09/05/10 01:55:30 2Tj3k0JI0
オッケー、レッスン後で汗だくというところから無理矢理ティンと脳内に来させたぜ
ので妄想した↓
「オッケー、なかなかいいレッスンになったな、春香」
「はい、ありがとうございます」
春香は手渡されたタオルで、額の汗を拭った。
アイドルは華やかな職業だが、その分裏では相当な努力を要求される。
唄いながら踊る、踊りながら唄うのは、傍から見ている者には想像もつかない程にハードなのだ。
その上、ステージやTVカメラの前では、『常に誰かに見られている、誰かに見せている』ことを意識して表現にも注意せねばならない。
「ミスも少なくなってきたし、このダンスは後一息ってところだな」
「えへへへ」
「コケるのも今日は三回で済んだしな」
「あう」
褒められて思わず笑顔になった春香だが、改めて現実を突きつけられて一瞬にしてヘコむ。
春香の転倒グセはなかなか治らない、と言うより、最早春香の一部と言っていい。
「ん……? おい、春香」
「はい、何れすかぷろりゅーはーはん」
春香の発音が曖昧なのは、ペットボトルに口をつけているから。
中に入っているのは、雪歩特製のブレンド茶だ。
「さっきコケた時にゴミがついたみたいだな、頭に」
「え、えっ? ど、どこですか?」
ペットボトルを口から離し、それを持っている方とは逆の手で頭をまさぐる春香。
が、掌に目がついているわけでもなし、プロデューサーが気づいた部分とは全く別の場所に指が行ってしまう。
「……ちょっと動くな、俺が取ってやるから」
「へ? わ、わ、プ、プロデューサーさん!?」
プロデューサーは春香に近づき、頭部に手を伸ばした。
春香の丁度目の前の至近距離に、プロデューサーの胸の部分がある。
「ちょ、ちょっと待って下さいぃ」
「こら、動くなって……。ん、糸屑みたいだが、何か髪の毛に絡まっちゃってるな」
「ち、ち、近すぎますプロデューサーさぁん!」
「近づかなきゃ取れないだろ」
「で、で、でも、私レッスンが終わった後だし、汗臭いです!」
「そりゃあれだけ動いたからな、当たり前だ」
「だけどー!」
「何だ、恥ずかしいのか? 大丈夫だ、俺は気にしないぞ」
「き、気にして下さい!」
プロデューサーは春香にとって特別な存在だ。
自分の足りないところを補ってくれて、良いところを伸ばしてくれる。
アイドルとして自分がやっていくのに、もの凄く手助けをしてくれる。
そして、何より、異性として――
「……よっと、ほい、取れたぞ」
「ううう……プロデューサーさんのバカァ……」
「な、何でゴミを取ってやってバカって言われなきゃならんのだ、しかも涙目で」
「うううっ」
しかし、この青年は春香の気持ちに全く気付いていない。
告白を直接したわけではないが、女の子として大小のアプローチは春香はしてきたつもりだ。
いや、春香だけではない。
765プロに所属しているアイドルの全員が、彼に好意を持っていて何らかのアクションを起こしているというのに、
それこそ彼がさっき春香の髪から取った糸屑程にもそのことにピンと来ないのだ。
「ほら、汗臭いって思うならシャワーを浴びてこい。それが終わったら帰るぞ」
「……はい」
「この後まだ仕事があるからな……千早の次のステージの衣装もまだ決めてないし、真のTV出演についても話を詰めないと」
「……」
好きな人だから、汗臭いのを隠したい。
近づかれると熱くなる。
それは、恋する少女として至極真っ当な思いだ。
だが、このプロデューサーはさっきのようにそこに考えがたどりつかない、いやそもそも出発すらしていない。
「プロデューサーさんのバカぁ……。貴方だから、なんですよ……?」
シャワールームの扉を開け、春香は頬を赤く染めながら小さく呟いた。
無論その呟きは、丁度事務所に携帯で何か連絡をしている、オンナゴコロにとことん疎いプロデューサーには届いてはいなかった。