?」
「そうだよ。さっき俺が言ったじゃん。今日からここの生徒になるって」
学校の編入っていうのは、俗に言う転校の事だろう。
(そういえば……ここに座る時に言っていたような)
だけどあれは言葉のあやというか、その場の軽い冗談のはずだ。
「そんな、いきなり編入なんて! 冗談だよね!?」
「どうして冗談なんて言わなくちゃいけないのさ。俺は本気だよ」
「今通ってる学校だってあるんでしょ!?」
「どうにかなるって。この学校の方がなんだか面白そうだし、色々気に入っちゃったんだよね」
「そんなの駄目だよ! 絶対に考え直した方がいいと思う!!」
私の大声に、いつの間にか戻ってきていた放送委員の女子が驚いている。
「どうしたの、大堂さん」
「いきなり転校なんて……この学校には編入試験だってあるんだよ! ねぇ、あなたも止めてあげて」
「転校?」
状況が飲み込めないのか、放送委員の子は首をかしげている。
その隙に、修くんは校舎のほうへ走り出した。
10メートルほど先でくるっと私に向き直ると、ぶんぶんと手を振り出す。
「じゃあ、俺行ってくるから。愛菜ちゃん、またね♪」
「ちょっと、待って! ……あぁ行っちゃった……」
どうしよう……
①諦める
②一郎くんに連絡する
③修くんを追いかける
34:944
09/04/07 11:41:42
①諦める
何かスポーツをやっているだけはある。その姿はすぐに見えなくなった。
編入っていったって、親の了承とか必要だしきっと無理だろう。きっと…。
思わずため息をついて、椅子によりかかる。
「あの人……どこかで見た事あるなって思ってたんだけど、北附属の宗像修じゃないの?」
「え? 知ってるの?」
戻ってきた子が修くんの後姿を見送って、思い出したように口を開いた。
「知ってるも何も、北附属の宗像修っていったらテニスで有名じゃない」
「テニス……」
修くんがやっているスポーツはテニスなのだと、思いがけない所で知った。
「大堂さん、宗像修と知り合いなの?」
「私の知り合いていうか……委員長の従兄弟なんだって」
「え? そうなの!?」
その子も驚き、けれどそう言えば少し似ているという話しをしていると、いつの間にか交代の時間になっていた。
(もうすぐ千春もどってくるかな?)
校舎のほうを気にしていると、反対側から声をかけられた。
「愛菜、こんにちは」
振り向くと、春樹くんが立っていた。
顔に貼り付けた絆創膏と、手の包帯がまだ痛々しい。
「春樹くんごめん、もうちょっとまってて。もう少しで交代の時間だから」
「ごめん、ちょっと早かったみたいだね」
「平気、交代の時間なんだけど、まだ次の担当の人が来てないだけだから」
「隆さんと千春くんは……あ」
春樹くんは当りを見回し、校門の方向で視線を止めた。
同じ方向を見ると、隆がこちらへ向かってくる所だった。
「隆! こっち」
手を振って合図をすると、気付いた隆がこっちに向かってくる。
「悪い遅れたか?」
「大丈夫、時間ぴったり。千春もそろそろ戻ってくると……」
「ねぇちゃん!」
「愛菜ちゃん♪」
校舎に視線を送ると、千春と修くんが並んでこちらへ向かってきていた。
「え? 修くん?」
「そこで弟くんに会ってね。いまから愛菜ちゃんが案内してくれるって言うからついてきちゃった」
「だれだ?」
「修……って、修二先輩のことか……?面影はあるけど……」
隆が素直に首を傾げる横で、春樹くんが昨日のように考え込んでいる。
「ねぇちゃんどうするんだよ。こんなイケメン連れて歩いてたら目立つぞ?」
「う……、でも、修くんはともかく隆と春樹くんは私が誘ったんだし……」
「ま、どうするかはねぇちゃんが決めれば良いけどさ」
千春こっそりと言われて周りを見ると、確かに視線、特に女子の視線が集まっている気がする。
どうしよう…
①皆で回る
②隆と回る
③春樹くんと回る
④修くんと回る
35:945
09/04/08 10:35:16
①皆で回る
「せっかく集まったんだもん。みんな一緒に回ろうよ」
私の提案に、お互いが顔を見合している。
ほとんど面識の無い人たちが集まっているから、なんだか妙な感じだ。
「ねぇちゃん、こんな団体様ご一行じゃ目立つって」
「確かに目立つけど……せっかく集まったんだし、仲良くなれるチャンスでしょ?」
私の言葉が気に入らないのか、修くんは手をヒラヒラとさせる。
「ダメダメ。愛菜ちゃんと一緒に回るのは俺なんだから」
「ていうか……こいつ何なんだ」
隆は修くんを見ながら、眉をひそめる。
「さっき知り合った宗像修くんだよ」
「さっき? それにしては随分と馴れ馴れしいな……」
「へー。アンタ変わった松葉杖してんだね」
修くんは隆が腕に通しているロフトランド式の松葉杖を指差してジロジロと見ている。
普通ならあえて避ける話題だろうが、修くんはお構いなしのようだ。
「隆は少し足が悪いんだ。だけど、前よりずっと沢山歩けるようになったんだよ、ね?」
「………」
修くんの不躾な視線を、隆は居心地悪そうに受け止めている。
昔の隆なら相手に突っかかっていただろうけど、少し見ない間に大人になったみたいだ。
千春はこんなんで大丈夫なの? という顔で見てくるし、集団としてのまとまり最悪だ。
そんな中、さっきから黙って私達の様子を見ていた春樹くんがようやく重い口を開いた。
「俺、お腹が空きました。とりあえず皆で昼食にしませんか」
春樹くんの言葉で、そういえばお昼間近だった事を思い出す。
さっきから不穏な雰囲気だった二人も、そういえばという顔をしていた。
声には出さないけれど、ここに居るみんなの同意を得たようだ。
私は……
①校庭の出店をまわる
②校舎内の店を探す
③春樹くんが紙袋を持っているのに気づく
36:946
09/04/08 11:41:41
②校舎内の店を探す
私も午後の演劇が始まるまでに、昼食を済ませておかなくてはいけない。
隆の足を考えると食べ歩きになる外よりも、ゆっくり座って食べられる中の方が良いだろう。
「じゃ、中入ろうか。飲食店は1階に集中してるから、一通り見てどこにするか決めようよ」
「そうだな」
「そうしましょう」
「愛菜ちゃんが言うならしかたないなぁ」
「おっけー」
私の言葉にとりあえず四人とも頷いてくれる。
1階を一回りして「出前食堂」とかかれた教室に入る。
他のクラスがやっている飲食店のメニューを買ってきてくれる、という食堂だ。
三年の有志が企画したもので、ここなら外のメニューも中のメニューも両方頼めるということで、皆の意見が一致する。
「なるほど~、時間が余りとれない三年生だから許される企画だよね」
修くんが楽しそうに笑いながら、教室に入る。
「そうですね」
春樹くんも続いて中に入る。他の皆も次々と入り、空いている席を探してぐるりと教室を眺めると。
「「「「あ」」」」
偶然四人の声が重なった。
千春以外の視線が一ヶ所に集まる。
「さっきの呼び出しの人だ」
修くんが呟く。
「周防さんに兄さん?」
春樹くんが驚いたように動きを止める。
「大宮先生?」
隆が見慣れた姿に首を傾げている。
それぞれが、それぞれの呟きを聞いて顔を見合わせる。
入口で立ち止まっていると、気配に気付いたのか綾さんが顔を上げた。
「あら」
私を見つけて綾さんが会釈をしてくる。
それに同じテーブルについていた人たちもこちらを向いた。
「あ、さっきの放送の人、……と、春樹?」
高村さんが私を見つけてにこっと笑い、その横に居る春樹くんを見て首を傾げた。
私が唯一顔を知らない眼鏡をかけた男の人も、驚いたようにこちらを見ていた。
どうやらあのテーブルにはそれぞれ見知った顔が集まっているらしい。
「すみません、中入るか、外出るかしてください。通れませんよ」
立ち止まった私たちに、後から声がかけられる。
「あ!すみません」
私は慌てて…
①空いているテーブルに移動する
②綾さんたちのテーブルに移動する
③教室の外に出る
37:947
09/04/08 13:00:49
②綾さんたちのテーブルに移動する
「すいません。同席してもいいですか?」
周りは昼時ということもあって込み合い始めていた。
ミナミセンセじゃなくて……大宮先生たちに私は同席を願い出る。
「オッケーオッケー。大人数の方が楽しいじゃないか」
同席していた放送の人はノリがいいのか、大げさなほど歓迎してくれた。
その言葉に促されるように、私たちはそれぞれの席に着く。
かなりの大人数になった席を、私は改めて見渡す。
すると私の左隣に座った隆が、担当医だった大宮先生と話し始めていた。
「隆くん。久しぶりのお家はいかがですか?」
「やっぱり病院よりメシはうまいよ。やっぱり病院食は味気ないからさ」
「こっちの男は高村周防先生。精神科の先生だけど……顔くらいは見たことあるんじゃないですか?」
「あぁ。話したことは無いけど、院内で見かけたことならあるよ」
「その隣は私の妹の綾です。この周防に騙されて、彼の婚約者になってしまいました」
その会話が耳に入ったのか、綾さんと話していた周防さんが大宮先生の方をジロッと見る。
「騙されたとは何だ! 俺達はちゃんと愛し合って婚約してるんだぞ!」
「綾も趣味が悪い。もう少しマシなのを選べばいいのに」
「お、お兄ちゃん!」
大宮先生とは隆のお見舞いの時に挨拶を交わす程度だったけど、実はかなりの毒舌のようだ。
千春に目を向けると、修くんと何やらコソコソと話をしている。
「弟くん。君のお姉さんって今フリーなのかな?」
「うーん。よくわからないけど、少なくとも三股はしてると思うよ」
「三股……? それは落としがいがありそうだ」
「修さん。もしかしてねぇちゃん狙ってるの?」
「まぁね。不思議なんだけど初めて会った気がしないんだよなー」
「その言葉、ナンパの常套手段じゃん」
「弟くん……君って難しい言葉知ってるんだね」
言っている事は聞き捨てなら無いが、この二人は意外と気が合うのかもしれない。
私は……
①メガネの人と春樹くんの会話を聞く
②オーダーを取りに来た先輩に気づく
③話しかける
38:948
09/04/08 14:20:45
①メガネの人と春樹くんの会話を聞く
「兄さんがこういう場所に来るなんて珍しいね」
「学校の脇を歩いてたら、周防が呼びだされてる放送を聞いてね。
ちょっと顔を見ようかと思ったら、先に周防に見つかって現在に至るって感じかな」
春樹くんが兄さんと呼んでいる人を見ると、顔はそれほどでもないが雰囲気が似ている。
(私を「姉さん」って呼んでたけど、そうなると春樹くんの記憶の中では私はあの人の妹だったのかな?)
