09/08/22 20:57:38 FINwTdQ+0
「いやぁ、いいねぇ、流しそうめん。千早もそう思わないか?」
「だからとは言え、まさか流しそうめん器を買われるとは思いませんでした」
彼の対面でめんつゆに生姜を入れ、千早はため息を吐く。
「買っていないよ。雪歩のプロデューサーから借りた」
「そう言えば、萩原さんが言っていたわね。去年買ったとか」
雪歩のプロデューサーが会議室で水路を造り、一人流しそうめんをしていたのが去年。
「いや、今年もしているぞ。ついでに言うと俺も参加している。三人以上だとかなり楽しめる」
「流しそうめんがそれほど良いとは思えませんが?」
「そうめんに飽きただけだ。薬味に色々入れるとかしたがやはり飽きた」
「会社でシソと青ネギを育てているのはそのためでしたか」
「生姜と並んで基本だな。応用として、梅干し、煮た椎茸がある」
「そこまでそうめんにこだわらなくとも・・・・・・」
「いや、なんとなく暗黙の了解で昼はそうめんと」
「暗黙の了解になる理由が不明です」
そうめん器のそうめんが空になったので新しくざるから放り込む。
「ざるから直接取った方が早い気がしてきました」
「早いよ。ついでに言うと面倒でないよ」
「それと引き替えにするほどの清涼感はなさそうですが?」
「確かに。清涼感だけなら、ガラスの器に氷水入れればいいし」
彼の言葉に千早は頷き、そうめんを取る。余り水面を見ていると目が回る。
「まあ、実際の所、これは家族や恋人同士で楽しむ物だろうし」
「そうなのですか?」
確かに子供は喜ぶかもしれない。だが恋人同士で楽しむ物とは思えない。
「冬は鍋を囲み、夏は流しそうめん器を囲む。これが正しい日本人の姿」
「絶対に違うと思います」
自分の感覚に自信はないが、一般家庭で流しそうめん器を囲んでいるとは思えない。
「親しい人間と一つの器に盛られた物を分け合って食べるのがいいと思わないか?」
「いいのかもしれませんが、それなら流しそうめん器である必要はないのでは?」
「馬鹿だなぁ、千早は。流れる水が涼しげではないか」
「私は狭い水路を流れる水が日本の住宅事情を表している気がします」
と言うよりも見ているとハツカネズミの気分になってくる。
「分かった。では、千早にカップル向きと話した本当の理由を教えよう」
「期待せずに聞くことにします」
多分、大した理由ではないと確信する。
「仮にカップルで普通にそうめんを食べたとする」
「はい」
「その場合、ここまでそうめんで会話が盛り上がるだろうか?」
「それは・・・・・・確かにないと思います」
それ以前に麺類は啜り込むので会話が減る。
「そうだ。しかし、流しそうめんの場合、その存在自体が話題になる。
つきあい始めで会話が途切れがちなカップルには話題を提供する。
流しそうめん器はつきあい始めたばかりのカップルの味方なのだ」
「ですがこれを使うと言うことは、どちらかの部屋で食べていると言うことですよね?
つまり、ある程度の付き合いになっているカップル同士では?」
「・・・・・・その観点はなかった」
彼の言葉に千早はため息を付き、そうめんを放り込む。
「まあ、なんでもいいんですけど」
「うう、そうめんよりも千早の視線が冷たいです」
「それで本音は?」
「最近、忙しくて千早と仕事以外で話していないから話す時間を、と思って」
「・・・・・・プロデューサー」
「はは、なんてな。まあ、気にするな」
「・・・・・・はい」
千早は頷き、彼のめんつゆに梅干しを入れる。
「おい、千早。俺のめんつゆ、既に梅干し入っているのだが」
「私を一人にした罰です。梅肉を残さないで下さいね」
「とほほ・・・・・・」
諦めたようにそうめんを啜る彼を見て、千早は微笑んだ。
コンビニでお茶買った時に思いついた