09/06/07 22:25:14 DqLvKdmj0
Pがミステリ好きと聞いてティンときた。ので妄想した↓
「プロデューサーさん、おはようございます」
春香は事務所に来るなり、プロデューサーに一番に声をかけた。
特別な理由はない、事務所の中に彼しかいなかったからである。
他のアイドルや音無小鳥と先に顔を合わせていれば、また事情が変わったであろうが。
「ああおはよう、春香」
くるりと椅子を回し、春香の方を向くプロデューサー。
彼の手には、一冊の文庫サイズの本が握られていた。
「本を読んでたんですか?」
「ん? ああこれか、推理小説だよ」
「推理小説? シャーロック・ホームズですか」
「いや、クロフツの……って、わからんか、春香には」
「むっ、失礼な。何故そう思うんですか?」
「じゃあ知ってるか? 『クロイドン発12時30分』」
「はい、知りません」
「……」
「え、え、えーと」
追求から逃げるように、春香は視線をプロデューサーから彼の机の上に動かした。
そこには、食べかけのサンドイッチと、パックの野菜ジュースが置かれている。
相も変わらず、この青年は食事にあまり頓着しない生活を送り続けている。
手料理でもレストランでも、『一緒に御飯を食べたい』と思っている女の子が複数いるというのに。
「さっきシャーロック・ホームズって言ったが、だいたい春香は推理小説を読んだことがあるのか」
「そりゃ、その、小学校の時に図書館で」
「図書館で?」
「一休さんとか」
「あれはトンチ話だろう」
「名探偵コナンとか」
「マンガだな」
「ド、ドリトル先生とか」
「……」
「ご、ご存じないですか? 『ドリトル先生連続盗難事件』とか『ドリトル先生VSルパン三世』とか」
「ご存じも何もそんなものないよ。てかヒュー・ロフティングに謝れ、全力で」
「えーあー、えー♪」
プロデューサーは溜め息をひとついて、次に笑みを浮かべた。
春香のミステリに対する素養が無いことを笑ったのではない。
その慌てぶりというか、隠し事や嘘がうまく出来ない素振りが『実に春香らしい』と思えたからだ。
「春香に犯人役は出来ないな、こりゃ」
「ど、どういうことですかっ」
「そりゃあ、すぐにバレちゃうからな」
ぐう、と肩を落とす春香。
確かに、刑事や探偵相手に堂々渡り合う犯人役をうまくこなせるとは、彼女は自分自身でもあまり思わない。
春香はすぐ顔に出るから、とは、昔も今も知人友人から幾たびも指摘されている。
「……でも、プロデューサーさんも探偵役は出来ませんよね」
「何でだよ。いや、そりゃあ専門的知識も推理力もないけど」
「そういうことじゃないです」
「じゃあどういうことなんだよ」
春香は答えなかった。
そう、自分は犯人役にはなれないが、プロデューサーも探偵役にはなれない。
何故なら。
「こんなに近くにいるのに……」
「?」
春香の想いも、皆の想いも全く気づかないのだから。