そんなことを思っていると、そのお兄さんと目があった。
慌てる私ににこりと微笑んできた春樹くんのお兄さんはとても優しそうだ。
「あ、ねえさ……いや、愛菜。この人は俺の兄で……」
「高村秋人です」
「あ、大堂愛菜です……」
「俺と兄さんは周防さんの従兄弟なんだ」
言われて、周防さんと春樹くんが同じ苗字だったことに気付く。
「俺の従兄弟とは違って、みんな仲よさそうだね」
「なんだ、アンタは従兄弟と仲悪いのか?」
私たちの会話を聞いていた修くんの言葉に、隆が疑問をぶつける。
「悪いもなにも、出来る事なら一生会いたくない……」
「ほぅ? そう言うならさっさと帰ったらどうだ、修?」
「げ……」
「? コイツがお前の従兄弟?」
「い、一郎くん……。今度はどうしたの?」
「昼食の時間だから、少しだけ抜けてきたんだ。ここで注文して放送室に届けてもらおうとしたら、コレを見つけたからな」
冷たい視線で修くんを見下ろす一郎くんに、そ知らぬ顔でメニューを眺める修くん。
「……なんとなく顔は似てるけど、性格正反対って感じだな」
一郎くんと修くんを交互に見て、隆が苦笑する。
そこへ焼きそばとお好み焼きのいい匂いをさせて、一人の男子生徒がやってきた。
「おまたせしました。ご注文のお好み焼きと焼きそばです」
そう言って手際よくパックに入ったお好み焼きと焼きそばを置いていく。綾さんたちが頼んだ分が届いたらしい。
「あ、こっちも注文お願いします」
修くんの言葉に男子生徒は頷き、その場にとどまる。
「えっと、俺は焼きそばとおでん、それからカレーライスね。愛菜ちゃんは?」
「あ、私は……、たまごサンドと、紅茶、ホットで。ほら、千春も選んで」
「僕はホットケーキにイチゴパフェにコーラ。隆は?」
「うーん、俺も焼きそば……と、野菜サンドと、コーヒー」
「俺はお好み焼きとミックスサンドとコーヒー」
「ついでに頼んで良いだろうか、野菜サンドとコーヒーを放送室まで届けてほしいんだが」
一郎くんの言葉に男子生徒は頷き、一通り聞き終わると復唱する。
「ご注文は、焼きそばが2つ、おでん1つ、カレーライス1つ……
……内、野菜サンドとコーヒ1つずつは放送室へ配達ですね?」
メモを取っていた様子もないのに、すらすらと答えたその人は私たちに確認の視線を投げてくる。
「え、えっと……良いんだっけ?」
「うん、おっけー」
私の視線に、指折り数えていた修くんが頷く。
修くんが頷くと、男子生徒は小さく「おまちください」と言って教室を出て行った。
すごく記憶力の良い人らしい
①一郎くんにさっきの生徒の事を聞いてみる
②「すごいね……」と呟く
③午後の予定を打ち合わせる
39:949
09/04/09 10:48:14
②「すごいね……」と呟く
「すごいけど、えらく無愛想だな」
私の呟きが聞こえたのか、男子生徒の後姿が見えなくなってから隆が言った。
そういえばオーダーの時も、運んできた時も笑顔一つみせなかった。
「確かに、ぜんぜん愛想はよくなかったよね」
「こういう接客って、笑顔が基本だろ」
「まぁね。三年生の有志でやってるお店だから、先輩なんだろうけど……」
「ここに座る時、サービス料として金も取られてるんだぜ」
「一人たった50円だけどね」
「50円だろうと金は払ったんだから、俺達は客だ。あのウエイターが戻ってきたら、言ってやろうかな」
「だけど先輩ってことは、年上だよ」
「俺はここの生徒って訳じゃないし、平気だって」
オーダーは的確だし、対応も早い。
それはいいんだけど、やっぱりもう少し愛想よくしてくれた方がお互い気持ち良いだろう。
「じゃあ、私が言ってみるよ」
「え!? お前がか?」
「うん。やってみる」
一郎くんは仕事があると言って放送室に戻り、私達はそれぞれの席で話し込んでいた。
しばらくすると、無愛想な男子生徒がすべてのメニューを持って教室に入ってきた。
そして手際よくそれぞれの席に注文どおりの品を置いていく。
たまごサンドと紅茶が目の前に置かれたとき、私は意を決して声を掛けた。
「す、すいません」
「……はい」
「追加注文……いいですか?」
「……お伺いします」
ボソッとした小声で無愛想な男子生徒は言った。
「メ、メニューには載っていないんですけど……え、笑顔を一つください」
「………………」
意味が通じなかったのか、男子生徒は黙って私を見下ろしている。
面白いことを言おうとしてスベった時のような、居心地の悪さがこの場を包む。
(ど、どうしよう~~)
私は……
①もう一度言う
②冗談と言ってごまかす
③様子をみる
40:950
09/04/09 12:03:46
③様子をみる
私を見下ろしたまま動かないその人は、しばらくしてパチパチと瞬きをした。
それから、フッっと吹きだすように笑う。
(うわ、笑うとすごく軟らかい雰囲気になる人だなぁ)
びっくりして思わず見入っていると、くすくすと笑いながら口を開いた。
とりあえず、不快にさせなかったようでホッとする。
「面白い人ですね。……ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「え、あ、はい」
頷くと、今度ははっきりとにっこり笑って私の頭にポンと手を置いた。
「え?」
慌てる私の頭をまるで子供にするように撫でた後、お辞儀をすると「失礼します」といって離れて行った。
その男子生徒に別の生徒が「おーい、大和、こっちもよろしく」と声をかけている。
苗字か名前か分からないが、どうやら大和という名前らしい。
その大和先輩はさっきの事を思い出すのか、別の注文を受けながら笑いをこらえるように口に手を当てている。
「な、なんだ……ちゃんと笑えるんじゃない」
なんとなく言い訳するように呟くと、千春がため息を付くのが聞こえた。
「ねえちゃんがどうやって男を引っ掛けてるか、ちょっと分かった気がする……」
聞き捨てならないと、軽く千春をにらむとホットケーキに集中するふりをして私を無視する。
「確かに今は笑って接客してるけど、アレじゃちょっとちがうだろ……」
呆れたように隆が肩をすくめ、焼きそばを食べ始める。
「愛菜さんは面白い人ですね、今までの春樹の友達には居なかったタイプだ」
私たちのやり取りをみていた秋人さんが、からかうように春樹くんを見ながら言う。
「それを言うなら、兄さんの友達にも居ないタイプなんじゃないの?
そもそも、ねえ……愛菜みたいなタイプがめったに、居ないと思うよ」
「それは言えるな」
和やかに話して居るが、その内容に思わず顔をしかめる。
①「それってどういう意味ですか?」
②「私はいたって普通です!」
③「………」
41:951
09/04/09 13:56:59
①「それってどういう意味ですか?」
変わり者だと言われているみたいで、私は頬を膨らませる。
そんな私の顔を見て、春樹くんが穏やかな顔をしながら微笑んだ。
「違うよ。俺も兄さんも愛菜のことを褒めているんだから」
そう言うと、春樹くんは席にいる全員の顔をぐるりと見渡した。
その視線につられる様に、私も偶然に居合わせた人達を見る。
みんな和気藹々と、楽しそうに食事をしていた。
「きっと愛菜には人を惹きつける不思議な力があるんだよ。ここに集まったみんなも姉さ……ううん、愛菜が居たから集まれたんだ」
「私が……居たから…?」
「そうだよ」
「そ、そんな……ただの偶然だよ」
今日は文化祭で一般の人達も集まっているから、偶然居合わせただけの事だ。
それぞれの人達が少しずつ繋がりあって、こうやって同席できたに過ぎない。
知り合いが増えたのは嬉しいけど、まるで私が引き起こした必然のように言う春樹くんが分らなかった。
「決して偶然なんかじゃないよ。こうやってみんなが集まって笑い合えるのは……愛菜が居たからなんだ」
春樹くんは自信を込めた言葉で断言する。
そんな春樹くんに対して、何も言えなくなってしまう。
真っ直ぐな瞳は逸らされることなく、私だけをしっかりと捕らえていた。
「俺は知っているんだ。愛菜がどれだけひたむきに頑張ってきたか。
たくさん苦しんでいたのも、悩みながら決断してきたことも……全部覚えているんだ」
昨日会ったばかりの春樹くんが、まるで私をずっと見守っていたように話している。
まだ記憶違いが治っていないのだろうか。
困惑している私に気づいたのか、お兄さんの秋人さんが春樹くんをたしなめた。
「春樹、愛菜さんが困っている」
その言葉で、春樹くんは我に返ったようだった。
そんな春樹くんを見て、秋人さんはため息を吐きながら私に頭を下げた。
「済みません、愛菜さん。最近の春樹は少し記憶が混乱しているようなんです。あまり気になさらないでください」
「いいえ……」
春樹くんに視線を向けると、顔を伏せながら小さな声で「ごめん」と謝っていた。
私は……
①「いいよ。気にしてないから」
②「春樹くんの言うとおりだったら、嬉しいな」
③「春樹くん。怖い……」
42:952
09/04/09 14:52:55
①「いいよ。気にしてないから」
記憶の混乱の事は知っているから、笑って首を振る。
春樹くんの記憶の中にいる「姉さん」はそういう風に一生懸命がんばる人で、そしてそんな「姉さん」を春樹くんは好きなのだ。
(私とはぜんぜん違うとおもうんだけどな)
そんな事を思いながらたまごサンドを食べていると、大宮先生と隆の声が耳に入った。
「隆くんたちはこの後どうするんですか?」
「俺たちは……すこし時間潰して、午後一番に愛菜のクラスの出し物を見に行く予定です」
「彼女のクラスの出し物ですか、何をやるんですか?」
「演劇だそうです」
「へぇ、演劇?」
「演劇か、面白そうだな。何をやるんだ?シンデレラか?白雪姫か?」
二人の会話に周防さんが加わる。
「そういうのじゃないですよ。愛菜が書いた脚本なんです」
「え、愛菜ちゃんが?」
「愛菜が良く見る夢をそのまま脚本にしたんだよな」
「う、うん」
皆の視線が私に集まって、ちょっと居心地が悪い。
「愛菜ちゃんが書いた脚本か、それは是非見にいかないとね。で、愛菜ちゃんはなんの役なの?」
修くんがにっこり笑って聞いてくる。
「私は直接舞台には上がらないよ。音響担当だし」
「えー、なんだ、残念。でも見に行くよ」
「うん、楽しみにしてて。……よければ皆さんも見に来てください」
「そうだね……春樹も行くんだろう?」
「うん」
「じゃあ、一緒に行こうかな」
「私も行きたいわ」
「俺は綾についていくから」
「周防は来なくても良いですよ?」
わいわいとまたそれぞれの会話に戻っていく。
私はそれを見ながら、なぜかとても嬉しくなった。
そのまま和やかに食事を終え、教室を出る。
時計を見ると結構な時間が経っていて、もう演劇の準備のために体育館へ行かなければいけなかった。
「ごめん、私演劇の準備でもう行かなくちゃ」
「そうか、俺たちは後からゆっくり行くよ」
「うん、分かった、また後でね」
隆の言葉に皆が頷いたので、私は手を振って体育館へ向かう。
体育館ではまだ前のプログラムの最中だったが、舞台袖へ行くとクラスの皆も徐々に集まってきていた。
とりあえず……
①香織ちゃんの所へ行く
②音響設備のチェックに行く
③台本を再確認する
43:953
09/04/09 16:14:31
①香織ちゃんの所へ行く
舞台袖の中で香織ちゃんの姿を探す。
私は香織ちゃんの姿を見つけると、思わず息を飲んだ。
「香織ちゃん……すごく綺麗……」
「あ、愛菜~~!!」
化粧をして、舞台用の古代巫女の衣装に身を包んだ香織ちゃんが胸に飛び込んできた。
頭には冠をして、白を基調とした着物に赤の帯を締めている。
下半身はヒラヒラのスカートに似た袴、首には勾玉を提げていた。
うしろの長い髪は下ろして、横の髪はフワッと結ってある。
(本当に夢の中の巫女みたいだ……)
「愛菜~どうしようー! 緊張してきたー」
