09/07/22 21:16:56 YT55XTxr0
「ふう、シャワーを浴びると生き返るなぁ」
「お疲れ様です、プロデューサー。あ、ご飯を盛りつけますね」
風呂上がりの彼がタオルで髪を拭くのを見ながら、千早は彼の茶碗を手に取る。
「そう言えば、今日は丑の日か。鰻重にしなかったんだ」
「ええ、白焼きもありますから別にしてみました」
卓袱台に皿を並べる千早の対面に座ろうとして、彼は思い出したように持ち帰った紙袋を取りに行く。
「そう言えば、紙袋をお持ちでしたが仕事ですか?」
「仕事と言えば、仕事だなぁ。親戚からお見合いの話が来てさ」
ガチャン
彼の言葉に千早は茶碗を落とすが幸いにも割れずに畳の上に転がるだけで済んだ。
「落ち着くのよ、千早。ただのお見合い相手。パッと出てきた相手等は恐れるに値しないわ」
自分に言い聞かせ、千早は茶碗を拾い、ざっと洗う。
「それでどのような相手なのですか?」
「ああ、親戚の家に行った時、一緒に遊んでいた相手。俺と同年で、二〇年近くの付き合いだな」
「そ、そうですか。落ち着くのよ、千早。プロデューサーと同じ年で未婚。きっと家事無能な人よ」
彼の言葉に千早は自分を落ち着かせ、茶碗にご飯を盛る。
「未婚の理由は仕事に専念されていて、自分のことや家事は後回しだったのですか?」
「理由は不明だが家事は万能だぞ。遊びに行った時やお袋が倒れた時、面倒を見てもらったし。
そう言えば、小鰺の南蛮漬けが絶品だったなぁ」
「そ、そうですか。落ち着け、千早。私にはプロデューサーからいただいたリングがあるわ」
頬の引きつりを感じつつ千早はご飯をさらに茶碗に盛りつける。
「それだけ長い付き合いですと誕生日に何か贈られたりしているのですか?」
「特には贈っていないよ。そこまで頻繁には会っていないからなぁ」
書類をチェックする彼の言葉に千早は安堵する。
「贈り物をしたことなんて・・・・・・あ、子供の時に縁日で玩具の指輪を買ったなぁ。
『絶対にお嫁さんにしてね』と言われたっけ。懐かしい記憶だ」
「そ、そうですか。落ち、落ち着くのよ、千早。子供の時の約束よ。
・・・・・・私のリングも子供との約束になってしまう可能性もあるけど」
ため息を吐き、千早は茶碗にご飯をもっと盛りつける。
「まぁ、形式的な物だけど、断るつもりだよ。
今は新米プロデューサーで婚活どころか恋人を作るのも大変だからな」
「そ、そうですね。プロデューサーは責任感がお強いですから。はい、ご飯をどうぞ」
彼の言葉に安堵し、千早は茶碗を彼の前に置く。
「凄い盛りつけだな。漫画日本昔話に出てくるご飯みたいだ」
「プ、プロデューサーは鰻のたれがあれば、ご飯は何杯でも食べられると言ってましたよね?
今日はたっぷりあります。ツユダクも出来ますよ」
千早は自分の盛りつけた量に驚きつつも何とか言い訳をする。動揺しすぎ、と言い聞かせながら。
「ふう、皆既日食はほとんど見られなかったな」
「まあ、仕方ありませんよ」
数日後、同じくご飯を茶碗に盛りながら千早は苦笑する。
「そう言えば、お見合いの件だが正式に断ったよ」
「そ、そうですか。無事に断れたのですか?」
ご飯を盛りつけ、千早は何事もないように問いかける。
「それが聞いてくれよ。相手には既に恋人がいたんだって。
俺が断らなければ、向こうから断られていたよ」
「酷いお話ですね」
そう言った基本的なことは確認して欲しい。そうすれば、こんな思いをせずに済んだのだ。
(べ、別にプロデューサーが結婚すると仕事面で疎かになるかもしれないと思っただけ。
そう、深い意味なんて・・・・・・)
「でも、良かったのですか? 最後のチャンスだったかもしれませんよ」
言い訳する自分を叱咤するように千早は彼に問いかける。
「はぁ、そうだよなぁ。年齢が大台にのる今年は千早のプロデュースで終わるだろうし。
千早、いざとなったら、引き取ってくれると嬉しいぞ」
「な、何を言っているのですか。冗談も・・・・・・」
「あはは、冗談だよ。あ、ご飯はそれくらいで良いぞ。前みたいな量はさすがに食えない」
笑顔で言う彼に茶碗を渡し、千早はため息を吐く。
あまり私の心をかき乱さないで下さい、と小さく呟いて
>>82からコンビニ弁当食べながら、ここまで妄想するの余裕でした