09/08/01 21:43:16 rn5ILW8R0
「へっへー、どうです?」
くるり。
そう言って、浴衣姿の彼女が軽く1回転すると、ふわりとなびいた袖が、又ふわりと元に戻っていく。
得意気な顔。いつもの明るい笑顔がそこにある。
どんな格好をしてても彼女は彼女だ。
「おう。 いいね、よく似合ってるぞ」
俺の言葉に一瞬だけ薄っすらと頬を染めて、更に笑顔が輝く。
と、その表情が、今度は急速に曇に覆われて。
「けど…」
見上げた空。闇にもハッキリと判る曇天。
その曇天からは、街灯の明かりに照らしだされた雨が、途切れることなく振り落ちてきている。
夕刻から怪しげな雲行きでは有ったが、ついに降り始めてからは早2時間程。
その雨脚は、未だ衰えを見せていない。
「…これじゃ、花火大会…ダメ…ですよねぇ」
残念そうな瞳の色で、まるで天を恨む様に見つめ続ける。
「しょうがないじゃないか。 大体、俺達だって、半分はお天気商売見たいなもんだ
『泣く子とお天道様には勝てない』、その意味は、今ならよーくわかるハズだろ?」
答えは返って来ない。
が、残念そうに天を見上げたままの様子が、その答えは必要が無い事を物語ってる。
小さな溜息。
ま、丁度運良くオフの日って事もあって随分楽しみにしてただけに、そう簡単に落胆の色は隠せんわな。
軽く苦笑いを零すと、俺は途中で思ってったある提案をして見ようかと思った。
「あー…、そこで一つ提案なんだが…」
「?」
振り向く彼女。
「これ、なーんだ?」
一本の傘。男物の大きめなヤツ。
「? 傘…ですか?」
「おう。 大当たりだ!」
「??」
不思議な物を見る様な目。
はぁ…。意外に鈍いヤツだったんだな…。
又、思わず毀れる軽い苦笑い。
「はい。 では、とりい出したましたるこいつを、どうするかと言うと―」
広げて。
「―ほい、っと…」
彼女を、軽く引き寄せて。
「な? これなら…雨、気にしなくていいだろ?」
「あ…」
「さて。 では縁日でも…出かけますか? 姫様?」
俺の隣で。
華やかな笑顔と袖がユックリ揺れて。
雨脚に、2つの下駄の音が溶けて行く。