香織ちゃんにしては珍しく動揺している。
いつもは私が香織ちゃんには励まされてばかりだけど、さすがに今回は逆のようだ。
泣きつく香織ちゃんに、私は声を掛ける。
「練習どおりにしていればいいんだよ。いつもの香織ちゃんらしく、ね」
「うー。いつもの私って一体、どんな風なのよー!」
「えっと、面倒見が良くて自信満々でお調子者でたまにドジして……ノリがいい?」
「何よ。それじゃ駄目じゃない!」
「駄目じゃないよ」
「このままじゃ、頭に叩き込んだ台詞全部忘れそうだわ。そうだ、愛菜」
夢のように綺麗な香織ちゃんが、私の前に仁王立ちになる。
そして、くるっとうしろ向きになった。
「喝入れて!」
「カツ?」
「そうよ。こう、背中でもお尻でもなんでもいいから、平手でバシッといっちゃって」
しゃべるといつもの香織ちゃんなのが、らしいと言えばらしい。
練習では良い演技をしていたし、きっと香織ちゃんなら上手く出来るに違いない。
腕時計を確認すると時間が迫っている。
私もそろそろ音響の方に行かなくてはいけない。
私は……
①背中を叩く
②お尻を叩く
③抱きつく
44:954
09/04/09 17:32:16
③抱きつく
私はぎゅっと香織ちゃんに抱きついた。
緊張のためか、香織ちゃんは少し震えている。
「大丈夫だよ。香織ちゃんなら絶対失敗しないから」
「……どうして、そう思うのよ」
「だって、香織ちゃんだもん!」
「ふふ、なにそれ?」
こわばっていた背中から、ふっと力が抜ける。
「香織ちゃんがいっぱい練習してたの知ってるし」
香織ちゃんから離れて、言うと振り向いた香織ちゃんに笑ってみせる。
「そうよね、何回も練習したもんね。いざとなったらアドリブでもなんでもやればいいのよね!」
「そうそう」
力強く言った香織ちゃんに、頷いて私は再度時計を見た。
「あ、私ももう音響の方に行かなくちゃ。ちゃんと見守ってるから、がんばって!」
「うん、愛菜の書いたシナリオだもん、絶対成功させなくちゃね!」
ぐっとこぶしを握って自分に言い聞かせるようにした後、香織ちゃんが私に手を振った。
「お互いがんばりましょう!」
「うん!」
(香織ちゃんはもう大丈夫かな……)
音響設備の所に移動すると、丁度前のプログラムが終わる。
私たちの劇まで15分の休憩を挟むが、その間に舞台の準備を終わらせないといけない。
何とか幕が上がるまでにセットの準備が終わり、香織ちゃんが舞台の中央に立ち、幕が上がるのを待つ。
その間にこっそり客席を見ると、隆達はほぼ中央に座っていた。
(時間どおり来たみたいだね)
私が皆の姿を見つけるのと同時に、幕が上がり始める。
私は慌てて劇に集中する。
幕が上がると、まず香織ちゃんの姿に体育館中にほぅというため息が響いた。
(そうだよね、香織ちゃんきれいだもん)
私は台本を確認する。
最初は……。
①壱与と少年の出会いのシーン
②神器で自分の国が滅びたのを知るシーン
③壱与が何も食べず部屋にこもっているシーン
④神器の力が無くなり勤めを果たせず嘆くシーン
45:955
09/04/10 11:34:34
①壱与と少年の出会いのシーン
私は深呼吸をして、ナレーションを読み始める。
「―ずっとずっと昔、人々がまだ八百万の神々だけを信じ、祈りを捧げていた時代。
日本がようやく一つの国として成り立ち始めたものの、 内乱は収まらず、その存在もまだ強固なものではありませんでした。
先代の巫女から選ばれ、帝の元で託宣の巫女として生きていくことになった壱与。
豪族の娘だった彼女は故郷を離れ、神殿に幽閉されるまま日々を泣いて過ごしていました。
まだまだ壱与は幼く、巫女としても未熟だったために、味方になってくれる者がだれも居ませんでした。
そんな時、一人の少年と出会ったのです」
私は音声をオフにして、虫の音のBGMを再生する。
舞台上は夜の設定のためにほの暗く、香織ちゃんのすすり泣く声が響く。
私の横に居る子がSEで物音を再生する。
場内には『ガタッ』という音が響き、香織ちゃんはビクッと肩を震わせた。
「こんな遅くに……だれ?」
香織ちゃんは脅えた目を凝らして、舞台横を見る。
するとスポットライトが照らされ、男の子が立っているのに気づく。
「君こそだれ? ここはだれも入っちゃいけないはずだよ」
古代の衣装を身に着けた、同じクラスの九条武志くんが現れた。
私と同じで少しあがり症なところのある、気の優しい男子だ。
女子に免疫が無いのか、香織ちゃんと演技していてもすぐに赤くなるから練習は大変だった。
今はそれも克服して、香織ちゃんに負けない存在感が出るようになっている。
私がぼんやりしている内に舞台上では、香織ちゃんが故郷の出雲の話をしている場面になっていた。
「その幼馴染の弓削ったら、泣き虫なくせにお嫁さんになって欲しいって言ってきたの。
だから私、言ってやったわ。大きくて、強くなったらお嫁さんになってあげてもいいわよって。
でもね、何をやっても鈍くさいのに手習いだけは私よりも良かったのよ。
弓削は楽しそうだったけど、私は一日の中で手習いの先生が就く時間が一番キライだったんだ」
故郷の話を聞いてもらうのが嬉しい壱与を、香織ちゃんはのびのびと演じている。
「僕も手習いは嫌いだな。やっぱり僕たちって、似てるね」
武志くんが香織ちゃんに向かって微笑み、香織ちゃんも笑い返していた。
この一幕は二人の出会いから始まり、一年後また再会するまでで終わる。
その再会で、壱与は男の子から勾玉を贈られるのだ。
壱与が正式な巫女になってからが、二幕のスタートになっていた。
①一幕の続きから
②二幕目から
③客席を見る
46:956
09/04/10 13:10:34
②二幕目から
一旦幕が下り、舞台に神器のセットが置かれるのを確認して、私はナレーションを読む。
「ある日、いつものように神託を受けるため儀式を行った壱与。
しかし八咫鏡に映し出されたのは、故郷の出雲に大和の兵が攻め込み、村々を焼き払っている姿でした。
鏡の中で人々は戦火に逃げ惑い、無残に殺されていきます。
壱与は悟りました。これはすでに起こってしまった過去の出来事だと」
ナレーションと同時に幕が上がり始め、終わると同時に香織ちゃんのセリフが始まる。
「な、なんで……こんな事に……出雲が」
泣く香織ちゃんの背後から、武志君が冷たい表情で近づく。
「壱与、とうとう視てしまったんだね」
その言葉に反応して香織ちゃんがパッと振り向くと、武志くんに掴みかかる。
「帝……あなたがやったの!」
少年は観念したように肩をすくめる。
香織ちゃんと武志くんの問答が続き、香織ちゃんを抱き締めようとした武志くんを突き飛ばして、香織ちゃんは鏡を割る。
その後草薙剣を手に取った香織ちゃんは結局帝を傷つける事が出来ず、放心して座りこむ。
「壱与、僕とおいで。君だけは僕が守るから」
武志くんが差し出した手を香織ちゃんはただぼんやりと見つめる。
そのまま動こうとしない香織ちゃんを覗きこむように、武志くんも屈んだ。
「壱与、さっきも言ったけれど僕には大和の民を守る義務がある。これは必要なことだったんだ」
答えない香織ちゃんに、武志くんが話し続ける。
「出来る事なら、僕だって君の一族を滅ぼしたくは無かったよ。でも、僕は帝なんだ。
民を守る為に非常な決断をしなければならない時だってある」
なんの反応も示さない香織ちゃんを、武志くんは軽く揺さぶる。
「……壱与? ……壱与!」
舞台が暗転するタイミングでマイクのスイッチを入れて、私は話しだす。
私のナレーションの内に、神器のセットは片付けられているはずだ。
「壱与が八咫鏡を割ってしまったため、バランスが崩れ神器に宿る力が開放されてしまいました。
けれど壱与と契約を交わした神器の力はまだ壱与の近くにとどまり続けて居ます。
心優しい壱与は帝を憎みきれず、神器の力を使って世界を壊してしまうことを恐れ、心を閉ざしてしまいました。
今の壱与には立ち直る時間かきっかけが必要だったのです」
二幕は壱与が自分の国が滅ぼされたのを知った所から始まる。
そして、心を閉ざした壱与に尽くそうとする帝と、語りかけてくる父のシーン。
帝を許した壱与と帝の穏やかな日々、そして弱まっていく力までが二幕で演じられる。
三幕目は反乱が起こった場面から始まる。
①二幕の続きから
②三幕目から
③客席を見る
47:名無しって呼んでいいか?
09/04/10 13:14:48
>>46
民を守る為に非常な決断を×
民を守る為に非情な決断を○
でした、すみません
48:957
09/04/10 15:47:51
②三幕目から
三幕に入り、私はまたナレーションを読み上げる。
「国家統一をほぼ成し遂げた帝。しかしその強引ともいえるやり方に異を唱える者達が現れるのは世の常です。
それぞれの国の王だった豪族達の中に、帝の地位脅かすほどの権力を手に入れつつある男が居ました。
その名は守屋。若くして大連(おおむらじ)という臣下の中で最高の地位を手にした人物でした」
舞台は帝に謁見する守屋という設定から始まる。
守屋の役は教室で私の隣の席に座っている藻部くんだ。
藻部くんは文化祭の実行委員をしながらこの役に挑んでいる、頑張り屋の男子だ。
「守屋、私に話とは何だ」
帝役の武志くんは一段高い場所から、藻部くんを見下ろすように言った。
守屋役の藻部くんは深々と下げた頭をゆっくり上げて、口を開く。
「僭越ながら、寺院建立の件で申し上げたき事がございます」
「守屋、お主は国家統一に尽力した功労者だ。私に構わず申してみよ」
「はい。この国は八百万の神々によって、支え守られてきた土地にございます。
しかし、帝は大陸の神に心を奪われているように思えてなりません。
国神を蔑ろにするは、神の血統である自身を蔑ろにすると同義ではございませんか」
臣下に過ぎない守屋にとっては出過ぎた発言だっただろう。
帝役の武志くんは、守屋役の藻部くんを冷たく一瞥して言う。
「お主が苦言を呈しても私の意向に変わりは無い。大陸の知識を得ずして、この国に未来は無いのだ。
文化が花開いている大陸の人々にとってわが国など蛮族に過ぎぬのだぞ」
「お言葉を返すようですが帝、あまり大陸に執着なされますな。
わが国にも守らねば成らぬものがあります。すべてが大陸の教えに取って代わっては侵略されたのと同じ事です」
帝の考えと、守屋さんの考えは真っ二つに割れている。
どれだけ話し合っても堂々巡りだと言わんばかりのため息を帝は漏らした。
そして、居住まいを少し崩すと、守屋に対して口を開いた。
「この話は終わりだ守屋。ところで話は変わるが最近良くない噂を耳にしたのだが、お主は知っているか」
守屋役の藻部くんは、絡むような視線を投げかけてくる帝に深々と頭を下げる。
帝は態度を崩しても、臣下の守屋が態度を軟化させることは無かった。
「いえ、何も存じ上げておりませんが」
「ある男が復讐を企てていると……。私を亡き者にしようという噂だ」
「そ、それはどういう輩でしょう」
「名を弓削と言うらしい。幼少の頃は出雲に暮らし、その出雲国王に大変心酔をしていたとか。
私の元で巫女になった出雲の姫君にも執着を持っていると聞く。お主はその人物を知らぬか?」
「いいえ。私は何も存じ上げておりません」
「そうか。お主なら何か知っておると思ったんだかな。残念だ」
舞台が暗転して、次の場面に移っている。
二幕の終わりは反乱の終結で幕を閉じる。
勝者は帝で敗者は守屋だ。
①三幕の続きから
②四幕目から
③客席を見る
49:958
09/04/10 17:09:21
①三幕の続きから
舞台が暗転したところで、ナレーションを続ける。
「帝が探りを入れた通り、守屋は幼名を弓削と言いました。守屋は出雲に居る頃からずっと壱与に恋をしていたのです。
守屋は壱与の父から、出雲の宝の一つを譲り受けていました。
