09/09/27 07:15:36 /HaVShaW0
＠グラビア撮影（ランクＡ）
「プロデューサー。先ほどからずっと難しい顔ですが……どうされたのですか？」
香りがゆらゆらと上るマグをプロデューサーの前におきつつ、隣の椅子を引く。
なんだか久しぶりに感じられる７６５プロのオフィス。こうして、プロデューサーに珈琲を
淹れる余裕がある日は珍しい。私は、それほどには忙しくなっていた。
「お。ありがとう。そうだな、そろそろ千早にも話さないと」
「仕事ですね」
「ああ。どこから話したものかな」
こういう話し方をする、というのは、つまり、私に言いづらい仕事の時だ。正しくは、私が
渋い顔をする、と彼が思い込んでいる仕事。もう。子供じみた我侭で仕事をしたくないなんて
私、もういわないのに。
「それ自体は、雑誌のグラビア撮影なんだ。いまさらで気が進まないかもしれないが」
「……ただのグラビアではないのですね？」
「そうだ。雑誌はViDaVo！。９月号から６ヶ月連続で、ウチの系列の総力特集を組んでくれる
という話になってね。１０月号の巻頭グラビアに千早を使いたいと言われたんだ」
「ええっ？ あの、７６５プロの全員が特集されるのですよね？ 私、だけです？」
「ま、不思議に思うだろうな。あずささんや美希、貴音でもない。指名は千早だけと。そして
これが暫定スケジュール」
「拝見します。……！？」
長い……。まるで。軽い環太平洋一周旅行だわ。これが、全部撮影？
「撮影は10日間かけて行われる。まずは、花火大会だな。大きな大会だが縁日にあわせて開か
れているから、浴衣姿で。で、一泊してそのままバリで撮影になる」
「ちょ、ちょっとまってください！ これって雑誌の巻頭グラビアですよね？」
「うん。ViDaVo！のね」
「この、Ｐって付いている数字は、なんですか？」
「もちろん、ページ数だ」
「多すぎる気がします」
15、3、18、18、9、9……合計72ページ。なにかしら。数字に何か意図を感じる。
「ちなみにこれが今月の８月号」
一瞬、思考がとまった。それほどにそれは薄く、何かのパンフレットのようにみえたから。
これの巻頭グラビアが、72ページ？ どこに記事が？
「……なんの冗談ですか。20ページもないような冊子じゃないですか」
「１０月号は100ページ弱になるそうだよ」
「だとしても７割が、私のグラビア……これ、ドッキリですか？」
「それがホンキみたいなんだ。俺は冗談のつもりで四季でも撮りますかっていったら、じゃあ
日本で秋、バリで夏、カナダで冬、オーストラリアで春ですかね、アイデアあったら下さい、
スケジュールは７６５さんの都合で、なんて言われた。最初、96ページだったんだぜ」
「……」
「ぶっちゃけ、ViDaVo！１０月号は千早のグラビアそのもの。それに雑誌がおまけでつく体だ」
うん。まずは軽く一呼吸。そして現状整理。私は今、次のアルバムに向けてレッスンを積み、
世界に向けて出す、如月千早の音を練っている。ここに来て、こんな長期の撮影旅行は……。
「プロデューサーが難しい顔をしていた理由はわかりました。ところで」
「最初の疑問か」
「ええ、何故、私だけこんなに？ グラビアなら……いえ、他のメンバーは？」
「１１月号は真と貴音のカヴァーＣＤ。１２月号は伊織、やよい、響のＤＶＤ。こんな調子で、
３月号まで７６５プロのアイドルのアイテムに、雑誌が付録でつくという逆転企画なんだ。
しょっぱなの９月号は凄いぞ。ゲームソフトらしい。こっちは８７６プロ担当だけどね」
「私に限らず、スケジュール調整が大変そうですね」
「うん。ごめんな、まさか相手が本気だとは思っていなくて、話すのが遅れた」
「また、レッスンの時間が削れそう。私にメリットはありますか？」
「そっちは大丈夫。あるところならスタジオを押さえてある。俺も行くし」
「……プロデューサーも？」
10日間。その間、ずっといっ―い、いえ、それより国内の業務はどうするのだろう。