09/07/13 21:14:46 oMXuURlq0
「さて、兄さん、なぜ如月さんが兄さんのお世話をしているか説明して下さい」
「あのこれは・・・・・・」
「如月さんにはお聞きしていません。如月さんの事情は後でお伺いします」
言い訳をする暇もなく切り捨てられ、千早はため息をつく。
まさかプロデューサーの部屋に抜き打ちで彼の妹が遊びに来るとは予想外だった。
「あのな、これはだなぁ、俺の経済的、家事能力に端を発する根深い問題でだな」
「つまり兄さんは私があれほど言ったにもかかわらず、
一人暮らし八年目なのに満足に生活できていない、と」
「ぶっちゃけるとそうだな」
彼の言葉に妹はため息をつく。
実家の頃から生活能力に疑問符があった兄だがここまでダメだったとは。
「如月さん、うちのダメ兄がご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」
「いえ、私も好きでしていることですから」
「そのようなことを言っていると兄がつけあがります。
気が付くと結婚しているなんてことになりかねませんよ」
「俺の嫁なんて、千早が嫌がるに・・・・・・おい、どうした?」
彼の言葉に落胆する千早の目の前で妹が震え出す。
「も、もしかして・・・・・・兄さんはロリコンだったの!? そんなのいやぁ!!」
「どういう思考過程からその結論になった!! 嫌な言葉を叫ぶな!!」
「そうです、私は一六歳です!!」
叫ぶ妹を兄は丸めた雑誌で叩き、千早は必死に訂正する。
「つまり如月さんは高校一年生なのですか?」
「いえ、二年生です」
「・・・・・・偽高校生? 打ち合わせで年齢詐称しようなんて・・・・・・」
「違います。正真正銘の高校生です」
彼女の訝しげな視線を感じ、千早は細い声で反論する。
「兄さんが高校生に手を出すなんて最低な人だったなんて・・・・・・やっぱりいやぁぁ!!」
「出していないから!! 確かに千早は美人だけど!!」
彼の言葉に千早は微笑み、妹は冷たい視線を発言者に叩きつける。
「つまり兄さんは千早さんが嫁でも嫌ではない、と」
「いや、そう聞かれると答えづらいが・・・・・・」
「まんざらでもない顔しないで!! だいたい如月さんは私よりも年下です」
兄弟の会話に愛に年齢差は関係ない、と言いたいのを千早はぐっと我慢する。
「如月さんと兄さんが結婚したら、私は年下をお義姉さんと呼ぶことに・・・・・・あまりにもいやぁぁぁ!!」
「落ち着け!! それは千早に限らずだろ」
転げ回る妹を押さえる彼を見つつ、千早はこの二人が兄妹であることを確信した。
「そ、そうね。落ち着くのよ、私。如月さんは見た目が大人びているし・・・・・・」
そのまま視線を千早に這わせていた妹の動きがある一点で止まる。
「・・・・・・私が代わりに母乳を与えないとダメなの? 絶対にいやぁぁぁぁ!!」
「失礼なこと言わないで下さい!! 私達の子供は自前の母乳で育て上げて見せます!!」
「千早、落ち着け!! とりあえず胸ぐらを掴むのを止めよう」
凄い形相で妹を揺さぶる千早を押さえ、彼はため息をつく。
会話の内容を吟味する余裕は全くない。
「そもそも妹とは言え、アポなしで私達の家に来るなんて、非常識です」
「私達!? 今、私達と如月さんは言いましたね!?
これは事実婚!? ・・・・・・犯罪者な兄なんて、いやぁぁぁぁぁ!!」
「お前、いい加減に落ち着け!!」
玄関まで転がった挙げ句に三和土に落ちた妹を引き上げ、彼は彼女の頭を叩く。
「プロデューサー、妹さん、いつもあのような感じなのですか?」
「すまんがその通りだ」
彼の言葉に千早はため息をつく。そして、ふと思う。
「もしかして、ご両親も・・・・・・」
「実は父方の血の影響なんだ。父は『終わったぁぁぁぁ』と叫ぶ癖がある」
「そうですか」
千早は予想通りの答えにため息を吐き、まだ見ぬ彼の母に問いかける。
夫と子供二人の三重奏に囲まれ、大変ではありませんでしたか? と。
しかし、千早はまだ知らなかった。
なぜか居着いてしまった義妹を加えた四重奏に囲まれた家庭を築き上げる未来を。
コンビニ弁当に慣れたせいか揚げ物がフニャフニャなことに違和感を感じなくなってきた