三種の神器と対になる宝、十種の神宝がそれです。神宝の一つ八握剣を持ち、守屋はついに反乱を起こします。
壱与が帝に寄せる想いを知らない守屋は、壱与が不本意ながら帝の巫女として神託や儀式をしていると思っていたのです」
パッと舞台に電気が付き、神器を置いた台に向かう香織ちゃんと、その後に立つ武志くんの姿が見える。
「反乱の首謀者守屋が、弓削だと言うのですか?」
香織ちゃんが驚いて、帝を見る。
「そうだ。彼に大和の兵は大勢殺された。壱与の幼馴染ということだが、私に刃向かうのなら……」
「……」
言葉を途中で切って武志くんは静かに目を閉じた。香織ちゃんも何も言わずに俯く。
武志くんはそのまま何も言わずに舞台袖へと歩いて行き、客席の死角に隠れる。
香織ちゃんは舞台にある、三種の神器を置いている台の前に立ち、割れてしまった鏡に触れる。
「弓削、どうしてそんなことをするの? 私たちのように悲しい思いをする人を増やしてどうするというの?」
香織ちゃんは俯き、しばらく動かない。そして、不意に顔を上げると台の脇に置いてある鈴を手に取った。
「私に出来る事は無いに等しい……。でも願うことはできる。この地に平和を」
シャンと鈴がなる。
この先はこの舞台の目玉、香織ちゃんの舞だ。大和の平和を願って舞う壱与のシーン。。
客席のあちこちから感歎のため息が聞こえる。
(香織ちゃんさすがだよ)
香織ちゃんの舞と同時に、香織ちゃんの後に置かれている台から神器が中に浮かび上がる。
舞を舞っている香織ちゃんは気付かない。
神器は天に消え、香織ちゃんが一心に舞う姿だけが舞台にあった。
しばらくして何かに気付いたように舞が不自然に止まり、香織ちゃんが神器の置かれていた台を振り返る。
その途端天から三つの光が差し、上から神器が降りてくる。割れてしまったはずの鏡も元に戻った姿で。
「神器が……なぜ?」
台に落ち着いた神器に香織ちゃんはしばらく放心していたが、我に返ると鏡を手に取った。
「神々が私の願いに答えて機会を与えてくれるというのなら……」
鏡の力を使い、香織ちゃんは藻部くんに話しかける。
「弓削、聞こえますか?もうこんな事は止めてください。これ以上血を流してどうするというのです?」
「この声は……姫様? 一体これは……?」
壱与が立つ場所とは反対側にスポットライトがあたり、藻部くんがどこからともなく聞こえてくる声に驚き当りを見回す。
壱与は戦を止めるよう守屋を説得する。守屋は思いのほかあっさりと頷いた。
戦で傷を負った守屋を救った同郷の女性が、壱与と同じ事を望んだというのだ。
守屋は負けを認め、投降する。
壱与は帝に守屋を殺さないよう願い出て、帝は守屋を大和の地から追放すると言う条件でしぶしぶそれを了承した。
守屋の投降で反乱が終結し、三幕が終わった。
①四幕目へ
②客席を見る
50:959
09/04/11 12:57:48
①四幕目へ
この四幕が最終幕になる。私は残り少なくなった台本をめくった。
「反乱が終結し再び穏やかな日々が訪れようとした矢先、帝が病に倒れてしまいます。
この国を強固なものにと、丈夫とは言い難い身体で無理を押し通してきた事が原因でした。
日に日に弱っていく帝。帝をなんとか救いたい壱与。
しかしどれだけ祈祷をしても、その天命を変える事など出来るはずもありませんでした」
舞台の中央では、床に伏す帝の姿がある。
壱与の香織ちゃんが、帝役の武志くんに薬湯を持ってくる場面から始まる。
「帝、薬湯をお持ちしました」
「壱与か……」
「はい。失礼したします」
お盆に薬湯を乗せて、香織ちゃんが舞台の中央に座った。
ただ座るという仕草一つとっても、姫らしい優雅な振舞いに見えた。
「お加減はいかがでしょうか」
「あぁ。今日は昨日より暖かいから、気分がいいんだ」
そう言って、帝役の武志くんがゆっくりと上半身を起こす。
それを支えるように、壱与の香織ちゃんが手を貸していた。
「秋も深くなって、寒い日も増えてまいりましたから。そういえば今年は例年無い豊作だそうですね」
「あぁ。これで少しは民が潤えばいいが……」
「本当に。ここ数年は不作続きでしたから、皆がお腹一杯食べられるといいですね」
「確かにな。腹が空いていては働く元気も出ないものだ」
二人は顔を見合わせて笑う。
壱与は持ってきた薬湯を、そっと帝に差し出す。
すると帝は少し嫌そうな顔をしながら、薬湯を覗き込んだ。
「この薬湯も苦そうだ」
「当たり前です。少しでもお加減が良くなって頂く様に壱与が作ったとっておきですから」
「壱与の特製か。それは苦くても飲まねばならんな」
「良薬なんですから、味わって飲んでくださいな」
「それは少しばかり手厳しい。せめて一気に飲ませてくれないか」
「どうぞご自由に。でも残してはいけませんからね」
「まるで母上……いや、母上よりも怖いな。壱与は」
壱与の薬湯を一気に飲み干して、帝は渋い顔をする。
薬湯の入っていた茶碗を受け取り、壱与はお盆の上に載せていた。
「なぁ、壱与」
その様子を見ながら、不意に帝が声を掛ける。
「はい。何でしょうか」
「前から考えていたことがあるんだが、聞いてくれないか」
「??……なんですか、改まって」
いつもと少し違う帝の様子に、壱与は首をかしげる。
この後、どんな物語の内容にしたんだっけ……
①監禁同然の壱与を自由にさせると言う内容
②壱与に求婚する内容
③今までのことを謝罪する内容
④体を差し出す昔の約束について話す内容
51:960
09/04/12 00:58:46
②壱与に求婚する内容
「壱与」
「はい」
「その……君の父上を手にかけた僕が言うことではないかもしれないけれど……」
「そのことでしたら……」
「いや、そうではない……そうではなくて」
「?」
「壱与」
「はい?」
「僕の……后になってくれ」
「え?」
「壱与が必要なんだ」
「…あ、わ……私は巫女です」
「もちろん今すぐとは言わない。次の巫女と交代してからでかまわない」
「ですが、私の力はまだ衰えていませんし、次の巫女を選ぶのはずっと先に……」
「力が衰えないうちは巫女を降りてはいけないという決まりは無い。それとも、次の巫女の候補がいないのか?」
「いえ、それは……たしかにおりますけれど」
壱与が困ったように口ごもる。
「壱与は僕の后になるのは嫌なのか?」
「そんな事は!……ございません」
「これは壱与との約束を守るためでもある。約束しただろう? ずっと壱与のそばにいると」
「! あの約束を覚えておられたのですか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます。ですが、今はお身体を回復させるのが先です。お元気になられましたら、そのときにお返事をいたします」
「……そうか、そうだな。まずこの病を治すことが先だな」
「ええ、そうです。今日はもうお休みになってください」
「そうするよ」
眠る帝を見つめ続ける壱与。
けれどその晩、帝の容態が急変する。
「帝、帝、大丈夫ですか?」
「その声は……壱与か?」
「はい、そうです」
「そうか、変だな良く見えない。声も少し遠い気がする」
壱与を探してさまよう手を、壱与が握る。
「……すまない、壱与。どうやら約束は果たせそうに無い」
「そんなことおっしゃらないでください」
「壱与、泣いているのか?」
「いいえ、泣いてなど……っ」
「そうか……、壱与」
「はい」
「もし大陸の教えにあった、輪廻転生が本当にあるのなら……来世でもまた出会おう」
「……帝?」
「今度はただの人として出会い、壱与を守り生きていくのだ」
「……ええ、私もただの人として」
「大和は争いの無い国になっているかな」
「はい、きっと」
「壱与」
「はい」
「……ありがとう」
「帝?……帝!……ああ……」
泣き崩れる壱与、この後は……
①壱与が弱っていく内容
②帝の死を知り守屋が神宝の力を使い語りかけてくる内容
③神器の力を使い、来世で必ず出会えるようにする内容
④このまま巫女として一生を終える内容
52:961
09/04/12 20:44:45
④このまま巫女として一生を終える内容
壱与の悲痛な叫び声で、女官や近衛府たちが一斉に舞台上に出てくる。
死を迎えた帝を取り囲むようにして、臣下の皆がその死を悼んだ。
壱与は帝の亡骸にそっと触れると、自分の首にかけていた緋色の勾玉を枕元に置いて呟く。
「私は帝から多く喜びや苦しみを頂きました。この勾玉からも、たくさんの勇気や元気をもらいました。
黄泉路で迷われぬよう、壱与だと思ってこの勾玉をお持ちください」
壱与役の香織ちゃんの演技もあって、場内からすすり泣く声さえ聞こえてきた。
場内全体が静まり返る中、泣いていた壱与は涙を拭いてスッと立ち上がる。
その姿に、すでに亡骸になった帝を取り囲む臣下達が注目した。
「悲しい事ですが、帝が御隠れになられました」
その言葉で、臣下たちは下を向く。
「けれど、嘆いてばかりもいられません。
私が帝から今後の政に際して、伝言を仰せつかっています。
今こそ、この悲しみを糧に皆で前に進みましょう」
香織ちゃんは数歩み出ると、手にした竹簡を開いて読み上げる。
「次の帝は姪御であられる皇女を擁立するようにとご遺言を残されました。
また帝の陵墓への殉死者を一人も出さぬよう配慮せよとの事でした。
これは帝直々の勅命です。異議のあるものは神への謀反と心得なさい」
壱与の有無を言わせぬ言い方に、臣下たちは言葉を無くす。
その中で、一人の臣下が壱与に向かって来ると、ひれ伏しながら言った。
「皇女様が次期帝と申し上げられましたが、壱与様はどうなさるおつもりですか。
大連も居ない今、政を仕切る者は壱与様こそ相応しいと皆思っておるのです」
臣下の者達はみな、壱与の摂政を望んでいる。
しかし、壱与は首を横に振って口を開いた。
「私は巫女です。神の依り代としての役目があります。
次期巫女の娘子と共に伊勢に赴き、帝の御霊を弔って生きていきます。
亡き帝が選ばれた皇女様を皆で盛り上げ、助けてあげてください」
そう言って、香織ちゃんは舞台の裾へと消えていく。
そして舞台は暗転し、私は最後のナレーションを読み上げる。
「壱与が手にしていた帝の遺言であった竹簡、実は全くの白紙でした。
争いの無い国を望んでいた帝の願いを受け、壱与は臣下の皆にはったりを見せたのです。
壱与の一世一代の嘘は、醜い王位争いを避ける結果となります。
そして、のちの帝たちによって、中央政権は確立されていくのです。
壱与は伊勢に赴き、その一生を敵国であった大和の国の為に捧げました。
それは斎宮となって、のちの世にも引き継がれていくことになります。
―さて、これでこの物語は終わりです。
遠い遠い昔の真実は、今となっては誰も知ることは出来ません。
ですが彼女達の生き方は現代の私達にも通じる何かを教えてくれる、そう思えてならないのです」
私はすべてを読み終えて……
①舞台を見る
②客席を見る
③自分の手元を見る
53:962
09/04/12 22:36:16
①舞台を見る
ナレーションの間暗転していた舞台に明かりが戻り、出演者が一列に並んでいっせいにお辞儀をする。
客席からは出演者たちに惜しみない拍手が送られている。
(よかった、大成功だよね)
時計を見ると予定時間より3分ほどオーバーしているが、この後の片付けで取り戻せる範囲内だ。
ほっと息をついていると、客席のざわめきがおおきくなった。
時計から舞台に視線を戻すと、香織ちゃんだけがこちらに向かって歩いてくる。
「あれ? みんなは?」
「なに言ってんの、一番大事な人が挨拶して無いじゃない」
「え? だれ?」
私は周りを見回すが、同じ音響の子が隣にいるだけだ。
香織ちゃんは私の様子に呆れたように肩をすくめると、びしっと私の顔の前に人差し指を突き出してくる。
「もちろん愛菜、あんたよ」
