10/06/14 04:19:17 zoLYl0k80
■ある日の風景(ランクB)
昔、わたしの貰ってるお小遣いは月3万円だった。
それでもちょっとした服やアクセサリーで使い切っちゃう額だけど……
メジャーアイドルになって、そんな額すらはした金になった今でも、粗末に使えるわけじゃない。
その理由は…………多分、この子が側にいるから。
「ぜぇ、はぁ……お、お待たせです!伊織ちゃんおはよー!!今日も一日がんばろー!!」
息を切らせてやってきた、この子は……デビュー前からの友達であり、一緒にアイドルとしての道を
駆け上がってきた、大切な存在。ランクこそ差があるけど、わたしはこの子から色んなものを学び、
色んなものを経験した……けど、未だによく彼女の事を理解できない事がある。
「やよい、走ってきたの?これから仕事だってのに体力使いすぎてない?」
「はぁ、はぁ………だ、だいじょーぶです!まだまだこれくらいへーきです!」
そりゃ、ちょっと走るくらいあんたなら大丈夫だろうけど……でも、もしこの後の収録が、
先週みたいにスタジオセットの中を走りながら歌うようなやつだったりしたらアウトよ。
プロのアイドルである以上、余計な体力を使わないようにするのは当たり前の気配りなんじゃないかしら?
やっぱ、心配だわ……そう思ったわたしは、彼女の体力および懐事情を尋ねないわけにはいかなかった。
「ねぇ、やよい……あんた、見知らぬ土地で迷子になったりしたらどうするつもり?」
「うっう~そうですね。まずはプロデューサーに電話して……」
「電波が通じなかったら?」
「その時は、とっておきのわたしの隠し財産を使いますっ!!電車になら乗れるから」
あのね……そろそろランクCのメジャーに上がろうってアイドルなら、タクシーで移動できるくらいの
お金は持ち歩いていた方がいいわよ。だいたい、電車は安いけど速さと言う点ではちょっと……
「だいたい、電車って……どこまで行けるのよ?」
「165円だから……頑張れば、3駅くらいですっ!!」
「はァ!?」
「バルビーノ、ますみ、まさきがいれば、160円の切符が買えるじゃないですか!」
まさか……この子、小銭に名前付けてる!?
多分、100円玉がバルビーノ、50円がますみ、10円がまさきで……
「ねぇ、5円玉の名前は……ひろみ?」
「あたりです!!すごーい伊織ちゃん!分かっちゃうんだ……超能力者みたい!」
多分、あんたと小鳥とあの馬鹿のせいよ……ちなみにそいつらが一軍に定着しなくて、二軍で
【二億円カルテット】とか言う嫌なあだ名をつけられてた事まで覚えちゃったわよ!!
やよいの事だから【いっぱい稼ぐ縁起の良さそうな名前】のつもりで名付けたんでしょうけど。
「あのね、やよい……いくら携帯電話を事務所から借りてるからって、いつもあんたのプロデューサーが助けに
来てくれる訳じゃないのよ!せめてホテルで一泊して、タクシーに乗れるくらいのお金は持ってなさい!!」
「うっう~……でも、おうちは【田舎に泊めて】ロケの応用で、のりものはヒッチハイクで……」
「事務所のイメージ考えなさいっ!!お金が無いなら貸してあげるから!!」
そう言って、わたしはやよいに3万円を強引に押し付けた。
「いい?これはわたしがあんたに、いざと言う時のために貸すお金だからね!たとえあんたのパパでも
使っていいお金じゃないし、弟にご飯食べさせるお金でも無いわ!あんたのピンチに使いなさい」
「で、でも……こんなたくさん借りたら、伊織ちゃんの生活が……」
「メジャーアイドルなめるんじゃないわよ!こんなのはした金だって言ってるでしょ!!
だから別に返さなくていいわ!!わたしと組んで仕事の時に、遅刻でもされたらたまらないから予防策よ!!
いい?無理しなくていいから、使うべきときはちゃんと使いなさい。分かった?」
「は、はいっ……あ、ありがとー伊織ちゃん……でも、こんな大金持ち歩くなんて……うぅ~」