09/08/28 21:38:55 oR+ejU6D0
「今晩も仕事帰りに千早と貴音に付き合い、ラーメンライスの食べ方勝負ですよ」
いい加減に体臭になっているかもしれない鶏ガラの臭いにため息を付く。
「プロデューサー、今日も沢山ラーメンが食べられますよ」
「如月千早の言うとおりです。ラーメンなら一日中食べ続けても飽きません」
千早と貴音の言葉に彼はため息を付く。
「あのな、もう二週間連続で昼と晩ご飯がラーメンライスだぞ」
「まだ二週間なら余裕ですね。栄養的にもサラダを別に食べていますし」
「長い人生、かようにラーメン漬けの日々もまたよしです」
千早と貴音の言葉に彼は天井を仰ぐ。おやつにファミレスでサラダを頼む生活はあんまりだ。
「では、今日の審判員は店長さんで構いませんね?」
「望むところです。今日こそは決着を付けてみせましょう」
千早の提案に貴音は不敵な笑みを浮かべる。
ラーメンライスはご飯をラーメン丼に入れるかスープと交互に口に運ぶかで対立した二人、
彼を審判にあの日から戦い続けてきた。
しかし、常に引き分け判定しかしない彼に業を煮やし、ついに第三者を審判に仕立て上げた。
「はい、ラーメンライス三つ、お待たせ」
「「「いただきます」」」
店長が置いたラーメンとライスに三人は手を合わせ、二人は嬉々として、一人は引きつり顔で箸を運ぶ。
彼としては正直言って、麺類に飽きたが空腹では仕方がない。
それに千早と貴音だけで店に行かせるのは少し怖い。二人とも最近まで世間と没交渉だったし。
「如月千早、今日も麺を先に食べ、叉焼を最後まで残す作戦ですか」
「好物は最後に。四条さん、これが私の食べ方・・・・・・いえ、戦い方よ!!」
「なるほど。一度決めたら、愚直なまでに突き進む。貴女の強さはそこなのでしょう。
ならば、私も持てる全てを出しましょう」
「プロデューサー、この戦いに勝ちます。私の(ラーメンへの)想いは何よりも強い」
不敵な笑みを浮かべる貴音と髪をかき上げて宣言する千早は凛々しいと思う。
例え、その次の瞬間に貴音はご飯をかきこみ、千早はラーメンを啜り込んでいるとしても。
「今日の麺はストレート細麺、スープとの絡みは良好。ゆで加減も絶品ね」
「それだけではありませんわ。叉焼もよく煮込まれ、実に味わい深い」
千早と貴音の食べっぷりに彼は苦笑しながら、自分の麺を啜った。
「「「ご馳走様でした」」」
三人で空になった丼に手を合わせ、女性二人は店長へと向き直る。
「うむ、お二方とも見事な食べっぷり。それに引き替え・・・・・・」
そう言って店長は彼の方を見るが彼にも言い分がある。もう麺は見たくない。
「さて、ご飯を丼に入れるかどうかですが・・・・・・」
店長の次の言葉を千早と貴音は緊張の面持ちで待つ。その面持ちはオーディションのそれだ。
「如月さんを勝ちにしたいと思う」
「ありがとうございます」
「・・・・・・無念」
店長の言葉に千早は笑みを、貴音は力尽き項垂れる。
「如月さんを勝ちとした理由は・・・・・・四条さんが言ったことに関連しておる」
店長はそれだけ言うと「後は如月さんから聞きな」と言って立ち去る。
「私の勝因の理由は・・・・・・ずばり叉焼よ」
自分を見る貴音を優しく見返し、千早は空の丼を愛しげに撫でる。
「あの叉焼は味が染み込んでいた。つまり、最後まで残すことでスープに旨味を加えてくれる。
その旨味を持つスープをご飯に含ませれば、全てが一体となり口内に広がる!!」
「な、なんと奥深い!! 私の負けですわ」
そう言い爽やかな笑顔で微笑む貴音の肩を千早はそっと抱き寄せる。
「四条さん・・・・・・いえ、貴音。これは運良く私と店長の考えと一致しただけ。
もし、店長が具とスープそれぞれ単体で味わうべきと考えていたら、私は負けていたでしょう」
「如月千早・・・・・・いえ、千早。なんと謙虚な」
そう言ってひしと抱き合う二人を見て、彼はため息を付く。
「まあ、これでラーメン屋巡りも終わり・・・・・・」
「「終わりません」」
「ラーメンの道はこれで終わるほど簡単な物ではありません、プロデューサー!!」
「プロデューサー様、私達はようやくのぼり始めたばかりなのです、この果てしなく遠いラーメン坂を!!」
そう言って夜空を見る二人に彼は・・・・・・その場で崩れ落ちた。
コンビニで定価のカップ麺を買うのは負けかなと思っている