「え!? 私はただのナレーションだよ」
「ばっかねぇ、この舞台の脚本書いたのは誰なの?」
「……あ、で、でも……」
「デモもテロもない、さっさと来なさい」
「ええええ!?」
予定外のことにうろたえる私をの手を香織ちゃんは問答無用とばかりに取ると、舞台の上に引っ張って行こうとする。
「ちょ、ちょっと、香織ちゃん!」
なんとか足を踏ん張ってこらえようとする。
すると今度は武士くんもやってきた。
「大堂さん、早くこないと次ぎのプログラムの人に迷惑がかかるよ?」
ちょっと困った顔だけれど、内容は早く舞台に上がれと言っているようなものだ。
「ほらほら、観念して挨拶しなさい」
「そ、そんなぁ……」
どうしよう
①舞台に上がる
②断固拒否
③いっそ裏方全員道連れ
54:963
09/04/13 11:22:53
①舞台に上がる
香織ちゃんに引きずられるようにして舞台に上がっていく。
「わ、私……絶対に無理だから」
「駄目よ。ほら、しっかり歩いて」
「本当に無理なんだよ」
「つべこべ言わない。一度壇上に上がってしまえば、なんとかなるものなんだから!」
「止めて、止めてって」
「ほら、マイク。観客のみなさんにしっかり挨拶するのよ」
舞台の中央まで連れて行かれ、マイクを渡された。
足は震え、なかなか最初の言葉が出てこない。
私は生唾をゴクリと飲み込んで、恐る恐る顔を上げ大勢の観客席を見た。
(あ……)
客席からは暖かい拍手が送られていた。
私達にとっては大成功だったけど、限られた期間で作った学生の素人劇でもある。
それでも、その拍手から大勢の人が認めてくれたと感じることができた。
(どうしてだろう。体の震えが収まっていく)
マイクをしっかりと握り締めて、私は壇上の中央に立った。
「最後まで私達の劇を観ていただき、ありがとうございます。
私はこの脚本を書かせて頂いた、大堂愛菜といいます。
ここに居る出演者だけでなく、照明、大道具、小道具、衣装、音響とクラスのみんなで完成させてきました。
クラス全員が作り上げたこの劇が、皆さんの心に少しでも残れば嬉しいです。
本当に……本当にありがとうございました」
私は深々と客席に向かって頭を下げる。
香織ちゃん、武志くんや藻部くん、他の出演者全員が礼をする。
こうして私達で作り上げてきた演劇が幕を閉じた。
余韻に浸る間もなく、片付けを大急ぎで済ませる。
なんとか次の舞台には間に合い、私たちはホッとひと息ついた。
クラスのみんなも一段落ついたのか、思い思いの行動をとり始めている。
私は……
①後片付けに専念する
②香織ちゃんを探す
③千春たちに会いに行く
55:964
09/04/13 12:49:32
②香織ちゃんを探す
舞台上を片付けている間に着替えを済ませた香織ちゃんが、こちらに歩いて来るのが見えた。
「香織ちゃん、お疲れ様!」
「愛菜もお疲れ様、あー、無事終わって良かったわ。セリフど忘れしたらどうしようかと思ったけど」
「香織ちゃんなら大丈夫だって言ったでしょ?」
「ふふ、そうね。うーん、あの衣装肩が凝るのよね」
そう言いながら伸びをして、降ろしかけた片腕を私の肩に回す。
そうして、内緒話するように私の耳元に口を寄せた。
「ね、このまま片付けサボっちゃお」
「え!? ダメだよ、皆に迷惑かかっちゃう」
「大丈夫よ、本格的な片付けは明日だからあとは隅っこに寄せて置くだけだし、人が多すぎても邪魔になるだけだって。ね、ほら行こう」
肩に腕を回されたまま、香織ちゃんが歩き出したので引きずられるようにして、客席へ出る。
すると、すぐ声をかけられた。
「ねぇちゃん」
「あ、千春」
「千春くん、来てたんだね。こんにちは」
「香織お姉さんこんにちは、主役の巫女さん役すごくきれいでした」
「ふふ、ありがとう」
千春の言葉に香織ちゃんは少しだけ照れたように笑う。
そしてふと千春の後に視線を投げて、驚いたように目を丸くした。
「隆、隆じゃないの。もう身体はいいの?」
「おー、この通りだ」
「よかったじゃない。文化祭見に来られて。この香織様の名演技を拝めたんだから」
「なにいってんだ、お前の演技なんかどうでもいいに決まってるだろ」
「ま、そうよね。アンタの目的は別だろうし」
「おい!」
なぜか慌てたような隆に、香織ちゃんは意味ありげに笑ってみせる。
「あの子、巫女の壱与の役やった子だよね。愛菜ちゃんと仲良いんだ?」
不意に後から話しかけられて、振り返ると修くんが立っていた。
その隣には春樹くんもいる。
「香織ちゃん? 香織ちゃんは私の親友だよ」
「へぇ、舞台だとおとなしそうな感じだったけど、実際は気が強そうだなあ」
その声が聞こえたのか、振り返った香織ちゃんが私の横に立つ修くんを見てひょいと眉を上げた。
「害虫発見、愛菜こっちにきなさい」
「え?」
手を引っ張られて香織ちゃんにぎゅっと抱き締められる。
「愛菜と付き合う人は、私のお眼鏡にかなうヤツじゃないとダメよ!十把一絡げの男になんて可愛い愛菜を渡せないわ!」
「もう香織ちゃんたら、修くんが私なんて……そんなわけ無いじゃない」
「ねぇちゃん…たぶん修さんも、香織お姉さんも本気だから……」
千春がなにか呟いているが、騒がしい体育館の中では良く聞き取れなかった。
「あの、立ち話もなんだし、移動しませんか?」
「そうだね、校内も案内するって約束だったし」
「そうなの?じゃあ私も付き合うわ」
このまま何時までも続きそうな会話に、春樹くんが提案してくる。
私が頷くと、香織ちゃんもは当然のように言った。
えっと……
①みんなに行きたい所を聞いてみる
②順番に回る
③そういえば、周防さんたちは……?
56:965
09/04/13 14:32:25
①みんなに行きたい所を聞いてみる
私は放送委員で配られた、模擬出店やイベントの書かれた用紙をポケットから取り出した。
各クラスや文化部の出し物に対してのPRまで書かれている。
出店案内の為に作成されたものだったけど、一覧表になって見やすいのは一郎くんが作ったからだろう。
とりあえず中庭のベンチに座ると、私はその紙をみんなに見せる。
「これ参考になるかなと思って。沢山あるけどみんなはどこを回りたい?」
「おっ! 結構いろんな展示もあるんだな」
「まぁね。うちの学校は盛大にやるんだよ」
「へぇ、自由な校風ってヤツか。俺もこの学校にお前の後輩として入っても面白そうだな」
「いいよ。私が先輩として厳しーく教えてあげるから」
隆と話している内に、みんな行きたい所が決まってきたようだ。
紙を覗き込みながら、各自があちこち指差し始める。
「手芸部がぬいぐるみ展示してるって。ねぇ、愛菜。これ見に行こうよ」
かわいい物に目が無い香織ちゃんは私の腕を掴みながら言った。
「ここ、バザーって書いてある。もしかしてゲームソフトも売ってるのかな……」
千春は携帯ゲーム機のソフト目当てに、バザーを回ってみたいらしい。
「俺はお化け屋敷ってのに行くよ。もちろん愛菜ちゃんとペア組んでだけどね」
修くんはお化け屋敷に行ってみたいようだ。
「このクッキング部の手作りクッキー体験って、すごく興味があります」
春樹くんはクッキーを焼いてみたいと言っている。
「よし。俺はこの科学部のオモシロ実験ってのがいいぜ」
最後に隆が科学部に行きたいと言った。
全部回るのは時間的に無理だ。
さて、どれにしようかな……
①ぬいぐるみ展示
②バザー
③お化け屋敷
④手作りクッキー体験
⑤科学オモシロ実験
57:966
09/04/13 15:43:29
②バザー
「うーん、じゃあ、まずバザーに行こうか」
「え、ねぇちゃんいいの?」
千春は私の言葉にちょっと驚いたように顔を上げた。
まさか自分の案が採用されるとは思ってなかったようだ。
「うん、だってバザーは早く行かないとほしいのが無くなっちゃうじゃない」
他の所は展示だから後から行っても無くなったりはしない。
手作りクッキー体験は焼く時間の関係か開始時間が決まっていて、次の回までにまだ余裕がある。
「それに目当てのものが無ければすぐに次に行けるでしょ?」
「そりゃそうだけど……」
千春は伺うように他の人たちを見ている。
その視線に気付いたのか、春樹くんが少し笑って言った。
「チハル…くん、そんなに俺たちの事を気にしなくても良いよ。少なくとも俺の行きたいクッキー体験はまだ次まで時間があるし」
「そうそう、そんなに気にしなくても良いのよ?バザーなら、可愛いアクセとかあるかも」
「ま、ここで話してる時間が惜しいな。さっさとバザーに行こうぜ」
春樹くんに続いて香織ちゃんが千春に言いながら目を輝かせ、隆は歩き出す。
修くんは何も言わないが、気を使う千春を見て笑っている所を見ると、異議はないらしい。
「ところで、こっちで良いんだよな?」
「あ、うん。そこの廊下曲がって……階段だけど、隆大丈夫?」
「余裕」
わいわい言いながらみんなでバザーをやっている教室までやってくると、それなりに人が居てにぎわっている。
「あ、ゲームコーナー発見!」
千春はいち早く目当てのコーナーを見つけてそちらへ向かった。
まわりのの商品を見ながらついて行こうとして、すれ違いざまに人にぶつかってしまう。
「あ、すみません」
慌てて謝って顔をあげた私は思わず青くなった。
私がぶつかったのは体つきの良い短髪の男の人で、やけに派手なシャツとだぼっとしたズボンをはいていた。
どう見ても普通の一般人には見えない。
ぶつかった男の人は内心慌てる私を見て、ニッと笑って見せた。
そうすると最初の怖いイメージが一転し、気さくなお兄さんに変わる。
「おう、気を付けろよ」
「熊谷、なにをしてる?」
男の人の声に重なるように、もう一つの声がかけられる。
それは……
①周防さん
②大和先輩
③近藤先生
58:967
09/04/13 17:07:02
①周防さん
「あっ、周防さん」
声の方を見ると、周防さんと綾さんがバザーの教室に来ていた。
周防さんはさっきの派手なシャツを着た男の人をドンと突き飛ばしながら、私達に近づいてきた。
「愛菜ちゃんと……巫女役の子だね。演劇、すごく良かったよ。感動した」
「あ、ありがとうございます」
私と香織ちゃんは観てくれた周防さんに照れながらお礼を言った。
すると、周防さんの後ろからさっきの柄シャツの人が怒った顔でやってくる。
「おい、周防! 俺を突き飛ばすとはどういう事だ」
「相変わらず、お前はうるさい奴だな」
「うるさいとは何だ! テメーは何様のつもりだっての」
「えっと、俺様?」
「ふざけてんのか。シメるぞ、コラ」
周防さんと柄シャツの人の喧嘩を知りながら、隣でニコニコと笑っている綾さんに私は声を掛ける。
「綾さん。あの熊谷って人と周防さんって仲が悪いんですか?」
「違うわよ。二人はとっても仲良しなの」
「仲良し……私には喧嘩しているように聞こえますけど」
「喧嘩友達って感じかしら。あの二人は遠い親戚同士で、ああやっていつもふざけ合っているのよ」
隣の綾さんが笑っているし、きっと平気なんだろう。
安心した私とは対照的に、香織ちゃんはこの場を離れたがっているようだ。
私の腕をぐいぐいと引っ張りながら、耳打ちをしてくる。
「あのチンピラは愛菜の知り合い? 駄目よ、知り合いは選ばなくちゃ」
「私も初対面だけど……周防さんの親戚らしいし、大丈夫だよ」
「全く……。だからアンタは放っておけないの。さぁ、ここを離れるわよ」
私は香織ちゃんに引っ張られながら、綾さんに挨拶をする。
そして、またバザー会場の入り口まで戻ってきた。
香織ちゃんは気を取り直すように、かわいいアクセサリーを探し始めたようだ。
私は……
①千春を探す
②隆を探す
③春樹くんを探す
④修くんを探す
59:968
09/04/13 20:32:29
①千春を探す
さっきゲームコーナーへ向かっていたけれど、欲しいゲームはあったのだろうか?
