10/03/22 03:32:26 MEnL7d6g0
■ある日の風景（ランクＢ）
「……そう。車輪の位置を意識して、ゆっくり下がって……後方に子供とかがいないかもしっかり確認だ」
水瀬グループの私有地を借りて貴音に運転を教えている俺だが、彼女はビックリするほど筋がいい。
元が落ち着いている性格なだけに、周囲を良く見るし無駄な動きが無い。
まだ仮免ではあるが、この状態なら何の問題もなく一発合格できるだろう。
……俺個人としては、アイドル達の稼ぎなら運転はプロに任せたほうがいいと思うんだが、
秋月さんも貴音も、一人の人間として免許を取って運転できるようになりたいと言うならその願いは尊重すべきだ。
まったく、大学受験の次は免許取得か……人の成長ってあっという間だよな。
社会人になってからと言うもの、進学も進級も無い俺たちに、アイドルの成長はまぶし過ぎる。
……そんな風に考えているうちに、貴音は見事、普通自動車第一種免許を取得し、
そのニュースは週刊誌の芸能欄に小さく載った。
「ありがとうございました……これでゆくゆくは、疲れたあなた様をお送りできますね」
「ちょっと待て。まさか、そんな事考えながら免許取りたいと思っていたのか？」
「ええ。それに、あなた様をらぁめん屋に連れて行くにも目立ちませんし」
うーん……その考えは一部嬉しい。徒歩で長く歩くと、変装してても見つかるんだよなぁ。
その点、車ならまず追いかけられる事は少ないし、サイン攻めにあう事も無い。
ただ、事故った時だけは被害者加害者に関わらず、芸能ニュースにメチャクチャ書かれるのが難点だが、
貴音なら危ない運転はしないだろうし、ドライブレコーダーも絶対につける。
これはアイドルのプロデューサーなら当然の行為だ。
わが事務所としても、免許持ちが増えるのはイイコトなんだが……個人的には大喜びって程でもない。
これで確実に不機嫌になる子がいるのだから。
「プロデューサー！！わたしも免許を取ります！そしてプロデューサーを送り届けます！」
「いや、あと２年半待てって。法律的に無理だから！」
「でしたら、バイクの免許でも……」
「それは不許可。事故った時の損害が計り知れない。絶対に駄目！！」
「くっ……」
そんなわけで、貴音の車に乗せてもらうときはほとんど千早が一緒だし、ラーメン屋にも行ってない。
仮にこっそり二人で行っても、社内に残る匂いで翌日即バレだろうし……
なんかうちの歌姫、聴覚もだけど嗅覚も日に日に鋭くなっているような気がするな。
だが、そこはそれ。せっかくプライベートの機動力を手に入れたのだ。
県外のラーメン屋にも遠征可能になったわけだし、月に一回程度でいいから冒険をしよう。
千早が免許を取るといって引かなくなる、２年半後までは。
■
貴音「では、最初は神奈川エリアから……このお店など如何でしょう？」
俺 「とんこつ醤油に背脂たっぷりか……うん、いいねぇ。叉焼も美味そうだ」
貴音「でしたら、第一計画【ハリー】はこのお店に。千早殿に発見された時のために、
第二計画となるお店【トム】を決めましょう。第四まで決めればまず大丈夫かと」
俺 「………って、越後屋と代官様じゃなくて、これじゃ大脱走だよ！？
なんてこっそりラーメン食いに行くのにこんな密談してるんだ俺たち？」
※片棒を担いでおいてアレだけど、千早スレを見てると腹が減ってくるから困る。
そして、貴音とこっそりラーメンを……と思っていたら、いつの間にか千早が免許を取りたいと言い出したでござる。