ゲームコーナーへ行くと千春が品物を物色していた。
「千春、欲しいゲームはあったの?」
「あ、ねぇちゃん。うん、あったんだけどどっちにするか悩んでるんだ」
千春の手元を覗いて見ると同じ金額の値札がついている。
悩む千春の後ろで所在無く教室内を眺めていると、ふと同じように教室を眺めていた男の子と目が合う。
お昼に食堂で会った大和先輩だ。
「あ」
向こうも私に気づいたようでこちらに近づいて来る。
「食堂はもう終わりですか?」
「いえ、丁度休憩時間なんです」
近づいてきた大和先輩に会釈をしながら聞くと、小さく首を振って答える。
そしてゲームを持って悩んでいる千春に気づき、私と同じように覗きこんだ。
そして千春が左手に持っているゲームを指差して言う。
「こっちのゲームを買ったほうが良いですよ」
「え?」
急に話しかけられた千春は驚いたように、大和先輩を振り仰ぐ。
「あ、食堂の兄ちゃん」
「はい」
「……どうしてこっち?」
「もう一つの方は、中古でもっと安く買えます。こっちはなかなか出回らないようなので、中古屋だともっと高いですよ」
「へぇ、そうなんだ。じゃこっちにしよう。兄ちゃんありがとう」
千春は大和先輩の言葉に一つを元に戻して、レジへ向かう。
「先輩、ゲーム好きなんですか?」
「いいえ」
「そうなんですか?でも、詳しいですね」
「ああ、たまたま家の近くに中古屋があるんです。毎日前を歩くので買取価格とか張り出してあるのを見ますから」
つまりゲームはやらないが、毎日見てるから覚えている、と言うことだろうか?
記憶力のいい先輩だから、何気なく見ているものも覚えてしまっているのかもしれない。
「愛菜ー、どう?いい物あった……って、三上先輩?」
香織ちゃんが私の所までやってきて、隣に立つ大和先輩に気づいたようだ。
「香織ちゃん、先輩の事知ってるの?」
「知ってるも何も、いつも学年トップの秀才じゃないの。愛菜、三上先輩と知り合いだったの?」
こそこそと香織ちゃんが聞いてくる。どうやら、先輩は三上大和という名前らしい。
「ううん、今日お昼にちょっと……」
「そうなの……こんにちは先輩」
「こんにちは……すみません、そろそろ戻る時間なので失礼します」
先輩は挨拶すると、そう言って私達に会釈して、教室から出て行ってしまった。
それと入れ違いになるように、他のみんなもこちらに集まってくる。
千春が戻ってくるのを待って香織ちゃんが口を開く。
「千春くんの買い物終わったみたいだし次に行こうか?」
時間的に回れるのは後二箇所位かな?
①ぬいぐるみ展示
②お化け屋敷
③手作りクッキー体験
④科学オモシロ実験
60:969
09/04/13 21:22:27
③手作りクッキー体験
甘い物が食べたくなって私は皆に手作りクッキー体験に行きたいと伝えた。
しかし、その中にクッキー体験に行きたいと言っていた春樹くんがいないことに気がついた。
少し気になって皆に少し待っていてと伝えて私は教室を出る。
すると廊下の壁に寄りかかりでぼんやりと一点を見つめる春樹くんが立っていた。
春樹くんが見つめる先には王子の扮装をした男の子とお姫様の扮装をした女の子が
看板を持って呼び込みをしている。
看板には『ロイヤル喫茶』と書かれている。
「俺の……ところは、変わってなかったんだ。
きっと……姉さんと隆さんが遊びに来て、からかわれて……。
あれだけ見て欲しくなかったのにちょっと寂しいな……。」
私がいるのに気づいていないのか、春樹くんは寂しそうに呟いた。
ロイヤルパーティ、そういえば一年のどこかのクラスのはずだ。
「からかわないよ。むしろ私がその姉さんだったらカッコよくて言葉失うと思うよ。」
「……っ!!」
ようやく私の存在に気がついたのか、春樹くんは真っ赤になり後ずさった。
「王子様な春樹くんはきっと喫茶店の目玉だっただろうね。」
「……そ、そんなことない。」
「春樹くんの記憶だと、この学校に通って王子様してたのか、ちょっと残念。
見たかったな、それ。そしてきっと嫉妬してた。
春樹、素敵だね。恋人できちゃうかなって姉心としては心配になったと思うよ。」
春樹くんは私の顔を覗き込み、息を呑む。
そしてゆっくり微笑むと一言
「そうかな。そうだと嬉しい。」
そう言った。
「春樹くん?」
「愛奈がそういうならきっとそうだから。」
照れたように春樹くんは笑う。私も釣られて笑ってしまった。
なんだかこう話していると本当に姉弟みたいな気持ちになってくる。
「ねぇ、春樹くんのこと春樹って呼んでいい?」
「えっ!?」
「なんだかそう呼びたくなったの、春樹って年下だしいいよね。」
春樹くんの口元がゆるむ。今までで一番の笑顔で彼は答えた。
「もちろんだよ、愛奈。」
「君、そんなに気になるなら私のクラスの出し物参加してみるかい。」
と声をかけられる。振り向くと近藤先生が立っていた。
厳格で有名な近藤先生のクラスの出し物だったのかと思うとそのギャップに私は唖然としてしまった。
しかし、時間も時間だし他を見たいって言ってる人がいる。
春樹くんの王子様姿もみてみたいかも?
どうしようかな?
①せっかくだから参加
②やっぱりクッキー体験
③やっぱりぬいぐるみ展示にしようかな
④やっぱりお化け屋敷にしようかな
⑤やっぱり科学オモシロ実験にしようかな
61:970
09/04/14 08:57:02
①せっかくだから参加
甘い物が食べたかったので、ここの喫茶店でケーキを頼むのも良いかもしれない。
「せっかくだから、参加してきたら? あ、でもクッキー体験の時間すぎちゃうかな」
「愛菜は俺の王子さま姿みたいの?」
「そうだね、見てみたいかも」
「おーい、愛菜ちゃん何してるの?」
「あ、修くん」
私達の帰りが遅いので、みんなもこちらにやってきた。
「なんなら、皆で参加するかい?」
「ん?ロイヤル喫茶? へー、王子様とお姫様か」
近藤先生の言葉に、修くんは教室を覗きこんでいる。
「俺はパス。この足だから着替えとか大変だし」
「僕もパス。ってか僕のサイズの服なんてないよね」
隆と千春はそう言って首を振る。
「愛菜が見たいっていうから、俺は参加しようかな」
「え?愛菜ちゃん王子さま姿見たいの?なら俺も参加しようかな」
春樹と修くんがそう言うのを聞いて、近藤先生が口を開いた。
「それじゃあ二人はこっちへ。君達は中に座ってなさい」
「はい」
「じゃ、ちょっと着替えて来るね」
春樹と修くんは近藤先生に連れられて行ってしまった。
「修のヤツはともかく、春樹がこういうのに参加するとは思わなかったな」
「確かにそうね、宗像修はともかく」
隆と香織ちゃんが言いあっている。
「そうかな?ねぇちゃんが見たいって言ったからだろ?それなら不思議でもなんでもないと思うけど」
「あー、そう言われるとそうかも」
それに千春が口を挟んで、香織ちゃんが頷き隆が顔をしかめる。
「え?私が来たときにはずっとここ見てたし、最初から興味はあったと思うよ」
記憶ではこのクラスの催し物に参加していたはずの春樹。
すっかり蚊帳の外で寂しかったのだとおもう。でもそう言うのは恥ずかしいから、私の言葉をダシにしたのだろう。
「わかってないなぁ……て来たんじゃない?」
千春は呆れたようにため息をついたところで、急に今日室内のざわめきが大きくなる。
入口を振り返って、私は思わず固まった。
「これはこれは、二人とも予想以上に出来の良い王子様になってるわね」
「これだけ似合うと嫌味だよなー」
「俺は参加しなくて正解だな。あの二人と並びたくない」
皆が口々に感想を言う。
春樹と修くんはまっすぐにこちらに向かってきた。
「愛菜ちゃん愛菜ちゃん、どう?似合う?王子様っぽい?」
「着てみたけどやっぱり恥ずかしいね、顔の絆創膏もミスマッチだし」
修くんは楽しそうに、春樹は少し恥ずかしそうに言う。
私は…
①二人ともすごく似合うと言う
②修くんさすがだねと言う
③春樹は絆創膏付きでもかっこいいと言う
④驚きすぎて言葉が出ない
62:971
09/04/14 12:18:40
①二人ともすごく似合うと言う
修くんは短い前裾から、膝裏下あたりの後裾まで斜めにカットされたモーニングコートを着ていた。
立て襟シャツにサテンのアスコットタイをして乗馬に興じる王子様のようだ。
春樹くんは金の縁取りが施された裾広がりの白いロングコートをサッシュベルトで締めている。
舞踏会に出席している童話の中の王子様がそのまま抜け出たみたいだ。
「二人ともすごく似合ってる。とってもカッコいいと思うよ」
王子様に扮した二人に対して、褒め言葉しか出てこなかった。
周りの女子の反応を見ても、いい意味で目立っているのは間違いない。
「やっぱり? 俺って何を着ても似合っちゃうんだよな~」
「あ、ありがとう。うれしいよ……」
反応はまちまちだけど、みんなに褒められて二人ともまんざらでもない様だった。
(あっ、そういえばさっき……)
どうして私は、春樹くんがこのクラスの催し物に参加していたはずだと思ったんだろう。
春樹くんは違う学校だし、昨日会ったばかりの男の子なのに。
その事をより深く考えようとすると、頭がズシンと重くなっていく。
記憶の奥に霞が掛かったようで、ぼーっとしてくる。
「……ん……ねぇちゃんってば!」
「あっ、千春」
「また愛菜ったらボーっとして。アンタは隙が多すぎなんだからね」
席に座っている私達に、二人の王子様はメニュー表を差し出した。
「ご注文はお決まりでしょうか、マドモアゼル愛菜」
ノリノリの修くんは、私の手を取って微笑む。
「えっ、修くん……」
「ちょっと。いくら隙だらけでも、私の許可無しに愛菜に触れちゃ駄目よ!」
「そうだそうだ。いいぞ長谷川、もっとガツンと言ってやれ」
香織ちゃんと隆は、馴れ馴れしく触ってくる修くんにブーブー文句を言っている。
みんなの掛け合いが面白いのか、千春はニヤニヤと笑っていた。
そしてふと春樹くんを見ると、見守るような眼差しで私達を眺めていた。
私は……
①注文をする
②春樹くんに話しかける
③修くんに話しかける
63:名無しって呼んでいいか?
09/04/14 12:24:37
↑の971は無しでお願いします><
64:971改
09/04/14 12:47:57
①二人ともすごく似合うと言う
修くんは短い前裾から、膝裏下あたりの後裾まで斜めにカットされたモーニングコートを着ていた。
立て襟シャツにサテンのアスコットタイをして乗馬に興じる王子様のようだ。
春樹は金の縁取りが施された裾広がりの白いロングコートをサッシュベルトで締めている。
舞踏会に出席している童話の中の王子様がそのまま抜け出たみたいだ。
「二人ともすごく似合ってる。とってもカッコいいと思うよ」
王子様に扮した二人に対して、褒め言葉しか出てこなかった。
周りの女子の反応を見ても、いい意味で目立っているのは間違いない。
「やっぱり? 俺って何を着ても似合っちゃうんだよな~」
「あ、ありがとう。うれしいよ……」
反応はまちまちだけど、みんなに褒められて二人ともまんざらでもない様だった。
(あっ、そういえばさっき……)
記憶ではこのクラスの催し物に参加していたはずだと、春樹は言っていた。
妙に私の周りにも詳しいし、今回の事もただの記憶違いで済ませるには現実と噛み合い過ぎている。
もしかして、私が望んだ世界という話と深い関係があるのだろうか。
ちゃんと考えたいのに、頭がズシンズシンと重くなっていく。
真っ白な霞がかかってしまったように、頭がぼーっとする。
「……ん……ねぇちゃんってば!」
「あっ、千春」
「また愛菜ったらボーっとして。アンタは隙が多すぎなんだからね」
席に座っている私達に、二人の王子様はメニュー表を差し出した。
「ご注文はお決まりでしょうか、マドモアゼル愛菜」
ノリノリの修くんは、私の手を取って微笑む。
「えっ、修くん……」
「ちょっと待った。いくら隙だらけでも、私の許可無しに愛菜に触れちゃ駄目よ!」
「そうだそうだ。いいぞ長谷川、もっとガツンと言ってやれ」
香織ちゃんと隆は、馴れ馴れしく触ってくる修くんにブーブー文句を言っている。
みんなの掛け合いが面白いのか、千春はニヤニヤと笑っていた。
そしてふと春樹を見ると、見守るような眼差しで私達を眺めていた。
私は……
①注文をする
②春樹くんに話しかける
③修くんに話しかける
65:972
09/04/14 13:24:29
①注文をする
私と目が合うと、春樹はにこっと微笑んで「お決まりですか?」と言う。
私は慌ててメニューを見て、ロールケーキセットを注文する。
他の皆もそれぞれ注文を済ませると、春樹は頷いて注文を伝えに行く。
その行動は飛び入りで参加したにしては全く迷いが無い。
修くんは修くんで別のテーブルに呼ばれて、そちらでもノリノリで注文を受けている。
「なんか変な感じ。二人とも前からウチの学校の生徒みたい」
香織ちゃんの言葉の言葉に、思わず頷く。
「そうだね、なんかあの二人が家の学校に居ないっていうのが想像できないな」
「すげー馴染んでるよな、二人とも」
「まぁ、宗像修については物怖じしないし、どこに行ってもあんな感じだと思うけどね」
「そういえば、修くん編入届をもらいに行くとか言ってたけど本気なのかな……」
着替えの前にそれらしいものを持っていただろうかと思い出そうとするが、持っていたような気もするし、持っていなかったような気もする。
「え?編入?」
「なんか、そう言ってたけど……たぶん冗談だよね」
「……冗談、ならいいけど……これは要注意人物としてチェックしとくべきだわ」
香織ちゃんはそう言いながら修くんを見る。
「おまたせしました……長谷川せんぱ……さんどうしたの?」
じっと修くんを見る香織ちゃんに、持ってきたケーキを並べながら春樹が首をかしげる。
「あー、ちょっとね。害虫が余計な行動しないように見張ってるのよ」
あっさりとそう言って、香織ちゃんはケーキを持ってきた春樹に「ありがとう」といって受け取る。
香織ちゃんの言葉に苦笑して、春樹は口を開く。
「俺、もう着替えてくるよ」
「え?もう?」
「うん、この後もどこか回るんだろ?どうせ長居できないんだし……」
そう言って春樹は修くんに声をかける。修くんも頷いてこちらにヒラヒラと手を振ると、二人で出て行った。
「二人とも楽しんでもらえたようだね」
「あ、近藤先生。誘ってもらって、ありがとうございます」
「いや、気にしなくて良い。文化祭は皆でたのしむものだ。あぁ、あとこれは二人に」
そういって近藤先生は二つの包みをテーブルに置く。
「これは?」
「今回のお礼だ。まあ、中身は菓子だが…。
ほんの少しの間だったが、二人のおかげで呼びこみの必要がなくなるくらい客が入ったからね」
言われて見れば、いつのまにか教室内は満席だ。
近藤先生は、それじゃあと、裏の方へと戻っていく。
そうこうしているうちに、春樹と修くんが戻ってきた。
「ただいまーっと。さて次に行こうか。時間的に最後かな?」
「そうだね……えっと……」
①ぬいぐるみ展示
②お化け屋敷
③科学オモシロ実験
66:973
09/04/14 14:49:54
②お化け屋敷
「うーん、迷うな。お化け屋敷も楽しそうだし……」
「だよねー♪ さ、愛菜ちゃん、行こう行こう」
お化け屋敷と言った途端、修くんが私の手を引き歩き出す。
「えぇ~!?」
「やっぱり愛菜ちゃんは、俺の案を選んでくれると思ってたんだよね」
「ちょっ、まだ決めて……」
「ほらほら、早く。急がないと終わっちゃうよ」
ゆっくり行っても、十分間に合う時間はある。
なのに修くんは気持ちを抑えきれないように、ズンズン歩いていく。
「おい、待てって! そんなに早く歩くなっ」
松葉杖の隆がついて行けず、叫んで修くんを呼び止める。
すると修くんはピタッと止まって、追いついた隆に文句を言い出した。
「アンタ、もうちょっと早く歩けないの?」
「無理に決まってるだろ」
「面倒な奴だね。無理なんて言わずに、もっと早く歩けるようになりなよ」
「うっせ。お前に言われなくてもやってやるよ」
「ふーん。……こういう人って卑屈だと思ってたけど、そうでもないんだね」
そう言うと修くんは私の手を離して、ふらふらと歩き出した。
あちこちの展示物を珍しそうに眺めたり、すれ違う女の子に手を振ったりしている。
私の横に香織ちゃんと千春と春樹がやってきた。
「あの害虫……。ほんと、ムカつくわ」
「そうかな? 僕は修さんの事、けっこう好きだよ」
「千春くん、ちゃんと人を見る目は養わなくちゃだめよ。ああいうのを、サイテーって言うんだから」
「俺も自分勝手な人だとは思いますけど、最低では無いと思います」
「春樹くんまでそんな事言うの? みんな見る目無さすぎよ」
怒る香織ちゃんに、春樹は「見てください」と言う。
その視線の先には、あっちこっち行く修くんの姿があった。
「さっきよりもゆっくり歩いてますよね。それに隆さんの負担にならない速度を保ってます。
本当に隆さんが煩わしいなら、とっくに先に行っているはずですよ」
香織ちゃんはまだ納得できないのか、「害虫は害虫よ」と呟いていた。
そうして歩いているうちに、お化け屋敷の教室に着いたようだ。
看板を見ると、二名ずつ順にお入りくださいと書いてある。
私は……
①じゃんけんで決めよう
②悩む
③指名する
67:974
09/04/14 15:05:58
①じゃんけんで決めよう
「丁度6人だし、ここはじゃんけんよね」
「同じ手を出した奴同士でペアだな」
「うん、そう」
「えー、俺、愛菜ちゃんと一緒じゃなきゃいやだなあ」
「なら、入らなくても良いわよ」
「それもやだ」
「ならおとなしくじゃんけんしなさい」
「しかたないなぁ」
修くんはしぶしぶ頷いて、左手を構える。
「じゃ、いくわよ。じゃんけんぽん」
香織ちゃんの合図に合わせて、いっせいに手を出す。
私はパーを出した。
「あら……4人同じね」
「あ、僕、香織お姉さんとペアだ」
「私は千春くんとね」
チョキを出した香織ちゃんと千春がまずペアになる。
残りは全員パーを出していたため、再じゃんけんだ。
「うわ、これって下手したら、男同士で入らなきゃいけないのか」
「もしそうなったら、俺入るのパスな」
修くんの言葉に、隆が嫌そうに言う。
「まぁ、やってみないとね。いくよー。じゃんけん、ぽん」
今度はきれいに分かれた。
私はまたパーをだす。
私と同じ人は……
①春樹
②隆
③修くん
68:975
09/04/14 15:40:18
②隆
一緒にパーを出したのは隆だった。
のこりの二人はチョキとグーを出している。
「隆と愛菜がペアね」
「お、おう……」
「うん」
香織ちゃんの言葉に、隆と私は頷いた。
「春樹くんは……悪いんだけど害虫で組んでね」
「えぇ!? 俺と愛菜ちゃんがペアじゃないの!?」
「公平なじゃんけんで決めたんだから、文句は無しよ! 」
香織ちゃんはビシッと言い切って、フンと鼻を鳴らした。
リーダーシップのある香織ちゃんに断言されてしまい、さすがの修くんの勢いが無くなった。
「どうして俺が男と一緒じゃなきゃいけないんだよ……」
「仕方がありませんよ。長谷川先輩に従いましょう」
うな垂れる修くんに春樹が声を掛けている。
一方、最初にペアになった香織ちゃんと千春は楽しそうに話している。
「さ、千春くん一緒に入りましょ」
「うん。僕、香織お姉さんみたいな綺麗な人と一緒でうれしいな」
「まぁ、千春くんたら」
「僕、ちょっと怖いよ。ずっと手をつないでて欲しいな……」
「いいわよ。手をつないで一緒に入りましょうね」
(千春……アンタって……)
テレビでやってるホラー映画を笑いながら観る千春が怖がるはずが無い。
そんな千春の将来を脅威を感じつつ、私は隣の隆を見た。
すると、隆が神妙な顔をしながら並んでいる事に気づく。
①「どうしたの?」
②「もしかして怖いとか?」
③「足痛くなった?」
69:976
09/04/14 16:17:13
①「どうしたの?」
「ん? あぁ……」
隆は少し困ったように言葉を濁す。
「なになに、もしかして怖いとか?」
その様子をみた修くんがここぞとばかりに、ちゃかす。
「まさか、そうじゃない」
隆はあっさりとそれを否定して、仕方なさそうに口を開いた。
「愛菜、お前怖がりだろ……ものすごーく」
「え……そ、そんなことないよ」
「嘘言うな。覚えてるぞ、小学3年生の時に入ったお化け屋敷での事」
「う、あー……」
隆が言うその出来事に思い当り、私は言い返せなくなる。
当時出来たばかりのテーマパークに、私と隆の家族合同で出かけた時に入ったお化け屋敷での事だろう。
「お前あの時、ずっと俺の腰にしがみついてて、ほとんど自分で歩かなかったじゃないか」
「そ、そうだったかな……」
「そうだったんだよ。俺がほとんど引きずって行ったようなもんじゃないか」
「………だったかも?」
「ただな、今回同じ事されても、前みたいに連れていけないんだよ。この足だからな」
「だ、大丈夫だよ! もう、小さい子供じゃないし!」
「なら良いけどな」
「そんなに不安なら俺が変わろうか?俺は大歓迎だよ」
「それは却下な」
隆は即座に言うと、私を見た。
「ま、学校のお化け屋敷と、テーマパークのお化け屋敷じゃ規模も怖さも違うだろうから、大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ」
一瞬不安になったが、たぶん大丈夫だ。
「じゃあ入ろうぜ」
「うん」
入口の黒い布をめくって中に入ると、ひんやりとした空気に包まれた。
明るい場所から急に暗い場所に出たため、ほとんど何も見えない。
「た、隆……」
「なんだ?」
やっぱり怖いものは怖い……!
①「や、やっぱりなんでもない」
②「……服、掴んでても良い?」
③「……腕、組んでも良い?」
70:977
09/04/14 17:11:49
①「や、やっぱりなんでもない」
(あの頃のままだと思われたら、悔しいもん)
隆の後ろに隠れるようにして、私は真っ暗な中を進む。
数歩進んだところで、ヌルッとした物が頬に当たった。
「きゃあ!!」
「な、何だ」
「い、今、ヌルッと冷たいものが……」
「それはこんにゃくだろう。さっき俺の顔にも当たってたからな」
「こ、こんにゃく……そうだよね」
中は迷路のようになっているらしく、左に曲がる矢印があった。
左に曲がった直後、生暖かい風が吹く。
「ぐぁあああ!!」
突然、青白い顔の落ち武者が出てきて、私に掴みかかろうとした。
「いやぁああああ!!!」
私はその落ち武者を突き飛ばして、隆にしがみ付く。
隆はバランスを崩しかけたけど、なんとか踏ん張ってくれた。
「危ないな。しがみ付くなら、前もって忠告してくれ」
「む、無理だよ。そんな都合よく……きゃーーーーー!!」
目が腫れた髪の長い女の人が、井戸から出てきて私に触れた。
「も、もう無理!家に帰して!!」
「く、苦しい……」
「た、隆!もうヤダよ!」
「ギブ、ギブ……」
呻く隆を見ると<力の限り腰を掴んで完全にホールドしていた。
絶妙に技が決まって、ダウン寸前だ。
「ご、ごめん。次は気を付け……ギャアアア!!」
「し、死ぬ。ここから出る前に俺が死ぬ……」
暗い中を進み、なんとか日の光を拝める頃にはお互いがクタクタになっていた。
隆はおじいさんのように体を引き擦り、なんとか歩いている。
私は……
①隆に謝る
②先に出ていた千春と香織ちゃんに泣き付く
③先に出ていた修くんと春樹を見つける
71:978
09/04/14 17:38:15
①隆に謝る
外に出てぐったりと壁にもたれてしまった隆に平謝りする。
「た、隆ごめんね」
「あー、こうなる事は予測済みだ。気にするな」
疲れきった顔で、隆が手を振る。
「ねぇちゃんの悲鳴、外まで聞こえてたぞ」
「相変わらず怖がりよね」
「これだけ怖がってもらえたら、お化け役の人も本望だろうね」
「いまどき、珍しいくらいに脅かしがいがあるんだなぁ愛菜ちゃんって」
先に出ていた皆が口々に言った。
「ほんと、昔っから進歩無しだな」
そう言って隆が苦笑する。私は何も言い返せず「ごめん」と呟く。
「あー、それにしても疲れたな。そろそろ時間だし俺はもう帰るわ」
「じゃ、僕も一緒に行くよ。早く新しくかったゲームやりたいし」
隆は私の謝罪に肩を竦めて言った。その言葉に千春が便乗する。
ゲームを理由にしているが、疲れきっている隆を心配しての事だろう。
「俺は時間ギリギリまで見ていこうかな」
修くんは近場の教室を覗きこみながら言う。
「俺も……もう少し学校の中を見て行きたいから」
春樹は少し考えてそう言った。けれど修くんと一緒に行動する気は無いようだ。
「私、一旦体育館の様子見てくるわ」
途中でさぼった片付けの様子が気になるのか、香織ちゃんはそう言って走って行ってしまった。
私は……
①隆と千春を校門まで送る
②修くんについていく
③春樹についていく
④香織ちゃんを追いかける
⑤放送室へ行く
72:979
09/04/14 19:01:56
①隆と千春を校門まで送る
「じゃあ、私千春たちを校門まで送って行くよ」
「ねぇちゃんじゃないんだから、迷子にならないよ?」
「そんな心配してません!」
千春がふざけて言うのに、私は軽く頭を小突いて二人を促す。
「そっか、じゃあ俺は俺で見て回るよ」
「愛菜ちゃん行っちゃうのかー、残念」
「うん、二人ともまたね」
軽く手を振って、私達は校門へ向かう。
修くんが以外とあっさり納得したのにはびっくりしたが、修くんも隆があまりにもぐったりしているので心配したのかもしれない。
「隆、ホントごめんね」
お化け屋敷に入る前に足の事を言われていたのに、結局前と同じような感じになってしまった。
少し落ち込んでいると、ちらりとこちらを見た隆が少しなにかをたくらむような顔をする。
「まったくだぜ。……あ、そうそう愛菜おまえもう少し食ったほうがいいぞ」
「え? 何?突然」
深くため息をついた隆が、思い出したように言い出す。
「しがみついた時の感触が、小学生の時と変わってないからな」
「……! ちょっと、それどういう意味よ!」
「ん? ちゃんと食って成長しろよって意味だ」
しれっとそう言う隆の隣で千春がニヤニヤ笑う。
「要するに幼児体系で、ぼっきゅぼーんな体型には程遠いってことだよな。
イマドキ小学生だってもっと発育いいのになー」
「悪かったわね!」
一気に落ち込んだ気分が浮上して、隆にはかなわないなと思う。
そうこうしているうちに、校門の前までやってきた。
「じゃあな、今日は楽しかったぜ。俺もここに入れるように真剣に考えようかな」
「そう? 私は大歓迎だよ」
「そうか、じゃ、受験勉強もがんばらないとなー」
「隆はもともとそんなに成績わるくないから、余裕じゃない?」
「そうだといいけどな」
「じゃあ、ねぇちゃん先に帰ってるよ」
「うん、気をつけてね」
手を振って帰っていく二人を見えなくなるまで見送る。
さて、残り時間もあとわずか。どうしようかな。
①一人でぶらぶらする
②放送室へいく
③体育館へ行ってみる
73:980
09/04/15 09:31:00
①一人でぶらぶらする
(一人でぶらぶらしてみるかな…)
なんとなく、一人で行動してみたい気分になった。
気がつくと、陽は傾いて空は夕焼け色に染まっている。
上履きに履き替え、ぼちぼちと廊下を歩きながら校内の様子を観察する。
後片付けを始めている人、友達と談笑している人、恋人同士で歩く人。
みんな残りわずかな文化祭を惜しむように楽しんでいる。
私はその空気を吸いながら、祭りの後の感傷的な気分に浸る。
少し寂しいけれど、こういうのは嫌いじゃない。
また明日から、代わり映えのしない平凡な日々が始まる。
きっとここに居るほとんどの人は多少の不満を抱えながら、まぁまぁの学生生活を送りはじめるはずだ。
そして今日の出来事をたまに記憶の奥から引っ張り出しては、思い出し笑いをしたり、恥ずかしくなったりするのだろう。
階段を上り、私は重い鉄の扉をゆっくり開いた。
ビュッと一瞬すごい風が吹き、目を開けると広いコンクリートの地面があった。
その風化しかけているコンクリートを踏みしめて、ゆっくり前に進む。
上を見ると、少しだけ近い雲とオレンジ色の空が広がっている。
下を見ると、校庭の出店が次々とテントを畳み始めていた。
私は屋上のフェンスに背中を預ける。
ポケットの中を探って、近藤先生からもらった包みを取り出した。
かわいいリボンの結ばれた手の平ほどの包みを開けると、透明で金色の飴が入っていた。
(懐かしい。これべっこうあめだ)
手作りなのか、気泡が入っていて形も不恰好だった。
透明のセロファンを剥がして、口の中にポンと入れる。
口の中一杯に広がる甘さとほろ苦さを楽しみながら、ふと顔を上げると鉄の扉が開くところだった。
(誰だろう……)
目を凝らすと、男子が扉から出てきた。
向こうも私に気づいたのか、静かに顔を上げた。
その男子とは……
①春樹
②修くん
③一郎くん
④大和先輩
74:981
09/04/15 10:23:06
④大和先輩
「良く会いますね」
先輩は私を見ると、こちらに歩いてきた。
「そうですね……。先輩はもう食堂終わったんですか?」
「はい」
「そうなんですか」
それで会話は途切れてしまったが、不思議と居心地は悪くない。
二人でぼんやりと夕焼けを見る。
と、唐突に強い風が吹きぬけていった。
「あっ」
慌てて、スカートを押える。
「大丈夫ですか?愛菜さん」
「は、はい……え?」
乱れてしまった髪をなでつけながら返事を返して、違和感に首をかしげる。
(私、名乗ってないよね?)
私の疑問に思い当たったのか、大和先輩は少しだけ微笑んで「テーブルでの会話が聞こえましたから」と答えた。
「そうなんですね。あ、でも、改めまして……私、二年の大堂愛菜です」
「僕は三年の三上大和です」
なんとなく今更な感じがしないでもないが、お互いに名乗り合って笑いあう。
「そういえば、先輩記憶力すごく良いですよね。メモも取らずに一回聞いただけで注文受けてたし、すごいなって思います」
「良く言われます。でも僕にはそれが当り前だったので、すごいと言われてもピンと来ないんです」
少し困ったように先輩が言う。
もしかしたら、いつも同じような話題になるのかもしれない。
「そうなんですね。でもそういうものですよね。
私の夢だってストーリー形式の上、連続で見るからすごいとか気持ち悪いとか言われるけど、私には当り前の事だし」
「そんな夢を見るんですか?」
「はい、今日の文化祭で演劇をやったんですけど、私の夢を脚本にしたんです」
「そうだったんですか。見られなくて残念です」
本当に残念そうに先輩が顔を曇らせる。
①ここでストーリーを説明する
②後で脚本を貸すと言う
③別の話題を探す
75:982
09/04/15 13:22:14
③別の話題を探す
「あ、あの、先輩!」
残念そうな先輩の顔を見ていたら、これ以上この話をするのはなんだか申し訳ない気がして
私は話題を区切るように先輩に声をかけた。
「…はい…?」
私が突然大きな声を上げたせいなのか、
先輩は少しきょとんとして、こちらを見ている。
「あの…ええと、せ、先輩は、何か夢とか見ますか!?」
何か話題を…と考えているうちに、
気がつけばそんなことを口にしていた。
「…夢、ですか?」
先輩は私の質問を受けて、更にきょとんとしている。
「…………は、はい…………」
何でこんな質問をしてしまったんだろう…と、
恥ずかしさで下を向いてしまう。
ふたりの間に訪れる、僅かな沈黙。
(ああ、聞かなければよかったかな…。
変な子だって思われたかも…)
そんな風に後悔しつつも、ただ黙って大和先輩の答えを待つ。
「……なんと言ったらいいのか、よくわかりませんが……
不思議な夢を、よく見ます」
やがて返ってきた大和先輩の答えに、
私は顔を上げ、大和先輩を見つめる。
大和先輩は、どこか遠くを見つめながら
言葉をつむいでいった。
「夢の中の僕は…どうしても守りたいものがあって…
なのに、それを守りきれずに、失くしてしまう。
でも、僕の守りたかったものは…最終的には。別の形で守られていって…
そうして、僕は満足…いえ、違いますね。
『納得』して、目覚める。
…そんな夢です」
そう語る大和先輩の横顔は、なんだか儚げで。
私が何の反応も返せないまま、大和先輩をじっと見ていると――
「…すみません、変な話をしました。
今の話は…忘れていただけませんか」
大和先輩は儚げな表情のまま、こちらを向いて微かに微笑んだ。
私はそれを見て…
①「変な話なんかじゃないですよ」と微笑み返す。
②「どうして私にそんな話を…?」と聞いてみる。
③「ごめんなさい」と謝って話題転換。
76:983
09/04/15 14:38:28
①「変な話なんかじゃないですよ」と微笑み返す。
「自分で守りきれなかったのは残念ですけど、最終的に納得できたのならいい夢なんじゃないですか?」
「……いい夢ですか?そう、なのかもしれませんね」
大和先輩は思いもしなかったという顔をして、それから笑った。
「ええ、いい夢ですよ。私の夢だって、途中やりきれないことも多いけど……
最後は夢の中の自分が納得してる終わり方だから、いい夢だって思ってます」
「だから劇にしたんですね」
「そう考えたことは無かったけど、確かに納得出来ない終わりかたの夢なら劇にしなかったですね」
そう、夢の中の主人公である壱与は最終的に自分のしたことを悔いてはいなかった。
帝と結ばれる事が無くても、帝が願った平和な国を造る手伝いが最後まで出来たことがうれしかった。
「私も夢の中の壱与みたいに、悔いの無い人生にしたいな」
「それは大変ですよ、僕たちの先はまだまだ長いですからね」
「確かに……。でも、だからこそ、いろいろ悔いることもあるだろうけど、最終的には…ってね」
「あなたのそういう前向きな所は好きですね」
「……え!?」
さらりと言われた「好き」という言葉に驚いて、思わず大和先輩を見上げると、ひどく優しげな視線にぶつかった。
自分にお兄さんがいたらこんな感じで見守っていてくれるのではないだろうか?
(と、特別な「好き」じゃないよね、うん。びっくりしたー)
その視線にホッとして「ありがとうございます」と口を開きかけた所で、屋上の扉が開くのが目に入った。
やってきたのは春樹だった。
春樹は私と大和先輩に気が付くとこちらにやってくる。
「春樹どうしたの? ここは一般客は立ち入り禁止のはずだけど」
「そうなんだ、でも、なんか懐かしくて」
春樹はそう言うと、ぐるりと屋上を見渡す。
「記憶にあるんだこの場所」
「そうだね。めったに来たことは無かったけど……最近だと修二先輩を迎えにきたっけ」
「修二先輩?」
「あ、こっちの話」
春樹は苦笑して、私の横に立つ大和先輩に会釈する。
そしてふと大和先輩を見つめて、首をかしげた。
「もしかして御門、先輩……?」
「?」
表情に乏しいが、幾分不思議そうな顔で大和先輩が春樹を見る。
春樹の記憶の中には大和先輩も居るのだろうか?
でも大和先輩は「御門」という苗字ではない。
①詳しく聞いてみる
②聞き流す
③屋上から出て行くように言う